『人声天語』 第140回「男は黙って噛み締めろ…ふたたび!(AMT & TCI 英吉利&愛蘭ツアー 2008)」其之壱

7月28日(月)
午前11時起床。単身一足先に渡欧せし私のみBritish Airの午後5時Toulouse発London Gatrick行きに搭乗、若干遅れて午後6時到着。今宵は元水玉消防団のカムラさん宅へ投宿予定にして、関空よりLondon Heathrow空港へ飛び立ちしピカチュウと待ち合わせ、共に向かう段取り。午後6時38分発Victoria行き列車に乗車、Victoria駅にて地下鉄に乗り換え、午後7時20分過ぎにピカチュウとの待ち合わせ場所Green Park駅に到着。乗車賃は列車と地下鉄併せて11.50ポンド(2358円)也。午後5時にLondon Heathrow空港に到着予定のピカチュウの姿は未だ見当たらず、本来なれば私よりも若干先に到着して然るべき筈故、カムラさんに電話すれど矢張り連絡無しとの事、ならばフライトの遅延もしくは何処ぞへ地下鉄を乗り間違えしものかと思い、ひたすら待つ事に。なにしろ彼女は元来遅刻の常習犯にして、札幌に於いても札幌駅にて待ち合わせの段取りなれど新札幌駅にて下車せし経緯もあれば、ここは入国拒否若しくは何らかの事故や事件なんぞに巻込まれておらぬ事を切に祈り、ひたすら待つのみ。予定通りならば成田組のみつるちゃんと兄ぃは午後7時過ぎ、ParisのCDG空港からフライトの東君は午後8時前にHeathrow空港到着の予定にして、3名にてカムラさん宅へ向かう手筈になっておれば、午後9時頃には此処Green Park駅に現れん。果たして彼等より2時間前に同じHeathrow空港に到着せし筈のピカチュウは今何処。
待つ事1時間40分、午後9時過ぎ、漸くピカチュウがにこやかに手を振りながら登場。なんでもAmsterdamにてLondonへの乗り継ぎ便が大きく遅延せしとか、Londonへのフライトがキャンセルになるやもしれぬとの最悪の事態こそ避け得れば、先ずは無事に到着せしを喜びて、いざGreen Park駅より地下鉄にてBrixton駅へ。Brixton駅にてカムラさんに電話しておれば後発部隊の3名も到着、お互いの無事到着を喜べば、さて徒歩にてカムラさん宅へ。
カムラさん宅へ辿り着くや、早速ビールにて乾杯すれど、流石に全員長旅疲れと時差ぼけからか早々に就寝。既に渡欧して10日経過せし私は、時差ぼけは大凡解消されておれど、あの待ち疲れからか午前12時半就寝。されど深夜、額の辺りに何やら気配を感じ目覚めるや、何と蜂に急襲され素手にて叩き殺せども額と目尻に2発被弾。なんでこんな涼しいLondonのそれも家の中に蜂がおんねん!折角人が気持ちよう寝てんのに、おんどれ何テロってくれとんじゃ、こらぁ!日頃明日香のAMT総本山でオオスズメバチ殺しまくってるのんの復讐か!しゃあけどお前セイヨウミツバチやろが!お前らの天敵オオスズメバチ殺したってるねんから感謝されて然るべきちゃうんか!お前らセイヨウミツバチは日本のミツバチと違てオオスズメバチよう撃退しいひん根性なしのくせに、このカスがぁ!今度蜂蜜取りに行くど!ボケが!
結局朝まで激痛で眠れず。これはなかなか幸先悪しき予兆かな。ならばくれぐれも万事気を引き締めて事に当たらねばならぬか。

 

