『人声天語』 第107回「旅姿4人衆ぶらりアメリカ彷徨記(Acid Mothers Temple US tour 04)」#1

5月20日(木)

ここ数日、殆ど睡眠時間1~2時間、若しくは年齢を顧みず無謀にも徹夜にて仕事をこなせど、結局はツアー出発当日の朝を迎えた処で、未だ終わりの目処さえ立たぬ有様なれば、勿論ツアー準備等も昨日何とか半日程で済ませども、恒例「忘れ物チェック表」と睨み合いつつ今一度荷物をチェック、御飯と切り干し大根等で軽い昼食を済ませ、当分御無沙汰となる湯舟に名残りを惜しみ、午後1時、さて生憎の雨天なれどいよいよ出発である。
名鉄バスターミナルにて2時に集合、空港バスに乗り込み一路名古屋空港へ。ANAチェックインカウンターにて無事チェックイン完了。全くもって季節外れもいい処なきまぐれ台風2号突如の襲来にて、いきなり本日のフライトが懸念されたが、どうやら事なきを得た様子。本日のフライトは、名古屋から成田にてトランジットでカナダTorontoへ、Torontにて通関してMontrealへ、と云うコースとなっている。全行程19時間の大移動。チェックインに際し、どうやら楽器のみ成田で一旦受け取り、再び国際線カウンターにてチェックインせねばならぬとか。雨天なれば傘を携えておれば、これを手荷物として扱う事は叶わぬ様子にして、何と預けさせられる羽目に。傘も凶器になり得ると云う事であろうか。
さてチェックインも無事済ませた処で、名古屋空港内にある「セルフサービス食堂」へ赴く。一体何処の空港に、食したいおかず等をガラスケースから自分のお盆へ乗せ、最後に勘定を済ませると云う、所謂セルフサービスの食堂が存在するのであろうか。否、よくよく考えてみれば、ヨーロッパではよく見掛けるスタイルではなかったか。されどどう考えても店構えのイメージが、あちらのセルフサービスとは云えど立派にレストラン然としたそれとは、あまりにも異なり過ぎるではないか。空港のレストラン街一番奥にひっそり構えられたこの店舗、青白い蛍光灯の灯りがより一層貧乏臭そうな気分を煽り、また表に飾られた素人撮影によるショウウインド・パネル写真のお粗末ぶりが、如何にも名古屋空港っぽく、何とも悲哀漂うばかり。されど当分和食とは無縁なれば、ここは最後に食しておかんと、塩さば+御飯(小)+ワンカップをオーダー。先ずは塩さばを「おかず」に御飯を平らげ、続いて塩さばを「アテ」にワンカップを頂く。「一度で二度美味しい」とはまさしくこの事なり。
食堂を出た処で「河端君!」と声を掛けられ振り返れば、何とそこには山本精一氏さえ「名古屋の天皇」とリスペクトしてやまぬガイさん(Guy Unit、トリオ・ザ・ゲバゲバ)の姿が…、

何を隠そう「名古屋の天皇」ガイさんの世を忍ぶ仮の姿は、名古屋空港の掃除夫であったのだ。ここで遇ったのも何かの縁であろう、丁度7月2日トクゾウにて企画した「あふりらんぽ vs オシリペンペンズ」の対バンを探しておれば、ガイさんにGuy Unit出演を打診…と云った処で私自身もメンバーであるが…今や総勢何名なのか定かではない程の大人数編成なれば、ガイさんにメンバー各位とトクゾウへの連絡を依頼し、名古屋が誇る史上最強且つ最悪のスカムバンドにして、一方では「サン・ラ+ ボルビトマグ-ス」とも喩えられる「Guy Unit」久々のライヴ、ここに決定。
セキュリティーを通過し、ゲート付近の売店にて、長いフライトのお供にと「増刊!アサヒ芸能」を購入。普段私は全く雑誌の類いは読まぬが、旅に出ると必ず購入するのが「週刊アサヒ芸能(通称『アサ芸』)」である。何が面白いのかと問われれば答に困るが、矢張り旅のお供は俗悪な大衆誌に限る。ここで再びガイさんと遭遇、ガイさんは何をやっておれどガイさんでしかない処が凄い。
台風2号の影響が懸念されたが、我々が搭乗したプロペラ機は、午後4時5分無事に名古屋空港を離陸し成田へ。1時間20分のフライトにて成田空港着。さて先ずは楽器を一旦受け取らねばならず、漸く楽器を受け取り、今度は国際線カウンターへ向かい、さてこれを再びチェックインせねばならぬ。ANAが業務提携するAir Canadaのカウンターにて楽器を預けようとした処、「お荷物のお預かりが3つ目になりますので…」と問題発生の模様なれど、そもそも残りの2つとは、機材の入った鞄と無理矢理預けさせられた傘である。「そんなもん名古屋でチェックインした時に言うてくれなわからへんやろ!3つ目言うたかてな、それ傘やど。あかんねやったら傘捨ててくれや。何鬱陶しい事ぬかしとんねん、ボケがぁ~。大体なあ、世界中で荷物預ける時に文句言うて来るのANAの職員ぐらいやど!このギター積んだら飛行機飛ばれへん言うんか?鬱陶しい事ぬかすな、ボケがぁ!しゃあから成田嫌いなんじゃ!ビンラディン、成田なんか爆破して無くせ!クソむかつく!」一気に捲し立てれば、応対にあたっていたANA女性職員は「ではちょっと調べて来ます。」と何処かへ。暫くして戻って来るや「このまま預からせて頂きます。」「当たり前やろがぁ~!」これにて恙無く楽器の再チェックインも終了、一路搭乗ゲートへ向かう。

