『人声天語』 第132回「くたばれ日本!(AMT & TCI 欧州ツアー 2006)」#6

6月26日(月)

午前9時起床。オーナーの奥さんが朝飯を用意してくれれば、スクランブルエッグ+パン+チーズ+ハム等、今やすっかり見慣れしメニューにして、何はともあれ有り難しと頂く。今宵はWarsawにて私のソロ・ライヴなれば、他のメンバーはオフにして、何よりも以前より楽しみにせし日本レストランへ赴く事こそ、今宵のメインイベントなれど、既に東君に到っては、今宵W杯のテレビ中継を観戦し得るかどうかこそが最大の関心事の様子なり。
さて午後ともなれば、オーナー夫婦とMichalの案内にて彼等の呼ぶ処の「World Market」と「Stadium」へと赴く。このクソ暑い中、別段観光なんぞしたくもなけれども、そのWorld Marketにては世界中の奇妙な品々が格安にて売られているとかで、それを聞くや我等キャピタリストの飽くなき散財欲求が大いに刺激され、いざ出陣と相成れど、そのStadiumって一体何やねん?されどWorld Marketに到着してみれば、店の殆どは閉まっており、我々は一気に意気消沈。と同時に「何でこんな暑いねん!大体開いてるかどうかぐらい調べとけや!」酷暑のせいもあり次第に腹が立って来る事この上なし。更に階段を延々と上らされれば、辿り着きしはそのStadiumなれど、だからこれ何やねん?話ではその名の通り古い競技場らしけれど、然して珍しいと云う程にあらずして、一体何故暑い中しんどい思いして、斯様にしょうむないもん見せられなあかんねんな!オーナー達は「じゃあここで記念撮影しよう!」とはしゃいでおられれど、こちとら思わず仏頂面にもなるは当然か。されど斯様な我々の心中察する筈もなく、彼等は大いに楽しそうなり。
Stadiumを早々に後にすれば、広大なマーケットを発見、先程の失意の後なればこそ「ワシらに金遣わせてくれ!」とばかりに足早に突入、されど殆どが華僑による服屋、靴屋、日用品屋にして、取り立てて購買意欲を掻き立てる代物もなし。東君とみつるちゃんは、バッタもんのW杯Tシャツを発見すれど「う~ん、出来悪過ぎやなぁ。それに今回のW杯のこのニコちゃんマークみたいなデザイン、これは酷過ぎるねえ~!」結局みつるちゃんがサングラスを、東君が暑いからと扇子を購入せしに終わる。Michalがスイカを購入してくれば、皆で1切れずつ頂く。されどメロンアレルギーの私は、案の定スイカ1切れにてアレルギー発症、唇が腫れるは、喉の奥やら耳の中が猛烈に痒いはで大いに苦悶。暑いは痒いはでええ事何もあれへんがな!
ここでオーナーが「じゃあビールを飲みに行こう!」と提言、この酷暑にして既に熱中症寸前の我々一同「OK! Let’s go!」されど向かいしは巨大な公園にして、延々と歩かされる事30分以上「ビールやったらそこらのバーに行けばええやん!」「外人ってすぐに自然を満喫したがるからねぇ~」「ホンマにあいつらアホやで!」「このクソ暑い中、あいつら何であんなに元気やねん?」「そういや外人ってこんだけクソ暑くても、誰も汗かいてへんよなあ…」「ワシらもう汗ダラダラやのに…」「日本人って弱いんかなぁ?」「ああ~っ、もうあかん、しんどさの限界!」「一体何処までビール飲みに行くつもりやねん?」「もう帰って寝たい…」文句垂れつつも歩くしか術もなく、漸く公園の池の畔に建つバーへと辿り着けば、あろう事かビールが本日売り切れ。「えっ?何それ?」「なしぞぉ~!バーでビールが売り切れってなあ!」「このやる気のなさがヨーロッパやで」「旧東ヨーロッパのポーランドやで!しゃあないな…」「あ~キャピタリズムはここには未だ根付いてないなあ」「ホンマ、商売する気まるでなしやなぁ…」「やっと辿り着いたと思ったらこのオチですか…死ぬぅ~」「どんどんポーランド嫌いになっていくやんけ…」「せやからどっか近くのバーに行けばよかったのに…」泣き言を云った処でビールが出て来る筈もなし。一休みするや、再びオーナーから提言「じゃあ違うバーに行こう!」こうなれば何としてでもビールを飲みたい我々なれば「OK! Let’s go!!」しかし酷暑の中を再び歩き始めるや「あかん、暑過ぎる…」「この公園デカ過ぎるわ、未だ出口さえ見えへんやん…」漸く公園を後にすれば、そこいらにバーが立ち並んでおれど、先導するオーナーは見向きもせず。「おいおい、一体何処まで行くねん?」「もうええやん、ここらのバーに入ろうや!」「きっと金持ちみたいだから、自分の行きつけの店があるんじゃないの?」「暑過ぎる~っ!もう死ぬで、ホンマ…」「まさかまた国境出てくるんちゃうやろな?(第123回「文句垂之助の欧州地獄旅 #10」参照)」」「去年の悪夢が蘇るぅ~!」「まだ山登りよりはマシやろ!(第123回「文句垂之助の欧州地獄旅 #12」参照)」「去年の悪夢がぁ~!」「ほんでまた糞尿汁が待ってたりして!」「勘弁して下さい!死ぬぅ~!」結局この炎天下の中を再び歩く事30分以上、漸く辿り着きしはPizzelia所謂ピザレストランなり。
滝の如く滴る汗を拭いつつオープンカフェに腰掛ければ、風も吹いておらず暑い事この上なし。されど店内も勿論クーラーなんぞなければ大いに暑く「何でこんなに暑いのにクーラーないねん?」オーナー達も暑いとは云っておれど、矢張り汗なんぞかいておらず「こいつらの体ってどないなってんねん?新陳代謝せえへんのか?」何はともあれビールである。酷暑の中を歩き回ればビールの美味さも格別なれど「しゃあから何でビールがキーンって云う程冷えてないねん!」ピザ好きの東君、みつるちゃん、せんせいの3名はピザをオーダーし貪り食らっておられれど、今宵は日本レストラン行くの自分ら忘れてへんか?
午後5時、オーナー宅へ戻り、機材と物販商品を携え今宵の会場Auroraへ。荷物を下ろすや早速日本食レストランへ向かわんとす。Warsawには毎度訪れる「日本館」と云う日本人が経営するレストランがあれど、Michalが「Auroraの近所に新しい日本レストランが出来たので、今夜はそこへ行こう。日本館とどっちが美味しいか教えて欲しいしね。」と云う故に、今宵はその新たなレストランへと赴く。
いざ暖簾を潜るや否や、迎えてくれしは中国女性、寿司カウンター内にはポーランド男性の寿司職人「こりゃ期待薄やなあ…」数日前より私とせんせいは「絶対カツカレーや!」と宣言しておれども、残念ながらカツカレーはここには存在せず。「日本館やったら超特大カツカレーあったのになぁ…」仕方なくカツ丼に変更、更にサバ味噌煮とタラ肝と厚揚げ焼き、そして日本酒をオーダー。厚揚げ焼きをオーダーせし際、ウエイトレスに「Only this?」と問われれば、如何なる意やら解せず「Yes! Only Atsuageyaki!」と答えし。東君は寿司数種と天ざるうどんと納豆、みつるちゃんは天ざるうどんと納豆と日本酒、せんせいは寿司盛り合わせと天婦羅うどん、兄ぃはカツ丼と納豆を各々オーダー。カツ丼は問題なく美味なれど、タラ肝は想像せしとは多少異なる味付けにして、サバ味噌煮はまるでサバの味噌汁の如し。ところでテーブル中央にあるコンロに火が入れられれば「何でやろ?」そこへ天ざるうどんのざるうどんと、天婦羅うどんのうどんのみが運ばれて来れば「あれ?天婦羅は?」「もしかしてここで自分で天婦羅揚げろ云うんちゃうやろな?」「そんなアホな!天婦羅って揚げるテクニックこそ天婦羅職人の腕の見せ所やん!」東君とみつるちゃんは、取り敢えずざるうどんのみを食し始めれど、せんせいに到っては「これやったらただの素うどんやん!えぇええええっ!ちょっとこれキツいで!」未だ天婦羅が出される気配もなく、されど天婦羅を待っておればうどんが伸びてしまうであろう故、仕方なくうどんのみ食し始めるしか術もなし。「所変われば料理も変わるって事やな」「でもこれ日本ではあり得へんで!」

