3月初頭にオーストラリアから帰国すれど、その10日後にはフランス・ツアーへ出向き、漸くToulouseから30時間以上かかって帰宅するや、今度はその翌日から羽野昌二+津山篤と云う「超ド級リズム隊」との西日本ツアーを敢行、旅の疲れもまだ抜けぬうちから、更にMaquiladoraの日本ツアーで東京から九州へ。Maquiladoraとのコラボレーション2枚組CD「Kiss Over」はスケジュールの合間を縫ってマスターを仕上げたものの、残念ながらプレスが彼等のツアーに間に合わず。
更に5月中旬から始まる「Acid Mothers Temple Soul Collective tour」と名付けられたUK/Ireland & USツアー迄に、Pardonsの2ndアルバムと「Acid Mothers Temple Soul Collective tour」のツアー記念CDをリリースせんと、これらのマスターをMaquiladoraとのツアー中に完成させ、まさしく死ぬ思いであったこの数週間。久しぶりに桜開花の季節に日本におれども、花見に行く暇さえなし。
博多天神ビブレホールでのMaquiladoraとの最終公演も終了し、翌朝7時に彼等を新幹線博多駅にて見送るや、ツアーに同行していた私と東君は、一路名古屋へ向かって車を飛ばさねばならぬ。全900km以上の行程なれば、せめて「一緒に歌えるBGM」でもカーステで鳴らしつつ、楽しくドライヴしようと思い立つ。たまたま姫路から岡山への移動中、街道沿いの大型中古CD店にて、私がモーニング娘「3rd – LOVEパラダイス- 」を250円にて購入した事で、東君が「帰りはアホな歌謡曲を一緒に歌って帰ろう」と提案、これが全ての始まりであった。
最近「矢口真里」にハマっている私なれば、取り敢えず250円ならばとこのCDを購入したのであるが、このアルバムで聴き覚えある曲は「LOVEマシーン」「恋のダンスサイト」の2曲のみで、また到底「一緒に歌える」訳でもないが故、「矢張り一緒に歌えるようなCDを250円ぐらいで買おう」と、関門トンネルを越えて本州に辿り着くや、街道沿いに建つ中古CDを扱う大型店を片っ端からチェック。されどなかなか自分達の望むようなアイテムが希望価格で発見出来ぬ。下関から結局は山口市まで、街道沿いの店で何も収穫のないまま、我々は既にモーニング娘のCDを一体何度リプレイしたのか、気が付いてみれば「一緒に口ずさめる」程となり、遂には街道を外れて山口市街へ乗り込み、一楽さんの経営するDisc Boxに辿り着く。Disc Boxでも斯様なカスCDは見当たらず、事の次第を知った店長の花岡さんから「カーペンターズ」の廉価盤ベストを頂き、カスCDを求めて更なる旅へと、山口市内のHard Offへ。
ここで既に我々はカスCDを探し求めて6時間もロスしている事に気づくも、兎に角「楽しくドライヴしたい」と云う、誠にもってシンプル且つ不毛な理由によって、斯様な事等気にもせず。されどこの6時間のロスがなければ、この日の内に名古屋へ戻れたであろう。
希望価格にて我々が「一緒に歌える」ようなCDはせいぜい「Best 2 / 中森明菜」と「Hide’n’Seek / 中山美穂」程度しか見当たらず、ここで急遽コンセプトを変更。「プロデューサー対決」の名の下、モーニング娘をプロデュースしている「つんく」に対抗する形で、ここ10年程の間にJ-Pop界でヒットメーカーとなった「小室哲也」「奥田民夫」を取り上げ、彼等のプロデュース作品と云う事で「EZ DO DANCE / trf」「SWEET 19 BLUES / 安室奈美恵」「JET CD / Puffy」を各200円にて購入。更に調子に乗り「ダンス好き」の東君の為に「The Best of Juliana’s Tokyo 1992」まで購入。普段絶対に手に取る筈もない斯様なCDを購入するのも、また「旅の一興」と、モーニング娘を聴き飽きた我々、かなり昂揚してカーステに先ずは「JET CD / Puffy」を放り込む。
