『人声天語』 第131回「Vinyl Junkies、アメリカを行く(AMT & TMP U.F.O.全米ツアー 2006)」

さてAcid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.の4週間に渡る全米ツアーは、昨年もツアードライバーを務めしJustin Watersが、今年も2年連続でその重責を務める。昨年はワークビザ発給遅れの一件で、ツアー序盤10発をキャンセルせざるを得ず、彼は一体いつ何処で我々と合流出来るか全く何の確約もない中、AtlantaからWashington DCへ、そしてNew YorkやChicagoを経由し、更にはロッキー山脈を越え、合流地点となりしSeattleまで、たった独りでアメリカ半周を走破せし男。彼のツアードライバーとしての働きは素晴らしく、またツアーマネージャーとしての重責までも見事に果たしてくれる一方、タイトル多数故に複雑怪奇な精算方式を持つAMT Shopzoneの店番さえ見事に切り盛りする程。父親が画家故か、無名アーティストの手による一点物のTシャツやらジャケットをこよなく愛し、飽くなき好奇心と支離滅裂とも云えるグローバルなセンスにてレコードを漁る所謂vinyl junkyでもある。無類の動物好きにして、元ベジタリアンなれど「鶏が嫌いだから」と云う理由で「この世から鶏を抹殺する」意味を込め、常にチキンサンドウィッチを食らい、私からすれば「どうせ薄いんやから大して変わらんやろ」と思うアメリカンコーヒーの味に一際の拘りを持つ真のアメリカンコーヒー通、地元Atlantaではかなりの人気者にして顔も広く、またノイズミュージシャンでもありレーベルオーナーでもある。

さてそのJustin、格安のレンタバンを見つけてくれれば、いきなりツアーの幕開け前から殊勲賞ものなり。常に我々の一挙手一投足に興味あるらしく、また我々に見習うべき事を見つけるや早速実行する切れ者にして、安穏にして享楽的な一般的アメリカ人像とは確実に一線を画する。また西洋人には珍しく恐ろしい程に時間厳守、されど早過ぎず遅過ぎず、無駄に時間を浪費する事なく、のんびりし得る時はのんびりすると云う余裕さえ、実は彼の計算の上か。御蔭でこちとら全て彼に一任しておれば、道中にて焦る事なんぞ皆無、また無駄に早く着き過ぎ時間を持て余す事もなく、時間に余裕あれば兎に角レコード屋を探しては、我々をレコード屋へ誘う曲者なり。

そもそもツアーに於いてレコード漁りを至上の悦びとしておられるvinyl junky津山さんなんぞ、ツアー前に私がJustinの話をするや「何ぃ!レコード好きな奴か!そらええやん!最高のドライバーちゃうか!」と大歓迎な風であれば、ツアー開始当初は「Justin, go to record shop?」なんぞと唆しておられし。津山さんは兎に角朝のコーヒーブレイクでさえ「俺はコーヒーなんか飲まへん!嫌いやねん。そんな金あったらレコード買うわ。大体コーヒー飲んで皆で喋って何がおもろいねん!俺なんか誰とも話したないわ!それより早よレコード屋行こうや!ホンマ時間勿体ないやんけ!」と猛烈に我侭な子供の如く苛々しておられるが常か。何しろレコード屋に着くや否や、我れ先とばかり真っ先に店内へ飛び込み、ブツブツ独り言呟きつつレコードを漁りておられれば、Justinはその様子がどうにも可笑しいらしく、レコード屋に消える津山さんの後姿を毎度指差し苦笑する。されど確かに気がつけば、私も結構独り言で「おおっ!これはぁああああ!」「あれ?これ持ってたかいな?」「ぐげぇえええ~っ!こんなん出てたんや!」「なんじゃこりゃ?えっ?ホンマ?(内場風に)ぃぃぃぃいいいいいいいいいいい!!!!????」なんぞと呟いておる次第にて到底他人の事を笑えず。

レコード屋へ赴く際、必ず事前にトイレにて用を済ませておかねば、時折大層危機的状況に陥る危険性あり。何しろ日本にて突然トイレに行かねばならぬ危機的状況に於いては、パチンコ屋やコンビニ等で容易に用を足す事叶えども、防犯上の問題により、喫茶店やレストランでさえトイレに立つ際には、店員よりわざわざ鍵を貰わねばならぬ場合さえあるアメリカである、況してやレコード屋にてトイレを借りるなんぞ余程の場合に限られ、また一歩店外へ出たからと云って、容易にトイレに辿り着けるとも限らぬ。唯一手軽にトイレを使える場所と云えばファーストフード店なれど、これまたレコード屋の近くにあるとは限らず、何をおいてもレコード屋へ赴くにあたり、なるべく直前の食事は避け予めトイレには行っておくべし、斯様な盤石の態勢にて臨むが然るべきなり。万年下痢気味の東君なんぞ、毎度便意を催し中座しておれば、今一度レコード屋へ赴く心構えしかと肝に銘ずるべきか。

