『人声天語』 第64回「野球革命戦争宣言」

J.F.Pauvrosとの国内ツアーも無事終了、そして名古屋トクゾウで行われた「ギター・ロイヤルランブル2002」も、Richard Youngsをゲストに迎え、大入り満員の大盛況にて無事幕を閉じ、これでAMTの海外ツアー出発迄の全ての国内ライヴ・スケジュールをこなした事になる。AMTの新譜「Live in Japan」の入稿も、Kawabata-Pauvrosのツアー出発当日の朝迄掛かってミックスを終了し、何とか間に合った模様。昨日はSamla Mammas Mannaのライヴを観にトクゾウへ。久々の赤天に抱腹絶倒。予めリクエストしておいた「ガムラン」には、本当に死ぬ思い。そして待望のSamla Mammas Mannaは、想像以上のパフォーマンスを披露、長年に渡り一度観てみたいバンドであっただけに感慨ひとしお。そして今日より再び、雑務地獄に身を投じなければならぬ。AMTのヨーロッパ・ツアーのブッキングは、またしても恒例の二転三転。求めて止まぬは敏腕マネージャーか、さてまた美人秘書か。

されどマネージャーと言えば、野球部の女子マネージャーなんぞと、安直な発想しか出来ぬ私である。高校は通学に2時間弱もかかった故、帰宅部であった私には、汚れたユニフォームを洗濯してくれるマネージャーなんぞ、まるで縁のない生活であった。今もって女子マネージャーの仕事とは何なのか、洗濯以外には皆目見当もつかぬ。ドラマや漫画で見かける女子マネージャーは、「学園のマドンナ」と相場が決まっているが、現実は一体どうなのであろう。
されど「学園のマドンナ」に洗濯さえ志願させ得る程の花形スポーツのひとつである野球であるが、何でも五輪正式種目から抹消されるらしいではないか。理由は以下の通りらしい。

  1. )高い金を出して作った競技会場が、五輪終了後、野球以外に利用出来ない事。
  2. )競技終了時間が見通せない為、テレビでの放送時間枠を設定し辛い事。
  3. )大リーグ選手等によるドリームチームが出場しない為、注目度が上がらない事。
  4. )NBCの大リーグ放映権の契約が切れ、現在はゴルフ中継に重点を置いている為、野球に代わりゴルフを推している事。(タイガー・ウッズ等スター選手に出場を打診する算段だとか。)
  5. )野球に関心のある国が、極一部地域に限定されている事。

今や「アマチュア・スポーツの祭典」ではなくなった五輪は、「巨額の富を生み出すスポーツの祭典」になってしまった為、人気のない種目は今後、容赦なく切り捨てられて行くであろう。当面は先ず、野球、ソフトボール、近代5種が、槍玉に上げられているとか。
野球に馴染みの薄いヨーロッパ人に言わせれば、「あれほど退屈でバカなスポーツはない」そうで、確かにサッカーを典型とする、攻撃と守備が状況に応じてめまぐるしく変動するスポーツを愛する彼等には、攻撃と守備がはっきり分けられている野球は、極めて退屈であろうし、戦況の瞬間的判断力が問われぬ故に、まるでバカのやるスポーツに見えるのであろう。

野球のルーツと言われるクリケットの試合を、かつてロンドンで録音している時、スタジオのテレビで観た事があるが、あれこそ「退屈極まりない」ものであった。ルールを知っている訳ではなかったので、同席していたアラン・カミングス氏に簡単に解説してもらったのであるが、なんと通常1試合は数日間も要するそうだ。朝から日没迄毎日やって、数日かかって(時には1週間以上!)漸く決着がつくとは、何と悠長な競技ではないか。それを観戦する客も客だが、選手もよくやってられるものだ、と感心してしまう。勿論試合途中に、イギリスらしく「お茶休憩」もあるそうで、コスチュームも到底スポーツとは思えぬ出で立ちにして、何しろ上は、白いカッターシャツに女子高生が着るようなベスト、下はチェック柄のバミューダっぽいパンツにハイソックスだったか。この日1日観戦して、漸く1回の表が何とか終了した。野球と同じく3アウトでチェンジだそうだが、1アウト取るのに恐ろしい程の手間暇が掛かるようで、日没でその日の試合は取り敢えず終了し、翌朝その続きから始めるのだそうだ。これから考えれば、野球のルールは、恐ろしく合理化された末の産物と言えよう。

