『人声天語』 第62回「AIR CANADA 初搭乗記」

Daevid Allenとのユニット「GURU & ZERO」の西海岸ミニ・ツアーも無事終了。SAN JUAN ISLANDと云う島にて行われた「The Egg Lake Music Faire」なる野外ヒッピー・フェスでは、ダモ鈴木に続いてトリとして登場。最終日のSan Franciscoでは、大入り満員のソールドアウト。アメリカでのGONGの知名度たるや、日本やイギリスでは想像出来ぬ程の無名にして、それでも詰め掛けたACID BROTHERSとMAGIC SISTERSの熱気で、会場内の室温は一体何度であったのか。この日は偶然にして、Daevid AllenがAMTのTシャツを、私がGONGのTシャツを着ており、これにはお互い爆笑。

今回のUS西海岸ミニ・ツアーは8月のハイシーズンだった事もあり、いつも利用している「倒産寸前」の噂すら囁かれるUNITED航空(以下UA)でさえ、チケットが20万円を越す程で、況してやキャンセル待ちと聞かされ、より格安チケットを探し求め、結局初めてAIR CANACA(以下AC)を利用した。ACはUAと提携している為、私のUAでのマイレージに今回のフライトも加算されるシステムで、これは助かる。
さてACであるが、いつもUAを利用している為、僅かな相違点も妙に気になる。

関西空港ではACはANAのチェックイン・カウンターに含まれている。(UAもANAと提携しているが、こちらは自社カウンターがある。)勿論職員はANAのスタッフであろうと思われるが、チェックインの段取りが非常に悪い。御蔭で恐ろしい程の長い行列にして、フライトの2時間前に並んだにも関わらず、チェックインが済めばもう1時間も残っておらぬ。いつも利用しているUAでは、私はプレミア会員なので、ビジネスクラスのカウンターでチェックイン出来る為、待ち時間なんぞほとんどないのであるが、それにしてもこのAC/ANAのカウンターの段取りの悪さには閉口してしまった。
しかし帰りのサンフランシスコ空港のACのチェックイン・カウンターは、それ以上に能率が悪く、これはどうやらACの素晴らしい社員教育の賜物であろうか。さらにサンフランシスコからカナダのバンクーバー経由で帰国するにも関わらず、ACのバンクーバー行きのみ国内線ターミナルでチェックインせねばならない。当初、国際線ターミナルへ行ってみれば、UAのバンクーバー行きはアナウンスされているのに、ACのバンクーバー行きは何処にもアナウンスされておらぬではないか。それどころか何処を探してもACのチェックイン・カウンターが見つけられず、通りかかった空港職員に尋ねたところ、ACのチェックイン・カウンターは国内線ターミナルにあると言う。何故斯様なややこしい事になっているのか。「カナダは外国やろ!」更に「UAのバンクーバー行きは、ここ国際線ターミナルでチェックイン出来るのに、何でやねん!」 と憤りつつも、このとんでもなく広いサンフランシスコ空港の丁度端から端まで、重い荷物を抱え移動させられたのであった。

ACでは、離陸後間もなく、未だ水平飛行に入る遥か以前に、シートベルト・サインが消される。ACもUA同様にANAと提携している為、機内には鬱陶しい日本人団体ツアー客が犇めいており、御蔭で離陸して間もなくオッサンやら オバハンやらガキやらネーチャンやらが、早速そこいらを徘徊する。更に中学生ぐらいの女の子が、私の前に座る母親の元へ来て、「あんな席いやや。隣外人さんやし、スチュワーデスさんも外人さんやから、何言うてるか全然わからへん。」と、どうやらひとりだけ家族と席が離れてしまった様子にて、周囲に憚らず泣き出す始末。母親の隣に座る御婦人が見るに見かねて、席を替わりましょうかとの申し出に、母親は「ほなあんた、ここに座らせてもらい。」と宥めるが、この娘ただただ首を横に降るばかり。この御婦人、御丁寧にも既に席を立ってしまっている為、機内の狭い通路を、この御婦人と泣いている娘が塞ぐ恰好となってしまい、結果ここで渋滞さえ発生し、そのとばっちりは後ろに座る私にさえ及ぶ。その状況を察してか、母親は「ここに座らせてもらい。ほらおばちゃん(席を譲ろうとしている御婦人)かて困ってはるやろ。」されど娘は「ええねん、別に。」次第に母親も「もう早よここに座り!おばちゃんが席替わってくれる言うてはるやろ。」されど娘はやはり首を横に振るのみ。この娘のせいで引き起こしている通路の渋滞と、娘の埒の明かなさもあって、遂に母親も「そのまんまの席でええんか、どっちやねん!ここに座んのか、座らへんのんか!早よしい!おばちゃんかて困ってはるやろ!」と、怒り出し、より一層気まずい空気が立ち篭める。この御婦人もいよいよ「どうぞおふたりでごゆっくり話し合って下さい。」と、席を譲ると言った手前、こう言うしか術もなく、この押し問答は結果「もうええんやな。席替わってもらわんでええんやな。(御婦人に向って)どうもすんませんでした。ひとり席が離れてしもうたさかい。」との母親の言葉で御婦人が再び着席し、娘が自分の席に戻るまで続いた。しかしこの母親、何故自分が娘と席を替わってやらぬのか。隣にはこの親切な御夫人と、自分の身内が座っているのであるから、娘も安心であっただろうに。そして実は、通路を挟んでこの御夫人のまだ僅か幼稚園児ぐらいの息子が座っていたのであるが、その男の子の落ち着いている事。さてあの娘、その後如何様に機内で過ごしたのかは知る由もなし。