されど我々のツアーに於けるその日毎のスケジュールは、決定権こそ我々にあれど、全てJustinによって計画されておれば、いつ何処で食事をし、どのタイミングにてレコード屋へ赴くのか、実は全く予想出来ぬが実状。アメリカ人に限らず西洋人全般に云える事は、意外にも小食にして燃費も非常に良いと云う事か。何しろハンバーガーやサンドウィッチ1個で半日は十分に保つ様子なれば、矢鱈と燃費悪く更に大食らいの趣ある我々日本男児は、彼等と同じペースにて同量を食しておれば、ものの2~3時間も経つや「あかん、腹減ったぁ~!」と泣き言をホザかねばならぬ憂き目を見るが常。況してや昼食にと購入せしサンドウィッチを2つに分け、残り半分を運転しつつ夕飯として食らうJustinなれば、そう易々と食事休憩なんぞ構える筈もなく、御蔭で我々は常に彼の一挙手一投足を見入っては「おっ!Justinここで飯買いよるな!ほなら俺等も飯買わな!」「あれ?未だ飯買いよれへんなぁ…って事はこの後どっかで飯食うつもりやろか?」等と、毎度あれこれ観察推理しては、こちらも食事のタイミングを計れども、時にはその推理が全くの大外れ、大いに腹を空かせ車内にて苦悶せし事も一度や二度ならず。
食事のタイミングが判らぬとは、即ちレコード屋へ赴くにあたり盤石の態勢を構えようにも大いに困難にして、飯を食い終わるやレコード屋へ赴きし事も少なからず、時としては自らの精神を無我の境地へと誘い、トイレへ行かんとする本能として避け難き欲求が誘う肉体的苦痛さえも忘我の果てへと追いやらねばならず、何とレコードを買うにあたり恐るべき精神鍛錬さえも課せられる有様。その肉体的苦痛さえも忘れ去る程に、レコード漁りに執心すればこそ、遂にはその苦痛を乗り越え、恍惚とせし境地に辿り着ければ、況してや格別の掘出し物なんぞ見つけ得るや、噴出せし脳汁によって齎される至福感語らずもがな。

我々は毎度全米ツアーに於いて、初日こそサウンドチェックを行えど、残りの日程に於いてはサウンドチェックを行わぬ故、ライヴ会場への到着は、開場前に到着すれば充分にして、通常ならばサウンドチェックに要するべき時間は、当然レコード屋巡りに充てられる。
そもそも全米ツアーに於いては、必ず全日程を共にするサポートバンドを抱えており、毎夜彼等の機材を借り受けて演奏しておれば、その機材特性を知る上でも初日のサウンドチェックは必要なれど、それ以上は必要なし。ワンマンならばいざ知らず、サポートバンドがいると云う事は、即ちサウンドチェック後にステージから機材を一旦撤収せねばならず、斯様に七面倒臭い愚行なんぞやっておられぬ。サポートバンドの機材故、機材トラブルが発生しようが、彼等が常に修理等のフォローを行ってくれれば、こちらが見知らぬ街にて楽器屋を探し修理せねばならぬと云う事もなく、心置きなくレコード屋を巡り得ると云うものか。因みに今回のツアーにて、私はTwin ReverbとMarshallの2台のアンプを使用、されどいきなり初日のサウンドチェックにてTwin Reverbが御昇天、翌日には何とか修理し得えれど、今度はMarshallヘッドがツアー中盤で見事御昇天、運良くMaquiladoraのEricの従兄弟がアンプマニアとかで、彼から新たにMarshallヘッドを借り受け何とかツアー最後まで凌ぎ切りし。一方津山さんは、初日のライヴでベースアンプのスピーカーが御陀仏、更にはヘッドアンプも見事御陀仏となり、急遽新たにAmpegのヘッドとキャビネットを用意して貰えども、そのヘッドとキャビネット共に再び御陀仏御昇天、ヘッドは修理されれどキャビネットは更に新しいものを用意して頂き、何とかツアー終了。毎度の事ではあれど、2人して一体何台のアンプを潰せばよいのか。サポートバンドのThe Antracticansはさぞや大変でありしとは思えども、そもそも軟弱なアンプ群に問題ありしか。アンプは普段から大きな音で鳴らして鍛えておきましょうね。今回もアンプのみならず、ファズが壊れ修理に奔走、更にはトランスが漏電気味にして危険極まりなく、されどガムテープにて応急処置、またツアー終盤にてトレモロアームとペグも壊れ、何とか自前で応急処置を施せど、まあ機材は例によってボロボロ状態。これもツアーのお約束なれば致し方なし。そもそも機材修理の為の時間と金を惜しんでまでレコード屋を巡る我々なれば、これは既に本末転倒、ワシら一体何しにアメリカへ来たんやったっけ。大量にレコードを購入し散財せし日は、Shopzone社長津山さんの鶴の一声「よっしゃ!ほならCD売り撒くって損失補填や!」

