『人声天語』 第107回「旅姿4人衆ぶらりアメリカ彷徨記(Acid Mothers Temple US tour 04)」#5

5月29日(土)

午前9時、あまりの寒さで起床すれど、まだ少々アルコールが残りし感じなり。ここSteve宅では、目覚めた刹那、いきなり飯が食えると云う理由から、最近いつもこのキッチンの床で寝ておれど、昨夜は自分でバンから荷物を下さなかった故、食料は車中にして、常に車中で眠るJonを早々に起こすのも気の毒なれば、朝飯を作る事は諦めざるを得ぬ。ならばと電話線をiBookに繋ぎネット接続を目論むが、あまりにも動作速度が遅過ぎる為、ネット接続出来た処で送信は何とか出来こそすれど、サーバーからメールを吸い上げるまでには至らず。
津山さんが起きて来た故、今日は朝10時からお馴染みの中古レコード屋Reckless Recordsへ連れて行ってもらう事を告げる。JonはTom宅に有る「Mantr Of Love」のCD在庫を取りに行ってくれたらしい。10時までには全員起床、寝坊なSteveも既に起床している事には驚愕こそすれど、御陰で無事Reckless Recordsへ伺える運びとなる。はじめちゃんはステイを希望の為、Samの運転にて我々3名とSteveで出発。

Reckless Recordsとは、Steveが勤めしChicago有数の中古レコード・チェーンにして、品揃えの良さと在庫数の豊富さは秀逸、特にサイケ系の掘り出し物多し。入口天井部には、イラストレーターでもあるSteveの手によるロックスター天井画が広がるが、その中に私も加えられている事、少々照れ臭し。生憎Steveは、店からレコードを盗み過ぎ解雇されてしまったが、この日はオーナー不在とかで、解雇された筈の彼も交えてのレジ打なれば、大幅にディスカウントしてくれるとの事。
さて、Reckless Records店内に突入するや、私は電子音楽の掘り出し物やらガレージ等を重点的に、東君はサイケのリイシューやらを、津山さんは案の定、我らが呼ぶ処の「カスコーナー」から盲滅法片っ端から抜きまくる。午前11時にはMinneapolisへ向け出発する予定なれど、結局我々の店内滞在時間は2時間に及び、店を出た時点で丁度正午なり。Steve宅へ戻り大慌てでMinneapolisへ向け出発。

車内では、ついぞ先程購入した大量のレコードを眺めて御満悦の津山さん、東君はどうやら寒いらしく、JonのパーカーやらAir Canadaの機内から失敬して来たブランケットやらを纏い、その姿はまるで「芋虫」か「ねずみ男」か、はじめちゃんは当然熟睡、私は昨夜の夜更かしが祟ったか爆睡。
途中、ハンバーガー・ショップHardee’sにて、1/2パウンド・6ダラーズ・サンドウイッチなる特大バーガーと、隣接するスーパーにて野菜ジュースV8のボトル2本を購入、車中にて食し、再び爆睡。

給油休憩を挟む約7時間のドライヴにて、本日の会場Triple Rock Clubに到着。ステージでは今日が最後の共演となるWolf Eyesがサウンドチェック中。
先ずは夕食と云う事なれば、クラブのレストラン・メニューから、昨夜に続きステーキ・サンドウィッチ(焼き具合はスーパーレア)をオーダー。されどこの焼き具合はどう見てもウェルダンであり、野菜類の付け合わせは一切なしにして、代わりに山盛りのフライドポテトが添えられている。昼食の特大バーガーにて胃もたれを起こしておれば、ステーキと云うよりは焼き過ぎた焼肉のような肉と、フライドポテトを少々頂いた程度にて箸を置く。
今宵はAMTのライヴの際にビデオ・プロジェクションをやってくれる男性が居り、視覚的演出も行われるとか。ビデオ・プロジェクション共々サウンドチェックを手早く済ませ、後はここMinneapolisの地ビールを呷るのみ。

