『人声天語』 第107回「旅姿4人衆ぶらりアメリカ彷徨記(Acid Mothers Temple US tour 04)」#8

6月7日(月)

朝8時起床、シャワーを浴び洗濯を済ませる。朝飯は、Nomiさんが冷蔵庫に入れてくれた昨日のエビ炒飯を、フライパンで温め直し食す。朝から津山さんはAmoeba Music Hollywood店へ繰り出す事のみで、頭がいっぱいの様子なれば、地図を出して所在の確認まで済ませている。Samを空港まで送り届けたJohnは、Bruce宅の所在を失念し、早朝よりバンにてこの界隈を彷徨っておれば、隣人から警察に不審車として通報される顛末となったとか。
腹が減っては戦は出来ぬとばかり、Amoeba Musicへレコード・ハンティングへ出陣するに当たり、東君の炊飯器にて御飯を炊き、昼飯としてふりかけ御飯にて腹ごしらえ。 午後1時、Johnの運転にて、私と津山さんと東君の3名は、いよいよAmoeba Music Hollywood店へ繰り出す。はじめちゃんはLA在住の知人と会食とかで、ならば今宵の会場であるKnitting Factory Hollywoodにて、午後5時に待ち合わせる事とす。

さてAmoeba Music Hollywood店へ到着するや、その膨大な在庫を前に大いに興奮しつつ、いよいよレコード・ハンティング開始。時間はたっぷりあると思えども、この在庫を総チェックしようと思えば、矢張り相当なスピードで見ていかねばならず、こうなればヤケクソ気味で片っ端から抜きまくる。店内にて時折津山さんと遭遇しては、お互いにいろいろ情報交換しつつも、抜いて来たしょうむないレコードを見せ合い爆笑するやら、掘り出し物自慢するやら。店内滞在時間4時間にして、全てのコーナーをチェックするまでには至らねど、津山さんは段ボール1ケース分のレコード約50枚とカセット約20本を購入、東君もAmoeba Musicの布製レコード袋に1袋分、私は2袋分の約50枚を購入。店内にて客やら店員やらに「昨日のショーは最高だった!」と矢鱈と声を掛けられるが、いやはやこれでは下手にしょうむないレコードを買う訳にはいかぬではないか。そもそも店に入りし瞬間から、入口カウンターに座する店員に「Acid Mothers Temple!!」と叫ばれては、恥ずかしい事この上なし。されど御陰で相当ディスカウントして貰えた故に良しとするか。

大いに充実せし午後なれば、さてKnitting Factory Hollywoodへ向かうが、未だ開いておらず、ではお土産でも買わんとHollywood blvdを散策。エロショップにて50cm砲ビッグバイブを見ては「こんなん誰が使うねん?」それにしてもアメリカのバイブは作りもリアルなれば、脈動する血管に至るまでリアルに再現され、黒人の赤黒い一物と白人の生白い一物は、各々作り分けられているが、単に使用用途からのみ考慮すれば、果たしてそこまで作り分ける必要があるのやら。それにしてもどのバイブも見事な大きさで、白人や黒人の一物は、勃起時でさえふにゃふにゃとは云われども、矢張りこの巨大さは圧巻なれば、因みに以前NYのエロショップにて、丁度自分のものと同じぐらいのバイブ発見、東君と「やっぱりこれぐらいのサイズもあるやん」と安堵するや、しかしそれは「For Annal」と書かれていた事からも、単に大きさに関しては到底太刀打ち出来ぬと云う事か。 こちらのエロショップは、そもそもこの観光地のド真ん中にある事からも、誰もが気軽に店内へ入って来ては、バイブやらセクシーランジェリーやらSMグッズやら性器の形をしたおもちゃやらを楽しげに品定めしており、あの日本の「おとなのおもちゃ」と怪しげに書かれた類いの店とは全く雰囲気が異なる。カップルでやって来ていろいろ品定めしているのを伺えば、今宵この界隈のホテルで早速試してみるのであろうし、どう見ても今や女性ではなくなっている初老の肥満女性観光客2人が何やら物色しておれば、きっと田舎で待っている旦那さんへ新たな刺激を与えんとの目論みか、兎に角斯様な店がこれ程開放的なる事、如何にもアメリカ的であり、至って好感も持てる。
チャイニーズ・シアターやらの名所が並ぶこのHollywood blvdならでは、偽者マイケル・ジャクソンやらバットマンやらスパイダーマンやらが出没しては、観光客との記念撮影に応じたりもしているが、丁度見掛けたバットマンとスパイダーマンが世間話している光景は、これこそ「ハリウッド!」