ACは兎に角スチュワーデスのサービスが悪い。呼んでも呼んでも全く来ぬ上、通り縋りに漸く捕まえて用件を伝えども、「かしこまりました」「OK」と返事はするが、その後待てど暮らせど音沙汰なし。同じ用件を3度頼んでも結局埒が明かず、挙げ句に自分が出向いていかねばならぬ羽目に。よくよく辺りを見渡せば、そこいらでスチュワーデスを呼ぶランプが点灯しまくっており、されど肝心の彼女達はキッチンでのんびり談笑しているではないか。このサービスの悪さはアエロ・フロートを軽く凌駕する。御蔭で機内で映画を観つつビール等を飲んでいる人が非常に少ない。矢鱈と酒を振る舞ってくれるUAと異なり、これはもしかすれば、客へのドリンクサービスを減らす事で、経費節減を狙っているのではあるまいか、とまで思えてしまう。UAのスチュワーデス(特に日本アメリカ間の国際線)は、到底「楽しい空の旅」なんぞ望めぬ愛想の悪いヨボヨボの白人ババアが殆どを占めるが、その「適当」で「大盤振る舞い」なサービスは、もうヤケクソとも伺える程であり、私のようなひたすら飲んで寝るタイプには、有難い事この上なし。

退屈な機内に於いて、大したメニューがないとは云え、ミュージックサービスは有難いものである。最低限、ヘッドセットをしておれば、周囲の雑音は耳に入らぬ。UAでは、離陸前若しくは離陸後程なくヘッドセットが配られれば、既にミュージックサービスのプログラムはスタートしており、兎に角周囲の雑音を遮断する事が出来る。
されどACでは、スチュワーデスの怠慢なのか、それともそういうスタイルなのか、最初のドリンクサービスまでヘッドセットは配られない。ドリンクサービスとほぼ同時進行でやる為、ドリンクサービスもなかなか捗らず、されど彼女達スチュワーデスは、斯様な事を気にするでもなし、その効率の悪い仕事ぶりをさらに「余裕を持って」こなしており、「カナダ人はアホである」と云う新たな認識が、私の中に植え付けられた事は言うまでもなし。考えてみれば、カナダは北米大陸の北に位置し、この大きな大陸的スケールをアメリカ人共々身に付けつつ、フランス語圏でもあるが故、フランス人の持つ「いい加減さ」をも兼ね備えているのであるから、当然と言えば当然なのかもしれぬ。
漸くヘッドセットを手に入れたところで、何とプログラムが始まったのは、それから更に随分経ってからであり、当初はヘッドセットが壊れているのかと思ったものである。
更にDeep PurpleやThe Whoが入っているクラシックロックのチャンネルやら、いつも寝る時に聴くクラシック・チャンネル、フランス語圏ならではのフレンチポップ・チャンネル等、12チャンネル中の計4チャンネルが、オンエアされておらず、ヒットチャートやらダンスミュージックやらエスノポップやらのチャンネルばかりで、渋々R&Bのチャンネルを聴く事にしたのだが、こんな暑苦しいもんを聴いてなんぞ、おちおち心穏やかに寝る事さえも叶わず。UAの時のように、ブラッディーマリーを飲み倒そうにも、いくら呼べどもスチュワーデスは全然来ぬし、かと言ってわざわざキッチンまで自分で取りに行くのも腹立たしく、全くもって不快な10時間の空の旅であった。

