『人声天語』 第115回「AMT欧州ツアー2004 ~世界残酷食物語~」#3

11月3日

午前9時半起床。昨夜のカバブの残りを食せば、すっかり冷めて不味けれど、空腹なればお構いなし。津山さんはキッチンにて発見せしスパゲッティを茹で始めるや、そもそも鍋に水と麺を同時に入れ「沸騰した時が出来上がり」なるハイスピード調理法こそ津山流なれば、茹で時間を要するスパゲッティーに対し文句連発「能力的に素麺に劣る」とは津山さんの弁。漸く茹で上がりしスパゲッティーに即席味噌汁の味噌を加え「味噌スパゲッティー」

更にスパゲッティーの茹で汁を加え「味噌スープ・スパゲティー」へと食しながらのヴァージョンアップを謀る辺りは流石。

一方東君は、ここのキッチンに貯蔵されしスパゲッティーを津山さんに食い尽された故、同じくキッチンにて発見せしマカロニを茹でるや、バター&ケチャップで味付け、更にバジルをまぶす一見本格派っぽいこだわりも垣間見せれども、矢張り見ようによってはへぼ(蜂の子)にも見える「へぼマカロニ」を完成させれば、見栄えはかなり悪けれど、味的に問題なしとは本人の弁。

Jussiが迎えに来て津山さんと東君と共にレコード屋へ。ABBAのEPやらサイケの限定ブートリイシューLP等購入、20ユーロ以上も勉強して貰えど60ユーロを散財。津山さんもEP数点購入、東君は倹約の為我慢。前回ここTampereを訪れた際に巡り会いし、あのどう見てもウンコにしか見えぬ逸品、Tampere名物ブラックソーセージを、話のネタに再度チャレンジしたかったが、残念ながらタイムオーバー。
クラブへ出向き機材を積み込めば、さて一路Helsinkiへ向かう。車内にて爆睡。
今宵のライヴ会場Tavastiaには午後4時到着。あまりの空腹にして、近くのインドネシアン・レストランにて焼飯「シンゴレン」を購入し食せば、具沢山でなかなか旨し。

他のメンバーは、今宵のまかないを弁当としてテイクアウトせんと目論んでいる様子なれど、一体何が出て来るやも知れぬ故、全くもって油断禁物、私は今夜の夜食と明日の朝飯の事をも考慮すればこそ、ここは矢張りもう1食分シンゴレンを購入しておく道を選択。
前回のフィンランド・ツアーにてエンジニアを務めしHelsinki在住Themoが本日のエンジニアなれば、サウンドチェックも一瞬にして終了。矢張り音楽とは何かを理解せしエンジニアと仕事したいものにして、サウンドチェックは10分以内で終わらせたきものなり。そもそもサウンドチェックに時間を要するエンジニアやミュージシャンが面白かったためしなし。
サウンドチェック後、晩飯はクラブのまかないにして、マッシュポテト+ミートソース+サラダ、不味くもないが旨くもなし。

斯様な代物を365日食べている人種とは、矢張り「種類が違う」のであろうか、私にとってこれらは到底料理に思えず。津山さんはシンゴレンの入っていた器にサラダの野菜を大量に、東君はサンドウィッチを作り弁当として各々キープした様子。
客入れが始まれば、その中にフィンランドのTattoかと思しき女性カップルを発見。

何とも妖し気な雰囲気にして、されど矢鱈とこちらを伺っている様子なれば、挙げ句はサインやら写真撮影やらも強請って来るのであるが、何せあまりの強烈さに我々思わず引き気味となる。今宵の対バンは、「Kuusumun Profeetta」なるプログレ+AORのようなサウンドを持つMikaのソロ・グループ、このバンドに際しては妙に力の入ったウォームアップをしている風でもなく、Mikaの別な側面を垣間見れども、矢張り何処か素頓狂にして、JussiをはじめCircleの面々は「フィンランドの素頓狂で愉快な仲間達」なのである。Mikaのバンドのギタリストは元CircleのJyrki、一昨年ストラップを交換した仲なれば、彼との再会も嬉しく、知らぬ間に口髭なんぞ蓄えておれば、嘗ての紅顔の美少年も今や何やら風格さえ匂わせども、屈託のない笑顔は相変わらず。本日のShopzone。