Air Canadaの午後7時成田発Toronto行き、久々のAir Canada搭乗である。(人声天語第62回「AIR CANADA 初搭乗記」参照)前回のAir Canadaの印象とは、兎に角「怠慢な業務態度」の一言に尽きるが、今回は然程でもなし。されど矢張り夕食は「うな丼」であった。兎に角ここ数日は、猛烈な睡眠不足なれば、映画も観ずにひたすら爆睡を決め込むが、まさか11時間も寝ておられる筈もなく、目覚めてからは、タバコを誘発せぬ赤ワインを呷りつつ、スポーツ新聞2紙と朝日新聞を読破、お愉しみの「増刊!アサヒ芸能」のエロ記事やらヌードグラビアを、周囲の目を気にする事もなく大いに堪能。朝食は塩鮭+御飯なれば、充分食せる味なり。

Toront空港には定刻通り午後6時15分着。Montreal行きは午後8時発なれば、通常ならば乗り換え時間は充分なれど、ここで一旦荷物を受け取り入国手続きと通関を済ませなければならぬ故、あまり余裕があるとは云えぬ。カナダ東側はフランス語圏なれば、矢張り「フランス人の持つ『いい加減さ』とアメリカ人の持つ『大雑把さ』を兼ね備えて」おり、兎に角仕事の段取りが悪い事この上なし。ツアー初日は「Festival Musique Actuelle」と云うフェスティバルなれば、主催者側から送られて来た契約書をイミグレーションにて見せる事で、ワークパーミットも不要とかで、ではとイミグレーションへ向かえば、職員が立ち話など決め込み、事実上仕事をしているのはほんの一握りの職員のみと云う体たらくぶり。それでも何とか無事入国手続きも済ませ、さて荷物を取りに行けば、今度は何と荷物が待てど暮らせど出て来ぬではないか。搭乗開始時刻7時25分は既に過ぎ去れど、それでも荷物が出て来る気配さえなし。イラチ且つトラブル嫌いの津山さんは、この時点で怒り心頭、久々のツアー参加であるはじめちゃんも不安顔なれど、この手のトラブルは毎度の事なれば、脳天気な私と東君は「何とかなるやろ」といい気なもの。漸く荷物が出て来たと思えば、何と我々を含む10名弱の荷物のみ出て来ぬ有様で、一体荷物を下ろすのにどれ程の時間を要するのか。閑散となった手荷物受取所にて、引き取り手のない数個のスーツケースがゴンドラにてクルクル回るのを眺めておれば、突如我々の荷物が思い出したかのように現れたが、私の傘だけは出て来る様子もなければ、嗚呼、私の傘は無情にもここで見捨てられ、大急ぎで税関へ向かう。通関はただ書類を手渡すのみでチェックもなく、ならば何故我々はこれ程時間を費やさねばならなかったのか、結局午後8時発には乗れる筈もなく、次便の午後9時発のMontreal行きに振り替えてもらう。

