『人声天語』 第141回「日伊共同戦線欧州道中股栗毛(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2008)」其之九

11月28日(金)
午前8時半、津山さんの捕食音にて起床。既に携行する食糧殆どを消費しておれば、先日Lyonにてケータリングより失敬せしカップヌードルを食さん。このカップヌードルは、正真正銘日清カップヌードルなれど、海外にて作られし代物故「Nouilles Japonaises」「美味」なんぞとカップに記され何とも怪し気。一口食らえば何とも例えようなき不味さにして、麺つゆにて味を変えんと試みし処で、何やらタイムかと思しきハーブ臭さが鼻に付けばおろし生姜を召喚、これにてハーブ臭さも一気に誤摩化されれば、海苔をもぶち込みて、これにて充分食し得る味となりし。パッケージに「Saveur Champignons “SHIITAKE”」と記されておれば、確かに椎茸のスライスかと思しき具を発見、されど斯くも欠片の如き椎茸では、椎茸の醍醐味皆無なり。

日清が、日本にて販売するカップヌードルと同じ味の物を欧州にて販売せぬと云う事は、マーケティングリサーチによる味覚の差異があればこそか。されどフランスの女性映像作家Audrey Ginestetが日本を訪れし際、カップ麺の豚骨ラーメンとカップ焼きそばを大層気に入っておられしを思い出せば、日本にて販売されるカップ麺各種の販売も、海外市場にてよりマーケットを拡大するに当たり有効手段と思われるが、これ如何に。
東君が、寿がきや味噌煮込みうどんを食すや、それを羨望の眼差しにて眺めし津山さんは、突然その味噌煮込みうどんの空袋を嗅ぎ始めると云う奇行に出られれど、そもそも乾麺にして、粉末スープは別袋にパッキングされておれば、当然味噌煮込みうどんの匂いなんぞする筈もなし。挙げ句「東君、その残ったつゆだけでも啜らせて!」と懇願、見兼ねし東君が味噌煮混みうどん1袋を進呈、津山さんは大感激にして勿論即座に拵え、一瞬にて食しておられし。寿がきやの味噌煮込みうどん美味いですからね。

正午、イタリア軍団が到着。昨夜の戦果は如何にと訊ねるより先に、全員が口を揃え「Very bad, very very bad night!!」と、大いに不貞腐れ気味、何故かと問えば、可愛い女性は多けれども、いざ口説き始めれば「明日は朝から学校があるから」「明日は仕事だから」等と、体よく断られしとかで、結局誰もポイント獲得叶わじ。斯くも完全玉砕すれど、凡そ今夜になれば最早昨夜の玉砕なんぞ忘却の彼方となり、再びポイント獲得に挑むと承知しておれば、まあ何とも幸せなる連中なるか。
午後1時、Dudingenへ向け出発。本日の移動は僅か40km弱なればお気楽なり。
午後2時半、Dudingenに到着すれば、入り時間まで各自のんびりせんと、ホテルへチェックイン。今回のツアーに於いて初めての個室。既に食糧全てを食い尽くし大いに空腹なれば、何か食わんと近所のスーパーへ。日本食材コーナーにて、日清の製品を発見すれば、カレー焼きそば1袋、韓国キムチラーメン1袋、特辛韓国ラーメン1袋、カレーヌードル3個を、更に鯖缶2個を購入。

兎に角猛烈に空腹なれば、カレーヌードルを洗面台の湯にてふやかさんとすれど、海外製カレーヌードルとは云えど「腐っても日清」か、その製麺技術は海外の他社を優に凌ぐか、そう簡単にはふやけず。またカレー風味が、パキスタン料理然とせしクセのあるスパイスの香り立ち込め、されど辛味は皆無なれば、何とも頂けぬ代物にして、結局湯を何度も取り替える事にて、何とか麺をふやかしつつ、クセのある香りが鼻に付く粉末スープを麺から洗浄せんとす。漸く食し得る程度まで麺もふやけ、クセのある香りも大凡除去し得れば、ビリヤニをドライカレーに見事変貌させし四天王、即ちカレー粉、トンカツソース、味の素、ハバネロソースを以て味の付け直しを図れば、充分食し得る程度までの改造に成功せり。

午後4時、一旦今宵の会場Bad Bonnへ、ケータリングは我々の苦手とするクスクスなれど、イタリア軍団は「これは美味い!」と貪り食らいし。クスクスの食感が苦手な私は「こんなもん鳥の餌やんけ!」と完全拒否、オリーブやチーズ等を僅かながら食すのみに留める。食に対し「食うた事ないもんは嫌いや! 」と保守派の津山さんは、私同様クスクスに手を出さねど、空腹を訴える東君と兄ぃは、果敢にクスクスに挑まれれば「うぷっ…不味い」と敢え無く自爆轟沈。