Puffyは、元々J-Popの中では結構耳にした事のある曲も多かれど、じっくり聴いた事はなかった。シングルヒットした曲は、古めのロックをリメイクしたような感じのアレンジで、「イヤ」ではないが面白みに欠ける。またそれ以外の曲とのクオリティーギャップが大きく、ヒット曲以外は聴いていてかなり辛い。特に途中マリンバ等の入ったプログレ調の曲があるのだが、これが何とも格好悪い。俗に云うプログレマニアの方々は、斯様なセクションを聴いて「おおっ!これは『プログレ』として聴ける!(=及第点を与えられる)」と申される事が多いようで、勿論内容が本当によろしければ問題もないが、大抵プロデューサーの「隣の芝は青い」的発想による「カスのような真似事」のレベルでありつつも、それを聴き手がついつい評価してしまう処に、プロデューサー奥田民夫の「罠」と「せこさ」を感じずにはいられない。
それに対し、モーニング娘を聴く限り、そのパクりぶりは驚愕に値する程、恥も外聞も投げ捨てたかの如く露骨なものが多い。「LOVEマシーン」はどう聴いてもショッキング・ブルーの「ビーナス」(と云うよりはバナナラマか?)、「愛車ローンで」はタイトルからも推察出来る通りナックの「マイ・シャローナ」、「恋のダンスサイト」はジンギスカンの「ジンギスカン」、その他にもEWFやら兎に角誰もが知り及ぶ有名なヒット曲を、堂々とパクれる根性こそ、つんくのプロのポップ・プロデューサーたる度量なのだろうか。
森本レオを起用した「ランチタイム ~レバニラ炒め~」に関しては、従来のアイドルのレコードにありがちな「ナレーションもの」とは全く異なる「すべりまくった」お笑い路線を提供しているのだが、これも「ヤングタウン」で育った関西人らしさなのかもしれぬ。
ここではモーニング娘なるアイドル・グループ自体のプロデュースや戦略には触れぬが、何はともあれ、日本芸能界に於けるアイドル盛衰の全歴史を圧縮し、彼自身が影響を受けたであろう音楽やら文化やらで割ったかの如き、大量消費を明らかに前提としたこの「居直り」ぶりは、つんくならではのスタイルなのだろうか。
初めて聴いた時に「稚拙」と感じられた部分が、聴いているうちに「魅力」に変貌していく箇所にこそ、アイドルのアイドルたるアイデンティティーがあると、私はそう確信しているし、そうであるからこそ、この「アーチスト」なる呼称を矢鱈と有り難がる今の御時世に於いても、 モーニング娘は「アイドル」として存在し得、そして成功しているのであろう。
奥田民夫のプロデュースの仕事をPuffy以外存じぬ我々、この時点でつんくに「ポイント1」を進呈。
続いて「EZ DO DANCE / trf」をプレイするや、その不快感たるや「不快指数100」を軽く突破。小室曰く「人間の心理に肉迫したBPM140」なるビートの鬱陶しさは半端ではなく、ブックレットのインタビューによれば「最近は10ビット(240分の1秒)のズレもわかるようになった」らしいが、それが一体どうしたと云うのか。「音を削ぎ落として行く」作業を繰り返しているらしいが、このビートの喧噪は都市のそれと全く同じ不快感を導く。異常に高音が耳に痛いイコライジングには気も狂わされんばかりである。「こんなもんずっと聴いとったらほんま気ィ狂うで。」
奥田民夫の仕事と異なり、シングルヒット曲とそれ以外の曲の差を感じさせぬが、それは「どの曲も同じ」と云う塩梅であるが故であり、よくも斯様に「手抜き」な仕事で、あれ程の成功を収められたものである。
東君の「しかし小室作品は安室の歌に代表されるような歌ものもあるから、そちらも聴かねば判定は下せない」と云う意見の下、取り敢えず「仮り」で最下位にランク。
それにしても可哀想なのはtrfのメンバーであろうか。「作詞/作曲/編曲:小室哲也」のクレジットや、その他のスタッフのクレジットはあれど、メンバー名のクレジットが何処にもない。それどころかブックレットの冒頭2ページは小室のインタビューである。写真で見る限り男性6名女性4名の構成であるが、私なんぞ安室奈美恵の元旦那であるサムぐらいしか名前も判らぬ有様。
流石にこの発狂を促す小室作品に我慢の限界を感じた我々、何とかtrfの全曲を聴き終えた後は「ミポリンで口直しならぬ耳直し」せんと、彼女の「Hide’n’Seek」をプレイ。されどこの作品は、我々が好きだった「歌が好きなアイドルとしてのミポリン」から現在に至る「アーティスト中山美穂」への変遷期に当たる作品である為、音面がなんとなく当時流行っていたダンスミュージック的で、ヴォーカルも押さえ目にミックスされており、更に「アイドルのミポリンからアーチスト中山美穂へ」脱皮する意思表示なのか、彼女の作詞/作曲による作品も収録されている。また我々のフェイバリットである「You’re My Only Shining Star」も妙なアコースティックなヴァ-ジョンで再収録されており、全くもって共感出来ぬ。こんな事であれば「本田美奈子 with Black Cats」を買えばよかったと後悔しきり。
