『人声天語』 第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之七

11月20日(火)
午前3時半起床、結局殆ど眠れず終い。午前4時15分にモーニングコールが鳴るも空しく響くのみ、出発時間たる午前4時半に運転手が部屋まで訪ねて来てくれる親切ぶりにして、チェックアウトし同乗の客1人と共に一路Stansted空港へ。さていよいよチェックインなれば、ここが運命の分かれ道。チェックインカウンターに辿り着くや、受託手荷物たる津山さんのベースケースが16.7kgにして1.7kg重量超過しておれど、楽器且つOversize Baggageと云う事で「Oversize Baggageのチェックインカウンターにて荷物を預けて下さい」との一言、何故か超過料金の請求もなければ、これにてチェックイン終了にして、こちとら昨日の一件もあり気合い入れ捲りで臨みておれば、大いに拍子抜け、どういう事やねん?されど未だ予断は許さぬ筈、昨日の一件の元凶たるセキュリティーコントロールを無事通過せねばならぬ。セキュリティーコントロールへと向かえば、所謂通常の空港の風景と異ならぬ、全く以て平穏な空気にして、昨日あれ程揉め捲り紛糾せしセキュティー入口も、何の御咎めどころか些かの問題もなく通過、至ってスムーズにセキュリティーコントロールへと辿り着き、速やかに金属探知器ゲートも通過し得れば、早々に搭乗ゲートへと辿り着きし。周囲を見渡せば、昨夜の一件の発端となりし機内持込みの荷物の数さえ、鞄2個を携える輩も通過せし有様。ほなら何で昨日はあんなに鬱陶しい事になっとってん!これやったら貧乏くじ引いて金と時間をドブに捨てたんと同じやんけ!昨日のババアとクソ青二才こそが諸悪の元凶か。本日も超過料金を払わねばならぬと思えばこそ、ポンドを多めに両替しておれば、ホンマ大損やんけ!まあ払わんで済むに越した事ないけどやなぁ…。しかしStansted空港のセキュリティーとRyanairは、一体どんな社員教育しとんじゃ!ボケがぁ!テロリストとちゃうかっても思わず空港爆破の衝動に駆られるわ! 
超過料金を払わねばならぬと思えばこそ、再びあの長蛇の列に並ぶ事を考慮し、早々にチェックインへと向かいし故、搭乗まで時間を持て余せば、オレンジジュースを99ポンド(218円)にて購入、高額なるジュースにて喉を潤し搭乗時刻となるを待つのみ。午前6時35分発RyanairのStockholm Vastera行きに搭乗、機内にて爆睡せんと思えども、雲上より眺むる日の出の美しさに心奪われ、殆ど眠れぬまま、午前9時45分Stockholm Vasteras空港に到着。 
Jakobが迎えに来るとの知らせを受けておれど、なかなか現れず、同じフライトの乗客は全て既に空港を後にしておれば、閑古鳥の鳴くこの小さな空港の到着待合室には、既に私以外誰もおらず、遂には省エネ対策か暖房さえも切られる有様。カフェにてコーヒーでもと思えども、スウェーデンの通貨スウェーデンクローネ(SKR)を所持せぬ故、それも叶わず。嘗てSeattle Tacoma空港にて13時間も待たされし経験のある私なれば、いずれ迎えに来てくれようとのんびり構え、iBookなんぞ開いてみれば、得てして斯様なタイミングにてJakobが到着、顔を見るなり渋滞にて遅れしと詫びる彼と再会の抱擁、空港から2時間のドライヴにて彼の家へ。車中にて昨日の経緯なんぞ話せば、彼等も以前結構な金額の超過料金を払わされし経験ありて、御陰でリードギタリストBo Andersこと我々が呼ぶ処のBo大先生の機材は、ツアーを重ねる毎にコンパクト化されしとか。 正午過ぎ、Jakob曰く「スウェーデン王室はご近所さん」なる森の傍にして湖の畔に建つ彼の家に到着。メンバー一同と再会「よかった、よかった」「大変やったなあ」「いやぁ、お疲れさん」労いの言葉も頂き、さて津山さんに受難のベースケースを手渡せば、これにて任務完了。皆のその後を伺えば、我々の中では一番スムーズにセキュリティー入口を通過せし津山さんでさえ、セキュリティーコントロールの長蛇の列の御陰で、搭乗ゲートに辿り着きしは、何と搭乗時刻直前にして、一方、東君の変換アダプタを探し求め空港内を彷徨せし兄ぃは、搭乗時刻が近付きし故、全く異なる場所の至って人気の少ないセキュリティー入口から入れば、こちらは機内持込みの荷物チェックなんぞ皆無にして、スムーズにセキュリティーコントロールを通過せしとか。巨大ギターケースを抱えし東君は、一旦はOversize Baggageのチェックインへ向かえども、矢張りそこでも一悶着、最早搭乗時刻も迫る中、ふと見れば人気の少ない別のセキュリティー入口(多分兄ぃが通過せし入口と同一)を発見、ダメもとで巨大ギターケースを抱え突入すれば、何の御咎めもなく無事通過叶い、ギリギリ搭乗に間に合いしとか。成る程、嘗てParisのCDG空港にて同様のトラブルに見舞われ、矢張りセキュリティー入口に立つオバハン職員に「あんた達、ギターケースは機内に持ち込めないから、もう一度楽器をチェックインして来なさい!」と因縁付けられ「何でやねん!チェックインカウンターでは持ち込んでええって云われたど!」「誰がそんな事云ったかなんてどうでもいいの!兎に角もう一度チェックインして来ないと搭乗させないよ!」「ボケか、このクソババァ!」すぐ近くに別のセキュリティー入口があれば、そちらから強行突破せんと移動、そちらの職員は一旦通過させてくれんとすれど、このクソババァが大声にて「ダメよ、そいつらを通しちゃ!」御陰でそのセキュリティー入口からの突破も叶わず、されどCDG空港には全く別の場所にもう一箇所セキュリティー入口が有るを存じておれば、メンバーを引き連れそちらへ移動、そのセキュリティー入口はかなり離れておれば、流石にあのクソババァの目も届かず、無事にギターケースを携えしまま突破せし経緯を思い出せし。何故あの折に同様の機転が利かざりしか、我ながら自らの阿呆さ加減に愛想が尽きる限り。Stansted空港にて私を制止せしあのオバハンは、大凡あの新米の如き若い兄ちゃんに職務指導の類いを行いし最中、不運にも斯様なる状況に遭遇し、見事その生贄にされしか。されど斯様に思えば、尚口惜しくなれど、矢張り自らの愚かさには腹立たしき限り。何にせよ無事にライヴにも間に合えば、これにて良しとするしか救いもなし。 
さてここで漸く朝飯に在り付かんとす。Jakobが「昨夜の残りだけど…」と、スープと懐かしきスウェーデン特有の薄っ平いパンを出してくれれば、唯々貪り食うのみ。スープは素朴な味にて美味、空きっ腹に染み渡るなり。