さて今宵は、サウンドチェックにて私がJussiを笑わせようとヘビメタ風ギターを披露せし事が発端となりしデスメタル風即興「Moi Moi Metal」も披露、これには満場の客が狂喜乱舞、北欧なれば矢張りヘビメタこそ根強き人気あり。
(impro/Dark Star Blues/impro/Pink Lady Lemonade/アンコール:Moi Moi Metal)
ステージ最前列に陣取りし先述のTattoから熱い視線…、終演後改めて話してみれば、彼女ら実は一昨年のエストニアでのライヴを観て、今宵フェリーに乗りわざわざエストニアから来たのだとか、何とも有難き話である。それにしても、エストニアのロック・ファッションの勘違いぶりは、前回訪れし際のレポートにて詳細に触れてはおれど、矢張りこのTatooと云い、何やら素頓狂な処は、妙に好感を抱いてしまいがちか。昨年のJapanese New Music Festival tourの際に、成田よりのフライト機内にてサインを求めて来た男性とも再会、世界は狭い。また可愛い女の子4名からパーティーの誘いを受けるが、大抵ろくな事がない事は重々承知しておれば、ここは断腸の思いでお断り、残念!
タクシーにて投宿先であるEurohostelへ。夜食はシンゴレン、日本より持参せしコチジャンを混ぜると旨さ倍増。同室の東君は、先程作成せしサンドウィッチを食せども、大いに不味かったらしい。

2人して安物ウォッカを舐め、午前3時半就寝。

11月4日

午前9時半起床。東君を起こしレストランにて朝食バイキング、されど私が食し得る品目はシリアルとキュウリ+ハム程度。結局自室にて、朝食バイキングより失敬せしゆで玉子をシンゴレンにぶち込み食せば、ゆで玉子の豊穣な味わいが、冷めしシンゴレンに円やかさを加え、これはなかなか美味なり。
午前10時にJussiが迎えに来ると云うので慌ててチェックアウトすれど、結局迎えに来たのは午前11時半、それならば是非ともホステル内のサウナに行けば良かったと後悔頻り。Tuomas運転のバンにJussiと共に乗り込み、そしてCircleのメンバー中唯一のHelsinki在住Janneを拾って一路彼等の本拠地Poriを目指す。途中ドライヴインにて、何やらはんぺんの如きを挟んだ北欧特産(?)ハンバーガーを食せば、これがまた旨くもなければ不味くもなし。

津山さんは車内にて、昨夜クラブにて詰め込みしサラダ弁当を貪るが、すっかり鮮度の失せた野菜はかなり不味そう。

生野菜程度では、大食漢津山さんの胃袋が満たされる筈もなく、グレープフルーツの匂いを嗅げば食欲が失せるとの説から、後はひたすらグレープフルーツらしき果物の匂いを嗅ぐ事頻りなれど、その効果はあまりなかった模様なり。
午後4時、今宵のライヴ会場Club 19に到着。一旦機材を下ろせば、Jussi宅は近所故に徒歩にて彼の家へと戻り、ネット接続してこの先の段取り等の雑務をこなす。特に明日5日夜のフェリーが満席で予約出来なかった事から5日朝のフェリーへと予定を変更せざるを得ず、即ち5日夜にスウェーデンのGoteborg到着と予定の変更を余儀なくされたのだが、その旨を彼の地のオルガナイザーであるChristianに知らせんとすれど、メール不達通知が届き全く連絡出来ず、仕方ないので彼の知人でもあり我々のノルウエイのオルガナイザーでもあるPerに連絡代行を依頼する。またこの先の日程についての移動に関する確認作業等にも追われ、結局それだけで終始。
午後6時半、会場へ戻りサウンドチェック。更に地元新聞の取材もこなせば、結局何故か話題の中心は日本の政治経済問題に及び、これは私個人の意見にして、日本人の民意や世論とは全く異なるどころか、ある種の極論でありし事間違いなく、こんなもんワシに聞いてどないすんねん!しゃあけどあんなもん新聞に載せてええんかいな?
そして本日のShopzone。