さてKnitting Factory Hollywoodへ戻れば、SubArachnoid Spaceも到着しており、早速サウンドチェック。何とクーラーが故障中とかで、館内はどこもかしこも滅法暑く、セッティングするだけで滝のように汗が滴り落ちる有様なれば、今宵のライヴは灼熱地獄と化する事間違いなかろう。Amoeba Music Height店に勤務するDiegoより、Amoeba Musicロゴ入りパーカーを贈呈された津山さんは、何しろ先日ひとりだけAmoeba Music Tシャツやらを貰えず相当悔しがっておられた故、 子供のように嬉しそうにて御機嫌なり。
夕飯は近くのダイナーにてハンバーガーを食すが、可もなく不可もなくと云った処。クラブへ戻れば、前座の前座としてガキのローカルバンドが酷い演奏を繰り広げており、津山さんは「しょうもないヤツに演奏させんな!」と憤慨、況してやクーラーの故障で地獄の暑さなれば、怒りに拍車も掛かろうと云うもの。赤ワインを呷っておれば、どうやらこの暑さで暑気あたりを起こしたか、私は突如猛烈な不快感に苛まされ、楽屋のソファーにて横になればそのまま爆睡。起こされた時にはSubArachnoid Spaceの演奏も既に終了しており、されど状況が全く把握出来ておらぬ私は、これからSubArachnoid Spaceの演奏が始まるものと思い込み、結局3度も起こされる羽目となった。

ステージ上は異常な暑さなれば、どうやら客席も含め完全に灼熱地獄と化し、この状態で演奏せよとは何とも酷な話。3つもホールがある立派なクラブなんやったら、クーラーぐらい修理せえよな、ボケがぁ!あまりの暑さで朦朧としていた為、ライヴに関する記憶殆ど無ければ、何はともあれ月曜の夜にも関わらず、この大ホールがほぼ埋まる程の入りなれば、大いに盛り上がれど、暑過ぎて体力の消耗至って激しく、流石にアンコールは勘弁して頂いた。終演後に店のスタッフからウォッカを御馳走になれば、漸くここで覚醒したような感覚となる。

Bruce宅へ、今宵はSubArachnoid Space共々投宿。今宵はBruceがラーメンを振舞ってくれるとかで、何と具はブロッコリーなれど、これが意外にもなかなかイケる。例によって津山さんはおかわり、鍋の最後まで綺麗に浚えている。SubArachnoid Spaceを始め、どうもこちらに在住の方々は、夜食を食べぬ様子なれば、ただビールを呷るのみ。夕飯は我々と同じものを同じ時刻に食しておれば、何故空腹にならぬのか不思議で仕方なし。あれ程の巨漢なれば、さぞや多く食べるのであろうと思えども、実際食す量たるや然程でもなく、ならば一体何をもってあそこまで巨大化してしまったのやら。チーズバーガーとフライドチキンとコーラで太ると聞いた事あるが、多分そんな処であろう。今の日本の若年層もこれと対して変わらぬ食生活なれば、いずれ斯様に巨大化する事は明らかであろう、くわばら、くわばら…。
今宵も焼酎片手に、皆で玄関ポーチにて歓談。ここは夜中でも小鳥がさえずっておれば、何とも不思議にして、Bruce曰く「大きな梟も時折見掛ける」とか。子供の頃、日頃遊びし神社にて夕暮れ時になれば、梟の声は聞いておれど、未だ野生の梟の姿を見た事ない故、ここは是非お目に掛かりたいと思えども、残念ながら叶わず。結局またしても明け方まで裏庭のガーデンセットにてBruceと話し込み、朝5時就寝。

6月8日(火)

朝8時起床、昨朝の御飯の残りで、Bruce作のカレーの残りを頂く。良い天気なれば、皆でコーヒー片手に玄関ポーチにて集う。この2週間を共にして来たSubArachnoid Spaceとも、今宵のSan Diegoにてお別れなれば、少々寂しい心持ちともなる。
昼食にラーメンを作り食す。Bruceは、最近録音したと云う彼のソロ作品(未だラフミックスだと云ってはいたが)を我々に渡そうと、CDRを焼いては何やらジャケットを製作中。BruceはMaquiladoraの中に於いて、最も現代音楽等にも精通しており、以前からハルモニウムとスライドギターによるソロ作品等を、極私的に録音しており、とても興味深く思っていた処。

