「第3週目/クロアチア反ベジタリアン肉食戦線」
2月13日(火)
午前5時20分、夜行列車はクロアチアのZagreb Glavni Kolodvor駅に到着。クロアチアのサイケバンドSeven That Spellsのリーダー兼ギタリストNikoが、朝早くにも関わらず出迎えてくれれば、タクシーにて市街中心にある彼の家へ。
Nikoは私とかなり同タイプの人間なれば、何しろイラチにして物事全て効率良き事こそ信条、何事も自分の手で行わねば気が済まぬ性分にして、されど完全主義者にあらず。また近年稀に見るロック馬鹿なれば、物事を推し量る物差は全て「Rockかどうか」を以てし、また作品を量産せんとする処も類似せり。
今回此処Zagrebに1週間滞在の予定なれど、それはライヴ1本と、Seven That Spellsのアルバム数枚分のレコーディングに参加、そして昨年より彼に依頼せし「History of AMT」なるDVD2枚組の最終編集作業を行う為なり。
早速Nikoからこの1週間の具体的スケジュールを伺いつつ、朝飯を頂く次第。Nikoは、こよなく肉食を愛するあまり「ベジタリアンなんて糞食らえ!こんな美味い肉を食わないなんて、あいつらは馬鹿だ!ハッハッハッハッ!」と、豪快な笑いと共にベジタリアンを一蹴する程。さて斯様な彼が用意せし朝飯とは、勿論肉食以外の何物でもなし。ハム2種類とチーズとパンのみなれば、ハム数枚をチーズと一緒にパンに挟み、豪快に食らうが彼流なり。斯くなる上は体内の血液が徹底的に酸性となろうが、郷に入れば郷に従え、況してやイタリアにてイタリア料理重量級過食国民戦線を殲滅撃沈せしめし私なれば、今や苦手のハムもチーズもパンも克服し得しか、斯様なクロアチア反ベジタリアン肉食戦線の先鋒なんぞ、余裕をもって完全粉砕殲滅するはいと易し。このハム&チーズサンドウィッチを2個まで食らう程にして、クロアチア反ベジタリアン肉食戦線の先鋒をここに完全殲滅撃沈せり。
インターネット後進国イタリアに於いてはネット接続叶わざれど、ここZagrebにて漸く接続叶い、溜まりに溜まりし雑務処理をこなせば、さて昼飯と相成れり。Nikoの彼女にして画家でもあるPetraの手料理は、ホタルイカとポテトのオーブン焼きなり。ホタルイカはワタを抜き、そのワタとマッシュポテトを合わせし物が詰められ、イカのプリっとせし心地良き食感と、ワタの風味溢れる中身の柔らかさが、何とも絶妙のハーモニーを醸し出し、ワイン片手に一度食し始めるや最早止められぬ程に美味なり。結局20個以上を食す餓鬼ぶりを披露すれば大食漢Nikoをも上回り、彼は大爆笑しておれば、ここにこのホタルイカとポテトのオーブン焼きを完全殲滅撃沈せり。
もう食えぬと満腹にて身動きさえ取れねど、食後のデザートを食わんと、Nikoは近所のカフェへ私を誘えば、ここで敵前逃亡なんぞ出来る筈なく、甘味とコーヒーを求め表へ出し。Nikoお薦めのチョコレートケーキとカプチーノを所望すれば、ケーキの程良い甘苦さ加減素晴らしく、そもそも嘗ては甘味大食いにして、ケーキバイキングにてケーキ28個を平らげ一部に於いてその名を馳せし経緯さえありし故か、矢張り甘いものは別腹とばかり、たかがチョコレートケーキ1切れなんぞ瞬殺撃沈せり。
午後からNikoは、明日からセッション録音を行うスタジオへ、セッティングを行いに出向いてしまえば、こちとら然してやるべき事もなく退屈至極、昨夜は寝心地悪き夜行列車の旅にして、イタリア出国→スロベニア入国→スロベニア出国→クロアチア入国に際し、その度に各国の国境警備員にパスポート提示なんぞ強要され、また国が変われば鉄道会社も変わる故、矢張りその度に検札にて起こされれば、睡眠不足なりし事ふと思い出し、結局ベッドにて爆睡を決め込むや、ツアー前よりの睡眠不足に始まる疲労からか、幾度か物音にて目を覚ませこそそれ、驚くなかれ翌朝まで眠り続けれり。
2月14日(水)
流石に大爆睡を決め込めば、早朝5時には目覚めれり。Nikoは昨夜遅くにスタジオより帰宅せし様子なれば、物音なんぞ立てて彼を起こさぬようにと、メールチェックやら持参せし文庫本を読む等して時間を潰さんとす。されど大いに空腹なれば、近所に巨大市場ありしを思い出し、朝の市街を散策がてら買い出しに向かいし。広大なる市場には八百屋、肉屋、魚屋、チーズ屋等が犇めき、並べられし品々眺むれば、日本にても見掛けるものもあれば珍奇なる代物もあり、大いに興味深し。海外にてスーパーマーケットや市場を訪れるは、私の旅の愉しみのひとつにして、そこに売られる商品群を見れば、その国の文化や生活等を容易に推察する事も出来、また商品価格等から経済事情やら各国々に於ける価値観等多くの事を推察し得る。例えばヨーロッパに於いて、魚は所謂最も高価な食材のひとつに数えられ、日本では大衆魚たる鯖や鮭でさえも高価なれば、我々日本人には到底信じ難き事なれど、これもまた食文化や第1次産業の種別比率の違い等に起因するものなり。また果物の種類が豊富にして安価なれど、野菜の種類は然程多くなければ、道理であれ程に果物を食らう筈にして、一方で野菜の調理方法の種類が僅かなるも頷けようものなり。