今宵の晩飯はピザと伺い知っておれど、結局ありつけぬまま、午後9時半Circleのライヴがスタート。今宵は、津山さんがCircleにゲスト・ギタリストとして彼等のセット後半に参加、猛然と弾き捲れば何とも楽しそうである。

流石彼等の本拠地だけあり、熱い客で埋め尽されておれば、大いに気分も燃え上がれど、1曲目でファズを踏んだ途端にギターの音が出なくなるトラブル発生、急遽東君のアンプに繋いで凌げば、何と私が使いしMarshallのスピーカーケーブル断線が原因と判明し、速やかに対処。アンコールにて再び「Moi Moi Metal」を演奏すれば、今宵の客も狂喜して大暴れ。
(impro/impro/Dark Star Blues/La Le Lo/La Novia/アンコール:Moi Moi Metal)
午前2時、漸くJussi宅へ戻り、明日の移動の為のパッキング。Jussi達は機材の撤収作業等の為、再び会場へ戻る。午前3時、Jussiが漸くピザを届けてくれたが既に遅く、私以外は既に全員就寝、私は空腹故早速ピザを頂き、午前3時半就寝。Jussiは引き続き撤収作業の為クラブへ戻り、帰宅はどうやら午前4時半だった模様、お疲れ様。

11月5日

東君のセットしたアラームにて午前5時起床、されど東君は爆睡しており、午前5時半にその本人東君を起こす。午前6時、Tuomasの運転にて、Jussiと共にTurkuのフェリー乗り場へ送って貰えば、ほぼ徹夜で機材の撤収作業を行っていた2人には悪いと思いつつも、この2時間のドライヴにて車中爆睡。Jussiがジュースやら水やら昨夜のピザやらを持たせてくれ、更に「Ektro Recordsからのプレゼント」と、フェリーチケットまでも買ってくれており、嗚呼、有り難や。「フィンランドの素頓狂で愉快な仲間達、また逢う日まで!」名残り惜しみつつも2人とお別れし、いよいよフェリーに乗船。
午前8時45分、フェリーはTurkuを出港、一路Stockholmを目指す。4人部屋のキャビンに荷物を下ろし、先ずは船内探索へ。免税店、カジノ、レストラン、バー、そしてサウナまで完備しておれど、嘗て夜行便のフェリーにての旅では、大いに羽目を外して楽しんだものなれば、矢張り夜行便に乗りたかったもの。(第77回「嗚呼、フィンランド…(前編)」参照
さて先ずは津山さんと土産屋にて土産物を物色、ここは矢張りムーミン関連商品であろうか。そしてレストランにて朝食、鰯の刺身のような代物を見つけるや、確かこの逸品は前回その見てくれに大いに騙され見事轟沈せし記憶あれども、矢張り生の鰯が発する魅力には勝てず選択、更に一見トマトジュースのようなジュースを見つければ迷わず購入、津山さんはクロワッサンとミートボールを購入。

