<特別編 AMT TOUR 雑記2002> 第67回「Love letter from Canada」

『人声天語』  人声天語特別編 AMT TOUR 雑記 2002 其の壱:USA & CANADA編


第67回「Love letter from Canada」

10月14日、朝9時起床。10時、Alien8 RecordingsのGaryの案内でレンタカーを借りに行くが、市民マラソンとバッティングしてしまい、ホテルに戻ってみればチェックアウト時刻の12時。大慌てで荷物を積み込みチェックアウト。ロビーでは、多くの出演者やスタッフが顔を揃える。やはり昨夜はインパクトのあるパフォーマンスだったようで、皆口を揃えて「Crazy!」「great show!」と云って来る。さて皆とさよならして、Alien8 RecordingsのGaryと共に一路カナダへ。Alien8はカナダのレーベルで、AMTの新譜「Electric Heavyland」をリリースしている。今回彼のオルガナイズで、彼等の本拠地Montrealにて私のソロとAMTの計2回のコンサートが行われる事になっている。我々はGaryの先導の下、一路カナダへ向う。カナダの国境は結構厳しいとの話で、事前にワークパーミットの発行を依頼していたのだが、結局間に合わず、観光客を装って入国する事となった。万が一に備え、17日より共にアメリカをツアーするKinskiにCDやLP等の商品を預け、我々は機材と最小限の商品を携えて国境を目指す。ところがカナダ国境でのチェックは皆無で全くもって拍子抜け。国境越えでのトラブルを心配した津山さんが、CDの箱に「not for sale」と書いていたのも今となっては御愛嬌。

Montrealはフレンチカナディアンの街である為、街中全てフランス語表示。我が愛しのフランスへ辿り着いたような錯覚さえする。午後8時Gary宅に到着。先ずはGary宅にて、彼の奥さんの自慢の手料理豆カレーをよばれる。「マスタードガス」なる、スプレー缶の如き容器に入っているホットソースが激辛、これにはAMT全員即死。もし見つけたら是非購入して帰りたい逸品である。さて食事後、今宵は私のソロパフォーマンスとセッションがある為クラブSala Rossaへ向う。

ソロはドローン系の演奏。セッションはGodspeed You! Black Emperorのギタリスト2人と、Martin Tetreault達とであり、最近はJ.F. Pauvrosとのデュオ等、ギターデュオの形態が多かったので、これだけの人数でセッションするのは久しぶりの事である。

終演後、可愛い女性とグラス片手に話し込む。フレンチカナディアン圏なので、殆どの人が顔立も佇まいもヨーロッパっぽい。勿論女性が可愛い事は言わずもがな。されどフランス語のアクセントは、やはり本場フランスの方がセクシーである。カナディアンフレンチは、少々ハードで力強すぎるきらいがある。同じフランス語でも、アクセントひとつで随分異なる印象を受けた。

10月15日、昨夜3時に就寝したにも関わらず、朝6時起床。昨日ドライブ前に購入したサラダで腹ごしらえ。朝10時にGaryと共に外出。先ず楽器屋にてブズーキ用ピックアップを購入。その後、中古レコード屋へ。今回のツアーではあまり買わないつもりであったが、ついつい6枚程購入。午後1時からサウンドチェックの為、クラブSala Rossaへ向う。海外でこれ程早い時間にサウンドチェックをする事は初めて。と云うのもこのクラブは騒音問題を抱えており、階下のバーが昼休みの間に済ませてしまわねばならぬ、と云う理由かららしい。昨夜、Godspeedのギタリストの1人に、Terrastockで壊したファズの修理を依頼したのだが、この時点では未だ結果は不明。取り敢えずファズなしでサウンドチェックをこなす。

サウンドチェック後、再び中古レコード屋へ。シュトックハウゼン等、現代音楽のLPが揃っているレア盤屋には驚愕。未だツアー序盤であり、資金不足の為、かなりのアイテムを断腸の思いで断念。もう1件のレコード屋はGaryの勤め先らしく、カナディアン・トラッドを数枚購入。Gary宅へ戻ると奥さんの手作りピザで夕食。これがまた絶品で、何しろ文句タレの津山さんに「これは美味い」と言わしめる程。ワイン片手にピザを頂き、一服してからクラブへ戻る。結局ファズは修理出来ず、Godspeedの彼からファズを借りる事に。音的には厳しいが仕方あるまい。しかし演奏中にこのファズの調子も怪しくなり、更にディレイまで接触不良と云うトラブル勃発。更に今朝から喉が痛かったのだが、ステージ上で煙草を吸うや、突如肺に空気が入って来なくなり、呼吸困難状態となって、思わず一時楽屋へ戻る騒ぎまで起こしてしまったが、何とかしのいで無事終演。終演後、バーでパスティスをあおる。Gary宅へ戻り、4時半就寝。

10月16日、朝8時起床。シャワーを浴び、朝食の仕度。今回のツアーは、レトルトカレーを大量に持参している為、先ずはカレーうどん。カレーとは不思議なもので、この匂いを一旦嗅いでしまうと、無性にカレーが食べたくなる。10時半、Garyと共に楽器屋へ行き、中古のロシア製ビッグマフ(黒)を購入。取り敢えずこのツアーは、これで乗り切るしかあるまい。さて続いて中古レコード屋へ。訪れた店が宝の山状態、津山さんと2人で脳汁出まくり状態に。先ずはカナディアンフレンチ・コーナーとサントラ・コーナーから大量に抜きまくる。ワールドミュージック・コーナーにはベリーダンスのLPが大量にあり全部買おうと思ったのだが、資金上の問題でやむなく厳選する。津山さんも、我々の言う処の「かすコーナー」から何やら大量ゲット。結局私は勢いで段ボール1箱分も購入してしまい、Garyに日本へ送ってくれるよう依頼する羽目となった。

