突如、我家のCD Recorder2台が同時に故障、これにて漸く取り掛かり始めた録音作業の一旦停止を余儀なくされてしまった。この2台はパイオニアの同機種にして、購入時期も違えど使用頻度はそれ以後同じなれば、一体何の因果で2台同時に壊れなければならぬのか。当初は先ず片方の調子が少々悪くなり、その数時間後には、まるで伝染したかの如く残る1台も怪し気な兆しを見せ、そして翌朝には両者共に完全死亡状態。まるでAV機器ウイルスなるものが存在し、それが電源か何処からか侵入したかのようである。予定が立て込んでいる時に、機材トラブルで泣かされる事が一番腹立たしい。永久に壊れない物とは云わぬが、せめて5年や10年は、トラブル知らずでいて欲しいものである。
壊れたと云えば、先のアメリカツアーでぶち壊してしまったファズ、ヨーロッパツアーで壊れたワウ、この2点を修理して頂ける事になり発送。一応「ファズワウ・ギタリスト」であるから、この2点は私にとってはマストであり、故にこだわりも大きい。アンプへのこだわりは「デカい音が出る」「クリアーサウンドが作れる」以外に取立ててないが、ファズは色々試せば試す程、愛用ELK製Big Muffでなければどうにもならぬと実感。
このELK製Big Muff、ツアー2回に1度は壊れる曲者ではあるが、そのファズサウンドの超強力ぶりは、他の如何なるファズペダルさえも及ばぬ処。個人の好みの問題はあろうが、兎に角音の立ち上がりの凄さたるや尋常にあらず。「ブギョオオオオオオオォ~ンンンンン…!」と云う感覚で立ち上がるのは、同じBig Muffであれ、ビンテージのエレハモ製オリジナルさえ足元にも及ばぬ。ロシア製リイシューモデル(黒)は、少々近い感じもすれど、ここまで下品な掛かり具合にあらず。ただこのELK製の難点は、クリアーサウンドが得られぬアンプとの相性が非常に悪く、通常でも歪み系のペダルは直列で同時に使用すると、一歩間違えば相殺されて音がショボくなるが、何とこいつはアンプの僅かなブーストですら過敏に反応してしまうらしく、アンプの歪みと相殺されて、いきなり抜けの悪い掃除機のような音に成り下がってしまう。故に、ツアー先でショボいマーシャル等の「天然歪み系」アンプなんぞに当たると悲惨で、どうにもこうにも音作りが出来ぬ有様。しかしクリアーサウンドが得られるアンプであれば、見て呉れは小さくとも、壮絶な爆音を醸し出し、アンプの持主でさえ「これが俺のアンプの音なのか?」と驚く程のポテンシャルを発揮してくれる。
音の雰囲気は、判り易く云うとBig MuffとRatを7:3にしたような感じで、特にトーンをトレブリーにセッティングすると、殆どRATと云った具合で、ファズなのかディストーションなのか、何とも曖昧な感じである。されどトーンをLOW気味にセッティングすると、野太く且つ粗野なえげつない歪みが得られる。私のアンプ・セッティングは「HIGH:3 / MIDDLE:7 / LOW:10」辺りなので、時折その音の太さに耐えきれず、スピーカーのコーン紙が悲鳴をあげる事も屡。兎に角このファズが本領発揮すると、ギターのゲインがいきなり3倍以上も稼げる上、踏むや否やアンプから「突風」が吹くように感じられる。またそのあまりの爆音ぶりに、ステージ上はギターサウンドで全てが掻き消されるが、それがまたメンバー全員の「ロック魂」に火をつける様子にて、故にアンプとの相性が悪く苦戦している日なんぞは、他のメンバーから「ファズを踏んだ瞬間、ギターがドカ~ンって来な燃えへん。」と苦言を頂く始末である。
ワウに関しては、上品な掛かり具合のCry BabyやVox製のもの等は好みでない。レンジが出来るだけ広く、特にHIGHが「ジァギュワ~ンンンン!」と耳に突き刺さるようでないと、及第点を与えられぬ。始めはCry Babyのレンジをかなり拡げるように改造し使用していたが、何せ重量が重すぎる。ツアーに於いては、如何に機材をコンパクトに軽量化出来るかが最も重要であれば、このクソ重たいCry Babyは全くもって落第である。
95年から98年までは、台湾製Ibanezのワウを使用していた。これがプラスティックボディーで軽い上、レンジが非常に広く、更に踏むとゲインが2倍に跳ね上がる代物で、MainlinerやMusica Transonicの海外ツアーに於いて「Highest Fuzz Waw Guitarist」の異名を戴いたのも、このワウあればこそかだったやもしれぬ。但しプラスティック製であった為、その耐久性のなさは桁違いで、ジャンプして踏もうものなら、内部の滑車やらが折れる事は日常茶飯事で、常に瞬間接着剤を携行しては修理していたのであるが、スイッチは陥没するは、挙げ句はボディーが真っ二つに割れて御臨終と相成った。