午後9時半、SubArachnoid Spaceの演奏が始まるや、Melyndaは何やら今宵の演奏か観客の反応かが気に入らなかったらしく、終演後も苛々しておれど、近頃の妙に愛想良いMelyndaより、無愛想な方が彼女らしいと思えてしまうのは、矢張り7年前の最初に会った時の第一印象に起因しているのか。Wolf Eyesの演奏は退屈且つ喧しい故、バーの方へ逃げ出すやMelyndaとDiegoを発見、一緒にビールを呷る。どうやら彼女は、このWolf Eyesが相当嫌いな様子にして、結局またしても愚痴を延々と聞かされる羽目に。

この夜も満員御礼、されど我々のライヴは「Pink Lady Lemonade」にて時間切れ終演、アンコールとして「La Nòvia」の後半部のみを演奏、そのまま「Speed Guru」に突入するや、突如客席から1人の女性がステージに上がって来ては、いきなりマイクに向かって絶叫を繰り返す。突如モニターから聴こえて来た彼女の絶叫のあまりの音量の大きさに、私と津山さんは思わず吹っ飛んでしまった程。結局我々がステージから下りた後も、彼女は客に向かって絶叫を繰り返し、何やらよく判らぬ顛末のまま終演。

終演後、先程ステージにて絶叫していた女性が楽屋へ乱入、いきなり絡まれては、せめて可愛ければ対処しがいもあろうものなれど、まるでジャニスを彷佛させる田舎娘然としたジャンキー娘なれば、ここは上手くSamに振り逃亡を謀るが、世の中そう上手く行く筈もなく、漸くホールへ逃亡したかと思えば、今度は眼鏡を掛けた黒髪の肥えた女性に突然ダンスを迫られ、有無も云わさず手を取られるや、ただただ呆然とする私は、何故この女性が私の手を取り踊っているのか状況さえ飲み込めぬが、ひと踊りにて彼女も納得してくれたのか、漸く私は無事解放され、晴れて自由の身となる。
この夜のBGMを担当していたDJ親爺2人と歓談。彼等はひたすらサイケ/ガレージばかりをプレイしては、かなり素晴らしい選曲にして、話してみれば「AMTの為にも素晴らしい夜を演出したかった」との事、DJがDJの立場を弁えている近頃稀に見る殊勝な心掛けなれば、是非世の中のDJ共も見習って欲しい処。

今日の投宿先はホテルなれば、チェックインするなり私を除く全員が即寝成仏にして、まあ皆余程疲れているのであろう。私は洗濯を済ませ、ネット接続を試みるが、どうにもホテルの電話では接続出来ぬ様子。
夜食としてサッポロ一番みそラーメンを、コーヒーメーカーの湯にて作り食す。湯舟に湯を張りのんびり入浴。兎に角湯舟に浸かれぬ事から、次第に疲労が蓄積しがちになる故、今回はいつもにも増してなるべく湯舟に浸かるよう心掛けている。溜まりに溜まったツアー日記を執筆するうち夜明けとなり、またしても徹夜と相成る。

5月30日(日)