さてこの鰯であるが、津山さん共々戦々恐々としつつも少々味わえば、「ぐじょびゃぎょじゅばびばあ~!」その想像を絶するあまりの不味さに二人して悶絶、何せ始めは塩っぱく、その直後に今度は猛烈な甘さが口の中に広がり、更に引導を渡さんとばかりに苦味が襲って来ると云う、驚異的に複雑怪奇な異味にして、勿論鰯本来の素材の味なんぞする筈もなければ、津山さんは大慌てでクロワッサン丸ごと1個を口に捩じ込むや、その勢いで一緒に飲み込んでしまおうとして悶絶しておられる様子。私の方は、口直しにと、慌ててジュースを流し込みば、これまたトマトジュースにあらず、何やら抹茶の如き味がすれば、慣れて来ればきっと然程不味くはなかろうと推察されれども、この窮状にて口直しの大役を果たせる程の器量は持たず、それどころかこの鰯の後味とのマッチングは最悪にして、まるで地獄の責め苦の如し。それにしてもこれは一体何のジュースだったのであろうか。一方、津山さんのミートボールはと云えば、旨くもないが、まあ不味い幕の内弁当に詰められている冷めきった肉団子だと云えば想像に易いか。されどその下に敷かれている赤紫色の謎のサラダ、これが妙に甘ったるく、この味が僅かなれども染込んでおれば、時折猛烈に珍妙キテレツな味が楽しめる。津山さんは1個でギヴアップなれば、私はあの鰯よりはマシであると馳走に肖る事とす。この鰯、わざわざラップに包んでキャビンに持ち帰り、自称味覚障害のはじめちゃんに食させれども「いじめですね、この不味さ…」と言わしめる程なり。この驚異的不味さ、到底私如きでは筆舌に尽くせぬ。
さて今度は東君とバーに出向きビールを呷る。ステージでのバンド演奏は夕方からなれど、既に多くの客が斯様な朝っぱらからビールどころかウォッカさえ呷っておれば、高校生ぐらいのグループさえシャンパンまで抜きビールを飲み捲っている有様にして、何とカジノでは子供達でさえスロットマシーンに挑み一獲千金を狙う。免税店にて、前回のツアーで知ったフィンランド特産のリキュール「Koskenkorva/Salmiakki」のポケットボトル2本とアクアビット1本、キャビアを赤黒2種の2瓶購入。東君はスコッチのポケットボトルとキャビアとクラッカーを購入。

税金が高い北欧なればこそ、このフェリー内の免税店にて大量購入を目論むとかで、多くの客がビールやらワイン等を数ケース纏めて購入しておれば、何でも酒を飲む為だけに乗船する人も少なくないとか。さて東君と2人して喫煙コーナーに陣取れば、早速キャビアを肴にお互いのボトルを呷る。

このキャビア、1瓶2.20ユーロと、何とも安い事この上なし。キャビアが高級食材だと思わされているのは、実はフランス人が値打こいてるだけに他ならぬのではないか。
午後3時になればサウナへでも出向こうかと思っておれば、午後2時過ぎ、津山さんの「ランチメニューに変わってるで」の情報にて、ではと3人でレストランへ出向き昼食。今度は「まともに食せるもの」をと、魚の白身フライ+サラダ+ロールキャベツ+赤ワイン、まあ普通に食せし。

腹も膨れ程よく酔いも回っておれば、キャビンに戻りて昼寝。
「もうすぐバンド始まんで」津山さんのこの一言で飛び起きれば、されど東君は未だすっかり酩酊爆睡にて、彼をキャビンに残し、津山さんと2人してバーへ繰り出せば、サックス&ボーカルの女性を中心としたグループの演奏が始まる。

ビリー・ジョエルからジョージ・ベンソン、オールディーズ等がレパートリーなれど、ステージ前のダンス・スペースにて踊る姿は疎ら、それも老夫婦が数カップルのみなれば、以前乗り合わせた折は、ポップス・ナンバーならば若いカップルが、コンチネンタル・タンゴならば老夫婦が踊り狂い、大いに賑わっていた故、今宵は何ともより閑散とした雰囲気なり。
免税店にて更にキャビア瓶を買い足し、キャビンに戻りていよいよ下船準備。サウナには結局行けず終い、残念至極。東君は未だ酒が抜け切れぬ上に寝呆けているのか、すっかりボロボロ状態。
午後6時半、Stockholmに到着。バスにてStockholm central駅に向かうのであるが、フェリー船内にも何処にも両替が見当たらず、ユーロにて支払い。駅のネットコーナーにてメールチェックすれば、GoteborgのオルガナイザーChristianからメールが来ており、Goteborg駅にてピックアップしてくれる様子。午後8時10分発Goteborg行き特急列車X2000のリザベーションも無事済ませ乗車、3時間の列車の旅。美人女性車掌の話では、何でも発車1時間前までにリザベーションしておれば食事まで付いていたのだとかで、されど我々は30分前にリザベーションを行った為、ドリンクサービスのみ。車内禁煙なれば、途中の駅に停車した際にすかさず喫煙せんと思えど、停車時間短く2服もすれば、先程の美人車掌に「では乗車して下さい」と指示される始末。車内にて再び1時間程仮眠し、午後11時23分定刻通りにGoteborgに到着。駅にはオルガナイザーのChristianとJasperが迎えに来てくれており、今夜の滞在先となる彼等の家へ車で向かう。
私とはじめちゃんはChristian宅へ、津山さんと東君はJasper宅へと別れての投宿。漸く酒が抜けたか復活した東君は、早速Christainとバーへ繰り出した模様。ADSL回線なれば、電脳奉行はじめちゃんは、早速ウェブにツアー日程の追加や変更等の情報をアップデートする作業。私は台所を物色、されど棚の中身は殆どがCDにして、食器や食糧は殆ど見受けられぬ中、何とか僅かな備蓄のスパゲッティーを見つけ、コチジャンとマヨネーズと七味で和えて晩飯とする。

