『人声天語』 第101回「性愛の神秘『国際秘宝館』探訪記」

先日、三重県は松阪にて名古屋のフォークデュオ「正午なり」と共にライヴを行う機会があった為、その翌日にその正午なりの石田夫妻を引き連れて「元祖国際秘宝館(伊勢館)」を訪れる事と相成った。そもそも「国際秘宝館」の存在を知ったのは、未だ幼き頃、奈良テレビにて流されていたCM、「伊勢の国際秘宝カ~ン」のテーマソングと共に、美女のボイン(巨乳なる語よりも矢張りここはボインであろう)の谷間から顔を出す「秘宝オジサン」のアニメーション、そして当時一体これに何の意味があるのか全くもって理解不能であった「馬の交尾実演ショウ」の宣伝等、兎に角その怪しげ且つ何処かキッチュな雰囲気に、妙に魅了されてしまって以来であろうか。

松阪より県道37号線(旧国道23号)を伊勢方面に南下すると、徐ろに何やら怪しげな建物が見えて来る。これこそ噂の「元祖国際秘宝館(伊勢館)」なのであった。

この昔のラブホテルをも想起させる典型的な建築様式、何故嘗てのラブホテルやらは西洋風古城やらイスラムのモスクやらの様式を模倣していたのだろうか、斯様な事を思い巡らせつつ駐車場へ突入。と云った処で、実は県道沿いのドライブインの一角に建っているのであって、大駐車場を囲み、ゲームセンターや漫画喫茶、カラオケ喫茶、定食屋、その他何の店か判然とせぬものまで、兎に角鄙びた雰囲気はこの秘宝館のみならず、このドライブイン全体に立ち篭めている。それもこれもこの秘宝館の悪影響なのか、その真実は知る由もないが、休日のお昼時にこの閑散とした塩梅なのであるから、到底賑わっているとは思えぬ。されど秘宝館を中心に、このドライブインが家族連れやカップルで賑わう様を思い浮かべてみれば、それこそ何とユートピアなる風景である事か。オープン当時は、斯様な風景が毎週末ともなると拝めたのであろうか。何はともあれ、今やその何とも云えぬレトロ且つ妖艶なる書体にて綴られた秘宝館のサインから「館」の字が失われている様に、現在の秘宝館が「悲宝館」になりつつある事は、中を拝まずとも充分伺い知れる。

さてその外観をもう一度眺めてみれば、秘宝館の前にある植え込みには「夫婦岩」まで設置され、男女性器を象ったオブジェも置かれている。ドライブインの至る所に「秘宝オジサン」の像が犇めいており、実物との初対面を記念して思わず記念撮影をしてしまった。

出来ればボインの谷間から顔を出す像も設置して欲しかった処。

入り口へ向かうや、既に中の展示物の凄さを思わせるが如き「おいろけ展示物約1万点展示」「立体映画ひめごとくらべ」、更にはこれでもかと云う程あちこちに書かれている当秘宝館最大の呼び物「馬の交尾実演ショウ年中毎日開演」の看板が目に飛び込む。

更に「シロナガス鯨生殖器」なる2つの水槽が設置され、雄雌両方の巨大な性器のホルマリン漬けが各々展示されている。入り口には「18禁」の注意書き、されど6歳未満の入場は認められているようで、乳幼児連れの若夫婦は入場可と云う訳である。ここを訪れた後、再び家族計画の元に、正しい生殖活動に勤しめとでも云わんばかりか。


建物内に入れば、いきなり「日本唯一とび出す立体映画ロマンのエロス」なるショーウインドウがあり、一体これはいつの映画であろうかと思われる程の古めかしいピンク映画上映の案内がある。この看板の雰囲気は、高校生の頃に足繁く通ったピンク映画館を思い出させ、思わずピンク映画館のトイレの臭さが脳裏を過る。この立体映画の看板は、私の奥底に潜んでいた何かに火をつけるには充分過ぎるアイテムであった。しかし立体映画とは何ぞや。嘗て3D映画と謳っていた「ジョーズ3」を観に行った際、映画の3D効果には随分失望したが、ふと後ろを振り返った折に、観客全員が3Dメガネをかけている姿に一種の戦慄を憶えた事のみが、今も鮮烈な記憶として残っている。兎に角この「立体映画」も楽しみなれば、チケット売り場のある2階へ向かう階段を上る。この階段の壁面には、展示物の目録のようなものが短冊上にディスプレイされており、「アフリカ土人の男根」「エスキモーの出産」やらまるで「世界残酷物語」の如きものから「ソフィア・ローレン」なる全く意味不明のものまで、兎に角こちらの妄想を掻き立てるには充分。

