『人声天語』 第107回「旅姿4人衆ぶらりアメリカ彷徨記(Acid Mothers Temple US tour 04)」#11

6月15日(火)

午前8時起床、洗濯とシャワーを済ませ、先日購入した韓国カップラーメンに昨日のシーフード・フライを乗せて頂けばさぞや旨かろうと目論めど、先ずはネット接続しメールチェックや雑務等悠長にこなしておれば、10時半にJonが目覚めさっさとシャワーを浴びるや「では出発!」結局朝飯を食すタイミングを逸す。皆に出発すると伝えに行けば、東君も悠長に、ついぞ炊飯器のスイッチを入れたばかりとかで、はじめちゃんも今し方起きたばかりの様子で、何とも大慌て。では常に早起きの津山さんなればこそ、当然出発の用意は出来ているであろうと伺えば、こちらも「今、湯で餅ふやかしてるとこやねん!」とパニック。そんな中、独りJonは寡黙に荷物の積み込みを行っておれば、皆も大慌てで荷物を抱えてチェックアウト。特に段取り通りに物事が運ばぬとパニックに陥る津山さんは、それ故に常に用意周到なればこそ、見事その段取りが崩れ去ったこの朝に於いて、ふやかしている途中の餅が入った携帯用鍋を片手に、「これどないしたらええねん」と、ただただオロオロするばかり。結局立ち寄ったガソリンスタンドの売店に設置されている電子レンジにて、餅は無事温められ、津山さんの胃袋に収まり事なきを得たのではあるが、炊きかけであった東君の米は、無情にもホテルのゴミ箱に捨てられた模様。
午前11時、Atlantaへ向け最後のロングドライヴ。津山さんの風邪はいよいよ酷くなり、寝ている時でさえ咳込んでおられれば、かなり辛そうな様子。私の風邪も一向に快方へは向かわず、相変わらず鼻は愚図り咳込む始末。兎に角車中では寝る事に終始するしか術もなし。空腹なれば、昨日のシーフード・フライの残りを頂くが、衣が諄い故剥がして食し、V8でビタミン補給。はじめちゃんはまたしても妙な代物を食しており、何でもケイジャン風味の茹でピーナッツらしいが、何せ紙コップに入れられている故、韓国名物蚕の蛹の水煮「ボンテギ」を彷佛してしまい、薦められた処でどうにも食指が伸びぬ。
今回のツアーへ向けて、折角国際運転免許を更新して来たにも関わらず、一番の出番であった筈の砂漠越えでは風邪にて戦力外通知を受けていた東君、せめて僅かばかりでも運転したいとの熱い申し出により、ならばと途中の休憩にて、遂にJonから東君へとドライバーチェンジ。私がMinneapoliceにて購入したWWF(現WWE)のテーマソング集CDをBGMに快走。
次に停まりしドライブインにて、幼児教育用品専門店を発見、未だ1歳の甥っ子への土産でもと思い店内を覗くや、そこでカメレオンのパペットを発見、あまりの素敵な出来栄えに衝動買い。結局このカメレオンのパペットは、甥っ子の土産ならぬ自分への土産となりし事云うまでもなし。そこへ同じく娘へのお土産を物色に来た津山さんも、衝動的に馬と鳥のパペットを購入。さて車内に戻っても、私は先日購入したミラーのティアドロップをカメレオンのパペットにかけさせ、運転疲れの東君相手に津山さんと2人してパペットで遊び出す始末。

午後6時、今宵の会場であるThe Earlに到着。当初はこの近くのEcho Loungeなるクラブにてブッキングされていたが、前売状況の良さから急遽、より広い会場へと変更されたのであった。Psychic Paramountも既に到着、Maryleneはテキサスにてテンガローハットを購入したとかで、人妻とは云え矢張り弱冠23歳なれば、女の子らしく早速被ってポーズを取る。

