〜はじめに〜
今回のアメリカ・ツアーでは、テロ事件勃発のせいで、日本国内に於けるまるで民衆のパニック心理を煽るかのような報道ぶりにも大きな問題はあろうが、多くの人達に心配をかけてしまう結果となった。しかしそんな心配をよそに、我々は脳天気にもツアーを楽しんでいた事は、紛れもなき事実。そこで、心配して戴いた人達への報告も兼ね、私の目から見たアメリカの空気等も含め、急遽「ツアー雑記」と云う形でここに綴る事にした。後日「股旅草子」の方にも写真等アップ出来るかと思うので、いずれまたそちらも合わせて見て戴ければ、より雰囲気が分かって貰えるのではなかろうか。
「AMT US TOUR 雑記(其の壱)」
今回は、USツアー前日にも関わらず、吉祥寺マンダラ2での羽野昌二氏率いるZU-KANKのライヴの為、東京へ行かねばならなかった。津山さんも同じく吉祥寺スターパインズ・カフェでのルインズ波止場のライヴの為、東京へ。一体何故こんなスケジュールになってしまったのか。結果、私は終演と同時に新宿発の深夜バスで名古屋へ。前日我家に投宿していた(山本氏を除く)ルインズ波止場の面々と、明け方まで盛り上がっていた為、バス乗車と共に爆睡。朝8時に帰宅するや否や、納豆飯をかきこみながら機材を梱包し、東君と一路大阪へ。そして難波o-catで全員集合、ターミナルバスで関西国際空港へ。既にこの時点で、連日までの睡眠不足と多忙なスケジュールの為、半ば時差ボケ気味。本来私は、時差ボケ等するようなデリケートなタイプではないのだが、この時既に、一体今自分が何処にいるのかさえも判らぬ始末。然してそこから10時間のフライトで花のサンフランシスコへ。毎度ツアーで最大の難所と言われる入国を無事済ませ、更にロスへフライト。
ロスの空港に下り立った時点で、私にとっての9月8日は既に32時間が経過。
それにしても飛行機の中での長時間の禁煙は、今でこそ慣れたが、やはり辛い事に変わりはなし。秘策として、煙草を誘発するコーヒーとビールは絶対厳禁。ひたすらブラッディーマリーをあおる。ユナイテッド航空のブラッディーマリーは、かなりスパイシーな(歴としたブラッディーマリー・ミックスと記された)トマトジュースがベースで、これが意外に煙草抑止力効果を発揮。兎に角スチュワーデスが呆れるまで、ただひたすらこの逸品をオーダーし続ける。
機内食の不味さには圧倒的定評のあるユナイテッド航空なので、対応策として、全員が七味とマヨネーズを持参。大概はこれでクリア出来る。以前は弁当を持参した事さえあったし、もしやと思いベジタリアン・ミールを試したこともあったが、今回に限ってはさほど不味くもなく、逆に肩透かしを食らった気分。先日PINK FLOYDのベスト盤が出た事もあって、機内音楽サービスにPINK FLOYDのみがプレイされているチャンネルがあり、ひたすらPINK FLOYDを聴き続ける。津山さんはヘッドホンをしたまま、「ロックど阿呆此処に在り」と言わんばかりにギターを弾くアクション等に耽り、後ろの客から大いに顰蹙を買う。
KNITTING FACTORY HOLLYWOODは、観光地に軒を連ねている為、開演まですっかりツーリスト気分で、そこいら辺りを散策。飛行機の中でひたすら寝ていた御蔭で、時差ボケもなく、疲れが溜っている事以外は至って快調。しかし吉野屋ならぬYOSHI’S BEEFBOWLで、いきなり激不味贋牛丼の地雷を踏んだ津山さん。海外では、少しでも気を抜くと、この手の地雷を必ずや踏んでしまう。アメリカで信用出来るのはハンバーガーだけだ。
今回のツアーでは後日、もう1度全員で地雷を踏む事になる。
迂闊にも地雷を踏んでしまった自分の腑甲斐無さに腹を立てる津山さんは、案の定1曲目にてベースアンプを粉砕。客席を埋め尽す、如何にもHOLLYWOODと言わんばかりの整形爆乳美人やら、マニアックな雰囲気全開のサイケ親爺。しかしアメリカは、都市によって全く客のタイプが異なる。こと此処HOLLYWOODは、モデルか女優崩れ系のスタイリッシュなブロンド美人が多い。例えるなら、「ビバリーヒルズ高校白書」のケリー系か。終演後、そんな1人と談笑。そして果てしなく長い40時間にも及ぶ9月8日は終わり、9日を迎えていた。
かくて9日早朝、シカゴへフライトの為、再び空港へ。
飛行機は何回乗っても好きになれぬ。自分の操縦の手落ちで死ぬなら兎も角、他人に自分の命を委ねなければならないと云うのは、どうにも嫌なものだ。ましてや今回のテロ事件の勃発である。しかしこの時点9月9日の朝に、誰がそんな事件が2日後に起こる等想像し得たか。
この日はいつになく、全員の気が弛んでいた。空港に到着しチェックインを済ませた時点で、まだ時間は余りあると思い込んでいた。昨日の牛丼の反省からハンバーガーなんぞを悠長に食らい、更に私と東君は空港の表へ煙草を吸いに。余裕をかまして共にトイレへ立ち寄り、私は東君に「先に行ってるから。」と一言残し、一足先に搭乗ゲートへ。
しかし搭乗ゲートには、津山さん達の姿は疎か、先程まで大挙していた搭乗待ちの他の客さえ人っ子一人おらぬ。受付カウンターの男性にチケットを見せ、ゲートは此処ではないのかと訪ねた処、一言「gone…(もう出た)」たかが煙草1本とトイレに立ち寄った計10分程の間に、一体何が起こったのか。搭乗便変更手続きの為、受付カウンターの男性に教えられたゲートへ向かっていると、用を足してスッキリした面持ちの東君が正面遥かから歩み寄ってくる。私は彼に向かって、X-JAPANのファンの女の子達がよくやっていたXのポーズをしてみせた。そしてただ一言「やってもうた…。」
(つづく)
(2001/9/22)