ロスの空港で、1本の煙草とトイレのせいで、見事に飛行機に乗り遅れてしまった私と東君は、取り敢えず事情を説明し、次々便の切符を入手。切符さえ手に入ればいい気なもので、また煙草を吸いに行こうか等と言っていたが、流石に行かず。しかしゲートで知り合ったブルースマンTadg Galleran氏からCDも頂き、「遅れた者には福がある」等とすっかり上機嫌に。
結局、津山さん達を乗せた便は延着し、我々2人が一足先にシカゴ/オヘア空港に到着。先に着いている我々2人を見て、唖然とする津山さん達。何はともあれ先に着いているのだから、我々2人は何の後ろめたさも感じず、彼等を笑顔でお迎え。人生とは何と自分に都合良く出来ているものか。
シカゴからボストンまでの内陸部から東海岸のライヴは、今回スティーヴと云うシカゴ在住のアメリカン・フリークアウト野郎率いる彼の新バンド「PLASTIC CRIMEWAVE & THE FAKE」と廻る事になっていた。スティーヴとは、99年にシカゴで私と津山さんのソロライヴをオルガナイズしてくれた事が縁。昨年まで「UNSHOWN」なるド阿呆ノイズサイケ・トリオを率いていたが、ベーシストが愛想を尽かし解散。このUNSHOWNを、初めてみた時の衝撃度は半端なものではなかった。兎に角ただの気狂いである。音楽的センスは限り無くマイナス無限大に等しいが、筋金入りのサイケマニアである彼の抱くロックに対する幻想は、ある意味日本人と同等のもので、その誤解から生まれる阿呆極まりないサイケなエッセンスは、我々を充分唸らせるに余りあった。この気狂いバンドこそ、是非ベアーズで演ってもらいたかった。果たして山本さんは何と言うか、至って興味深い。それはさておき、彼の新バンド「PLASTIC CRIMEWAVE & THE FAKE」は、いい意味でも悪い意味でもより音楽的であり、皮肉にも我々の興味は以前に比べ激減したが、UNSHOWNを凌ぐ強烈なメンツである事には変わりなく、こんな奴等とツアーするのかと、ここで既に頭が痛かった。
彼等とのツアー初日のシカゴは満員御礼、如何にもシカゴらしいイカれたサイバーパンクな女の子達でごった返す。シカゴは何故か、パンクなメイクのイカれた女の子が多い。男共は髭面の厳つい親爺タイプが多いにも関わらずだ。私の知るシカゴには、俗にシカゴ派と呼ばれる類いのソフィスティケイトされた印象はまるでない。大都市にも関わらず田舎臭く、兎に角「イカれたフリーク野郎の吹き溜まり」にしか思えないし、実際何度来てもそんな類いの人種が、ゾンビの如く入れ代わり立ち代わり次々と現れる。此処は一寸滞在するには面白そうだが、ずっと居ると阿呆にされてしまいそうな場所か。そもそもSweet home Chicagoと云ったブルースの香り等、チラっともしないではないか。まして夏と冬の気温差が80度近いなんぞ、人間の住む処ではない。
翌10日はReckless Recordsでインストア・ライヴ。しかし我々は、サウンドチェックもせず、ひたすら店内の中古レコードを漁る。挙げ句の果てに、大量のビールとピザを片手に戦利品を自慢しあう。一体何をしに来たのか。その後、FM局でのスタジオライヴ中継へ。いきなりギターアンプが吹っ飛び、結局スティーヴ宅に帰り着いたのは深夜。レコード漁りと演奏で疲れた体に、ビールを一気に流し込んで就寝。
世界をすっかり豹変させてしまう事件前夜、翌朝に起こる事件等全く想像なんぞ出来る筈もなく、私とスティーヴは、彼のバンドの女性ギタリストカレンが、とてつもなく我が儘でまるで「プリンセス」だ、等と云う阿呆話をしながら飲み明かしていたのだった。
(つづく)
(2001/9/23)