『人声天語』 第115回「AMT欧州ツアー2004 ~世界残酷食物語~」#1

10月27日

先に独りヨーロッパ入りしていた私は、単身London Gatwick空港へ降り立つ。いざ入国せんとイミグレーションへ向かい、さて私のワークパーミットのナンバーを告げれば、何と未だ此所には届いておらぬと云うではないか。オルガナイザーであるRiot SeasonのAndyには例によって予め到着日時も知らせてある故、当然届いていて然るべきであるが、何しろ届いておらぬと云われる限り、私もこれ以上為す術もなく、ただひたすらイミグレーションの前のベンチにて間抜け面晒すも憚られようから、ゴロリと昼寝でもするしか道もなし。勿論イミグレーションを通過しておらぬ故、喫煙する事も叶わず。と云う訳で本当に昼寝しておれば、係員の女性がやって来て曰く「今、あなたのワークパーミットを発行履歴から調べています」との事。結局待たされる事2時間半、漸く入国手続きを済ませ、午後3時半発のNational Expressバスにて、午後5時10分にLondon市内Victria駅へ到着。Victriaより地下鉄にて、我らのLondonにての常宿、Play Stationを神と崇め音楽をこよなく愛すればこそ遂には家庭も失いし、元教員なれど元National Healthのツアー・ドライバーにして、Charly Recordsに勤めし折にはHere & Nowの担当者にして、Syd在籍時のPink Floydやら最初期のSoft MachineやらNew Yardbirds時代のZepやらを生で体験せし「ブリティッシュ・ロックの生証人」にして、初めてのフルートをDaevid Allenより授かりて以来、カンタベリー系人脈と今尚交流も深く、67年には遥々渡米しアレン・ギンズバークとの面会も果たし、長らく無職にして失業保険にて生計を建てれども誇り高き英国紳士にして自称フルート奏者なるGlynさん宅へ向かえば、午後6時過ぎに漸く到着。朝から未だ何も食しておらねば、早速日本より持参せしレトルトカレーと真空パックの御飯を取り出しカレーライスを食す。「Play Stationこそが神」と明言するGlynさんは、最近の自分のお気に入りのゲーム(車を盗みカーチェイスしては、銃や暴走行為にて通行人を殺し捲るゲーム)をプレイして見せてくれれども、こちらは旅の疲れもありソファーにてうたた寝を決め込む。午後10時過ぎに、津山さん一行が到着、成田に於いてのチェックインに関しても、イギリス入国に際しても、全く何の問題もなかった様子なれば、成田でのチェックインにての騒動にせよ、イギリス入国に際してのトラブルにせよ、私の先行きについては何かしら不運の兆しあるや。
午前12時に就寝せんと思えども、未だ時差ぼけなればなかなか眠れず。

