『人声天語』第103回「続・ユートピア大韓民国」全三編 前編

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第103回「続・ユートピア大韓民国」前編

「いざ韓国へ!(2月16日)」

ダモ鈴木氏のバンド「Damo’s network」のソウル公演と、在韓日本人ミュージシャン佐藤行衛さん(第92回「ユートピア大韓民国」を参照)企画の前衛音楽イベント「Blugasari」出演の為、再び我がユートピア大韓民国を訪れる事と相成った。

今回は「私を韓国へ連れてって」な東君も同行、名古屋空港から2時間の空の旅にて、午後4時にソウルのインチョン空港に到着、7ヶ月ぶりに韓国の土を踏む。空港では佐藤さんの他、韓国唯一のノイズユニット「Astro Noise」のメンバーも迎えに来てくれており、またダモ鈴木ソウル公演に於いて、佐藤さん率いる「コプチャンチョンゴル」なる日本人による韓国ロック・グループが前座を務める為、福岡からベーシストの柴藤さんも到着しておられ、2時間後に到着するダモさんと宮下君(Mandog)御一行を待たねばならぬ佐藤さんをひとり残し、我々はソウル市内の新村(シンチョン)にある佐藤さん宅へバスにて向かう。

佐藤さん宅にて、Astro Noiseの2人と柴藤さん、そして東君と共に、先ずは韓国ビールで乾杯。韓国ビールは兎に角軽い。韓国製するめと韓国製サッポロポテトもどきをつまみつつ、調子良くビールを流し込むが、またしても前回到着時同様睡眠不足にして、更に朝から偏頭痛に悩まされていた私は、ダモさん御一行の到着まで仮眠。韓国は日本より寒いと聞いていたが、室内は完全床暖房なれば、まるで初夏の如きで暑い程。

漸くダモさん御一行が到着、ダモさんとは去年ロンドン・ロイヤル・フェスティバル・ホールにて行われた「Acid Mothers Gong」のコンサート以来の再会である。宮下君は彼女のきくちゃんを同行、残すは「コプチャンチョンゴル」のドラマー伊藤孝喜君のみであるが、彼は午後9時インチョン空港着とかで、佐藤さん曰く「自力で来れるから大丈夫」との事。ならばと早速「韓国グルメツアー」開始である。(今回も注釈は佐藤さんにお願いしました。)

先ずは豚バラ屋へ。この店は女性客に人気があるとかで、店内に入れば奥座敷に10人程の若い女性グループがテーブルを囲んでいたのだが、長髪や髭面が稀有なこの国なれば、ダモさんと東君と私の3名の姿を見るや、思わず携帯電話のカメラにて我々を撮影し始める始末。
この店の豚バラ料理「サムギョプサル(註1 )」は、前回訪韓した折に食したものとは随分スタイルが異なり、カセットコンロ上に傾斜をつけて取り付けられた鉄板ならぬ石板に、大量のキムチで土手を作り、その上部に豪快に豚バラを並べて行き、最上部には野菜やエビを並べる。これはどうやらそれらの具が焼ける時に出る汁を、下部にて鎮座するキムチが吸い上げる仕組みになっているのであろう。

さて肉が焼けて来るや、店員のお兄さんが取り出したるはハサミと巨大ピンセットの如き2種類の道具なり。これで手際良く肉を切るのだが、何でもやりたがる好奇心旺盛な東君は早速トライ、御陰で肉一切れが随分な大きさで食べ応えあり。当然の如くサービスでいくらでも追加されるサニーレタスにて、ネギの唐辛子胡麻油和えやらキムチやら焼き野菜やらと美味しそうに焼けた豚バラを一緒に包んで、韓国流マナー通りひとくちで頂く。肉汁溢れるジューシー且つ柔らかな豚バラと、トッピングの野菜のシャキシャキ感と云う食感の違いから生じるハーモニーをも楽しみつつ、これはもう止まらぬとばかりで、ひたすら「巻いて食う」そしてビールを流し込む。まあ何と美味な事。ビールのお次はダモさんのリクエストで「サンサチュン註2 )」なるお酒、味はまるで梅酒のようで飲み易し。焼酎好きの東君は、早速「眞露」を注文。前回飲んで知ってはいたが、韓国で売られている「眞露」と日本で売られている「眞露」は異なるのである。韓国人は「酒を割る」と云う行為を嫌う為、基本的に焼酎であれストレートでガンガン飲む。故にアルコール度数が25度から22度にまで下げられており、これが見事功を奏し「眞露」の爆発的な売れ行きを支えているそうだ。ここ韓国なれば、我々もガンガン飲んでガンガン食うべしと、豚バラを追加オーダーし、再び食いまくる。当然の如くオマケとして、日本の味噌汁に値する逸品「テンジャンチゲ」も登場、これは本当に病みつきになる味にして、店毎家庭毎で味が異なる為、いくら毎食続こうが飽きる事もなし。
ふと後ろの席のカップルを見るや、この石板にてキムチ炒飯を作っている様子。店員に尋ねてみれば作ってくれるというので早速オーダー。註3)石板上に残る食材を手際良くハサミで小さく切り、そこへ赤米をぶち込み一気に炒めるのだが、その手際良く混ぜ合わせる華麗なテクニックもやはりハサミを用いて行われる。何と韓国の焼肉屋では、ハサミこそ万能調理器具なり。