Stockholmから500km程離れし田舎に住むBo大先生は、昨日よりJakob宅に投宿中にして、彼とも再会を喜べば、何でも彼は過ぐる夏に一度生死を彷徨い入院せしとかで(「一度死んだけど蘇って来た」とは本人の弁)ならば今再び此処で斯くも無事再会出来し事、尚一層感慨深き限りか。Jakob邸の周りを散策すれば、丁度御子息のIsakが飼犬2匹を連れ森へ散歩に行く姿あり、家の向かいは牛が放牧される長閑な牧草地、家の周りは見上げる程の大木が茂る森、裏手は湖に臨む、成る程斯様な場所からあのTrad Gras och Stenarの音楽は生まれしか。離れにはTrad Gras och Stenarの自作録音スタジオが構えられ、またJakobの友人の人形制作工房もあり、この友人は我々に日本の大工道具の素晴らしさを頻りに語りし。Jakob邸も、彼自身が長年に渡り改装改築せしとか、流石は木工細工の国スウェーデンなるか。彼等が日本滞在時に、矢鱈と包丁やら大工道具、更には木工製品を購入せしをふと思い出せし。

午後2時、ベーシストTorbjornがレンタバンにて到着、彼等のスタジオより機材を積み込み、今宵の会場Debaserへ向け出発。会場に到着するやTrad Gras och Stenar専属サウンドエンジニアStefanと再会、日本ツアー以来、大の日本贔屓と化せし彼は「また日本に行きたい!世界で最高の場所だ!」を連発する有様。 
サウンドチェック前にも関わらず、ケータリングにて手巻き寿司大会ならぬ手作りサンドウィッチ大会が開催され、皆コーヒーを啜りサンドウィッチを食らいつつ歓談、全くサウンドチェックが始まる兆しさえなく、このそこはかとなく緩い空気感こそTrad Gras och Stenarの本来の姿ならん。

