『人声天語』 第52回「現代タコ焼き考」

それにしてもoutlook expressには、一体何件ぐらいのメールが保存出来るのであろうか。日々削除しているにも関わらず、気が付けば受信トレイに3000件以上ものメールが溜まっており、あまりに重過ぎて稼動するのにやたら時間を要する為、此処は一発奮起して整理を試みたが、いやはや約2900件以上のメールを一気に削除する気持ち良さと云えば、此処最近の春風の如く清々しい事この上なし。受信トレイのメール数が2桁台になったのは、一体いつ以来か。明日は送信済みアイテムを整理してみるか等と、こちらも日々削除しているにも関わらず矢張り3000件以上も溜まっており、即ち3000件以上もメールを送信したと云う事に他ならず、我ながら驚嘆。そして案の定、読み忘れていたメールやら返信し忘れていたメールを発見し、慌てふためき順次返信してみれば、これが結局一日仕事になる始末。そして風呂を湧かしていた事なんぞすっかり忘却の彼方へ葬り去られ、何やら風呂場の方から地響きと轟音がするのでハタと気付けば、既に沸騰している有様。

此処に来てまたしてもAMTのリリース依頼が殺到。もう一体何枚のマスターを仕上げれば録音作業と締め切りから解放されるのか、既に見通しは絶望的である。夏迄にAMT名義だけで最低5枚の新譜と1枚のライヴ盤、2枚のベスト盤、4枚のシングルを作らねばならない。その他にリイシュ-やらソロやらコラボやらコンピも入れれば、もう総数さえ数えられぬ。本当にこんなに乱発して売れるのか。そもそもインプロ野郎の退屈なマンネリのライヴ盤の乱発ならまだしも、ロックバンドが1年にそう何枚ものスタジオ録音の新譜を出すなんぞ、ZAPPAぐらいしか前例がないのではなかろうか。作る限りは前作を凌ぎたいのは当然で、しかし制作時間はより限られてくるが為、暫くはこの「人声天語」の更新もそうそう出来ぬかもしれぬ事、予めここで公言しておく故、何卒御理解の程を。

しかしそんな多忙を極める中、オークションで落札したシタールを受け取りに大阪へ。さてその大阪へ向う車中での事、ラジオで「タコ焼きにキャベツを入れるか否か」で、男女2人のDJが激論を闘わせているではないか。そんなもん答は明解、勿論「何ヌカしとんねん、ほんなもん、どこのどいつがタコ焼きにキャベツ入れんねん、このボケがぁ~!百回死んで出直して来い、カス!」である。
本来タコ焼きの中身とは、紅ショウガや葱等の薬味とタコで充分、いやそれで完璧に完成されている。頬張るや中からトロっとした生地がジュワ~っと滲み出し、それとタコとの食感の違いを楽しむのであり、そこにキャベツが入ってしまっては、折角の食感の違いに水を差すようなもので、況して加熱し過ぎで生地が硬い等と云うのは論外であろう。
名古屋に引っ越してきて間もない頃、大阪出身の私は、当然旨いタコ焼きを求めていろいろな店を片っ端から廻ったものだが、何と名古屋ではタコ焼きにキャベツが入っていると云う衝撃の事実を目の当たりにして、「こんなもんタコ焼きちゃうやんけ!これやったらお好みボールやんけ、ボケ!お前らタコ焼きも知らんのか、このドン百姓が!」と、1個食うては残りをゴミ箱にぶち込んで、散々文句タレて帰ったものだ。更には上にマヨネーズが乗っているなんぞ、それこそお好み焼きと混同しているとしか思えぬではないか。矢張り冷麺にからしならぬマヨネーズを添えるスタイル発祥の地だけのことはあるのか。兎に角こちらに越してきて以来、真のタコ焼きを探し求めて久しいが、結局キャベツが入っていない店は、未だたった1件しか確認出来ていない。それどころか近頃は、行列の出来ると云われるタコ焼き屋では、チーズが入ってるものまで揃えており、ここまで来ると最早唖然としてしまう。
しかし今回大阪に出向いたついでにAMSやパズルへ行こうとアメ村を訪れれば、そこかしこでタコ焼きを頬張る女性多かれど、よくよく見れば、嘆かわしきかな今や大阪でさえマヨネーズが乗っているではないか。それどころか「しょうゆ味」に加えて「塩味」まで存在している。今や人々の嗜好の多様化によって、遂に斯様なものまで考案されたのかと、日本人の飽くなき食への追究の弊害を垣間見たような気分である。何故完全に完成された旨いものにまで手を加えねばならぬのか。普遍的な定番と云うものがあって然るべきで、定番を蔑ろにしてしまう事こそ、目先の利益や新しいものへの好奇心が旺盛な日本人の欠点でもある。特に関西では「一家に一タコ焼きプレート」は常識で、上手くタコ焼きが焼けない母親は母親失格であり、そんな家庭で作られるタコ焼きが、子供達のニーズに合わせた工夫からか、それとも関西に嫁いできた他所者の勘違いからかで、これらキャベツ入りやらチーズ入りやらの邪道のタコ焼きを生んだのではなかろうか。
確かにここ最近、日本人特に若い世代の味覚障害による味覚変化が叫ばれて久しいが、それ故に彼等の料理たるや想像を絶するにあまりあるもので、彼等に迎合せざるを得ぬ外食産業こそ哀れである。このままでは、あと40年もすれば、「美食天国日本」も完全に滅亡してしまうのではなかろうか。今や日本の子供の学力たるや世界でも下から数えた方が早いところまで失墜しているらしいが、料理も激不味のイギリス料理やドイツ料理と肩を並べる日も近いやもしれぬ。何しろ刺身にマヨネーズをつける等、日本人の魂は今や何処。

