『人声天語』 第107回「旅姿4人衆ぶらりアメリカ彷徨記(Acid Mothers Temple US tour 04)」#4

5月27日(木)

朝9時半起床、既に起きていた津山さんと共に、台所を探して家中を徘徊。地下のバーに加えて地上3階に部屋が並ぶ故、なかなか台所が見つからぬ。実は自分達の寝ていた隣こそが台所であった事を知るや、これには2人とも思わず苦笑。津山さんの持参したレトルトカレーと真空パックの御飯にてカレーライスを食す。
部屋に戻るや電話器を発見、ネット接続を試みるや見事成功。メールをチェックし雑務仕事を片付けておく。
正午、津山さんの「何もする事ないなあ」に受けて「昨日のレコード屋でも行けば良かったですねぇ」と云うや「せや、ほなら今から行こっ!」と、徐ろに津山さんが昨日見つけたと云う中古レコード屋へ赴く事となる。昨夜のクラブからここまで4ブロックなれば、充分徒歩にて叶う距離であり、私は何となく車でどう走って来たか憶えていた故、迷う事もなく無事その中古レコード屋に到着。
2人して店内隅々までチェック、津山さんはLPに加え、Pink FloydやらCreamやら何やらとカセットを大量に購入、一気に散財。私はと云うと、流石Detroitにして私の御当地アイドルであるDebちゃんの在籍していた女性ガレージバンド「Gore Gore Girls」の1stアルバムLPを発見、

CDは以前あるAMTファンから送って頂いたのだが、ここは矢張りLPも揃えたい処と、その他LP数枚と共に購入。更には、表に無造作に積まれているLP群が「無料」と聞き知るや、2人して「タダやったらもろといたろ」と調子の良い事を云っては、津山さんはHeartやらを、私は何故かStevie Wonderなんぞの「しょうむなさそうやけど今聴いたらもしかしたらええかも」と云うレコードを抜きまくる。結局2人してかなりの量を買い込み(一部無料)、またしても御満悦な事この上なし。どうやら我々レコードを聴く事は勿論なれど、「買う事」が堪らなく好きらしいと、今更ながら自覚した次第。しかし斯様に調子良く買いまくった処で果たして大丈夫なのか、と云うのは自宅の収納スペースの話。特に我が部屋は、今やレコード棚増設も侭ならん程に窮屈なれば、これはかなり問題である。されどレコード屋にて、斯様な事なんぞ考え及ぶ筈もなく、まあ後は帰ってから考える事とするしか術もなし。

午後2時、Clevelandへ向け出発。SubArachnoid Spaceは、楽器屋にて昨日トラブルが発生したChrisのギターアンプの修理をしてから行くとかで、ならばケーブルが抜けなくなった私のギターのジャックの修理もついでにお願いする事にし、彼等にギターを預ける。今日は然程距離もない為、のんびりしたもの。津山さんは車中にても、先程購入したレコードを眺めては御満悦。
途中、巨大スーパーマーケットに立ち寄り食料補充。皆各々思い思いの品を籠に放り込むが、今やツアー慣れしている私と津山さんと東君は、矢張り考える事が同じらしく、即席きつねうどんとサッポロ一番みそラーメン、サラダ用生野菜詰め合わせ、そしてポン酢を目敏く購入。はじめちゃんは、Samにいろいろアドバイスされつつ怪し気な物を購入した模様。私と東君はお惣菜コーナーにて、「アメリカと云えばフライドチキン」と云う訳でフライドチキンを、更に野菜ジュースV8の巨大ボトルを購入。また大抵こう云った巨大スーパーでは雑誌コーナーが充実している事を知る私は、WWE関連の「RAW Magazine」「Smack Down Magazine」等、プロレス関連雑誌をも購入。
車中にてフライドチキンを頬張りつつ、

生野菜にポン酢をぶっかけたサラダを摘み、そしてV8を流し込む。プロレス関連雑誌は、車中で文字を読むと乗物酔いする為、写真のみを眺めるにとどまる。さて腹が膨れるや、先程のレコード・ハンティング疲れもあってか、突如猛烈な睡魔に襲われ爆睡。

午後6時、本日の会場であるGrog Shopに到着。SubArachnoid Spaceが未だ到着しておらぬ為、サウンドチェックも出来ぬ故、近所を徘徊すれば中古CD&ビデオ店を発見し突入。千葉真一主演のアメリカ映画2本なんぞを衝動買い。
更に中古レコード屋を発見するや、当然の如く津山さんと突入。入り口付近に積まれた99セントの値札の張られたLPを漁り始めるや、すかさず店主に「そこに置いてあるのは売り物ではない」と一喝されるが、私は既に1枚抜いておれば「これだけは売ってくれ」と懇願、まあ仕方なしと諦めた店主の了解を取り付け、さて案内された地下のLPコーナーにて2人して楽しいレコード・ハンティング開始。私はアメリカ民謡のボックスセット等、津山さんは何やらまたしても大量に購入し御満悦。「今日はこのぐらいで許しといたろ。」