おこげを作り熱い処を頬張れば、これまた絶品なり。普段食の細い東君が、最後まで綺麗に浚える程にして、何と未だ韓国グルメツアー1軒目にして、いきなり東君の「韓国大好き宣言」さえ飛び出す有様。

さて腹も膨れた処で、当然の如く飲みに行くかと云う流れとなり、ここで私からリクエスト。前回あまりの睡眠不足にして、不覚にも盃を眼前に眠りこけ、堪能し損なった韓国の濁酒「マッコルリ」を飲みたいと佐藤さんに進言。偶然か、前回行った店がすぐ近くとの事で、ならば是非ともリベンジせんと乗り込む事に。
日本で云う田舎風居酒屋のようなこの店は、若者達でごった返す。店内を眺めているうちに、矢張り外国と云うよりは、何処か九州あたりの地方都市の居酒屋に座っているような錯角を覚える。通された2階席の奥には、何やらディスプレイスペースがあり、古めかしい道具群に紛れ、何故か新し目の扇風機が1台置かれているのが、何ともはや滑稽である。

この店では「マッコルリ」がやかんに入れられて出て来る。要するにやかんがピッチャーなのであるが、蓋を開けてみれば目一杯まで注がれている。そして韓国と云えばオマケ天国、キムチやらキュウリやらが付いて来る。日本で云う処の小袋の柿ピーみたいなものなのか。オーレカップの如きデカいカップに豪快に注いで頂く。味は随分さっぱりしており、ほんのり酸味のある甘さ、まるで甘さ控えめのドリンクヨーグルトの如し。アルコール度数は7%だそうで、これは飲み易いので危険っぽい。佐藤さんの彼女ウニちゃん曰く「以前佐藤さんは50Lも飲んだ」とか。しかし満更虚言でもなさそうな、斯様な優しい味わいなれば、確かに50Lぐらい飲めそうな気さえして来るではないか。更にここで韓国版マッシュドポテトの如きもの「カムジャジョン註4 )」が登場。これが素朴な味でかなり美味なり。

ここで「コプチャンチョンゴル」のドラマー伊藤孝喜君が到着、彼は既に10回ぐらい韓国に来ているそうで、韓国語も結構話せる様子。東君と柴藤さんの「まあまあまあ…駆け付け5杯って事で」の御陰で素晴らしいスタートダッシュを疲労する孝喜君。韓国人は乾杯好きらしいが、お祭り好きの東君も生っ粋の乾杯好きであり、この夜も一体幾度乾杯した事か。御陰でこの「マッコルリ」のやかんを幾つ飲み干したのやら。しかし何にせよこの「マッコルリ」と云う酒、その飲みくちの円やかさ、そして酔いの緩やかさ、これなら腰を据えて朝まで飲み続けられそうなれば、今回は前回犯した自分らの不覚も見事リベンジ叶い、ならば次回は是非とも佐藤さんの保持する記録「マッコルリ50L」に挑戦してみたいもの。

旅疲れのダモさん御一行を「Prince Hotel」まで送り、我々は佐藤さん宅にて飲み直し。前回訪韓した際、私が「Samba」なる韓国産合成酒を大層気に入った事を、佐藤さんが憶えていて下さり、1本の未開封ボトルを用意して下さっていた。

