『人声天語』 第115回「AMT欧州ツアー2004 ~世界残酷食物語~」#7

11月15日

午前8時半起床。久しぶりに熟睡出来た様子なれば、気分も爽快。朝飯はバイキングなれば、カフェオレ+クロワッサン2個+ヨーグルト+シリアル+ゆで玉子1個、斯様な朝食スタイルにももう慣れたと云うか、諦念より起因する一種の無我の境地とでも云うか、兎に角1日を通じ最も空腹感を感じるのは起き抜けなればこその開き直りとでも云うか、「もう何でもええわ、腹にさえ入れば」とは津山さんの名言。部屋に戻りて「チャーリーズ・エンジェル」フランス語吹き替え版を観賞。
午前10時、スタッフのお迎えにて、車でLille Europe駅まで送ってもらう。午前10時17分発再びLyonへ向かうTGVに乗り込み、朝食バイキングにて失敬して来たゆで玉子2個を、各々コチジャンとマヨネーズを添えて食す。今回のツアーに際し、フライトに際しての荷物の重量制限を考慮せし故、いつもの如く大量の食糧を日本から持参する事を諦め、その代わりに調味料をいろいろ持参する事で、こちらの激不味料理の数々の味を変えてはこの窮状を何とか乗り切らんと、定番の七味とマヨネーズに加え、チューブ入りのわさびやらコチュジャン、酒の肴にもなり得る練り梅やらゆかりやら塩昆布、いろいろと応用の利く即席味噌汁、Londonで購入せし生うどんの粉末出汁にとろろ昆布、そしてペットボトルの水でも簡単に作れる粉末ほうじ茶、以上の品々を必殺アイテムとして携帯している。これも今までの数々のツアーに於いて試行錯誤を繰り返せし結果の知恵なれば、今回迂闊にも忘れしキムチふりかけを加えて、ほぼこれで最低限にして完璧なラインナップと云えようか。

3時間弱の禁煙に耐え忍び、午後3時10分Lyonに到着。午後3時33分発Geneve行きの列車に乗り込み、何もする事なしに、午後5時20分Geneveに到着。更に午後5時半発のZurich行き列車に乗り換え、再び何もする事なしに、午後7時15分漸くBern到着。例の駅構内にある中華料理屋「大平洋大酒楼」にて、炒飯+焼そば+鶏腿肉の唐揚げを購入し、明日の夜行列車のリザベーションをも済ませれば、徒歩にてSandroの待つDachstock Reitschuleへ向かう。
さて到着するや、Sandroからいきなり例のスイス・ビールにてもてなされ、先程購入した炒飯+焼そば+鶏腿肉の唐揚げを食せば、今朝のブレックファースト以来の食事故、いと美味なれど、あまりの大盛りにして半分は明日の朝飯に残す。

ここを過ぎれば次はいつネット接続を果たせるや判らぬ故、先ずは事務所にてネット接続、特に終盤のイタリア・ラウンドに関し、未だ殆ど詳細なる情報を得ておらぬ故、ビール片手にひたすら雑務等をこなす。向いの机に座するSandroが、先日のAMTのライン録りライヴCDRを爆音にてCDラジカセでかけながら、ノリノリにて仕事に勤しむ。普段は特有の時間感覚の中にて浮遊感溢れる彼なれど、仕事中は到って真剣な表情なれば、矢張り人知れぬ所できちんと仕事しているのだなあと、何故だか妙に尊敬してしまうが、これも我々が存じていた彼の姿たるや、まるでお気楽なフーテン風情だったからに他ならぬ。それにしても深夜1時にして、CDラジカセの音楽に合わせ体を揺らし、時折真剣なる表情からふと笑顔を垣間見せつつも、ビール片手に斯様に仕事熱心なるは、矢張り尋常なる人物ではあるまい。やっぱりSandro好きやなあ~。スイスの素頓狂にして愉快な仲間なり。皆が寝静まるや、はじめちゃんは独り猛烈に洗濯の様子。午前2時、Sandroは相変わらず大爆音のBGMにノリつつ仕事に勤しめど、私は漸く雑務終了なれば就寝。

