『人声天語』 第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之参

11月6日(火)
午前7時起床、朝飯にクロワッサンを食す。午前7時半、タクシーにてPorto空港へ。チェックインに際し、今回利用するは激安フライトにして知られるRyanairなれど、スーツケースが無料にて預け得る15kgを7kg超過しておれば、その超過料金56ユーロ(8960円)支払わざるを得ず、されど搭乗までの時間も然して余裕なければ、これ以上の問題を起こすは得策にあらず、渋々支払いに応ず。同じ格安フライトのeasy jetと異なるは、機内持込みの荷物に関しては、Ryanairの方がかなり規制緩和されており、今までの経験上ギターケースを持ち込む事について問題あらぬを知っておれど、見渡せば途方もなくバカでかいキーボードケースの如きを持ち込まんとする輩も見受けられ、ならば重量の嵩む物をスーツケースからギターケース等に移せばよかったかと悔やまれれど、今更後の祭りなり。そもそもこのフライトは0.01ポンドと殆どタダ同然にして、果たして一体如何にして収益を上げ得るのか不思議に思えども、成る程斯様な料金体系にて若干の収益を上げしものか。今回全フライトのチケットをまとめて予約購入してくれし兄ぃの元へ、実はフライト前日に荷物の重量についての確認メールが配信されておれど、そのメールをチェックせしは後日なれば、この時点では当然知る由もなし。 
搭乗ゲート付近にて「トイレ水」を探せども見当たらず、なれどこれ以上の出費は回避せんと思えば、そもそも微量の水分摂取にて充分な体質故、喉の渇きに耐え忍ぶなんぞいと易きものなり。午前9時20分発Ryanair London Stansted行きに搭乗、爆乳姉ちゃんが前の席に座せれば、荷物を上げ下ろしする度に眼前に迫り来るその香しき爆乳を、超過料金相当分は充分堪能し得しか。機内にて、片道14.50ポンド(3190円)なるStansted空港 – Liverpool Street間のStansted Express往復切符をディスカウント価格20ポンド(4400円)にて購入。 
午後11時50分、London Stansted空港に到着、入国審査も問題なく済ませば、各自両替せんとすれど、私は常々幾らかの外貨各種を残しておれば、明日のギャラが入るまで、手持ちの15ポンド(3300円)にて凌ぐ心積もりなり。午後12時半のStansted Expressに乗車、午後1時15分にLiverpool Street駅に到着。今夜の投宿先の家人Sarが迎えに来てくれておれば、ここよりバス47系統にて彼女の内へ向かう。バス賃が2ポンド(440円)、1dayチケットが3.5ポンド(770円)なれば、迂闊に往復各々にバス賃を払えば1dayチケットより高額になると云う恐るべき料金体系なり。諸物価全てが倍にして、例えば日本ではバス賃が200円、ロンドンでは2ポンドと云う具合に、字面上は一見同じなれど、我々のギャラに関してはその法則は全く当てはまらず事実上半額に近ければ、物価が事実上倍と云う具合。バス停から彼女の家まで徒歩5分と云われておれど、バス停より随分と歩かされ、矢張り西洋人が云う処の時間やら距離やらは、常にその倍以上と覚悟しておらねば、痛い目に遭うは必定。辿り着きし彼女の家とは、元小学校たる建物にして校庭も残されており、東京よりも家賃の高きこのLondonにて、何と僅か6人で41部屋(と云っても教室なれば広大)をシェアすると云う驚異的な贅沢ぶりなり。 
全員猛烈に空腹なれば、早速近所にあると云うイギリス最大手スーパーTescoへ。すぐ近くと聞いておれど、案の定Southwark Parkなる巨大公園を通り抜けねばならず、またしても延々と歩かされる羽目ともなれば、猛烈なる空腹のせいもあり全員不満たらたら、されどSarは、ひたすら公園の自慢話やら「やっぱり自然って素晴らしい」的な話に明け暮れ、我々の心情なんぞ知る由もなし。それにしても何故に西洋人は斯様に公園好きなるか。そもそも森や林を全て伐採し牧草地にせしはお前らの所業に他ならぬ。巨大ショッピングモール然とせしTescoの広大さに唖然としながらも、全員所持するポンド僅かにして、兎に角安価にて最低限明日のライヴまでの食糧を確保せねばならず、またイギリス&アイルランド・ラウンドは大型バンにて移動なれば、道中の外食による出費を抑えんと、道すがら食す食糧さえ買い込まんとの意気込みにして、私は兎に角1ポンド以下の食材に狙いを定めれば、いざ買い物かごを抱え「がっちり買いましょう」ならぬ「ケッチり買いましょう」いよいよ開戦の火蓋が切られし。さてその戦果とは、玉子6個入りパックが0.73ポンド、Tesco製カップ麺カレーヌードル4個が0.98ポンド(1個0.24ポンド)、V8野菜ジュース1L紙パック2本が2ポンド(1本1.48ポンドなれど2本ならば2ポンドと割引)、Tesco製スパゲッティー500g入り2袋で0.82ポンド(1袋0.41ポンド)、Tesco製即席カレーラーメン20袋入り1箱が1.6ポンド(何と1袋0.08ポンド!)、大凡カレーラーメンもカレーヌードルもその味に全く期待しかねれば、味調整用にとチャナマサラ100gが0.59ポンド、締めて6.70ポンド(1474円)也。これとスペインに於いて購入せし缶詰群にて、本日より2週間に渡るイギリス&アイルランド・ラウンドをほぼ乗り切らんと思えば、素晴らしき戦果と云えようか。

