『人声天語』 第115回「AMT欧州ツアー2004 ~世界残酷食物語~」#10

11月 25日

午前9時起床、流石に朝起きるのが辛くなりつつある。湯舟に浸かりて朝風呂と洒落こんだ後、津山さんと共にホテル内のレストランにてブレックファースト、シリアル+ピーチジュース+クロワッサン1個+コーヒー、イタリア人の朝食は大抵ビスケット+コーヒーなれば、斯様な粗食も仕方なし。午前9時半、ホテルをチェックアウト、タクシーにてFirenze駅へと向かえば、このタクシーの運転手もイラチにして、一方通行逆走は勿論の事、裏道を抜け捲れども、サイドミラーは畳んだままと云う出鱈目ぶり。マクドにてビッグマックを購入し、午前10時53分発Napoli行き超特急Eurostar Italiaに乗り込めば、何と満員御礼なれども、座席に電源が設置されており、ビッグマックを頬張りつつiBookにて雑務。津山さんは、今回こそとマクドのキャンペーン商品「オリエンタルバーガー」に挑戦すれば「何がオリエンタルやねん、不味いわ…普通のビッグマックにしといたらよかった…」とぼやきつつも、ワサビを塗りたくり一瞬にて完食。

午後2時半にNapoli駅に到着、いやはや流石は南イタリア、全く景色も雰囲気も異なれば、最早何やら出鱈目な空気さえ漂い、殆どヨタモン風体の輩共が、勝手にそこらで水やらビールやらパニーニを売っている有様にして、またしても空腹の津山さんは、彼等からパニーニ2個を購入。

更に南下せんと、Napoli駅にて午後2時43分発の列車に乗り換えれば、窓から望める眺望はまるで鹿児島、植物もすっかりトロピカルな種へと一変、何しろ空は目が痛い程に青い。地中海海岸線を走り抜ける為、何とも素晴らしい眺めにして、そこらに釣り人も多く見受けられる。
途中Pompei駅に到着するや、津山さんは挙動不信状態に。「ポンペイ?ポンペイ?えっ?ポンペイ?ポンペイ…ポンペイ!ポンペイ!ポンペイや!うわっ、ポンペイや!ええっ!ポンペイやん!ポンペイ!おお~っ…ポンペイや! どこや?どこや?どこや?どこや?どこや?どこや?どこや?どこや?どこや?ピンク・フロイドはどこや?どこで演りよったんや?どこや?どこや?あの円いのんはどこや?げえええっ!ポンペイや!とりあえず写真撮っとこうや!」「えっ?何の写真?」「あの駅の看板…だってポンペイやで!」

午後3時40分、予定より20分も早くSalerno駅に到着、オルガナイザーは未だ迎えには来ぬであろうと思っておれば、時間にルーズなイタリア人にも関わらず15分前に迎えに来てくれた御陰で、駅にて待ち呆けを食らう事なく、オルガナイザーPaoloの車にて投宿先へ直行。本来ならば昨夜演奏する筈であったのが、イタリア全日程を仕切っているMassimoの勘違いにより今夜へスライドした為、我々の投宿先なるはホステルのドミトリーに放り込まれる顛末に。何しろPaoloがMassimoより日程変更を告げられしは一昨日、即ち当初のライヴ予定日前日であったそうで、告知関係等かなり奔走し大変であった様子なれば、本来ならばホステルも個室を宛がわれる筈であったそうで、これもまあ仕方なしなれど、ドミトリーには当然他の宿泊客もいる様子なれば、斯様な場所に居っても仕方ない故、今宵のライヴ会場Pia Casaへと向かう。今宵はフェスティバル「Festival Comunicativo」の一貫にして、ハイライトは今宵のAMTと今週末に行われるZeena Parkins & Ikue Moriの様子。会場は古い教会のような建物にして、されど未だPAも組み上がっておらぬ故、東君の壊れたギターをリペアせんと、Paoloの車にて楽器屋へ向かう。さて楽器屋にてアンプに繋いでみれば、何と問題なく音も出ており、一体どないなってんねんな?楽器屋の界隈を「レコード屋あらへんかぁ?」と徘徊する私と津山さん「あれ?あふりらんぽや!」