結局徹夜なれば、朝飯でも食わんと食堂へ赴き、ドーナツ4つとコーヒーを平らげる。ドーナツは上にチョコクリームが乗ったものが美味なれど、他のカスタードクリームが乗ったものも、何やらカラフルなトッピングが乗せられたものも、シナモン風味のものも充分美味なり。
11時チェックアウト、近所のガソリンスタンドにて、昨夜はDiegoの実家に投宿していたSubArachnoid Space一行と合流。ここから2台で連れ立って2日半かけSeattleへ向かう段取りである。されどいざ2台でランデブーするや、SubArachnoid Space号は、メンバーが喫煙するにも関わらず車内禁煙なれば、休憩回数も自ずから多くなり、一方こちらは、今夜と明日のホテル泊を考慮して、大型スーパーマーケットにて食料の補充を図りたく、またJonの考えるペースからはSubArachnoid Space号は遅過ぎる様子なれば、Samから「2台別々でSeattleに向かった方がいいのではないか」との提案もあり、Melyndaにそう告げるや「Ok, See you in Seattle!」あっさりしたものである。ならばと我々はSubArachnoid Space号と別れ、先ずはスーパーマーケットにて食料を補充。私は恒例のV8やらサラダ用生野菜袋詰と共に、ポパイ印の法蓮草缶やら鮭缶、そして葱を購入。されど今直ぐに食せる品を購入出来ず、また途中に立ち寄りしマクドに至っては、既にあの臭いを嗅ぐのも嫌なれば私のみパス、されど空腹のせいもあってか、車内にて次第に車酔いとなり気分はいよいよ最悪にして寝る事も叶わず。いよいよ気分最悪にして嘔吐3分前、運良く立ち寄りしドライヴインにて背に腹は代えられぬと、本来なら見たくもない筈のピザとチキンナゲットを購入、常に携帯しているタバスコをぶっかけ、V8で一気に流し込めば、取り敢えずは気分も落ち着き、ここより車内にて爆睡。例によって風邪をこじらせそうな様子の東君は、早速風邪薬を服用し熟睡。寒さに異常なまでに弱く抵抗力もない癖に、一見無謀なまでの薄着やら裸足やらでおれば、そりゃ風邪も引くであろうと云うもので、されど最近はかなりそこら辺りに気を配っているようでありつつも、矢張り直ぐに服を失くしてしまう等と云う失態ぶりなれば、せめて他人に迷惑を掛けまいとの思いから弱音も吐かず黙っておる様子なれど、それよりももう少し自分の健康管理に腐心して頂きたいと思うが、何よりも無類の面倒臭がりにして妙な処で頑固なればこれも仕方なしか。Samは「Budland」なる名勝が見たいとかで、今宵はどうやらその辺りまで行くらしい。

深夜2時、明日は月曜日なれど休日らしく、どこもホテルは満室、当初Samが目指した「Budland」も軽くスルーし、あちこちホテルを訊ね回れば、漸く1件のホテルにて空き部屋を発見。取り敢えずチェックイン、津山さんはジャグジー付きの禁煙室へ、残る我々はダブルベッド×2の喫煙室へ。あまりの空腹にて、先ずは何を差し置いても東君の炊飯器にて飯を炊く事に。はじめちゃんは何やらカップラーメンを貪っており、Samは例によってツナ・オン・ザ・クラッカー、津山さんは既にカップラーメンを食し終えたとか。東君と2人、炊きあがった飯にてカレーライスを食す。今宵もバンで寝ると云っていたJonを、殆ど無理矢理ホテルの部屋まで連れて来たはいいが、矢張りベッドで寝る事なく、部屋の隅の床にて就寝しておる故、どうやらバンで寝る若しくは独りで静かに寝るのが本当に好きなのであろう。久々にネット接続も果たせ、漸くサーバーからメールを吸い上げれば、何と300件を優にオーバー。今宵はAMTのヨーロッパ・ツアーのブッキングやらの事務仕事に励まねばならぬ。
と云う訳で、30分程椅子に掛けたままうたた寝するのみで、今宵も再び徹夜なり。そもそもダブルベッドに於いては、可愛い女性以外とは誰とも一緒に眠れぬ質なれば、相手の寝返りで目覚めてしまう上に二度寝出来ぬ上、更には自分の寝返りで隣の御仁を起こしてしまわぬか気になれば、もうおちおち寝る気にもならず。夜食として、コーヒーメーカーの湯にて、即席きつねうどんを食す。出汁が関東風で真っ黒なれば、湯で薄め「味の素」で味を整え、そこへ葱を大量にぶち込めば、これは大いに郷愁を誘うなり。

5月31日(月)

結局徹夜なれば、朝飯でも食わんと食堂へ赴き、ドーナツ3つとコーヒーを平らげる。ドーナツは上にチョコクリームが乗ったものとカスタードクリームが乗ったものを選んだが、中に更にジャムが仕込まれており、私は甘味激辛両刀使いなる故、これはなかなか美味なり。
「Budland」を諦めたSamは、ならばここから近い「Crazy Horse」へ行こうと大はしゃぎ。ホテルにステイ希望のはじめちゃんのみを残し、我々は一路「Crazy Horse」へ。途中あの4人の大統領の顔が彫られたRushmoreの横をすり抜け、更に吉田達也氏が見れば狂喜するような奇岩群をも抜け、午前11時Crazy Horseに到着。彼方に、今現在作られている最中の「Crazy Horse」に於いて、唯一完成している頭部が拝める。その時噴煙を上げてダイナマイトが爆発、どうやらここまで40年を要し、この先60年を経て完成するとか。斯様な所に斯様な代物を作った処で、一体それが何なのか。伝説のネイティヴ・アメリカン「Crazy Horse」のバカでかい彫像を作った処で、インディアンの立場がアメリカ内で変わるとも思えぬし、いずれは単なる「天然記念人種」にされて良しであろう。「Crazy Horse」も草葉の蔭で泣いてるど!

