『人声天語』 第132回「くたばれ日本!(AMT & TCI 欧州ツアー 2006)」#2

6月13日(火)

午前6時半起床、朝飯はレトルトカレーと真空パックの御飯にてカレーライス。ネット接続し雑務に明け暮れる。みつるちゃんにW杯日本vs豪州の続報等も見せておれば、日本のニュースサイトでは殆ど報じられておらねども、日本唯一の得点も審判の誤審と判明、もしあのまま日本が勝利しておれば、何とも後味の悪い顛末にならん。みつるちゃん曰く「うん、負けて良かったんちゃう?」何も為すべき事なく、散歩に行こうにも外は大いに暑ければ、全員怠惰に昼寝なんぞ決め込むのみ。漸く雑務終了、昼食は真空パックの御飯+サバ味噌煮缶+ちりめん山椒ふりかけ、サバ味噌煮缶の汁を御飯と混ぜ、そこへ粉山椒を振り掛ければ、嗚呼、なんと美味なる事か。
それにしてもやる事なく大いに退屈、とうに船内探検も済ませておれば、さてどうしたものか。

 

 

外は灼熱の太陽が照りつける酷暑なれば、到底外出する気にもならず。結局食堂にてコーヒーなんぞ啜りつつ、船窓より行き交うクルーザーなんぞ眺めては手を振る程度。そう云えば、昨夜より誰も東君の姿を見掛けておらねば、実によく寝ているものだと呆れておれど、いや既に就寝より14時間半も経過しており、もしや死んでいるのではと様子を伺いに行かんと思えども、本当に死んでおれば如何な具合に対応すべきかとの話までとなり、ではいよいよ彼の船室まで覗きに行けば、当の本人はこちらの斯様な思惑なんぞ露程も知らず、能天気に洗濯なんぞしておったそうな。何はともあれ無事で何より。
矢張りする事がなければ腹が減るばかり、日がな食うては寝るのみを繰り返すせんせい、徐ろに起きて来るやチキンラーメンを食らいてまた御就寝。みつるちゃんもシリアルを、兄ぃもパンを食ろうておられれば、私もシリアルなんぞ食らえども、まるで鳥のエサの如くいと不味し。東君は何処ぞのバーへW杯のテレビ中継を求め旅立ちし様子。ここでシャワー&洗濯も済ませば、漸くサウンドチェクの時間と相成れり。
キャプテンは毎度御自慢のバイノーラルマイクで録音する事が至上の悦びらしく、それ故にサウンドチェックにても慎重極まりなし。こちらもそれを重々存じておれば、のんびりチェックせんとす。ギターアンプのヘッドが何と天井に貼付けられておれば、即ちヘッドは船の一部と云う訳で、例えるなら「わが青春のアルカディア号」の頭脳トチローの如きか。
サウンドチェックを終え晩飯と相成れど、クルー達が全部食ろうてしまいしとかで、これも「飯は食える時に食え」と云うツアーの鉄則を忘れ、サウンドチェック後になんぞと悠長にして甘い考えを抱きし我々の落ち度故、自分達の持参する食料にて凌がんとすれど、今一度我々の為に作ってくれるとか、何とも有り難き話、大いに感謝。その晩飯はチキンカツ+タイカレーなれば、大いに美味。
「Makoto!」と声を掛けられ振り返るや、嘗てBerlinのEimerにてライヴを行いし度、大いに世話になりしPeterと1999年以来となる再会。歳を重ねれど、少々危険な香りさえするその雰囲気は相変わらず。彼よりEimerは数年前に閉店せしと聞けば、EimerはAMTの歴史上2度目のライヴを行いし場所にして、ヨーロッパでの初ライヴを行いし場所でもあり(因みにAMTの初ライヴはSan Francisco)もう二度とあのステージにて演奏する事も叶わぬと思えば何とも残念なり。閉店後に彼はBerlinからRostockの田舎へと転居せしとか。AMTが全く無名の頃より世話になりし人々と再会する度、唯々感謝の気持ちあるのみ。
午後10時過ぎ開演、矢張りギターのジャックの接触不良があるようで、音量が不安定なれば、これは早急にリペアせねばならぬか。ここStbunitzはビデオ班数名がハンディカメラを携えステージ上を行き交う故、アイコンタクトしようにも視界が遮られ、演奏の方も大いに迷走、されど客は大いに楽しんでくれし様子なれば、多少なりとも救われし気分か。ビデオ班が撮影せし映像は、そのままエフェクト等も施されライヴ編集が為され、ステージ上のスクリーンや船内のモニターTVやらに映し出される。ここは照明班も大いに凝っておれば、ステージの雰囲気は大層怪し気なり。
終演後は、甲板にて夜空を眺めし後、何故かDJがアシッドフォーク系を延々と流すバーフロアにて一杯引っ掛ける。洗濯を済ませ、午前5時就寝。

