『人声天語』 第76回「嗚呼、ノルウェイ…(後編)」

11月3日、朝7時に出発。午後1時からOsloの美術館にて私のソロとPerのユニットSlowburnとのセッション・コンサートがある為、一先ずOsloに到着次第、私とPerは皆と別れることになっている。PerとToppiは、昨夜の酒盛りが祟ったのか、車を停めてはゲーゲー吐く始末。私も猛烈に二日酔いなれど、大好きな赤ワインの飲み過ぎなれば仕方なし。

正午前にOsloのPer宅に到着。ここで皆とは暫しのお別れ。我々はSlowburnのもうひとりのメンバーであるFredericの車で、会場である美術館Henie Onstad Kunstsenterへ。セッティングを済ませ、ふと周りを見渡せば、この美術館の裏手に湖があるのだが、何とこの湖がすっかり凍っているではないか。今日のOsloは-3℃である。昨夜の大荒れのパフォーマンスでZoomのマルチペダルをぶっ壊してしまい、今日のソロは、4台のディレイとリバーブのみによる弓弾きを主体とした内容。セッションは、ギター3台によるランドスケープ系ドローンで、結構楽しめた。

さて終演後、私とPerは一路空港へ向かう。今夜のAMTのライヴは、ここOsloから車で8~10時間の北の果てTrondheimで行われるので、フライトせねば間に合わぬ。美術館の最寄りの駅から列車で1時間、漸く空港に到着。国内線カウンターにてチェックインしてみれば、座席指定「FREE」って何じゃそりゃ! Perと明日Osloでの再会までの暫しの別れを告げ、1時間のフライトにてTrondheimには午後5時55分に到着。

さてここから今度は、クラブまでバスに乗らねばならぬ。「Augstin Hotelの見えるバス停にて下車、徒歩3分」と、Perに予め教えられてはいるが、果たして一体どのバスに乗ればよいものか。切符売りのおやじに尋ねた処、「これだ」と教えられた所謂空港バスに乗り込む。バス下部のトランクに乗客が次々荷物を積み込むので、日本の空港バス宜しく市内の何処かにノンストップで行くのだろうと推察、きっとAugstin Hotelは終点であろうと勝手に独り合点。流石に昨夜は殆ど眠っておらぬので、バスに無事乗車出来た安堵感からか、急に猛烈な睡魔に襲われる。うつらうつらしていると、急にバスが停車し、数名の乗客が下車していく。バス下部のトランクも開けられ、荷物も下ろしているではないか。即ち私は、自分でAugstin Hotelのあるバス停を見つけ、乗り越さぬよう下車せねばならぬと云う事か。ちなみに隣に座る初老の紳士に尋ねてみたが、観光客なれば知る筈もなし。眠い目を擦りつつ、暗闇の中、窓からAugstin Hotelを見逃すまいと目を光らせる。途中、大きなホテルの前のバス停にて、乗客の9割が一斉に下車。その後もバス停に停まる度に、乗客は少しずつ減っていき、遂には私を含め3名が残るばかり。次第に不安が広がっていくが、今まで見る限りAugstin Hotelらしきものはなかったと思う。その時、ふとAugstin Hotelのネオンが暗闇の中、一瞬だが目に飛び込んで来た。すかさずStopボタンを押す。確かにバス停はAugstin Hotelの真ん前であった。

さてPerから貰った地図を片手に歩き出せば、前方にJyrkiとToppiの姿を発見、どうやらそろそろ到着時間であろうと迎えに来てくれたらしい。こうして無事、今夜の会場Posepiltenに到着。

ロングドライブに疲れた様子のメンバーとサウンドチェックを手早く済ませ、ディナー。このクラブのコックがトルコ人である故、勿論メニューはトルコ料理。美味なれど、昨夜の暴飲が災いし、胃がすっかり荒れて食欲が湧かぬ。クラブのバーとステージ以外に、ここには暖炉が鎮座するサロンとレストランがある。ドア1枚で繋がっている為、開演まで客はバーで飲んだりサロンで寛いだり思い思いに各々の時間を過ごしている。今宵は多くの北欧美女の御来場に与り、幸せ至極。

今宵もワンマンなれば、10時半に開演、2時間のステージ。ノルウェイでは、昨日以外の日程は全てワンマンである故、気兼ねなく演奏出来る。昨夜が大荒れであった反動か、今宵はいつになく纏まった演奏。