続けて出されし一見イタリア風の薄い生地のピザにイタリア軍団は歓声を上げれど、味は日本のピザの如きマヨネーズ味なれば「不味い!」と大不評。彼等にとってマヨネーズとピザの融合とは、ピザに対する侮辱の如しか、されどフランス人以上にマヨネーズを愛する我々日本人にすれば充分に食し得る代物にして、葱の風味も香しく問題なし。

Stearicaのサウンドチェック終了を待ち、再びホテルへ。猛烈なる空腹に苛まされし東君が、堪り兼ねラーメンをふやかし始めれば、丁度クラブにて晩飯の時間と相成り、大慌てにてそのラーメンを食せし東君は、クラブへ向かう車中にて「いかん…もう腹が膨れて来た!」と零す始末。 会場にて用意されし晩飯は、先ず白身魚が入れられしスープ、バターが少々諄けれど充分に美味なり。

さてメインが出されるまで、かなりの時間を要すれば、東君曰く「うぐぐぐ…もう満腹感がどんどん脳に伝えられて行く…一気に勢いで食ってしまいたかったのに…」漸く出されしメインは、鶏腿肉の香草焼きとリゾット・アッラ・ミラネーゼなり。特にリゾット・アッラ・ミラネーゼは余り好きでなけれど、これは意外にもチーズの含有量控えめにして、丁度良き塩梅か。鶏腿肉の香草焼きは、今回のツアーに於いてベスト3にランクインする美味さなり。

Francescoは何やら体調不良か、さてまた昨夜のポイント獲得失敗が精神的ダメージを与えしか、演奏に於いてもミスを連発すれば、終演後大いに落ち込みし様子。Lucaも流石に疲れし様子か「眠い」を連発、車中爆睡せしDavideは相変わらず元気なれど、流石に驚異的ハイテンションを堅持せしイタリア軍団も、ツアー終盤に来てお疲れの御様子。されどホテルへ到着する直前に、突然Koppaが大笑いし「あれを見ろ!」と指差せし先は銀行のATMコーナー、皆で何事かと目をやれば、何と恋人同士と思しきカップルが熱き抱擁シーンを展開中、これにはついぞ先程まで意気消沈気味なりしStearicaの3名も思わず覚醒、ホテルへ到着するや否や、一目散に現場のATMへと駈け行く始末、暫くは笑いを堪え覗いておれど、矢張りアホ極まりなき能天気な悪気なきイタリア人、いつまでもじっとしておられる筈もなく、奇声を上げ散々冷やかせば、四肢を絡め合い熱き接吻を交わせしカップルもこれには根を上げ、照れ隠しと云うよりも、恋路を邪魔されし怒りか睨み返す有様、これに対しイタリア軍団は奇声を上げ大笑いしホテルへと戻れり。ホンマこいつら小学生か!何にせよこれにてイタリア軍団が元気になりし事に違いなく、何とも愛すべき憎めぬ連中なり。

ホテルの自室へ戻り、テレビにてエロ番組を観賞しつつ、スコッチ片手に鯖缶を摘まんと、ポン酢をぶっ掛けおろし生姜を添え食し始めれば、尚更空腹感が刺激され、突如カレーヌードルを食さんと思い立ち、先程と同じ洗面台の湯にて粉末スープ完全洗浄を図りつつふやかす作戦に打って出る。麺を濯ぎし際に具も一緒に流れ出してしまえど、例のクセのある香りの元凶なる粉末スープ除去こそ命題なれば、一切気にせず兎に角麺を濯ぐのみ。今回はカレー風味を一掃し、代わりに永谷園のお吸物の素にてつゆとし、そこへ洗浄済みの麺と鯖缶の残りをぶち込めど、未だ例のクセのある香りが松茸風味を凌いでおれば、ここで永谷園のお吸物の素をもう1袋投入、さらにおろし生姜にて更なる臭み取りを図り、鯖生姜松茸風味ラーメンとして食せど、矢張り例のクセのある香りが僅かながらも気になれば、何とも微妙なる味わいなり。何でたかがカップヌードル食うのに、こんな苦労せなあかんねんな!午前3時就寝。

 

 

11月29日(土)
流石にツアー終盤ならば疲労も蓄積せしか、それとも個室故に熟睡せしか、午前10時半起床。東君が朝飯の誘いに来れば、2人してホテル内レストランへ赴く。昨夜Francescoより朝飯は12時までOKと伺っておれど、既に昼飯前のワインを楽しむ客も見受けられ、今更朝飯を食らうは我々のみか。コーヒーとパンとハムとチーズとヨーグルトが運ばれて来れば、さっさと食らいて早々に退散。

