阪神タイガース優勝!
運良くつるばみのツアーで大阪に居合わせ、阪神の優勝を大阪にて迎える事が出来た事は、前回優勝した85年に不幸にも名古屋に引っ越した私にとっては、殊の外格別の出来事であった。阪神優勝Xデーにライヴとは、客入りは絶望的であろうと予想されたが、されど御陰で津山さんを交えての「爆音六甲おろし(?)」は、一生にもう一度あるかないかの事でもあり、人生の良き思い出となろう。結局朝5時過ぎまで飲み明かし、車中で仮眠後、ラジオがひたすら「阪神優勝」を叫び続け、御陰で頭の中ではエンドレスにて「六甲おろし」が流れ続ける中、一路姫路へ。
さて姫路と云えば、勿論ホルモン屋「竜」である。(第32回「『竜』のホルモン」参照)
前回The Birdsのツアーで姫路を訪れた折は、何と満員御礼で入店叶わず、泣く泣くマッシュルーム上の居酒屋にて打ち上げた経緯もあれば、今回は何としても「竜」のホルモンを食したいと云う一念いつもに増して強く、更には前回来店した際に目にした「焼そば」の看板がどうしても気になり、今回は昼食に鉄板焼メニューを頼んでみたいと云う思いもあった。実は、初めて訪れた時より「ホルモン鍋」や「焼きもの」「生もの」のあまりの美味さに痺れまくり、今まで「鉄板焼」には目もくれなかったのである。されどこれ程何を頼んでも美味なる店なれば、絶対鉄板焼も相当なものである筈で、お好み焼きや焼そば等のジャンクフードには滅法煩い私は、もう明けても暮れても「竜」の鉄板焼が如何なるものかと思い巡らせては、既に何も手につかぬ程であった。
マッシュルームでのライヴ終了後、 共にツアーしているUP-TIGHT御一行といざ「竜」へ。珍しくライヴが早々に終了した為、「竜」へは通常より1時間も早い9時半に到着。されど既に「生もの」は売り切れ、絶品の「生レバー」「生センマイ」を食するには、矢張りリハ終了後の夕方に来店せねばならなかったか。ではと「ホルモン」「上ミノ」「ハラミ」等を軽く焼いた後「ホルモン鍋」へと云う我々の「竜コース」にて、久々のホルモンに舌鼓を打つ。「上ミノ」については、前回訪れた際(第87回「J-Pop悶絶記」参照)に「美味しいミノの焼き方」なるを、中村嘉津雄似の大将から御教示いただいた故、ミノ好きを自称する東君はUP-TIGHTの面々に蘊蓄なんぞ語る。
一方で、UP-TIGHTの白旗氏が「特製冷麺」をオーダー。そう云えば「竜」にて「麺類」をオーダーした事もなければ、これはとても興味深い。されど「韓国風冷麺」なるもの、かつて「焼肉と冷麺のメッカ」と称される盛岡にて食した経験あれど、麺はまるでゴムで出来ているかの如く猛烈に強靱な弾力を持ち、到底歯なんぞで噛み切れる筈もなく、一旦口に入れるやそれを丸飲みするより外に術もなく、何と実は鋏を使って食すと伺えば、本来こんにゃくやら春雨等のあの手のゴムの如き食感の類いが全くもって苦手な私は、もう二度とお目に掛かりたくなき逸品にして、先日美食天国である韓国を訪れた際ですら、本場の冷麺は遠慮させていただいた程。さて「竜」の冷麺は如何にと食してみれば、これは絶品。麺はあの忌わしきゴムの如き食感にあらず、どちらかと云えば沖縄の「ソ-ミンチャンプルー」に近い食感。来年の夏には是非改めてゆっくり食したい逸品である。
「ホルモン鍋」もうどんから雑炊までしっかり堪能し、「明日また昼飯食いに来ます」と大将に告げて、満腹で苦しい体を引き摺りマッシュルーム上のホテル「レスト・イン・イレブン」に投宿。
翌朝は阪神優勝セールに湧く姫路の商店街を散策後、LSDマーチの道下君の店「ホワイト・エレファント」にて「竜」の開店時間正午まで時間を潰す。正午の時報と共に「竜」の暖簾をくぐるや、大将が「ホンマに来てくれはったんやね」と笑顔で迎えてくれた。