会場へ戻りサウンドチェック、アンプ群は昨夜一昨夜と大いに異なり、随分小振りな物なれば、特にベースアンプはどうしようもない代物にして、津山さんが「弾く」と一撃でスピーカーが吹っ飛びそうであれば「あかんわ、これ…弾かれへん。」と云う訳で、もう殆ど弦に触れる程度のプレイに制約される有様。元教会の建物なれば、ホール内の残響音が物凄く、まあ小さな音でスペーシーにプレイすれば問題なかろうと云う結論。
さて晩飯は、Paoloに連れられ徒歩にて近くの大衆食堂へ、ド汚い佇まいはなかなか好感が持てる、まるで日本の汚い大衆食堂と同じノリである。恰幅の良い老夫婦と息子の3名にて営まれており、他に客もおらねば、なんとも呑気な空気感である。多分Paoloが本日のスペシャル如きを注文してくれた様子にして「30分経ったら迎えに来るから」と、彼は会場へ戻って行く。
先ずは白ワインを呷りつつ、アペタイザーとして出されしは、鰻の稚魚+鮭+鰯のマリネ、味はまさしく日本の酢の物と酷似しておれば、これはもう絶品にして、流石海傍の観光地、海鮮料理はあまりにも美味なりて、全員貪り食う。

続いてのメインは、スパゲッティー・ボンゴレなれど、これが大量にぶち込まれしアサリの出汁が恐ろしい程染み出した絶品にして、あまりの旨さに思わずお替わりを要求すれば、2皿目は最初1皿目よりも盛りが遥かに多く、全員満腹にして大満足。

イタリア料理嫌いを自負していた津山さんでさえ「イタリア料理って美味しいなあ」と知らぬ間に御満悦の表情。
会場へ戻れば、すっかり満腹にして、そろそろツアーの疲れ具合もピークなれば、Shopzoneを広げる事さえ忘れ、Paoloに「It’s your time!」と起こされるまで楽屋にて全員爆睡。
流石に残響効果を考慮して、更にどうしようもないアンプ群なればこそ、アカペラはあまりに心地良く、そしてかなりJazzyな展開等も見せれども、最後は矢張りアンプを吹っ飛ばしてもお構いなしと爆音化。津山さんがセット途中にNCCPの曲を歌えば、満場の客は大いに驚嘆狂喜。されどアンコールにて「アホの坂田」をアカペラにて披露すれども、矢張り大いに盛り上がるのであった。
(impro/Dark Star Blues/impro/La Le Lo/Pink Lady Lemonade/アンコール:La Novia(アカペラ))
終演後、私の姿が見当たらぬと云う事で、東君が初めてインタビューに答えたそうで、彼曰く「疲れた…。」矢張り南イタリアは北に比べて貧しいらしく、CDを買うにせよ値切って来るはで大変なれど、「(1枚15ユーロを)この新譜2枚で20ユーロじゃダメ?20ユーロでも大金だけど…でもどっちもどうしても買いたいから…」何とも可哀想な話なれば、結局新譜2枚+旧譜1枚の計3枚30ユーロにて商談成立すれど、今度は「ちょっと待ってて、今から友達に10ユーロ借りて来るから…」ついついもう1枚オマケで無料進呈。一方でAMT関連作品60枚以上所持していると云うマニアとも遭遇、いやはや恐るべし。
流石にツアー疲れもピークに達する頃合なれば、午前2時、漸くホステルへ戻るや、全員即寝成仏。