6月14日(水)

午前9時半起床。朝飯に昨夜のタイカレーの残りを頂き、ネット接続。来週のMadrid公演がキャンセルとの報を受ける。ヨーロッパにて斯様な事柄は然して珍しくもなければ、Madridにての宿泊場所確保を手配するのみ。津山さんからW杯日本敗戦についてのメールが届けば「日本代表ボケカスぼけかすあほ死ね!(中略)全員自殺せえ!ああしんど(;_;)ワールドカップ終わりましたぁー\(^O^)/」テレビの前にて大いに怒り狂うておられし様、想像にいと易し。昼食にシリアルを食せば、これは子供の頃に食せしケロッグのハニーポン、懐かしき味なれど、これが飯とは納得いかぬ。
キャプテンとまたの再会を誓い、クルーの車とタクシーに分乗しRostock駅へ、午後2時30分発の列車にてBerlinへと向かう。Rostock駅構内の中華料理店にて炒飯を購入せんとすれば、メニューがドイツ語故に全く読めず、されど「多分これが炒飯でこっちが焼きそばやな…」程度は推察出来れば、無事にチキン炒飯を購入、車内にて貪り食う。
Berlin Ostbahnhof駅に到着するや、お迎えの女性が来ておれど、彼女の腋臭たるや即死級の激烈さにして、危うく昏睡状態に陥るところなり。ローカル線を2度程乗り換え下車すれば、オルガナイザーのCoostが迎えに来ており、彼とも1999年以来となる再会。当時彼はStbunitzにて働いておれば、何でも6年前から船を降りBerlinへ転居せしとか。今宵のライヴ会場Bastard Clubへ徒歩にて数分、Berlinも大いに酷暑なれば、先ずはコーラなんぞで喉を潤す。当然東君は、早速バーカウンター上に設置されしテレビにてW杯中継を観戦、取り敢えず然して興味なきカードであれ「観ておかなくちゃいけないからね!」今や兎に角明けても暮れても頭の中はW杯の事でいっぱいの御様子。何しろW杯過去何大会か全試合をビデオ録画せし男である。否、正確に云えば、当時の彼女に録画させしと云うのが正しいか。1998年のAMT & TMP U.F.O.初の海外ツアーの折もW杯フランス大会とバッティングしておれば、帰国後にビデオにて全試合を観戦せしとかで、嘗てみつるちゃんがその下りを東君より聞きし折、「ほならしょうもない試合とかも全部観たん?」「うん、観ないといけないからね!でも結果はもう知ってる訳だから、つまらん試合は観るの辛いけどねぇ…だけど全部観るって決めてるから!」嘗て私も尋ねし事ありき。「もう一生二度と観いひん試合もある訳やろ?ほんならそんなんビデオで残しとく意味あれへんがな!」「多分もう絶対観ないって判ってる試合もいろいろあるよ、でも残しとかなくっちゃいけないんだ!W杯全試合のビデオ集めるって決めてるから!」この男が実はとてつもなく頑固者たるを知る私なれば、これ以上何を云おうが全く無駄なるも容易に察し得る。されど元来スポーツ観戦に然程興味なき私からすれば、結果を既に知りたるゲームなんぞ観て何が面白いのか理解し難し。嘗て私も大好きなF-1GPを全レースビデオ録画せし時期あれど、結局二度と観る事なかろうと悟るや、全て映画等を録画し消去せし経緯あり。東君やみつるちゃんの如きサッカーフリークなれば、結果云々よりも歴史に残る素晴らしきプレイにより興味があるであろう。それは私がサスペンス映画にて犯人が誰かを存じておれど、映像等が素晴らしければ幾度も繰り返し観る様と同義たるか。