購入せしレコード群を、退屈至極たる移動中の車内で眺むる刹那こそ、一層の至福感に満たされる刹那なり。お気に入りミュージシャンのオリジナル盤どころか各国盤やら果てはDJ用プロモ盤に至るまでのコレクターたる津山さんに於いては、盤面レーベルを眺めてはその蘊蓄を語り、終始ご機嫌にして「めっちゃ嬉しいわ!やっと見つけたで!でも俺な、このアルバムもう6枚目やねん!イギリスのオリジナルやろ、2ndプレス盤やろ、アメ盤やろ、ドイツ盤やろ、日本盤やろ、ほんでこのDJ用プロモ盤や!アホやろ!」まさしくアホである。されどそれはそれ程までにそのレコードを愛し、その音楽を愛する証でもあり、そもそも他人の趣味や嗜好なればこそ、他人の私が口を挟む道理もなし。食べ物に関しても「食うた事ないもんは嫌いやねん」と断言する程に保守派たる津山さんは、レコード漁りについても保守派であり、未聴の怪しげなる1枚よりも、嘗て聴き知る1枚を買う事の方が遥かに多し。それは勿論あれ程音楽に精通する御仁なればこそであろうが、いよいよ「60年代から74年ぐらいまでのロックのレコードは全部買う!」と宣いておられれど、満更夢物語にて終わらざるやもしれぬ買いっぷりにして、その頑固とも云えるロック番長ぶり、大いに感服仕る次第。
対して私は飽くなき好奇心故に、未聴の胡散臭気な1枚を購入する事こそ至上の悦びなり。御蔭で時折大外れを引く事もあれど、それもまたレコード漁りの醍醐味たるもの。内容を知りて買うのみでは何ともつまらぬ、レコード漁りは当たるも八卦当たらぬも八卦、私にとっては即ち博打なり。果たしてこのイカしたジャケットのレコードには一体如何に素敵な音楽が詰まっているのか!斯様に奇妙な楽器編成なればこそ、きっととんでもなく奇妙奇天烈な音楽が詰まっているに違いない!年代やらレーベルも参考にはするが、矢張りジャケットアートや楽器編成、果てはそのミュージシャンの面構えのみにて、全く存ぜぬ1枚を購入する悦びこそ、レコード漁りを止められぬ所以であろう。されど時折あまりにイカれたジャケットやらに痺れ、脳汁が一気に噴出しては、既に冷静な判断能力さえ失い、とんでもない代物を買わされる羽目にもなれど、まあ大外れを引いた処で博打の負けと同じなれば、未だ聴かぬ隠れた名盤珍盤を求め続ける為にも、斯様な失敗に懲りる筈もなし。

さてJustinなれば、彼の守備範囲も大いに広く、民族音楽からジャズ、カントリー、ムード音楽、アヴァンギャルド、ロックも古いものからパンクも含め最近の作品まで、果てはHIP HOPもとその趣味は多岐に渡り、彼の趣味嗜好傾向全く理解出来ず。何処ぞのレコード屋にて、彼にセクシーな水着女性ジャケットのムード音楽のレコードを見せるや「これはダメ!ちゃんと裸の女性でなきゃ!」一体お前は何に拘ってるねん?兎に角店内に入るや真っ先に向かうは「International」コーナーにして、これは私の順路と重複しておれば、隣り合いてレコードを物色しつつ「これ買う?」なんぞ興味深気な代物を見せ合いて、お互い牽制し合いつつも、その実は心中にて大いに火花を散らせし。
因みに津山さんは大抵「Rock」コーナーから、東君は「Folk」コーナーから入るが常か。
日本でも有数のトラッドマニアとして知られる津山さんにしてみれば、津山さんの探すトラッドの逸品を、我々は知る筈なき故に、当然抜き出す事なんぞあろう筈なしと思っておられるようなれど、長きに渡りお互い得意ジャンルの名盤なんぞ推薦し合っておれば、時折その思惑大いに外れる事ある様子にして「えっ!これあったん!何ぃいいいい!ええもん抜いてるやん!」と悔しがる姿も見受けられる。私にした処で同様、東君が古楽コーナーからギョッとさせられる逸品を抜いておれば「しもた…先に古楽コーナー見とくんやった…」斯くも後悔する事あり。今や同じバンド内にてライバル多ければ、御蔭で気を抜く暇もなく、よりハイスピードにてレコードを探さんとする故、遂には指先の皮も摩滅してくる始末。先ずはどのコーナーから攻めるべきか、入店と同時に店内を見渡し作戦を立てる事こそ命題か。

