『人声天語』 第41回「バラエティー味噌煮込み」

待望のWWF来日公演@横浜アリーナのチケットは、八方手を尽くしたが結局入手出来ず。唯一SS席3枚分のキャンセル待ちを入れてあるが、まあこれも九分九厘望みはあるまい。考えてみればここ十数年来、プレイガイドでチケットを購入する経験等皆無であった為、今時のチケットぴあのチケット購入システム等を全く理解しておらず、ネット上での先行予約やら、チケット発売初日の電話予約やら調べては、キョードー東京に5時間ものリダイヤル攻勢を掛けたものの、奮闘も虚しく結局は徒労に終わった。「予定の販売枚数は全て終了いたしまた。」漸く電話が繋がったと思いきや、斯く告げるあまりに無機的な応対の女性の声、未だに耳の奥に木霊する。長きに渡ってWWFを愛し続けてきた我々が、まさか日本公演のチケットを手に出来ぬとは、一体いつの間にWWFは、これ程迄の人気を日本で博するようになったのか。まさにビンス・マクマホン恐るべし。

また漸く昨年暮れからの爆弾騒動も、思いもかけぬ大逆転で完敗を喫する顛末と相成った。結果としては、爆弾の効果は私の読みが全く外れ、と云うよりも仕掛けの時期既に遅く、その効力を全く発揮出来ずに終わったと言える。しかし失うもの無き今、逆に云えば何でも出来ると云う「無限の可能性」を手にしたと云う事か。

さて、そんなこんな波瀾尽くめのこの冬、私は何故か「味噌煮込み」に滅法ハマっている。この味噌煮込みとは、即ち名古屋名物のひとつ「味噌煮込みうどん」の事であり、土鍋にてうどんを味噌と出汁で煮込んだ、名古屋ではお馴染みの庶民的メニューであり、中でも私は「寿がきや」のインスタントがお気に入りである。この逸品は、どうやら中部圏のみでの販売らしく、ツアー等の投宿先へのお土産として持参すれば、結構喜んで戴ける。
この寿がきやのインスタント味噌煮込みは、製麺技術が大変素晴らしく、煮込んでも決して麺がのびる事なく、あの本来味噌煮込みうどんが持つ麺のコシを、家庭に於いても至って容易に再現出来る。
味噌煮込みの具とは、本来「玉子」「かしわ」「椎茸」「葱」「蒲鉾」辺りが定番のようで、更にこのパッケージには如何にも名古屋らしく「海老天」等も写っている。
名古屋に於いて、味噌煮込みを出す飲食店無数にあれど、基本的にはこれらの具が乗った、所謂「定番」としての1種類しかお目にかかった事はない。また日頃、私が自宅で作る際も「玉子」「椎茸」「油アゲ」「葱」が定番である。

ある日、やはり味噌煮込みを作ろうと、具探しの為に冷蔵庫を物色しているとキムチが残っており、はてキムチを入れてみてはどうか等と思い立ち、そもそもキムチ味噌ラーメンなるものが存在する故、これも然程悪くはなかろうと、味噌煮込みにキムチを乗せてみるや、これがなかなかの美味にて、やはり味噌とキムチの相性たるや語る迄もなし。
では更にヴァ-ジョン・アップせんと、色々試してみれば、遂に究極の「キムチ味噌煮込み」が完成した。折角なので、ここにレシピを紹介する故、是非お試しあれ。

「キムチ味噌煮込み」

<用意するもの>

寿がきやインスタント味噌煮込み1袋、干し椎茸 2個、白葱 10cm程度、油アゲ 1枚、豆板醤 小さじ1、キムチ 適量(お好みで)、玉子 1個

<作り方>

  1. 鍋で湯を湧かす。この時に干し椎茸を適当な大きさに切り、一緒に入れておく。椎茸の出汁が取れる上、具にもなって一石二鳥。
  2. 湯が湧いたら、うどんと適当に切った油アゲを鍋に入れる。
  3. 麺がほぐれたら、豆板醤と添え付けの粉末スープを加える。
  4. 5分で麺が茹で上がる為、4分辺りでキムチと、適当に切った白葱を加える。
  5. 麺が茹で上がったら麺と具のみを鉢に移し、スープに玉子を割り入れて一煮立ちさせる。
  6. 白身が固まれば火を止め、鉢にスープを玉子も加えて出来上がり。更に辛いのが好みの場合は、七味(若しくは一味)をお好みで加える。