さて何を食わんとするか考えれば、矢張り辿り着きしは日本料理にして、ここまでの欧州料理戦線との熾烈なる戦闘を思えば、この辺りで一度ぐらい日本食を食らいても転向とは呼ばれぬか。斯く思えども、欧州料理戦線完全殲滅を目論みし今回は、然したる調味料等持参しておらねば、前回のツアー終了時に、Nikoの台所に捨て置きし即席味噌汁と粉末うどんスープが、多分彼にはそれらが一体何かさえ判らざれば、未だ水屋の奥に大事に保管されしを思い出し、ならば先々週にParisにて調理せしと同様、それらを活用しふろふき大根と肉じゃがを拵えんと、ジャガイモ、玉葱、牛肉、大根、米を購入せり。
出汁も醤油もなければ、そこはうどんスープにて代用、何とか肉じゃがとふろふき大根を拵え、鍋にて米を炊けば、郷愁誘う何と香しき匂いなるか。余りし肉と野菜は、今夜か明日にでも焼肉定食にせんと思うや、これまた何とも愉しみなり。さて肉じゃがとふろふき大根、お味の方はと言えば、我ながら自画自賛なるは承知の上にて大いに美味、今再び日本人に生まれし悦びに打ち震えると同時に、日本人に生まれしを大いに感謝して余りあり。肉じゃがは味が若干薄けれど、僅かな粉末うどんスープを駆使しての労作なれば、それは仕方なき処か。ふろふき大根は、即席しじみ汁を流用しての代物故、貝出汁も混ざれば何とも微妙な具合なれど、その貝出汁さえも郷愁を誘えば、是全く以て問題なし。全身の細胞が懐かしき味に悦び咽ぶ様を実感しつつ、自ら放ちしこれら大日本国粋主義美食戦線を完全粉砕撃沈せり。ごちそうさまでした。
午後5時よりスタジオに向かい、先ずは既に録音されしSeven That Spellsの音源にオーバーダブ。午後11時には全て終了し、Niko宅へと帰還すれど、既にレストラン等も閉店しておれば、最早大いに空腹にして近所のピザ屋にてピザ1切れを購入。今回のツアーに於いて忌まわしきピザには、本場イタリアにてでさえ遭遇せざれば、何故此処クロアチアにて身銭を切りてまで食わねばならぬのかと思いけれど、背に腹は代えらぬ状況故、これもまた仕方なし。以前もZagrebにて言語道断の激不味ピザに遭遇しておれば、矢張り今回も到底ピザとは思えぬ不味さなれど、斯様な激不味料理を撃破粉砕してこその欧州激不味料理戦線完全撃破殲滅宣言の意義もあらん、今や百戦錬磨歴戦の戦士と化せり私なれば、斯様なクロアチア名物激不味ピザなんぞここに完全殲滅撃沈せり。(写真48)
2月15日(木)
早朝よりNikoは再びスタジオにてセッティングしているとかで、ならば早速朝飯を拵えんとす。嘗て八丁味噌とケチャップにてビーフシチューを作りしを思い出せば、昨日の残り食材たる牛肉と玉葱を、とんかつソースとニンニクと即席味噌汁と砂糖と七味を混ぜ合わせて作成せし苦肉の焼肉だれに漬け込み、フライパンにて焼けば、素晴らしきかな見事焼肉のたれ擬きとなり、まるで焼肉屋の如き香しき香りここに再現され、鍋にて米も炊いておれば、いざ焼肉定食として頂かんとす。更に残りの大根を千切りにし、肉と一緒に頂けば、大根のシャキシャキした食感とサッパリ感も融合され、大いに美味にして、御飯も進むと云うものか。あまりに食欲をそそる匂いなれば、写真を撮る事さえ忘れ去り貪りし始末にして、写真をお見せ出来ぬは残念なれど、2日続けて大日本国粋主義美食戦線を殲滅撃沈せり。これにて五家宝連のとんかつソースと七味も尽き果て名誉の戦死、今や残されしは都こんぶのみとなれど、本日焼肉を食らいて此処に完全回復充填せし日本男児の大和魂により、残り僅かのツアー日程も、断固としてクロアチア反ベジタリアン肉食戦線を完全粉砕し、欧州激不味料理戦線完全撃破殲滅宣言を全うせん事、ここに改めて誓うものなり。
午後からスタジオに赴き、本日はSeven That Spellsとのセッション録音。Seven That SpellsはNikoのソロユニット化しておれば、ドラマーやベーシストは曲やアルバム毎によって異なるラインナップを用意しており、御陰でセッションは随分と楽しめる結果となり、またNikoも大いに喜んでくれし様子なれば、これにて2日間の録音作業は完了。