Sarの家へと戻れば、各自早速調理に取り掛かる。何につけても猛烈にイラチの津山さんは、即席ラーメン2玉に粗暴に野菜をぶち込めば、私が調理に取り掛からんとする前に、既に一瞬で豪快に完食。赤貧同志の東君は、唐辛子とニンニクのみにてシンプルにスパゲッティー・ペペロンチーノ。兄ぃは,常に持参する高野豆腐をラーメンにぶち込みし。

私は、スペインにて購入せし各種缶詰より先ずイカ墨入りイカ缶を選び、唐辛子と東君からお裾分け頂きしニンニク1かけにて、スパゲッティー・セピア(イカ墨スパ)ならぬイカ墨風味スパを拵えんとす。ニンニクと唐辛子と輪切りにせしイカを、イカ墨入りイカ缶のオイルにて炒めれば、イカ内部に詰まりしイカ墨が良い塩梅にてオイルに溶け出し、そこへ手早くスパゲッティーを入れ混ぜ合わせれば出来上がりなり。さて気になる味の方は、例え缶詰であれイカ墨が含まれておれば不味くなる筈もなく、斯様な食材にて拵えし割にはなかなか美味なり。さてこのイカ墨風味スパの材料費たるは、イカ墨入りイカ缶詰1.16ユーロ(186円)+スパゲッティー4分の1袋0.10ポンド(22円)相当=合計208円也。

建物内にて無線LANが使用出来るとあらば、早速諸事雑務をこなさんとす。結局徹夜と相成れば、凡そ十数年ぶりか心霊体験にて戦慄せし。

 