11月26日

午前8時半起床、朝起きるのがかなり辛くなりつつあれば、矢張り相当疲れていると思われる。腰痛と右膝痛はかなり深刻な状態なれば、あと残す処ライヴ2発のみにて、何とかやり切るのみか。津山さんは既にかなり以前から、残り日数を指折り数える有様にして、はじめちゃんは隙あらば寝ておれば、東君もすっかり疲れ気味なればかなり襤褸襤褸状態の様子なり。私はいつものツアーに比べれば、まだ肉体的には平気なれど、矢張り疲れている事には間違いなく、兎に角この腰痛と右膝痛さえなければなあと思えばこそ。ブレックファーストを取りに階下のレストランへ伺えども、パンとジュースとコーヒーのみなれば、クロワッサン1個+パイナップル・ジュース+コーヒーにて済ませる。
午前10時半、ホステルをチェックアウトし、迎えに来たPaolo達と共に、ホステル近くのカフェにて、ビールやらコーヒーやらカンパリやらを呷りつつ、次々出されるスナックをつまむ。トマトやらマッシュルームやらハムやらが乗せられたカリカリトースト、これはなかなか酒の肴としては上出来なり。横に添えられしチーズは、チーズ嫌いの私個人としては「パイナップルの味がする」気味の悪い代物なれど、地元民なるPaolo達がカンパリを呷るを真似てカンパリを呷る酒好き東君に云わせれば「カンパリとの相性が良い」そうな。

本日予定されしUdine公演は、物理的時間的に移動不可能距離なれば、やむを得ずキャンセルした故、明日のギリシャへのフライトはRoma空港からとなる為、今宵はRomaにてのんびりホテルに宿泊する算段なり。Paoloに駅まで車で送って貰い、Roma行きチケットを購入すれば、未だ発車時間まで小1時間もある故、駅付近のバーにて昼食、ウエイトレスの女性が当然イタリア語しか話せぬ故、何かよく判らぬまま適当に注文、私が注文せしはマッシュルーム・ソースのパスタなれば、別段味的には全く問題なし。

津山さんが注文せしパスタは出て来るまでかなり時間を要し、誰よりも早く一番で完食する事こそを美徳とする津山さんなれば、既に食し終えそうな私を見ては「もうあかん…今から食い始めても、もう絶対勝たれへん」と、すっかり意気消沈なれど、漸くパスタが出されるや、何と僅か30秒弱にて完食、この圧倒的パフォーマンスにて雪辱を晴らしたと云った処か。でもそんなムキにならんでも、津山さんが一番食べるの早い云うんは、わしら重々承知なんですけど…。
午後1時42分発Roma行きEurostar Italiaに乗り込まんとすれど、矢張り当然の如く25分遅れにて到着。されど他の列車を見ておれば、発車時間より早く出発する列車等もあり、きっと南イタリア人の気質とは、「イラチやけれどええ加減」まるで大阪人の如きなるか。列車の運転手も、少々遅れた場合は「何とか頑張って遅れを取り戻さな」とぶっ飛ばし、駅に停車すれども「もう誰も乗る奴おらへんな?ほなもう行くで!」と痺れを切らし早々に出発すれど、一旦大きく遅れてしまえば「もうどうでもええわ…」と投げやりになるのではあるまいか。
午後5時、Roma Termini駅に到着すれば、駅に巣食うホテルの客引きの女性に声を掛けられるや、ホテル探しも面倒臭い故、これにて商談成立、彼女の案内にてホテルへと向かえば、ホテルの所在は駅近くにして、明日の空港への移動も楽と云うもの。荷物を解き小休止、ホテルにステイ希望のはじめちゃんを残し、先ずは近くのカフェレストへと繰り出し景気良く酒を呷れば、久々のオフと云う事もあり気が緩んだか、飲むペースも調子良ければ酒の回りも良い塩梅。津山さんはパスタ+カツレツ+大盛りサラダを、東君はシェフお薦めのトマトソース添えステーキ+パスタを食しておれど、私は「No more Pasta, No more Pizza, No more Panini」症候群が発症、腹は減れども食欲湧かぬ有様なれば、ヤケクソ気分でイタリア名物レモンのリキュールをひたすら呷り続けた挙げ句、すっかり酩酊状態にして、漸くホテルへ帰り着けば即寝成仏。