スポーツを結果のみならず過程まで楽しめるならば、それはまさしくそのスポーツを愛する証とも云えるか。されど東君曰く「全試合録画したのが失敗だったねぇ…一度全試合録画してしまうと、もう絶対全試合要るんだよねぇ!ほんとは要らない試合もあるんだけどねぇ…」何じゃそりゃ!詰まる所マニアの性たるコンプリート癖に他ならぬのみか。今回も友人知人に録画を依頼しておれば、頼まれし方はいい迷惑か。ちゃんとお土産ぐらい買うて帰りや。
それにしてもW杯がらみのニュースにて「ドイツに寒波襲来!」と伺っておれば、みつるちゃんなんぞ防寒用の服をいろいろ持参しておれど、これぞ全く以て不要なり。何でも隣にある広大なる公園の如きスペースに於いて、今宵行われるW杯ドイツvsポーランド戦が巨大スクリーンにて放映されるらしく、既に物々しい警備なり。サッカーに無関心のCoostは「ドイツが負けて皆しょんぼりしてライヴに来るだろう」なんぞと能天気な事を云っておれど、嘗てW杯フランス大会の折、当時AMT & TMP U.F.O.が全くの無名バンドでありしとは云え、フランス戦が行われし夜にParisでライヴを行い、客が僅か13人なりし経緯もあればこそ、そう能天気に構えられる筈もなく、ここは得意のNo Hopeにて何も期待せず成り行きに任せるのみ。
サウンドチェックを済ませれば、タクシー2台にて今夜の投宿先へ。Coostより住所を伺いし筈のタクシー運転手2人なれど、場所がよく判らぬ様子。すると丁度あの腋臭の女性を車窓より発見、向こうもこちらに気付きし様子にして、恐ろしい形相にて自転車を漕ぎタクシーを追走、こちらもタクシーの運転手に止まるよう訴え、これにて無事投宿先へと到着…と、そこはトレーラーハウス等が並ぶまるでジプシーの集落の如し。
どうやら今夜はこのトレーラーハウス群に投宿すると察知されし時点にて、このどう見たところで何処にもテレビなんぞと云う代物が存在せぬであろう状況、況してやここの住人誰もがW杯なんぞに無関心なる状況を考慮すれば、今宵のW杯ドイツvsポーランド戦をテレビにて観戦せんとの東君の目論み、これにて無惨にも散りにけり。「ドイツでドイツ戦観たかったんだけどなあ!フランス、日本と2大会続けて現地(のテレビ)で観れたからねぇ、う~ん残念!」それって大阪や神戸で阪神戦をテレビ観戦するのんと同じなんか?ならば随分慎ましやかな夢である。巨大パラソルの下の席に案内されれば、今宵のライヴの主催スタッフ達が調理中、バーベキューの準備なんぞも伺えれど、兎に角ドイツでは食に関し良き思い出皆無にして、先日もダモさんに「ドイツの名誉回復の為にも、じゃあ今度家に来た時に美味しいドイツ料理を御馳走しましょう」なんぞと云われる始末、さて今宵は一体如何な料理が登場するのやら。どうやら酒類はない様子にしてジャスミン茶を飲みつつ、料理の完成を待つ。どうも腋臭の女性ことGabbaもCoostもここの住人の様子にして、Coostの飼犬Sir Evansがそこいらを徘徊、動物好きなれど常に動物に嫌われる東君は、犬やら猫やらを可愛がろうとすれど寄っても来ぬどころか大抵逃げ出されておれば、常に寂しい思いをしておれど、このSir Evansは東君に擦り寄り大いに甘えて来る故、大層な感激ぶりにして満面の笑顔なり。