されど今回の行きしなのACの機内食には驚かされた。UAと云えば、その機内食の不味さには定評がある程で、アメリカ人さえにも「UAの機内食はFuck off!」と言わしめる、それはそれはおぞましいものである。私は常にUAを利用している御蔭で、機内食は不味いものだとの印象が強い。
大抵の場合「beef or chicken?」等と聞かれるのであるが、スチュワーデスが前の席の乗客に尋ねている英語は、明らかにそうではなく、一瞬自分のヒアリング能力が低下したのかとさえ我が耳を疑った程。通常、事前に機内食のメニューが配られ、それを見て予め自分の食べたいものを選ぶ事になっているのであるが、ACでは、配付用メニューのコスト削減なのか、さてまたスチュワーデスの怠慢なのか、メニューは結局今回の旅の間一度も配られる事なく、例えば「beef」と云った処で、それが一体如何様な料理なのかは知る事が許されぬ有様。しかし今回の行きしなに於いては、スチュワーデスが尋ねている英語は、明らかにこう言っている様に聞こえたのだ。
「beef or unadon?」
未だ曾て「うな丼」が機内食で出たなんぞ聞いた事もなく、「なんか『うな丼』って言うてるみたいに聞こえるけど、ほんまは何て言うてんねやろ?『unadon』によく似た食べ物に関する英単語なんかあったかいな?」と、自分の順番が来るまでに、何とかその単語を把握しようといろいろ思い巡らせてみたが、矢張り「うな丼」にしか聞こえず、 結局スチュワーデスに「what’s?」と尋ねてみれば、矢張り「うな丼」であった。しかしそれなら「beef or fish?」と尋ねるのが普通ではないのか。勿論「うな丼」と具体名で言ってくれる方が有難いが、ならば通常「beef or chicken?」と食材名で尋ねるのはどんなものか。そもそも外国人は食事に関して「何が食べたい?」等と話す際、必ずと云っていい程「beef」「chicken」「fish」「vegetable」等と、食材名を述べる。日本人ならば大雑把であれ「和・洋・中」に分けるであろうし、「定食」やら「麺類」、更には「焼肉」「パスタ」「寿司」「ラーメン」等と具体的な料理名を述べるのが普通であろう。況んや「vegetable?」なんぞと問われた処で、日本で「ほな『野菜』食いに行こか?」等と云う輩はまずおらぬであろうし、そもそも如何な料理であれ、必ず何かしら野菜は含まれている為、斯様な愚問を吐く必要さえない。食材でしか食事を考えられぬ故、外国人の料理は調理方法の種類も少なく、得てして不味いのであろう。彼等の場合、「どんな料理を食べるか」ではなく「どんな食材を食べるか」に、重点が置かれている証しではあるまいか。
さてそのうな丼であるが、別段普通のうな丼と変わらぬもので、美味しく頂く事が出来た。スチュワーデスのサービスは悪いが、機内食は美味いのでポイントアップと、この時点で勝手に採点していたのだが、結局その後に出た機内食は全て不味かった。

行きしなのバンクーバーからシアトルへの乗り継ぎの際、バンクーバーにて、既にアメリカへの入国手続きを完了させてしまう。これはなかなか良いシステムである。(アメリカから日本への帰国時は、当然アメリカにて出国手続きを完了する。)トランジットの待ち時間が、丁度このアメリカ入国手続きに当てられ、アメリカに到着すれば、国内線ターミナルから即空港外に出られる。(そのせいでACのチェックイン・カウンターのみが、国内線ターミナルに存在するのであるが、当時は全く気付かなかった。)
トランジットの待ち時間を利用する為、乗り継ぎ便の時間を考慮してか、入国審査はかなり甘いと言える。USツアーに際しては、昨年のテロ以後入国審査がかなり厳しくなり、この身なりと矢鱈とスタンプが押されているパスポートのせいもあり、毎度私と東君は何らかの形でチェックされる。ツアーは楽しいが、アメリカの入国審査は、鬱陶しい事この上ない。故に、このバンクーバー経由と云うのは、我々にとってはひとつの光明かもしれぬ。UAと提携しているのでマイルも加算されるし、うな丼も出る。スチュワーデスのサービスは悪いが、酒が欲しけりゃ自分でキッチンへ出向けばよい。ミュージックサービスも、どうせ大したプログラムは期待出来ぬであるから、自前でMD若しくはPC等を持参すればよかろう。「快適な空の旅」より「快適な入国審査」の方が、我々入国審査で面倒臭い思いをさせられる人種には、より重要事項であろう。

ACも然程悪くあるまい。何しろドリンクサービスが悪いからか、UAほど機内のトイレが混まぬのが良い。
シアトル行きのシャトル便搭乗開始の際、搭乗カウンターに座っていた男性職員が、「只今から搭乗開始します。10・9・8・7・・・」と秒読みするアナウンスに、座布団1枚。

(2002/9/08)

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