別段何の感動どころか感想さえ抱かせぬこの退屈な「Crazy Horse Memorial」には、「Indian Museum of North America」やら土産物屋も併設されているが、当博物館の展示内容はと云えば、私は嘗てNYのハーレム奥にあったインディアン博物館を訪れた事があるが、あの展示内容の素晴らしさとは比較にならぬしょぼさにして、どうやら最近のインディアン・イラストレーターの作品展示が主を占め、歴史的資料の充実度はそれ程でもなし。土産物屋に至ってはそそられる逸品皆無なれば、11時にホテルをチェックアウトせねばならぬはじめちゃんの動向が気に掛かる処。まさか置いてきぼりを食らったなんぞと誤解せぬとは思えども、はじめちゃんなら充分誤解し得る故、矢張り何となく心配でもある。Samは何やらお土産も買い、上機嫌この上なし。

予定時間を大きく遅れ、案の定置いてきぼりを食らったのではと誤解していたはじめちゃんと、午後1時無事合流しホテルを出発。Samの話では、今日中にロッキーを越えSpokenなる街まで一気に走破すると云う。もしもそこまで今日中に辿り着ければ、Seattleはもう目と鼻の先であり、ロッキーにて一泊すると云っていたSubArachnoid Space一行を大きくリードする事にもなろう。と云う段取りにて出発、風邪気味の東君は相変わらず風邪薬を服用し爆睡。津山さんは常に何か食しておられ、果物やら御菓子やら生野菜やらと、まあ次から次へと鞄から出て来るのである。そんな中、先日購入したライス・クラッカーこと「あられ」を食しておられる際「ぐぎょぎょ~、これめっちゃ不味い!ええから、ちょう食べてみぃ。」「どれどれ…おえ~っ、ホンマや、めっちゃ不味い。」「これ何の味や?」「何やろ…?でもこっちでしょちゅう口にする味ですなあ…。」「兎に角おかきは醤油でええねん、変な事すな!」「おえぇええ~っ、この昆布みたいなん付いてるやつ、これはホンマあかん、線香の味するわ…、おえぇええええ~っ!」あまりの不味さにもんどり打っておられた次第なれば、我々も興味本位にて少々摘んでみたが、これはあまりにも不味過ぎるなり。
気が付けば景色は針葉樹林からサバンナに一変、 果てしなく続く地平線を眺めつつ、遥か彼方に臨むは雪を被ったロッキー山脈のその壮大な姿なり。ここモンタナ州に突入するや、私と津山さんは、ひたすらZappaの「Montana」のサビを鼻歌で歌い続ける。何しろそれ以外全くする事が見当たらぬ程、退屈な事この上なし。昨夜徹夜したにも関わらず、睡魔が全く襲って来ず、ただ延々と空の雲を眺める。雲は興味深い、何しろ同じ形を一時として留めぬ。私は雲を眺めている時のみ、何もかもから解放され、安堵した心持ちとなれる。途中、Taco John’sにてブリトーをオーダー、これをバラバラに分解し、サラダ用生野菜と合わせて頂けば、先日マクドにて食せし新製品Fiestaより遥かに美味にして、後はV8で更にビタミン補給。
車内にてうたた寝しておれば、もう既にロッキーに突入しており、されど道は広く傾斜やカーブさえも急でなければ、如何に日本の山道が大変かを思い知らされる。名阪国道の最難関箇所「渦潮バンク」へ130km/h以上にて突入する三重の暴走トラック「金波丸」ならば、ロッキーなんぞ目を瞑っても爆走し得るであろう。山々のシルエットに陽が沈み行くのを名残り惜しく臨みつつ、そのままいよいよ爆睡、されど車内の室温がかなり下がって来たのか、私でも寒いと感ずるや、Air Canada機内から失敬して来たブランケットを被るが、長袖Tシャツ1枚+麻のコートでは矢張り寒い…と思いつつも、徹夜明けの反動がここに来て到来、結局ホテルに着くまで爆睡。ずっと起きて山々を眺めていた津山さんの話では、Jonの運転は相当アグレッシヴだったようで、暴走するGrayhoundの長距離バスとサイド・バイ・サイドでかなりの間競っていたらしく、気分は殆どカーチェイスだったとか。