 

さて晩飯はと云えば、ジャガイモのホイル包み焼き、野菜サラダ、バーベキューチキン、そしてドイツなればこそバーベキューソーセージ。ジャガイモは馬鈴薯とメイクイーンの良い処取りの如くホクホクにして粘り気もあり美味、野菜サラダはオリーブオイルとビネガーによる到って無難な味、バーベキューチキンは程よく脂も落ち薄味にしてなかなか美味、ソーセージも久しぶりに1本食す程度ならば問題なし。今回はRostockでのタイカレー+チキンカツと云い、ドイツにての食事に問題なければ、多少認識をかえねばなるまいか。いやいやたかが一度の事では信用出来ぬ、何事にも油断せぬ事こそツアー時の鉄則なり。丁度食事も終え寛いでおれば、突然そこいらにて歓声が上がり花火が次々打ち上がる。今宵の試合はドイツが勝利したのであろう。続いてパトカーのサイレンも其処彼処にてけたたましく鳴り始めれば、さて一体如何な騒ぎになっているのやら。残念ながら今宵はテレビ観戦叶わじ東君曰く「おっ、ドイツ勝ったな!よしっ!今頃街はどんな風だろうね?盛り上がってるんだろうねぇ…」随分遠い目をしておれば、「こんな酒もテレビもない所に来るよりも、クラブの隣の公園でやってたイベントでドイツ戦を酒飲みながら観戦してればよかったなぁ…そうしたらきっと今頃はドイツサポーター達と一緒に祝杯をあげてただろうなぁ…」いくらSir Evansが懐いてくれようが、恐らく心中にては斯くの如く後悔せしに違いなし。
午後11時過ぎ、タクシーにて会場へと戻れば、既に警官が大挙して警備に当たっておれど、その警官でさえサポーター同様にドイツ国旗を背中に差しておる有様。道は歓喜するサポーターにて大混雑、何とか会場前まで辿り着けば、今度は店の前に屯するヒッピー親爺やらに声を掛けられ捲り、もう誰がサポーターで誰が今夜の客なのかさえ判然とせぬ大喧噪ぶり。表は大いに混雑しておれど、果たして会場内は如何な具合かと覗いてみれば、何と超満員御礼、思わず我が目を疑いし程。既に前座の地元バンドが演奏を行いし中、Shopzoneを広げれば黒集りの人。何しろ1998年より毎年の如くヨーロッパをツアーしておれど、ドイツは未だ全くの無名時代なる98年と99年にBerlinとRostockの各2公演を行いし以降は、2000年にRostockにて、2年前にはKolnにての各1公演を行いしのみ、兎に角不思議と縁なき国なれば、果たして今回は如何な具合かと案じておれど、それも杞憂なりしか。
満員御礼の会場内は、矢張りヨーロッパなればクーラーが完備されておらぬ様子にして、既にサウナ状態なり。ステージにセッティングするのみで、滝の如き汗が流れ落ちれば、このサウナ状態の中、果たして無事に演奏終了し得るのやらなんぞと不安にもなれど、何とか大暴れにて2時間のセットをこなせば、案の定完全なる脱水状態。終演後も全く汗が止まらず、ひたすらビールと水で水分補給しておれど、挙げ句嘔吐する始末。98年に共演せしアニメーションチームNASAのメンバーとも再会、またPeterもRostockより顔を出してくれておれば、どうやら今夜同じ場所に投宿するとか。
午前3時過ぎ、街もすっかり静寂を取り戻せし中、タクシーにてトレーラーハウスの集落へと戻れば、メンバー各人トレーラーハウス1件ずつを与えられし。清潔なベッド、簡易ながらもキッチンまで設置されており、これはなかなか楽し気なり。

