寒到来、我が季節来たり。摂氏5度から15度が快適気温なだけに、冬の到来は喜ばしい限り。現在の私の部屋は、あまりの狭さにストーブ等の暖房器具を置けるはずも無く、唯一小振りの手焙り火鉢があるのみ。建築構造上の問題で、夏は灼熱地獄、冬は恐ろしく底冷えするが、冬に限り問題は無い。時に部屋の中であるにも拘わらず、吐息が白くなる等もあるが、凛慄とする程でもない。前世ではよもや白熊ではなかったか、等とも笑われる程に、寒さに対し取立てて構える必要もなし。ましてちーんと冷えきった空気の中で聞こえる音と云えば、それは微細な輪郭迄も鮮明な、凛烈万古に存すと云った具合か。
春はあけぼの、冬は鍋。日本の冬と云えば「鍋」である。
東君と私が盃を傾ける際、暗黙の了解で 冬は常に鍋である。鍋と云えども今や千差万別、水炊き等主流なるは今は昔、近頃ではチゲやら何とやらと、異国情緒香る鍋などが人気を博している様子。かつての我らの定番は「豚しゃぶ」であり、途中で味に飽きが来るや、急遽「キムチ鍋」に切り替える事も可、しかし何しろ豚ロース肉を使うが故、コストが意外に高くつく事が悩みの種であった。
そんな或る日、何故か「モツ鍋」を試してみようと云う事になり、かつてのモツ鍋ブームの頃を思い返しては、斯様なモノだったか等と半信半疑にて、されど取り敢えずそれらしいものと相成った。夕方から夜更け迄、チビチビとやるのが我ら流なれば、知らぬ間にモツなど煮詰まりて、これはまさしく「どて煮」なるを、刻み葱と七味等添え頬張れば、これまた格別の美味なり。と云う塩梅で、我ら流「モツ鍋の食し方」とは、まずはひたすらキャベツ、ニラ、豆腐等を食し、モツには一切手を付けるべからず。いずれ野菜等も底を尽きし頃、おもむろに煮詰まりしモツに、刻み葱や七味等添え、須らくどて煮として味わえば、これまた一夜一品にして二度楽しめん。これぞ貧乏人の知恵なるか。
ではここで、そのレシピを紹介。
<用意するもの(2人分)>
モツ 300g、キャベツ 1/2玉、ニラ 2束、木綿豆腐 2丁、ニンニク 3~5カケ(お好みで増量可)、白味噌、赤出し、焼肉のタレ、擦り炒り胡麻、刻み葱、七味、出汁用昆布。
<作り方>
(1)まずは土鍋に湯を湧かし、出汁用昆布を入れ、そこへモツ(ボイル済みの白モツが望ましい。生モツからだとその臭みを消す難渋さが半端ではない為。)を放り込み、ニンニク3~5カケ等擦りおろし入れ、後は兎に角ひたすら(最低15分以上)煮る。時折灰汁をすくうのを忘れぬように。 その間に、野菜や豆腐は適当な大きさに切っておく。キャベツの芯も食べ易い大きさに切り、切り屑等と共々決して捨てるべからず。
(2)モツが煮えたら、白味噌と赤出しをお好みで溶き入れる。味の目安は、味噌汁よりやや薄め。赤出しはモツの臭み消しに効果的故、好みどうこう関係なく入れた方がよい。ここで豆腐、キャベツの芯や細かい切れ端や切り屑等も放り込む。キャベツの芯は煮えにくい故、切れ端等は解けて野菜の旨味を醸し出す為、この時点で入れる事が望ましい。
(3)味噌を入れて5分程煮立たせれば、一度湯気の匂いを嗅ぎ、尚臭みが気になるようであれば、隠し味の焼肉のタレを少々入れる。味が豊穣になる上、臭み消しにもなる。おろしニンニクでの代用も可ではあるが、ニンニクの味や香がきつくなり過ぎると、旨味が損なわれるので、焼肉のタレをお薦めする。
(4)キャベツを大量に放り込み、一煮立ちさせる。
(5)食べる直前にニラを放り込み、ニラが程よくしなっとなった辺りで、お好みで擦り炒り胡麻を振り掛け、まずは豆腐と野菜をいただく。
(6)具や出汁がなくなれば、普通の水炊き同様に、湯や豆腐と野菜を補充しては一煮立ちさせいただく。モツには決して手を付けるなかれ。
