『人声天語』 第107回「旅姿4人衆ぶらりアメリカ彷徨記(Acid Mothers Temple US tour 04)」#2

5月22日(土)津山さんの誕生日!

午前7時半、はじめちゃんからの電話で起床。昨夜ギターを2度投げた事で、ネックのジョイント部分が破損、修理せねばと思っていたが、昨夜は酩酊状態にして叶わず、されど本日は午前9時出発なれば、多分修理する時間はなかろうと諦め、サウンドチェック前にでもやるかと、先ずはのんびり入浴し、荷作りした後、レストランにて昨日と同じメニューの朝食を取る。
機材をJonとSamに預け、我々はお迎えのバンにてMontreal空港へ向かう。ここMontrealにてアメリカ入国手続きを済ませるのだが、我々の予想に反して、入国手続きは何の問題もなく無事終了し、万全の体勢にて望んだ私は少々拍子抜け。されど津山さんは、凝り過ぎの感もある程のバードウォッチャー然とした出で立ちに装すれど、それが見事裏目と出たのか、またしても南米人と間違われ別室へ、東君もそのルックスから当然の如く別室へ送られたらしく、ならば斯様にアレンジした甲斐もあったと云うものか。
午後1時40分発Boston行き、約1時間強のフライトにて午後3時Boston空港着。 空港内のフードブースにて、ハンバーガーとピザを食し、午後4時JonとSamのバンが空港に到着。彼等も入国(彼等の場合は帰国か)に際し問題なかった様子なれば、唯一、東君の鞄から数カートンのEchoが発見された際、課税対象になると云われたらしいが、その職員から袖の下を求められ、些少のポケットマネーを渡す事でクリア出来たとか。

午後6時、本日の会場であるT.T.The Bear’sに到着。今回のツアー前半を共にするSan FranciscoのStoner系音響サイケ・グループ「SubArachnoid Space」の面々と久々の再会。リーダー格のMason Jones脱退により唯一のオリジナルメンバーとなった女性ギタリストMelyndaと、我々が「Melyndaのカプセル怪獣」と称する心優しき巨漢ドラマーChris、そして新メンバーのベーシストDiegoとギタリストChrisの計4名。会ってみればMelyndaのヘアスタイルが変わっており、以前の何やら斜に構えた生意気な雰囲気が少々損なわれたか。我がレーベルの借金返済を目論み、Masonに依頼して作ってもらったツアーTシャツを彼等からここで受け取る。
先ずはギター修理に取り掛かる。エポキシパテでジョイント部を補強、通常はこれで凌げる筈であるが、果たしてサウンドチェックまでに乾燥して固まってくれるか、そこが大きな問題。
サウンドチェックまで時間がある為、この近辺を徘徊すれば、インド食材屋を発見し、一見日本の米に似た丸く短い米を選び購入。ついでに何かないかと店内を見渡せば、この店で貸し出していたインド映画のビデオが1本99セントにて売られておれば、これを見過ごせる筈もなく、状態の良さそうな3本を選び購入。更にレジ付近にて、レトルトの本場インドカレーを発見、その中からチャナ豆のカレーを1袋購入。
さて午後7時、サウンドチェックの為、チューニングを試みるが、まだネックとボディーのジョイント部が固まっておらず、私はサウンドチェックを断念。今一度ジョイント部分をエポキシパテにて補強し、せめて本番までには無事乾燥固定される事を祈るのみ。