11月27日

朝9時半起床。朝起きる事かなり辛し。ギリシャのオルガナイザーManosからのメールをチェックすれば、何と今宵のThessalonikiのライヴは、クラブが火事にて全焼の為、キャンセルとの事、と云う訳で2夜連続オフとなる。されど全員既に襤褸襤褸状態にして、されどこれにて残すはAthensの1公演のみとなり、数日前に冗談交じりで「Thessalonikiキャンセルになったら楽やのにな」と話していた程なればこそ、まさにこれは神の思し召しか。午前11時22分、Roma Termini駅よりRoma Fiumincino空港へ向かう列車に乗り込めば、正午には空港到着。本来昨夜はUdineのTarcentoにてライヴの筈であった為、先ずは列車にてTarcento駅よりUdine駅へ、更にVenezia Mestre駅へと乗り継ぎ、そこからVenezia空港へ向かえば、今度はVenezia空港からRoma経由にてAthens空港へフライトし、更にギリシャ国内線にてThessaloniki空港へとフライトする段取りであったが、結局RomaからAthensへのフライト1本のみとなれば、何らかの遅れによる何れかの乗り継ぎ失敗の心配も失せ、何ともお気楽な移動となりにけり。
チェックインを済ませれば、空港内ビストロにて昼食とする。食に対し保守派なる津山さんは「これ焼うどんやで」と、何やら自分自身を無理矢理納得させるが如き独り言を吐きつつ、太麺パスタ+サラダ+アイスクリームを

私はフィレステーキ+サラダ+ポテトを

東君は自称「セルフTボーン」何とステーキ2種を

はじめちゃんはリゾット+カツレツ+野菜の炒め煮を各々注文、各自大いに豪華な昼食を堪能。Alitalia航空午後1時40分発Athens行きに搭乗、機内にて爆睡、矢張り幾ら眠りても眠り足らぬ気分なり。機内食は茄子サンド+プルーンのパイにして、茄子サンドは一口頂けば到底食せる代物にあらず、つい油断するや激不味料理に遭遇するは、旅の常なり。飲み干したワインボトルと共に、丁重に撤収させて頂く。


午後4時45分、Athens空港に到着。いきなり美しき天使のお出迎えを受けし津山さんはすっかり御満悦。

オルガナイザーManosとThodorisが迎えに来てくれており、乗り合いバスを貸切りホテルへと向かえば、昨年訪れし折よりも、随分道路等が整備されており、これも全てはオリンピックの御陰か。先ずはホテルにチェックイン、30分後にManos達と共に晩飯の段取りなれば、それまで同室の津山さんとのんびりテレビ観賞、古いギリシャ映画にて「ギリシアの小林旭」を発見

更にはギリシア山岳地方の祭の実況放送なんぞ流れておれば、何とも興味深し。演奏せし親爺バンドは何とも佇まいよろしく、また演奏も程良く素人っぽさを残しておればいとをかし。
晩飯はホテルの近くのレストランへ、私と東君はManos達お薦めのライムチキンを

津山さんはグリーンカレーを

はじめちゃんはイタリア・ラウンドが終わった矢先なれどお構いなしにてフィットチーネを注文。ギリシャは食べ物に関すれば全く問題なく、歴史的背景からもトルコの影響大なれば、肉も魚介類も野菜も豊富にして大いに美味なり。ライムチキンは、所謂チキングリルにして、そこへレモングラスをベースにしたさっぱり系ソースが添えられし逸品にして、トルコでもお馴染みの茄子やら野菜のマリネも添えられる。
午後10時半よりManos達と共に、彼等行き着けのバーへと出向けば、もっと場末な雰囲気のバーを想定しておれども、辿り着きしは何ともお洒落な雰囲気にして、ギリシャにも関わらずOuzoも置いておらぬとは、何とも居心地悪けれど、やがて彼等の友人達が集って来れば、尚帰るにも帰れず。結局ジン1杯とビール2本を飲んでおれば睡魔に襲われ、そのままこの喧噪の中にてうたた寝、午前2時に漸くホテルへ戻るや、再び即寝成仏。

(2004/12/10)

其之壱其之弐其之参其之四其之五其之六其之七其之八其之九其之十其之十一
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