(7)野菜等を食し終えれば、モツをそのまま鍋で煮詰める。
(8)出汁がほぼ無くなった辺りで火を止め、刻み葱と七味を添え、どて煮と化したモツをいただく。
総材料費は、およそ700円程度。しかし鍋を食せる迄の過程に多少の時間を要する為、小鉢等のアテを用意しておくと、尚宜しきかな。
しかしこのモツ鍋、最後に出汁を煮詰めてしまう故、うどんだの雑炊等は出来ぬ相談であるから、チビチビやる所謂「飲ん兵衛」向きであろう。しっかり食いに走りたい輩は、次に紹介する「ローズチゲ」がお薦めであろうか。
「ローズチゲ」なるは、永きに渡り各国料理店のシェフ等勤めし私が、あまりに食い飽きたる「モツ鍋」に代わるべく今年の定番として考案した逸品。豚バラ肉を使う事から命名せし此の名前至って不評なるが、味の方は極めて美味なり。何に於いても豚バラ肉を仕様する為、コストは須らく安し。
ではこちらのレシピをば。
<用意するもの(2~3人分)>
豚バラ肉 400g、とり肉ミンチ 150g、白菜 1/2玉、ニラ 2束、木綿豆腐 2丁、エノキ 2袋、豆付きもやし 1袋、白葱 1本、白味噌、赤出し、擦り炒り胡麻、砂糖、 市販キムチの素(無い場合は、おろしニンニク3カケ分+砂糖小さじ3+酒適量+ 豆板醤小さじ2+白味噌大さじ1+赤出し大さじ1で代用)、出汁用昆布。
<作り方>
(1)まずは土鍋に湯を湧かし、出汁用昆布を入れ、そこへ適当に切った豚バラ肉を放り込み、肉の旨味が出汁に溶け出す迄一煮立ちさせる。豚バラ肉は、いくら煮ても硬くならぬので、最初に全部放り込んでも問題なし。その間に他の野菜や豆腐を切っておく。とり肉ミンチは刻み葱等加え混ぜておく。
(2)胡麻を軽く炒り、すり鉢で擂る。そこへ鍋からひとすくいした出汁と砂糖小さじ3、白味噌と赤出しを各々大さじ1 ~ 1.5 杯分すり鉢へ入れ、すり胡麻と一緒に擂りながら溶く。
(3)とり肉ミンチをスプーンでダンゴ状に丸め、鍋へ豆腐と共に放り込み、蓋をして一煮立ちさせ、そこへ(2)を溶き入れ、更にキムチの素を入れる。後で白菜から水が出る為、ここでは多少味が濃い程度にしておく。
(4)豆腐と鳥団子に味が染み込んだら、白菜、豆付きもやし、エノキ、白葱、ニラの順に放り込み、蓋をして一煮立ちさせれば出来上がり。
総材料費は、およそ1000円~1500円也。お好みで、胡麻風味が損なわれぬ程度に辛くするのも宜しかろう。また鳥団子の代わりに、牡蠣やその他海の幸等放り込むのも、趣向が変わってまた宜し。勿論締めには、うどんから雑炊へのフルコースも楽しめる。今年の冬は是非お試しあれ。
我ら極めて赤貧なれど、食へのこだわりは捨てられる筈も無く、日々何やら怪し気なるインプロヴァイズド・クッキングを試みては、此れは旨いだの其れは不味い等とホザきつつ、されど文句をも肴にしては、盃傾ける事こそ此の上なき歓びなるかな。
所詮大枚切りし処で、必ずや旨きにありつけるとも限らぬ故、己の味覚を信じては、あれこれ精進するもまた「をかし」。ましてや不味き限りの出来上がりしは、泣くにも泣けぬがこれもまた、己の未熟さと知らしめられ、涙ながらに頬張るも、大枚切りて不味きに当るより、腹も立たぬし取り敢えずは腹ぞ膨れん。
鍋なればこそ、ひとりで食らいしは稀なるに、たとえ不味き限りであろうとも、酒酌み交わす友もいれば、共に不味きを食みて涙すれば、金無き様なら仕方なしと、此処に情も一層深くならん。貧しき折の友なればこそ、真の友なりと身に沁みつつ、されど食なればやはり「はじめに美味ありて」尚嬉しきは至極当然の理。
(2001/12/06)