この「Samba註5 )」は、日本で云う処の「電気ブラン」の如き逸品で、されど既に10年以上も前に製造中止になっているらしく、しかし流石は佐藤さん、何処ぞで1本のデッドストックを発見して来て下さったそうな。佐藤さんの彼女ウニちゃんは、若い頃これを飲んで酷い目に遭ったらしく、この「Samba」が大嫌いだそうで、酒好きの佐藤さんでさえも好きではないらしいのだが、私はこの何かよく判らぬが郷愁を誘う味がお気に入りで、初トライと云う柴藤さんや孝喜君、そして「飲んだ事のない酒は必ず飲んでみる」東君の3人からも「なかなかイケる」とまずまずの評価。安ウイスキーと安ブランデーにカラメルを混ぜたかの如き味なれど、然程アルコール臭くもなく、ストレートでクッとやり始めれば、これも飽きの来ぬ中毒性を秘めた飲み心地であろうか。

さて「Samba」も一瞬で空になってしまえば、佐藤さんが次に持ち出したるは「平壌焼酎註6 )」である。

北朝鮮産の焼酎で、一体何から出来ているのかさえ判然とせぬ。一杯飲んでみれば、まるで雑草から作られたかの如き青っぽい味である。これははっきり云って旨くはなけれど、何やら未だ飲み足らぬ故、「無いよりはマシ」とばかり、結局このボトルも空になってしまう。佐藤さん曰く「北朝鮮ではこれでもまだ飲めるだけマシ」だそうで、確かに困窮を極める北朝鮮の庶民の生活状況なれば、酒を飲みたくても飲めぬ人も多かろう。同じ朝鮮民族にして隣り合わせの国土なれど、この生活状況の違いを考慮すれば、何とも哀れな話である。先に寝てしまった東君を尻目に、柴藤さんと孝喜君と3人で結局朝4時まで飲み明かし就寝。

「Blugasari @ Rush(2月17日)」

例によって朝8時45分起床、iBookを持参しておれど、韓国の接続環境は全てケーブルである事をすっかり忘れていた為、接続出来ず、佐藤さんのPCにてメールチェック等、日本にいる時同様に雑務をこなす。韓国はダイヤルアップからISDNやADSLを一足飛びにしていきなりケーブルに移行したらしいが、佐藤さん曰く「如何にも韓国人らしい」との事。11時頃に皆が起きて来るや、コーヒー中毒の柴藤さんがコーヒーを入れてくれる。この美食天国韓国にして、何故かコーヒーだけは物凄く不味いらしく、韓国のコーヒーはとても飲めぬと柴藤さんは、何と自前でコーヒーを日本から持参し、佐藤さん宅のキッチンに常にキープしてある周到ぶり。
お昼も過ぎれば、ではダモさん御一行を迎えに行って先ずは飯にしようと相成る。ホテル前にてダモさん御一行と合流し、今夜行われる前衛音楽イベント「Blugasari」の会場「Rush」にて機材を降ろし、向かった先は勿論焼肉屋。普段肉を殆ど口にしないと云うダモさんに、佐藤さん曰く「韓国で肉が食えなければ生きて行けないですよ。」韓国の焼肉屋は日本のそれとは異なり、牛カルビを食うならカルビ屋へ、豚バラを食うなら豚バラ屋へ、ホルモン食うならホルモン屋へと云った塩梅で、各々専門店化している事が特徴として挙げられる。我々が暖簾を潜った店は牛カルビ屋であった。

当然我々は大量のカルビとビールを、宮下君は韓国冷麺「ネンミョン註7 )」を、更に佐藤さんが「カルビ屋だから」と「カルビタン」なるものをオーダー。

豪快な骨付きカルビが網の上に並び、同時にテーブル上には乗り切らぬ程のオマケが並ぶ。キャベツの入った冷製スープ、チヂミ、カニの唐辛子味噌和え、キムチ等、肉が焼けるまでそれらをつまみつつビールを呷る。焼けた肉を店のおばちゃんが、手際良くハサミで切り分ける。それならば最初から切って出せばより効率が良かろうにと思うのだが、まあこれも韓国式、郷に入れば郷に従え。流石本場のカルビは絶品なれば、日本の安焼肉屋のカルビの如き薄切りにされておらず、殆どステーキの如き分厚さで、勿論韓国流に野菜等を一緒にサニーレタスで包みひとくちで頂くのだが、頬張れば中から染み出す肉汁がたまらぬ。昼から焼肉とビールとは、まあ何と幸せな事か。