大抵1ヶ月間のツアーであれば、私は平均150枚から200枚程を購入するのが常なれど、今回はJustinのナビゲーションの御蔭か、ツアー前半終了前にして150枚を突破、これはどう考えても新記録樹立ペースなり。ツアーに於いて勘定奉行を務める津山さん曰く「200枚越えたらレコードボーナスとして$20出すわ!」世界中の何処のバンドが、レコードにて散財するメンバーに特別ボーナスを支給すると云うのか。数日後、当然の如くその$20を有り難く頂戴せし私に、再び津山さん曰く「300枚の大台越えたらレコードボーナス$30出すで!」流石に300枚は無理であろうと思っておれど、ツアー後半にえげつないレコード屋が続出、御蔭で大散財する羽目となり、気がつけば300枚の大台も突破、見事$30も頂戴せし次第。「400枚越えたらレコードボーナス$40出すで!」もう勘弁して下さい。そもそも一体どないやって持って帰るねん?って訳で、結果的には船便で1箱、航空便で3箱を送らねばならぬ羽目となり、その送料締めて約$500也。結局津山さんも250枚を優に越え、自らもボーナスを獲得、東君も150枚を越えボーナス$10を獲得せし。
津山さんは200枚ボーナスを目前に控えし折、自分用のレコード箱や鞄に仕切とレコードを詰めてみては、帰国時の荷物をシュミレーションしておられ「あと24枚は買えるな…まだ24枚分余裕あるわ…。$1のレコード24枚買うて$20ボーナス貰たら$4しか使うた事にならへんしな…あっ、でも買わへんかったら何も損せえへんねやなあ…。もし24枚以上買うてもうたらもう手では全部持って帰られへんな…もう1箱送らなあかんようになるなあ…。」等と不毛なる独り言を繰り返しておられし。結局24枚どころか、ツアー後半のえげつない店連発にて「もうレベル2に突入や!ええい、ままよ!」と完全解禁状態、もう1箱発送せしは当然の下りなり。
東君は今回リイシューLP等の比較的高価なレコードを多く買っておれば、枚数こそ150枚程度なれど、その消費金額は相当額に及びしと想像し得る。前回送料をケチり80枚程のレコード全部をその手で持参して帰り、散々そのレコードの重さに泣かされたにも関わらず、今回も最後まで「やっぱり送るのやめて手で持って帰ろうかな」なんぞと戯言をホザいておられる故、前回同様「レコードを嘗めるなかれ!」と一蹴、結局1箱発送させてみれば、帰国前日の荷造りの際、彼曰く「送っといてよかったよ、全部手で持って帰るなんて到底無理やったな…レコードって重いねえ。」
一方Justinは「お金がないから安いレコードしか買えない」と云いつつも、全ての店にて確実に買い続けており、また入り口付近に「どうぞご自由にお持ち下さい」と書かれ置かれている無料レコード群より、Fleetwood Macから果てはG.Deadまで目敏く抜いておれば、津山さんを以てしても「徒者ちゃうなあ!やりよんなぁ…」と感心させる程にして、ふと気がつけば既に相当量のレコードを入手済み。民族音楽の品揃えが素晴らしい店にて「嗚呼!欲しいレコードが迷わず買えるような金持ちになりたい!」と、ボヤいておれば、矢張りこの男もアホである事に間違いなし。斯くなれば男津山さん「Justin、特別にレコードボーナスやるから、これでレコード買え!その代わりレコード以外にこの金使うたらあかんで!」と$60をポンと差し出せば、これには流石のJustinも一瞬唖然、大いに喜び早速お気に入りのパンクバンドのレコード等にて消却せし様子。
御蔭で我々のバンの荷台には、レコード箱が壮観に並び、これではまるでレコード屋の出張セールの如し。既にレコードの総重量が機材の総重量さえ越える様にて、後輪には大いに負担掛かりしか、何と空気圧調整をマメにやらねばならぬ始末。Chicagoにてスペアタイア盗難の憂き目に遭っておれば、バーストだけは是が非でも回避したき処。