結局午前1時、予定通りSpokenなる街のホテルに到着。またしても車内で寝過ぎたか、されど明日はライヴもある故、今宵は何としても眠らねばならぬであろう。津山さんと私は禁煙室へ、残りの皆は喫煙室へ、Jonはお馴染みバンで就寝する様子。ここも無事にネット接続叶い、何とか仕事の続きなんぞやりつつ、洗面台の湯にて即席きつねうどんをを食す。出汁が関東風で真っ黒なれば、湯で薄め「味の素」で味を整え、そこへ葱を大量にぶち込めば、今宵もこれは大いに美味なり。午前3時半就寝。

6月1日(火)

午前4時半起床、このホテル安いだけあり、朝食のドーナツもコーヒーもない様子なれば、自室にてサラダ用生野菜にタバスコと「味の素」を振り掛け頂くや、これが結構いける。マヨネーズやドレッシングも使わぬ故、サッパリしており良い。そして殆ど主食と化しているV8を1本飲み、これにて朝飯終了。津山さんも何やら朝飯を食っては、されど再び就寝。ならばと私はのんびり入浴。東君らの部屋を訪れ喫煙、どうやら炊飯器で飯を炊いてる様子なれば、炊きあがる頃に再び訪れんと一旦自室へ戻れど、東君から内線電話にて飯炊きあがり候との事なれば、津山さん共々あちらの部屋へ赴き、皆でフリカケで飯を貪るや、矢張り日本人に生まれてよかったと実感する。
正午チェックアウト、一路Seattleへ向けドライヴ。相も変わらず続くサバンナ、延々と地平線を眺めるのみで、このランドスケープにも既に食傷気味なれど、時折興味深い雲やら地形やらを見掛ける故、ついつい窓の外を眺めるに終始する。
昼食は例によってバーガーキングにて、されどこのバーガーキング、マクドよりは遥かにマシなれば、一番安価なハンバーガーをオーダーした処で、トマトやレタス等の生野菜が挟まれているが、マクドのハンバーガーは御承知のようにピクルス2枚。フライドポテトにしても、まるで段ボールの切り屑のようなマクドの物に比べ、取り敢えずはじゃがいもの味がするバーガーキングに軍配。
腹が膨れれば眠くなるもので、車内にて爆睡。ふと目覚めれば、延々と続いていた筈のサバンナから一転、針葉樹林と高く聳え立つ山々、どうやらSeattleはもう目と鼻の先の様子。

