『人声天語』 第34回「2001年~総まくり」

恒例のAMT忘年会を30日に控え、さて今年の総まくり等にて、2001年最後の「人声天語」とす。

されど日記等をつける習慣もない故、一体何処からが今年の出来事なのか判然とせぬ始末。そもそも正月からして何をしていたか思い出せぬではないか。どうせ録音等に追われていたであろうとは、容易に推察出来得るが。はて、一概に「総まくり」と云えども、何を「まくれ」ばよいのやら。

今年は例年になく国内でのライヴが多く、果たして一体何本のライヴをこなしたのか、斯様な事さえも記録しておらぬ故、皆目わからぬ。そもそも過去に対する執着が皆無故に記録等せぬ訳で、ならば斯様な人種が「総まくり」なんぞ出来得る筈もなし。
と云う訳で、思い出せる範疇から、ありがちな「今年のベスト &ワースト~」の形式で、取り敢えずはお茶を濁しておく。

先ずはAMTのライヴについて。

今年は、3度の海外ツアーと先日の西日本ツアー等、かなり精力的に活動せし中、個人的にベストと思えしは、10月のイギリス・ツアーに於けるGlasgowでの公演か。ある意味、今年のラインナップでのピークの瞬間であったやもしれぬ。各ツアーで各々挙げるとするならば、5月のイギリス/アイルランド・ツアーでは、最終日の狂乱のBrighton、若しくはCottonがステージ上で倒壊したLondon、次点で3時間半に渡るStirlingのフェスティヴァルでの演奏か。テロ事件と見事にバッティングせし9月のアメリカ・ツアーは、間違いなくBostonでの怒濤のインプロ大会であろう。国内では、ツアー最終日のベアーズでの「ほたえ」ぶりこそ、唯一海外でのテンションに近いものとして、更にオリジナル・ドラマー小泉氏の気違いぶりもあり、最も「AMTらしい」内容ではなかったか。

その他のライヴについて。

個人的にベストと思われしは、Kang Tae Hwan氏との3度の演奏、中でも名古屋トクゾウと大阪赤レンガ倉庫でのもの。俗に云われる「フリーミュージック」や「インプロヴィゼーション」とは趣を異にする、明らかに純然たる真の「音響音楽」として、自分でもかなり納得のいく瞬間であり、Kang氏と一楽氏とによるこのトリオは、今後も活動していく予定。

セッションとしての即興演奏では、Sabir Mateen氏と羽野昌二氏とのトリオが、久々に古典的なジャズ的フィールドで演奏した事もあり、逆に新鮮さを感じ楽しめたし、山本精一氏とのデュオや山崎マゾ氏のSpace Machineとのジョイントも、所謂退屈な「インプロ」とは全く異なる、純然たる音楽としてのアプローチの上で「音楽が出来た」事に充分納得出来得る内容で、是非また機会があればトライしてみたいと思う。

また仏Toulouseでのソロに於いて、私がふと「Pink Lady Lemonade」のフレーズを爪弾くや、客席にいたUehのベーシストAudrey Ginestet嬢が、突如ステージに上がって来てベースを弾き始め、結果そのままUehの全員をも交える予定外のセッションとなった瞬間は、至って感慨深いものとなった。

ソロではParisでの演奏こそ、ギタードローンの真骨頂と云える微妙な不整調による倍音とそれに伴うフィードバックが、スペースの音響特性も起因してか、狙い以上に爆音の耳鳴りの如く渦巻き、自分も完全にトリップし得た一夜となった。

番外として、オクシタン・トラッド歌手Beatrice (from De Maire en Filha)と共演出来た事は、個人的に大感激。初めて耳にする生のオクシタン・トラッドの歌声が、まさか自分のギターをバックにしてとは、一体誰が予測出来得たか。
アクシデントに関しては枚挙に遑ないが、中でも仏Grenobleに於いてのソロ演奏中、ステージに上がってきた酔っ払いの脳天をギターでどついた事が印象深い。人の脳天をギターでどつく等、十代の頃以来か。勿論、今年最も後味の悪いコンサートであった事は言うまでもなし。

