『人声天語』 第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之壱

10月30日(火)
新大阪午前6時5分発のぞみにて東京へ、午前9時発の成田エクスプレスにて午前10時前に成田空港着。他のメンバーと合流し無事チェックインを済ませれば、彼等は例によって空港内の回転寿司屋にて、最後の日本の味を堪能せんと云う。されど大金欠にして日本円の所持金が既に300円程の私なれば、寿司屋なんぞにて寿司を食らう余裕もあらざれば、また迂闊に寿司なんぞ食ろうて質素倹約の決意に水を差しては、これぞ滅亡へのプレリュードとなるやもしれず、ここは彼等と袂を分かつ事とす。何しろ斯くなる質素倹約の決意に対し最も危険なるは、享楽的な己れへの甘さと、自虐的自暴自棄による開き直りに他ならぬ。男が一度決意したならば、如何なる逆境に遭遇すれども、強靭なる鋼の如き意志にて、その決意を死守し遂行せねばならず、況してや自分が飽くなき享楽主義者たるを知ればこそ、斯くなる誘惑なんぞ見事払拭し、我が決意を今一度確認するものなり。どこぞの拳闘一家の哀れなる顛末とは、まさしく男の決意なんぞと無縁にして、涙ながらの謝罪に感動するド阿呆共も引っ括めての安い三文芝居なれば、負け犬の遠吠えさえ叶わぬ負け犬なんぞ、男たる価値さえもなし。

 

午後12時40分発Scandinavian航空Copenhagen行きに搭乗、タダ酒は最初のドリンクサービスと食事の際の2杯のみとのアナウンスあれば、一体いつからScandinavian航空も斯様にケチ臭くなりしかと思えども、American航空やNorthwest航空の如く国際線にても酒類は有料なる帝国主義的資本主義を臭わせる悪辣ぶりよりは遥かに良心的と思えば、些かも腹も立たぬどころか感謝して余りあるか。近頃ネット上にても況してや関西人にあらざれど何かと「ボケェ」なんぞとほざきたがる御仁多ければ、その愚かしさ半端にあらず滑稽極まりし。飽くまで「このボケが~!」とほざくは筋が通らぬ不条理に対してのみであるべきにして、短絡的個人的感情にて易々と発するべきにあらず、とは斯くなる御仁共の愚行より学びし教訓なり。

 

さてドリンクサービスのトマトジュースと赤ワインにて喉を潤せば、今や待ちに待ったりの機内食と相成りし。以前は「こんな不味いもん食えるか!」と半分以上残しておれど、今回は斯様な贅沢を垂れ得る筈もなく、また今まで殆ど手をつけざりしパンさえ3個も頂けば、これぞ未だ赤貧ツアーを重ねし頃のスローガン「兎に角食える時に食うとかなあかん」を思い出せり。寿司、焼鳥丼、ケーキと一気に平らげ、バターを添えしパン3個を赤ワインの肴に愉しむ余裕さえあれば、これにてツアー最初の食事を大いに堪能せり。

間食に出されしおにぎりも、長時間冷蔵されし故かこれ程硬くなりておれど、斯くなる些細事なんぞ今や気にもならず。Copenhagen到着直前に出されしハムとチーズのサンドウィッチ、茶そば、フルーツなる献立さえ、案の定味のないサンドウィッチには茶そばの麺つゆとわざびを添える裏技を駆使、結果些かの不平不満もなく完食せり。