午後10時15分、無事にMontreal空港着、荷物もスムーズに受け取れ、フェスティバルからのお迎えの車にて一路Victoriavilleのホテルへ向かう。Montreal市街の灯りも随分遠くなり、更には全くの暗闇と思われる山中を走破、一体何処へ連れて行かれるのか不安になるような道を抜け、2時間強のドライヴにて、漸くホテルへ。チェックインを済ませれば、各々立派な個室をあてがわれ、何とも快適なツアー初日の夜ではないか。今回は東君も寝酒を持参しておらねば、我々一同カナダドルを持ってもおらず、今宵は多分AMTツアー史上初めてではなかろうか、「酒抜き」と相成り候。されど東君は、今回3合炊きの電気炊飯器を持参しており、(これは元来私のアイデアにして、ヤフオクにて格安で1合半炊きの炊飯器落札を目論めど見事に失敗、私がすっかり諦めていた処、東君が私の志を継承したのであった)今宵は寝酒ならぬ夜食を堪能するとか。(しかし実は、東君は矢張り我慢出来ず、ホテルのバーにてクレジットカード払いで飲んでたらしい…)ならば私もと自室にて、部屋に置かれているコーヒーメーカーで湯を湧かし、持参したカップ焼そばと機内で配られたおにぎりを食す。テレビでロジャー・ムーア主演の「007」が放映されており、それをのんびり観賞しつつ、機材のチェック。
ツアーに於いて、個室に宿泊出来るのは嬉しい限り。何しろたとえ気心の知れたメンバーとは云えど、1ヶ月もの間、四六時中顔を突き合わせているのは、私にとって相当の苦痛なれば、ゆっくり自分の時間を持てる事は、他の何事にも勝る。インターネット接続を試みるが、何故か認証されず。諦めて午前3時半就寝。

5月21日(金)

昨日は機内で眠り過ぎたのか、それとも短時間睡眠に体が順応してしまったのか、朝5時半起床。何故か斯様な朝っぱらより「ヒッチコック劇場」が放映されているので、思わず観入ってしまうが、改めてフジテレビの「世にも奇妙な物語」はこれのパクりである事を実感、何せテーマソングまでパクっている始末。続いて日本のアニメ「遊戯王」を観賞、これは日本では全く観た事なけれども、先日イタリアにて初めて観た折、思わず観入ってしまった作品。朝食に持参したレトルトカレーと生うどんを洗面台の熱湯で温め、カレーうどんにして食す。
ホテルにあるフェスティバルの受け付けにて、バックステージパスやらその他資料一切を貰い、レストランにての朝食はベーコンエッグ+トースト+コーヒー、それにしても何故ベーコンをこれ程カリカリに焼くのであろう。
はじめちゃんがネット接続に成功したと聞き付け、ならばと私のiBookとはじめちゃんのiBookを連動させ、見事ネット接続成功、されどこのド田舎にてのダイヤルアップ接続なれば、まあ何と動作速度の遅い事か。秋に予定しているAMTヨーロッパ・ツアーのブッキング中なれば、諸事雑務を一気に纏めてこなそうと目論めど、回線が恐ろしく細いのか送信スピードがあまりに遅過ぎ、メールの同時大量送信に問題発生。これは明日にでももう一度トライせんと、取り敢えず当面大至急で送らねばならぬメールのみを別途送信。ツアー先に於いてまで雑務をこなさねばならぬとは、今やツアーも私の安息の地にあらず。
湯舟に湯を張りのんびり入浴、ついでに洗濯も済ませておくのは、長年の経験からなる習慣か。さてここで再びカレーうどんを食するか、それとも夕方にレストランにて自腹でステーキを食らうか、ここは悩みどころなり。今日はこの周囲に畑しか存在せぬホテルにて夕方6時45分まで待機とあれば、然してする事もなく、Outlookの受信トレイに溜まりまくったメールの整理なんぞ試みるが、これが2500件と膨大な量なれば、見落としていたメールなんぞ見つけては、思わず顔面蒼白になるやらで、思った程作業は進まぬ。傍らではテレビの42チャンネルにて、日がなカントリーやらトラッドのプロモビデオばかり放映されており、どうやらこの界隈のカナディアン・フレンチによるトラッドやカントリーのグループ等がフューチャーされている様子。
さて他のメンバーは如何にこの時間を過ごしているのやら。先程津山さんは、窓から見える大自然を前に「バードウォッチングでもして来るわ」と言っておられたが、今頃は山男モードにてそこいらを散策中であろうか。私もホテルの表に出てみたが、抜けるような青空の下、眼前の真直ぐ延びた道路にて、大型トレーラーやらが行き交う様を眺めるのみで、周りには針葉樹が立ち並ぶ。さてと部屋に戻りて、再びカレーうどんを食せば、急に睡魔に襲われるや即寝成仏、2時間程の心地よき昼寝。
午後6時昼寝より起床、レストランにステーキを食いに行くには遅過ぎ故(ライヴ会場へのお迎えは6時45分)テレビをボーッと眺めておれば、今回のツアードライバーであるJonが、彼のバンドメンバーであるSamとホテルに到着。Samは嘗て日本に住んでおり、津山さんとも古い付き合いらしく、「ありぢごく」のドラマーにして、Cottonや大野氏(Solmania)と「本気(「まじ」と読む…後日「魔寺」に改名)」なるノイズユニットにて活動していた際、私も2度程ライヴを拝見した事あり。「こいつホンマ気違いやで」とSamを紹介する津山さんは、されど思いがけぬ彼との再会が何とも嬉しそう。