クラブへ戻りサウンドチェックを手早く済ませる。結局Chrisのアンプの修理が間に合わず、マーシャルのヘッドをレンタルしてくれた御陰か、ギターは久々に心地よい程の大爆音。私のギターも無事にケーブルを抜いてもらえていた。
東君はJonと近所のパブへ繰り出した様子、私はサウンドチェックを終えたSubArachnoid SpaceのメンバーやSamと、通りの植え込みに座って雑談。そこへ例によってヒッピー親爺共が大挙して押し掛け、サイン責め質問攻めに合い少々面喰らう。ここClevelandの新聞の一面に、私のインタビューを元に構成したAMT記事が組まれており、さて今日も多くの客が詰め掛けてくれるとよいが。

午後9時、紅一点のヴォーカル&ギターを擁したローカルバンドFlat Can Co.の演奏が始まる。

女性のバックを務めるは、ギター+ベース+ドラムなる編成の男性3人にして、多分即興であろうCANを少々彷佛させるミニマルな演奏を繰り広げる。そこへこの女性メンバーが出鱈目なリードギターを繰り出すだけならまだしも、首にぶら下げる鈴をマイクに向かって懸命に振り、笛を吹けども「ピーッ」とワンノートのみで、笛でシンバルを叩こうとすれば空振り、漸く叩いたと思いきやシンバルがスタンドから落下、健気にもそれをきちんと元に戻したり、拡声器にマイクを突っ込んで絶叫すれどPA側で切られてしまい、挙げ句はベースアンプによじ登りマイクを投げ捨て壊してしまうは、客を引っ張り上げ自分のギターを手渡し弾かせては、自分はステージ上を転がり回り、いやはやもう何が何だかさっぱり判らぬが、兎に角滑稽な事この上なく、「こんなアホな奴久しぶりに観たわ!」津山さんと大笑い。是非ともChicagoのアングラシーンの重鎮であるPlastic Crimewaveとのアホ対決が観てみたい処。彼等が出会う日はいつの事か。
続けてSubArachnoid Spaceの演奏、こちらはライヴを重ねる毎に内容も良くなり、本日の1曲目は昨日までは演奏しておらなかった2本のギター・ドローンをフューチャーした曲。
さて我々の演奏については、満員の客も大いに盛り上がるが、その一方で、はじめちゃんと津山さんのモニター状態は相当悪かったらしく、こちらとしては少々辛い内容であった事も事実なり。

終演後、このクラブの女性オーナーが「大爆音のノイズは好きではないけれど、あなた達の音楽は素晴らしかった」と語ってくれた事が何よりか。云わずと知れた「酒がないと不機嫌な」東君は、この女性オーナーに何やらテキーラか何かを御馳走になりいい調子の様子。そう云えば昨日も来場していた男性からも、我々一同散々ビールを奢って頂いた。何でもこの辺りの地ビールとかで、バーテンダー曰く「ホーリー・モーゼ」とか云う大層有難い御名前のビール。
Shopzoneでは怪力自慢の巨漢が津山さんとアームレスリング勝負、さしもの津山さんも、アメリカの巨漢の前には惜しくも敗北を喫す。兎に角男性であれ女性であれ異常にバカでかい国である。どうやったらこれ程太れるのかと思う程のデブはゴロゴロしており、なんぼ程デカいねんと唸らされるオッパイの持ち主も後を絶たぬ。これも偏にコーラとビールとフライドチキンとチーズバーガーの為せる技なのか。最近めっきり体型が変化した日本の若年層を思うにつけ、いずれは日本人もあのようになってしまうのかと、思わず危惧せずにはおられぬ。

今宵は再びStevenなるイラストレーター宅に、SubArachnoid Space共々御厄介となる。東君はそろそろ疲労が相当蓄積されて来たのであろうか、それともテキーラが効いたのか、到着しても死んだように爆睡。何とか起こせど、部屋に入るなり即寝成仏、津山さんも早々に御就寝。私とはじめちゃんは、StevenとSamとSubArachnoid Spaceのメンバーと共に、居間にてビールやら赤ワインやらを呷り歓談。結局私と2人のChris(SubArachnoid Spaceのギタリストとドラマー)の3人は、またしても朝5時半まで飲み明かし、結局ここの冷蔵庫を空にしてしまう。5時半、居間のソファにて就寝。

5月28日(金)