いよいよ受け付けにてチケットを購入、大人1名で2100円也。チケット裏面を見れば「総合レジャーランド」と書かれており、成る程この秘宝館とドライブイン、そして漫画喫茶とボウリング場でひとつのレジャー施設を形成しているらしい。

さてこの受け付け横にはいきなりポルノショップが併設されている。如何にも売れておらず新商品の入荷もされておらぬ風であり、そんな中で「秘宝オジサンうちわ」「秘宝館ハッピ」が目を引く。思わず衝動買いしそうになったが、見学後にゆっくり買おうと思い順路を急ぐ。


受け付け外にあった怪しげなビーナス&天使像の写真を撮影していたのを、受付のオバハンが見ていた為か、「館内撮影禁止ですからね」と注意を促される。しかし国宝級の仏像ならばいざ知らず、写真撮影による展示物の傷みなんぞ縁遠き雰囲気なれば、写真を撮られたらヤバいような代物でもあるのだろうか。この受け付けにて、宇宙音爆裂する妙なチープサイケっぽいインストのBGMが流れていた。あれは一体何だったのか、とても気になる処。あの曲が収録されたカセットなり何なりが売られているのであれば、是非とも購入したいものである。

いざ展示室への入り口を潜れば、いきなり手に男根を持った楊貴妃と御対面。その横には、百貨店の催事に使われるワゴンに何故か日本の甲冑が無造作に置かれている。甲冑のワゴンセールか?その後に続くは、壮絶なるエロティック歴史絵巻の数々。ギリシャ神話のゼウスとレダによる白鳥プレイ、半人半馬のケンタウロスによる金髪美女のレイプ、奴隷の男共を逆レイプするアマゾネス、バイキングに陵辱される美女達(何故かひとりの女性の股間には、地面から逆さまに生えた大根が!)、レズプレイを覗くモナリザ(全然似てない!)、クレオパトラとシーザーの夜の生活風景、サロメのワン・シーン、チンギス・ハンによる3P(チンギス・ハンの巨根の上に、誰が置いたのか5円玉が置かれており、なればきっとこの立派な巨根に肖りたかったのであろう…。)等々…あまりの展示物の多さと、そのひとつひとつに驚嘆し、時には唖然とさせられた故、記憶が順次飛んで行ってしまう有様。されど館内閑散たる様なれば、次の展示物に移動する度にそのブースの照明が点灯し、先のブースは消灯すると云う、全くもって経費節減に勤しんでおられる様は涙さえ誘う。そう云えば名古屋にある某プログレ専門店に於いては、お客がいない間はBGMさえ消す程の経費節減を心掛けておられ、御陰でうっかり長居すると、こちらの方が店主に気を遣わねばならなかった事なんぞ思い出す。

漸くこのゾーンを過ぎると、今度は「カーマスートラ」なるコーナーへ。通路の壁面はインドの神々がアクロバティックに交わるレリーフのレプリカで埋め尽され、その通路を抜けるや、如何にもインド人然とした褐色の肌の男性が、何故か金髪白人美女と、お互い片足のみで立ち、もう片足はお互いに絡め合った状態での、妙にリアルな出来映えの「立ちファック」の像を見る事となる。この体位は実際にはかなり辛そうで、矢張りこれこそ「カーマスートラ」の奥義なるものなのか…どうかは知る由もなし。そして次なるコーナーは、何故か「腹上死の原因」なるコーナーで、パネル展示にてその原因やらが医学的見地から記されている。

いきなりのあまりの「濃さ」に、既に食傷気味なれば、ここで良い塩梅にも「抽選コーナー」である。展示物を見ていると、その先に垣間見られる抽選コーナーのオヤジが「空クジ無しですから、どうぞ寄って行って下さい」と声を掛けて来る。抽選券は、入場券を購入した際に一緒に貰えるのである。以前に別府温泉の秘宝館を訪れた折にも同様の抽選があり、その時に当たった景品はエロライターであった。いざと抽選会場へ向かえば、オヤジ笑顔にて曰く「500円出してもらえれば抽選出来ます。」なにぃ~!抽選するのに金払わなあかんのかい!されど面白そうなので500円を払い、短く切ったストローに丸めた紙が入れられているクジなれば、その中から1本のストローを抜き取り、中の紙を広げて見せれば、出た番号は11番。何となく3等賞辺りっぽい数字ではないか。何しろ人生で当たりクジなるもの引いた試しもなければ、兎に角クジ運がない事は重々承知している故、この11番なる数字は、私にとって何となく期待の持てる数字であったのだ。オヤジに「11番」と息巻いて告げれば、「お客さん、タバコ吸う?」と尋ねて来る。そして徐ろにこちらからは見えぬカウンターの下からオヤジが取り出したるは、またしてもエロライターであった。続いて同行した正午なりの石田夫妻も抽選を試みたが、奥さんには「白と黒とどっちがいい?」と透け透けパンティー、石田君にはエロ漫画を進呈していた。結局番号なんぞ関係なしに、お客の顔を見て、このオヤジが勝手にカウンターの下に置かれている景品から一品を選んでいる様子。ほんならこれ全然抽選ちゃうやんけ!500円も払わされるし、何ともセコい商売であるが、毒気に満ちたこの異空間では、これも何となく納得させられてしまうのである。