流石にツアー後半となり、もうレコード漁りも充分満喫、そろそろ帰国後の財政状況も考慮すれば、借金返済やら家賃の支払い等もある故、散財も程々にせねばと自重気分も高まってくれど、Justinが斯様なこちらの都合知る筈もなく、兎に角各地の友人知人に電話やらメールにてレコード屋の所在を問い合わせ、これでもかとばかり我々をレコード屋へ案内すれば、こちらも「ならば奥義で応えよう」とばかりに手を抜く事なく買い捲るしか術もなし。ツアー後半は北東部なれば、移動距離も随分と短くなり、即ち連日レコード屋を巡る時間はたっぷりあると云う事で、我々の優秀なるドライバーJustinは、1軒目のレコード屋にて「何処か他にレコード屋はないのか?」と尋ねては、すっかりレコード屋数珠繋ぎ状態と化し、その責め手を緩める事なし。特にツアー最後の3日間を飾りしPortland、Cambridge、 Brooklynの3都市にて、げに恐ろしきレコード屋を連発すれば、ここで最後の大出血散財、この3日間にて私は一気に60枚以上購入する羽目となり、最終的な荷造りのビジョンも大きく変更せざるを得なくなり、全く以て嬉しさ半分悲しさ半分、我々3名は既にJustinの事を「あのお方」と呼称するに至り、いやはや恐るべきは彼の真面目な仕事ぶりか、それとも彼のレコード馬鹿ぶりか。さりとてこちらも「もうレコード屋は勘弁してくれ!」と嘆願するは、我々のVinyl Junkyとしての尊厳と意地が許さず、最後の店に至っては「お願いやからもう何も見つからんどいてくれぇ!」と、心中で手を合わせれど、皮肉にも今回のツアー中でも屈指のえげつない店なれば、買い控えようにも我が哀しき性がそれを許さじ。

結局32日間のツアーにて29本のライヴをこなし32軒のレコード屋を巡りし。私はLP392枚、EP1枚、CD5枚、DVD10枚を購入、我ながら呆れる事頻り。こんなに買うて一体いつ聴くねん。以前より「勿論レコードは聴くけど、何よりもレコード買いたいねん!」と公言して憚らぬ津山さんなれど、流石に今回は「そのうちレコード見るだけでええようになるんちゃうか?見ただけでもう満足して何も買わずに帰るとかな…。」との極論にまで至りし様子。
そもそもレコードを買うと云う行為は、我々の脳汁を大いに分泌させる様子にして、故に一種のトリップ状態を誘発し、あの恍惚感さえ味わえるのであろうが、逆に消費されるエネルギーも半端ではない様子なればこそ、いざレコードを抱え店を後にするや、その恍惚感の余韻とクロスフェードして、射精後の如き虚脱感やら疲労感が誘われる。ならば結局レコード漁りとはオナニーか。成る程飽くまでも自己完結型快感の追求であり、それ故に無性に耽るのであろう。況してやVinyl Junkyたる我々に至っては、云うなればオナニーを止める理性さえ持ち合わせぬ猿と同類か。大いに猿で結構、ろくにレコードも買わぬ詰まらぬ人間よりも、レコードを買い好きなレコードに囲まれる猿の方が幸せなり。そもそもレコードも買わぬは音楽も聴かぬはと云う自称ミュージシャンなんぞ、到底信用出来ぬは当然にして、音楽演るなら先ずは何としてでも音楽を知れ。
それにしてもレコードを漁るのみで脳内麻薬が分泌されトリップし得るとは、これまた何とも一石二鳥。葉っぱや何やらその類いに耽り、是れ若気の至り也と笑っておれる間は救いもあるが、四十路を越えて斯様にガキの如くいちびっておれば、いずれ人生ヤキも回ろうと云うものにして、歳相応の愉しみ方を見据えねばならぬ。レコード屋さえあればいつでも何処でも恍惚感を感じられるとは、鏡があれば常に変身可能なミラーマンの如し、水があれば変身可能なアイアンキングの如し、何とも人体の仕組みとは摩訶不思議にして都合良きもの、これを利用せぬ手はあるまいて。これぞvinyl junkyと呼ばれる所以か。
されどレコード貧乏聴く暇なし。矢張りアホである事にかわりなし。