あまりのショックなれば「Best 2 / 中森明菜」をプレイ。こちらはシングルヒット曲のオンパレードと云う事もあるが、矢張り明菜の歌の良さを再認識。バックトラックの陳腐さは当時は然程感じなかったが、改めて聴いてみると笑えてくる。
それにしても明菜の歌はいい。彼女のノイズ弾き語りなんぞあれば、是非聴いてみたいもの。否、その節は是非とも共演してみたい。かつて全盛期の彼女のコンサート・エンジニアを務めていた友人がおり、彼は「とてつもなく我侭で、ツアー前にスタッフが次々辞めてしまう」とこぼしていたが、まあ「選ばれている」歌姫とは斯様なものかもしれぬ。況してや「人の良さ」と「ミュージシャンとしての才能」なんぞ、そこには何の因果関係も存在せぬのであるから。
さて気を取り直し、再び「プロデューサー対決」に突入せんと、「SWEET 19 BLUES / 安室奈美恵」をプレイ。いやはや小室作品は「しょうむない」以前の代物で、シングルヒットした曲以外の手の抜き様たるや恐るべし。「買った限り一度は聴かねばならぬ」と云ってここまで我慢してきたが、流石に「顔面が痺れてきた」我々2人、16曲を終えたところで遂にギブアップ。音楽を聴いていて斯様な「肉体的変調」をきたすとは、恐るべし小室作品。斯様なものが世に蔓延したからこそ、日本の社会自体までが変調をきたしてしまったのではあるまいか。「顔黒」なる化け物が出現したのもこれで頷けようか。
小室作品はどれを聴いても同じであり、東君曰く「僅かな才能を出し惜しみしたからこそ成功したのでは?」
堪り兼ねて「カーペンターズ」を聴いてみれば、何と心が洗われる事か。普段はただの「ポップス」にしか感じられぬ「毒にも薬にもならぬ」彼等の音楽であるが、流石にこの時ばかりは相対的に状況が違い過ぎた。
時刻は夜9時を回り、丁度姫路に辿り着いたので、姫路城北の駐車場に車を入れ、未だ僅かに「顔面が痺れている」ような感覚が残る我々、兎に角小室の毒を抜くには美味いものでも食って忘れるのが一番であろうと「竜」へホルモンを食いに行く。。
「竜」にて生レバーでビールを飲み、ホルモンやミノ、ハラミ辺りを焼いて焼酎を煽る。締めは裏メニュー「ポッカピビンバ」これがまた美味なり。
この後、更にハシゴして飲み倒し、缶ビール片手に駐車場に戻り車中泊、こうして復路の初日は終了。
翌朝、いよいよ「プロデューサー対決」に最後の審判を下すべく、再びモーニング娘をプレイ。改めて聴き直した後、我々2人が下したジャッジは「1位:つんく/2位:奥田民夫/ぶっちぎり最下位:小室哲也」であった。
そして我々は姫路から一路名古屋を目指してハンドルを握るのだが、BGMは昨日購入したカスCD中未だ聴いていなかった「The Best of Juliana’s Tokyo 1992」である。「ユーロビート」やら「ハウス」やら「テクノ」はもう懲り懲り、一生聴きたくない気分であるが、「買った限り一度は聴かねばならぬ」のスローガンの下、泣く泣くプレイ。これは最早既に「行」以外の何ものでもない。せめて車内で半裸の美女軍団が扇子を振り振り踊ってくれているならば、さぞや楽しいものになったであろうが、隣で踊っているのが東君では色気もへったくれもあったものではない。更になによりショックだったのはこの「The Best of Juliana’s Tokyo 1992」が実は2枚組であった事か。
「買った限り一度は聴かねばならぬ」このスローガンに泣かされた今回の復路。因みに往路では、ベアーズで須原君から購入した「Hakone Aphrodite / Pink Floyd」「Two From The Vault / Grateful Dead」と、家から持参した「Wouldn’t You Miss Me? / Syd Barrett」なんぞを聴いて気分良くドライヴしていたのであった。
せめてドライヴするならば「自分の気に入ったものを聴くべし。」さもなくば安全運転さえも保証は出来ぬか。小室作品なんぞを聴いて命を落とすような事でもあれば、死んでも死にきれぬ。
(2003/4/21)