さて続きへと順路を進めば、何と「アニマルパラダイス」なる、動物の交尾シーンのパノラマが一面に広がるスペースへ。牛やら馬やら猿やらの交尾シーンを再現した剥製が並び、「ボタンを押して下さい」との指示に従い押してみれば、その剥製が動き出し性器が出たり入ったり…。こんなもん見て何が嬉しいねん!更にはまたしてもホルマリン漬けにされた鯨の巨大性器である。雄の方には、通常時と勃起時の途方もないサイズが記され、雌の方には「人間でも入ってしまう」なんぞとその巨大さを謳うキャプションが添えられているのであるが、肝心の水槽の中身はと云うと、水槽の汚れが酷く殆ど見えないのが実状である。

振り返ればトドの大群、そこには「トドはセックスの王様」とのキャプションが添えられ、更にトドの一人称による「私達トドを見習ってセックスに精を出して下さい」等と云う類いのキャプションまで見受けられる。これを当のトドが見たらどう思うのであろうか。

「十二支会議」なる展示は、単に十二支の動物の置き物(ぬいぐるみや竹細工、一般に玄関等で見掛ける干支の置き物からコブラの剥製まで、挙げ句に牛は赤ベコ、虎は張り子、竜に至っては印刷された竜のイラストと云う有様)が顔を寄せ合って置かれているだけの代物。

更に「ボタンを押して下さい」のコーナーが続き、モモンガの空中放尿やらスカンクの屁による「スカンクのレビュー」等、どうしようもない機械仕掛けの剥製に終始する。そしてこのコーナーの出口では、馬やら牛やらのホルマリンン漬け男根と、牛の乾燥男根が我々を見送ってくれるのである。

出てみれば滑り台と階段があり、「階段は危険→地獄」「安全な滑り台→天国」の表示があり、ではと滑り台を滑ってみれば、辿り着いた先は巨大な女性の性器であり、見上げればその女性のオッパイが臨めるのであるが、経年劣化にて乳首は欠損。

この先は拷問コーナー、世界中のあらゆる拷問が再現されているのであろうが、何故に狼男やフランケンシュタインまで共存しているのか。拷問と怪奇趣味が混同された猟奇スペースの様相で、まるで大人版「お化け屋敷」の如し。この館内に於ける鑞人形の製作は、最低数名以上に及ぶと思われ、随分不格好なものもあれば、妙にリアルでエロティックなものもあり、その各々の作風の違いが絶妙な味を醸し出しているのである。特にこの拷問コーナーでは、かなり「いい表情」をしている金髪美女が多く、この毒気に満ちた異空間にて、ここまで未だ性的興奮を覚える事はなかったのだが、ここで初めてグッと来る作品と出会えたと云えるであろう。

ふと気付くと、観光名所でよく見掛ける記念撮影用のペーパーボード(顔の部分に穴が開いている類いのもの)が、それも図柄は「駅弁」にて結合する男女の営み、男性の顔部分に自分の顔をはめられるのであるが、その真ん前には「館内撮影禁止」の貼紙があり、ほんでこれどないせえ言うねん!