11月7日(水)
朝飯は手っ取り早く済ませんと、Tesco製即席カレーラーメンを頂かん。少々贅沢に玉子も入れ、先ずは如何なる味かと普通に調理すれば、う~む…決して不味くはなけれど、案の定味が薄めにして決して美味いものにあらず。ここで唐辛子と斯様な事態を考慮して購入せしチャナマサラをぶち込めば、成る程想像通りインド風味カレーラーメンの完成なれど、所詮付け焼き刃的処置によるインド「風味」でしかなければ、決して本場インドカレー的な豊穣なる味わいは皆無にして、飽くまでも食し得ると云う程度の代物なり。そもそも海外の即席麺と日本の即席麺との相違点とは、製麺技術の差も大きけれど、所詮即席麺と云えどもスープに出汁の味がするかどうかであろう。日本人の料理とは、即ち出汁の文化と言い切れる程、和食洋食問わず調理に際し出汁を取らんとすれば、それ故に料理が何たるかなんぞ知る知恵さえ持たぬ欧米人のそれとは、大いに異なるも当然なり。特に阿呆な欧米ベジタリアン共に至れば、スープにせよ煮込み料理にせよ、野菜のみしか使用せぬにも関わらず、海草類を食す習慣皆無故、勿論昆布出汁なんぞ知る由もなければ取る筈もなく、況してや魚介類や肉類からの濃厚な出汁なんぞその美味さを知らずして許される筈もなく、ならばその料理たるや美味かろう筈なきは当然にして、味の奥行きなんぞあろう筈なし。たかが即席麺であれ美味さを追究せんとし、その為の手間さえも惜しまんとする日本人の食への拘りなんぞ、取り敢えず「切るだけ」「煮るだけ」「焼くだけ」程度しか調理感覚を持たぬ欧米人には到底理解され得る筈もなく、そもそも「カップ麺や即席麺は不味いもの」と云う諦念を甘んじて納得せし上で食しているとしか思えぬ。日本の如く各メーカーが競いて次々新製品を繰り出さんとする状況なんぞ、彼等にすればまさしく狂気の沙汰ならん。さてそのインド風味カレーラーメン、さっさと麺を食し終れば、兄ぃよりお裾分け頂きし御飯を残り汁にぶち込みて、嗚呼、懐かしや、これぞ学生時代やフリーター時代に常食とせしスタイルにして、このインド風味カレー雑炊を以て大いに腹も膨れれば、これにて充分満足なり。

流石に徹夜しておれば、午前中迄に片付けし仕事量も半端ならず、御陰でひと通り目処が付きし辺りでさえ未だ午前10時なり。されば心の余裕も生まれ、ここは自分への褒美として少々美味いもんでも食わんと、今度はムール貝の缶詰を用い、海鮮スパゲッティーを拵えんとす。ムール貝の缶詰のオイルをそのまま利用し、ムール貝と唐辛子をフライパンで軽く炒め、そこへ茹で上がりしスパゲッティーを入れ、軽く混ぜ合わせれば出来上がり。若干生臭き気がせぬでもなけれども、次回はトマト系の味にて纏めれば問題なかろうと思えば、そもそも斯様な食材にて拵えし割にはなかなか美味なり。さてこのムール貝スパの材料費たるは、ムール貝缶詰0.62ユーロ(99円)+スパゲッティー4分の1袋0.10ポンド(22円)相当=合計121円也。

先日のライヴでキックペダルが壊れし兄ぃは楽器屋へ赴かんとすれば、兄ぃと津山さんが、その世界ではWire誌等のライターや翻訳家として知られるAlan Cummings氏宅へ、予め日本より発送せし物販商品を引き取りに伺えど、ケイコ夫人よりちらし寿司と肉じゃがを差し入れて頂きて、これには一同大いに感激、「う~む、うまい、いかんともしがいこのうまさ!」なんぞと藤岡弘、風に感動しつつも、餓鬼の如く一気に貪りし。久々の日本の味を満喫すれば、思わず郷愁の念も誘われかねず、されど自虐的自暴自棄による開き直りにて、ここで日本レストランへ繰り出し豪遊せんとの享楽的消費主義者に堕落しては、果たして何の為の男の決意か。ここは懐かしき日本料理の味を確と噛み締めつつ、再び冥府魔道の質素倹約道へと立ち戻らねばならぬなり。