さて終演後、声を掛けられ振向いてみれば、そこには昨夜の対バンGateのキーボードプレイヤーとギタリストの2人の姿が。何でも彼等はこの街に住んでいるらしく、今宵は客として観に来てくれたらしい。昨夜の揉め事を気にしてか「Sorry」を連発していたが、「昨日は昨日、今日は今日。気にするな。」と返事。その通り、お前らの酒を根こそぎ頂いた私であるから、こちらもこれでチャラにして欲しい処か。今宵我々の投宿先は「Kinder Garden」と呼ばれる子供用施設らしく、当然「禁酒禁煙」である。うまい具合にGateの2人が、ノルウェイ特産の強烈な酒を御馳走してくれると云うので、私と東君は皆と明朝8時にこのクラブの前で落ち合う事を約束し、彼等と共にキーボードプレーヤーの家へ。

そこには彼等の友人達も集まり、早速その噂の「コシキ」と呼ばれる酒を頂く。コーヒーとブレンドするのだが、これがぬるくなって来るとかなり「イケる」ではないか。この冷めたバージョンは「コールド・コシキ」と呼ばれるそうで、これこそ通の飲み方だそうな。調子良くスカスカと飲んでいく我々2人を見て、彼等は唖然とするやら大笑いするやら。更にこれでも「物足らぬ」我々は、コーヒーをチェイサーにして、ストレートで飲み出すや、「お前達、死にたいのか?」と、心配される始末。何しろアルコール96%である。

彼等といろいろ話すうち、どうやら彼等は矢張り17~20歳と云う若いバンドである事が判明。我々の年令を聞いての彼等の驚愕ぶりは、こちらの方が笑えてくる程。どうやら彼等はノルウェイのサイケバンドMotor Psychoの大ファンだそうで、そのMotor Psychoがリスペクトしていると云うAMTに、大層興味があったらしい。その後も調子良く「コシキ」のボトルを明けつつ、音楽の話から下ネタの阿呆話なんぞしているうちに、皆順番にダウンしてしまい、結局は我々2人が最後まで飲み続けている有様。翌朝7時半起床のアラームをセットするが、既に6時半である。2人してソファーにて就寝。

11月4日、朝7時半に起床。東君を起こし、キッチンでインスタントコーヒーを飲んで出発。昨日はここまでタクシーで来たのだが、クラブから1メーター程度だった為、昨夜のうちにGateのキーボードプレイヤーに地図を描いて貰っておき、徒歩にて皆との待ち合わせ場所であるクラブへ赴く。早朝にしてここは北の果てTrondheimである。外は盲滅法寒く、気温-9度。風も結構吹いており、耳の穴の中さえ凍りそうである。空腹もあって、取り敢えずホットドッグのカウンターにてホットドッグとコーラを食し、クラブへ急ぐ。

約束の時間通りに我々のバンが到着し、無事皆と合流、一路Osloを目指す。ここ2日間の寝不足もあり、この10時間のロングドライブは、車中で爆睡。時折目覚めてみれば、辺り一面「氷の世界」、目に入る木々は全て樹氷と化し、湖や河川は凍結してその鏡面に陽の光を反射させている。

Oslo到着は予想以上に早く、8時間で到着、一先ずPer宅へ。JyrkiとPerの再会、JyrkiはPerに気があるのではと思われる程、嬉しそうである。私と津山さんは、この浮いた2時間を利用して、すかさず中古レコード屋へ。私はJ・バーキンのEPやらABBAのスエーデン原盤をゲット。

さて今夜の会場Blaへ。ここも以前演奏した事があるのでやり易い。リハ後、近くのインド料理屋にて皆でカレーを食す。ここも以前来た事があり、食い意地の張った我々は毎度、おかわり無料をいい事に、ライスを何度も何度もおかわりしては、店員を呆れさせる。

この夜も2時間のセット、Jyrkiは「今日は今までで最高のショーだった!」と興奮していたが、私はチューナーも兼ねていたZoomのマルチペダルを失っている為、終始チューニングに苦悩し、私個人としては決して満足のいくパフォーマンスではなかった。

終演後、ポーランドから移住して来たと云うおばはんに、メンバー一同追い掛け回され困り果てる。特に東君に絡んでは、挙げ句「おらと一緒に夜通し飲もうだべさ」「おらも一緒に連れて行ってくんろ」と管を巻き始める。

最後はクラブのスタッフに追っ払われ、これにて我々も一安心。Per宅にて、またしても結局朝5時まで、私はPerとFredericと共に赤ワインを飲み明かす。

(2003/2/16)

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