もうあと1週間程で、AMTのアメリカツアーである。
アメリカツアーの準備をしつつ、更にその2週間後に控えるイギリスツアーの準備もせねばならぬ。しかし何よりもそれらのツアー以前に、またしても国内でのライヴが入っているではないか。前回の反省など全く感じられない自分の無計画さには、流石にほとほと愛想も尽きた。まして今回は、LAでのライヴ前日に吉祥寺である。今年はもう絶対東京に行く事はないと確信していた筈だが、知らぬ間にブッキングされていた上、これでは終演と同時に深夜バスで名古屋へ戻り、即、関西国際空港へ向かわねばならぬ。
と云う訳で、来年はこのような事が無いよう、国内でのライヴは自粛することを決意。
もっとも今年はAMTが忙しすぎて、ソロ等の録音が全く捗らなかった事もあり、来年はゆっくり録音作業等に精を出す所存。そもそも国内でライヴ活動を行っても、困窮を極める経済状態にトドメを刺すようなもので、一楽さんも言っていたが、やはり仕事は選ばねばならぬ。音楽を趣味として考えられる程、私の経済状態は余裕のあるものではない。ならば仕事として、より良い条件や状況を求めるのも当然であろう。
「貧乏暇なし」とはよく言ったものだ。
事実、私の日常は大して金にもならぬ事柄で多忙を極めている。
規則正しく朝7時には起床し、メールのチェック等を行うが、ほぼ毎日40通以上、多い日には100通近くのメールが来る。これにレスするだけで、最低午前中は潰れてしまう。通販の申し込みや問い合わせから、ツアーのブッキング、リリースの依頼、AMTレーベル作品のディストリビュート、その他私信も含めて膨大な量である。更に9割以上が英語なので、自ずから時間がかかる。コンピューターの前で、漬け物を齧りつつ納豆御飯と味噌汁をかき込んでいる姿は、到底海外で「ギターレジェンド」等と称されている一面と重なるものではないであろう。ミュージシャンが音楽だけやっていればいい時代なんぞ、とっくの昔に幻想となってしまっているのか。
午後は、焼き魚に味噌汁と御飯と云う定番の昼食をとり、郵便局へ出掛ける用事等がある場合は、まずを用事を済ませ、更に気が向けば中古レコード屋へ。こういう場合、金の有無は一切関係ない。長年レコード屋を巡っていると、知らず知らずのうちに一種の霊感のようなものを兼ね備えるようになり、何か感じたり閃いたりした時に、さながら別段目的がなくともレコード屋へ行くと、不思議と掘り出し物に遭遇する。先日も長年探していた「Carlo Gesualdo/Madrigali A Cinque Voci」と云うヴォルカーレ・イタリアーノのLP7枚組ボックスを、3500円(定価17500円)で購入。当然これで財布の中はすっかり寒くなってしまったが、人生の中で一体何度出会えるかわからないようなレコードをここで買わないで、一体何の為の金ぞ。しかし何の閃きもなくレコ-ド屋に行っても、何かに憑かれたかの如く、やはり何かしら買ってしまう。つい昨日も、CDRを買いに出たついでに、ついフラフラと1軒のレコード屋に吸い寄せられてしまった。1枚200円のバーゲンコーナーで、「フォクシー/スーザン・アントン」「愛のエッセイ/桃井かおり」更にkbの女の子がキュートだからと云う理由で「Hitsville/THE BROOD」なる最近の女の子ガレージバンドを衝動買い。全く人間の物欲とは、果たしてどこまで行けば終焉が見られるのか。
午後に外出の用向きがない場合、大抵は自室でビデオを見ながら、梱包発送等のレーベル雑務に明け暮れるか、若しくは溜まりまくった録音の予定をこなす事に終始する。
腹が減ると、再び焼き魚に味噌汁と御飯と云う定番の夕食をとり、また作業の続きに取りかかる。食事の準備に時間を浪費したくないばかりに、どうしてもこの定番メニューに陥りがちだ。まあせめて夕食の時は、魚を焼いている間に、小鉢の一品でもこしらえるのだが。そして気付くと深夜となり、ようやくゆっくりレコードを聴いたり、ビデオを観たりと自分の時間と相成る次第なのだが、最近はネットサーフィン等にうつつを抜かし、全くもって不毛な時間を過ごす事も多い。しかし作品の締め切りが差し迫っている時などは、深夜まで延々とテープを回す羽目になる。ZAPPAが「24時間録音スタジオに居ても苦痛にならない」と言っていたが、私もかなりそれに近い。元々宅録少年であったためか、一人で録音作業に耽っている時が一種の至福の時である事は、まごう事なき事実。
東君と一杯やる約束をしている日は、日の暮れぬうちから飲み始める。自分達で仕込んだ肴で、焼酎のお茶割りをやるのが、我々の習わし。好きなレコードを聴きながら、阿呆話や猥談から人生論までとことん語り明かし、そして飲み明かす。「二階堂」の一升瓶も軽く空け、飲み疲れ語り疲れた頃、両者ダウンでささやかな宴も幕。いくら経済的に困窮を極めれど、酒代ぐらいはなんとかなるもので、そもそも1人2000円もあれば充分なのであるから、何ともお気楽極楽な愉しみであろう。「旨い酒を呑む」事に徹してもう幾年、安酒飲みの境地ここに窮まれり。
と、私の日常はいたって規則的な生活リズムで構成されている。ほぼ毎日7時には起床し、深夜3時以降に就寝。3食しっかり食べ、週に何度か晩酌をする。煙草は1日40本、間食はしない。俗に云う「ミュージシャンらしい」不規則な生活のイメージからは遠く掛け離れているが、私にとっては、これが現時点での最良の生活スタイル。「やりたい事しかやらない。やりたくない事は絶対やらない。」このモットーを、実生活の中に還元すると、知らぬ間にこんな生活スタイルが出来ていた。
そもそも出勤の為に毎朝同じ時刻に起床し、同じ道を辿り、あまり代り映えのしない日常を規則的に繰り返すのとは訳が違い、一切の強制的な圧力もなく、自発的且つ自然に出来上がった習慣であるから、全く自分に無理がない。
しかしこんな当たり前の事が罷り通らぬ社会におられるさぞや立派な面々も、近頃のリストラ・ラッシュでは戦々恐々としているとか。
「ではこの際、やりたい事だけやって、やりたくない事はやめてしまえば?」
と、端から何も失うものの無い享楽主義の成れの果ての我々の助言たるや、全くもって無責任な事この上なし。一昔前、社会的経済的「安定」と云う大太刀で一刀両断、一方的に婚約破棄された私にとっては、なかなか痛快なこの御時世。
(2001/8/31)