宮下君の冷麺は、以前盛岡で食した「韓国冷麺」とは全く似ても似つかぬもので、麺にしても盛岡冷麺の如きゴムのようなものにあらず。以前盛岡にて冷麺を食べようとした処、ゴムのような食感にして噛み切る事叶わず、況してや私は糸蒟蒻から春雨に至るあの手の食感のものこそ大の苦手なれば、まるで生き地獄の如き辛き思いで、それ以来「韓国冷麺」と云う言葉に良き印象を抱いていなかった。唯一姫路の「竜」の冷麺は、斯様な麺を使用しておらぬ故、例外として美味しく食せたのであるが。
さてその問題の冷麺であるが、既に盛岡のそれとはかなり異なる事は一目瞭然、食感はそうめんの如し。酢とからしを入れて頂くのだが、スープもサッパリしており美味なりれば、夏の暑い時にズルズルッとやれば、かなり爽快な気分を味わえるのではなかろうか。

続いて佐藤さんのオーダーした「カルビタン」であるが、大きなカルビがぶち込まれたスープと云った処か。御飯と一緒に頂くとこれがまた美味なれど、個人的にはカルビは矢張り焼いて、口の中で肉汁がジュッと滲む感じの方が好ましいか。当然の如くカルビのオマケとして「テンジャンチゲ」も登場、ならばとカルビを追加オーダーし、兎に角食いまくり飲みまくる。

すっかり満腹いい気分な我々、そこらを散歩すると云うダモさん、佐藤さんら「コプチャンチョンゴル」御一行は今から明日の本番へ向け「Rush」で練習するとかで、「韓国の楽器屋が見たい」との宮下君のリクエストにより、前回訪れた楽器屋ビル「アッキサンガ(楽器商街)」へ、私の案内にて宮下君、きくちゃん、東君と向かう。地下鉄で新村から乗り換え1回で鍾閣にて下車、ダプコル公園を目指せばその横に聳え建つ故、至って容易に辿り着ける。韓国は公共交通機関の値段が非常に安く、地下鉄70円、バス40~70円程度である故、何かと気軽に利用出来る。
その道中に各種屋台がズラっと並ぶ中、東君が蚕の蛹の屋台を発見。この蚕の蛹の水煮「ポンテギ」は、「韓国のジャンクフード」であると前回佐藤さんに教えられたが、前回は流石にパスした代物。されど可愛い韓国の若い女性達も、この紙コップに入れられた「ポンテギ」を爪楊枝で口に運びつつ街を闊歩しておられる故、いやはや本当に庶民に愛されるジャンクフードなのであろう。好奇心旺盛な東君が早速購入、紙コップ一杯で100円也。しかしそれにしてもグロテスクなルックスである。子供の頃、「キャラメルコーンはカブト虫の幼虫の天婦羅」等と云ったものだが、これこそまさしく「虫」である。イナゴやザザ虫の甘露煮程度なら食した経験もあれど、況してこれは水煮である。先ず東君は1匹口に放り込むや「まじゅ~!」と悲鳴が。ならば如何程不味いものかと私も1匹口に放り込んでみれば「オエ~ッ!」良く云えば、エビの頭を煮て失敗したかの如きを想像していただければよいか、悪く云えばまさしく「虫」の味である。佐藤さん曰く「醤油を加えて炒めると結構旨いのに、どうして韓国人はそんな工夫をしないのか?」結局この後はジュースで口直し、これを美味しそうに頬張りつつ闊歩する韓国女性こそ恐るべし。如何に綺麗な韓国美女が相手であろうが、これを食べた直後のディープキスだけは遠慮したい処。されどこれを道端にて食していたオッサンは、最後に景気良く汁まで飲んでおられたのだった。