Copenhagen空港に到着すればトランジットの待ち時間が2時間弱あれど、デンマークの通貨デンマーククローネを所持せぬ上、ユーロにての支払いも可とは知っておれども、ここは質素倹約の精神にて、通常ならばビールの1杯でも呷るところを忍ぶものなり。午後5時20分発Spanair航空Madrid行きに搭乗すれば、ここより欧州内フライトは飲食全て有料故、離陸するや爆睡。Madrid空港に到着するや、津山さんと兄ぃは早速売店にて水を購入しておられども、空港内トイレ横には大抵水飲み機が設置されておるを知る私なれば(通称「トイレ水」)無闇に所持金を浪費せぬを心掛けし。同じく困窮に泣く東君が水を購入せんとしておる故、「トイレ水」があるを教えれば、彼はそこに踞り徐ろに鞄からおにぎりを取り出し食らい始めんとす。何でも成田 – Copenhagen便から降りる際、ビジネスクラスにて床に転がるるを目敏く拾いしものとかで、成田空港にて寿司を食らい飽食的享楽主義者を装いし彼なれど、流石は20年来の我が赤貧同志なり。当然おにぎりを拾い食いせし後は、「トイレ水」にて喉を潤しておられし。午後9時55分発Spanair空港Valencia行きに搭乗すれば再び爆睡、空腹時は兎に角寝るに限る。 本日の最終目的地Valencia空港に午後11時着。手荷物受託所にて東君と津山さんの楽器が行方不明となれど、ツアー初日たる「Tanned Tin Festival」出演は明後日なれば、明日中に発見されれば問題なしと極めて楽観的。そもそも本来は31日に出発する筈が、チケット購入に際し私が30日と間違えてメールを配信せしが発端となり、意味も無く1日早く出発せざるを得ぬ失態を演じておれば、自分を更に殺人的スケジュールにて忙殺へと追い込みし顛末を誘えど、津山さん曰く「これこそ災い転じて福となるやな」ここは是非とも斯くありて欲しい処。フェスティバルのオルガナイザーの車にて、Valenciaよりフェスティバル会場のある街Castellonへ移動。ホテルにチェックインする際にメンバーの関心事は朝飯の有無なれど、どうやら朝飯サービスの気配なく大いに落胆。2部屋を与えられれば、私は兄ぃと同部屋に投宿。バンド内にて唯一携帯用電気コンロと鍋を持参する兄ぃなれば、早速東君がカップラーメンを食さんと、兄ぃより電気コンロを拝借しラーメンを啜れど「う~ん、ラーメン1個じゃ食った気がせんなぁ…」これよりいざ立ち向かわねばならぬ欧州質素倹約サバイバル戦線を、斯様な飽食ぶりにては到底撃破出来ぬは必定、今此処に再度質素倹約の決意を固めんと、彼のラーメンを啜る音を聞きつつ、兄ぃと共に冷蔵庫のミニバーよりビールを取り出し旅の無事を乾杯すれば、果たしてこのビール1本幾らするのか、これぞ本末転倒なりと自戒の念も込め、宛ら高価なるビールに舌鼓を打つなり。ホテル投宿の愉しみたるエロ番組さえ発見出来ず、午前1時半就寝。

 

10月31日(水)
午前4時半起床。無料無線LAN所謂「野良電波」を発見出来ず、ロビーに設置されしPCよりLANケーブルにて接続せんとすれば、矢張りWifiにて有料故、ホテルに於けるネット接続を諦めざるを得ず。兄ぃの電気コンロを拝借し湯を沸かし、唯一日本より持参せしカップ焼きそばを朝飯として頂く。常々大量の七味を打っ掛けて頂いておれば、実は初めて本来の生のままにて味わえども、何とも粉臭く斯様に不味き代物とは今に至るまで知らざりし。
午前9時にもなれば店も開くであろうと、兄ぃとホテル界隈を探索を兼ね散策。何としても1食を3ユーロ程度(約500円)にて賄いたければ、スーパーにて食材をあれこれ漁る有様。結局安価に抑えんとの結果辿り着きしは、哀しきかなホットドッグなり。何故スペインにてホットドッグを食さねばならぬかなんぞと云う愚問さえここは自問せず、さてその内訳は、ホットドッグパン6本入りが1.34ユーロ、ソーセージ5本入りが1.29ユーロ、トマトジュース1Lが1.15ユーロ、ケチャップが0.50ユーロの計4.28ユーロ(685円)也。

早速ホテルへ戻るや、兄ぃの電気コンロにてソーセージ5本を一気に茹で上げ、ホットドッグ5本を作成、ケチャップに加え、先程食せしカップ焼きそばに添えられしからしマヨネーズをマスタード代わりにリサイクルすれば、ここに取り敢えず3食分に相当するであろうホットドッグが見事完成、1食当たり1.42ユーロ(228円)と云う充分なる節約具合なり。さて先ずは1本食らえば、嗚呼、先達てのホットドッグ内ゲバ戦を思い出さずにはおられぬが、いやはや1本にて充分満腹なり。