10月28日

午前4時起床、シャワー&洗濯を済ませる。朝食として、再び日本より持参せし食材にてカレーライスを食す。この度のフライトは、いつも利用しているStar Alliance関連ではなく、Sky Team関連の航空会社を利用した為、況してヨーロッパの航空会社ならでは、荷物の重量制限が厳しく、持参せし食料も此所Glynさん宅にての滞在期間分程度のみにとどまる。皆も時差ぼけの様子なれば、早朝にも関わらず起き出して来る有様で、なるべく早くこの時差ぼけを克服せぬ事には、この先のツアーが厳しくなる事は必至なり。
午前10時前、レコード屋の開店を待ち、津山さんは早速日本より持参せしトレード用の日本盤EPを大量に携え出動。未だライヴ前故に所持現金が殆どなければ、ならばトレードにてでもレコードを買おうとするそのVinyl Junky度は流石と云わざるを得ぬであろう。
残された我々3名、私と東君とはじめちゃんは、日本から送付した商品や、各レーベルから送付されし新譜や旧譜等を、我々の代わりに受け取ってくれたAlanの勤めし大学の研究室まで、先ずは取りに伺う事とする。Londonの地下鉄はチケット代金が盲ら滅法高い故、割安の1day passを購入、ゾーン2内にて2度も乗車すれば既に元は取れるのである。Alanとの待ち合わせには未だ時間がある故、Piccadilly Circusにて途中下車し、いつもLondonではお世話になる日本食材屋にて、生うどん3玉(出汁付き)+とろろ昆布1袋+カップ焼そば1個+サッポロ一番みそラーメン(欧州仕様)1袋を購入、更にレジ横にて売られし手作りおにぎりを食す。これにてイギリス・ラウンドに於ける食料は、充分補充確保出来たと思われる。何しろイギリスに於いては、兎に角諸物価が桁違いに高い故、せめて食事については、なるべく外食を控え出費を抑えるよう心掛けねばならぬ。 「不味い、高い、遅い」の3拍子揃いしイギリスの外食事情なればこそ、無闇に外食する気にさえならぬが、車での移動やホテル滞在が続けば、そう易々と自炊する事も叶わぬ故、キッチンどころか熱湯を湧かし得るコーヒーメーカーさえ無いホテルへの滞在さえ想定すれば、洗面所の緩いお湯でも何とか調理可能な、生麺やカップラーメンこそがマストアイテムとなるのである。
午前11時、Alanの大学の研究室を訪れれば、届きしその商品の多さに驚愕、果たして僅か3名にて、これら全てを運ぶ事が可能なのか。楽器屋にも行きたければ、アランの大学より徒歩にて楽器屋街に行けるとの事で、ではAlanの案内にて先ずは楽器屋へ。Alanは大学にて日本古典文学等について教鞭を取っている故、日本語の勉強方法について語り合えば、漢字の記憶方法について話が及んだ際、私が「英語のスペルも覚えるのに随分苦労したから同じようなもの」と云えば、「それは正確な発音を記憶していないからですよ、正確に発音していれば正確にスペリング出来る筈」と、見事斬って捨てられた。否、まさしくその通りです。
楽器屋にて所用を済ませた帰路、Alanの提案にて大英博物館へ寄り道。丁度エジプトのミイラ展が開催されており、何でもX線照射にて、頭部にミイラ製作過程上に使用せし円盤状のものにして、本来工程上抜き取らねばならぬ筈の代物が、何とミイラ制作者の手抜き作業にて、包帯の中に残されたままだった事が発覚したとか。それにしても、静かにミイラとなりて眠っていたにも関わらず、再び陽の下に晒され、X線照射やら何やらといじくり回されれば、死者の魂の尊厳もクソもあったものではなかろうに、ミイラの方もたまったものではあるまい。大英博物館にて常設展示のモアイ像なんぞも拝見すれば、さてAlanの大学の研究室へと戻り、何とか3名にて運搬出来るように荷物をアレンジし、再び地下鉄に乗り込む。荷物の重量はスーパーヘビー級なれば、このままGlynさん宅へ戻るのがベストであろうが、どうしてもPiccadilly Circusにある日本食レストラン「てんてん亭」にて塩さばランチを食したければ、このクソ重い荷物に大汗を流しつつも、「てんてん亭」を目指す。
「てんてん亭」に息も絶え絶え何とか辿り着けば、早速ビールを呷り、塩さばランチをオーダー。お代わり自由な為、御飯2膳+塩さば片身+味噌汁+小鉢。塩さばの旨さに涙しつつ、これにてこれより1ヶ月に及ぶヨーロッパ・ツアーに於いて、如何に激不味な代物と巡り会おうが、見事立派にそれら苦難を克服せんと決意を新たにす。
塩さばランチにてパワーも充填されれば、このクソ重い荷物を抱え、再び地下鉄に乗り込みGlynさん宅を目指せども、矢張りあまりの重さに泣きが入り、Piccadilly CircusからGlynさん宅までは、地下鉄の乗り換えが1回ある上に最寄りの駅West Kensingtonから更に徒歩15分と云う距離もあり、結局乗り換え不要なHammersmith駅まで行き、そこからタクシーにてGlynさん宅へ戻る。津山さんは、トレードにて大満足の買い物が出来た様子にして、特にIncredible String Bandの2nd 初回プレスUKオリジナル盤、Fairport Convention「Liege And Leaf」のUKオリジナル盤(既に3枚目!)、Kevin Ayers「Joy Of The Toy」のUKオリジナル盤等、ブリティッシュ・ロック&トラッドのオリジナル盤買い漁りの成果には、満面に笑みにして大いに御満悦の様子。元々タダ同然の日本盤EPとのトレード故、「まあタダみたいなもんや。」
夕方、最近新調せし御自慢のフルート(実は新しいフルートケースの方が自慢げではあったが)を携行するGlynさん共々、今宵のライヴ会場93 Feet Eastへ、津山さんとGlynさんは機材共々タクシーにて、我々残り3名は1day passを所持する故、地下鉄にて向かう。会場付近はイスラム人街の様子にして、何とも怪し気にして香ばしい雰囲気なれば、宗教グッズ蒐集が趣味の私としては、次回Londonを訪れる際には是非とも散策してみたいと思う。
今宵はオープニングアクトとして3バンドも用意されておれば、アンプ等の機材を拝借する為に1バンドは仕方ないとしても、何故斯様に対バンを入れるのか理解に苦しむ。ブッキングの際「演奏時間は2時間を確保」 と云う条件を提示しているのだが、斯様にバンドが多ければ時間切れになる事は必至であろう。そもそも彼等が客を動員し得るとは到底思えず、何しろ彼等が演奏せし早い時間帯に於いては、未だ客席に閑古鳥が鳴いていた事からも伺えるであろう。さてサウンドチェックを済ませ、社長津山さんの指示の下にShopzoneをオープン。新譜から旧譜までCDとLP合わせて30タイトルが並べば、その圧巻な様も今やAMTファンにとっては恒例の姿なれど、新譜でさえ数タイトル並んでおれば、口を揃えて「Oh, too many!」と爆笑。本日のShopzone。