さて「アッキサンガ」にて膨大な数の楽器屋を巡り、韓国のメーカー「PSK」による妙なエフェクター群に惹かれつつも(宮下君はPSK製「Echoplex」がかなり気になっている様子)、俄かに「楽器酔い」を起こし気分優れぬなれば、気分転換に今度は土産物屋が建ち並ぶ仁寺洞通へ向かい、韓国ジャズ界の重鎮金大換先生の店にて土産等を物色。通りを歩いておれば、ふと目に止まった1枚の看板「性文化博物館」これはもしや韓国版秘宝館かもしれぬと思わず興奮し、早速入場料500円を払い突入。

中に陳列されていたのは、アジア諸国の春画、数え切れぬ程の張り型、昔のエロ装束(肝心の部分に穴が開いており、服を着たまま行為に及べると云った類いのもの)等、一応は性文化の資料的なものから、プレイボーイ誌のヌードグラビアやインド製エロトランプ、ヨーロッパの芸術写真としてのヌード写真集、そして秘宝館等でもお馴染み「自然の造形」シリーズであるが、韓国のそれは明らかに人工的処理が施されてており、思わず失笑すれど、結局大した展示は無く、男根のフォルムをしたAIDS募金の箱でさえも全く笑えぬ代物であった。

再び新村へ戻り、換金したいと云う宮下君ときくちゃんと別れ、今夜の会場Rushへ向かう。新村は学生街だそうで、そのせいかどうかは存ぜぬが、矢鱈とラブホテル註8 )が乱立している。外見上は日本のラブホテル(特にモーテル・スタイル)と酷似しており、ゲートにはためくビラビラも同じなれど、ただこちらではラブホテルならぬ「Eros Motel」と謳われているではないか。「ラブ」ならばまだ宝塚歌劇ではないが「愛あればこそ」と云うニュアンスもあれど、「Eros」と断言してしまう辺り「やるだけじゃ~!愛などいらんわ!」と云うニュアンスさえ受け取れ、儒教の国なればこそ男女交際もシビアであろうと勝手に思い込んでいた私なんぞ、大いに面喰らってしまう有様。しかしこうなると気になるのは室内インテリアである。「Eros Motel」の存在を知ってしまった今、私の好奇心は猛烈に脈動し始め、何としてもこの「Eros Motel」とは如何なものか見届けたくて仕方なし。なれば次回訪韓の際の目標は、何としてもこの「Eros Motel潜入」であろう。嗚呼、これでまた再び韓国を訪れる目的も出来たは良いが、されどそれにはお相手が必要なれば、そう易々とは行くまいか。

まだリハまで時間があった為、そこいらにレコード屋でもないものかと散策すれば、いきなりCD屋を発見。探していた韓国民族音楽のシリーズを発見するや脳汁が一気に分泌、更にShin Joong Hyun(Shing Jung Hyunとも綴られる)やサヌリムを探そうと意気込むが、陳列表記が全てハングルなれば皆目読む事が叶わぬ。されど入魂で膨大なCD在庫と奮闘の末、Shin Joong Hyunとサヌリムの各コーナーを発見、持っておらぬ数タイトルを購入。

Rushへ戻るや軽くサウンドチェックを行い、後はひたすらビールを飲む。今回の「Blugasari」は前回程出演者もおらぬ為、ゆっくりと演奏出来そうな雰囲気にして、東君は韓国唯一のノイズユニット「Astro Noise」とのコラボレーション、私は宮下君とギターデュオ、佐藤さんはBlugasariレギュラーである在韓アメリカ人Joe Fosterとのデュオ、今夜は以上の3セットに加え、明日のダモ鈴木ソウル公演の前夜祭的意味も込め、「コプチャンチョンゴル」の柴藤さんと孝喜君と佐藤さんの3名に、私と東君と宮下君が加わり、総勢7名にてDamo’s Networkの演奏を行う運びとなっている。この夜の詳細は、佐藤さんによる「Blugasari」サイトを参照されたし。http://jam.velvet.jp/scum.html

さてお楽しみの打ち上げは、韓国風すいとん屋へ。店と云うよりは屋台に近く、厨房部分は店構えがあれど、客は外に並べられたパラソルとテントが合体したかのような、まるで一見キノコの如きビニルカプセルに入り、その中でテーブルを囲む形で座る。

果たして韓国風すいとん「スジェビ」とは如何なるものなのか、斯様な事を思いつつ、先ずはオマケで出て来た「かっぱえびせん」こと「セウカン」をつまみつつ「眞露」を呷る。 韓国では「かっぱえびせん」は韓国独自のお菓子だと信じられているそうで、日本発祥だと知らされ驚愕する人も少なからずとか。続いて出て来た玉子焼きやキムチをつまみつつ、更に「眞露」を飲む。