11月16日

午前7時起床。津山さんは朝から冷麦を大量に茹で、無心にて一気に胃に流し込んでおられる。

私は昨日購入せし炒飯と焼そばの残りを食さんとすれば、すっかり冷めて不味さ倍増、到底食える代物にあらず、キッチンにて再び加熱処理を施せば、何とか食し得る味にまで回復、更に七味やらマヨネーズやら粉末うどん出汁やらを駆使し味を整え食せば、充分許せる範囲と相成る。

さて皆で近所を徘徊すればスーパーを発見、米と白菜と海苔と大根、更に私はサバを、東君はステーキ肉を購入。これにて昼飯と晩飯は確保出来たか。

正午にレコード屋がオープンする故、津山さんと三度目の突入。津山さんはJethro Tullの1stアルバムUKオリジナル盤やらFugsの1stアルバムESPオリジナル盤やらChris Farlowのライヴ盤等を購入し、大いに御満悦の表情。私はABBAのドイツ盤ベストアルバムから津山さん曰く「素頓狂なトラッドバンド」Ogenweide等、トラッドやらサントラやらスイスフラン散財にして一気に怒濤の購入ぶり。
さて今夜は寝台列車に乗る予定故、弁当の製作も兼ね、先程購入せし食材にて各自調理を開始。東君は昨日の炒飯の残りと先程購入せしステーキ肉とで、ステーキ炒飯を食せば、大いに満足げなり。

津山さんは米を炊き、白菜にて「バニーごっこ」なんぞかませつつ、漬物を製作。

私はサバをこちらの全く切れぬ鈍らナイフにて何とか2枚下ろしにすれば、これにて塩さばとする。

いよいよ塩サバをフライパンにて焼き、大根おろしも添えれば、嗚呼、懐かしや…日頃週5回は食す塩サバ定食ではないか!津山さんとはじめちゃんにも塩さばをお裾分けすれば、皆大いに感動。矢張りサバは旨い!

さて少々遅い昼飯を終えれば、各自思い思いの弁当を製作。津山さんは、御飯山盛りにして、漬物+海苔+塩昆布にて、これぞまさしく「大盛り海苔弁当」と、更にもう1箱、こちらは中盛りの海苔弁当の上に冷麦+鮭茶漬けふりかけを重ねる「冷麦海苔弁当」の計2個を作成。

私はと云えば、大根おろしと塩昆布を海苔で巻きし「海苔おろし巻」をおかずとし

また漬物に塩昆布を混ぜ合わせ付け合わせとし、そしてゆかり御飯の上に海苔を敷き、更にその上に再びゆかり御飯を重ね、最後は海苔ととろろ昆布で蓋をせし「海苔大根巻ゆかりお重」

東君は塩昆布御飯と漬物がベースの「海苔弁当」

はじめちゃんはお握りをシコシコと製作し、可愛らしくラッピングまで施す。

午後6時17分Zurich行き列車にて、約1時間の車中取り立ててする事もないままZurich到着。午後9時53分発Beograd行き寝台列車にてZagrebへ向かう予定だが、約2時間の列車待ちの間、矢張り取り立てて何もする事なく、津山さんはこの時点で既に弁当1個完食済み。Zurich駅構内のパスタ屋にて、夜行列車のお供にと安赤ワイン1本を購入。漸く列車が到着すれど、寝台の狭さ半端ではなく、まるで強制収容所か何かの如きにして、タバコ片手の車掌はまるで酔っ払い極悪看守の如し、パスポートとユーレイルパスを預かられてしまえば、嘗てのインド放浪等によるトラウマなのであろう、絶対パスポート等を肌身から離す事を頑なに嫌う津山さんは「パスポート返してくれ~、でないと心配で寝られへん!」いつもの威勢の良さは何処へやら。