さて最後に今回のツアーにて巡りしレコード屋について。店名は敢えてここでは明かさぬが(そもそも全店の店名なんぞ覚えている筈もなし)判る人には当然判る筈。後悔されるは何故各レコード屋の写真を撮影しておかなかったのか。否、そもそもまさか斯様に多くのレコード屋を巡るなんぞツアー開始時には想像だにしておらねば、それもまた仕方なしか。

(1) Philadelphia:前回、前々回のライヴ会場内に出張出店せし、Bardo Pondの友人が経営するレコード屋。ロック中心なれどジャズやソウルの在庫も侮れず、かなり安価でオリジナル盤多し。
(2)Atlanta:Justinの地元Atlantaなれば、全ジャンル網羅の圧巻な在庫状況は、流石彼のお_めの1軒と云った処。勿論全て安価なり。
(3)New Orleans:レア盤専門店なればかなり高価。サイケに限らず60’s&70’sロック全般、フォーク、ジャズ、現代音楽、ラウンジ系等、品揃えと在庫量は相当に豊富。倉庫には更なるストックもあるとかで、見せてくれようとすれど時間切れにて断念。2001年のツアー時に一度訪れておれば、昨年のカテリーナにて水没を危惧しておれど、無事水没は免れしとか。
(4)Austin:流石はテキサス、南部サウンドの山を前に思わず興奮。矢張りテキサスでは南部サウンドを買わずして何を買うと云った処か。ロックを中心に充実の品揃えなれど安価。
(5)Austin:こじんまりとはしておれど全ジャンル網羅の充実の内容、サントラや現代音楽等の掘出し物もあり。
(6)Austin:リサイクル屋の奥に構えられし店舗内店舗。表からは看板こそあれど、店舗を発見するは至極困難。ジャズやロックの充実度高けれど、何より民族音楽やFolkways等の貴重録音盤の在庫たるや恐るべし。またカスコーナーも膨大にして掘出し物多し。
(7)Kansas City:ライヴ会場に隣接しておれば、午後8時前の会場到着と同時に直行すれども、午後8時閉店と云う事で入店叶わず。僅か1分間のみ入店叶いしJustinと津山さんの話では、膨大なるカスLPコーナーとカセット群がありしとか。津山さん曰く「ワシら上客やねんから入れたらんけ!ホンマあの店の親爺アホやのう。ワシらがたっぷり金遣ったるのに!」
(8)Denver:云わずと知れた有名店。全ジャンル驚異の充実度、膨大なる在庫量にして安価。4chステレオ盤コーナーもあれば、地元のコロラド田舎フォーク自主盤まで取り揃えており、特にフォークとカントリーの充実度は超A級。これも田舎所以か。隣接するCDと新品LP専門店の方へは時間の都合上訪れた事なし。
(9)Salt Lake City:中古LPの在庫僅か、所謂CD中心の店。
(10)Salt Lake City:ロックとジャズが中心、充実の内容にして安価。店員によるLPクリーナーマシーンの実演販売もあり。確かに革新的マシーンにしてその驚異のパフォーマンスには大いに納得し得れども、$500は高価にして、そもそもこんなデカいもんどないやって持って帰るねん!
(11)Salt Lake City:こじんまりした店構えにて、各ジャンル少量ずつの在庫なれどその品揃えぶり侮れず。兎に角安価。隣接するカフェと店内で繋がっており、トイレにも困らず、またコーヒーブレイクも可。店主がGongのファンなれば私の事を存じており、大いに勉強して頂きし。
(12)Phenix:JustinがSalt Lake CityからLas Vegasへの移動中、このレコード屋にて働く友人に電話してまで立ち寄りし。ロックが70’s以降と60’sに分かれており、オリジナル盤多数なれど安価。Yoko Onoコーナーが「Oh NO! Yoko」と記されておれば思わず苦笑。Tシャツも販売しておれど、音楽関連のみならずCharles Bronson等もあり。(因みに昨年この店を訪れし際、兄ィはこのTシャツを購入。)
(13)Phenix:LPは新品のみなれば興味なし。単に「Do you know any good record shops?」と尋ね、親切な方々が「This is the great store!」と御教示下さる店とは、大抵この手の新品の新譜やリイシュー中心の店である事多し。俺等は安い中古レコード屋に行きたいねん!されどその手の店については彼等曰く「This is not good store… only bad records!」故に必ず「Do you know any cheap secondhand record shops?」と尋ねなければならぬ。
(14)Las Vegas:ロックは70年代後期以降のカス多し。されどイージーリスニングや、民族音楽、サントラは大量にして充実、何しろ殆ど1枚$1也。
(15)Los Angels:泣く子も黙る超有名店のLA店。全ジャンルとてつもない在庫量なれど、年々中古LPコーナーは縮小の一途を辿り、反比例して新品のリイシューLPは増加。以前は現代音楽なんぞ捨て値同然なりけれど、今やめぼしい現代音楽のLPは全て壁貼りにして超高価。されど相変わらず$1カスコーナーは膨大にして驚異の充実度。今回も2階のDVDコーナーは時間切れにて見れず終い。毎度の事、店内にて客に捕まりサインやら記念撮影やら、頼むからゆっくりレコード見させてくれ!
(16)San Francisco:泣く子も黙る超有名店のSF店。LAからの中距離移動(所要時間6時間)故に、時間的にも訪れるは不可と思いきや「ライヴ会場には開演までに着けばいいだろう?」と、Justinの独断にて直行。中古LPコーナーは更に縮小、矢張りLA店同様に新品のリイシューLP増加傾向に歯止め掛からず。この店は訪れる度に店内レイアウトが変わっており、今回クラシックフロアはDVDフロアに変わり果て、ではクラシックコーナーは何処かと思えば更に僻地へ。中古LPコーナー縮小とは云え、内容の充実度は相変わらずA級。但し全体的に値段高沸気味か?時間切れにてカスLPコーナーとDVDコーナーは見れず。やたら店員やら客やらに「Hey! Acid Mothers Temple!」なんぞと声を掛けられる故、恥ずかしい事この上なし。
