連日自分でも驚異的な集中力を発揮し、7月末から8月中旬迄に上げなければならなかった音源は、何とか7割程終了。
一体何が起こっているのか判らぬが、兎に角怒濤のリリース&リイシューのラッシュである。リイシューも、ジャケットをリアレンジしたり、ボーナストラックを追加したりで、何かと手間ひまが懸かる。ましてやオリジナル・マスターテープからのリミックスともなると、まずはそのテープを探し出す事から始めねばならぬ。この楽器とレコードや本、ビデオで埋め尽くされた部屋から、たった1本のA-DATマスターを探し出す事は、想像を絶する作業であり、今もアコースティック楽器の為のコンタクト・マイクロフォンの所在を探索中である。もうかれこれ1ヶ月は探しているが、僅か8畳のこの離れの何処にあるのか皆目見当もつかぬ。御蔭でINUIの新作録音は、すっかり中断されてしまっている。たかがコンタクトマイク程度、新調すればいいのであろうが、見つからないというのは、どうにも合点がいかず気分が悪いものだ。先日も某エフェクターペダルが行方不明に。幸いな事に1週間後無事発見されたが、あるはずの物がある筈若しくはあるべき場所にないと、もう一体何処にいったのか、さっぱり見当もつかぬ。レコードやビデオもまた然り。元来「収納上手且つ整理好き」の筈であるが、何故行方不明になるのか?時折レコード等が自分の意思で勝手に違う場所に移動しているのでは、と思わざるを得ない。今現在、行方不明になっている物と言えば、先述のコンタクトマイク、FLOATING FLOWER 2ndのオリジナル・マスターテープ、そしてコンピュータの横に身構えるWWFのプロレスラーMANKINDフィギィアの仮面か。
このMANKINDのフィギィアがまたよく出来ている。当時のWWFフィギィアは、あまり顔が似ていない事で有名だが、このMANKINDに関しては例外であろう。仮面の着脱も可能で、仮面の下から出てくるミック・フォーリーの顔が、これまた最高の表情である。しかしやはりMANKINDのあの仮面がないと、どうにも寂しい。コスチューム的にはMANKINDなので、「ミック3つの顔」のその他のキャラクター、キャクタス・ジャックでもデュード・ラヴでも無い事は一目瞭然であるが、これでは「ヘル・イン・ア・セル」でアンダーテイカーにやられたヴァージョンではないか。何とかミックの面目を保つ為にも、一刻も早く彼の仮面を見つけ出さねば。
我が家には、WWFフィギィアが色々あるのだが、特にミック・フォーリーとアンダーテイカーが多くを占める。2人共長年に渡りWWFの超人気レスラーにして、当初は怪奇派であり、幾度ものキャラクターチェンジを繰り返すと云う共通点から、フィギィアの種類も豊富である。かつてWCWのnWoブームの時なども、彼等がWWFの屋台骨の一角を支えてきたからこそWWFの今があると言えよう。現役にしてレジェンドと呼ばれるアンダーテイカーと、引退しハードコア・レジェンドとなったミック。何故か私はこの2人に対し、オースチンやロック、ショーン・マイケルズ、HHH等とは比にならぬ程の思い入れがあるのである。
WWFは周知の通り「スポーツ・エンターテイメント(「娯楽スポーツ」とは名訳だと思う)」であり、日本のプロレスとは全く根本から異なる。それ故に、ショウとしての演出も派手であり、試合もまた一見そうは見えないが、派手な演出故に実際はかなりハードなようだ。まして1年に200日の巡業である。怪我人が続出するのも頷ける。選手生命が40歳迄もたないのも当然であろう。そもそもプロスポーツで40歳以上がメインを張れるモノなぞ、日本のプロレス(かつてのWCWもそうだったが)かゴルフぐらいではないのか。政治家ではあるまいし、現役選手に於ける年功序列は勘弁願いたい。
私は子供の頃から、大のプロレス好きである。しかし猪木が大嫌いで、当時からほとんどのプロレスファンを自称する人種とは、明らかに反りが合わなかった。後に洋楽好きになった事とは無関係だろうが、当時から胡散臭い外人レスラーのキャラクターに、何か惹かれる物があった。何故あのようなコスプレとも言える恰好をしなければならないのか。そのキャラクターの分かり易さと潔さこそが、私にとってプロレスの醍醐味であった。
故に新日が後に「猪木イズム」とやらで、何故だか黒パンツだらけの退屈な試合を繰り広げている時、既にそこには全く関心さえ無かった。王座に対する「ありがたみ」や「もったいぶり」に終始する日本のプロレスより、いとも簡単に反則負けで毎回王座を防衛するアメリカン・プロレスの方が、見終わった後にプロレスを堪能したという満足感があった。そもそも「反則負けでは原則として王座は移動しない」と云う、通常のスポーツでは常軌を逸脱しているこのルールこそ、プロレスの原点ではないか。