兄ぃは、早朝に味噌煮込みうどんを食しておられれど、スーパーにて購入せしバケット擬きの如きパンとオイルサーディン缶にて2度目の朝飯としておられし。
お昼になるや東君が、行方不明となりし楽器のその後の情報未だ無しと来訪、先程のスーパー情報とホットドッグ作戦を話すや、流石はあの熾烈を極めしホットドッグ内ゲバ戦を戦い抜きし同志か「俺もドッグるぞ!」と、早速津山さん共々スーパーへ赴き、東君も私を真似てホットドッグを拵え貪りつつ、矢張り購入せしビールを呷る始末にして、その横では同じく「一番安いパンやったから」との理由でドッグパンを購入せし津山さんが、通称「素ドッグ」と呼ばれる具無しホットドッグ(即ちドッグパンのみ)を勢い良くビールにて流し込んでおられる。何やらバンド内には知らぬ間に、質素倹約さてまた所謂ケチ根性が渦巻き始めておれば、これも偏えに未だライヴが1本もない故に、ギャラを手にしておらぬ事に起因するか、さてまた1ユーロが160円強と云うユーロ高によるものかは不明なれど、何とも我々一同のケツの穴の小ささを象徴しておるや否や。そもそも成田空港にて「最初の2日間はライヴないからギャラもないので」とユーロへ両替せんとせし東君が、20ユーロに両替するに当たり3400円以上も費やせしと云う驚愕のレートの前に茫然自失、ユーロにてギャラが支払われれば、自分の頭の中に於けるレートは1ユーロ=1ユーロと円に換算せぬ故に、レートの変動と物価は無関係になりがちなれど、御陰で何を買おうにも1ユーロ=170円にて計算する故、大いに割高に感ぜられる事が発端となりしか。斯様な事態を避けんとすればこそ、私は常々100ユーロ程は円に両替せずに、次のツアーに備え置く事にしておれど、赤貧に喘ぐ東君曰く「そんな事絶対無理!次のツアーまでキープ出来る経済力ないからね!」如何に赤貧に喘ごうとも、その最終防衛ラインを堅持せんとする男の強靭なる意志こそ、次のツアーへの布石、所謂貧乏ツアーミュージシャンの為の計画的経済にあらざらんや。
テレビにてグラストンベリー・フェスティバルのドキュメンタリー番組を観賞しつつ、ここで私もホットドッグ1本を食らいし。
されど午後4時ともなればどうにも空腹となり、どうやらホットドッグ1本の腹保ちは2時間が限界の様子にして、またしても1本食らう有様なれば、これでは5本のホットドッグを3食に換算するは難しきかな。何しろやるべき事なければ無性に腹が減るとは、何とも哀しき性なるか。横で兄ぃも先程求めしパンを貪る始末。
野良電波若しくはネットカフェを求め、兄ぃと外出すれば、ホテルの近くにて大型スーパーを発見、今宵の晩飯若しくは明日の朝飯を求めんと店内へ突入せり。私のツアー必需品たる唐辛子2袋が0.98ユーロ、折角のスペインと云う事で些やかながらもその雰囲気を愉しまんとムール貝の缶詰めが0.75ユーロ、同じくスペインと云う理由のみにて購入せしチョリソ1本が0.99ユーロ、玉子12個パックが1.04ユーロ、その内玉子とチョリソは兄ぃと折半なれば、個人的合計金額は2.75ユーロ(440円)也。これにて本日の消費金額合計は7.03ユーロ(1125円)なれば、これにて明日の朝飯さえも含まれる故、1食3ユーロ以内に抑えんとの数値目標は充分に達成せり。

野良電波にてネット接続を果たしホテルへ戻れば、晩飯として残り2本のホットドッグを兄ぃと折半す。唐辛子が思いの外辛くない故、薬味代わりにポリポリとホールのまま齧りつつホットドッグを食せば、これまたなかなか良い塩梅。さて兄ぃは、電気コンロにて購入せし玉子12個を、全て茹で玉子にせんとひたすら茹で続けておられる。 気が付けば腹も膨れ爆睡、目覚めれば深夜12時にして、これにて完全に時差ぼけと相成りしか。

 