(17)Portland:複数のレコード屋が1件に合体、御蔭で膨大なる在庫量。アメリカでは珍しく、ポーランド盤等に至るまで欧州プログレ多く不思議。クラシックを除く全ジャンル充実にして安価。ロックTシャツや小物等も多数販売。かなり勉強して頂きし。
(18)Seattle:深夜24時まで営業。私はライヴ会場の開場前に赴けれども、津山さんは何と自分の出番前に全力にて走りて赴けりとか…。ロックは70年代後期以降の在庫中心なれど、フォークやジャズ、サントラ等は充実度高く安価。
(19)Seattle:骨董品屋等と共に雑居ビル地下にある毎度訪れるお馴染みの店。$1コーナー、4枚$10コーナーでさえ侮れぬ充実度。ロックとジャズ中心なれど安価にしてレア盤珍盤掘出し物多し。
(20)Seattle:上記の店の支店(本店?)にして、こちらも$1コーナー、$3コーナー、4枚$10コーナー等膨大にして充実の内容。ロック、ジャズ、フォーク、ソウル、サントラ等、レア盤珍盤掘出し物多けれど安価。試聴コーナーもあれば訳分からぬ胡散臭き代物はチェックも可。毎度勉強して頂く上に、おまけで南米サイケのCDR等を頂いたりと、何しろ実は店主がサイケマニア。
(21)Minneapolis:全ジャンル驚異的に膨大な在庫量にして超安価。驚くべきは曜日別新入荷コーナーまである。宗教コーナー、インターナショナルコーナーは驚天動地、あまりに膨大なる在庫ぶり、目眩さえする!
(22)Chicago:云わずと知れた有名店の本店(支店?)にして、今やすっかり顔馴染み。恐れ多くも天井に描かれしロックスターの肖像群には私の顔まで、恐悦至極、身に余る光栄なり。ここもLPコーナー、$1コーナー共に随分と縮小されし。されど内容は充実にして適価。毎度大いに勉強して頂きし。もう1軒の方は時間切れにて訪れられず。
(23)Detroit:ChicagoよりDetroitへの道中にて訪れしリサイクル屋。中古LPがゴミの如く平積みされし様は涙を誘えど、根気よく探せば掘出し物あり。この手のリサイクル屋もなかなか侮れぬが、間違いなくBarbra StreisandのLPの山に遭遇せり。
(24)Cleveland:膨大なるカスコーナーにて掘出し物多し。特にクラシックは毎回何かしら貴重盤を見つけ得る。また店員による海賊版DVD制作&販売も行われており、アメリカでは発売禁止の「Holy mountain」を筆頭にカルト映画各種、Charles Manson関係等のカルトもの、その他モンド系60’s & 70’sのアメリカ・ヨーロッパ映画、B級カンフー映画や日本のカルト作品、また「トルコ版スタートレック」「トルコ版エクソシスト」等の珍映画もいろいろ。
(25)Baffalo:「レコード劇場」の名に恥じるLP在庫の貧相さ、但し音楽関係DVDの在庫は充実。されど近頃は訳の分からん胡散臭い編集ものやインタビューもの(演奏シーン僅かにしてカットアップ多し)DVDも多く注意が必要。
(26)Baffalo:「レコード劇場」の支店(と云うかチェーン店?)、こちらも在庫状況は前述の店と同様。但しこちらは映画のDVDも多く、映画版スケバン刑事(2作目)や増村保造監督作品等、日本映画のアメリカ版DVD等もあり。今回のツアー中に何処ぞでRichard ThompsonのCDボックスを購入せし津山さん曰く「くそっ!ここの店、Richard ThompsonのCDボックス安いやんけ!」
(27)Baffalo:新品中心の店なれば中古LPの在庫は少量。因みに隣はカルトなビデオレンタル屋、その隣は「エルム街の悪夢」ならぬ「The Nightmare of Elm Wood Hotel」思わず「フレディーが経営してんのか!?」なんぞとアホな想像を巡らせれど、実はこの辺りElm Wood Streetなり。
(28)Portland : ロックのみならず古楽や民族音楽も素晴らしく充実せし驚異の在庫内容。但し棚の分類がかなり適当故に、大いに根気と探索力が問われる。店主よりの依頼にて店内の壁面にサイン、御蔭で安価LPは殆ど無料と云う大勉強ぶり。
(29)Portland : 前店より徒歩2分にして、ロックは勿論の事、民族音楽、トラッド、ジャズ、現代音楽に至るまで、前店を軽く凌駕する驚愕の在庫内容!中袋なきものは購入時に新しい中袋を付けてくれる心遣いは有り難し。されど値札の付いてないものは精算時に査定と云ういい加減さ。75セントコーナーからぬいたもの(値札無し)を$7と言われたが、次第を説明するや非を認め、その1枚は無料にしてくれし。兎に角店主のレコードに対する愛を感じる店。但し午後5時閉店。
(30)Cambridge : 「安レコード屋」の名に違わず在庫全て安価にして、何よりもレア盤珍盤の新入荷率いと高し。ロック、フォーク、民族音楽、ジャズ等も大いに充実しておれば、ここも60’sロックのみ別コーナーが設けられ珍盤多数なれど、それ以上にブルースとカントリーの充実度は驚異的。また当時のシールド在庫多数にして、これらも殆どが$5程度。
(31)Cambridge : 全ジャンルを網羅しながらもその在庫量は驚異的にして、カルト系やモンド系等の珍盤レア盤の充実度は思わず我が目を疑う。「上の棚にない場合は足下の棚を見ろ」の張り紙には思わず苦笑。また$1コーナーの膨大さ恐るべし、特にクラシックのカスコーナーは驚愕の品揃え、何故これ全部$1やねん!
(32)Brooklyn : 今回のレコード漁りツアー最後を締め括るに相応しき驚愕の在庫内容。トラッド、カントリー、サイケ、ジャズ、民族音楽、どれを取っても超A級にして、レア盤珍盤多く、激レアなオリジナル盤が壁にズラリ。されど値段設定はかなり良心的にして安価。日本のレコード屋が如何に割高なるか改めて実感せり。