ソファにてブランケットもなしで眠った為、あまりの寒さに朝7時起床。ツアー中の風邪ほど厄介且つ端迷惑なものはない故、何としても風邪だけは引かぬよう留意せねばならぬと知る。津山さんも起床された故、2人して台所にて朝飯の支度、私は昨日購入せしサッポロ一番みそラーメンと、生野菜にポン酢をぶっかけサラダにして食す。東君が起きて来た故、炊飯器にて新たに購入した米でもって、今一度飯炊きに挑戦。見事上手く炊きあがれば、一昨日楽屋より拝借せしプラスティックボールに詰め、鮭ふりかけをまぶし道中のお弁当とする。何しろドライヴインでの食事ともなれば、ハンバーガーが関の山であるのだから。
前回投宿した折には発見出来なかった電話器を見つけ、ネット接続を試みる。メールをチェックし雑務をこなす。ツアー中でさえ斯様な仕事をせねばならぬとは、何とも面倒臭い上に精神的なプレッシャーの元凶ともなる。
さて津山さんは、相変わらず購入したレコードやらカセットやらを眺めては、すっかり御満悦にして、玄関ポーチにここまでの戦利品を展示披露。

このペースで増えていけば、帰国する頃には優に500枚を越えるのではなかろうか。レコード・ジャンキーの真髄見たり。

午前11時、楽器屋へChrisのアンプを取りに行ったとMelyndaを待つSubArachnoid Space一行を残し、Chicagoへ向け出発。流石に昨夜は夜更かしした故、車内で爆睡。どうやら周期的に夜更かし若しくは徹夜してしまう生活サイクルになってしまった様子なれど、移動の車内で眠れる故、然程問題にはならぬ、と云うべきかそれとも、移動の車中にて充分必要な睡眠を取ってしまう故に眠れぬのか。
途中ドライヴインでの休憩にて、お弁当を食す。矢張り御飯は何よりも美味なり。されど何故か今回のツアーに限り、全員然程日本食を恋しがらぬ様子なれば、これは一体何故なるか。確かにアメリカはまだヨーロッパに比べ「食える」ものも多かれど、それとも単に心の何処かで諦めがつくようになったのか、さてまた体に何らかの順応性が生まれて来たのか。
ドライヴインにてポストカードを買った折、そう云えばカナダで書いたポストカードを未だ出せていない事に幾らか焦躁、ずっと車での移動故に市街地を通る事は稀にして、殆どの時間をハイウエイで過ごす為、郵便局なんぞ全く見掛けさえせぬ有様。このままでは「カナダからの手紙」は一体何処から投函されるのであろうか。

結局6時間のドライヴの殆どを寝て過ごし、午後6時本日の会場であるThe Abbey Pubに到着。今宵は再びWolf Eyesを交えての3対バンである。SubArachnoid Spaceの到着が遅れるとの連絡があり、サウンドチェック出来ぬ我々は、先ず夕食を取る事にす。
夕食は、クラブのレストラン・メニューから、皆でステーキ・サンドウィッチ(私は焼き具合を「スーパーレア」に指定)をオーダー。海外ではレアをオーダーした処でミディアムな焼き上がりである故、常に「スーパーレア」と云わねばならぬ。案の定焼き加減はややミディアムなれど、野菜も豊富に添えられ、ボリュームも充分あればバランスも良し。バーにて赤ワインを貰って来た故、赤ワインとステーキで気分は少々リッチか。斯様な程度でリッチと思える自分の何と幸せな事か。

午後8時、SubArachnoid Spaceが漸く到着、手早くサウンドチェックを済ませる。会場前、表で会った男性に当日券の有無を問われたが、何でも前売券はソールドアウトだとか。丁度店のスタッフが通り掛かった故、尋ねてみれば、当日券は別に用意されている様子にして、これでこの男性も一安心。会場まで来て入場出来ぬと云うファンを見掛ける度に申し訳なく思うが、嘗てNYのKnitting Factoryにてソールドアウトになった際、イギリスから来たと云う男性3名をゲストリストに入れるや、他の客にも懇願され大変な目に遇った事さえある。それ以来、下手な親切や安請け合いな同情は、しっかりした自覚と責任感がない限りは禁物と知る。