11月1日(木)
深夜に目覚めてしまえば、今更寝るも叶わず、バスダブに湯を張りのんびり入浴なんぞに耽るのみ。これを時差ぼけと云わずして何と云う。今更寝るも叶わねば、すやすや寝息を立てる兄ぃを尻目に、先の北海道ツアー辺りより溜まりに溜まりし雑務を一気にこなさんとiBookに向かうしか術もなし。茹で玉子3個を頬張りつつ、猛烈な勢いにて雑務を片付けておれば、午前4時頃に兄ぃがお目覚め「だめだぁ~時差ぼけだぁ」既に時差ぼけを無理からに修正せんなんぞとの気持ち更々失せし私なれば、ここで昨夜兄ぃが半分食せしチョリソを、アドバイスに従いボイルし頂く事にするや「真っ赤な脂が出るよぉ」との兄ぃの御言葉通り、何とも毒々しき真っ赤に染まりし茹で汁が、まるで煮えたぎるマグマか妖怪人間ベムのイントロ部を思わせれど、さてチョリソを取り出し半分に切り分け、その内の1本のまるでコンドームの如き皮を剥き、今やすっかり乾燥し、まるであの忌まわしき小学校給食にて馴染み深きカチカチのコッペパンの如くの成れの果ての姿を晒す最後の1本となりしドッグパンに挟み、唐辛子の実を数粒とケチャップを添え、「南無三!」といざ頂けば、これが意外にも大層美味にて、当然ながらチョリソは糞の如きホットドッグ用ソーセージに比べれば遥かに優れる事をここに実証せり。

雑務処理も一段落着けば既に午前8時、僅かなりとも睡魔襲来の兆しを感知せし刹那に眠るが、時差ぼけ対処の極意と知れば、空かさずベッドへ潜り込めど、さて短編の夢も2本堪能し、心地良く目覚めれば未だ午前8時半。
野良電波にてネット接続し雑務完了すれば、チョリソの残り半分と茹で玉子3個にて朝飯とし、午前10時サウンドチェックの為、フェスティバル会場Auditori I Palau De Congressos De Castelloなるバカでかいホールへ。津山さんと東君の楽器は今日中に会場へ届けてもらえるそうで、こちらも一件落着にてひと安心。東君と津山さんは楽器を借りてサウンドチェックを済ませれば、ホテルへ立ち戻り昼飯にせんと、4人揃いてスーパーへと向かえども、何やら今日は祝日なのか殆どの店が閉まっており、数軒巡りしスーパーさえも軒並み閉店。結局東君津山さん組と別れ、兄ぃと2人頑なにスーパーを求め彷徨すれば、漸く1軒の八百屋を発見、ここで米を購入し、昨日私が購入せしムール貝の缶詰を利用し、スペイン故に似非パエリヤを作らんと思い立つ。米1kgが1.60ユーロ、トマトジュース400ml2本が0.60ユーロ、米は兄ぃと折半なれば、個人的合計金額は1.40ユーロ(224円)也。
ホテルにて兄ぃの電気コンロを用い、いざ似非パエリヤを拵えん。米にムール貝1缶をぶち込み、更に兄ぃが持参する粉末昆布出汁1袋を投入、後は炊き上がりを待つのみ。その間にトマトジュースを飲まんとすれば、況やこちらのトマトジュースが濃厚たるとは云え、殆どペースト状にして到底ジュースとは思えず、そもそもジュースと思いしはそれ風の紙パックなればこそ、果たしてジュースたると云う確証皆無になれば、はてさて一体これは何ぞや。取り敢えず水で割りて飲んでみれば、僅かながらもコンソメ風味が加味されており、まるでトマトスープの如きにして大いに美味なり。もしやこれはスペインに於けるカルピスの如き代物なるや。

さていよいよ似非パエリヤが炊き上がれば、これはなかなかいい塩梅にして若干味が薄けれど、そこはケチャップにてチキンライスフレーバーへと加工するや、すっかり似非パエリヤの雰囲気こそ失われれど、兄ぃ曰く「うん、いけるよこれは!」昨夜兄ぃが拵えし茹で玉子を残しておけば、付け合わせとしてさぞや美味かりしやと後悔すれど、結局2人して鍋1杯を見事完食するや、今度は猛烈な睡魔に襲われ爆睡せり。

目覚めれば午後8時半、凡そ4時間も爆睡しておれど未だ眠い事この上なし。午後9時前にフェスティバル会場へと戻れば、津山さんのベースが空港より届けられており、東君のギターも後程届けられると云う。聞く処によれば、どうやら他の出演者の機材も多く空港にて紛失されし様子にて、Spanair航空いと戦慄し。結果的に1日前倒しの出発が幸いせしと云えようか。
楽屋には出演者用のディナーが用意されれば、先ずは様子を偵察せん。生ハムやチーズ等、その他オードブル各種が並べられれば、続いてパエリヤが運ばれし。私は未だ昼の似非パエリヤが若干腹に残る故、メインメニューたるパエリヤのみを頂かんとす。パエリヤの醍醐味はお焦げ部分なれば、鍋の縁からゴソッとこそぎて皿に盛る。残念ながら味的にはパエリアの醍醐味を堪能し得るレベルに届かぬ代物なれど、このスペイン滞在3夜目にして初のスペイン料理故、雰囲気程度は堪能し得しか。