7月29日(火)
午前7時半起床、と云えど激痛で殆ど眠る事叶わず。見れば枕元に2匹の蜂の死骸を発見、否、1匹は未だ虫の息なれば引導を渡さんと踏み潰せり。ミツバチの類いに刺されると、針が皮下に残る故、ピリピリとせし痛みが続く故、大いに往生するものなり。カムラさんに伺えば、今夏蜂が大量発生せし故、先日業者に駆除して頂きし経緯ありとか、されど裏庭の植え込みを見れば未だ数十匹の蜂が飛び交う有様。害虫駆除の専門業者なら根こそぎ殲滅しとかんかい!
朝飯として、Toulouseの中華食材屋にて求めし即席袋麺の出前一丁を食す。日常生活に於いて即席ラーメンどころか全くラーメンを食さぬ私なれば、この即席ラーメンを食する行為を以て、再びツアー生活に突入せし事を実感せり。ツアー初日の朝飯は食糧の買い出しに行く前となるは当然と、ツアー慣れせしメンバー各自、徐ろに日本より持参せし即席ラーメンなんぞ食し始めれど、ピカチュウのみ斯様なAMTスタイルを存じておらねば「えええ~っ、みんないろいろ持って来てるんや!うちなんも考えてへんかったわ…」斯くして食糧を調達せんと近くの小さなデリカへ出向けば、購入せしはズッキーニとリンゴとパンなり。果たしてこれらを如何に調理して食すのかと問えば「うちズッキーニめっちゃ好きやねん!バターで炒めて出来上がり!」本人は至って美味いと満足げなれど、ピカチュウの料理の腕前は果たして如何に。ツアー中に追々判明されんと思えば、大いに興味深き処なり。AMTの面々は一人暮らし経験豊かな四十路男揃い故か、元シェフの私を筆頭に、元主婦ならぬ主夫たりし兄ぃ、晩酌好きは肴作り上手と云う法則を証明するかの如き東君、「餃子の王将」でのシェフ経験のみならず実はかなりの料理通としてその名をその界隈に知らしむるみつるちゃん、何と実は調理師免許を持つ山小屋経営者の津山さんと、各々なかなかの料理自慢の猛者軍団にして、常々その驚異の料理ぶりにて欧米人を驚かせ感銘させて来ておれば、果たして未だ20代前半のピカチュウ、その若さ故に味覚の嗜好も異ならんと思えば、また料理の経験値も我々と大差あらん、ここは是非とも彼女らしき奇想天外奇妙奇天烈なる料理っぷりを拝見したき処か。

午後10時半、今宵は未だライヴもなく、別段然してやらねばならぬ事さえなし。然れば矢鱈と腹が減るは人体の不思議か、再び出前一丁を食す。
正午、今回のツアーに合わせリリースせし「Hotter Than Inferno – Live in Osaka 2007 -」のDVDが到着。既にカムラさん宅の居間には、イギリスの国内外より予め送付されしCDやツアーTシャツの大箱等が山積みされておれど、今回は通関にあたり法外なる消費税VATを約16万円課されておれば、無理を承知の上でカムラさんに立替えてを依頼せし経緯あり。斯様な課税は今回が初めてにして、カムラさん曰く「最近厳しくなったんだよね…ネットで個人通販したものでも課税されたりして、凄く問題になってるよ」成る程、さりとて既に課税されカムラさんが立替えてくれておれば、先ずは売り上げより返金するが最大の命題にして、Shopzone社長ことみつるちゃんも「売って売って売り捲ってやる~!」と、気合いも充分なり。 
今宵はカムラさんが出張故、前回もお世話になりしSouthwark Park付近の小学校跡に投宿なれば、徒歩と地下鉄にて移動せねばならず、果たして楽器やスーツケースのみならず斯様に大量の物販商品を如何にして運び得るや。と、そこへ今回再びツアードライバーを務めるBenから連絡あれば、なんでも今から機材一式を積み込みに行くと云う、ならばそのついでにこの膨大なる物販商品群と楽器やスーツケース、更に我々をも今宵の投宿先へ移送してくれぬかと依頼するや快諾してくれ、これにて無事に今宵の投宿先へ移動を果たせり。ところでBenの御自慢の新車のバンは、Mercedes-BenzのエンブレムをMercedes-Benに変えておれば、これには一同大ウケ。