ドラマーのThomasが遅れるとの事で、代わりに兄ぃがドラムセットに座り、漸くTrad Gras och Stenarサウンドチェックと相成りし。今日明日の2日間は平日なれば、客が早い時間に帰路に付く故、先にAMTが演奏する方が良かろうとは、Trad Gras och Stenar側からの配慮。以前広島在住の村本さんのブログにて、嘗てTrad Gras och StenarのOslo公演の際、開演が大幅に遅れ、演奏前にも関わらず矢張り客が帰路に付きしとの経緯も記されておれば、有り難き配慮なり。尚、この村本さんは、Trad Gras och Stenarの最新DVD「From Moja To Minneapolis」をメンバーから個人的に直接10枚のみなれど仕入れ、儲けなしの2719円にて頒布しておられる故、興味ある方は是非。10枚共メンバー全員の直筆サイン入り、詳細はこちらから。http://tradgrasochstenar.seesaa.net/
サウンドチェック後、スタッフの賄いも兼ねて用意されし晩飯はタイカレー(チキンと豆腐の2種)にして、私はタイ料理特有の甘さがあまり得意にあらざれども、このタイカレーはその甘さが殆どなければ、然して辛味もなけれど大いに美味なり。

会場内にて無線LAN接続叶えば雑務をこなさんと思えども、突如猛烈なる睡魔に襲われ楽屋にて爆睡。ふと目を覚ませば、楽屋はTrad Gras och Stenarのメンバーの家族で満員御礼、Gongの楽屋も同様なれど、何と家族的雰囲気に満ち溢れしかな。我々の演奏も盛況にて終われば、久しぶりとなるTrad Gras och Stenarの演奏を愉しまんと鮨詰め状態の客席へ。Trad Gras och Stenarの演奏を、明日も含め今年1年間に6回も観られるとは、私は何たる果報者か。地元での演奏なればこそか、日本公演よりも随分とリラックスせし雰囲気にして、されど演奏内容は日本ツアーに於けるどの演奏よりも秀逸にして素晴らしき限り、Trad Gras och Stenarの真骨頂なるを此処に体験せり。

一方Shopzoneはいつもに増しての多忙ぶりにして、何と本日のCD売り上げは優に百枚を越え、社長津山さんも笑いが止まらぬ御機嫌ぶり。終演後、テレビのインタビューをこなし、ビール片手に皆と歓談。 
Jakob邸へ戻るや、山男なれば早寝早起きの津山さんと、ツアー中盤にて既に体力を完全に消耗せし東君は、さっさと就寝。私と兄ぃは、Bo大先生の手料理「先週の金曜日に女性の為に作ったパーティー料理」たる筍、ブロッコリー、キャベツ、レンズ豆等を炒め煮にせし逸品を夜食として頂かんとす。Bo大先生自ら食し方を指南して下されば、これは素朴な味にして何処か懐かしくもあり大いに美味なり。


JakobとBo大戦先生とワインを呷りつつ歓談、JakobよりABBAのLP(ABBAの地元スウェーデンにも関わらず何故かカナダ盤)とTrad Gras och Stenarの新作DVDを頂きし。 
明日は電車にて移動故、電車移動用のパッキングを済ませ、午前3時就寝。

 

11月21日(水) 
午前7時起床、朝の森を少し散策。朝飯は手早くシリアルにて済ませれば、子供の頃、おやつ代わりにケロッグのハニーポンやらシュガーポンやらコンボやらのシリアル各種を食らう度、お袋が「外国の人はこれが朝御飯やねんて…信じられへんなあ…」と、首を傾げしを思い出せり。