我々はヘッドライナー故に出番は午前1時45分からなれば、ひたすら飲み続けるしか術もなし。東君のギターも無事届き、さて漸く出番と相成れば、演奏内容も上々にして、これにてツアー初日も無事終了、終演後は早々に撤収しホテルへ。明日は午前9時出発の予定なれば、パッキングも済ませ、午前4時半就寝。

 

11月2日(金)
午前5時45分起床、相変わらずの時差ぼけぶり。バスダブに湯を張りのんびり入浴、朝風呂は贅沢な気分なり。野良電波にてネット接続し、再び雑務を遂行。朝飯として、昨夜楽屋より失敬せしオレンジ3個を食せど、何故生ハム等利用してサンドウィッチなんぞ拵えて持ち帰らざりしかと、我ながら未だ質素倹約の決意の甘さを自戒せり。午前9時にホテルをチェックアウトし、徒歩にてCastellon駅へ。Madrid行きの切符を購入せんと思えば、ValenciaよりMadrid行き特急の空席が既に1等しか残っておらず、されど次の列車ではMadrid到着が午後9時を過ぎる故に、背に腹は代えられず1等席を購入。Valenciaまで3.80ユーロ、ValenciaよりMadridまでの特急1等席が69.20ユーロ、計65ユーロなれど税金が加算され1人75.50ユーロ(12080円)也。
午前9時55分発Valencia行き列車に乗車、一昨年に訪れし折は、W杯と列車爆破テロの影響にて、プラットホームへ降りる前にセキュリティーを通過せねばならねども、今回はセキュリティー通過の必要もなし。日本より持参せし愛読誌週刊アサヒ芸能をここで解禁し熟読、1時間の列車の旅にてValenciaへ到着、3時間半弱の待ち時間あれば、先ずは飯と云う事で、サンドウィッチ屋にてツナサンドと水を購入、締めて4.20ユーロ(672円)也。唐辛子を大量にぶち込めば、充分食うに値する代物となりし。

帝国主義的資本主義に毒されし東君は、ここで最早マクドへ、ビッグマックのセットにて5.40ユーロ(864円)を散財。
駅前にある闘牛場にてバザールが開催されていると聞き知れば、兄ぃと共に出動す。何故か中世の如き装いに身を包む出店者達による、アクセサリー屋やら服屋は勿論の事、ソーセージ屋、チーズ屋、オリーブ屋、キャンディー屋、その他バーやらカバブ屋やらサンドウィッチ屋やらが所狭しと軒を連ねる中、ロバ飼いがロバに子供を乗せては練り歩き、更にはベリーダンサーを擁する古楽団まで練り歩けば、更に闘牛場の表に於いては、鍛冶屋が様々な道具を昔ながらの風情にて打っており、その横では十字軍等の鉄兜や中世の甲冑やら刀剣を商う親爺までに至る、宛ら中世の街角にでも迷い込みしかとの錯覚さえ覚える。
さて駅へと戻れば、今度はセキュリティーを通過し、午後2時20分発Madrid行き特急列車に乗り込む。ビデオ観賞の為のヘッドホンサービス(使い捨てヘッドホン)に始まり、ドリンクサービス、ランチ等至れり尽くせりのサービスなれば、70ユーロの乗車券も決して高額にあらざるか。昼飯として出されしは、些か中華風なる鶏料理+アンチョビ入りサラダ+林檎のチョコレートケーキなる飛行機の機内食の如きなれど、味的には些かも問題なく、赤ワインを呷りつつ完食せり。さりとて車内禁煙なればタバコを誘発するコーヒーは避けんとする処なれど、ふと思う処ありて試しに挑みてみれば、意外にも然程喫煙を誘発せず、これも度重なる長時間禁煙フライトに起因されし精神集中による自己鍛錬の賜物か。食後酒としてanis del monoなるリキュールを呷れば、これまた美味にして大いに御機嫌なり。先程ビッグマックのセットを食らいし東君は「飯が出るなら言ってくれればいいのに…満腹でもう食えん…」何事に於いても我慢を嫌う彼の十八番「先走り」が、見事裏目に出しか。