午後1時、小学校跡なるSar宅に到着、Sarは現在渡米中にして留守なれど、ルームメイト数名は滞在してる様子。UKツアー初日の恒例行事と云えば、先ずは何よりも食糧の買い出しなり。何しろ法外に諸物価が高ければ、1.00ポンドが200円強の現在、同じ商品に対し額面こそイギリスにて1.00ポンド(205円)アメリカにて$1.00(103円)と同じような字面であれど、円に換算すれば2倍近くも異なり、されど我々のギャラやCDの販売価格に関してはイギリスもアメリカもほぼ同額、即ち事実上アメリカに比べ諸物価が倍額と云う計算なれば、迂闊にファーストフードさえも行くに侭ならぬ次第。前回ここへ投宿せし折と同様、界隈のイギリス最大手スーパーTescoへ。よく聞く話では、海外からのツアーバンドなれば自前のアンプやドラムセットを母国よりフライトにて持参するは困難故、先ず最初に訪れるは楽器屋にして、ツアーにて必要なアンプ群やドラムセット等を購入若しくはレンタルせんとする様子、されど我々は機材よりも食糧なり。長きに渡る貧乏ツアー経験により、飢餓に対するトラウマを未だ抱えておれば、何を於いても充分な食糧の確保こそ万事に優先せり。購入したるは以下の品々。野菜ジュースV8 (1.35ポンド) ×3本、玉子6個 (0.88ポンド)、ピンクサーモン缶 (0.80ポンド)、チキンカレー缶2缶 (0.49ポンドと0.91ポンド)、ボンベイポテト缶 (0.66ポンド)、青葱 (0.64ポンド)、Tesco製袋入り即席ラーメン (0.08ポンド ×20個)、スパゲッティー (0.41ポンド)、V8にぶち込まんとタバスコ社製ハバネロソース (1.32ポンド) にて計11.76ポンド (約2411円) 也。いざ以上の食材にてこの2週間を乗り切らん。当然1食を2.50ポンド(513円)以内に抑えんとするは、前回同様の必須条件なり。

最近の海外ツアーに於いては、嘗てのように大量の食材やら調味料を日本より携えず、精々海外にて調達が困難なトンカツソース程度しか持参することなけれども、今回は久々に日本より「味を変える為の調味料」を各種見繕い持参。今回のツアーへ赴くにあたり、私が先ず思い付きしは、スパゲティーやラーメン等を、素麺の如くつけ麺にして食する事なり。以前ツアー中にスパゲティーを食らい過ぎ、その後2年半に渡りスパゲティーに対し拒否反応を示せし経緯もあれど、これはあのスパゲティーのモチッとせし食感に起因すると分析、それ以降は極細スパゲティーなら食し得るとリハビリに勤しみ、漸く再び通常のスパゲティーを食し得る処まで回復、されどその極細スパゲティーこそ素麺に大いに類似しておれば、何故スパゲティーとして食する事に固執せしや。斯くなる経緯にして、麺つゆ、チューブ入り生姜、薬味にと味付海苔を持参。揚げ物に対し圧倒的ポテンシャルを誇るトンカツソースは当然にして、みぞれトンカツの如く和風仕立てにするも有りかと私にとっての万能調味料たるポン酢も持参。柑橘系和風さっぱり感の期待を込めチューブ入り柚子胡椒が今回もA代表入り。如何なる激不味料理に対しても絶対的なる強靭な香りと風味にて善戦せんとの思い、またのんびり調理し得る環境なれば炊き出しも可能と云う理由から、カレー粉固形ルー1箱も選抜されし。関西人なればこそか昆布だしは我が料理の命、携帯に便利な粉末昆布だしは必携か。毎度のこと持参すれども大抵は補欠にて出番が殆ど在らざりし粉末茶なれど、甘からじ飲物がコーヒーとミネラルウォーター以外皆無なる大英帝国及び欧州なれば、矢張り持参しておらねば不安になる故、懲りずに今回も持参せり。私は自他ともに認める無類の唐辛子好きにして、未だ我が人生に於いて「辛い」と感じられしは僅か6度に数えられる程、タバスコに全く辛味を感じぬ現在、最近お気に入りは99ショップにて販売されるハバネロソースなれば、今回のツアーは2週間に及ぶ故2本を持参。