昨夜よりは早くNiko宅へ帰還し得れども、スタジオにてスナック菓子とビールを鱈腹食らいしNikoは空腹にあらねば、私独り晩飯を求め夜の街へ赴けど、Nikoお薦めのサンドウィッチ屋は長蛇の列にして、昨夜クロアチア名物激不味ピザも既に殲滅しておれば、結局American Donutなるファーストフード店にてハンバーガーでも所望せんとす。何故アメリカンにして更にドーナツなのかは存ぜぬが、所謂クロアチア産アメリカン・ファーストフード店にして、ドーナツを始め、ホットドッグやハンバーガーやフライドチキンから直径50cmはあろうかスーパーサイズのピザまでと、まさしく憧れのアメリカ此処にありと云わんばかりか。メニューは全てクロアチア語にて書かれておれば解読不能、ショウケースにずらりと並べられしハンバーガーの中身が何かと店員に尋ねれども、全く英語を解さぬ様子なれば、結局ちらりと垣間見える中身より、チキンサンドと思しき一品を注文。流石アメリカンと銘打つだけありサイズは大きく、さてお味の方はと云えば、チキンのカットレットにBBQソースとチリソースが施され、申し訳程度にレタスとトマトが挟まれており、これならば大凡イタリアのパニーノよりは数段マシにして、然して美味くはなけれども食えぬ程不味くもなければ、ここに完全撃破殲滅せり。されどハンバーガーの類いは(日本のモスバーガーを除けば)本場アメリカが最も美味にして、斯様にシンプル極まりなき代物でさえ、斯くも不味く作り得るヨーロッパ人の味覚や料理概念とは、一体如何程に低レベルなるか。更にそのヨーロッパに阿呆な程に幻想と憧憬を抱き、挙げ句は世界最高の食文化たる自ずからの伝統やらさえ四方や完全破棄せんとする日本人とは、何と愚かしさの極みたるものか。お前ら永久にピザとかハンバーガーとかパスタとか食うとけ!この非国民共が!
2月16日(金)
昨夜は近所のカジノ内バーにて飲み明かしておれば、午前10時起床、今宵はGalerija SCにてソロとSeven That Spellsとのセッションのダブルヘッダー・ライヴなり。Nikoの「録音も終わったし、今夜はライヴだから、しっかりパワー充填しないといけない!だからデカいステーキを食おう!」と、クロアチア反ベジタリアン肉食主義者らしい提案にて、例の市場へ買い出しへと赴き、巨大な骨付きステーキ肉2枚を購入。
その足でNiko曰く「エネルギー充填に欠かせない素晴らしいフレッシュジュース屋があるから、そこでパワー充電しよう!」連れて行かれしは、雑居ビル地下にある所謂フレッシュジュース屋なれど、アジア風インテリアと云い、サモサ擬きやら寿司擬きやらがスナックとして売られておれば、これぞ東洋の神秘なんぞに傾倒するアホな西洋人に依り営まれてそうな、何とも胡散臭き空気なり。されど斯様な私の心中なんぞ察する筈なきNikoなれば、先ずは彼お薦めの「スーパージュース(「スーパー」は彼の口癖)」から、ショットグラスにて出されしその代物は、一見まるで青汁の如きなれど、さて飲んでみれば非常にさっぱりした甘みにして、決して青臭き事もなくなかなか美味と、クロアチア神秘主義的幻想健康果汁戦線の先鋒を瞬殺撃沈せり。
続けて彼のお薦め第2弾、赤色革命的ジュースを頂けば、こちらは梅ジュースの如きにして、これまた美味と、クロアチア神秘主義的幻想健康果汁戦線の次鋒をも瞬殺撃沈せり。何でもNikoは、仕事明けの翌日は必ずここでこの2杯を呷り、英気を養うのだと云うが、フレッシュジュースの効能たるや斯くも即効性効果があるとは思えねども、信じる者は救われるの喩えもあれば、きっと彼には絶大なる効果があるのだろう。されど何故ここにも所謂野菜ジュースの類いは皆無なるか。ふと気付けば斯く云う私も、アメリカ・ツアーに於いて「ビタミン補給の為に」と、闇雲にV8野菜ジュースを飲み捲る様は、まるで彼と同じではなかりしか。矢張り信じる者は救われしか。
さてNiko宅へと戻れば、早速ステーキの下拵えに取り掛かりし。ヨーロッパ等では「隠し包丁」「筋切り」なんぞと云う細やかな配慮なんぞ皆無なれば、ここは日本の調理技術の真髄を見せてやらんと、ワインを呷りつつ、ヨーロッパの切れ味悪しき鈍らナイフにて、この巨大ステーキ肉の筋切りに勤しむ。鍋にて米を炊き、炊き上がりを見計らい、ステーキ肉をニンニクのスライスと共に焼き始めれば、Nikoが「お~っ!いい匂いだ!」と、ワインをもう1本開ける有様。私の個人的好みにて、焼き具合はスーパーレア、皿に盛り付けいざ頂かん。ここはクロアチア、反ベジタリアン肉食戦線の中枢なれば、当然付け合わせのサラダなんぞ必要なし、されど先程のフレッシュジュースの効能にて、血液も酸性になる事なんぞある筈なしか。筋切りの御陰か、肉は大層柔らかくジューシーにして、Nikoも私もこの巨大ステーキを、骨を奇麗に残す程まで平らげれば、これにてクロアチア反ベジタリアン肉食戦線もここに完全殲滅撃沈せり。
午後5時に会場へ赴きサウンドチェック。Nikoの演出にて、ソロライヴ用に素晴らしき照明も用意されておれば、何とも幽玄なる空間が作り出され、今回のソロツアー最終日を飾るに相応しきセットなり。200人以上の満員御礼となれば、ソロも大いに好評を博し、Seven That Spellsとのセッションも、今回録音せし新曲ばかりにて1時間半のセット、Nikoの彼女Petraから「実はNiko達『Pink Lady Lemonade』をこっそり練習してたのよ」と伺い聞きし故、最後はその「Pink Lady Lemonade」にて幕。