99年からは再び耐久性に優れるCry Baby改造モデルを使用していたが、2002年春のツアー中に完全粉砕してしまい、仕方なくLondonの楽器屋にて安価なTech21ブラジル製ワウKiller Wail(ふざけた名前!)を購入。
これがまた金属製ボディーで重いのだが、Cry Babyよりはひとまわり小さく、3段階にモード変換可能であり、HIGHにモードをセットすればそのレンジの広さたるや、もっともトレブリーな音域は、ショボいギターアンプでは再生不能な程。これとELK製Big Muffが合体するや、史上最強の凶暴且つ強靱なファズワウ・サウンドが得られるのである。されどこのワウ、流石安価なブラジル製だけあり、その見て呉れの厳さとは裏腹に、何とも耐久性に弱点を持ち、昨年秋のアメリカ・ツアーにて僅か半年で自滅。このツアー初日にはELK製Big Muffを完全粉砕してしまった為、ファズワウ・ギタリストである私には致命的な、ファズとワウ両方を失う結果となり、更にトレモロアームさえも折ってしまったが故、その後の苦労は筆舌に尽し難い。
ライヴに於いては、なるべく多くのペダル類を使う事は避けている。時折とんでもなく巨大なエフェクターボードを御持参されるギタリストをお見掛けするが、それ程ペダルを用意したところで、その見栄えの割には大した事さえ出来ておらぬのが定石のようである。そもそもファズ等の歪み系、リバーブ等の空間系、ワウ等の飛び道具系があれば充分で、それ以上ごちゃごちゃ駆使した処で、一体客の誰がその微妙な変化に気付くと云うのか。
しかし斯く云う私も、かつて某プログレ系バンドをやっていた頃には、1畳はあろうかと云う巨大エフェクターボードを使っていた事も事実。凝り始めると止処なくなるのが機材であり、また今で云うビンテージペダルを大量に使用していた事から、一度某ギター雑誌から取材を申し込まれた事さえある。それら多くのビンテージペダルは、グランジブーム以降から吹き荒れるビンテージペダル・ブームの際、その殆どを売却し、結局レコードやら酒代やらに化けてしまった。今現在でもお気に入りの逸品は数点残してはいるが、結局壊れ易い上に重量もあり、ライヴ向きではないと、専らレコーディングのみでしか使用しておらぬ。
灰野さんのように、コンパクトで丈夫な新しい機材を次々試す程のバイタリティーを、生憎私は持ち合わせておらぬが、されどツアー続きのこの身なれば、矢張りペダルは丈夫で軽いに越した事はなく、もしも音的に満足のいく、よりコンパクトな新製品があれば、是非とも試してみたい処である。ツアー先での機材トラブルにはうんざりさせられる故、壊れ易いビンテージペダルの使用はなるべく避けたい限り。
詰まる処「良いギターに良いアンプ、アンプ自身の歪みで骨太なサウンドを…」と云うのがハードロック系ギタリストの王道であろうが、生憎世間で云われる良いギターなるものを持ち合わせぬ上、自前のアンプなんぞは不必要と、とうの昔に全て売却してしまった為、斯様なスタイルは望むべくもなし。況して時折クリアーサウンドも必要なれば、プリアンプを10にセッティングする事は叶う筈もなく、リードパートの折にはゲイン3倍増を望む上、フィードバックさせる為に、みっともなくアンプの前に屈み込むなんぞもっての他、アンプの方へ振り向く行為さえも恥ずかしい私なれば、ステージ上の如何なる場所にても自在にフィードバックを得たいと云う思いもあり、結局ファズは必需品。
たかがペダル、されどペダル、「ペダル無しではギターもロクに弾けぬのか」なんぞとお叱りも受けようが、まあそれが「エレキギタリスト」の哀しさであろう。同じ「ギター」の名は冠せど、エレキギターとアコースティックギターは、アマレスとプロレスが全く異なるが如く、全くもって異なるものなれば、それ故にエレキギターの愉しみと云うものもあるのである。そもそもクラシックギターのように、脚を台に乗せ姿勢を正して演奏せねばならぬなんぞ、行儀の悪い私には不向きである事この上なし。エレキギターには定石たる演奏方法が存在せぬ処こそが、私の好奇心を25年間も捉えて離さぬ点ではあるまいか。
(2003/1/30)
追記:
修理を依頼して日も僅かで修理が完了し、最早このファズとワウが手元に戻って来た。何より驚かされたのは、もう見るも無惨であったボコボコに変型したボディーが、見事な板金技術の下、まるで新品の如き姿で帰って来た事。また破損箇所以外も、操作性等を考慮して改造して頂いた上、「いつか、河端さんがあのエフェクタを壊すとこ、観てみたいです。また直しますんで。」との心強いお言葉も添えられ、誠に感謝感激。
「『こりゃ、ええ!』っていうファズに巡り会えた人は幸せだと思います。」
修理して下さった有馬さんのこの一言を、全てのファズ・ギタリストに捧げます。
(2003/2/3)