サウンドチェックを手早く済ませ、界隈を散策すれば、Long John Silver’sなるシーフード系ファーストフード・チェーンを発見、すっかりサンドイッチやフライドチキンには食傷気味の私なれば、ここでシーフード・サラダを食す。もうそろそろアメリカン・ファーストフードやらカップラーメンも我慢の限界なれば、矢張り野菜(特にこちらでは見掛けぬ蓮根や牛蒡等の根菜)と魚が恋しくて仕方なし。まだ生野菜のサラダ程度なら食せる上に、このシーフードサラダには諄いチーズ等も乗せられておらぬ辺り、大いに好感が持てる。
クラブへ戻り、そろそろ客入れし始めたホールにて、Jonとビールを呷りつつ雑談。バーカウンターにてディナーが頼めると知り、ステーキ(焼き具合は「スーパーレア」)をオーダー。ここのステーキは、アメリカにしては珍しく、焼き具合もまさしくスーパーレアにして、18オンス(約500g)は優にあるだろう大きさなれば、味付けもバターと塩胡椒のみで大層美味なり。赤ワインをオーダーし、巨大ステーキを貪れば、矢張り「アメリカならばステーキ」しかあるまいと確信。付け合わせは、蒸かした立派なじゃがいも丸一個と山盛りのブロッコリーと同じく山盛りのオニオンリング、じゃがいもは美味しく頂けど、ブロッコリーは大抵オーバーボイルにて気持ち悪く、オニオンリングは諄い故に手を付けず。東君も同じくステーキを、津山さんは豆腐サラダをオーダー、はじめちゃんは何処ぞで寝ていたらしく、見事この好機を逃す辺り、矢張りはじめちゃんである。

このクラブにも置かれているが、今回のツアーで矢鱈と目にするのが「耳栓の自販機」である。

アメリカに限らずヨーロッパも含め、多くのミュージシャンや客は、ライヴ会場にて耳栓を使用しているのが通例。こちらのミュージシャンは、日本のミュージシャンの如く大音量で演奏する事は皆無にして、PAの音量も日本のそれと比べれば小さいと思うが、それでも尚、彼等は耳栓をしているのである。耳栓してライヴ観るぐらいならば、観に来なけりゃ良さそうなものであるが、私が思うに、白人は皮膚や目も弱い事から考察すれば、きっと鼓膜もさぞナイーブに出来ているのであろう。故に然程大きくない音量でさえ耳栓が必要なのであろうし、それでも尚、AMTのライヴ後数日間は耳鳴りに悩まされると云うから、これはもう救いようもなし。私に於いては、ライヴ終了後に耳鳴りがするなんぞ殆ど皆無なり。

今宵も大層な入りなれば、演奏も自ずからヒートアップ。津山さんの「ジョ~ジア~」ネタも2年ぶりに再登場、最後はギターにチョークスラムを食らわせれば、ギターの一部粉砕にて、アンコールでは東君のギターを借りる羽目に。

今宵は、Jonの友人Steven宅へ投宿。クラブから車で5分程度の距離にある素敵な一軒家。彼のお父さんによる油絵が家中に所狭しと飾られておれば、その何とも滑稽な絵画群に大いに共鳴、大いに興味深く眺め入っておれば、多分今まで斯様にこれらの絵画に好奇心を寄せる輩は訪れた事がなかったのであろうか、Stevenが奥へ案内してくれれば、飾っておらぬ絵をクローゼットから次々取り出しては見せてくれる。
さて津山さんは「お前ら食うど!」等と一見動物を嫌がっているような風体なれど、実は矢鱈と動物に好かれるタイプらしく、案の定ここの犬2匹にも気に入られ、遂には斯様な事態に発展。

その一方で東君は、動物に好かれんといろいろ試みるが、大抵の場合、動物は彼の事をあまりよく思わないのか、彼の思いの丈とは裏腹に、つれない反応いと多し。結局朝まではじめちゃんと東君とビール片手に話し込み、彼等が眠りにつくや、今度はネット接続して雑務。午前5時、台所の巨大な出窓に敷かれたマットレスにて就寝。

6月16日(水)

午前7時起床、朝飯として、ここの冷蔵庫より拝借した法蓮草をぶち込みし韓国カップラーメンを食す。食後にのんびりシャワーを浴び、さてネット接続し雑務。少々早い昼食は、東君の炊飯器にて御飯を炊き、朝飯に食せし韓国カップラーメンの残り汁へぶち込んで即席韓国風おじや。家の裏側は林となっており、10m以上の木々が立ち並ぶ、何とも素敵な場所であれば、津山さん共々ただ口をついて出て来るは「なんでこんな広いねん?」
午前11時、不思議な美術館Steven宅を後にし、先ずは楽器屋へ、弦と松脂を購入。さて一路ノースキャロライナのCarrboroなる街へ向け出発。風邪が悪化の一途を辿る私は、車中にて爆睡すれど、同じく風邪が悪化している津山さんは、元来乗り物内にて眠る事が大層苦手の様子なれば、随分咳込んでおられ苦しそう。テキサス程ではないにせよ、矢張り暑い事に変わりなく、また車内や建物内は猛烈に冷房が効いている故か、次第に自身での体温調節が困難となり、今や暑いのか寒いのかいよいよ判らぬ状態なれば、36度以上もある外へ出た処で、長袖と半袖のTシャツを重ね着している有様、元来大の暑がりなればこそ、これは自分でも信じ難し。