午前8時、Jakob邸を車2台にて出発、他のメンバーと待ち合わせるStockholm Central駅へと向かう道中にて、車窓よりタワークレーンが垣間見られる度、不幸にも後部座席中央に座せし故に写真撮影叶わぬ東君に、津山さんが一言「東君、スウェーデンこそクレーン発祥の地やで!やっぱり本場のクレーン撮らなあかんで!」えっ?クレーンってスウェーデン発祥やったんですか?以下は津山さんより伺いし「クレーンの由来」なり。 
「そもそもクレーンは、中世スウェーデンの貴族クルマワール・クレーンデン伯爵(後のクレーン卿)が、ノルウェイに於いて大好物の鯨を陸から釣る為の釣竿として考案したものである。後に建設用に改良され、ヨーロッパ、アフリカ、中央アジアなどに伝わり、エジプトのピラミッドやスフィンクス、イギリスのストーンヘンジ、スイスでは、モンブランやマッターホルンの山々の積み上げに使われた。余談であるが、当時まだクレーンが伝わっていなかったヒマラヤ地方に於いて、全て人の手によってエベレストなど8000m級の山々が積み上げられていたのは、驚愕すべき事実である。クレーン卿が死の直前「もし、あと100年早くクレーンが世界中に伝わっていれば、エベレストはあと4000mは高くなっていただろう」という言葉を残したのは、あまりにも有名な逸話である。(民明書房館『やさしい鯨釣り入門』より抜粋)」 
Stockholm Central駅に到着すれば専属サウンドエンジニアStefanを含むTrad Gras och Stenar全員集合、先ずは皆で駅構内のカフェへ。エスプレッソ1杯15SKR(225円)也。参照として、マクドの朝飯セットが30~40SKR(450円~600円)、バーガーキングのWhoppersセットが61SKR(915円)、物価が高き事で有名なる北欧諸国なれど、ファーストフードに関せばイギリスよりは若干安し。午前10時20分発Malmo行き特急列車X-2000に乗車、車中取り立てて為す事もなければ、隣に座する東君共々うたた寝せんとすれど「腹減ったなぁ…」「何でヨーロッパって日本みたいに駅弁とか無いんやろなあ…」「今、駅弁売りに来たら大枚叩いても買うね!」「考えてみたらヨーロッパって、その土地土地の特産品とか使った名物サンドウィッチとかも無いよな…」「そういや何処でもサンドウィッチの具は同じだね…」「そう思うと日本の列車の旅は楽しいよなぁ…」「しかし何でローカル・サンドウィッチとかないんじゃろか?」「別に今のまんま、同じまんまでも誰も不満ないって事ちゃうん…」「やっぱりキャピタリスト(資本主義者)とちごちょるけん…」「せやな、競争しよって精神ないから新製品とか作らへんでもええねんやろ…」「嗚呼、ビバ・キャピタリズム!キャピタリズムの象徴『M』とか食いたいねえ!」「それってマクドか?」「なんだかキャピタリズムの聖地アメリカが恋しいねぇ…」「ホットドッグとかフライドチキンとか?」「食いたいねぇ…!」「バーガーキングのTriple Whooperも?」「今なら余裕で食えるねぇ…」「食いもんの話してたら余計腹減って来るよな…」「そうだね…」「…………」 
午後2時40分Malmo駅に到着するなり、Jakobが、明日は朝早く旅立つ我々の列車の切符を購入してくれれば、この気遣い大いに有り難し。ヨーロッパは公衆トイレが有料の国多く、ここMalmo駅もトイレ使用料5SKR(75円)也。トイレの入口には受付とゲートがあり、釣銭が必要なる場合にても受付にて釣銭を貰えるは勿論、さて使用料を支払えばゲートが開き、時にはスタッフがわざわざ中まで案内してくれ、更には女性清掃員が常に用を足し終えしトイレを順次清掃するサービスぶりなれば、全く以て清潔の極みなれど、矢鱈女性清掃員やら女性スタッフやらが出入りする故か、何となく落ち着かぬものなり。日本にても見受けられる公衆トイレの常識として、何故女性清掃員は男性トイレをも清掃し得れど、男性清掃員が女性トイレを清掃するは許されぬのか。男女雇用機会均等なんぞと女性の社会的地位向上を声高に訴える才媛賢女共おられれども、ならば男性清掃員が女性トイレを清掃しても問題なかろう。ところで嘗て東京駅にも有料トイレあれど、果たしてあれは今でも存在しておるのやら。日本に於いて有料トイレは必ずしも必要かどうかは兎も角としても、駅のトイレにてトイレットペーパーを設置せず、入口に「流せるティッシュ」なる代物の自販機を設置し、無闇に100円をぼったくる方が不条理か。海外の有料トイレは、小にせよ大にせよ使用料は同じなれど、この「流せるティッシュ方式」なれば、小は無料なれど大は自前でポケットティッシュなんぞ持ち合わせぬ場合のみ有料にして、所謂水に溶けぬ流れぬティッシュを流す輩も当然多かろうと思えば、結局は故障の原因を自ら作らんとする愚策、且つそもそもトイレットペーパーさえも設置せぬようなトイレは、得てして掃除の行き届かぬアンモニア臭立ち籠める大いに不潔なトイレの場合が殆どか。 
さて駅より会場まで、我々一同9名なれど、タクシー2台に無謀にも無理矢理分乗する運びとなれば、東君は荷台に積み込まれる有様なり。

 

 

今宵の会場Debaserは、昨夜の同名クラブの系列店にして、矢張り昨夜同様にサウンドチェックが始まる兆しなく、先ずはケータリングによる手作りサンドウィッチ大会が開催されれば、猛烈に空腹故に早速サンドウィッチを拵え貪る始末。