午後1時半、予めオファーを受けしWire誌の取材。取材も無事終了すれば、さてポン酢と生姜と海苔を駆使せし冷スパを作らん。スパゲティーを茹で水洗い、笊にて水気を切り、ポン酢をぶっ掛け薬味の生姜と葱と海苔を添えれば出来上がり。これはシンプルにして大いに絶品、そもそも不味かろう筈なし。V8にタバスコハバネロソースを大量に混ぜ合わせビタミン補給。さてこの1食のコストとは、スパゲッティー1袋の4分の1を消費につき0.10ポンド+青葱若干0,08ポンド+V8半パック0.68ポンド+タバスコハバネロソース4分の1相当0.33ポンド、合計1.19ポンド(約244円)也。

他のメンバーも各自思い思いに調理、皆でワイン等も開け御機嫌さん。東君は前回の欧州ツアーに引き続き、今回もスパゲティー・ペペロンチーノ1本勝負にて臨むとか。兎に角諸物価が大凡倍額に感じられる程に物価高なる大英帝国なれば、ハンバーガーのセットなんぞ約?5即ち1025円にして、迂闊に外食を繰り返せば一瞬にて大散財となるは当然、イギリスをツアーするにあたっては如何に食費を節約するかが大命題なりとは、メンバー皆も肝に命ずる処。 
さて別にやる事もなければ、ふと思い立ちしはビデオ撮影なり。今回はツアー出発前よりアイデアありて、わざわざビデオカメラを携行しておれば、午後6時、東君とみつるちゃんに声を掛け撮影開始。庭先にて発見せしイルカのゴミ箱を用い「動物愛護反対!」を訴えるプロパガンダビデオの撮影。3人各々クリケットのバットやらホッケーのスティックやら玩具の剣やらにて「動物愛護反対!」「イルカや鯨食うのに文句ヌカすな!」「イルカや鯨食うのんは日本の文化じゃ!」等と叫びつつ、イルカのゴミ箱を滅多打ち、続けて庭先にて発見せしBBQセットを繰り出しイルカのBBQシーンへ。なかなか素晴らしい絵が撮れしと大いに満足。撮影も無事終了し、BBQセットやらイルカのゴミ箱やらを元の位置へと戻しておれば、そこへ住人のひとりが帰還、我々の事を「あのクソ日本人共、一体他人の家で勝手に何しくさっとんねん」とでも云わんばかりに不審げに眺めておられし。

午後9時半、うたた寝から起床。深夜、東君が起き出し徐ろに捕食。結局2人して、ここの台所にて発見せし赤ワイン1本を勝手に開け、午前4時半就寝。

 

 

7月30日(水) 
午前6時半起床。昨日同様にポン酢を駆使せし冷スパ+茹で玉子2個を朝飯として食す。納得の食事なり。他のメンバーもラーメンやらスパゲティーやらを作り食しておられれど、このポン酢冷スパには大いに羨望の眼差し。スパゲッティー1袋の4分の1を消費につき0.10ポンド+玉子2個0.29ポンドの計0.36ポンド(73.8円)也。
さて今宵から始まるツアーに向け、恒例の物販商品の値札&キャプション付けに勤しむ。所詮は拙い英語にてのキャッチコピーなれば「Damn Damn Heavy!」だの「Very Psychedelic!」だの「Meditational Minimal Sound」なんぞ相変わらずの駄文に終始。因みに結果報告するならば、ソロや別ユニットの物販に関しては、兄ぃによる「like Les Rallizes Denudes」とのコピー故か、みみのことの旧譜CDが素晴らしき売り上げを記録。海外に於けるラリーズ人気推して知るべしなれど、形振り構わず売り上げを伸ばさんとする兄ぃの鬼神ぶりに完敗。 
午前11時、昼飯として麺つゆラーメンを食す。Tesco製袋入り即席ラーメン2袋から麺のみを使用、粉末スープは後日何かに利用せんと保存。先ずラーメンの麺を茹で、そこへ湯で割りし麺つゆにぶち込み、青葱と茹で玉子を添えれば完成、これは大いに美味なり。替え玉の際には、つゆに柚子胡椒を添え味に変化を持たさば、これもまた美味なり。海外ツアーに赴きては即席ラーメンを食い始め早や十数年、これまで海外製の不味ラーメンを改良せんと苦心惨憺を繰り返せども、何故斯様にシンプル且つベストなる方法に気付かざりしか。麺つゆにて食らうラーメン、普通に美味し。そもそもラーメンを好まぬ私なれど、これならば日本に於いても食し得らん。V8にてビタミン補給。ラーメン2袋0.16ポンド+青葱若干0,08ポンド+茹で玉子2個0.29ポンド+V8半分0.68ポンドの計1.21ポンド(248円)也。