プロレスについて、特に猪木について語る事は、「物申す」輩が五万とおられるであろうし、まして私はマニアではなく、単なる「一プロレス好き」に過ぎぬのでここらで辞めておくが、兎に角私にとってプロレスとは「変な巨漢の外人達による見せ物」としての愉しみであった。そしてそれが究極に極まった形として、アンダーテイカーの登場は、私にとってあまりに衝撃的事件だった。あの墓掘り人(名前のままである)と云う今迄に無いキャラ設定と、Sit Upと呼ばれる、いくら大技を食らおうがムクっと上体を起こす動作、(初めて見た時私は、「プロレスに於いて、技はやはり本当は効いてはいない」事を改めて確信した)相手を合掌させての「埋葬フォール」と、全てが衝撃的だった。ましてデビュー当時は動作がゾンビの如く静かでゆっくりとしており、プロレスで必須のスピードを完全に否定することで、より怪奇派ならではの薄気味悪さが助長された。倒された時も全く動悸づいてないのには、真のプロ根性を感じざるを得なかった。ゾンビ的怪奇派が激しく動悸づいていては、確かに滑稽であろう。しかしアンダーテイカーで忘れてならぬのは、あの超異形派マネージャーのポール・ベアラーの存在であろう。あの金色の骨壷(この骨壷を奪われるとアンダーテイカーが弱くなる)を高々と掲げる姿と、あの奇声によるアジテーションあってのアンダーテイカー人気である。アンダーテイカーのキャラ設定は、元々自ら考案したものだそうで、そこにビンス・マクマホンがベアラーを充てたらしい。アンダーテイカーはWWFデビュー1年程で、大舞台レッスルマニアに於いてホーガンから王座を奪う等、当時から将来有望の大型新人として扱われた事は間違いないだろう。更に当時のアンダーテイカーの代名詞ともなった「棺桶マッチ」等で人気を高めていった訳だが、当時のヒールYOKOZUNAとの死闘後、遂にMANKINDの登場となるのである。
MANKINDことミック・フォーリーは、ハードコア王者キャクタス・ジャックとして、WWF移籍以前から既にかなりの人気レスラーであった。しかしビンス・マクマホンのアイデアで、キャクタス・ジャックは封印され、ボイラー室の住人で人間嫌いの怪奇派MANKINDとしてデビュー。丁度YOKOZUNAとの抗争を終えたアンダーテイカーの新たなる敵として登場し、一躍人気者となった。このビンスの大英断は、間違いなく大当たりで大成功したと言える。5大特番の一つサバイバーシリーズの「生き埋めマッチ」で激突した2人は、ベアラーのまさかの裏切りの結果、MANKINDの勝利で終わる。その後ベアラーは、「死んだ筈のアンダーテイカーの弟(少年だったアンダーテイカーが自宅に放火し、両親共々焼死したと思われていた)」ケインと共に、(ベアラーは実はこっそり、大火傷を負ったケイン少年を救い出し、アンダーテイカーへの復讐に燃える「Big Red Machine(赤い処刑マシーン)」として育てあげてたらしく*1)アンダーテイカーとの骨肉の争いに突入するのだが、地獄の業火を駆使するケインと、既に地獄の魔王となりつつあるアンダーテイカーの戦いは、レーザー光線や火炎放射等のギミックをも駆使した、まるでドラゴンボールか北斗の拳のような戦いになっていく。ここ迄凝ると、もうほとんどレスリングでも何でもなく、特撮映画かアニメーションの世界である。これはもうプロレスの最終到達地点、若しくはプロレスとしてエンターテイメントに徹したある種の臨界点と言える。ハッキリ言ってやり過ぎの感もあるが、何事もやり過ぎぐらいで丁度いいのだ。そしてこれこそ私が求めていた「変な巨漢外人達による見せ物」以外の何ものでもないではないか。残念ながら、あまりの常軌の逸脱具合に流石のビンスも懲りたのか、その後はここまで現実離れしたシチュエーションは見られなくなった。挙げ句の果てには、地獄の魔王だった筈のアンダーテイカーも、ハーレーに跨がる「American Bad Ass」にキャラクターチェンジしてしまい、最近に至っては、愛妻を付け狙うストーカーに悩まされる「良き夫」に成り下がってしまった。一方のケインも、「Big Red Machine(赤い処刑マシーン)」として非人間的キャラであったにも関わらず、今や普通に喋る事も可能となり(以前は特別な機械を通す事で、僅かな言葉を話す事が可能であった)、ケインの顔に大火傷を負わせた放火犯の兄アンダーテイカーを、あれほど憎んでいた筈が、今や「破壊兄弟」として意気投合。(今までにも何度か共闘してはいたが。)しかしWWFに毎度見受けられるこの手のキャラクター・マイナーチェンジの細部を、いちいち気にしていては何も楽しめぬ。所詮は「たかがプロレス」である。何にせよ現在「破壊兄弟」が猛烈にカッコいいことは事実であり、時折見せる兄弟コントは、その容姿やキャラと対照的故にたまらなく可笑しい。
(*1:実はケインはベアラーの実の息子であり、アンダーテイカーとは異父兄弟である…という事が後日発覚する。因みにベアラーは当時、葬儀屋だったアンダーテイカー家の使用人であった。)[本文に戻る]
結局WWFの面白さやミック・フォーリーについて書くスペースが無くなった為、またそれらについては後日記すとして、兎に角WWFこそが私のこの上ない愉しみのひとつである。この永遠に続くであろうアメリカン・ソープドラマは、今や全世界を破竹の勢いで侵食している。ようやく日本でもここ最近になって浸透してきたようで嬉しい限りだ。なんでもこれまでプロレス等に全く興味が無かった主婦層までをも魅了しているそうで、これでようやくアンチ猪木の私も、大手を振って「プロレス好き」を自負出来よう。私が見たい物は「誰が一番強いか」等と云う不毛なテーマに基づく総合格闘技ではない。「変な巨漢外人達による見せ物」としてのプロレスである。かつてWWFのRAW IS WAR会場に於いて、ある日本語のサインボードを見つけた。
「日本のプロレスよ、目をさませ!」
(2001/8/8)