終演後は皆でバーへ繰り出し、Niko宅へ帰還せりは午前3時過ぎなれど、Niko曰く「腹減ったけれど、何か作ってくれない?」台所にPetraの晩飯であろうチキンソテーの残りがあれば、昼に炊きし御飯が残りしを思い出し、玉葱とニンニク、そしてチキンソテーの残りを利用し、チキンライスを拵えし。果たしてケチャップ味の米が、ヨーロッパ人の味覚に合うや否や不安なれど「これは美味い!スーパー!」と喜んでくれればこちらも安堵、偉大なる日本の洋食が、遂にヨーロッパ人をオルグせし歴史的瞬間なり。当然自らもこの日本文明開化洋食美食戦線を殲滅撃沈せり。
2月17日(土)
本日より、いよいよ「History of AMT」なるDVD2枚組の最終編集作業に取り掛からん。これは昨夏よりNikoと共に編集を開始せしプロジェクトにして、その映像マテリアルは10年分にも及ぶ故、流石に仕事の早い彼を以てしても一朝一夕とは行かず、また彼から「集められる限りの映像マテリアルが欲しい」とのリクエストもあれば、この度漸く最終編集段階へと辿り着きしものなり。彼は映像編集に関して全くの独学なれど、無類の映画好きにしてロック馬鹿なれば、その編集センスの良さは半端にあらず、また完全主義的側面からその仕事の精度は恐ろしく緻密にして且つ大胆、一緒に編集作業して思うは「天才」の一語なるか。
Niko曰く「先ず肉でも食ってパワー充填してから仕事に取り掛かろう」今回私が持参せし追加分の映像マテリアルをPCに取り込む隙に、先ずは飯を済ませてしまわんとする効率の良さは「人生の時間を無駄にせぬ」たる私の人生哲学と大いに一致する処にして、こちらもストレス皆無なり。
さて先ず赴きしは昨日同様フレッシュジュース屋にして、例のジュース2種を平らげれば、今度はメキシコ料理屋へ赴きし。成る程、彼が昨夜のチキンライスから想起せしはメキシコ料理なるか。メニューは当然クロアチア語にて書かれておれば、Nikoに注文を一任、彼曰く「デカいステーキ食おうぜ!ハッハッハッハッ!」
アペタイザーとして運ばれしは、オニオンリングとチーズを包み揚げせし代物、これらを摘みつつビールを呷る。ヨーロッパ人は基本的に激辛に弱い様子なれば、メキシコ料理さえ辛みは殆ど皆無にして、辛みを加えたき場合は、各自テーブルに置かれしタバスコにて加味するスタイルなり。タバスコに対しては条件反射にて唾液が分泌せらる私なれば、ヨーロッパのレストランにて滅多にお目に掛からぬタバスコとのこの再会は、まるで昔の恋人と再会せしが如きにして、ここぞとばかり大量消費すれば、クロアチアにて激辛好きを自称するNikoにさえ「スーパー・クレイジー!」と云わしめる程。タバスコの御陰にて食欲増進されれば、先ずはアペタイザー2品を完全粉砕撃沈せり。
続けて運ばれしはステーキとタコスのセットなり。今やチーズも撃破殲滅し得る私なれど、トッピングとなれば話は別、一方でチーズが大好物のNikoなれば、トッピングのチーズは彼に譲渡し、私は肉と野菜のみを包みて激辛仕様にて頂けり。昨秋にJNMFツアーにてメキシコを訪れし際、大いに食いに食い捲りしタコスの美味なるを思い出しつつ、一方で嘗てKinskiのアメリカツアーにゲストギタリストとして同行せし際、無類のメキシコ料理好きたるKinskiのメンバーに食い飽きるまでメキシコ料理を食わされしをも思い出しつつ、隣のテーブルに座する、Niko曰く「南米のマフィア」らしき一団の怪し気なる空気も相まりて、この料理を大いに堪能すれば、クロアチア反ベジタリアン肉食戦線メキシコ部隊もここに完全粉砕殲滅せり。
午後より日がな映像編集に明け暮れ、気付けば夜中と相成れり。近々初の個展を開催するとかで、多忙を極めるPetraお手製のピザにて遅い晩飯となれり。流石は芸術家にして料理嫌いを自負するだけあり、トマトソースが塗られし生地に、ハムが所狭しと敷き詰められ、更に大胆な輪切りの玉葱が乗せられし上に、これでもかとチーズが施されし、何とも前衛的な見栄えのピザなれば、本場イタリアから離れる事僅かの此処クロアチア、何故斯くの如く異形の姿に伝承されしか。さて1切れ頂けば、これが玉葱の辛みが程よく刺激的にして、何とも云えぬ味わい深き逸品なり。料理嫌いを自負する彼女なれど、先日のイカとポテトのオーブン焼きと云い、私にとっては大層料理上手なる女性に思えれば、このお手製ピザも完全殲滅撃沈せり。
2月18日(日)
朝一番に、隣に住むNikoのお母さんからお手製ドーナツが届けられ、これを以て朝飯とする。何とも歪な形こそしておれど、甘さ加減も程良き塩梅にして、また焼きたてと云う事もあれば柔らかく、なかなか美味なれば、これらクロアチア小ブル家庭的甘味戦線をここに完全殲滅せり。
再び追加分の映像マテリアルをPCに取り込む隙に昼飯にせんとすれば、生粋のクロアチア反ベジタリアン肉食主義者たるNikoは「じゃあステーキを食いに行こう!」と提言、私も大日本反動物愛護無慈悲主義反ベジタリアン同盟の活動家なればこそ、勿論その肉食主義的提案に賛同せり。日曜日とはカトリック教国に於いて安息日なれば、人通りも皆無にして、多くのレストランさえ休業する中、Nikoが「ここのステーキはスーパーだ!ハッハッハッハッ!」とお薦めのレストランへ赴きし。