(2006 / 5 / 26)

追記:
漸く最後の船便が届けば、これにて先のUSツアーにて購入せしレコード全てが手元に揃いし。

 

 

最終便のレコードをあれこれ眺めておれば、迂闊にも訪れし店1軒を忘れており、列挙せしレコード屋リストより落とせし事に気付きし故、ここに今更なれど追記させて頂く次第。
(33)Atlanta : ファズを修理せんと立ち寄りし楽器屋。カウンターの前に、エサ箱に無造作に突っ込まれしレコード群を発見、1枚$1なれど南部ロックを中心とせしなかなかの品揃えは、日本のそれとは大きく異なれり。

最後になれども、ツアー中盤Salt Lake Cityに於いて不慮の事故にて左足に大怪我を負いながらも、その責任感の強さから、ツアー最後までツアードライバーの重責を果たせしJustinに、今一度感謝の意を述べたし。「来年も俺をツアードライバーで雇ってくれるよね?」今回彼は、各都市にて頻りにフリーペーパーの類いを収集しておれば、そもそもフリーペーパーにはその街のレコード屋の広告なんぞ多く掲載されておる故、実は来年再び訪れる際に、迅速且つ円滑にレコード屋へ直行せんとする為の情報収集なりしとか。恐るべしはJustin Waters!その抜け目のなさには思わず脱帽。今や「AMT & TMP U.F.O.第5のメンバー」たる彼なればこそ、次回も彼以外の誰をツアードライバーとして同行せんと云うのか。Thank you very very much, Justin! We love you!!

(2006 / 7 / 20)

Share on Facebook

Comments are closed.