今年残念だったこと。

John Fahey氏の死去。もう少し彼の演奏を観てみたかったと、居なくなった今改めて思う。かつてNYにて宿泊先が未定だった折、彼のNYの家(彼の弁護士宅と思われる)に滞在する機会があったのだが、その時ワーグナー辺りの交響曲のレコードに合わせ、されど全く関係のない旋律をソファーに腰掛け爪弾きし姿が、今でも脳裏に焼き付いている。昨年の最後の日本ツアーの折、彼の前座としてソロ演奏する機会に恵まれ、終演後に「君のギターは海のようだ」と話し掛けられた事から、音楽についていくらか言葉を交わした事も、今となっては良き思い出か。彼の訃報は、Sonic Youthの大阪公演にてメンバーから知らされた。結局生前に観る事叶わなかったZappaやJerry Garciaの訃報には、漠然とした空虚感のみが残ったが、自分が言葉さえ交わした事のあるFahey氏の訃報には、何故だか口惜しさと大きな悲しみを覚えた。

一楽氏のサイトに綴られし日記が終わってしまった事も残念至極。氏の知られざる一面を垣間見る鋭い批評性と、氏の姿からも滲み出る陽気で滑稽な側面とが見事に融和された、読み応えのある日記であっただけに、氏の断筆は惜しまれる。されど御親切にも私の旅先でのスキャンダルを色々暴いたりもしてくれたので、まあ良しとしておこう。

今年腹立たしかったこと。

普段から「怒りっぽいが気は長い」と周囲に評される如く、イラチ故に、四六時中些細な事で腹を立てるあまり、逆に滅多にキレはせぬ為、取立てて何も思い浮かばぬ。筋が通らぬ事に腹が立つが、筋を通せぬ時はより腹が立つ。あと夏の暑さには、毎年無性に腹が立つ。来年こそは、涼し気なヨーロッパへでも逃げ出したい処。

今年のお気に入りミュージシャン。

海外ツアーで巡り会う対バンに、ロクなバンドがいないことは今や当たり前であるが、そんな中、MC5を生んだモーターシティDetroitにて対バンした「Outrageous Cherry」は数少ない良い意味でのサイケバンドであった。「俺のStacy Keibler」と称して他のメンバーを牽制した程私好みであった女性ドラマーDeb Agolli嬢のあまりの美貌と、その艶かしい肢体から繰広げられしNeu! 以上にシンプル極まりないミニマル・ドラミングに痺れたのが、そもそものきっかけであるが、終演後CDなんぞ貰ったので聴いてみると、これがライヴ時にはDeb嬢の事しか脳裏になかったので気付かなかったが、素晴らしく心地よいサウンドなのであった。ところでこのDeb嬢、他にも「Ronetts meets MC5」と云われるモーターシティDetroitギャルトリオ「Gore Gore Girls」なるバンド

(*写真:中央がDeb嬢) でヴォーカルとドラムを担当しており(しかし残念ながら脱退した模様)、こちらも至って興味深い。またThe Great Milenkoなるユニットでもゲスト・ヴォーカルを担当しているようだが、クレジットを見るとAlice Cooperがヴォーカル、Slashがギターでゲスト参加しており、彼女こそ一体何者なのか。嗚呼、彼女に対する興味は尽きぬ。燃え上がる恋の予感か。兎に角来年も何処かで是非ともお目にかかりたいものだ。

そして今年遂にAMTレーベルからリリース叶いしFrederic。Syd Barrett 辺りが好きな人には是非聴いてもらいたい1枚。ここ暫く「うたもの」等と称されるものや、70s日本のフォークやらロックが取り沙汰されている様子ではあるが、本来「うた」と云うものは、斯様なるものを指すと知れ。そして彼がドラム、Audreyがベースを務めるグループ「Ueh」。彼のドラムは、Robert Wyattの如く、ヴォーカリストだからこそ持ち得る「うたごころ」に添ったプレイであり、故に至って私を痺れさせる。Uehは、今年の夏にToulouse郊外の廃教会にて、2枚組1stアルバムの録音を完了させている。TDされたばかりのその音源が現在手元にあるのだが、これまた本当に美しい。磨ききられていないが故の眩いばかりの輝きに満ちる、ピュアな音の記録。