日曜日に営業するレストランが少ない故に、店は大いに繁盛満席なれど、運良くすぐに座れれば、勿論注文せしはNikoお薦めの子牛のフィレステーキなり。
さて運ばれて来れば、かなりの分厚さのステーキにして焼き具合も素晴らしきかなスーパーレア、ナイフを入れれば血と肉汁が溢れ出、これは確かにNikoが云う処のスーパー級に美味そうなり。付け合わせは御飯と僅かばかりの人参のみ、流石はクロアチア反ベジタリアン肉食戦線、野菜なんぞは家畜の如き愚か者の食らうものなりとでも云わんばかりか。斯くなる上は、血液が酸性となろうが「しゃあからそれがなんぼのもんじゃ!」と、いよいよ肉食禅定を以て、肉食三昧の中より肉食三味が顕れ、遂には悟りの境地へ到達せんとする肉食菩提心の意気込みにて、いざ極上フィレステーキに挑めれり。これまたバターのみなるシンプルな味付けにして、肉の旨味を大いに堪能、反ベジタリアン肉食主義のメッカだけあれば、ステーキとは何ぞやを熟知したると云わずにはおれぬか、3日間に及びしクロアチア肉食主義ステーキ戦争に完全勝利宣言せんと、ここにこのNikoお薦めの子牛の極上フィレステーキを完全粉砕殲滅せり。
本日も日がな映像編集に明け暮れれば、またしても大層遅い晩飯と相成れり。クロアチア反ベジタリアン肉食主義者たるNikoが用意してくれしスピードメニューとは、ボイルドライスとハムにして、当然の如く野菜はなし。遂にクロアチア反ベジタリアン肉食戦線も、いよいよ以て最終攻撃態勢に突入せしか、ハムにオリーブオイルを垂らし胡椒にて味付け、それを御飯と一緒に食らうのであるが、これが意外にも大層美味なり。何しろ御飯との相性が素晴らしく、米を主食とする日本人の琴線に触れる何かが潜むのか、これは中毒性すらあるのではないかと疑いたくもなる程にして、箸ならぬフォークが止められぬ始末。昨年ちりめん山椒を大いに気に入りしNikoに懇願され、毎度何かを送る度に大量のちりめん山椒を送っておれば「ハムしかないから、もしよかったらちりめん山椒も食べてくれ」と、テーブルにその袋を並べてくれておれど、無類のちりめん山椒好きなる私が、何と全くそれに目もくれず手を付けず終いとは、我ながら信じられぬ有様。結局ハムの皿をお替わりするまでに至れば、ここにクロアチア反ベジタリアン肉食最終戦線も完膚なきまでに完全粉砕殲滅せり。
2月19日(月)
朝飯は昨日と同じくNikoのお母さんお手製ドーナツにて手早く済ませり。いよいよZagreb滞在最終日となれば、映像編集の方も大詰めとなれり。帰国後に行われるハヲさん加入後初となるTrad Gras och Stenarとの国内ツアーの映像と、未だ見つけられぬ2004年の第3回AMT祭に於けるあふりらんぽとの合体ライヴ映像を探索し加えれば、編集作業は終了とのメドが立つ処まで完了。
昼飯は、いよいよ今夜より個展の準備にて旅立つPetraが、その忙しき間を縫い拵えてくれしとかで、今や彼女の料理は美味なるを知る私なれば、如何なる逸品かと大いに愉しみにせり。さて食卓に運ばれしは、何と忌まわしきペンネなり。イタリアに於いて美食家Emanueleの大謀反を食らい唯一玉砕完全敗北を喫せし一件を想起せずにはおられずも、今更Petraにペンネは永遠の仇敵とも告げる訳にもいかず、斯くなる上は、今回の3週間に及ぶ欧州激不味料理戦線完全撃破殲滅戦の最後のハイライトとして、今再び完全玉砕全滅戦を覚悟の上に、目指すはペンネ完全粉砕殲滅の唯一点。眺むるのみでさえ、既にペンネ特有のあの不快極まりなきモチモチ感が口内に蘇れば「死なば諸共!」と、意を決しペンネを口へ運ぶ。全身にペンネ特有の悪寒が電気ショックの如く流れるを覚悟しておれど、何と全く何の悪寒どころか嫌悪感さえ沸いて来ぬ有様にして、玉砕さえ覚悟しておればこそ拍子抜け極まりなし。然れば何故Petraのペンネのみ問題なかりしか、考察するに、若干オーバーボイル故にマカロニの如き柔らかさにして、ペンネ特有のモチモチ感が消失しており、更に極めつけは味付けが日本では御馴染みのケチャップによる為か。そもそもケチャップ味のスパゲッティーなんぞ見受けられるは、世界広しとも私の知る限り日本のみにして、況して未だパスタなんぞと云う呼称なんぞが大衆的にあらざりし昭和40年代に、今で云う処のパスタと云えばスパゲティーとマカロニ程度しか知り及ばず、スパゲッティーと云えばケチャップ味の国産スパゲッティー料理「ナポリタン(派生形「イタリアン」も含む)」と「ミートソース」程度しか存在せぬ環境にて育っておればこそ、その猛烈に郷愁を誘う味の前に、仇敵ペンネさえもヘゲモニーを失いオルグされし結果を招く運びとなれば、此処に仇敵ペンネを完全攻略、何とPetraにお替りを要求する奇跡さえ起こる有様にして、遂に完全殲滅撃沈せり。ありがとうPetra!