とは言え、実際野球が退屈な事は私も同感で、矢張りサッカー中継等のように、そうそうトイレに立つ事さえ出来ぬ程、試合から目が離せない訳ではない故に、ビール片手にのんびりナイター中継を観る事も出来ると云うものだ。でなければビールを調子良く飲んで、余裕でしょっちゅうトイレに行ける筈もなし。何しろサッカー等は、ゴールシーンだけをダイジェストで観ても全然面白みがないが、野球はダイジェストでハイライトさえ観れば、もうそれで充分な競技である。プロ野球も、かつてはかなり入れ込んで観ていたものだが、やはりあのダラダラした時間の流れにどうしても馴染めず、今やプロ野球ニュースでハイライトさえ観られればそれで良しとしてしまっている。況してや御贔屓の阪神も、昔に比べて小兵揃いで、監督の星野仙一が球団きってのカリスマでは、お先真っ暗であろう。せめて85年優勝時のラインナップぐらいの存在感は、欲しいものである。

そこで矢張りプロ野球も、より「お客を喜ばせる」演出等してはどうか。長島一成主演の映画ではないが、謎の覆面ピッチャーやらを称賛し、かつての野球漫画宜しく「魔球」の開発に精を出して欲しいものである。より飛ぶボールやらバットを開発するより、魔球が可能なボールやらを開発しては如何か。
スポーツであると同時にエンターテイメントである事も考慮して、乱闘劇も過激に演出し、時には判定を巡り、審判員同士の確執劇なんぞあってもよろしかろう。ドラフトもかつての江川事件のような策謀を巡らし、シーズン中のトレード等も含め、ここら辺りを因縁絡みの造反劇に仕立てるのも面白いかもしれぬ。時には他球団からの乱入やら、別リーグからの乱入も、全球団にスポットを当てると云う意味で良いであろう。最近は選手登場の際、各選手のテーマ曲なんぞ流しているようだが、ここら辺りも選手のキャラ設定をより明確にして、その演出効果の一環としてやらねば、何の意味もなさぬ。
勿論実況解説陣も、この辺りを踏まえた楽しい実況を目指して頂きたい。かつて裏音声で流れていた「ゲスト星飛雄馬」は、かなり可笑しかった。当初は「今だ、投げろ大リーグボール!」等と、熱く試合を観ていた星飛雄馬であったが、次第にアナウンサーと、かつての花形満との思い出話に明け暮れ、確か解説で来ていた別所か誰かが「ピッチャー第1球投げました…」と、ヤケクソ気味に実況していたと記憶する。この裏音声が、当時好評を博したかどうかは知る処でないが、退屈なナイター中継に対する、革命的出来事であった事は間違いなかろう。また別の裏音声では、実況放送は一切無く、ただDJがノンストップでヘビメタを流し、ボールを投げる音、スイング音や打撃音、更には捕球音等を、画面に合わせ驚異的にもライヴ感覚でハメると云った、実験的なものもあり、これは野球のダラダラ感を全く感じさせぬ、素晴らしいアイデアであったと思う。

斯様に破天荒な提案は、「真のプロ野球ファン」に顰蹙を買うどころか、どつき回されそうであるが、しかし退屈な野球中継が、テレビのゴールデンタイムを下らないトレンディードラマやバラエティー共々、大いに蝕んでいる事は事実で、ならせめてもう少しマシな番組として、何とか改善して欲しいと思うのも当然の事なのである。テレビで放送されると云うことは、一体どういう事なのかと云う事を、もっと真面目に謙虚に辛辣に熟慮して頂きたい。プロスポーツ中継とは、プロであればこその美技やら迫力あるプレイあってこそ納得出来得るものであって、それが叶わぬ御粗末なものであるならば、ローラーゲームのような演出を望んで然るべきであろう。
野球が五輪種目から外れた後は、ゴルフが正式種目になるらしいが、私としては是非、ローラーゲームを正式種目に加えて欲しい。男女混合種目でもある為、各国の美女も拝めるであろうし、アメリカ代表は当然ドリーム・チームで参戦して欲しいものである。

それはさておき、果たして国際社会での野球はどうなっていくのか。正式種目から外されれば、野球の国際スポーツとしての立場はなくなるであろう。野球大国であるアメリカにとっては、野球以外の種目でメダルを大量に獲得出来るであろうから、結局は大した問題ではないのかもしれぬ。それに比べ、この日本の五輪委員会の慌てぶり、情けない事この上なし。そもそもその野球ででさえ、メダルが獲れぬ有様ではなかったのか。
かと云って、サッカーで云うトヨタカップに相当するプロ球団の世界選手権なんぞ、日本リーグが大リーグの2軍的位置にある限り叶う筈もなく、結局は現在日米決戦と云われるものも、日本側が前年度の大リーグ覇者を招聘しての、所謂親善試合でしかない。況してやW杯に相当する世界大会を企画したところで、野茂やイチロー等によるドリームチームが出来たとしても、結局参加国の少なさに、その規模はW杯に及ぶべくもなく、国民一丸となっての過熱ぶりは、然程期待出来ぬであろう。

何にせよ私の五輪での愉しみは、東欧美女が乱舞する体操とフィギアスケート程度のものであるから、別に斯様な事はどうでもよろしい。そして野球は結局「アストロ球団」が一番面白い。

(2002/9/25)

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