旧校庭にバスケットコートやサッカーコートを見つけるや、大はしゃぎにてホタえまくる津山さん「あ~しんど…独りでやってもなぁ~んもおもんないわ…」その汗だくの顔を見ればまるで少年の如し、何を仰る、充分楽しまれた御様子なり。 
午後5時、常々イギリス・ツアーにてツアードライバーを依頼せしBenが到着。今回は彼が他のツアーに出向く故、彼の友人が我々のツアードライバーを務める事になっておれど、今宵地元たるLondonなれば、今夜に限り彼がドライバーを務めるものなり。ライヴ会場The Old Blue Lastに到着すれば、これこそ大型バンにて機材共々ツアーする「どさ回りツアーバンド」の醍醐味か、重量級機材各種を階段にて2階の会場まで搬入、ツアーバンドとはまさしく肉体労働に他ならず、ツアーに必要なものとは、重量級機材を運搬するに見合う強靭な肉体と、如何なる苦難にも挫けぬ精神力なり。 
手早くサウンドチェックを済ませ、テレビとラジオのインタビュー2本こなせば、ケータリングのピザはすっかり冷え切り大いに不味けれど、この際背に腹は代えられぬと、そのまるで水に濡れし段ボールを食うかの如き食感に苦悶しつつも大凡を食せし。Riot SeasonのAndyやら昨年までLondonの定宿として世話になりしGlynさん等と再会し歓談。そのRiot Seasonからリリースせし新譜「Acid Motherly Love」と、今回のツアーの為に製作せしツアーTシャツを受け取れば、漸く常々見慣れしShopzoneの風景となり、社長津山さんの陣頭指揮の下、兄ぃと東君もフル稼働にて開店準備に追われる様子。今宵は既に1週間以上前にソールドアウトとなっておれど、それを知らずに多くの客が押し寄せる始末。 
さて今夜は�ゲストとしてダモさんを迎えておれば、これも偶然ダモさんからの今夜Londonにてオフと云うメールから、それならばと是非と云う訳で共演の運びとなりし。Benよりレンタルせし巨大アンプ群なれば、今宵はステージが狭き故、ステージ上は壮絶なる爆音渦巻く状態にして、終演後、東君は一時的に聴覚を失い、兄ぃに至りては殆ど爆音に依る脳震盪の如き症状にて、聴覚のみならず視覚さえ錯覚を誘う始末。この巨大アンプ群を再び階段にて階下へ下ろし、バンに積み込めば、流石に少々腰やらにダメージを食らいしか。 
Sar宅へ戻れば、同居する家人の暖かな出迎えあり、わざわざリラックスルームなるを演出して下さりし上、ホワイトラムとアイリッシュウイスキーのホットカクテルを頂き歓談、されど流石に徹夜明け且つライヴ明けなれば、早々に失礼せんと、午前3時に就寝。

 

 

11月8日(木)
午前7時半起床。兎に角AMTの朝は早し。私も大概「遅寝早起き」なれど、年配たる津山さんと兄ぃは所謂早寝早起きにして、さてキッチンへ向かえば、2人は既に米を炊いて朝飯の支度中なり。 
昨日各種食糧を購入しておれば、さて何を食さんかと迷いては、されど迷う程とは何と贅沢な話かと、往年の大赤貧ツアーを敢行せし頃をふと想起せし。当時はギャラも安ければ、まさしく食う事に対し猛烈なる執着ありて、それも危機的飢餓を幾度も潜り抜け学びし「食える時に食わずんば飢え死にするやもしれぬ」との一節に起因せしか。全く食えぬ日が続きし事もあれば、Cottonが唯一持参せしレトルトお粥1食分を5人で分かち合い飢えを凌ぎし事もあり、漸く食事にありつけば全員餓鬼の如く貪り食い大笑いされし事もあり、御陰でケータリング等も常々余れば持ち帰る習慣となり、当然の如く「不味い」なんぞと好き嫌いを述べ得る筈もなければ、昨今のツアーに於ける日本料理店にての豪遊なんぞ夢のまた夢なりけり。今回の質素倹約に因りて、今再び初心に帰らんとすれば、矢張り人間の驕りこそ愚行この上なしと知る。 
さて本日の朝飯は、茹で玉子3個を用いてのスパゲッティー・カルボナーラ擬きと決まれば、フライパンにて茹で玉子を潰し、唐辛子にて風味を付けしオリーブオイルと合わせ、茹で上がりしスパゲッティーをぶち込み、そこへキッチンにて見つけし醤油を垂らし軽く混ぜ合わせれば、これにて完成。矢張り醤油は偉大にして、玉子との相性も素晴らしければ、斯様な食材のみにしては大いに美味なり。さてこのスパゲッティー・カルボナーラ擬きの材料費たるは、玉子3個0.37ポンド(80円)相当+スパゲッティー4分の1袋0.10ポンド(22円)相当=合計102円也。