何とも哀し気なメニューではあるが、味的には下手な物を食すより余程旨い。Cristianは午前3時頃に帰宅、不味そうなサンドウィッチを貪りさっさと就寝。それを尻目に、私はメールチェック&BBSレス後、午前4時半就寝。暖房の効きが悪くかなりの底冷え。

11月6日

午前8時起床。メールチェック、この快適な接続環境で出来る事を済ませておかんと猛烈に雑務に励む。ここは室内禁煙なれば、キッチンの窓を開けて窓際にて喫煙するよう云われているのだが、この寒い土地柄で、何が哀しくて窓を開けた寒い窓際にて喫煙せねばならぬのか。
朝食はトースト+ハム等。

焼いたトーストにPholadelphia cheeseを塗りハムを乗せれば、チーズもハムも苦手な私でもなかなかいける事実を発見、マイナス掛けるマイナスはプラスの例えか。トイレットペーパーが、ドイツ同様質の悪いかなり硬い再生紙なれば、何ともケツ痛く、ABBAのメンバーも斯様なトイレットペーパーを使っていたのであろうか等と、ひとりトイレにて思う。
Christianは機材の調達等で外出。日がな取り立ててする事もなければ、シャワー&洗濯も済ませ、ただぼけ~っとテレビを観るのみ。固定カメラによるGoteborg街頭の景色を延々と流しているだけの驚異的ミニマルな局もあれば

ルールなんぞ皆目見当さえつかぬ意味不明の謎のスポーツなんぞも観戦

更には運良く放送されたシュラポワちゃんの試合を、唯のスケベ心にて観戦、兎に角退屈極まりない午後なれど、飯もなければ、スウェーデン・クローネも持っておらぬ故、外に出て何かを買う事さえ叶わず、あまりの空腹にしてまるで軟禁状態。待つ事数時間、漸くChristianが帰宅、午後5時にJasper宅へ東君と津山さんを迎えに行けば、こちらは食糧の備蓄もいろいろあったらしく、また暖房も効いており、随分快適そうであった。
ライヴ会場Clubb Kungstenに到着、今宵のライヴはツアー直前に急遽入れたブッキングなれば、然程広くないスペースなれど、今宵我々の使用する機材は、対バンのKid Commandoより借り受けるOrange等の馬鹿デカいアンプ群であればこそ、これはPAも殆ど不要であろう。ステージが狭い上に雛壇の形状になっておれば、今宵は私とドラムセットが雛壇上段に陣取る変型的配置と相成る。
サウンドチェック後、今夜の投宿先であるMattias宅へタクシーにて向かう。彼の家は市街中心部に位置し、奥さんと2歳の息子との3人暮らしだとかで、見るからに経済的にも豊かそうな紳士である。何でも出版業界で働いており、またレーベルも経営しているとかで、Trad Gras Och Stenarのギタリストのソロ・アルバムを近日中にリリースするとか。
彼の案内にて、近所の日本食レストラン「喫茶日本(Kafe Japan)」へ。食事代として1人100クローネを頂いているが、流石に日本食は高級料理なれば、されど各自その予算内で収めんと、私は御飯+キムチ+鰻の握り2貫