さて奇跡のペンネ完全攻略を果たし興奮未だ覚めやらぬ私に、Nikoが「どうやったらあんな古臭いミックスになるのか教えてくれ」と懇願する故、半年以上にも及ぶ膨大なる映像編集作業のお礼として、彼に河端流ミックスの秘奥義を伝授すれば、彼曰く「スーパー、スーパー、スーパー!俺のサードアイが開いた!ロック!ブ~ンッ!」映像編集を独学にてあれ程のセンスを以て習得せし彼ならば、実は映像編集も音のミックスも同様にして、僅かなきっかけにて開眼しようものなり。
サードアイ開眼に歓喜するNikoが「今夜は最後の夜だから、俺のお薦めのカバブを食いに行こう!絶対にスーパーなカバブだから!」と提言、いよいよ以て対欧州料理戦線最終的完全勝利宣言を告げんとすれば、Nikoお薦めのスーパーカバブは、クロアチア反ベジタリアン肉食戦線最後の刺客として不足なし。さてそのカバブ屋とは、ヨーロッパにて其処彼処にて見受けられる何の変哲もない所謂カバブ屋なれど、確かに客足が途切れる事なく、大層な繁盛ぶりにして、されど五十路半ばの主人がたった1人にて切り盛りしておれば、宛ら味に拘る誇り高き頑固主人とでも云う風情、これは確かにひと味違わんか。先ずNikoが一番大きなカバブを注文、主人の見事なる電光石火の手捌きにて、巨大カバブがNikoに手渡されるや、彼は未だ金も払わぬうちから豪快にかぶりつき「スーパー、スーパー、スーパー!」ならばと私も同じ巨大カバブを注文、トッピングはチーズを除く全てと云えば「No cheese?」と不思議がられる始末、チーズはいらんからハラペーニョ山盛り+ホットソースと答えるや「Sure?(ええんか?)」の一言と共にニヤリと笑う主人。果たして如何な程にスーパーなるカバブかとかぶりつけば、口いっぱいに広がるは、トマトや玉葱やレタス等も挟まれておれど、兎に角肉肉肉肉肉の味なり。流石はクロアチア反ベジタリアン肉食戦線最後の刺客か、成る程絶対的肉食主義者Nikoがお薦めするも頷けよう。されどホットソースの辛味は全く以て屁なれば、「もっとホットソース入れてくれ」と主人に要求「ハッハッハッハッ!OK!」大量のホットソースをぶち込んで頂けば、その様子を眺めしNikoは「スーパー、スーパー、スーパー!ハッハッハッハッ!」と大爆笑せり。クロアチア反ベジタリアン肉食戦線最後の刺客たる、この素晴らしく肉々しき巨大スーパーカバブを、ここに完全殲滅撃沈せり。されどあまりの巨大さなれば、こちらの胃が受けしダメージも大凡伺い知れ、明日ともなれば玉砕状態なるは疑う余地なしか。さりとて肉食主義者を極めんとすれば、先ず強靭なる胃腸を持たねばならぬは必定なり。
巨大スーパーカバブにて満腹なれば、バーにてNikoと乾杯、明朝7時半出発なれば夜通し飲み明かす訳にはいかず、Niko宅へ戻りフライト用パッキングに勤しみし。するとNikoは「1曲ミックスしてみたから聴いてみてくれ!」なんちゅう奴やねん、お前は!ホンマのロック馬鹿やのう。
2月20日(火)
午前6時半起床、Niko曰く「タクシーで空港バス乗り場へ行って、そこから空港バスで空港へ」されどタクシー運転手に、空港までの運賃を訊ねれば手頃な値段故、空港へ直行。チェックイン・カウンターへと向かえば、他の乗客の姿は皆無にして、スムーズにチェックインも済ませれど、搭乗まで未だ2時間もある故、ならばクロアチア通貨をユーロに両替せんと思えども、両替屋さえ開いておらず、バーにてビールを呷りつつ喫煙を楽しむ程度しか術もなし。朝一番のビールが胃を刺激すれば、昨夜のスパーカバブにて我が胃は玉砕せしものと覚悟しておれど、この3週間に渡る熾烈なる欧州料理戦線に依り、随分と鍛え上げられしか、猛烈なる空腹感に苛まされれば、全く期待持てぬ機内食に向け順調なる調整と云えようか。
Frankfultまで2時間半の空の旅なれば、朝食として出されし機内食は、ターキーサンドウィッチなり。薄っぺらい七面鳥の肉と申し訳程度のレタスが挟まれし代物、当然の如く味付けは施されておらねども、この猛烈なる空腹を凌ぐ為には、今や斯様な事さえも気にならず、通常ならば一口齧りて即刻廃棄処分とする処なれど、この激不味サンドウィッチを速攻にて殲滅粉砕せり。