昨日納入されし新譜「Acid Motherly Love」の日本への持参分25枚を解体し再梱包、これは今年のAcid Mothers Temple祭にて販売される。 
何も為すべき事なければ、無性に腹が減るは何故か、成る程斯様に惰眠を貪ればこそ肥満にもならん、肥満こそ自己管理に対する厳しさの欠落の証明に他ならぬと知れど、哀しいかな、ついつい享楽的且つ衝動的に貪り食うは貧乏人の性なるか。と云う訳で、昼前にして昼飯を食らわんと、今度は再び即席カレーラーメンに手を伸ばせり。前回はこのカレーラーメンにチャナマサラを足す事に依り、インド風味カレーラーメンとして食せども、矢張りカレーラーメンの醍醐味とは、幼き頃より馴染み深き日清カレーラーメンの味なればこそ、ここは日本のカレーライスの味より考察、そもそも日本のカレーとは、先ず以て実は出汁と醤油が隠し味として使われておればこそ、ならば醤油を若干差してみんとす。果たしてこの「カレー醤油ラーメン」試みてみるや、嗚呼、懐かしきかな、幼き頃の記憶を呼び覚ます日清カレーラーメンの味をほぼ見事に再現し得れば、更に茹で玉子もぶち込みて、これ大いに美味なり。

一方、無類の麺好き麺党たる東君は、付属の粉末スープを使わず、バターと塩のみにて味付ければ、此処に奥義「バター塩ラーメン」を編み出せり。

正午、Benと今回のツアードライバーDaleが現れ、Benとはイギリス&アイルランド・ラウンド最終日たる18日のLondon公演にての再会を誓い、一路Bristolへ向け出発。Daleは全身黒尽くめのダークスーツに身を包み、ツアードライバーと云うよりも悪辣敏腕ツアーマネージャー然としておれば、これまた如何な輩なるか未だ不明。勿論ツアードライバーを生業の一部としておれば、殆どのクラブの場所も知っておるとはBenと同様なれど、Benと異なる点は自前のカーナビを装着し、更に万全を期さんとする処か。南部出身にして陽気なBenとは好対照な北部出身のクールな輩なるか。ところで東君は、高層ビル建造等に際し使用されるタワークレーンを見るや、片っ端から写真を撮っておれば、どうやら今回タワークレーンにテーマを絞り写真撮影しているとの事。Portに於いて、ホテル付近に立ち並びしタワークレーンを撮影せし折に、初めてタワークレーンの魅力にハマりし様子にして、移動中の車内に於いても、タワークレーンを発見するや、車内を右に左に前方にと目紛しく移動しカメラを構えれど、何せ移動中なれば早々納得行くショットが撮影出来しとは思えども、兎に角今やタワークレーンを狙う彼の瞳には、まるで少年の如き輝きさえ伺え、れば、まあ誰かに迷惑を掛ける訳でもなし、金を掛ける訳でもなければ、タワークレーン好きとなりし彼を温かく見守るのみか。

さて3時間半のドライヴにて今宵の会場Theklaに到着。Theklaは港に停泊する船にして、船底にクラブスペース、キャビンとデッキはレストラン&バーとして営業しておれば、これも海外にては時折見掛けるスタイルなり。 
サウンドチェックを済ませれば、キャビンのレストランにて晩飯と相成れり。私と東君はハンバーガーを注文すれど、些かその姿は我々の知るハンバーガーと異なりて、パンも所謂ハンバーガーパンにあらざれば、挟まれしハンバーグは繋ぎなしのまるで「お袋の味」的逸品にして、大いに美味なり。僅かながらクミンが隠し味に使われし辺りも、なかなか心憎き限りなり。