丁度オマケを全て平らげた頃合で「スジェビ」が登場。底にゴロゴロ転がる貝の出汁と、大量に放り込まれた赤青両方の唐辛子の辛み、これが見事なハーモニーを奏でるスープは絶品にして、具は勿論大量にぶち込まれているすいとんと、あとは葱とじゃがいもと云ったシンプルさ。このスープは滅法美味なれど、大抵の日本人にはかなり辛い様子、辛いのが苦手な宮下君は「美味しいけど辛い」と多少ギブ気味。人生で「辛い」と感じた事が3度しかない私は、青赤両方の唐辛子を齧りつつすいとんを頬張りスープをすする。試しにキムチをぶち込んでみれば、意外にも辛さが相殺されるのか、随分円やかな味になる事を発見。東君はこのキムチをぶち込むスタイルが大層気に入った様子なれば、キムチをぶち込んではお代わりを連発。結局この大鍋2杯の「スジェビ」を平らげ打ち上げ終了。

されど未だ食い足らぬ飲み足らぬ私と東君は、前回の打ち上げで訪れた豚バラ屋へ行こうと云う流れとなり、佐藤さんに「サムギョプサル トゥゲ チュセヨ(豚バラ2つください)」と豚バラ2人前の韓国語でのオーダーの仕方を教えて貰い、2人でいざ豚バラ屋へ。無事にオーダーも済ませ、「眞露」をオマケのキムチをつまみつつ呷る。おばちゃんが豚バラ2人前(と云えど日本ならば5~6人前に匹敵)を持ってやって来るや、いきなり網に乗せ切れぬ程に肉を並べて更に火力アップ、一瞬にして大量の肉は焼け上がり、折角の豚バラを焦がしてなるものか、これはもうおちおち飲んでる場合にあらずと、こちらも猛然と肉を野菜やらと一緒にサニーレタスで包んでは頬張る。されど包んで食うスピードより焼けるスピードの方が、云うまでもなく圧倒的に早く、東君に至っては焼けた肉を網の縁に垂直に立てて焦げぬように工夫する程。漸くおばちゃんが乗せた肉も食い終わり、残っている豚バラはゆっくり自分達で焼きつつ「眞露」を呷ろうか等と思っておれば、再びおばちゃんが登場、いきなり残りの肉も全部網に乗せてしまうではないか。またしても我々2人は大慌てで豚バラを頬張るしか術はなく、結局最後はオマケの「テンジャンチゲ」をすすりつつ「眞露」を呷る羽目に。どうやらもう閉店の様子にして、通りでおばちゃんが斯様な暴挙に出たのであろう。こちらの豚バラの方が、初日に行った店の豚バラよりサッパリしており、ならば次回はもっと早い時間に訪れて、もう一度ゆっくり味わいたいもの。因みに豚バラ2人前と「眞露」2本で1400円(1人700円)也。

(註1)
サムギョプサル(豚バラ肉、豚の三枚肉のこと)今回も食べなかったけど、豚のカルビこと「テジカルビ」というのもあります。(本文に戻る[註1])

(註2)
サンサチュン 伝統酒のイメージで作ったリーゾナブルなリキュール類。他にも「百歳酒(ペクセジュ)」とか人気あり。(本文に戻る[註2])

(註3)
飯をたのむ時、焼き飯(ポックム)にしてください、と言います。(本文に戻る[註3])

(註4)
カムジャジョン ジャガイモで作ったチヂミとでもいいましょうか。(本文に戻る[註4])

(註5)
幻の謎のお酒…(冗談)。とにかく今は市場にはないですな。(本文に戻る[註5])

(註6)
北の焼酎は、統一展望台とか板門店のお土産屋で売っています。(たまにデパートの地下なんかでもみかけます)(本文に戻る[註6])

(註7)
冷麺と書いて「ネンミョン」と発音。(本文に戻る[註7])

(註8)
連れ込みと日本でいうビジネスホテルは、韓国では区別なしです。荘旅館とか、モーテルとか表記されてます。(本文に戻る[註8])

(2004/3/01)

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