さて今年はAMTの多忙ぶりに、ソロ作品を作る暇さえなかったが、そんな中、Richard Youngsとのコラボレーションだけは、何とかリリースする事が出来た。同世代ながらもお互いにリスペクトし合う関係から始まった彼とのコラボレーションは、「美しい音楽を作る」と云う1点に於いて全てが凝縮される。

単に「新しい」だの「前衛的」だのと云う、今や音楽にさえなっておらぬ斯様な不毛なコンセプトの下のカスは、しかしそれらを称賛しては通ぶる馬鹿共々、巷に溢れのさばっている様子であるが、音楽はまず音楽でなければならぬし、如何なるスタイルであろうとせめて美しくなければならぬ。故に、全く独自のスタンスで自らの音楽を追究し、外からの雑音にも一切耳傾けぬRichardやFrederic、Uehの面々の、純粋に音楽を愛する心溢れる彼等の音こそ、やはり私の琴線に触れ共鳴共振させられるのである。

今年の反省。

何と言われようがこれは、無謀にも「AMT通販会員」なんぞ始めてしまった事か。当初は、然程申し込みもないであろう等と高を括っていたのであるが、いざ蓋を明けてみれば連日の申し込み、特に海外ツアー後は夥しい数の申し込みメールが舞い込み、今やたった1人で管理出来ぬ状態。新譜の会員優先予約販売等が特典であった筈なのだが、附随発生する雑務のあまりの多さにパニックとなり、結局発送が遅れる等の信用失墜まで引き起こす始末。加えて最近、委託していた都内の数店舗から商品を撤収、更にモダーンミュージックへの納品も怠っている上、東京でのライヴも少ない事から、東京方面からの申し込みが増え、全会員数の1割にも満たなかった日本人会員がここにきて急増。しかし普段でも毎日平均40通は届くメールの山に、問い合わせメールが埋没しがちで、こちらの返信至って遅れがちなれば、結局は愛想尽かされたのか、売れ上げは至って芳しくないのが実情。通販会員の方々すみません。

今年の1枚。

赤貧に喘いでようが、レコードだけは買ってしまう。果たして一体どれが今年買ったものかさえ判然とはせぬが、取り敢えず挙げてみるならば、長年探し続けていながら巡り会えず、しかしライヴ前に偶然立ち寄りし中古レコード屋にて遂に発見せしQuintetto Volcale Italianoによる「Carlo Gesuald/Madrigali A Cique Voci」の7枚組LPボックスか。これを発見した時は、あまりの事に手が震えた程で、寒い懐の所持金ほとんどをはたいて購入。「これを聴く迄は何があっても死ねん」と思うレコードが、これでまた1枚クリアされた。

今年の逸品。

大阪のWWFショップ「Solluna」にて購入したアンダーテイカーの「Phenom Grapple Belt」3800円也。これは、まだテイカーが「地獄の大魔王」であった頃の物で、このシリーズは他にロックとオースチンのベルトもある。ベルト中央のバックルには、WWFのロゴとテイカーの当時の紋章を象ったロゴが炎をバックに燦然と輝いており、両サイドのバックルには、黒頭巾を纏った骸骨がテイカーの紋章Tの字を抱くデザインとなっている。この逸品を見つけた折、所持金は限りなく0に近かったのだが、近頃はクレジットカードなるものを所持している故、サインひとつで購入出来、嗚呼、クレジットカードの有難味が骨の随迄沁み入る限り。

今年の忠臣蔵。

私と津山さんは、無類の時代劇マニアである。今年の12月14日は、赤穂浪士の討ち入り300周年だそうで、折しもその当日は、AMT/Kinskiのツアーで姫路から岡山へ移動しており、当然我々がその事を知りながら赤穂を素通りする筈もなく、しっかり「義士祭」を見物に。そこで「東映剣の会」の面々による、不破数右衛門を主役にした討ち入り路上芝居が催されており、すっかり討ち入り気分を満喫後、近くのワゴン車にて休息されし不破数右衛門殿に御目通り叶い記念撮影。この様子は後日、当サイトの「股旅草子」にアップされるであろうからお楽しみに。