物販の売り上げも好調なれば、社長津山さんも御機嫌にして、御陰でライヴも盛況にて終了。午前12時、ホテルにチェックイン、今宵は津山さんと同室。何やらインドのテレビドラマを観ておれば、猛烈なる空腹感に襲われ、ここに夜食厳禁の禁を破り、Tesco製カレーヌドルを試してみんとす。同じくTesco製の即席カレーラーメンが然程の不味さにあらざれば、凡そこのカップラーメンも然して不味からんと不覚にも油断せしか、その微妙なる不味さに轟沈寸前、何でカレーが酸っぱいねん?更に製麺技術も酷ければ、粉っぽい事この上なく、されど幾ら待てどもふやける事もなく、これは限りなく麺にあらじ、一体如何な味覚を以てして、これが製品として販売される運びとなりしか、私の味覚を以てしては想像だに出来ぬ。されど所謂食し得ぬ程の激不味さにあらざれば、兎に角不味さに憤慨すると云うよりも思わず笑うしかないと云えば、その不味さ若干なりとも理解して頂けるか。されど空腹もあればよもやの完食、されど後味の気持ち悪さから、思わず部屋に用意されしお茶菓子のクッキーを齧り何とか中和を図らんとす。

 

湯船に浸かればその心地良さから思わずうたた寝、午前2時就寝。

 

 

11月9日(金)
午前7時起床。所謂B&B (Bed & Breakfast) なれば、朝飯は食堂にてビュッフェスタイルのイングリッシュ・ブレックファーストなり。イギリスは、所謂イングリッシュ・ブレックファーストと呼ばれる代表的な朝飯のスタイルにて、朝からガッツリ食らう習慣がある故、同じく朝からガッツリ食らう日本人の我々としては、この点に於いて大いに救われる。地中海沿岸なんぞ、昼も夜もあれ程ガッツリ食らうにも関わらず、朝飯はコーヒーとビスケット若しくはパンなんぞが典型的朝飯なれば、朝からガッツリ食らいたい私なんぞ、昼飯まで猛烈なる空腹に苛まされるか、掟破りのモーニング・スパゲッティーなんぞ拵え始め戦慄されるかが常なるか。さてそのイングリッシュ・ブレックファーストのビュッフェなるが、大いに豪華絢爛、ここは典型的イングリッシュ・ブレックファーストを愉しまんと、これが無くてはイングリッシュ・ブレックファーストは始まらぬと云われるベイクド・ビーンズ、ソーセージ、焼きトマト、焼きマッシュルーム、目玉焼き、スクランブルエッグ、ハッシュド・ポテト、厚切りベーコン、トースト、ラズベリージャム、蜂蜜、トマトジュース、コーヒーを頂きし。