午後6時前にMadridへ到着。オルガナイザーのEduが迎えに来ておれば、早速ライヴ会場La Boiteへと向かい、サンドチェックを早々に済ませるや、いざレストランにて晩飯なり。いよいよ久方ぶりに本場のスペイン料理を堪能し得るかと期待に胸膨らませればこそ、津山さんのリクエストのタコ料理以外は、オーダーをEduに一任するものなり。
先ずはジャガイモとハムのスープ、出汁による味の深み皆無なれば、即ちジャガイモの味そのものにして、これこそ素材の味を尊重せりと云われればそこまでなれど、ならば果たして美味か否かと問われれば、その答えは大いに微妙なり。云うなれば味噌を溶き忘れしジャガイモ汁とでも云えば想像に易いか。

続いて運ばれしは、タコとジャガイモのバターソテーの如き代物、まさしく紛う事なきクリームコロッケ、大凡子豚と思しき分厚い肉とソーセージのソテー、生ハムと云うラインナップにして、所謂自分が期待せしスペイン料理とは凡そ異なれども、これもまたスペイン料理なる事間違いなければ、況してやMadrid在住Eduによるオーダー故、これぞMadrid若しくはこのレストランの名物なるかと、大いに期待しいざ食さんとす。されどタコとジャガイモのソテーは、可もなく不可もなくたる具合にして、今までスペインにて食せし幾多の料理には到底及ばず、子豚のソテーは肉の柔らかさこそ驚くべき程なれども塩っぱ過ぎにて、ソーセージもその微妙な柔らかさと味の輪郭の希薄さが中途半端な事この上なく、クリームコロッケは、付け合わせのトマトソースとの相性がパンチ不足にして、矢張り関西人の性なるか、ここはトンカツソースなんぞの方が絶対に美味からんと思えば、結局全て及第点に及ばざりし。

ライヴ会場へ戻れば長蛇の列にしてソールドアウト、御陰でライヴは大いに盛況にて終了。終演後は早々に撤収し、投宿先たるホテルへ案内してもらえば、何と奇遇にも、2004年の欧州ツアーの際に投宿せしHotel Mediodiaにして、これは少々驚かされし。(第132回「くたばれ日本!」其之四参照)明日は、チェックインせんとする手荷物の重量制限及び機内持込み荷物のサイズさえもいと厳しきeasyjetによる格安フライトなれば、全員フライト用荷造りに勤しめり。嘗てAMT欧州ツアー後に、引き続きソロツアーを敢行せし折、RomaからGenevaへeasy jetにてフライトせし際、スーツケースの重量が28kgありし故、ギターケースに重量を稼ぐワウやらトランスやらシールド群やら詰め得る限り詰め変えれども、23kgにまでしか減量叶わず、已む無く3kg分の超過料金を支払いし経緯あり。ならば凡そ20kgを超過せしギターケースを機内に持ち込む許可をチェックインの係員より取り付ければ、今やはち切れんばかりに膨らみ変形せしそのギターケースを携えセキュリティーを通過せんとするや、斯様に巨大なる代物は機内持込みを許可出来ぬ、今一度このギターケースをチェックインせよと制され、されど先程チェックインカウンターにて許可を得しと反論すれど、機内へ持込まんとするならば追加料金を払えと云い出す始末、機内持込みの荷物に追加料金とは、チェロなんぞの場合なら承諾も出来ようが、たかがギターに何故追加料金を支払わねばならぬのか、そもそもこの係員はイタリア人故に英語が堪能にあらざれば、先程預けしスーツケースの追加料金のレシートを見せ、追加料金を既に支払いし旨を猛烈なる早口の英語にて捲し立てるや、斯くなる詭弁にて漸く納得せしか、何とか無事にセキュリティーを通過し得し下りあり。今回の秘策とは、ギターを分解しスーツケースに収め、その分の重量あろうCD箱とワウペダルをリュックサックへと移せば、これにてギターケースも無くなり、スーツケースも20kg以内に纏まると云うものにして、問題あろう筈もなし。

パッキングが無事終了するや、晩飯の折に残されしクリームコロッケ1個とポテトフライをパンに挟みて持ち帰っておれば、ここでこのコロッケサンドを食さんと思い、揚げ物にはトンカツソースと貴重なるトンカツソースを添えれども、パンが余りに硬くなり過ぎ到底食えねば、結局コロッケのみを食す羽目となりし。テレビにてエロ番組を眺めつつ、東君とケータリングより失敬せし赤ワイン1本を呷り、午前3時半就寝。

 

(2007/11/07)

Share on Facebook

Comments are closed.