ピカチュウのストレッチ体操教室に、歩く生活習慣病博覧会の如しみつるちゃんがダイエットを目論み入門、されど然程もせぬうちから息も絶え絶え、この様子に「田畑さん、これ毎日せなあかんで!」ピカチュウの厳しき叱咤の声が響く。結局3日間程も続かざりしは,当然の結果か。そもそも世に蔓延る肥満に悩みダイエットを試みんとす輩とは、自己管理能力の欠如によりブクブクと肥え果て、されど「楽して痩せたい」なんぞとヌカし、幾度もダイエットを試みては挫折を繰り返し、結局次々と新手のダイエット法やら器具を売らんとするダイエットビジネスの売り上げに大いに貢献するのみ。「楽して痩せる道はなし」なるを知る事こそダイエット成功への第一歩と知れ。「四十路辺りから太るのは、弱り始めた背骨を支える為」と聞くやこれ当然の理かと、ついぞ己れを言い聞かせし私なれば、既に痩せる努力以前の問題なり。
さて昨夜飲み干せし台所の赤ワインを返却せんと、東君と酒屋へ「あんまし美味いワインちゃうかったし、多分このレベルの安ワインやろ」と、1本2.99ポンド(613円)の安ワインを3本購入、私は5.00ポンド(1025円)負担せり。昨日台所の赤ワイン2本を飲み干せど、3本返却なれば、これにて一宿一飯ならぬ一宿一飲の義も果たせしか。
さてBenが迎えに来れば、一路Brightonへ向け出発。節約せねばと思いつつも空腹なれば、道中のドライブインにて最も安価なるチョコクリームドーナツ1個0,79ポンド(161円)を捕食。 午後4時に今宵の会場Engine Roomに到着。快晴の海岸が観光客にて大いに賑わう中、我々は、何やら悪臭漂う小汚い地下のクラブへ超重量級の機材一式を搬入、狭きステージに2台のドラムと巨大アンプ群を何とかセットしサウンドチェック。 晩飯は、界隈のFish & Chips屋にてSuper Cod & Chips 4.89ポンド(1002円)をテイクアウト、久々に食するフィッシュ&チップスは、以前連続轟沈させられし程強力にグリーシーなる代物にならねば、空腹もあり、油を吸い捲りし分厚き衣さえ剥がしハバネロソースをぶっ掛ければ見事完食。

今宵は、クラブより徒歩1分の距離にある海辺の奇妙なホテルに投宿なれば、サウンドチェック後にチェックイン。ピカチュウの部屋は、一面真っ赤にして彼女曰く「めっちゃ可愛い!」私と東君の部屋は、地中海若しくはエーゲ海こそ似合わんか、青と白が基調となりし何とも陳腐なアート嗜好の部屋、兄ぃとみつるちゃんの部屋は、尻が壁に並ぶ、全く意味不明の煩悩くすぐり捲るインテリアにして、まるで下衆なラブホの如し。

 

ライヴ後、何やら友人達と夜の闇に消えしピカチュウ以外は、ホテルのバーにてツアー初日無事終了の打ち上げ。ツアードライバーBenは、Hard Skinなる人気パンクバンドのギタリストにして、我々と同じ「昭和40年会」故、同世代なればこそ、当時のパンク話なんぞに花も咲きし。ビール3.00ポンドを3杯の計9.00ポンド(1845円)也。午前4時頃就寝。

 

7月31日(金) 
午前9時起床、湯船に湯を張りのんびり入浴後、ホテル内のレストランへ朝飯に向かう。所謂典型的イングリッシュブレックファーストなれば、ベイクド・ビーンズ+ソーセージ+厚切りベーコン+焼きトマト+マッシュルーム+目玉焼き+トーストと云う御馴染みのラインナップ。