今年の流行語。

「あずさはどうしちょる?」一楽氏は海外ツアーの間、毎日滞在先から家へ国際電話を掛けると云う、真にもって良き夫であり良き父の姿を垣間見せていたのだが、兎に角開口一番、必ずや愛娘あずさちゃんの様子を訊ねるのである。そもそも家庭を持たぬ私には、全くもって面倒臭い事極まりないとしか思えぬ、日がな暇を見つけては家に電話する等と云う、その心持ち伺い知る事なんぞ到底出来ぬが、毎日耳にする本来心暖まる筈のこのフレーズは、同じく愛娘を持つ津山さんに当然の如くギャグとされてしまい、遂にはバンド内に於ける今年の流行語と相成った次第。因みに昨年は「これ何待ち?」であり、一昨年は全ての会話を武士言葉で行う「時代弁」であった。

今年のさようなら。

コンピュータ購入以前は、あれほど重宝していた筈のFAXであるが、遂にはFAX用紙が切れたまま永らく放置されている有様。されど取立てて不都合もない様子故、今さら気にも留め置かず。
かつて某有名百貨店にてデザイナーとして勤務していた折は、ボーナスでようやく普及し始めた留守番電話(当然コードレスなんぞにあらず)を購入した当時であり、まだオフィスでしか見掛けなかったFAXなんぞは、業務用コピー機と同じ程の巨大な姿にして、されどB4版1枚を送受信するにも数分は要したもので、更に93年頃に、現在使用している家庭用FAX(感熱紙対応、当然コードレスにあらず)を購入した折も、FAXが家庭生活に普及するとは等と驚いたものであったが、何と時代の移り変わりは早いものか。

そう云えば、90年代初頭にCDレンタル屋の店長なんぞ務めし頃、バブルで儲けし我が社長は、青年実業家気取りにて、愛社ボルボと何故か常に携えしジュラルミン製アタッシュケース、そして当時未だ珍しき携帯電話を所持する事を自慢していたものであったが、いやはや現在の携帯電話の普及率は何ぞや。因みにこの社長、その後バブル崩壊と共に事業拡大に見事失敗、今や借金数億円の転落ぶりにて、果てはマンションも女も運転免許も失いにけり。御愁傷様。

今年の爆弾。

昨年ハ爆弾見事ニ不発ニテ、「針ノ筵」ニ座ラサレシ事、ナント3日3晩。然シテ今年ハ如何ナル具合カ。ツイ昨日迄ハ、我ガ形勢圧倒的不利ニシテ、時限爆弾爆発前ニテ終戦ヲ迎エンカト思イシナルガ、我ガ最後ノ玉砕戦法ニ事態ハ風雲急ヲ告ゲ、爆弾ノ爆発待タズシテ、ホボ勝利ヲ手中ニシタリ。マシテ爆弾爆発スレバ、勝利ノ凱歌必ズヤ我ガ頭上ニ鳴リ響カン。サレド未ダ油断ハ禁物ナレバ、来年コソハ最後ノ上陸作戦ヲ敢行セン。否シカシ、爆弾の威力余リアレバ、逆シマニ本土空爆サレカネズ、モシ斯様ナ事態ニデモナロウモノナラ、本土内ニテ勃発セン反乱軍ノ奇襲攻撃ハ、如何ニシテモ回避シ難シ。更ニ旧敵参戦ノ予感モ有レバ、是レハ来年辺リ、愈々モッテ大団円トナルカ。何ハトモアレ、今年ノ爆弾今週末ニモ爆発ス故、全テハ其ノ結果次第也。嗚呼、人生斯クモ波乱万丈ナルカ。何時ノ世モ、女性ト狂信者ハ恐ルベシ。

最後に、今年の我が名言。

「可愛さこそ罪。」可愛い女性は、存在自体が既に罪であろう。故に男は浮かれ舞い上がり、そして泣かされる。されど懲りぬ。

(2001/12/28)

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