腹ごなしに界隈を散策すれば、公園にてウルトラQに登場せしマンモスフラワーこと巨大植物ジュランの如きを発見。まあこれは薔薇ですけど…。

サウンドチェックも済ませば、昨夜同様にスタッフの賄いも兼ね用意されし晩飯は、クリームシチューの如き(ビーフと豆腐の2種)と主食たる蒸かしジャガイモ、そしてサラダなり。シチューの如きは、かなりの薄味なれどクリーミーな味わいにして美味、意外にも主食を蒸かしジャガイモにすれば、パンの類いより飽きも来ず、且つ腹保ちも良し。


無線LANにて雑務をこなせし際、ふと常々5分毎に3通以上は届くスパムメール群が届いておらぬ事に気付けば、どうやらメールサーバがダウンせし模様。早急に返信を要する事務等あれば、さてこのサーバダウン如何程なる障害具合か、大至急確認の必要あり。されど此処スウェーデンから為す術もなく、プロバイダーのサイトにて障害情報をチェックするのみ。今やメールにて全ての事務仕事を行っておれば、メールが使えぬ事には仕事にならぬ。果たしてもし今突然インターネットが未だ無い世界に逆戻りすれば、如何に不自由不便たるや。斯様に海外ツアーやら海外リリースやらと活動し得るも、まさしくインターネットの恩恵に他ならず、嘗てファックスや国際電話にて悪戦苦闘しつつ遣り取りせしを思い出しては、改めてインターネットの恩恵に感謝しつつも、その裏側に潜む危険性に戦慄を覚えしか。 
ライヴは盛況にして終了、終演時間が遅くなりし故、Trad Gras och Stenarの演奏途中にて帰路に付く客もおれど、今宵はBo大先生がワインの飲み過ぎにて酩酊、ステージ上にても饒舌極まりなく、後で聞く処によれば何でも「Bo Andersの恋愛講座」的内容にして、その余りに冗長なるMCに、遂には他のメンバーが痺れを切らす始末。御陰で演奏も半ば崩壊気味なれど、それがまた妙に味わい深ければ、昨夜とは好対照なる内容にして、この2日間Trad Gras och Stenarの素晴らしき世界を満喫せしと云えようか。

午前2時に皆でホテルへ、明日は朝早くに出発せねばならぬ故、これにてTrad Gras och Stenar一同ともお別れなれば、またの再会を約束。ホテルの部屋にてネット接続は叶えども、矢張りメールサーバダウンの様子にて為す術もなければ、斯様な際こそとのんびり入浴、午前3時半就寝。

 

 

11月22日(木) 
午前5時半起床。午前5時45分にタクシーにてMalmo駅へ。駅構内のパン屋にて、菓子パン2個+コーヒー1杯を35SKR(525円)にて購入。午前6時22分発Copenhagen空港行きの列車に乗車、先程購入せしパンとコーヒーにて朝食とす。嗚呼、菓子パンは美味なり。

東君は相変わらず車窓より次々現れるタワークレーン群の撮影に追われ「忙し過ぎる…。」 
午前6時43分、Copenhagen空港駅着。今回は所謂格安フライトにあらざれば、受託手荷物の重量なんぞ全く関係なく無事チェックイン完了。此処Copenhagenはデンマークにしてスウェーデンにあらず、即ちスウェーデン・クローネは使えねば水を買う事も叶わず、また空港故に液体を持参しセキュリティーコントロールを通過する事も叶わぬとならば、空ペットボトルに「トイレ水」を汲まんとする「トイレ水オアシス大作戦」を此処に敢行せんとす。そもそも日本人なる私にとって、水は飽くまでも無料にして、ミネラルウォーターであれ水道水であれ、水の味の違いなんぞ判る程の男にあらざれば、矢張り水如きに金を払うなんぞ許されず、またテロ対策に対する過剰な迄に神経質となりしセキュリティーコントロールの在り方に対するアンチテーゼ、ペットボトルを洗浄するのみにてそのままリサイクルし得るエコロジーへの本質的テーゼとしての「革命的ダブルエコ(エコノミー&エコロジー)作戦」なり。空ボトルについては、セキュリティーコントロールにて、当然液体が入っておらぬ故、何のお咎めもなく無事通過。されどCopenhagen空港のトイレ前にて、まさかの「トイレ水」発見叶わざりしと云う予想だにせぬ事態に直面、この革命的ダブルエコ作戦も敢えなく失敗かと思われれど、到着地Zurichにてもスイスフランを所持せぬ故、引き続き何も購入叶わざるは当然、ならばスイスに到着後、列車に乗り継ぐまでに「トイレ水」の獲得を図り、この作戦を見事遂行せん事ここに決意す。 
午前8時15分発Scandinavian航空Zurich行きに搭乗、機内にて爆睡しておれど、機内食配膳には貧乏人の本能にて何とか目覚めし。さてその機内食とは、チーズとハムとレタス1枚と云う素朴なサンドウィッチ、トマトジュース、加えて嘗ては喫煙を誘発すると云う理由から厳禁たりしコーヒーも、実はブラックならずミルクを入れれば喫煙を誘発せぬと気付きし故、コーヒーも頂かん。然して美味くもないサンドウィッチさえ、そもそもスイスに着きし処でスイスフランを所持せぬ故、何も食う事叶わねば、これでも腹の足しにはならんと文句も垂れず完食。