午後11時に漸く出番と相成れば、客席は既に満員御礼。矢張りオープニングアクト3バンドは多過ぎたようで、セット中盤にして、クラブ側より時間切れのサインとして、客電及びステージの照明も点灯されたのだが、斯様な事はお構いなしに演奏続行。立派な巨大アンプ群を用意して頂いたのだが、案の定終盤にてベースアンプは見事御陀仏御昇天あそばされ、エンディングは私独りがステージに残り、客に肩車をして貰いギターソロを展開、最後にギターを客席に投げ捨てれば、スキンヘッドの男性の額に見事命中し流血騒ぎと相成れども、当の本人が「友人達に自慢出来る」と、終演後に血を流しつつも笑顔で話し掛けて来た故、こちらとしても一安心。新しいフルートを携えしGlynさんを「What Your Name」にてゲストとして迎えれば、例によって素頓狂なフルートが爆裂、されど毎回Londonではゲスト参加しているせいか、客の方も「FluteMan!」なんぞと盛り上がれば、Glynさんも大喜びの様子。(impro/Dark Star Blues/La Le Lo/What Your Name/Pink Lady Lemonade:セットリストは記憶が曖昧なれば、その信頼性がかなり低い事は、予めここに申し上げておく。)
終演後、タクシー2台に分乗し、Glynさん宅へ。夜食として、先程購入せしサッポロ一番みそラーメンを食せども、矢張り欧州仕様なれば、麺が国産のものに比べ何処となしに粉っぽく、矢張り割高であれども日本から直輸入された国産品の方を選ぶべきであったか。何とか時差ぼけを克服せんと、無理からで午前2時就寝。

10月29日

矢張り時差ぼけなれば、 午前4時半起床。昨日購入せし食材にて、とろろ昆布うどんを作り食せば、大いに美味なり。皆も矢張り時差ぼけなのであろう、早々に起き出し順次朝飯を食らう。
午前12時にHeathrow空港のハーツ・レンタカーにて車を借りる手筈となっている故、Glynさん宅よりタクシーにてHeathrow空港へと向かう。さてレンタカーを拝借すれば、東君の運転にて一路Nottinghamを目指す。途中、ドライヴインに立ち寄りバーガーキングにてWhoppers1個(セットにあらず、ハンバーガー1個)を食せば、何と£2.79(約550円)也。ハンバーガーは万国共通の味なれば、イギリスのように激不味料理が溢れ返る地域に於いては、「安全な」メニューであると云えよう。況してバーガーキングのWhoppersに関せば、チーズはオプション故に、私のようなチーズ嫌いにとっては打ってつけにして、マクドナルドのハンバーガーとは異なり、レタスやらトマトやら玉葱等の野菜も豊富に入っておれば、ファーストフードのベーシックなハンバーガーとしては、かなり上出来な方ではあるまいか。矢張りハンバーガー1個では空腹感は満たされず、ドライヴイン内のスーパーにて、寿司セット「Sushi Selection」を購入。

その記載を転載してみれば「2 Prawn californian rolls、1 smoked salmon nigiri、1 red pepper maki、1 cucumber maki」である。さてパックの蓋を開けてみれば、一見鑞細工の如き不味そうなサーモンは蓋に貼り付いておりシャリから生き別れ、流石に歌舞伎図柄のおしぼりには思わず爆笑。