更にユーレイルパスは、未だスロベニアでは使えぬと云われ、スロベニア国内通過分の切符を購入させられる。折角こないだEUに加盟してんから、ユーレイルパスぐらい使えるようにしとけよなあ…何の為にEUに加盟してんな、お前らは!
寝台の割り振りも決まり、荷物も上手く収納すれば、さて赤ワインを抜き、皆で楽しい弁当の時間である。されど明日の朝飯にと半分残しておく事とす。室内はヒーターが効き過ぎにして蒸し暑く、されどよりによって最上段に座するのは、最も暑さ嫌いの私と津山さんなれば「あづび~っ」を連発、一方外の通路は涼しい故、先日フィンランドにて購入せし「Koskenkorva/Salmiakki」のボトル片手に通路に出て、矢張りウイスキーボトル片手の東君と、すっかり立ち飲み状態にして御機嫌なれど、津山さんは相変わらず「パスポート返してくれ~!」

極悪看守の如き車掌が、漸くパスポートを返却に来れば、津山さんも大いに安堵の様子。私は結局調子良くボトル1本空けてしまえば、さていよいよ眠ろうかと思えど、結構な揺れとあまりの暑さで次第に気持ち悪くなり、寝呆けながらもトイレに行こうなんぞとすれば、扉がロックされている事を知らず「何であかへんねん、これ!ボケが~っ!」と怒り狂い扉を蹴りなんぞしておれば、すっかり皆を起こしてしまい、ロックを解除して貰えば、漸くトイレに行く事が叶えども、同じ愚行をこの夜寝呆けて2度も繰り返す始末。

11月17日

辺りは未だ真っ暗なれど、あまりの暑さに目覚めれば、猛烈な二日酔いにて起き上がる事さえ叶わず。未だ気持ち悪けれど、取り敢えず胃に何か入れた方がいいであろうと、弁当の残り半分を食せば、今度は偏頭痛に襲われ再び仮眠せんと思えど、クロアチアとの国境に差し掛かったらしく、パスポート・コントロールやら何やらで慌ただしく、落ち着いて眠る事さえ叶わず。パスポートを提示すれば、矢鱈とあちこち国のスタンプがほぼ全ページに渡り押され捲っている上、スロベニアやクロアチアへは、3年連続訪れている事もあってか、写真なんぞも何やら器具を取り出しじっくりチェックされる有様。考えてみれば、クロアチアやスロベニアを毎年訪れる日本人なんぞ、そう滅多にはおらぬであろうから、妙に思われても仕方なしか。車掌が検札に来た故、駄目元にてユーレイルパスを提示すれば、今度の車掌はどうやらこのユーレイルパスをよく存じておらぬ様子にして、繁々と説明書を読んだ挙げ句、結局「OK!」何とクロアチアではユーレイルパスは使えるのか、それとも単にこの車掌が存ぜぬ故の幸運だったのか、何はともあれ目的地Zagrebまでの切符は買わずに済みし。
午前10時48分Zagrebに無事到着。オルガナイザーのMateには、本来午後12時半頃に着く予定と知らせておれど、1本早い列車に繰り上げた為、2時間弱程待たねばならぬ羽目に。クロアチアは今やEU加盟国であれど、売店や自販機を見れば通貨は未だユーロにあらず、されど両替も見当たらねば、何かを買う事も出来ぬ有様。通貨の単位表記が「kn」であれば、我々勝手に「クンニ」と決め込むや、いつもの事ながらしょうむない下ネタに花が咲く。
午後12時半、Mateがトレードマークのマウンテンバイクにて颯爽と登場、我々はタクシーにて、彼はマウンテンバイクにて、先ずはホテルへ向かう。チェックインを済ませば、午後5時半にまた迎えに来ると云い残しMateは去り、空腹な我々は早速ホテルのレストランにてランチとする。赤ワインにて乾杯後、私と津山さんは小牛のカツレツのマッシュルームとパプリカソース添え+サラダを、東君は海老料理+サラダを、はじめちゃんはサーモン料理+サラダを各々オーダー。