さていよいよ待望の鉄板焼である。焼そばもいいが、お好み焼きも捨て難い。そこで取り敢えず「モダン焼き」をオーダーするや、東君も恵美嬢も私に倣って「モダン焼き」を希望。されど大将曰く「『モダン焼き』大きいから、3人で3枚にするより1枚にして、何か違うもん頼んでみんなでいろいろ食べた方がええんちがう?」成程それは名案とばかり、では何にしようかあれこれ悩んでおれば、再び大将曰く「『テールクッパ』とかどうかな?スープ多めにしてあげるから3人で分けたら丁度ええぐらいやと思うで。」大将自らのお薦めとなれば即決、結局3人でテールスープによる雑炊「テールクッパ」1人前と「モダン焼き」1枚をオーダー、ビールを飲みつつ待つ事に。
大将が徐ろに、鉄板にて大量の牛スジ肉を炒め始める。これでモダン焼き1人前分の肉だとするならば、物凄い量である。次第に出来上がって行くモダン焼きの大きさと云ったら、よくもまあ3枚も頼まなかった事だと安堵させられる程に巨大である。
先ずテールクッパ1人前を、大将自ら3つのどんぶりに取り分けてくれたのだが、いやはやこのテールクッパでさえ、1人前で充分3人前相当であろう。巨大なテールにかぶりつくや、その肉たるは噛む前に口の中で溶け失せ、また骨の中の汁をすする醍醐味は格別、そして何よりこのテールスープがまた絶品。
テールクッパを満喫した後は、いよいよモダン焼きである。大将自ら3枚の皿に2切ずつ取り分けてくれたのだが、この2切で通常のモダン焼き1枚に匹敵する大きさである。夢にまで見た「竜」の鉄板焼メニュー、口に運ぶやそのあまりの美味さは到底筆舌に尽くせぬ。お好み焼きには滅法煩い私なれど、「竜」のモダン焼きは、自分の知る限り間違いなくベスト3に入る。況してや値段的な見地からも考慮すれば、1枚700円なれど充分3人前に相当する故、味と値段と云うトータル評価では、間違いなくベスト1であろう。2人の場合であれば、モダン焼き1枚とビールで充分ではなかろうか。
モダン焼き3枚ならば700円×3=2100円である処を、モダン焼き1枚700円+テールクッパ1人前1000円=1700円と、大将自ら儲からないようなお薦めをしてくれたのだが、これも「お客が喜んでくれれば」と云う料理人の心意気なればこそであろう。以前東君と2人してカウンターに座って焼きものをつついていた際に見受けた、他の客がいろいろオーダーしては大量に残して帰って行くのを片づける大将が「残すんやったら始めから頼むな」とこぼしていた姿が印象的であった。大将の味へのこだわりが深い故、仕入れにも腐心されているであろうし、故に無闇に残されるのは残念且つ腹立たしい事であろう。料理人たるもの「美味しいものを食べてもらいたい」と云う気持ちこそが全てであり、故に大将自らのお薦めも毎回斯様な具合で「それやったらそれ1人前にして、これも頼んだら?いろいろ食べれた方が嬉しいやろ?」長年厨房で働いていた私なれば、その気持ちは理解し得ども、矢張り商売が絡めば「先ずは売り上げ」と思うのが必定であるのだが、「竜」の大将は斯くあらず、先ずは「美味しいものをいろいろ食べて楽しんでもらいたい」との心意気、まさしく料理人の鏡であろう。斯様な大将の店だからこそ、また訪れたいと思うのであり、いつも自分達が頼む定番以外のメニューも順番に食してみたいと思うのである。「石焼きポッカ」を始め、今までにも数々のメニューに舌鼓を打ったものであるが、まだまだ食べてみたい未知のメニューも多く、取り敢えず次回は「キムチチャーハン」「キムチ焼き」「ホルモン焼きうどん」辺りを攻めてみたいもの。されど「竜」の難点は、ついつい「前回舌鼓を打ったあの逸品をもう一度」と思ってしまう処であり、なかなか新しいチャレンジに至らぬ事であろうか。
それにしても大将が、1年に数度しか訪れぬ私を覚えてくれている事には驚かされるが、カウンターに座れば、大将の「新婚旅行顛末記」を伺ったり、恒例の駄洒落に思わず箸が止まったり、片や「ホルモン哲学」を真面目に語られたり、最近は大将のいろいろな話を伺う事も楽しみのひとつとなっている。
何はともあれ「竜」の「世界最強説」が、私の中でより一層揺るぎなきものになった事だけは間違いあるまい。あとは如何にして大将のあの駄洒落に対抗するか、それが次なる課題であろうか。
(2003/9/22)