午前10時過ぎにZurich空港に到着するや、遂に「トイレ水」汲み上げに成功、この革命的作戦の成功を喜んでおれば、後ろに並ぶ白人のオッサンを筆頭に、何と1Lボトルに「トイレ水」を汲まんとする輩共が列を成す有様、成る程皆考える事は同じか。されど東君曰く「わざわざセキュリティーコントロールを通過させてまで空ボトルを持ち込んで『トイレ水』汲むヤツは世界初やろ…そう言う事にしとこ!」確かにセキュリティーコントロール通過後に購入せし水のボトルに汲み足す輩はおられようが、わざわざ空ボトルを持参せんとする貧乏性の輩はおらぬか。 
スイスフラン(CHF)を持たぬ我々は、ユーロにて列車の切符を購入、これもスイスに於いて列車の切符はユーロにて購入可能なるを知ればこそ、但し釣銭はスイスフランなり。Zurich Flughafen~Basel SBBの運賃は34.00CHF(3230円)也。午前11時04分発Basel行きIR乗車。津山さん曰く「東君、スイスのクレーンを舐めたらあかんで!モンブランやマッターホルンかてその昔クレーンで岩を積み上げて出来たんやからな!」その言葉を裏付けるかの如く、発車するや否や、左右の車窓にタワークレーン群が矢継ぎ早に現れれば、東君は車内を右往左往と大童にして大忙し「はう~っ、忙し過ぎる!カメラが2個欲しい~!」挙げ句、遂に疲労困憊せしか「もういい…ちょっと休憩!」と撮影放棄状態、なればタワークレーンに無関心の私でさえ「これは!」と思わざるを得ぬ斯かる絶景を見事撮り逃す始末にして、まだまだ真のクレーンマニアへの道は程遠く、子供の戯れの域に留まれりか。津山さんの話によれば、タワークレーンとは大阪弁が語源とか。以下は津山さんより伺いし「タワークレーンの語源」なり。 
「タワークレーンとは、英語ではなく大阪弁である。近代中国に於いて、蒋介石が台湾独立の折、毛沢東に言った『台湾、くれへん?』というその言葉が『タイワンクレヘン?』『タワークレーン?』と訛ったものである。その時既に蒋介石は、台湾の周りに万里の長城を築く為、スウェーデンから極秘に最新式のタワークレーンを大量に輸入していた。(民明書房館『すべての語源は大阪弁にあり!』より抜粋)」 
午後1時半過ぎにBasel SBBに到着、オルガナイザーPapiroが迎えに来てくれておれば、取り敢えず今夜の投宿先へと案内して頂く。連れて行かれし先は、入口に何やらサッカーチームのステッカーなんぞ貼られており、まさか少年サッカークラブの事務所かと思えども、実は超ド級のサッカーマニアにして嘗てはEinsturzende NeubautenやNick Caveのマネージャーをも勤めしと云う経歴を持つPatrickが経営する民宿なり。されどこの建物そもそもは廃墟にして、改装にここまで2ヶ月を要せども未だ未完とか、兎に角リビングルームにはサッカーゲームに始まり膨大なサッカー資料やグッズが所狭しと置かれており、もしサッカーフリークのみつるちゃんが此処に居合わせれば、さぞや狂喜せしものならん。

Patrickが昼飯を用意してくれれば、パンとチーズと生野菜にして、これはまたしても手作りサンドウィッチ大会を開催せよとの御達しかと思えど、アニメ「アルプスの少女ハイジ」にてハイジが云う処の「硬い茶色のパン」なれば、矢張り猛烈に硬く、サンドウィッチなんぞ拵えでもすれば、顎が疲れ果て痛くなるは明らか、生野菜とチーズのみを頂くに留まれり。