Frankfult空港にて2時間程の乗り換え待ちなれば、再び猛烈なる空腹感に苛まされ、ならばここは最後に、今回のツアーに於いて未だ一度もお世話になっておらぬマクドナルドを、帰国ついでに侵攻陥落せんと思い立ち赴きし。丁度ドイツのマクドナルドに於いては、Best PorkとBig’n’Tastyの2大メニューが対決形式にて安売りされておれば、ここはそのBest Porkとやらをテロらんと注文、されどパネル写真とは似ても似つかぬ不味そうな姿に、矢張りBig’n’TastyかBig Macにしておけばよかったと思わず後悔すれど、時既に遅し。これも今回の欧州激不味料理戦線完全撃破殲滅戦の一環と思えば、斯様なアメリカ帝国主義的超重量級養豚料理戦線ドイツ部隊なんぞに目にもの見せてやらんと、新高山登るが如きの奇襲速攻、フライドポテトに至るまで完全粉砕殲滅せり。Best Porkの名とは裏腹に、その激不味ぶり半端にあらず、斯様な代物を開発せしドイツのマクドナルド商品開発部門の輩共の味覚とは、流石は欧州激不味料理総本山のひとつに数えられる列強国ドイツにして、ゲルマン民族の誇りを失いアメリカ帝国主義的超重量級養豚料理戦線の軍門に下りしだけの事はあるか。斯くも思えばテリヤキバーガーを開発せし日本のマクドナルドは、如何に偉大なるや。そもそもテリヤキバーガーとは、前衛バーガーチェーンたるモスバーガーに依り開発されにける逸品なれば、日本のマクドナルドも所詮アメリカ帝国主義的超重量級養豚料理戦線の走狗にして、その資本力に物言わせては、他社の開発せし人気商品を盗みし売国奴の先兵に他ならぬか。
さていよいよ帰国便に搭乗すれば、これにて3週間に渡りし欧州料理戦線との死闘も終焉と相成りしかと、今回の歴戦を振り返りし。戦前の予想を遥かに上回る我が戦績に些か驚きつつも、海外ツアーに於いて長年に渡り苦しめられし激不味料理群に対し、嘗てはあまりに国粋主義的味覚を持つが故に、拒食症への危機さえ抱かされし経緯もあれど、今回は正面から対峙し完全粉砕殲滅に成功すればこそ、遂には体内に免疫も生まれしかと思う程、奇しくも敗北者としての日本食への望郷の念も抱いてはおらず、これはいよいよ以て世界味覚革命戦士として完成されしか。世界味覚革命こそ、私が世界に対して抱きし野望にして、世界救済事業ならん。
海外ツアーを重ねるが余り、食に関し極度の国粋主義者と化せりは周知の事実と思われれど、マクドナルドを始めとするアメリカ食文化の帝国主義的世界侵略に対し、またヨーロッパ諸国の調理方法や味覚に関する意識の低さと、その一方で自らの食文化に対する不毛極まりなき高慢ぶりが、私の深層心理に潜む似非右翼魂に灯を点す結果となり、斯くなる上は大東亜美食共栄圏の名の下に、現在既にヨーロッパ大航海時代に於ける植民地政策に対する逆襲とばかりに世界進出を果たせし、今や無数とも云える中華料理店を始め、アジア系移民に依る似非日本料理店の類いは勿論の事、アメリカに於いて既に侵略戦闘行動を開始せし吉野屋、台頭著しい回転寿司屋、その他アジア諸国料理店を大同団結させ、いつの日か遂にはその欧米食文化に鉄槌を下さんと思う処なり。
勿論日本料理の更なる普及啓蒙は必須にして、単なる高級料理としてのブランド維持よりも、今こそこの全世界的健康ブームに便乗し、より彼等の日常的食生活を侵食する事こそ何よりも先決たらん。大東亜美食共栄圏による世界味覚革命こそが、私の如き食に関する国粋主義者が海外にて生き得る最良の術にして、また調理方法も味覚もろくに理解し得ぬ紅毛碧眼の毛唐共さえも救済せんとする、人類史上初となる一大革命なり。
されば日本料理が如何に勝り優れしかオルグを行いつつヘゲモニーを獲得を目論まんとすればこそ、先ずは必要以上に彼等の心中に潜む反日反亜感情を刺激せぬよう、反革命的欧米料理戦線に対し一切の拒絶を行わず正面より完全撃破する事こそが、革命への第1段階と位置付けられし処なり。これは決して日和見主義的若しくは欧米至上主義的反革命行動にあらず、一見理解ある美食家と偽り彼等の同胞と思い込ませる事に端を発する謀略的オルグ、延いては洗脳活動の準備段階にして、更には反革命的欧米料理戦線の激不味ぶりを再度検証研究する意味と、そして何よりこれらを自らの身を以て完全撃破殲滅する事により、より一層革命戦士としての強靭なる揺るぎない革命精神を、己の舌と魂に刻み込まんとする革命的行動なり。