午後2時、San Diegoへ向け、SubArachnoid Space一行と共に出発。Bruceも今宵San Diegoに来るとかで、ならば束の間のお別れ。途中、一昨夜のパフォーマンスにて壊れた東君のギターのジャック部分を修理してくれるとかで、SubArachnoid Spaceの友人宅へ立ち寄る。この御仁の手により一瞬にて修理完了、ツアー中に機材トラブルは付き物なれば、斯様にその土地土地に修理なんぞ依頼出来る御仁が居られれば、如何に心丈夫な事か。それにしても自分達の機材のみでなく、我々の機材にも常に配慮してくれるSubarachnoid Spaceの配慮、誠に有り難し。

午後5時、今宵の会場Casbahに到着。早々にサウンドチェックを済ませ、MaquiladoraのメンバーPhilとEricの案内にてメキシコ料理屋へ。私と東君は、コロナビールと激辛エビ料理をオーダー、辛いもの好きなれど時折痛い目に遇う津山さんは、ここは一先ず警戒しエビのガーリックソテーをオーダー。激辛には全く平気な私は美味しく頂けど、案の定東君はその激辛度に見事轟沈。津山さん曰く「頼まんでよかった…。」
会場に戻れば、クラブの奥にあるプールバーにもバンドがセッティングしており、何でも幕間はこちらで演奏があるとか。御陰でビリヤード台が使えぬ為、津山さんと東君はすっかりお冠、「しょうもないバンドは演らんでええんじゃあ!」されどこのバンド、果たして本当にしょうもないかどうか、何せここは5年前にMaquiladoraと出会いし記念すべき場所でもあるのだ。
更に今日はメインステージに於いても前座として地元のバンド「Earthless」がブッキングされている。ここCasbahの月間予定を眺めておれば、珍妙なバンド名が目白押しにして、津山さん曰く「ここはBearsか?」何しろ「Gasoline Please」を筆頭に以下「Kill Me Tomorrow」「Quintron & Ms. Pussycat」「S’cool Girls」「Big Business」「The Business Lady」「The Long Winters」「Bedroom walls」「The Red Onions」等と続く。
BruceやPhilの奥さんであるユウコさんもやって来てビール片手に歓談。津山さんは世界中何処に行こうが、斯様なパフォーマンスを披露、皆の爆笑を誘う。

 

午後9時、Earthlessの演奏が始める頃には、既にかなりの混雑状態にして、ギタートリオ編成の彼等のサウンドは、まるでAsh Ra Tempelの「Join In」に酷似したフリークアウト・ジャムなれば、1ステージ1曲と云う構成のEarthlessのステージは、流石に途中からマンネリ気味にして退屈さは否めぬが、客の反応もなかなか良く、今宵は面白くなりそうな予感。
さてEarthless終演と同時に、プールバーにて別のバンドの演奏が始まる。オープンリール・デッキ2台を併用したテープエコーを駆使する発振器担当のメンバーを始め、ボーカル&ギター、ベース、ドラムに加え、鈴を振るだけの女性メンバーを含む5人編成なれど、中心には誰も使わぬマイクが立てられている。冒頭は何とも切ないアシッド・フォークから始まり、その刹那さと稚拙さが大いに興味を引く。されど問題はここからで、約3分のボーカル部分が終了するや、いきなりそこからドローンへと展開。ドラマーはシンバルを弓弾きするは、ギタリストはアンプ前にしゃがみ込みフィードバックに徹し、ベーシストはエフェクトを駆使して重低音のノイズを発信、勿論発振器担当のメンバーはここからが真骨頂と、2台のデッキに跨がるテープを手でもって回転数を調整しつつ、宇宙音を構成していく。そして鈴担当の女性メンバーは、ただひたすら淡々と鈴を振るのみ。こうなると延々と果てしなく続くのが当然の理なれば、メインステージにてSubArachnoid Spaceの演奏が始まろうがお構いなしの雰囲気。漸くメンバーにもメインステージでの演奏の音が聴こえたのか、ここで何の躊躇も無く突如の終演、なんとまあ潔い事か。このグループのあまりの切なさに思わず感銘を受けた私は、メンバーに話し掛ける。彼等のバンド名は、何とも彼等を象徴したかのような「Castanets」その朴訥としたネーミングセンスに思わず脱帽。どうやら本来はもう1人女性ボーカリストがいるらしいが、今日が彼女の誕生日だったらしく、誕生日パーティーがあるとかで欠席とか。しかし万が一彼女が来ても良いようにと、マイクをセットアップしてあったらしい。何と云う素晴らしいエピソード!いろいろ録音作品はあるそうなので、先ずはそれらを送って頂く事にする。是非ともいずれAMTレーベルより作品をリリースしたい処。得てして素晴らしいバンドとの出会いは斯様なものであり、デモCDRやらリリース作品やらを矢鱈と寄越して来るような中には、ロクなバンドがいた試しもなく、そもそも斯様な売り込み手段に出ざるを得ぬ心持ち自体、既に「駄目バンド」の烙印を自ら押しているようなものである。素晴らしい音楽との出会いとは、不思議と「縁」のようなものであり、私が今までAMTレーベルよりリリースして来たMaquiladora、Fur Saxa、Frederic、そして年内にはリリースする予定のあふりらんぽ等、どれも私の方からコンタクトしたと云う経緯なれば、ツアーに於いて毎日阿呆程受け取るデモCDRや作品等、内容に先ずは期待出来ぬのも当然なれば、況してや自宅に山のように送られて来るデモCDRなんぞ、全て駄目元で一度は聴いてはみるが、到底問題外である事は云うまでもなし。