さてGaryとさよならして、我々は再び一路アメリカへ。Garyによると、国境越えはカナダへの入国よりカナダから出国する方が厳しいと言う。我々はワークパーミットを持っておらぬ故、あくまで観光客でなければならぬ。しかしいざ国境で止められるや、当然楽器群を指していろいろ問われる。面倒臭いので「We are amateur, not professional!」と繰り返す。何か商品を持ってはおらぬかと尋ねられたので、LPの段ボールを取り出すや、国境警備員に「お前ら今更LPで出してるのか?」と笑われ、更にバンド名を見るや「Acid Mothers Temple…? ガハハハ!何て名前だ、こいつらAcid Mothers Templeって言うんだぜ、見てみろよ、ガハハハ!」と散々警備員一同に爆笑された後、「OK, go! Have a nice trip, Freaks!!!」何はともあれバンド名の御蔭で、ほぼノーチェックで無事に国境越え。しかしアメリカ人等、英語を母国語にする人々にとって、Acid Mothers Templeと云うバンド名、一体如何なイメージを与えているのだろうか、至って興味深い。

さて今宵の会場は、Brattleboroと云う小さな町のThe Common Groundと云う小さなスペース。このThe Common Groundは、1972年からあるヒッピー・コミューン系のスペースで、その古臭いオールド・アメリカンま佇まいとは裏腹に、何やら胡散臭さ溢れるベジタリアン&エコロジストな雰囲気は、ここ最近の「偽善的なヒッピー」と云う、私の最も嫌う空気が立ち篭めている。何を隠そう、私はベジタリアンとエコロジストが大嫌いなのである。この類いの輩共が出入りしていた「聖家族」に勤めていた頃から、否、それ以前に日本のビートニク・コミューンに関わっていた頃から、こういった輩共の唱えるイデオロギーには全く共感出来ず、況してやオバハン共による市民活動と云う名の下に繰広げられるエコロジーなど、全くもって糞食らえなのである。カウンター内に立つマスターらしき人物、まるでX-PACのような風貌の彼なんぞ、それこそ日本のインドかぶれな喫茶店のマスターの如きで、この手の人種は万国国境を越えて同じ空気を醸し出しているではないか。されどこの地にはSurefire Distributionと云う、AMTのタイトルを全面的にプッシュしているディストリビューターが存在し、社長のDaveを筆頭に、The Undertaker似のRonがブッキングしてくれる為、我々はこの小さな田舎町に毎度訪れているのである。大雨の中到着するや、Eclipse RecordsのEdが真っ先に出迎えてくれた。彼はTerrastock#5の後、この地を訪れSurefireと仕事の話をしていたらしい。

到着が遅れた為、既に大入りとなっている客席を抜けてサウンドチェックを済ませる。昨日より喉が痛かった私は、車での移動中にいきなり症状が悪化し発熱。本番までの間も、あまりのしんどさに珍しくビールさえ飲めぬ有様。この日は結局「La Nòvia ~ Speed Guru」を演奏しなかった事が、既に立っている事さえ辛い私にとっては、唯一の救いとなったか。されど終演後、いやはや物凄い反響で、Shopzone大盛況の中、今日が誕生日の東君は、Shopzone社長の津山さんからの驕りもあってビール飲みまくり。一方私は完全にダウン。

さてSurefireの社長Dave宅へ。これがまたとんでもなく立派な豪邸にして、一体幾つ部屋があるのか、家の中で迷子になる程で、美人の奥さんと猫2匹にはあまりに広すぎるであろう。されど家賃は以前住んでいたBostonのアパートに比べ1/2だそうで、1年程前にSurefireのスタッフ全員でこの田舎町Brattleboroに引っ越して来たと云う。我々にも「Brattleboroへ引っ越して来たら?」と誘いの声が…そう云えばSonic YouthのThurstonもこの近くの田舎に住んでいると云っていた事を思い出す。確かに同じ家賃を払うのであれば、これ程天井の高い広い豪邸に住みたいとは思うし、Brattleboroは美しい観光地であり、今の季節は紅葉が素晴らしいが…。風邪が酷い私は、2階奥のフワフワベッドのある立派な客室を提供していただいた。取り敢えずスタミナをつけねばと思い立ち、サトウの御飯2パックとレトルトカレー2袋を一気に食す。更に奥さんが「何もなくて申し訳ない」と云いつつ、チキンの丸焼きやらデザートやら御馳走してくれ、中でもカスタードプリンとチョコプリンは絶品。この奥さん、歳の頃は三十路半ばか後半に見受けられるが、ツインピークスのシェリー・ジョンソンことMadchen Amickに激似の美人なれば、10年前なら恐るべき美人であった事間違いなく、特にはにかんだ笑顔がたまらなく素敵で、出来る事なれば不倫でもしてみたい衝動にさえ駆られるが、何せ夫のDaveとの仲睦まじさは東君が羨む程である。そういえば海外では、KinskiのChrisとLucyや、Alien8のGary夫婦等、矢鱈と仲睦まじい夫婦の姿が見受けられる。東君から「慈しみの心を持たない」と云われる私なればこそ、斯様な男女の信頼関係なんぞ、如何にして作られるのか知る由もなし。腹ごしらえも出来たので、着込んだ上に寝袋に入ってベッドに入る。寝汗をかいて、一気に風邪を治す算段である。

(2002/12/22)

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