途中の休憩にて、大型スーパーに立ち寄り食料補充。ここまで何とかアメリカの食事に耐えては来たが、体調不良もあって、いよいよもう限界にして、カップラーメンでさえ到底これ以上は我慢ならぬと体が私に直訴しておれば、ここはもう絶対野菜と魚を購入せんと決意。先程うたた寝した際に、大好物の塩さばを食す夢なんぞ見たせいもあり、今やもう発狂寸前なれば、初めてイギリスへ渡った時の如く、再び拒食症と相成るや。腹は減ったが、食べたいものが手の届く処にない状況、これ程辛い事はなし。兎に角今やスーパー内を巡れども、何も食指を誘わぬどころか、気持ち悪くなる一方なり。それでも何とか食べられるものはないかと探し回れば、結局サラダ用生野菜とボイルされたカニの剥き身を購入。移動の車内にて、これらを混ぜ合わせ、ポン酢とタバスコをぶっ掛けて食せど、気分は一向に優れぬどころか、空しさでより虚ろいゆく。

午後5時半、今宵の会場Room Fourに到着。アメリカのクラブと云うよりは日本のライブハウス然とした雰囲気に近く、また斯様な田舎街の大学が建ち並ぶ一角にあれば、今宵は学生の客が多くなりそうな空気にして、またいつもとは異なった雰囲気となる予感。昨夜壊したギターの修理に勤しんでおれば、割れたピックガードを切断する際、不覚にもナイフで右手親指を負傷。絆創膏にて止血すれど、ピックを持つには何とも邪魔なり。結局、止血し得た時点で絆創膏を剥がす。
はじめちゃんがShopzoneデビューにして接客にあたるが、何とも要領を得ぬ様子なれば、それもまた微笑ましいか。学生風の客に混ざり、髭長髪のヒッピー親爺の姿も結構見受けられる。

午後10時半、我々の演奏が始まる頃には、1階も2階もほぼ満員。されど何となく日本のライブハウスで演奏しているような錯角を覚えるのは、矢張り普段あまり見慣れぬ学生客の多さ故か。
2曲目にて、右手親指の傷口に弦が食い込み流血、その後もピッキングの度に弦が傷口に食い込む為、血が止まらず、ピックが血で滑り演奏し辛い事この上なし。
津山さんが、例によってステージ上から、どうせわからんやろうと日本語にて暴言を吐く一幕も。ところがライヴ終了後、先の津山さんの日本語による暴言について、日本語を理解する1人の大学生が、津山さんに対し因縁をつけた事で一触即発。思わず椅子を掴んで殴り掛かろうとする津山さんを、東君が何とか制止し仲裁。されど津山さんの怒りは収まり切らず。せめてその学生がライヴ中にステージに向かって直接文句を垂れておれば、かなり面白い乱闘劇として演出も出来たであろうに、終演後に文句云って来る辺り、まるでお粗末な日本のプロレス団体抗争劇の如きなれば、エンターテイメント帝国の国民とは思えぬ気の効かなさ、もっとWWEとか観て研究しろ、クソ学生が!一方で、ここまで片道10時間もかけてやって来たと云うファンもおれば、何とも有難い事この上なし。

終演後、今宵はDCにあるドライバーのJon宅へ向け、Psychic Paramount一行共々、4時間半かけてドライヴ。私は車中にて爆睡。流石に首都ならではか、早朝からの大渋滞を抜ければ、午前5時に漸くJon宅に到着。JonのルームメイトであるSamと再会、彼はお手製パスタやチキングリル、ビール等を用意してくれていたが、 皆あまりの疲労からか呆気なく就寝。私はネット接続にて雑務に明け暮れ、結局またしても徹夜。

6月17日(木)

結局徹夜なれば、シャワーと洗濯も済ませる。朝飯は、東君の炊飯器にて御飯を炊き、持参したレトルトカレーに、昨日購入したカニの剥き身もぶち込み、カニ・カレーライス。カレーとカニの相性はイマイチなり。そしてJonのお薦めでリック・フレアーのDVDを皆で観賞、Psychic ParamountのベーシストBenなんぞ「リック・フレアーってまだ現役なのか!」と大いに驚いている。昔の試合から最近の試合まで一気に観れば、改めてリック・フレアーのプロレスラーとしての偉大さに戦慄すら感じざるを得ぬ。特にRAWにて行われたHHHとの、リック・フレアー現役最後の王座戦は、テレビで放映されなかった試合後の下りまで収録されており、RAWのスーパースター全員に加え、ストーン・コールドやマクマホン一家等も勢揃いし、皆でリックの健闘を讃える辺り、涙なしでは到底観れぬ美談であろう。
昼食は、昨夜用意してくれていたSamお手製のトマトソースにてスパゲッティを食す。お母さんが作ったソースに適当にいろいろ混ぜただけと語るが、なかなかどうして、Samはかなり腕の良い料理人ではないか。ここにはクーラーがない為、日中ともなれば室内はかなり暑い上に、この人口密度なれば、私にとっては地獄の暑さ、仕方ないので冷えたビールを呷る事にする。トイレに行きたい東君は、Psychic Paramountの見事なまでの連係プレーによる4人連続シャワー攻撃の前に大いに苦悶、それにしても家がこれ程広いにも関わらず、何故シャワーとトイレは同じ部屋にあるのだろう。トイレと風呂場は別々にある方が、何かと都合もよいし、衛生的な印象も良いと思うが。普段ネットには無縁の津山さんが、ペーパー馬主ゲームのドラフト間近と云う事で、何とネットで最新情報をリサーチ。