SubArachnoid Spaceの演奏も終わり、我々の出番ともなれば、会場は喫煙エリアである中庭まで満員御礼。2時間を越えるフルセットを演奏、今宵も大いに盛り上がる。
終演後、Erthlessのギタリストにサインをせがまれ、彼の高そうなギターにサインするが、何となく「ホンマにええんかいな?」と云う心持ち。Seattleからここまで毎日追い掛けててくれた中国系男性の姿を今宵も見掛けるや、斯様な熱狂的ファンの存在、至って有り難し。またここ最近は、プロフェッショナルな録音機材を携行するマニアも増加の一途を辿り、客席内にてGrateful Deadのライヴ会場で見掛けるようなスタンドに設置された高性能ステレオマイクやらバイノーラルマイク等もあちこちに見受けられる。
さて帰り際、AMTファンでCDも所持すると云うこの店のセキュリティーに、津山さんは果敢にもWWE宜しくポーズ対決を挑むが、流石はアメリカでセキュリティーを勤める程の輩なれば、AMTが誇る怪力山男こと津山篤をもってしても、これなる筋肉の差にては完敗を認めざるを得ぬか。

今宵はPhilの新居へ投宿。SubArachnoid Space一行も僅か2ブロック離れた処に投宿するとかで、最後の夜ともなれば一緒に飲もうとやって来る。ユウコさんから、毎度のようにカレーライスを作ってのおもてなしをして頂ければ、我々一同貪り食うは必定なれど、風邪が悪化して来た東君は少々口に運ぶのみで就寝。はじめちゃんも流石にお疲れの様子で即寝成仏。Maquiladoraの3名とSubarachnoid Spaceの4名と共に、ここも室内禁煙なれば玄関ポーチにて、Bruceが昨夜飲み残した焼酎ボトルを持参してくれた故、皆で焼酎やらビールやらを片手に歓談。さていよいよ夜も更け、いよいよSubarachnoid Spaceともお別れと相成る。MelyndaとドラマーのChrisは、私にSan Franciscoに引っ越して来いと云うが、家賃の馬鹿高いSan Franciscoになんぞ到底引っ越せぬと答えれば、MelyndaとギタリストChris達の住む部屋のキッチンはどうかとまで云い出す始末。挙げ句、見掛けによらずMelyndaは料理が上手い等と云い出すや、一体何の料理が得意かと訊ねれば、スクランブルエッグとマッシュポテトとは、嘗てエスニック料理店等にてシェフを務めていた私に云わせれば「片腹痛いわ!」勘弁してくれよな。
結局Maquiladoraの3名と性懲りもなく明け方まで飲み明かし、午前5時に2階1フロアに広がる録音スタジオにて就寝。

(2004/6/19)

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