料理の所要時間は、約7分程度。キムチがない場合は、この時期鍋の残り等の白菜があれば、白菜を適当に切り塩揉みして水分を抜き、キムチの素(若しくは豆板醤+砂糖少々)で和えれば代用出来る。またお好みで豚コマ等を入れて「豚キムチ味噌煮込み」にしても良い。
この寒い時期に、ぴりっと辛味の効いた温かな味噌煮込みは、なかなか体の芯から暖まる逸品。


ひとつ考え付けば、自ずから次々と思いつくのが常識で、更に考案した「胡麻味噌煮込み」も紹介。

「胡麻味噌煮込み」

<用意するもの>

寿がきやインスタント味噌煮込み1袋、干し椎茸 2個、白葱 10cm程度、油アゲ 1枚、豚コマ 少々、白菜 適量、炒り胡麻 少々、玉子 1個

<作り方>

  1. 鍋で湯を湧かす。この時に干し椎茸を適当な大きさに切り、一緒に入れておく。椎茸の出汁が取れる上、具にもなって一石二鳥。
  2. 湯が湧いたら、豚コマを入れる。灰汁をすくう事忘れずに。
  3. 入り胡麻をすり鉢で擂っておく。
  4. 豚コマが煮えたら、うどんと適当に切った油アゲを鍋に入れる。
  5. 麺がほぐれたら粉末スープを加える。更にそのスープをひとすくいしてすり鉢へ入れ、擂った炒り胡麻と混ぜ合わせ鍋に戻す。
  6. 5分で麺が茹で上がる為、4分辺りで適当に切った白葱を加える。
  7. 麺が茹で上がったら麺と具のみを鉢に移し、スープに玉子を割り入れて一煮立ちさせる。
  8. 白身が固まれば火を止め、鉢にスープを玉子も加えて出来上がり。

こちらは、胡麻風味の効いた香ばしい味噌煮込み。豚コマから出る出汁とこってり感が胡麻と味噌の風味と合わさり、意外にもさっぱり楽しめる。白菜から水分が出る為、予め湯は少なめにしておく事がポイント。
寿がきやインスタント味噌煮込みを入手出来ぬ中部圏外在住の方は、市販のうどんで試みられても構わぬが、その場合は、鍋の後でうどんを入れるかの如く、土鍋にて手早く一煮立ちさせる程度にされん事、是非留意されたし。

私はその他「煮干し味噌煮込み」やら「高菜味噌煮込み」挙げ句は「かき揚げ味噌煮込み」まで試みたが、要は、うどんであれば従来「きつねうどん」「天婦羅うどん」「山菜うどん」等、バラエティーに富んだメニューがあるのであるから、味噌煮込みに於いても、単にそれらのアイデアを拝借したに過ぎない。ラーメンは勿論、そば、うどん等麺類に関して、世の中にはこれ程多くのバリエーションが存在するにも関わらず、何故味噌煮込みは1種類しかないのか。名古屋人は保守的であると云われるが、この味噌煮込みひとつを取っても、正にそうであると言えるであろう。「名古屋は文化不毛の土地」と云われて久しいが、大衆食堂にて各種味噌煮込みがお目見えする時こそ、名古屋の目覚めの時となるのではないか。自分達が生んだ名物を、単に名物としてそこに安住させるのではなく、沖縄のソーキそばの如く、より高みを目指してこそ真の名物となろう。されど保守的な名古屋人の事であるから、名古屋名物の味噌カツを乗せて「味噌カツ味噌煮込み」なんぞ作りそうであるから、もしも斯様な事にでもなろうものなら、尾張が生んだ革命児織田信長も草葉の陰で泣く事想像に易し。

今や問題山積みにして暗礁に乗り上げている愛知万博に於いて、沖縄が海洋博の折にソーキそばを作り上げたかの如く、起死回生の味噌煮込みが発案されるかどうか。私見としては、名古屋人が斯様な努力する筈もなく、愛知万博も世界に名古屋の醜態を曝し嘲笑の下に閉幕する事であろう。はてその時「裏切り者」末広まき子は、何と釈明するのであろうか。

(2002/1/25)

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