 

 

何でもここは廃工場跡地にして当然家賃も不要とか。PeterやGabbaやCoost、そしてここの住人達と冷蔵庫を備えるトレーラーの脇に置かれしテーブルを囲み、10Lポリタンクに詰められしワインを呷りつつ歓談。すっかり夜も明けし午前6時就寝。

6月15日(木)

午前9時半起床、日が昇ればトレーラーハウス内の室温は矢張り上昇せり。昨夜Coostより「最高のシャワー」と教えられし、給水タンクを利用せし簡易シャワーにて汗を流さんとすれば、当然温水なんぞ出る筈もなく、先鋒を務めし兄ぃが「うわわわぁ!冷たいよ!」と悲鳴を上げる。Coostの話では灼熱の日差しにて温水になる運びなれば、これも当然の顛末なり。されどこのシャワー、浴びてみれば爽快極まりなく、また冷水故に浴び終えれば、今度は逆に体が内側より暖まるを実感す。せんせいが投宿せしは、Gabbaが4年間住みし彼女の前のトレーラーハウスなれば、寝具が猛烈なる異臭を放っておったそうで、されど蚊の襲来も受ければその寝具に潜らざるをえず、さりとて寝具に潜れば臭いは暑いはとこれまた地獄、結局蚊に食われる道を選びしとか。それはそれは御愁傷様。東君が投宿せしトレーラーハウスは、長らく使用されておらねば、ベッドにダニの類いが潜みしとかで、矢張りあちらこちら食われしとか。私も扉全開にして就寝しておれど蚊なんぞ全くおらねばベッドにダニの類いもおらず、大いに快眠せり。トレーラーハウス内の簡易キッチンにてラーメンを作り食せば、気分はすっかりジプシーか。Coostがコーヒーを入れてくれ、昨夜飲み明かせしトレーラー横のテーブルに再び集合。Peterが朝飯を買いに行ってくれておれば、パンやらチーズやら生野菜やらと到って豪華なり。

 

 