ここBostonにて、商品を受け取る手筈にして、Major Starsのメンバーが営む「Twisted Village」なるレコード店/レーベルに、全ての荷物が届く段取りとしたのだが、待てど暮らせどその荷物が届かぬ。いよいよ開場され客は続々入場してくる中、いつもならCDやらLPやら膨大な商品群を誇示する我がAMT Shopzoneなれど、この時点に於いては、私が個人で持参したCD数タイトルと、先程受け取ったツアーTシャツ、そしてSurefire DistributionのRonが持参してくれたCDリイシューされたばかりの「Born To Be Wild in The U.S.A.」のみなれば、AMTの新譜「Mantra Of Love」やツアーCD「Hypnotic Liquid Machine From The Golden Utopia」、Guru & Zeroの新譜等の目玉商品も並んではおらぬ有様にして、何ともこれでは寂しい限り。そこへImportant RecordsのJonが現れ、彼が作ったAMT「Magical Power From Mars」Tシャツを大量に頂戴する。しかし肝心のCDが届かぬ事にはどうにも格好がつかぬ上、Shopzone社長こと津山さんのやる気も全くなし。津山さんは今回Shopzone社長として、万全の準備をもってこのツアーに臨んでおられる故、その落胆ぶりは気の毒になる程。
9時半に始まった地元ローカル・バンドも終演、10時半にはSubArachnoid Spaceの演奏が始まったが、それでも商品は届く気配なし。超満員鮨詰め状態の客席なれば、当然の如くShopzoneを訪れる客も多かれど、未だ商品が届いておらぬとの説明応対にただただ明け暮れるのみ。
SubArachnoid Spaceの演奏が終わろうかとの11時も過ぎた頃、漸く商品が到着。そのあまりに膨大な量なれば、何でもここまで2人で運ぶのが大変な苦労だったとの事。Major Starsの2人には大いに感謝して余りあり、今更ながら、いろんな人々の協力の下に我々のツアーが成立している事を痛感。大急ぎで積み上げられた段ボールを開封し、予め用意しておいたキャプションを貼付し商品を陳列。更にツアーCDは、例によってディスクはオーストラリアのプレス工場から直送、ジャケットと外袋は日本から持参している為、この修羅場の中なれど、客の応対且つ商品在庫数チェックに追われる津山さんを除く我々3名は、早速CD組み立て作業に取り掛かる。何とか無事に商品も並べ終え、AMT Shopzone本来の姿に立ち戻れば、SubArachnoid Spaceの演奏は終了し、我々の出番と相成る。

SubArachnoid Spaceの機材は申し分なく、特にバカでかい冷蔵庫の如きベースアンプのパワーには、「ベースアンプ殺し」の異名を取る津山さんも大満足。御陰でステージ内はベースの重低音による振動が物凄く、私のエフェクターなんぞは電源が接触不良を起こす程にして、エフェクターの下にクッションを敷かねばならぬ羽目に。さて問題のネックジョイント部は如何な具合か。チューニングしてみれば、矢張り少々ネックが弦のテンションに負けて起き上がって来る為、12フレット以上のハイポジションの弦高が約1.5cm程にして、かなり弾き辛い状態ではあれど、元来かなりテンションのきついセッティングにしておれば、何とか速弾きもこなせそうで、取り敢えず今日1日もってくれればよいかと、いよいよ開演。されど2曲目辺りで、既にネックが弦のテンションに負け、弦高が更に高くなっており、相当弾き辛い状態となるが、3曲目「PinkLady Lemonade」冒頭に於いては、長時間に渡りコードを押さえる事さえ苦痛となる程なれば、ギターソロ・パートに突入した頃には、遂にネックが完全に弦のテンションに脆くも敗れ去り、ボディーから斜にネックが生えているような状態にして、弦高は勿論3cm以上なれば、流石の私もまともに演奏する事いよいよ叶わず、遂にはこれにてギターにラストライドを食らわせ引導を渡すや、客は私に何が起こったか理解せずとも大いに狂喜。残りのステージは、東君のテレキャスターを拝借し何とかアンコールまで勤め上げる。
終演後、ネックのジョイント部を見れば、もう到底修復不可能な有様されば、「新築した家に是非飾りたいので壊れたギターを売ってくれ」と懇願する奇特な御仁に、ボディーはまたいずれ修復して使うからと、ネックを新築祝いとしてサインを入れ進呈。何はともあれ明日は何としても新しいネック、若しくはギターを購入せねばならず、Ronに楽器屋の所在等を尋ねれば、明日一緒に楽器屋へ行ってくれる段取りとなり、先ずは一安心。