アメリカ入国が厳しさを増す昨今、万全を期す為にも、明日我々は機材を携えずアメリカへフライトし、Jonが陸路にて我々の機材をアメリカへ運ぶ段取りとなっている故、遥々アメリカから御足労願った次第。午後6時45分、さていよいよお迎えのバンにて会場へ。

「Festival Musique Actuelle」に於ける我々の会場は、どうやら通常はアイスホッケーの試合会場らしく、そこへ特設ステージを設営、何でも出演者毎に会場が異なるらしく、この大ホールは今夜我々のみが使用するとか。更に各会場毎に入場料を払うシステムになっており、フェスティバルと云った処で、結果ワンマン・コンサートの様相である。
だだっ広いステージには、私のリクエスト通りにマーシャル900Wを2台用意してくれており、「ベースアンプ殺し」の異名を持つ津山さんにもリクエスト通りの冷蔵庫の如きアンペグが用意されている。ツアー前に修理して来た長年愛用のFresher製ストラトキャスターならぬストレイターも問題なく、サウンドチェックは至って快適、スムーズに終了。サウンドチェック後は楽屋にてビールを呷る。

午後10時、我々を紹介するアナウンスにていよいよ開演、4人編成になりしAcid Mothers Temple初の海外公演である。所謂アヴァンギャルド系のフェスティバルらしく、ズラッと椅子が並べられているが、会場は立ち見が出る程で満員御礼。1曲目終了後、最前列で踊り狂うひとりの客が、静かに座ってる多くの客に向かって「お前ら、立てよ!」と捲し立てるが、警備員に取り押さえられ一悶着。「You can enjoy our music by yourself!」と私が一喝するや会場からは拍手喝采。演目が進むうち、フェスティバル然と大人しく座っていた客も、気付いてみればフロア挙げてのダンスホール状態と化し、持ち時間1時間半なれど、我々は短いフォークっぽい曲も含め5曲を予定、されど案の定1時間半で5曲は無謀であったか、後半明らかに時間切れ気味なれど、何とか時間内には終了。楽屋に戻って来るや、スタッフから「もう1曲演ってくれ」と懇願され、アンコールを求め足を踏み鳴らし絶叫する客の待つホールへ戻り、恒例「God Bless AMT」を一発かまし、これにて終演。
楽屋には追加されたビールが並び、先ずは仕事の後の一杯。そそくさと機材を撤収し、バンにてホテルへ戻る。

ホテルに戻るや、ホテル1階のバーにて、AMTの新譜「Mantra Of Love」をリリースしたAlien8 RecordingのGaryやSean、その他友人知人と団欒、Garyとは今後のリリース/リイシュ-予定等を打ち合わせる。しかしこれでは永遠に私のレコーディング予定は終わりそうになく、されど自分でそうしてしまっているのであるから自業自得であるが、何につけてもリリースしてくれる人がいると云う事は、有難い事この上なし。
結局午前3時頃までバーに居座り、調子良くペルノーやら赤ワインを呷る。気付いてみれば私と東君を残すのみ。大抵いろんな問題が噴出するツアー初日にしては、大いに演奏も楽しめ、また快適なホテルに滞在している事もあり、東君と改めて乾杯。

さて自室に戻れどあまりの空腹にて、持参せしマイフレンド社製「大盛りお好み焼そば」なる珍妙なカップ麺を食す。どうやら「お好み焼き+焼きそば」なるコンセプトらしいが、どう見た処で単なる天カス入り焼そばでしかなく、決して広島風お好み焼き若しくはモダン焼きの類いにあらず。マイフレンド社はどうやら群馬県の会社らしく、道理で「お好み焼き+焼そば」が何たるかを理解しておらぬ筈である。まあ取り立てて不味い訳でもなく、単なるカップ焼そばの一種と思えば問題もなし。テレビ31チャンネル「Artv」にて弦楽四重奏+コントラバス+バロックリュートをバックにリコーダーをフューチャ-したバロック音楽を観賞しつつ、このカップ焼そばを食らい、その後往年のチャーリーズ・エンジェル特集番組を眺めつつ、午前4時半就寝。

(2004/5/24)

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