津山さんは御飯×2+キムチ+漬物盛り合わせ

と質より量重視の何ともケチ臭い注文にして、東君とはじめちゃんは寿司セットをオーダー。

出された玄米茶を飲めば、湯飲みの中に直接茶っ葉をぶち込み湯を注いでおり、これでは果たして料理の方も大いに心配となって来る始末。厨房を覗いておれば、何とものんびり仕事しており、一応魚はここで捌いておれども、アラ等は全てゴミ箱に捨てられており勿体ない事この上なし、あのアラを頂戴してアラ煮でもこさえられれば、如何な程の幸せを感ぜられようか。
さて御飯+キムチはと云えば、御飯は取り立てて問題なけれども、果たしてこれはキムチなのかと云う眉唾にして、キムチも随分と朝鮮半島遠くなりにければ、味も香りも斯く変わろうものなるか。どう食せどもこれはただの漬物に他ならぬ。唐辛子等の刺激物を極端に苦手とするヨーロッパの毛唐共なれば、キムチも斯様に骨抜きにされてしまうのであろう。「雪ならむ 白きキムチを匂へども 臭ふ故郷ぞ 遠くなりけれ。」されどあまりの空腹なれば、キムチがただの漬物であろうが何であろうがお構いなし、取り敢えずはそのキムチもどきをおかずに御飯を喰らうのみ。続けて出された鰻の握りに何故かわさびが添えられていた故、そのわさびをキムチもどきにぶち込んでみれば、これがわさび漬けの如きにしていと美味なり。鰻の握りに到っては、その美味ぶりに感激、この後味を心の糧に、ここからのツアーも頑張ろうと決意させる程。津山さんは物凄い勢いにて、そのキムチもどきと漬物盛り合わせ+御飯2膳を一瞬にして平らげておられた。東君曰く、ここの寿司ネタはかなりの上物だとか。嗚呼、ならば矢張り寿司のセットにすればよかったかと、少々後悔しつつ羨望の眼差しで食する様を眺めておれば、Mattiasがもう一皿寿司セットを「プレゼント」とオーダーしてくれており、これにて私と津山さんも心置きなく寿司を堪能、嗚呼…これ以上に幸せな事なんぞあるものか、有難うMattias。
さてライヴ会場へ戻れば超満員にして、物販のセールスも驚異的な盛況ぶり。本日のShopzone。

雑誌のインタビューもこなせば、スウェーデンにてもAMTの浸透ぶりは相当な様子にして、質問もなかなかマニアックなり。それにしても前座のKid commandoは、この立派な機材にして何たるしょぼさか、アンプが泣いてんど!
それに比べ、我々の爆音ぶりはいつも通りにして、ベースの重低音によるあまりの振動で、私のコンセントの蛸足が抜けるハプニングも2回有り。されど斯様に立派なアンプ群ではあれど、哀しいかな、ベースアンプは次第に出力が低下、私のOrangeも途中から全く低音が出なくなり出力も激減、結局終演時には2台とも我々の前に見事玉砕、またしてもアンプ2台は見事御陀仏御昇天。
(impro/Dark Star Blues/What Your Name ~ La Le Lo/Pink Lady Lemonade/アンコール:God Bless AMT)
終演後、さてDJタイムと相成れば、会場はすっかりディスコと化す中、タクシーにてMattias宅へ、Mattiasがタクシー代を払っていた故、払おうとすれど受け取ってもらえず。あまりの喧噪を嫌いさっさと退散した故、ギャラを貰う時間さえなく、MattiasがChristianに電話してくれども、すっかりディスコ状態のクラブにては連絡つく筈もなく、ならば明日にでも改めてメールにて連絡する事に。洗濯を済ませ、彼秘蔵のアクアビットを御相伴に預かるや、これが大層美味なり。皆が寝静まる中、ベランダにてタバコ片手にアクアビットをチビチビやる。午前4時半就寝。

(2004/12/10)

其之壱其之弐其之参其之四其之五其之六其之七其之八其之九其之十其之十一
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