11時過ぎ、掃除する従業員に「もうチェックアウトの時間だから」と、退去を命ぜられ、隣室のイタリア軍団にその旨を伝えんとノックすれば、何と今まさに目覚し処か。早々にホテルを後にし駐車場へ赴けど、誰も出て来る気配さえなし。暫くして日本勢はチェックアウトし駐車場に結集すれど、イタリア軍団は出て来る気配なし。東君の話では「今あいつら朝飯食ってたよ」飽くまでも能天気にして悪気なき彼等なれば、その図々しさ全く以て畏れ入るのみか。津山さん曰く「ワシら日本人って、相手の事気にしてすぐ出て来てもうたけど、あいつらホンマ凄いよなぁ…」結局我々は、駐車場にて彼等を待つ事1時間以上、どうもホテルのPCにて、我々の為に最終日の空港へのアクセスの最終確認を行いしとか。
午後12時半、St.Gallenへ向け出発。外は次第に雪景色に変われば、車内の冷え込みも厳しくなれり。KoppaはQueenを爆音にてカーステから流し、鼻歌なんぞも歌いて御機嫌なる様子。彼はQueenにてロックに目覚め、Sex Pistolsにてパンクを知り、Dischargeにてパンクに目覚めしとか。日本のパンクバンドでは、G.I.S.M.とS.O.B.とLip Creamの大ファンらしく、日本のハードコアバンドは凄いと語る。彼の知人が営むパンク系レコード屋にても、日本のハードコアの売れ行きは半端ならぬそうで、また彼が着る革ジャンやパーカーやTシャツは、殆どが日本のバンドのもの。因みに彼は、かなり人気のあるハードコアバンド(バンド名失念)にてギタリストを務めており、何と彼女がドラマーを務めるとか。
午後4時半、今宵の会場Crabenhalleに到着。ケータリングのサンドウィッチはハムが入っておれば拒否、否、例えハムが入っておらねども、元来パン嫌いなれば、そろそろパンを食らうも限界か。Stearicaのサウンドチェック中、我々は物販商品の棚卸し、余剰在庫となるCDの解体作業、2009年春に行われるUSツアー用としてアメリカへ発送する分と国内へ返送する分とに分け箱詰め。ツアーTシャツは殆ど売り切れんと思えば、残りは分担して日本へ持って帰る事に。斯様な作業に突入すれば、いよいよツアーも終わりが近付きしと実感せりかな。
オルガナイザーに連れられ界隈のレストランにて晩飯。クラブと何やら提携せしか、出演者メニューは選択肢なしにして、お任せコースのみ。前菜のサラダは、無難にイタリアンドレッシングを選択し問題なし。さて主菜が運ばれて来れば、肉団子のトマトソース添え、ポテト、リゾットやらスクランブルエッグやら定かならぬ代物にして、先ずこの怪し気なるリゾットやらスクランブルエッグやら定かならぬ代物は、こちらで時折遭遇するローズマリー過多なれば、ローズマリーの風味が強烈過ぎ最早ローズマリーを食むが如し、到底食し得る代物にあらざればいきなり爆死轟沈。今や高次元のステージに立たれる津山さん曰く「グァ~って一気に食うたら味わからへんから何でも食えるわ!」流石である。最初に手を付けしリゾットやらスクランブルエッグやら定かならぬ代物にていきなり玉砕すればこそ、次の肉団子に対しても、あの激不味料理戦線最終大量破壊兵器たるバババーグの悪夢が一瞬脳裏をよぎれど、いざ食してみれば一応普通の肉団子にて安堵。されどトマトソースが塩っぱ過ぎ、ポテトを潰し混ぜ合わせねば到底食し得ぬ代物か。苦悶する私を他所に、イタリア軍団はこれらに対し美味と述べておれば、矢張りこれは味覚の相違か。


食事中もイタリア軍団は、女給のネエちゃんを口説き始め、挙げ句「仕事はいいからここに座って一緒に飲もう!」と困らせる始末。女給のネエちゃんが無理となるや「この店内にいる女性で誰がタイプか?」なる話題にて盛り上がり、各々あのテーブルに座するあの女性がタイプなんぞと、周囲の迷惑顧みず馬鹿騒ぎしておれば、挙げ句お目当ての女性客に話し掛けに行く有様、いよいよツアーも終盤なれば遂にイタリア人の真骨頂発揮されんか。
クラブへ戻り、楽屋にてビールなんぞ呷りつつKoppaと恋愛論について歓談。 今宵の投宿は徒歩数分の界隈のホテル。兄ぃより携帯電気調理器を借り受け、日清キムチラーメンを食さんとす。これは粉末スープを味見すれば問題なしと思えば、海苔を添えて食らわんとすれど、矢張り味の深みが欠落せし故、ラーメンの救世主なる味の素を加えるや、大いに美味なり。

さてイタリア軍団は、ツアーも終焉間近なればこそか、明日はいよいよツアー最終日にしてイタリアへ帰国なれば、今夜がラストチャンスと云わんばかり、ポイント獲得に挑まんと街へ繰り出せり。何でもイタリア国内にてポイント獲得すれば、即myspaceにてチクられるとの事で、彼女に事が発覚する危険性大らしく、彼等曰く今宵こそがラストチャンスらしけれ。特に未だポイント獲得に至らぬDavideの張り切りぶりは、半端ならず。彼に「Makotoも一緒に行こうぜ!」と誘われれど、既に満身創痍にして疲労困憊、そんなパワー全く残っておりません。午前3時就寝。

 

(2009/1/7)

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