斯様にすっかり世界味覚革命戦士気分に浸っておれば、機内食が配膳されし。今や反革命的欧州料理戦線を完全粉砕殲滅せし歴戦の革命戦士気取りなれば、如何なる激不味料理が現れようが、最早我が敵にあらずとの思いにて、客室乗務員曰く既に魚料理が品切れらしけれど、些かの問題あろう筈もなし。残されし肉料理とは、茶そば+寿司+すき焼+御飯+デザート(果物)+パン+おにぎりなるラインナップにして、相も変わらぬ中途半端な味付けなればこその不味さなれど、これらを赤子の手を捻るが如く完全殲滅撃破せり。毎度お馴染み寿司や茶そばが不味いは当然、すき焼に至っては言語道断の不味さなれど、おにぎりが斯くも不味きは何故か、そもそも米が柔らか過ぎにして糊の如し、斯くなる不味き代物こそが日本食なりとの要らぬ誤解を招かぬ為にも、真の日本の味の普及啓蒙を急がねばなるまいと心するものなり。
退屈なる10時間以上に及ぶ空の旅は、これまた退屈な映画に依る催眠効果もあれば、兎に角ひたすら寝るに限ると知る。されど後ろに座りし日本人のおばはんが、隣に座り合わせしおっさんを捕まえて、搭乗以来延々と声高に話し掛けておれば、何でも何処ぞの美大卒らしく彫刻家を志し渡伊しにけれど、今ではイタリアはFirenzeにて旦那と古美術商を営むとか、結局は自分の半生の自慢話に明け暮れる故、斯様に下らぬ話を延々と聞かされ続けるおっさんにも同情こそすれど、全く以て鬱陶しい事この上なし。この手の西洋かぶれせし在欧日本人の慢心程、救いようなきものなし。また得てして斯様なおばはんに限り、果たして何を勘違いせしものか、黒髪のショートボブに黒尽くめの服装と云う、宛らパリ在住かなんぞの女性ファッションデザイナーの如き出で立ちなれば、これまた大いに滑稽なり。斯く云う自分も「宗教家ですか?」なんぞと入国に際し訊ねられる有様なれば、傍から見ればさぞ気味悪し身成であろう故、あまり誹謗中傷は出来ぬか。兎に角このおばはんの姦しき声を遮断せんと、ひたすらヘッドホンにて音楽を聴きつつ眠らんとしておれば、遂には隣のおっさんが聞き疲れしか眠りこけし故、漸くこのおばはんも話し相手を失いて口を噤みしものなり。
いよいよ日本も近付いて来れば、最後の機内食が配膳されし。もう二刻もすれば、うどんなり何なり自分の食したきものを口にし得ると思えばこそ、本来ならこの最後の機内食に手を付けるは稀なれど、今や革命戦士として目覚めし私なり、ここは当然完全殲滅を目指しこれに挑むは当然の理なり。所謂朝食の設定なれば、パン+ハム入りスクランブルエッグ擬き+ポテト+デザート(果物)と云う凡庸なるラインナップなり。一見然したる難敵にも思えぬ故、早速ハム入りスクランブルエッグ擬きを口に運べば、これぞ歴史上の偉人や要人達が謀殺暗殺されしと同じ状況を以て、さては革命戦士として覚醒せしとの愚かしき慢心に起因する油断とも云えようか、トロツキーを亡命先メキシコにて暗殺せしラモン・メルカデルの如き反革命的欧州料理戦線が放ちし最後の刺客に、見事不意を突かれし。「ブギョビバドビャヴェジャニョピョビュギャジュバビャギェバピ★□◎$%※▲∀≠‡▽�@�?●&※☆!!!!!!」あまりの驚異的不味さに思わず悶絶憤死、ハムと玉子の筈がまるで紙と接着剤の如き激烈なる異味にして、斯くも戦慄しき機内食とは、これこそ機内持込禁止にせえや!ここまで反革命的欧州料理戦線を完全撃破殲滅しておればこそ、また大東亜美食共栄圏の下に世界味覚革命を実現せんと思えばこそ、志半ばにて斯様な刺客の兇刃に倒れる訳にはいかぬ、されば今もう一度そのハム入りスクランブルエッグ擬きを口に運べば、接着剤の如き既に到底食い物にあらざる異味が口いっぱいに広がりて再び悶絶憤死、故郷日本を眼前にしながらここに無念の玉砕と散りにけり。
「ねえ、ジュピターには何時に着くの?」なんぞと客室乗務員に訊ねる事さえ叶わず終い、これにて3週間に及びし欧州料理戦線との熾烈を極めし死闘も呆気なく幕。