拷問コーナーを過ぎれば、ここで登場するは「陰部神社」なる社である。本殿には「大魔羅明王」だったか何だったか忘れたが「マラ」と「オマンコ」の二語に引っ掛けた本尊(?)の名前が2つ並び、浄めの水は男性器から注がれ、賽銭箱は女性器、社に吊るされている鈴も見れば女性器、見れば神社自体が男性器と女性器で構成されていると云う凄いディテールなのである。これは一撃で子宝に恵まれてしまいそうな空恐ろしささえ感じられるが、敢えてここは賽銭を投げ「二礼二拍手一礼」なる古式に則った参拝方法にて願掛け。到底「厄払い」やら「交通安全」なんぞ縁なさそうな佇まいであれば、と云えども子宝だけは御免被りたい故、ここは矢張り「膣内安全」と「精力長久」でもお願いしておくしかあるまい。100円にておみくじが引けるので、早速今年の運試しならぬ「チン試し」と引いてみる。されどそこには大吉やらの表記一切なく、何とただの各干支毎の性生活に関する性格分析が述べられているだけであった。私は巳年生まれなれば、「見かけによらずしつこく所かまわず手足をからませてくるチカンチジョウタイプ多し」なんじゃこりゃ!これのどこが「おみくじ」やねん!

陰部神社を後にすると、今度は突然通路の床が揺れ出す…が、これが一体何だったのかは不明。更に先へ進めば、通路自体が女性の性器や乳房で彩られた、まるで江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」さえ彷佛されようかと思わせる女体鍾乳洞の如きエリアへ。このゾーンは私の猟奇探偵趣味と見事に合致、自分の家の地下に欲しい程である。

そしてこの目眩さえ覚える魅惑的通路を抜けると、何故か今度は遊廓に辿り着く。自動音声で遊女の声が聞けるのであるが、至って普通の現代語なれば、せめて「~ありんす」等と廓言葉で話して欲しかった処。遊廓の次は突然「割礼」の儀式へと飛躍、特にここの展示は女性の割礼であり「クリトリスの皮を剥く」行為を再現した鑞人形が陳列されてる。更に「エスキモーの出産」と、どうやらここら辺りは世界民俗学的な展示が続く模様。「スピンバスケット」なる、宙吊りになったバスケットに全裸の女性が胡座をかいて座り、その下に横たわる仰向けの男性がバスケット越しに女性を貫きつつ、片手でロープを操作する事で、宙吊りにされたバスケットに回転運動を加えると云う、全くもってアクロバティックなセックス方法の展示には仰天。しかしこれは両者共にあまりに大変そうで、快感追及どころではなさそうである。本当にこんな性習慣をもつ民族が実在するのか?

そして何故か「身の上相談 性風俗研究所 辻村」なる謎の看板。されど相談するにも看板はあれど人の気配もなく、辻村なる人物はここに毎日詰めているとも思えぬし、そもそもこの如何わしい場所にあると云う事からも「身の上」ならぬ「身の下相談」ではないのか?何となく福原秀美辺りのモンド系エロ劇画に出て来そうなとぼけたカワイ子ちゃん(この語でなければならぬであろう!)が相談に来たはいいが、下心丸出しのエロ教授(若しくはエロ博士等)にいいように騙され、素っ裸にされた挙げ句に散々犯されるが、結局済し崩しのうちにこれで悩み事は解決…等と云う俗悪軽薄なストーリーなんぞを勝手に想像させるに充分なこの怪しげなる看板、もしかしてこれも私のような人間に向けた展示物ではなかったか!ならばこの看板設置を発案した人物は、恐ろしい程性愛心理に精通していると云わねばならず、もしかしてその人こそ「性風俗研究家 辻村」ではなかったか!…とは、全く私の想像。

更に進むと流石は伊勢である、日本の海女が泳いでいる姿。そして海底には巨大なアワビが大きく口を開き、まるで女性器のような内部を曝け出している…が、よく見ると、貝殻の端にはフサフサとした陰毛がなびいているではないか。こりゃやり過ぎやろ!

今度は火山が噴火しまくっている背景に、全身毛むくじゃらの原始人が金髪美女をレイプしている様が。しかし何故女性のみ金髪白人美女なのか。これは歴史学的に見ても大間違いではないのか。されど原始人同士より、矢張り金髪美女が襲われている方が見ている分には楽しいので良しとするか。

そして遂に謎だった「ソフィア・ローレン」へ辿り着く。顔は全く似ておらぬが、かなり細部まで丁寧に作られた鑞人形で、その姿は全裸なれど腰に薄い布が掛けられており、そしてこの鑞人形の製作に当たり、最も入魂で作られたであろうと察せられる女性器も陰毛も、こちらから充分に透けて見えるように工夫されているのである。されど何故ソフィア・ローレンなのであろう?因みにこの鑞人形1体の制作費は350万円だと、ガラスケースの横に記されていた。