終演後、無事商品も揃った御陰でShopzoneは大盛況、機材を撤収し、今夜はMelyndaの知人宅にSubArachnoid Space共々投宿する事と相成る。辿り着いたは立派な3階建ての一軒家なれど、2階は既に、ここのルームメイトやら友人やら大人数によるパーティーが繰り広げられ、部屋毎でDJショーが始まったりで、この喧噪の中では到底寝れぬと思いきや、3階にも部屋があると云う事で、3階の静かな1室を我々で占拠。ライヴの後は疲労困憊故、到底パーティーなんぞと云う気分ではなし。津山さんとはじめちゃんは一瞬で爆睡。
一方、私と東君はあまりの空腹故、先ずは東君持参のキラーアイテム炊飯器にて、先程私が購入した米を炊く。米が炊きあがるまで暇なれど、到底隣で繰り広げられている馬鹿騒ぎに顔を連ねる気にもならねば、ここは一宿一飯の恩義に応えるべく、シンクに山と積まれた食器群を洗う事にす。されどその様子を見たここの家主が、「Please stop!」と私の手を阻止すべく水を止める。ゲストだから斯様な事はしないでくれと云われるが、散らかっている台所が何よりも嫌いな私なれば、ここは意地でも片付けんと、強引に皿を洗い続け、何だかんだと家主と押し問答している間に、食器は全て洗い終わってしまった。彼にとっては、先程ギターを叩き折った凶暴なギタリストのイメージと、にこやかに皿を洗う今の私のイメージがどうにも合致せぬ様子。炊きあがりを待つ間、東君とポーチにて、突然の雷雨なれば、ビール片手に稲妻なんぞを眺める。
さていよいよ炊きあがったかと思いきや、何と全然炊けておらぬ。全く理由不明なれど、兎に角もう一度水を足してスイッチを入れる。待ち切れぬ私は、鍋で先程のチャナ豆のカレーのレトルトを温めるや、もう我慢ならぬと炊飯器から米を取り出すやフライパンに移し、水を足して油と一緒に一気に炒め煮る作戦に変更。更にガーリックパウダーと、持参した秘密兵器「味の素」を加えるや、これがなかなか効を奏したか、アジア圏の何処ぞの料理の如き出来上がりにして、チャナ豆のカレーとの相性も抜群なれば、東君と2人一気に貪り食うや、満腹なれば後は寝るだけと、午前4時さっさと就寝。

5月23日(日)

朝8時半起床。津山さんはもう既に起き出して、カップ焼そばを食し終えている。私も空腹なれば、ここの台所にて発見したアメリカ製サッポロ一番しょうゆラーメンを食す。電話線が発見出来ぬ故、ネット接続も叶わず、ポーチにてタバコを吸いつつボーッと景色を眺めるのみ。今日はNYでのライヴなれば、昼頃に出発すれば充分にして、されどその前にRonに電話をして、何をおいても楽器屋にてギターを購入せねばならぬ。午前10時、はじめちゃんと東君も起きて来た故、先ずはツアーCDの組み立て及び商品の在庫整理を行う。ツアーCDは、昨夜幾らかは売れたとは云え、総数500枚をアメリカに送った故、仕事量としては相当なものである。家主が起きて来た故、Ronに電話せんと電話器の所在を訊ねるや携帯電話なれば、道理で電話線が見つからぬ筈であろう。Ron曰く、楽器屋はここから近い距離なれば、12時半に楽器屋にて待ち合わせる事とし、更に彼の家に置かれている更なる商品群も渡してくれるとの事で、何とも有難い事この上なし。

ツアーCDの組み立ても、まあ当面は充分であろうと云う数をこなした辺りで切り上げ、今一度米炊きにチャレンジ。どうやらこの米は餅米らしく、通常の米より多くの水を要するなれば、それ相応に水を増やして炊いてみた処、されど矢張り上手く炊きあがらず、さて早くも我々のライフラインである炊飯器は壊れてしまったのであろうか。何やら餅とも御飯とも云い難い代物なれど、食えぬ程ではなければ、フリカケやらで誤魔化しつつ皆で貪る。

