『人声天語』第9回「トーキョー・バッド・ヴァイブレーション」

4月末から5月初頭にかけて、3度も東京へ行かねばならなかった。本来ライヴ数の少ない私が、何を間違えたか、海外ツアー直前の多忙な時に、大阪や名古屋も含め2週間に8本ものライヴをブッキングしてしまった。まして最近は年に1度か2度しか行かない東京で、2週間に5本ものライヴがあるなど自分自身で理解不能だ。

私ははっきり言って、東京が大嫌いだ。多分世界中で一番嫌いな都市であろう。あれほど嫌いな香港やニューヨークでも、東京に比べればマシだ。何故嫌いなのか?嫌いと云うことに関して明確な理由等あろう筈がない。ただ肌が合わない、それだけだ。そもそも大阪出身の私にとっては、何かとむかつく事が多すぎる。事細かに記すとキリが無いので、ここではそれらについては触れないが、兎に角東京に数日滞在しているだけで心身共に変調をきたす。ドイツやイギリスに滞在している時も調子が悪くなるのだが、そんな比ではない。頭痛、歯痛、耳鳴り、下痢、関節痛、鼻炎、食欲不振等、突如これらの症状が一度に噴出するのである。1ヶ月も滞在する事にでもなれば、きっと生理痛にさえなるやもしれぬ。更には、何故だか東京から帰ってくると、何かにつけてケチがつく。今回も帰ってくるなり、違法駐車天国の名古屋に於いてまさかのレッカー移動されるは、嫌がらせメールが送られて来るは、突如ギターは壊れるは、何ともはや運気さえも落ちてしまうのか。 げに恐ろしきは、東京の悪しきヴァイブレーション。

先日「国内なら次は何処に引っ越したいか」という話の際、私は「江戸時代」と答えた。勿論 、時代劇の中でぐらいしか、当時の庶民の生活風景はうかがう事は出来ないが、長家の共同井戸で大根を洗ってる感じ等あまりに素敵ではないか。しかしよくよく考えてみると、大抵の時代劇は江戸が舞台であり、上方が舞台の時代劇などあまり思い浮かばない。幕末モノは京都が舞台となっているものもあるが、時代背景のせいもあって、あまり日常生活感のあるものではない。どうやら私の引っ越したい「江戸時代」とは即ち「江戸」なのか。「江戸」には憧れるが、しかし「東京」は死ぬ程嫌いだ。嗚呼、「江戸」は何処だ!

東京へ行かねばならない時、新幹線なら2時間足らずなので、あまり色々考える事もなく東京に着いてしまう。しかし在来線や車で行くとなると話は別である。車の場合、渋滞でも食らおうものなら、いきなり帰りたくなってしまう。まして東京の駐車場事情の悪さを思うと更に憂鬱になる。在来線の場合はもっとひどい。いきなり朝のラッシュ時に鉢合わせる上、煙草も吸えない。旧国鉄の赤字を煙草税で埋め合わせているのにどう言うことだ。静岡辺りで完全に行く気力も失せ、そのまま帰りたくなってしまう。東京に行くと言う行為だけで、何故これほどまでにエネルギーを消耗するのか。

どうやら偶然にもAMTの5人ともが東京嫌いなようで、決して誰も東京でライヴをやろうとは言い出さない。退屈な飛行機に十数時間乗って海外には行っても、新幹線で数時間の東京へは行きたくないと言う事だ。かつて山本精一氏が「やっぱり東京でライヴせなあかんで。」と私にとくとくと話した事がある。何故東京でやらねばならぬのか。地方の人は、観たいコンサートがあれば東京でも何処でも観に行くが、東京の人は「観たいから来て下さい」と言うのみだ。本当に観たかったら何処へでも来ればいい。「東京に住んでいる」と云う特権的価値観ほど不毛なものはない。巨人のナイター中継同様、特権的価値観が「あたりまえ」にすり変わっている状況は許すまじ。

WWFの人気番組SMACK DOWNが視聴率低迷の為、放送時間が縮小されるらしい。WCW買収によって 競争相手を失った事、オースチンのヒール化失敗等が原因らしいが、XFLもやはり視聴率低迷で1年で終焉を迎える等、帝王ビンス・マクマホンにも「栄枯盛衰」の風が吹いているのか。彼もかつてWWFの日本での興業で大失敗して以来、「日本はマーケットとして考えていない。」と明言しており、現在徐々に盛り上がりつつある日本での人気を、彼が今後どう捉えていくのか気になるところである。かく言う私もいつかいかなる理由であれ、東京を無視出来なくなる日がやって来るのか。WWFの再度の日本興業が先か、AMTの東京公演が先か。結局いつかは両者共「東京」に負けてしまうのだろうか。

(2001/5/13)

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