通路に突然男女トイレのドアが設置されている。確かに展示面積6000平方メートルととんでもなく広大である為、トイレは必要であろうと思えど、実はこれ「びっくりトイレ」なる展示物。男性用トイレを開けると、和式便器に跨がっている女性のお尻を目の当たりにするようになっており、更に女性の悲鳴が自動音声で再生されるのであるが、この音声が全くタイミングがずれており興醒め。女性用トイレを開ければ、今度は男性が後ろ向きで小便を足している姿に出会すのであるが、便器が男性用小便器なれば、これ全然女性トイレとちゃうやんけ!男性の方は自動音声が壊れていた様子。そう云えば館内あちこちに「故障中」の貼紙が。確かに展示品1万点を数えるこの大規模な設備の維持費たるや、想像を絶するものであろうが、この閑散ぶりではメンテも侭ならぬであろう。館内を進めば進む程、秘宝館の悲哀を感じざるを得ぬ。

さてここからがいよいよ当秘宝館の真打ちか、「保健衛生コーナー」である。人体解剖シーンの展示(解剖医がサングラスをしているのも笑えるが、助手共々手にしているのはメスならぬハサミ、更に解剖台に横たわっているのは、理科室で見掛ける人体解剖模型である)に始まり、続いては胎児の成長模型へと続くのだが、解剖室の次なれば、胡散臭い掻爬専門のもぐり医者の診察室にでも迷い込んだかのような錯角さえ覚える。その横にはパネル展示にて体位各種について真面目に語られており、新婚向け体位やら処女向け体位等、勉強になるのかならぬのか。

この医学的なパネル展示はまだまだ続き、「理想的なセックスパターンと性感曲線」なる男女各々のオルガスムス曲線の比較等が説明され、更には「年齢別セックス回数」なる怪しげな計算公式が記されており、これによると、私の場合(38歳)ならば、20日で7回と云う計算である。大凡3日に1回と云った処か、これが本当ならばより精進せねばならぬ。

どうやらこのコーナーは、真面目な性生活についての展示の様相で、各種避妊具の展示もあり、コンドームからペッサリー、ゼリー、更には基礎体温計やらビデまで並べられているが、一体いつの時代のものかと思わざるを得ぬ程に日焼けしてしまっている。

更に性病の恐ろしさを知ってもらおうと云う主旨なのか、各種性病を患った男女性器の有様が模型となって壁一面に並ぶ様は圧巻、奥には梅毒等の発病による顔の湿疹やらの部分模型も並べられ、確かに性病の恐ろしさについて、幾許かは認識出来る事間違いなし。されど今日びの女子高生なんぞに見せた処で、嘲笑と共に一蹴されてしまいそうではあるが。否、高校生は入館出来ぬのであったか。

ここから先は、再び各種動物の男根のホルマリン漬けやら乾燥したものやらが陳列され(牛の男根を乾燥させた「ステッキ」には爆笑)、そのまま包茎についてのパネル展示へ繋がる辺りは圧巻。と、ここで何故か唐突に飲酒運転の危険性を促すパネル展示へ。この辺りから私の頭脳はかなりの混乱をきたし、この秘宝館の奥深さに猛烈な戦慄さえ感じ、果たして無事に出口に辿り着けるのか心配にさえなって来る始末。

続いて再び大人の おもちゃ展示となり、各種電動こけしやらオナニーマシーンやらダッチワイフやらが陳列されている。その先にはまたしても唐突に、泉ピン子等の有名人のサインやらTVドラマ「特別捜査機動隊」がロケした折のシナリオやら新聞での紹介記事やらが展示されており、オープン当時の華やかさを僅かながらも伺い知る事が出来る。そしてここを抜けると、色褪せたSM等のイラスト(昔のエロ雑誌に掲載されていた挿し絵か?)が壁一面に並び、「年齢別勃起角度」のパネル展示へ。左手の平をモチーフとして、親指を上にして指を目一杯広げた状態で、つまり丁度手の平を横位置に見るように設定し、その際の親指の角度が20代の勃起角度、中指が30代の勃起角度と云った具合の説明で、50代や60代は勃起角度が水平以下とされているが、これが本当なら何と哀しい事であろう。更に落書きで、親指の横に天に向かってそそり立つ垂直な男根が描かれ、「18才」と書かれていたのには思わず吹き出してしまった。

この先にはブラックライトのみの薄暗い通路が続き、壁面のそこいらに覗き窓が設置されている。どうやら100円を入れるとピンクフィルムが観られる仕掛けの様子なれど、殆どが「故障中」なれば素通りを決め込む。