正午、何処ぞで買って来たコーヒーをすするSubArachnoid Spaceの面々を尻目に、こちらは先ず楽器屋へ向けて出発。この楽器屋にて、安価なFender Mexicoのストラトキャスターを購入。これで今日より安心して演奏出来ると云うものか。一方津山さんは、楽器屋内に併設されたカセットコーナーにて、早速何やら購入したようで御満悦。
Ron宅にて商品を補充し、さていよいよ一路NYへ向け出発。途中休憩を挟みJonからSamにドライバーチェンジしながらも、車での移動は退屈至極なれば、皆でウトウトと昼寝を決め込むしか術はなし。Bostonは5月下旬とは云え結構寒かったが、NYへ近付くにつれ車内は気がつけば酌熱地獄と化し、全員大汗をかく有様なれど、ではとクーラーをつければこれまた寒く、何とも厄介な事この上なし。

午後6時半、本日の会場であるKnitting Factoryに到着。SubArachnoid Spaceも到着したばかりの様子。NYはかなり蒸し暑く、道行く女性は皆キャミソール姿で、太っていようがなんであろうがお構いなしである。サウンドチェックを手早く済ませ、楽屋に用意してもらった赤ワインを呷る。津山さんは早速Shopzoneをオープン、Knitting Factoryは毎度好調なセールスなれば、何とも闘志満々の御様子。私を除く皆は空腹なればピザを食された様子なれど、車内にて寝過ぎたのか、私は何とも妙な気分にして、然したる空腹感もなし。

前回、前々回と400人以上の動員にて連続ソールドアウトを記録しておれど、今日はライヴに於いて最も客足が鈍いと云われる日曜日なれば、残念ながらソールドアウトまでは行かず、されどほぼ満員なれば、店側も随分御機嫌の御様子。SubArachnoid Spaceは、機材トラブルで随分短かめでセットを終了、御陰で随分余裕をもってセッティングを済ませる事が出来た。
さてセットの方は、かなりインプロに重点を置いた、少々アヴァンギャルドな内容なれど、大いに盛り上がり大盛況のうちに幕。昨夜に引き続き、津山さんはインチキ相撲甚句を披露する等、相変わらずのパフォーマンスに客は大ウケ。Fender Mexicoのストラトキャスターは、なかなか良い塩梅なれど、チョークスラムを食らわせるや、いきなりジャック部分が若干破損。

Samはここでお別れと相成る筈であったが、別段帰っても仕事がある訳でもないとの事で、ならばドライバーとして同行してくれないかとの津山さんの粋な計らいに、即答にてOK。彼の陽気なキャラクターに、随分我々は楽しい気分を演出してもらっている故、我々にとっても願ったり叶ったりであり、Jonも話し相手且つ交代ドライバーがおれば心強い事であろう。明日はかなりの移動距離がある上、NY近郊の渋滞を回避する意味でも、今夜のうちに2時間程走っておこうと云うSubArachnoid Space側の提案に賛同、我々も彼等と共に一路西へ向けて出発する。ドライバーは、勿論すっかり浮かれ気分のSamである。
2時間程走り、モーテルへチェックイン。ここでもSamが「6人分払うと高いから、2人だけチェックインして残りは裏口から忍び込もう」と提案。すっかりやる気満々のSamにここは任せる事とし、車にて荷物の番も兼ねて寝る東君を除く5名は、今夜はモーテルにて宿泊。ドライバー2人にはしっかり休息を取ってもらわねばならぬと云う配慮から、 2人にベッドを譲り、我々3名は雑魚寝する事に。さてネット接続を試みるが、ここの電話では接続出来ず。車内で眠り過ぎたのか、それとも昼以来何も食しておらず空腹のせいか、このモーテルの室内が結構暑いせいか、どうにも私に睡魔は全く襲って来ず、無理に寝る事もなかろうと、入浴したり洗濯したりしては、日の出を待つ事とす。

(2004/5/24)

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