GabbaのトレーラーハウスではADSLにてネット接続も可能にして、家賃さえ払っておらねども、矢張りネット環境は整えられておれば、これ何とも不思議なり。確かに海外にては、年季が入りしGONGファンのヒッピー親爺共にしたところで、私なんぞより遥かにコンピューターを熟知し精通駆使しておれば、日本でよく見受けられる単なる時代錯誤的アナクロ似非ヒッピーにあらず、元来自分の人生哲学を全うせんとすればこそ、外見的スタイルや様式なんぞに捕われぬ故、手段としては如何なものでも用いんとする柔軟さを持ち合わせるのであろう。それに比べて日本の似非ヒッピー共の何ともお粗末な事、挙げ句は偽善的エコロジストや似非ナチュラリストに成り下がるのが関の山なり。
午後1時半、Gabbaの運転にて空港まで送って頂く。30分程にて空港に到着、ここで大いに世話になりしGabbaともお別れ。最後に彼女が「忘れ物ない?」と問うや「NO!」と力強く答えしは東君なり。
さてチェックインせんとすれば早過ぎたか、未だチェックインが始まっておらねば、東君はW杯開催地ドイツを去るに当たり、「じゃあ土産物屋でW杯グッズでも買って来ようかな!」と土産物屋へ。と、土産物屋へ向け歩き始めし刹那「あっ!」と小さく声を上げておれば「ウエストポーチを車の中に忘れた!金もパスポートあの中や!」Gabbaの携帯番号も知らねば、あのトレーラーハウス群が一体何処にあるのかも存ぜぬ有様、Coostの携帯電話に何度掛けたところで、空しく呼出し音が聞こえるのみにして、留守番電話サービスもなし。そう云えばあのトレーラーハウス内にて彼が携帯電話を携えし姿なんぞ見た事なければ、きっと彼の携帯電話は何処かに置きっ放しにされているのであろう。況してや大仕事の翌日である、下手すれば何処かへ休暇を楽しみに出掛けていないとも限らぬ。チェックインの時間もあれば、東君とは最悪明後日に行われるParisでのフェスティバルにて合流出来ればよいと云う事で、Coostに関する連絡先以外にParisのオルガナイザーの連絡先と、新たなフライトチケットを買わねばならぬ故に保険として200ユーロをも渡し、我々4名は東君を1人残しチェックインカウンターへ向かう。「まあ何処かW杯の試合をテレビで観れるバーでも探してビールでも飲みながらCoostに連絡してみるわ。じゃあ御迷惑をお掛けしますがパリで!」「Good Luck!」この状況ですら何とかW杯をテレビ観戦せんとするは、流石W杯を愛して止まぬ男、東洋之である。
無事チェックインを済ませ、easyjet午後3時30分発Geneva行きに搭乗、またしても離陸するや否や即寝成仏、着陸せしも知らねば、乗客が降り始める物音にて漸く目を覚ませし。Geneva空港駅にて明日のParisまでの切符も4人分購入、何しろヨーロッパの切符売場の鈍臭さは日本の郵便局以下にして、常に長蛇の列が形成されておれば、切符1枚を購入するに当たり、一体何をそんなに話さねばならぬのかと呆れる程に話し込み、兎に角客1人に要する応対時間は大凡3~5分と云った塩梅か。故に時間的に余裕ある前日なんぞに予め切符を購入しておくが得策なり。午後6時36分発の列車にてBernへと向かえば、2時間の列車の旅にてBern駅に到着。知らぬ間にスイスも列車内全面禁煙へと変わっておれば、何とも哀しい限り。嘗てはヨーロッパ列車の旅と云えば、ワインなんぞ飲みつつタバコを吸うてはコンパートメントにて大いに寛ぎ、何とも快適極まりなけれども、今や北欧諸国を始めイタリアやフランスさえも車内全面禁煙、せめて長距離列車には喫煙スペースを確保して頂きし処。タバコ吸わへん奴がそんなに偉いんか!ボケ!なんでお前らの言いなりにならんなあかんのじゃ!あほんだら!寝てる間に吸入機でタバコの煙を肺いっぱいになるまで吸わしたろか!カスがぁ!アウシュビッツよろしくタバコの煙室に肺癌になるまでぶち込んだろか!吸わへんのは勝手やけど、吸うてる人間にグダグダ偉そうにヌカすな!この小便たれが!お前らの家、ポイ捨て放火で焼き打ちにしたろか!