マヨネーズとはフランス発祥(厳密にはスペイン発祥であるが、マヨネーズの名称を持つものはフランス発祥)であり、何しろ先日のツアーでも、フランス人のオードレイとエステルは、フライドポテトからBBQに至るまで何にでもマヨネーズをつける程で、しかし一方日本の食卓でも今や欠かせぬものとして定着している。そして彼女達よろしく日本でも「マヨラー」なる、矢張り何にでもマヨネーズをつけるマヨネーズ愛好家が激増しているらしい。確かに私もマヨネーズは愛用しているが、しかしそれは時と場合に因る。食卓に並ぶ全ての皿にマヨネーズを添えてしまえば、味は全てマヨネーズ一色となってしまい、では何故料理を何皿も用意するのか、その意味さえ不毛となってしまう。マヨラー曰く「何でもマヨネーズをつければ全部好きなマヨネーズ味になる」等とは、いやはや何と短絡的な発想なのか。それならばひたすらマヨネーズをチューブごと吸っておればよい。確かに日本のマヨネーズが旨い事は認めるし、実際フランス人の友人が日本に来た際、「どうして日本のマヨネーズはこんなに旨いのか。マヨネーズはフランス発祥なのに。」と不思議がっては、結局キューピーマヨネーズを買い求め持って帰った程であるが、されどこのマヨネーズこそが、今の日本に於ける味覚破壊の元凶となっているような気がしてならぬ。

さて「タコ焼きにキャベツを入れるか否か」の結末であるが、このラジオ番組は関西のラジオ局による放送であった為、当然の如く「キャベツ~? 何ヌカしとんねん、このボケェ!」と云うメールが聴取者から殺到し、キャベツ入り支持派の女性DJは、実は彼女は案の定関東出身であり、矢張り関西地区以外から来た人達にのみ支持されたようだ。ではマヨネーズタコ焼きは如何なものか、至って興味深い。これは関西人同士であっても、賛否両論となるに違いあるまい。
そう云えば高校生の頃、「粉末タコ」入りのタコ焼きを売りにする店があった。食べてみると本当にタコが入っていないかの如きで、本当は粉末タコなんぞ最初から入っておらず、ただコスト削減の為の詭弁ではなかろうかと思ったものだが、当然の如くその店は3ヶ月弱で閉店した。また一口で頬張れぬ程の大きなタコ焼きも、タコ焼きの食し方の美学を理解出来ぬド阿呆の為せる技で、アホみたいに大きなタコ焼きが旨かった試しなんぞ一度もない。
タコ焼きは、タコ焼きのままでいいのだ。一体それで何の文句がある。

(2002/5/01)

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