午後9時、SubArachnoid Spaceの演奏開始、この時点では未だ会場に対し5割程度の入りか。海外でのツアーに於ける前座バンドとは、斯様な憂き目に遇う事は当然なれど、それでも尚、前座を務めたいと思う心情とは、私なんぞからすれば今ひとつ合点がいかぬ処。少しでもチャンスを掴もうと云う想いからではあろうが、客が観に来てくれぬのではどうしようもなし。今や客の方もお目当てのヘッドライナー以外は観に行かぬと云う心境なれば、これは長きに渡るロックの歴史上、「前座がしょうむない」と云う前例があまりに多過ぎた為か。されどRod Stwertを擁するSmall Facesのアメリカ・ツアーの前座は、Ian Gillan加入直後のDeep Purpleであり、各地で大いにSmall Facesを食ったと聞くし、T-Rexの前座をデビュー前のKing Crimsonが務めた折には、そのあまりの演奏力の高さと大音量に、Marc Boranが戦々恐々となり、アンプの電源を落としたりケーブルを抜いたりと、何かとKing Crimsonの演奏を妨害したと聞く。本来前座とヘッドライナーの関係とは、お互いに刺激し合い挑発し合う関係でなければならぬと思う故、今やそれ程の意気込みがある前座バンドが少ないと云う事か。そう云う意味合いでは、SubArachnoid Spaceは夜毎に演奏が良くなって来ている上、我々に影響を受けたのか、インプロによるセクションの導入等、何か新たな試みに日々腐心している様子なれば、それなりに我々の前座を務める意義もあったであろう。されどWolf Eyesに関しては、挨拶さえ交わした事なければ、勿論音楽的な接点なんぞあろう筈もなく、客の大半もつまらなさそうにしている故、何故我々の対バンに選ばれたのか。
Jonの話では、ここ最近になり漸くアメリカに於いても「ノイズ」と呼ばれる音楽が広く浸透して来たらしく、日本やヨーロッパに比べて恐ろしく遅れているのだとか。確かに単なるTGのフォロワー的な耳障りなれば、そこには我々にとっては何の面白みも存在せぬが、Melynda曰く「何故このバンドが人気あるのかわからない。他にも似たようなグループはいろいろあるのに…。」だそうで、では彼等には彼等なりに、他のグループが持ち得ぬ何らかの良さがあるのだろうと思ってはみるが、矢張り私には何ら良さを感ずる事は出来ねば、そう思うと、日本のノイズ・ミュージシャンの何と質の高い事か。海外にて「ジャパノイズ」なる単語が存在する事も大いに頷けよう。

午後11時、満員御礼ソールドアウト500人以上が鮨詰めとなりし会場は壮絶な熱気にして、サウンドチェックの際、ここのエンジニアが、ステージ中央に立つ東君の事をリードギタリスト、私をサイドギタリストと呼んだ事から生まれた、私の超高速カッティングから始まる曲からスタート。怒濤の2時間のステージなれば、アンコール「La Nòvia」にて客の1人がステージに上がって来るや、私と津山さんのケーブルを足で引っ掛ける有様で、これに激怒した我々2人が、この輩をステージ上で蹴りまくる一幕も。そもそもこの輩、私の正面最前列に位置し、ライヴ開始から延々と「La Nòvia!!」と絶叫を繰り返し、一度は火のついたタバコを私の足元に投げ込んだならば、実はその時からこの輩を如何にしてしばき倒したろうかと企んでいたのであった。
2度目のアンコールは恒例「God Bless AMT」なれど、それでも収まらぬ観客に対し「Na na na na、Na na na na、Hey Hey、Good-bye」と「Na Na Hey Hey」を歌えばWWE宜しく大合唱となり、漸く怒濤の2時間を越えるライヴもこれにて終演。

終演後、今回のツアーをオルガナイズしたブッキング・エージェントThe Windish AgencyのTomと御対面。十数年以上の経歴からして想像していたのは、とっつぁん坊や然としたアメリカのオッサンの姿であったが、実物はクールに微笑を携えるBeck似の垢抜けたナイスガイであった。されど話してみれば相当強かそうにして頭脳明晰な雰囲気なれば、これで今後も安心して世話になれるであろうと確信。
その他、シカゴ・アングラ・シーンのスカム女性デュオMetaluxのベーシストCarbonや、シカゴ・アングラ・シーン重鎮Plastic CrimewaveことSteve達と再会。今夜は勿論「Psychedelic Wonder Land」ことSteve宅に投宿の予定。
何でもバーを経営してるとか云う男性からのお誘いがあり、ただ酒を断る術はあるまいと、東君と私はそのバーへ連れて行ってもらう事になり、皆はSteve宅へ向かう。SubArachnoid Spaceの面々も我々と飲みに行くと一旦はバーへ向かったが、明朝早く出発せねばならぬ為、残念がりつつも結局今夜投宿すると云うDiegoの友人宅へ向かって行った。

さてバーにて私はサンブッカを3杯、タコス3個、ビール1本を御馳走になる。着いた当初はたくさん居た可愛い女性陣も、気が付けばダンスパーティーに行くとかで消えて行く中、ダンス好きの東君は「俺も行く!」と張り切ってはいたが、ライヴ疲れもあったのであろう、結局ウォッカで轟沈。Steve宅まで車にて送ってもらいさて寝ようかと思えば、丁度そこへSamが起きて来て、彼の夜食ツナ・オン・ザ・クラッカーを一緒につまみつつ歓談。結局キッチンの床にてコートを羽織り午前5時就寝。

(2004/5/31)

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