味の方は、まあ海外のスーパーで購入せし寿司とは斯様なものと存じておれば、期待こそしておらねど、巻き寿司はまだ何とか食せれども、スモークサーモンの握りは矢鱈と薬臭ければ気持ち悪くなりて、思わず食した事を後悔する事頻り。
午後5時、多少Nottingham市内にて迷えども、無事今宵の会場The Socialに到着。ここでは幾度か演奏しておれば、サウンドチェックまで未だ時間があると察した津山さんは、一目散にて以前も訪れた事のある近所のレコード屋へ向かうや、早速Sandy Dennyの5枚組CD BOX等を購入、大いに御満悦。一方で私と東君は、近所のバーにてビールを呷る。
クラブに戻りサウンドチェックを済ませれば、空腹の津山さんは、先程ドライヴインのスーパーにて購入せしクロワッサンと生野菜のパックにて、津山さん曰く「大陰唇サンド(何ちゅう名前や!)」を貪っておられる。

私は近所に中華料理屋を見つけた故、夜食にと炒飯をテイクアウトせんと思えば、何と£7もするではないか!されど背に腹は代えられぬと購入。
クラブの表通りは開場を待つ客でごった返しておれば、その中に「AMT最年少ファン」である女の子のお父さんの姿を発見。彼女との出会いは、初めて此所Nottinghamを訪れし2001年春のツアーにまで遡る。このお父さんがその幼い娘を連れて開場前に現れ、彼女は未だ幼過ぎてショーを観る事は出来ないが、AMTの大ファンなのでせめてサインだけでも貰えまいか、と云う下りであったと記憶する。我々は斯様に幼い子供が自分達の大ファンだと聞くや、サインは勿論ツアーEPやらポスターやらもプレゼントし、更には一緒に記念撮影も行ったのであった。2001年秋のツアーにて再会せし時は、未だライヴを観る事が叶わぬ彼女の為に、お父さん共々サウンドチェックに招き入れ、「Pink Lady Lemonade」を本番さながらに大暴れ大爆音にて演奏したのである。その後、表ジャケットのコラージュに彼女の写真を使用した故、その「St.Captain Freak Out & The Magic Bamboo Request」のCDを送付すれば、大層驚き喜んで貰えたと伺った。生憎今宵彼女と会う事は叶わねど、今回このお父さんは2人の息子を従えて(息子達は大きくライヴも観られる年齢なのであろう)の来場にして、お父さん曰く「彼女もすっかり大きくなったので、いずれ共にライヴに来れるようになるだろう」との事。彼女との再会、いつの日か叶う事を祈り、新譜を彼女へのプレゼントとしてお父さんに託す。
本日のShopzone。Sandy DennyのBoxに御満悦な津山社長。

今宵はワンマンなれば、何処ぞの音響会社より機材全てレンタルしている様子にして、ギターアンプのヘッドのスペアまで用意されており、おおっ!何と云う気配り、ありがたや。その期待に見事応える形となり、結局Marshallヘッドは中盤にて御陀仏御昇天と相成り、スペアのMarshallヘッドも使命を全うすべく投入。(impro/Dark Star Blues/impro/La Le Lo/La Novia)
終演後、ホテルへ行かんと表通りに出てみれば、週末故にまるでカーニバルの如き喧噪にして、この寒空の中にも関わらず、セクシーな衣装に身を包んだダイナマイト・ボディーのネエちゃん達が闊歩。疲れておらなければ、是非ともこの喧噪の中に美女探しでもしつつ、バーにて酒でも呷りたい処なれど、未だ時差ぼけに苦しむ身なればこそ、ここは大人しくホテルへ。東君と同室にして、先ずは洗濯を済ませ、されど寝酒もなければ矢張りあの喧噪に身を委ね酒を呷りたけれど、何しろホテルから盛り場までは随分な距離なれば、ここは仕方なく我慢。ならばと先程購入せし炒飯を食さんとすれば、値段が高かった割には何とも不味く、粉末うどん出汁と七味をぶっかけてみれば、漸く普通の味と化し食せし。

東君は電気ポットにうどんと出汁と水を放り込み調理、生憎器もなければポットのままうどんを啜る有様。

寝酒がなく悲しいまま、午前2時半就寝。

(2004/10/16)

其之壱其之弐其之参其之四其之五其之六其之七其之八其之九其之十其之十一
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