午後5時、Boltimoreへ向け出発。Samは部屋の掃除なんぞ片付けてから、後で来ると云う。あまりの暑さなれば、皆でアイスクリームを食べようとドラッグストアへ立ち寄れば、ここでGay Professorが本領発揮。

午後7時、今宵の会場であるOttobarに到着。前回訪れた際、2階のバーにビリヤード台がありし事を思い出した津山さんと東君は、早速勝負に出掛けていく。
サウンドチェックは素晴らしく手際良く済めば、これもエンジニアの力量なればこそ。大抵ドラムの音作りに時間を要しては、何かと段取りの悪いエンジニアに限り、私に向かって「ギターがうるさいので、ボリューム下げてくれ」なんぞと、阿呆な事ぬかしくさるもの。御陰で最近は、エンジニアの顔を見ただけで、如何な仕事ぶりかを容易に見抜ける程なれば、サウンドチェックに於いて、このエンジニアはあかんと思えば、ボリュームを最初から絞っておいて、当然ファズを踏む事もなく、ただにこやかに「OK, Fine!」と云う事にしている。ここのエンジニアの仕事ぶりの素晴らしさはと云えば、今回のツアー中でもトップクラスなれば、彼には安心して任せられると云うもの。

Psychic Paramount一行が、近所に韓国&日本食レストランがあると出向くや、はじめちゃんは「どこ?」と、突然目の色を変える風体にして、それにしてもはじめちゃんは兎に角よく食べよく寝る。いつも何かしら食べている点では津山さんと似ておれど、はじめちゃんの場合は、クラッカー、ポテトチップス、ピザ、ハンバーガー、ソーセージ、魚の缶詰等、まるで我々からすれば「美味しい」「不味い」を超越した境地の如し、兎に角何でも「目に入れば手当たり次第口にも入れる」と云った塩梅で、「貪り食う」とは、まさにはじめちゃんにぴったり当て嵌まる言葉なるか。

客入りは300人程の大盛況ぶりなれば、凄腕エンジニアの素晴らしい音作りもあり、今宵のPsychic Paramountは頗る調子よろしくヘヴィー且つラウドにして、多分ツアー中ここまでの最高の出来ではなかったか。そんな彼等に煽られたか、「ハロ~、ボルチモア、アン・ブラッセ・モア、リッチー・ブラックモア」の駄洒落は滑りはすれど、津山さんが猛烈にほたえ過ぎで、遂にベースアンプのスピーカーコーンを吹っ飛ばしてしまう壮絶なプレイを展開すれど、御陰で途中からまるで喘息持ちの如く咳込み始め、一時は思わず演奏を中止しようかと思った程。津山さんの風邪は悪化の一途を辿っておれば、今宵も「La Nòvia」はセットリストから外されておれど、アンコールにて、津山さんの「大丈夫やで」の一言もあり、ショート・バージョンにて演奏。

終演後、現在DCに住むCotton & Bill夫妻に会う。Cottonは元気そうで何より。Psychic Paramount一行は、今宵はPilladelphiaにて投宿し、明日ベースアンプをリペアするとかで、我々のみJon宅ヘ戻れば、東君は既に相当疲労が蓄積されているのであろう、帰り着くなりソファに崩れ落ち爆睡、津山さんは酷く咳込みつつ寝苦しそうな様子、はじめちゃんは何やら例によって貪り食ってから就寝。私もあまりの空腹なれば、Samが昼間Psychic Paramount一行に振舞っていたパスタの残りを夜食として頂き、JonとSamとビール片手に雑談、Samは愛娘ミンガちゃんの話に終始、結局5時にソファにて就寝。

(2004/6/24)

#1#2 #3#4#5#6#7#8#9#10#11#12
Share on Facebook

Comments are closed.