突然再び蛍光灯の安っぽい照明の部屋に出たのだが、ここは何と「参加コーナー」である。まるで動物園に於ける「こども動物園」の如きものなのか?参加と云われた処で一体何に参加するのか?展示されていた鑞人形の如き金髪美女と、ここまでで学んで来た性生活のあり方やらを実践出来るのか等と、万に一つもありそうにない可能性に思わず胸ならぬ下半身を膨らませそうになるが、実体は大股V字開脚した美女の乗り物(子供用の100円入れたら動くアレと同じ)やら、射的(と云っても的を撃つのではなく、レールの上にある男根を撃って移動させ、壁面にある女性器に見事男根を入れたら勝ち)やらパチンコ台(これはごく普通の旧型機種)やらが設営されているに過ぎぬ。金髪女性像が入っているガラスケース、例によってボタンを押すと、下から風が巻き起こり、その金髪女性のスカートが捲れ上がる仕掛けと云う、所謂秘宝館定番の逸品もここに置かれている。その隣には女性の性感帯が記された全裸のマネキン(これがたまらなく出来が悪い)が置かれ、其処に書かれた指示通りに各部を「吸う」「なでる」「押す」「キス」等と、この不細工なマネキン相手に実践出来るのだが、あまりのおぞましさに血の気も引いてしまう有様。触れてみれば、妙に湿った触感にて、何とも薄気味悪い事この上なし。通路には妊婦の腹部が透明プラスティックカプセルになった胴体のみの模型が、子宮内の胎児の成長の順に従い数体、壁に並んで埋め込まれている。まるで妊婦を拷問処刑し、斬首し更には四肢も切断したその胴体のみを晒しものにしているが如き。先程の拷問コーナーよりも、こちらの方が余程えげつなく感じられる。

そしてこのコーナー脇に、漸くトイレを発見。この全長2km以上に及ぶ行程なれば、トイレの登場は遅過ぎたと云っても過言ではあるまい。ジュースの自販機や喫煙コーナーも設置されており、ここで一旦休憩せよと云う事か。ふと振り返ればまさしく「休憩室」なる扉を発見、はてこの喫煙コーナー以外に敢えて「御自由にお使い下さい 休憩室」と名付けられたこの一室、一体何ぞやと思い扉を開けてみれば、何とそこには2脚の古ぼけたソファが置かれ、台の上にはコンドームとティッシュの自販機が設置されているではないか!既にコンドームもティッシュも売り切れなれば、ここまでの展示を見て燃え上がった欲情を、この一室にて一気に吐き出したカップル、若しくは一人で慰めた輩がいたと云う事であろうか。斯様な蛍光灯の灯りの元、まるで薮医者の診療室の如き如何わしいこの空間で、性欲がピークに達した男女が周囲の雑音さえものともせずに相まみえる姿を想像させるだけでも、この一室の存在価値はあるというものか。果たして実際このソファの上で、一体何組の男女が激しく求め合ったのであろうか、どう考えても皆無であるような気がしてならぬ。

ここで「ポルノ上映」と書かれた小さな映画館程度の一室があれど、何も上映しておらぬし、上映時間の告知もなし。そう云えば立体映画で観るピンク映画、どうやらあれはここではない様子。ならばと気を取り直し先へ進む。

そして次なるは「秘宝の里」と名付けられた桃源郷。入り口のゲート上部には女性器がぶら下がっている。こうなるとまるでダリの絵画に於ける時計の如しで、そもそもこの館内には、一体どれほどの数の女性器がそこいらに意味もなくデコレーションされているのであろうか。何しろ女性器単体でのディスプレイの為、大きさが兎に角デカいのである。次第に女性器のみが、単体の生物として存在しているかのような錯角さえ生まれて来た。これでは夢にまで女性器単体が大挙して出て来そうで、女性器恐怖症になる輩もいるのではなかろうか。

さてここにはエロ昔話とでも呼べばいいのか、何とも奇妙キテレツな世界が展開されているのである。「女体池」は巨大な女性の上半身が島になっており、当然の如く乳首が噴水である。西遊記をパロったエロストーリーに始まり、滝の上から逆立ちで放尿する「坂田珍時こと珍太郎」、鬼にオカマを掘られる「ホモ太郎」、鼻が男根となっている「鼻先爺さん」、ボタンを押すと回転しながら出て来る「小肥り爺さん」、その他至る処で獣姦やらが行われており、これが桃源郷なれば何と素晴らしい場所であろうか。否、本当に素晴らしいのか、もう秘宝館の毒気にすっかり充てられて、冷静な判断力やら道徳的価値観やらは完全に失われてしまったかもしれぬ。ここまでの長い道程にて様々な展示があれど、全てはここで最後の審判を仰がれる為の布石でしかなかったのか。もしもこれを真の桃源郷であると信じられるようになっておれば、それらの者達にはこの先に秘密の扉でも用意されているのではなかろうか。