午後4時、本日の会場Crocodile Cafeに到着。未だSubArachnoid Spaceも到着しておらねば、津山さんと「近所にレコード屋あったりして」なんぞと表に出るや、何と通りを挟んで斜向かいにいきなりレコード屋発見。実はここはパンク専門店なれど、私は私家盤的な南米ガレージのコンピLP2枚を購入、津山さんもカセットコーナーよりMC5やらZEPやら目敏く見つけた様子。兎に角暇さえあればレコード屋に行きたい我々の一念、ここにても見事通じたか。
暫くしてSubArachnoid Space一行が到着、今宵はKinskiのギタリストChrisにヘッドアンプを借りる手筈になっておれば、ChrisとLucyもやって来る。バーにてビールなんぞ飲みつつ再会を喜び歓談。私は、来たる8月のKinskiのアメリカ・ツアーに、諸事情で参加出来ぬもう1人のギタリストMatthewの代わりに参加する事となっており、その打ち合わせ等も済ませる。
サウンドチェックを手早く済ませ、夕食はこのクラブ内のレストランにてBBQバーガーをオーダー、「何かカレーの匂いがする」としきりに呟く津山さん、されどここのメニューにカレーなんぞなければ「Red Beans & Rice」なるケイジャン料理をオーダー、「もしめっちゃ不味かったらどないしょ。あかん、何か絶対失敗したような気ィする。(先に出て来た私のBBQバーガーを見て)ええなあ~、それ。あかん、絶対失敗したと思うわ。(隣のテーブルに座るはじめちゃんに)もし不味かったらはじめちゃんのと替えてもらお。(しかし実ははじめちゃんも『Red Beans & Rice』をオーダーしていたのであった!)」私のオーダーしたBBQバーガーは勿論当たり外れなく、至って「普通」にBBQバーガーであった。さて津山さんのオーダーした逸品「Red Beans & Rice」はと云えば、「あっ、これ塩かけたらカレーと思って充分食えるわ。旨いわ。」と一瞬で胃袋へ流し込まれて行ったのである。

今宵は、今回のツアー後半をサポートしてくれるPsychic Paramount(第84回「嗚呼、フランス…(前編)」を参照)も出演する運びになっているようで、このバンドとは2年前のヨーロッパ・ツアーにて共にフランスを巡った仲にして、ギタリストのDrewと彼の美人若妻Maryleneとは旧知の仲なれば、ここSeattleにて友人一同が一挙に会するなんぞ、なかなか愉しみではないか。されどどうやら渋滞に巻き込まれているとかで、彼等の開演時間である午後8時半を過ぎても現れる気配なし。KinskiのMatthewとBarrett、Sun City GirlsのAlanや、以前スイスのGeneveでのライヴの折、パスティスを持参してくれたJeromeらと再会、バーにて歓談。結局定刻通り9時半には、SubArachnoid Spaceの演奏が始まる。されどこの時点で客数は随分寂しい限りで、未だ無名の頃からここSeattleでは常に満員御礼の好成績を残しておれど、何やら今宵は嫌な予感が…特に今回のツアーは何処も広いクラブを満員御礼にして来た故、何故ここSeattleが…、まあもう少し夜も更ければ客も来るであろうと期待。

10時半、我々の演奏が始まるや、会場はほぼ満員、火曜日の夜と云うハンディを考慮すれば充分な入りであろう。KinskiのChrisのアンプは今までに何度も使っておれば、勝手知ったる筈なれど、どうにも今夜は音抜けが悪し。これはどうやらアンプのせいではなく、先日購入せしFender Mexicoのストラトキャスターに問題ありそうである。またステージ上の音が何とも気持ち悪い程クリアーにて、いつもの怒濤の音の壁の如きであらざれば、何とも気分が削がれる事この上なく、どうにも乗り切れぬ故に自ずから身を削らねばならぬライヴではあったが、斯様な事態にも関わらず大盛況にて終演、客席側の音は爆音で渾沌としていたらしく一安心。矢張り2日間もオフがあったせいか、身体が幾分重く感じられ、また切れも頗る悪かれど、明日から再びライヴを重ねれば、即調子も戻るであろう。兎にも角にもツアー中の長いオフ程要らぬものはなし。よく「凄いハードスケジュールですね!」と驚かれるが、毎晩ライヴを演っている方が、新陳代謝もよろしいようで体調も頗る良好、大体脳天気に観光旅行に来てる訳でもなければ、「アメリカでライヴやりました!」的な国内での箔付けを狙っての青春のメモリアルでもなし、単純に仕事である故、日々仕事に勤しむは当然の理なり。

終演後はKinskiのChris & Lucy宅へ。Lucyがピザを焼いてくれ、それを摘みつつビールを呷り歓談。矢張りツアーに於いて、知った顔に会うと何かしらホッとするもので、久しぶりに心身共に寛げる気分なり。御陰でネット接続なんぞも今宵は放棄、ゆっくり寝かせて頂く事とし、午前3時ソファベッドにて就寝。

(2004/6/14)

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