午後4時、今宵の会場Das Schiffへと向かえば、我々のスイスのオルガナイザーにしてBernのクラブReitschuleに勤める旧友のSandroと再会。このDas Schiffもまた、船を改装して作られしクラブにして、船内にレストランも併設されており、所謂典型的なヨーロッパのクラブの営業スタイルなり。 
サウンドチェックにて「法律で最大音量が決められているから、全体の音量を抑えてくれ」と、サウンドエンジニアに懇願されれば、そもそも屁垂れなアンプ故に屁の如き音なれど、当面は了承せざるを得ず。海外のバーやクラブのトイレには、AIDS対策の為にコンドームの自販機が設置されておれど、ここのトイレには、コンドームにあらず大人のおもちゃの自販機が設置されており、ローターやリング等各種1個5CHF(475円)均一也。果たして同じ自販機が、女性トイレにも設置されているのかどうか、それは流石に確認出来ず終い。 
さて船内のレストランへ赴き晩飯と相成れば、先ずはスタッフや前座の面々とワインにて乾杯。大いに空腹なれば、前菜たるサラダを一瞬にして平らげ、主菜たるチキン腿肉グリルが添えられしフェットチーネに挑まん。イギリス&アイルランド・ラウンドにて最早パスタは限界かと思えども、スパゲッティーにあらずフェットチーネなれば目先も変わりしか、また所謂ペッパーソースなれば美味にして大いに満足。食後に「Ammazza Cafe」として、度数40度程度のスイスのローカルリキュールを注文すれば、両親がイタリア人たるPapiroは「マコトは僕よりもイタリア人だ!」と爆笑せり。

楽屋にて無線LANによる接続叶えば雑務こなせども、隣接する事務所の終業と同時に無線LANも切断されれば、こちらも終業せざるを得ず、結局楽屋にて爆睡せり。午後10時、開演直前に目覚めればステージへと向かい、さて屁垂れのアンプは、前座のバンドの演奏に因り、更に屁垂れと相成っておれば、最早最大音量に設定しようが些かの問題あろう筈なし。されどライヴは盛況にて終了、Sandroは「今まで観たAMTのライヴで今夜が一番サイコーだった!」と興奮気味にして、勿論例によって彼の奇妙奇天烈なDJが、興奮冷めやらぬ会場を見事にクールダウンさせし。楽屋に用意されしケータリングにて、ハムとサラミと胡瓜とトマトのサンドウィッチを拵え、明日の朝飯にせんと持ち帰れば、今や明日の朝飯まで周到に用意し得る程に、質素倹約魂も我が身に擦り込まれしか。

タクシーにてPatrick宅へ戻れば、兄ぃの些細な一言が彼のサッカー蘊蓄の口火を切り、そもそもサッカーなんぞまるで興味無き私は、自業自得と兄ぃを置き去りにし、屋根裏部屋を改装せし客室の畳ベッドにて、午前3時前に就寝。

 

 

11月23日(金) 
午前8時半起床、余りにも多くの夢を見過ぎ、全く以て疲労困憊。鮮烈なる音メッセージ多く、共演者まで既に設定されておれば、これは是非試みねばなるまいか。されど肝心の音は矢張り失念、耳触りと感触のみリアルに残りし。また初体験と云える奇妙奇天烈なる超次元的夢体験もあり、今後これをもし自分の感覚によりコントロール出来れば、奇跡的体験さえも正に夢にあらずと、いと興味深し。 
昨夜楽屋にて拵えしサンドウィッチを朝飯として食さんとすれど、パンが硬くなり過ぎ到底食える代物にあらざれば、中身のハムとサラミと胡瓜とトマトのみを食すに留まれり。 
午前10時頃Patrickが起きてくれば、朝飯の食材を求めスーパーへ赴かんと云う、何につけても世界各国何処の国に於いてもスーパーは大層興味深ければ同行せん。Patrickはイングリッシュ・ブレックファーストを拵えんと、食材を次々買い物籠へ放り込む間、私はスーパー内を物見遊山にて散策、その印象とは矢張りスイスの物価の高さかな。帰宅するや先ずコーヒーを飲みつつ彼と歓談、昨日メンバーの間にて、Patrickは果たして何処の国出身かが話題となっておれど、それも彼の御贔屓チームはイギリスのリバプールFCにして、The Beatlesに関するものも非常に多く、彼の英語が然程ドイツ語訛にあらず、またこの時点では彼がEinsturzende NeubautenやNick Caveのマネージャーを勤めし事を未だ聞いておらねば、我々は多分リバプール界隈出身のイギリス人と推察せり。況して朝飯がイングリッシュ・ブレックファーストと来れば、ヨーロッパ人は朝飯に斯様なヘビーなる代物食いたがらず、完全に鉄板と確信する処なり。昨夜Patrickのサッカー蘊蓄に延々と付き合わされし兄ぃも起きて来れば、ここで彼に出身を尋ねんとす。されば彼曰く「僕はドイツ人、70年代後期から80年代初期にはLondonに住んでいた。此処Baselに越して来たのは、スイスの大都市なのに安くて古い物件がいっぱいあるからだ。だからこんな民宿も経営出来るってわけさ。Baselには、まだまだいろんな事業をやれる可能性がいっぱい眠ってるんだ。イギリスは、サッチャーのせいで物価が高くなり過ぎてもう住めないね。でもイギリスは大好きな国さ。音楽もサッカーもね。だからいつも朝飯はイングリッシュ・ブレックファーストなんだ。スイスに住んでいても、イギリス風に暮らしたいってわけさ。」彼の拵えてくれしイングリッシュ・ブレックファーストを頂きつつ、彼の話を伺っておれば、イギリスにいるかの如き錯覚さえ覚える始末、即ち彼はスイス在住イギリス気触れのドイツ人と云った処か。勿論イングリッシュ・ブレックファーストなるもの、缶詰のベイクド・ビーンズを温め、ベーコンややソーセージやらマッシュルームやらトマトを炒め、目玉焼きを作り、粉末マッシュポテトを湯で戻すのみと、至って極簡単な調理方法によるものなれば、これ以上不味く作りようもなく、多分これが今年最後のイングリッシュ・ブレックファーストにならんと思いつつ、この無意味な諄さも含め大いに堪能せり。