桃源郷最後の展示は当然「ハーレム」である。これぞ男の夢である。そしてハーレムの主サルタンの男根は、何故か巨大な米茄子であった。

この桃源郷の毒気に充てられ、頭の中がすっかりボーっとして意識も朦朧となりそうな時、運良く(?)出口と相成った。出口には矢張り男根がぶら下げられている。

再び蛍光灯の灯りの元、いきなり現実的な世界に引き戻され、そして今度は「エイズコーナー」である。真面目にエイズについての知識が学べるコーナーで、エイズ問題についての真面目なビデオも放映されている。エイズの感染経路や予防方法、また末期症状のマネキン模型等も展示され、エイズの恐ろしさを多少なりとも肌で感じられるが、感染者の統計等のデータは古い事この上なし。斯様な啓蒙的展示に関しては、もう少しマメに更新しても良かろうと思うが、そんな金があれば、故障中のエロ映画覗き窓を修理して小銭を稼いだ方が、秘宝館存続の為かもしれぬ。

更にこの横には「性器の化石」なる展示があり、貝等の化石と一緒に人間の女性器や男性器の化石が見受けられるのだが、どう見てもこれは人工的に作られた眉唾物。生前のセックスに対する怨念だったか情念だったかが、性器が化石化する由縁だとか。しかし化石になるには想像を絶する程の年月とそれなりの必須条件を要する訳で、未だ人類の化石なんぞ聞いた事もなければ、況してや性器のみの化石なんぞ勿論の事であろう。横に展示されているエイズについての展示も、これでは一気に信憑性を問われてしまうではないか。一体如何なる判断基準でもって、展示物の順番を決定したのであろうか。この化石の展示には「どうぞお触り下さい」とキャプションが添えられており、その性器の部分はさぞや多くの人が触れたのであろう、今やテカテカと輝いているのである。またこれで、単体にて独立した女性器なる生物が、大挙して押し掛ける悪夢を見そうではないか。

そしてこの向かいには、「自然の造形美」なる、よくありがちな二股に分かれた木(股の部分に何やら女性器に似た節あり)等の類いが陳列されている。これでこの性器の化石も「自然の造形」によるものとして洗脳しようと云う思惑があるとするならば、これは本当に傑作であるが。

最後の展示は「女の一生」なる全く意味不明のもの。明治生まれの某女性の一生と諸物価の推移をパネル展示しているのであるが、これと秘宝館と一体如何な関連性があるのやら。謎は深まるばかりである。

さてこれにて1万点を誇る展示ブースは終了、残す処は当秘宝館の最大の呼び物「馬の交尾実演ショウ」である。階段を降り、各種動物の交尾の様が、そして下ネタの4コマ漫画までが描かれた、曲がりくねった通路を何とも動物臭い匂いに導かれながら通り抜けるや、そこには小さなサーカステントの如き空間があり、円形に廻らされた柵の中には見窄らしい小柄な馬が1頭。すると係員のオヤジが現れ、「そこの説明読んでくれ」と云う。何でも今は亡き館長の積年の夢であった「馬の交尾実演ショウ」を実現させるまでの下りやら、冬の間は発情しにくく、されどそれを無理矢理発情させるように調教してあるとか云々と書かれているのだが、結局は「…と云うわけだ。また今度来て頂戴」と云う事で、この全くやる気のない係員。確かに石田夫妻と観客僅か我々3名のみで交尾実演ショーを観させられても、何ともきまりの悪そうな具合であるし、運が良かったのか悪かったのか。されど「馬30数頭勢揃い出演中」「年中毎日開演」なる宣伝文句は、全くもって虚言甚だしいではないか。確かにオープン当時は、まるでサーカス小屋の如き賑わいであったかもしれぬし、馬も30数頭いたのであろうが、昭和46年(1971年)オープンであるから既に30年以上も経っている訳で、果たして今や何頭の馬がその出番を控えているのやら。されど1万点の展示物の毒気に充てられた為か、憤る気力も既になく、「ほならまた次回」と係員に挨拶して、何処か安堵したような心境にて立ち去る我々。