東欧は、味的に全く問題ない故何の不安もなく、安心して料理を堪能。東欧は料理も旨いし女性も大層綺麗なれば、嗚呼、ええとこやなあ…。部屋に戻れば、今宵は津山さんと同室なれば、津山さんは即寝成仏、あの寝台車の不快適ぶりを思えば、このベッドの何たる心地よさか。
午後5時半、今宵のライヴ会場Ksetへサウンドチェックに向かえば、素晴らしき巨大アンプ群、私はHiwatとFenderの2発を確保、何とも心地良き爆音なり。対バンは、クロアチアのハードサイケバンド7 That Spellingにして、インストなれどファズワウ主体の轟音ハードサウンドなれば、我々の好感度大。会場内にはBilli IdolとDepeche Modeのポスターも貼られておれば、近々何とBilly IdolやDepeche Modeもここで演るとの事で、一時はヒットチャートを賑わせし彼等も斯様な処まで遥々稼ぎに来ているのだなあと、何かしみじみしたものを感じる。

ホテルへ戻り、レストランにてディナー。先ずは皆で赤ワインを煽り、津山さんは蛸料理+スズキ料理+サラダをオーダー、蛸料理はガーリックベースのドレッシングの和え物なれば大いに美味なれど、スズキのフライはまるでフィッシュ&チップスの如きなれば大外れだったとか。

私はFrog Fishのカルパッチョ+ステーキ+サラダをオーダー。

Frog Fishのカルパッチョは香草とチーズさえ外せば美味にして、されどステーキに到っては、スーパーレアと指定したにも関わらずウェルダン以上の焼き具合にて大いに期待外れなり。これならば、東君が昼にオーダーせし海老料理にすれば良かったと大いに後悔すれど、時既に遅し。折角の肉を斯様に焼いてしまえば、肉の旨味もへったくれもあろう筈もなく、されど以前訪れし折には到って美味なれば、今宵のシェフがド素人なのか、それとも注文を受けし女給が阿呆なのか、はてさて私の英語発音が酷かったのか、そう云えばあの女給は英語よりイタリア語の方が堪能そうなれば、「rare」はイタリア訛りっぽく巻舌にて「ラーレ」とでも発音せねばならなかったか、それにつけても海外にて「レア(rare)」な焼き具合を注文する輩はrare(珍しい)の様子にして、いつも「血が滴るような」と云う言い回しさえ駆使すれども、ミディアムな焼き具合な事が大変多いのである。
会場へ戻れば、既に満員御礼の中、7 That Spellingの演奏が始まる。バックにエロビデオを投射してのインスト・サイケハードロックにして、その何とも云えぬ音の古臭さと何処か素頓狂なアレンジに大いに共鳴し得れば、終演後早速AMTレーベルからのリリースを持ち掛け商談即決。彼等曰く「ポストロックなんぞクソ食らえ!」これには我々一同も大いに共感、されど彼等がクロアチアの期待の新星になる事は絶対ないであろう事も確信。
クロアチアは美女天国なれば、接客のし甲斐もあろうと思えど、矢張り寄って来るのは男性多し。本日のShopzone。

7 That Spellingに大いに触発されたか、1曲目から全開にてぶっ飛ばせば、久々にライヴ中にゲロ吐きそうになりて、体力気力の極限状態まで突っ込みて、最後はギター宙吊りにて幕。ステージ最前列には、尋常ではない動きにて踊り狂う輩もおれば、大いに気分も盛り上がる。
(impro/Dark Star Blues/impro/La Le Lo/impro/Pink Lady Lemonade/アンコール:La Novia)
終演後、7 That Spellingのメンバーと明日再会する事を約束し、さてホテルへと戻れば、津山さんとワイン片手にエロ番組を観賞、画面に映し出される美女の局部に思わず指やら舌を出す津山さん。倒れし柔道着の男とセクシーな姉ちゃんのシュールなコラボレーションに、我々「ヒプノシスや!」と、もう意味不明の大盛り上がり。

流石に今宵は暴れ過ぎにて疲労度大なれば、午前3時就寝。

(2004/12/10)

其之壱其之弐其之参其之四其之五其之六其之七其之八其之九其之十其之十一
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