無線LANにて接続叶い、メールサーバも復旧せし様子にして、一気に雑務処理せんと脳をフル稼働すれば、大いに疲労困憊、ここは昼寝を決め込まんとす。SandroとPapiroが訪ねて来れば、皆で歓談。 
午後4時、Bernへ戻るSandro共々、Papiroの案内にて駅へ向け出発。 Sandroとも駅にてお別れ、午後4時27分発Milano行きECに乗車、Oltenにて乗り換えれば、午後6時前にWinterthurに到着。Basel~Winterthurの運賃は38.00CHF(3610円)也。車内にて空腹なれば、昨夜のケータリングより頂戴せし王子様印のクッキーを貪る始末。

お迎えの車にて今宵の会場Gaswerkに到着、早速サウンドチェックを済ませれば、スタッフ共々晩飯と相成りし。当初このクラブを訪れるは初めてと思えども、実は小ホールにて以前演奏せし経緯ありしとか。成る程、道理でキッチン&ダイニングルームには見覚えあれども、今宵のライヴ会場たる大ホールに全く見覚えなきは当然か。前回訪れし際は、女性スタッフによる手料理にて持て成されども、郷土料理と称される青リンゴソース・スパゲッティーなれば、麺通の東君以外は手も足も出せず終い、結局青リンゴソースを遠慮させて頂き、持参せしマヨネーズにて食し,されど御自慢の青リンゴソースなればジャムの如く美味にして別に舐めし記憶あり。さて今回は若い男性スタッフの手による晩飯なれば、彼の最も好きな逸品と称するグレープフルーツ入りサーモンサラダ、これには彼自身が手塩を掛けて育てし玉葱も使われしとか、そして続くはリゾット・ミラネーゼと云う布陣。青リンゴソース・スパゲッティーに比べれば全く問題なしかと思えれど、サーモンサラダのサーモンが塩っぱ過ぎにして、片やトッピングたる胡桃は猛烈に甘ったるく、更にグレープフルーツの甘苦さが合わされば、何とも微妙なる味、到底食し得るレベルの代物にあらざりて、さっさとサーモンや胡桃を片付け、生野菜にて口直し、されど彼御自慢のグレープフルーツ・ドレッシングは意外にも大いに美味なり。またリゾット・ミラネーゼに至りては、個人的にそもそも好まざる代物にして、これまた何とも簿妙なる味なれど、本場イタリアの如く「米もアルデンテ」なる芯の残る塩梅にあらざれば、取り敢えず腹の足しとして充分食え得る代物か。

ライヴは盛況にして、昨夜と異なり巨大アンプ群に恵まれ、更に音量規制なんぞ何処吹く風的なサウンドエンジニア故、大層気持ち良く演奏も終了せり。今宵は楽屋兼宿泊施設に投宿なれば、移動も不要、何にせよお気楽と云う訳で、酒に関しては強請り上手な東君が、スタッフに赤ワインを強請るや、スタッフも大いに御機嫌にして、次から次へとボトルが出て来る有様。津山さんと東君は早々に就寝されれば、結局兄ぃと飲み明かし、午前4時就寝。

 

(2008/01/02)

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