これを以て注目せねばならぬ点は、欧米の食卓にて必ずや登場する筈の生野菜が欠落せし事なり。勿論イングリッシュ・ブレックファースト以外のもの(例えばサンドウィッチ類やステーキ等)をオーダーすれば、大抵サラダが添えられしものなれど、このイングリッシュ・ブレックファーストに於いて生野菜を拝みし事一度もなし。果たしてこれは何故か、大いに興味深き事なり。イングリッシュ・ブレックファーストに限らず、イギリスの料理には殆ど味が付けられておらねば、実はそれこそ料理人が客に味付けを委ねると云う料理人にあるまじき行為なれど、誰もそれに対し不満を持っておらぬどころか、疑問さえ抱いておらぬ様子にして、各自塩やら胡椒やらビネガーやらを手に思い思い味付けしておられる。初めてイギリスを訪れし当初、何につけても味が余りに薄い、否、味が無ければ、これは恐ろしく繊細なる味覚を持ち合わせておる故の所業かと思えば、実は単に味付けが施されておらぬのみと云う阿呆みたいな顛末にして、よくよく眺めておれば、薄味の私からすれば想像を絶する夥しき量の塩を打っ掛けておられ、これでは塩分過剰摂取と云われる日本人をも凌がんと、思わず見ず知らずの他人の健康の心配までしてしまう始末なり。何はともあれこのイングリッシュ・ブレックファースト、決して食し得ぬ程不味き代物一切なければ、逆に変に味付けされておらぬ事こそが救いやもしれず、心行くまで腹一杯食らえば、それにて充分有り難き幸せなり。道中の弁当にせんと、クロワッサンにソーセージとマッシュルームを挟みしサンドウィッチ2個を拵えしは勿論の事。
腹一杯なれば腹ごなしも兼ね、ホテルの眼前に見えるThe Clifton Suspension Bridgeなる巨大吊り橋を散策、丁度朝日が最大に輝く瞬間に望みし橋からの絶景には、思わず言葉を失いし。
正午、ホテルをチェックアウト、一路Birminghamへ向け出発。午後3時、Birminghamに到着、Riot SeasonのAndyとの約束もありSwordfish Recordsへ。津山さんは到着するなり店内へ突入、されど直後に引き返して来られれば「中古コーナーは土曜日のみオープンやねんて…開けとけやボケがぁ~!」私は久々の再会となる店長Mikeと、Swordfishからリリースする「History Of Acid Mothers Temple」2枚組DVDについての最終打ち合わせ。津山さん達は、店員に中古コーナーを開けて貰えし様子にて、奥の中古レコードコーナーへ。質素倹約を旨とする私は、今回のツアーに於いてレコードを買う気は更々無く、されどもし一旦レコードを見始めれば見境無くなるであろう事必至なれば、ここは滅私の極地へ到達せんと、レコードにほぼ触る事もなく全くの無関心を装いて、兎に角無欲たらんとせし。さすればMikeよりSwordfishからリリースされし近作3枚(Yahowa 13のLP2種とC.A.QuintetのLP)と、更にこれが多分最後となるであろう僅か一夜限りの再結成ライヴの話題が盛り上がるLed Zeppelinが表紙を飾るMojo Magazineを、無料にて頂ける運びとなり、これぞ御伽話なんぞにて馴染み深き無欲が誘いし福と云うものか。人間ガツガツと意地汚く貪り欲せば、自ずから利己的にもなり、些かなりとも愚かしき独占欲やら虚栄心やらも芽生えれば、結果的には不毛なる脅しやら権力を振翳す事にて、他者に対し自己防衛に終始せざるを得ず、挙げ句は慢心に満ちし豚と化すと云って全く差し支えなかろう。果たして質素倹約から学ぶ事多かりしか。されどそもそもレコードを買うに先んじ、これ以上のレコードによる住居空間への侵食を最小限に食い止めねばならず、されば質素倹約を掲げ御大層にも滅私なんぞと宣いつつも、実は先ずレコード棚を新調せざねばならぬを重々承知するに由縁するのみなるか。
さてRiot SeasonのAndyもやって来れば、いざ隣のパブへと繰り出さん。ギネス・レッドなる新製品を目敏く見付けしDaleに倣い、私もそのギネス・レッドを頂かんとすれば、ここはレーベル・オーナーたるAndyに1杯驕って貰わんと強請れども、ケチで知られる彼が早々承諾する筈もなく、結局Daleが「皆に1杯ずつ驕るよ、これは俺の悦びだから!」と驕ってくれる顛末となれば、これは大いに申し訳なく、そもそもバンドがツアードライバーに驕って貰うとは情けなき限りなり。ギネス・レッドは至ってスムースにして飲み口軽やか、なかなか美味なり。
午後5時、今宵の会場Hare & Houndsへ向かう車中にて、朝拵えしクロワッサンサンド2個を食す。クロワッサンとソーセージの組み合わせなれば、ミスドのソーセージロールと同じにして、冷めておろうが至って美味なり。

サウンドチェックを済ませば、晩飯はクラブの女性スタッフが手料理を振る舞ってくれるとか、さて何を調理しているのかと様子を伺えば、こちらでよく見受けられるベジタリアン煮込み料理の類いにして、いきなり食欲も失せれば、AndyやDaleと階下のバーにてビールを呷り歓談。今宵のライヴもソールドアウト、終盤に東君のシンセが壊れしを除けば、盛況にて終了。終演後は機材を早々に撤収し、私は会場階下のバーにて久々に会う知人達とビールを呷り、彼等の車にて今宵投宿するホテルへ。今回のツアーに於いて終演後に酒を飲みしは、Lisbonにての狂乱のディスコナイト以来なれば、御陰で体調も頗る快調、矢張り連日連夜の深酒は、ツアー後半にてボディーブローの如くジワジワと効いて来る故、斯くなる週1程度のペースをキープし得れば、勿論問題あろう筈なしなれど、果たしてキープし得るか否かこそが問題なり。午前3時半就寝。

 

 

(2007/ 11/13)

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