矢鱈と景品がエログッズで犇めくゲームセンターを通り抜け外に出ると、赤い矢印が地面に付けられており、どうやらこの先には、今やすっかり忘却の彼方へと消え去っていた立体映画の上映があるとか。ならばいざとその矢印を辿ってみれば、そこには閉ざされたシャッターがあるのみ。立体映画で観るピンク映画、興味あった故に残念至極。結局これにて秘宝館のアトラクションも全て終了、そのまま通路はドライブインへと繋がっていた。

目玉の「馬の交尾実演ショウ」も「立体映画」も観る事叶わず、普通ならこれはボッタクリやんけ。2100円と云う入場料が安いのか高いのか、兎に角この値段に含まれていた2大アトラクションが観られないとは、客足が遠退くのも無理もなし。ロクに展示物や設備のメンテも出来ていない状況である事や、祝日にも関わらずこの閑散ぶりから察するに、経済状態はさぞや火の車なのであろうが、この2大アトラクションを呼び物にしている限り、何とか善処して欲しい処である。されど1万点の展示物の迫力たるや恐るべき毒気を備えており、一見の価値は充分にあろう。

いやはや元祖国際秘宝館恐るべし。何しろあまりの毒気のせいか、帰路にて石田君の奥さんは体調不良となるは、私でさえ松阪牛をもう一度食って帰ろうと思っていたにも関わらず、案の定食欲不振に陥り、結局うどんをすすって帰った始末である。もしも馬の交尾実演ショウなんぞ観ておれば、如何な惨状になっておったか、想像するだけでも恐ろしいではないか。

されど家に帰り着き、改めて思い出してみれば、何となくもう一度訪れてみたいと思ってしまうあたり、これぞ秘宝たる由縁かもしれぬ。

こうなると2000年5月に閉館してしまった「元祖国際秘宝館(鳥羽館)」を訪れなかった事は一生の不覚であったか。何でも「SF未来館」なるサブネームを冠しており、相当イカれていたと云う噂であるから。

受け付け横に併設されていたポルノショップにて、秘宝館グッズを購入する事さえ忘れ去り、ドライブインの自販機にて、懐かしのオリエンタル・グアバを購入し飲んでみれば、何とも「秘宝館な味」がする事よ。


追記:

先程正午なりの石田君より「秘宝館探訪」についてのメールが届き、忘却していた幾つかの展示について思い出す事が出来たので、ここに簡単に追記しておく。

セックス・コンピュータ:

謎の機械に取り付けられたベッド上に金髪女性が横たわっており、まるでSF映画で見掛ける「コールドスリープ」装置のようであったが、機械本体をよくよく見れば「セックス・コンピュータ」なる表記あり。今時では考えられぬ紙テープが回るタイプの当時「電子計算機」と呼称されていた頃のレトロなフォルムなれば、一見チープなB級SF映画のセットの如きで何とも良い感じである。無闇矢鱈と取り付けられたVUメーターは何の為にあるのだろう。「ボタンを押して下さい」のキャプションあれど、どうやら故障中らしく、そのボタンが手に届く位置へは立ち入り禁止となっている。山崎マゾ氏が見れば狂喜しそうな程のB級レトロなフォルムを持つこのセックス・コンピュータ、一体如何なる代物だったのか、今や知る術もなし。ただ本体に「2001年」との表記あれば、きっと当館がオープンした1971年から丁度30年後の2001年とは、まさしく当時の人々にとっては「SF的な未来像=21世紀」的なイメージもあったであろうから、そういう意味からもこの年号が選ばれたのであろうが、今や2001年は単なる過去に過ぎず、斯く思うと「SF的な未来像」としての21世幻想はすっかり潰え、我々の世代にとっては何とも寂しい限りである。21世紀になったからと云って、タイムマシンや人間型ロボット(アンドロイド)、サイボーグ等が登場しそうな前兆は未だ見受けられぬ。それにしてもこのセックス・コンピュータ、一体如何なる代物だったのか。是非とも修理される事を切望する。

十二支会議:

石田君はこれが一番のお気に入りの様子にて、ただ展示の背後に設けられたテレビモニター(故障中)、一体如何なる映像が放映されていたのか気になる処とか。あの不毛な展示に対し、矢張りそれに充分対応し得る内容のものであったかと推察出来る。単なる「動物万歳」的なビデオではと容易に察する事が出来そうだが、何しろここは国際秘宝館である。十二支による「異種混合獣姦マッチ」等であったやもしれぬし、十二支の展示物による如何わしいドラマ仕立てな逸品であったやもしれぬ。しかしそもそも十二支会議とは、一体何を会議しているのか。ストーリーの背景が全く見えて来ない処がミソか。

(2004/1/15)

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