精々コーヒーとパン程度しか食わぬヨーロッパ諸国の朝飯よりは、大英帝国流の如く斯くも大量に食らう方が性に合っておれど、迂闊に食い過ぎると酷い目に遭うのがこのイングリッシュブレックファーストの落とし穴か。同じ朝飯にベーコンを食すアメリカに於いては、薄切りベーコンを炭かと見紛う程にカチカチに焼き過ぎては、既に肉の味や食感さえ失われ、ベーコンの醍醐味とは何ぞやと思う事常なれど、ここ大英帝国に於いては、ハムステーキの如き厚切りベーコンを、脂が滴り落ちる程の焼き具合にと云うよりは、何処までも焼きても脂が枯れる事なからんと思えれば、果たしてどちらが良いのか。日本に於いては、そもそもベーコンなんぞ塩っぱ過ぎる故食す事皆無なれど、矢張り自分が日本人故か、薄切りベーコンを程々に調理したる日本流が一番と思うも当然か。 
昨夜のライヴにて、ギターの調子悪かりしかと思わせるトラブルの予兆若干あれば、ここは問題が深刻化する前に先手を打たんと、楽器屋へ赴きスペアギターを79.00ポンド(16195円)にて購入。 
正午、一路Londonへ向け出発。カムラさんよりポーランドのVivo Recordsから新譜ライヴアルバムが届きしと連絡あれば、カムラさん宅へ立ち寄りて受け取り、更にBenの実家に立ち寄りてスペアシンバルとスペアスネアを拾い、今宵の会場Corsica Studiosへ。オーナーのAdrianは常々新しい機材をいろいろ購入しておれば、今回の新兵器はレーザー光線マシーンなり。我々のサウンドチェックが終わろうとも、彼のレーザー光線とスモークとストロボとミラーボールが駆使されし照明効果のチェックは延々と続く有様。彼曰く「このレーザー光線マシーンはAcid Mothers Templeの為に買ったんだ!」サウンドチェックにて、昨日トラブルかと思われしギターをチェックするや、これまた不思議にも全く問題なし。スペアギター購入は、果たして早とちりにして無駄とならんか。
晩飯は、Corsica Studio名物ともなりしスタッフによる手料理にして、今宵はカレー擬きの煮込み料理+ライス+チャパティー+サラダ。

ここの食事は大抵外れる事なけれども、前回JNMFにて訪れし際は見事玉砕せし経緯もあり、油断禁物と思っておれど、今回はカレーとさえ思わねば全く問題なし。日本に於いて「欧風カレー」なんぞと云うては、マッシュルームが入りし一見お洒落なカレーが存在しておれども(たかがマッシュルームが入るのみにて「欧風」なんぞと連想しがちな日本人の、その余りにステレオタイプな「お洒落」なんぞと云うアホぶり何とも情けなし…ならばキクラゲが入り餡掛けにすれば間違いなく「中華風」ならん)「欧風」とはあくまで「風」であり、欧州に於けるカレーとは斯くなるものにあらず。そもそも欧州に於いてカレーとは全く以てポピュラーな料理にあらず、カレー粉なれば大抵の家庭に備えられてはおれど、その用途とは所謂カレーを作る為にあらず、日本に於ける胡椒の如き調味料の域に留まるものなり。嘗てフランスの女性映像作家Audreyにボンカレー甘口を試食させし処、辛過ぎて食すは不可と云われ、またParisにて冷凍食品のインドカレー(ライス付)を購入食せし折、カレーの辛味どころか風味さえ皆無、単に甘ったるいトマト煮込み料理の如きにして、果たして香辛料香しきカレーの醍醐味は何処へ、即ちフランス人は、カレーの風味に対し、日本人程に食欲をそそられる事もなからん。嘗てインドを植民地として直轄せし経緯ある大英帝国に限り、インド料理の認知度高く、故にカレーもポピュラーな料理に数えられておれど、そもそも薄味にして過剰なる辛味や刺激を嫌うイギリス人なれば、インドカレーと云えど大抵は味の無い(時には風味さえ皆無)まるでカレー粉を入れ忘れしかと疑いたくなるが如き代物にして、「欧風カレー」なんぞとは、日本のカレー粉メーカーが作り上げし幻想以外の何物でもなし。
スネアを張り替えし兄ぃは、例によってその古きスネアヘッドにサインして売らんとしておれば、ピカチュウにイラストなんぞ依頼、30.00ポンド(6150円)を付けれど、即買い手が現れ見事売却。兄ぃは折れしスティックもサインしては売却しておれば、常に着実に売り上げを築きし強か者なり。