今宵の会場ReitschuleはBern駅より徒歩5分なれど、例によってSandroが駅まで迎えに来てくれし。Sandroに会いたいが故にこのBernを訪れると云うても過言にあらず、東君の一件を話し、彼は今宵ここに来れじと伝えるや「Oh No!!!Too Bad!!!」東君も大いにSandroに会いたがっておれば、彼もまた同じ気持ちたらん。会場に到着するや、ビール1本を呷り即サウンドチェック。既にアンプ群等もセットされておれば、今夜使用される事はなかろう東君用のセンターボーカルマイクとTwin Reverbが、寂しさを助長せり。さてAMT史上初となる宇宙音抜きのライヴ、とりあえず私とみつるちゃんで何とか効果音なんぞ出しつつ演奏するしか術はなし。されどAMT & TMP U.F.O.もAMT & TCIも常に東君が中央に構えておれば、この広いステージにて真ん中がぽっかり空いておる様、矢張り何やら違和感を感ずると共に、果たしてこれでもAMTなるかとの疑念さえ沸き起こりし。されど今宵だけはどうする事も出来ねば、嘗てDeep Purpleが1度だけRitchie Blackmoreが風邪で倒れし折に何とギター抜きでライヴを行いしとかで、同様に今宵は宇宙音こそなけれども、残されし4名全力で燃え尽きるのみ。
サウンドチェックを終えれば、例によって階下のレストランにて晩飯、サラダとミートローフ、到って美味なり。飯を食らいつつも「今頃東君どないしてるかな?」「今日はあのトレーラーハウスに泊まるんかな?」「まあそれもCoostに連絡ついてたらって事が前提やもんね。」「もしかしたら今も未だ空港からCoostに電話してたりしてなあ…」「そうやったら悲惨過ぎるなあ!」「仕事も終わったしって2週間ぐらいバカンスに出掛けてたりして!」「それって最悪やなあ…パスポートもないからどっこも行かれへんもんねえ…」何とか既にCoostと連絡が取れし事切に願うのみ。
会場へ戻りShopzoneをオープンするや、いきなり人集りにして好調なセールス。私の必殺逆転アイテムたる今回のツアー限定手描き扇子+ソロCDR2作品セットも漸く初日が出れば、更に続けてもう1セットも。昨年MartigniよりGeneva空港まで夜通し車で走ってくれしMartigniのオルガナイザー達とも再会、昨年は大層お世話になりました。Sandroは今宵もDJを務めておれば、相も変わらずな支離滅裂にして奇妙なる選曲、されど本人は大いに楽しそう。Sandroが嬉しそうなれば、こちらまで何やら無性に嬉しくなってくる次第、これも彼の人柄所以か。
さて開演となれば、いつもなら冒頭に聞こえる筈の宇宙音もなく、矢張り何とも奇妙な気分なり。1曲目「Anthem Of The Space」もいよいよ最後のギターソロ・パートに突入せし折、突如誰かがステージに上がって来れば、またラリりしヒッピー親爺かなんぞと思えども、この白髪頭は紛う事なく東君その人に他ならぬ。徐ろにセッティングし始めれば、こちらは急遽即興に突入し、彼のセットアップが終了するまで演奏を引き延ばさんとす。一体どういう経緯がありしかは想像だに出来ねども、兎に角東君が現れし事で漸く本来のAMT & TCIとなれば、これより後はひたすら一丸となりエンジン全開にてぶっ飛ばすのみ。
Sandroは東君の登場を大喜びしておれば、東君もSandroに会えて嬉しそう。Coostに電話が繋がらぬ故に空港のネットサービスよりメールを送信、運良くCoostがこのメールを読み東君からの電話を待機、これにて無事に連絡がつき、GabbaのみならずCoostと愛犬Sir Evans共々空港までウエストポーチを届けてくれしとか。別れ際に彼等と抱擁せし際、あまりの感謝の気持ちからか、Gabbaの腋臭さえ愛おしく感ぜられしとか。これこそマニアへの扉ならんか。彼の悪運の強さはそこまでに留まらず、僅か2席を残すのみと告げられし本日便のBasel行きのフライトチケットを購入し得るや、それにてBaselへ飛び、列車にてBernへ。ここReitschuleは、Bern駅より徒歩5分にして、幾度も訪れておればこそ、自らの脚で無事辿り着けしか。Reitschuleへ向かいし道中、既に演奏が爆音にて聞こえておれば「何とか間に合った!」と、そこからダッシュせしとか。終わり良ければ全て良し。東君の受難日は、斯くにして何とか終わりを告げし。
終演後、勿論SandroのDJはいよいよ絶好調にして、彼の真骨頂たる意味不明の2枚掛けも炸裂、今宵はいつもの如く客も早々に退散せぬどころか、未だ結構な賑わいにして、これも所謂サマーホリデー所以か。そもそもReitschuleは5月末にて今年上半期の営業を終えサマーホリデーに突入しておれど、このAMT & TCIのライヴ1本の為に、わざわざ本日のみ営業してくれたらしく、スタッフ一同には感謝して余りある。毎度照明を担当するジュディー・フォスター似の姉ちゃんも相変わらずにして、されど毎年会う度に肥大化しておれば、その点のみが唯一気に掛かる処。
会場2階の宿泊スペースに投宿。すっかり酩酊状態なれば、何とか洗濯のみ済ませ、午前5時就寝。

(2006/7/13)

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