ライヴ会場内は、Adrianによるレーザー光線飛び交いスモーク渦巻く照明効果により、まるでスペースディスコの如し。嘗てLondonの定宿として世話になりしGlynさんと再会、当然我々と共演せんと自慢のフルートを持参しておれど、その意向に添う事叶えてあげられず。Alan Cummings夫妻より差入れなんぞ頂けば、有り難き事この上なし。
終演後はSar宅こと小学校跡へと戻れば、東君は流石に疲れしか即寝成仏、夜食厳禁を誓うみつるちゃんが羨望の眼差しを送る中、兄ぃとピカチュウと3人にて、ビール片手にAlan夫妻よりの差入れを有り難く頂く。餃子と揚げ春巻と炒飯、流石Alanが太鼓判を押す中華料理店のものだけあり、大いに美味なり。特に餃子は、大いに郷愁をそそられる一品か。

それにしてもドラマー2人の食欲は止まる処知らず。腹も満たされれば、午前3時半就寝。

 

 

8月1日(金) 
午前7時半起床。さて朝飯は、今や恒例のポン酢と生姜と海苔を駆使した冷スパ+V8。ネット接続し雑務に明け暮れれば、既に昼飯の頃合いか。昼飯は、これまた今回の定番とならん麺つゆラーメン。この2大メニューにて質素倹約の戒を堅守せり。
午後12時半、Benが迎えに来れば一路Birminghamへ向け出発。午後4時半、Birminghamのレコード屋にしてレーベルでもあるSwordfish Recordsへ到着、Swordfish Recordsよりリリースされし2枚組DVD「Never Ending Space Ritual – History of Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.」のツアー物販用ストックを受け取り、今宵の会場Hare & Houndsへ。今宵我々の前座を務めるにせんねんもんだいと挨拶。Riot SeasonのAndy達と再会を祝しクラブ階下のバーへ、ギネスを2杯呷れば6.00ポンド(1230円)也。女性バーテンダーの手により、私のギネスの泡のみハートマークが刻まれておれば、これを愛のメッセージと思い込む程既に阿呆にあらねど、なかなか心憎いサービスなり。
晩飯は、クラブのスタッフによるベジタリアン料理にして、野菜のトマト煮込み+ライスなれど、米の炊け具合が随分硬そうなれば拒否、煮込みのみを頂けど、ハバネロソースを打っ掛け何とか食し得る程度なり。

然して何故斯様に、まるで調味料を入れ忘れしかと思わずにはおられぬ味も風味も皆無の料理ばかりなるか。されどいざ食す際には、卓上の塩やら胡椒やらビネガーやらを矢鱈とぶっ掛け食すならば、何故料理人がそれなりに味付けを施さぬのか。嘗てこの人声天語に於いて、この類いの苦言は幾度ならずとも呈せしものなれど、確かに万人全てを納得させ得る味となれば大いに困難若しくは不可能ならん、されど過半数の人々をそれなりに納得させ得る味ならば、大した料理人にあらざろうが経験と努力にて何とかならんと思えば、これこそ料理人が料理人としての責務を放棄せしとしか思えぬ体たらくぶりか。
にせんねんもんだいは、どうにも外国人にとって覚え辛き名前らしく、多くの客に彼女達の名前を尋ねられる始末。幾ら「Ni Sen Nen Mon Dai」と、ゆっくり教えし処で誰も覚えられぬ様子にして、結局その意味は「Y2K」と説明するに留まれり。今後海外進出を目論まんとするバンド各位へ、差出がましくも一言述べさせて頂くならば、バンド名は「覚え易い」「検索し易い」を旨として名付けられんが宜しかろう。
ライヴ後、バーにてギネス3.00ポンド(615円)を1杯呷り、昨年も投宿せし郊外のホテルへ。2部屋に分かれる際、喫煙組と禁煙組に分かれる故、喫煙者なれど最も喫煙を我慢し得る私が、禁煙組のBenとピカチュウと同部屋。午前3時就寝。

 

 

(2008/10/17)

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