 

 

そこへ運ばれしは、皿に乗せられし厚揚げ2枚と、何故か焼肉のタレなり。「もしかして、この厚揚げをここで焼けって事?」何と厚揚げ焼きとは、この店に於いては焼肉のベジタリアンメニュー(って何やねんそれ!)なれば、自ら網にて焼き、焼肉のタレにて頂く代物なり。「こんなもん厨房でチャチャって焼いて出してくれりゃええのに!大体厚揚げと焼肉のタレってなあ…厚揚げ焼きって普通おろし生姜と葱やろがぁ!」取り敢えず醤油を掛けて頂けども、折角の大好物なる厚揚げ焼きも、これでは到底堪能するに至らず。

 

 

漸くここで天婦羅が運ばれて来れば、漸くせんせいも天婦羅うどんを堪能されし。

 

 

会場へ戻れば、中庭にて設けられしオープンカフェにて、多くの客が特別に用意されしテレビにてW杯中継を観戦中、当然東君とみつるちゃんと兄ぃは即座にその中へ。一方私はステージにてセッティングを済ませ、ウォッカを呷るのみ。ホール内まで東君とみつるちゃんのサッカー解説やら絶叫やらが聞こえて来る有様、今更云うまでもないが今回のツアーに於いて彼らの関心事とは何よりもW杯の御様子。
試合終了と同時に演奏開始、今回はギターソロ用エフェクターなんぞ持参しておらねば、現在持参するエフェクターのみにてギタードローンを展開。終演後、Shopzoneも大いに賑わっておれば、社長も久々の大奮闘。
バーにてお馴染みMad Dogをオーダーすれば、居合わせしオーナーより「『Auroraスペシャル』を是非試してくれ!」と云われ、ならばと受けて立つ事にするや、バーテンダーが取り出せしはショットグラス10個。その10個のグラスをカウンター上に1列に並べ、生レモンジュースとウォッカを順に注いで行けば「これがAurola Specialだ!全部君のグラスだからね!」おいおい、いきなり10杯かいな。既にライヴ前にウォッカ6杯程呷りておれば、これは私に轟沈せよとのお達しか。丁度居合わせしメンバー達に声を掛け、皆にお裾分けすれば、3杯を呷るのみに済ませ得る。
午前2時、オーナー宅へ帰宅。明朝はフライト故、フライト用パッキングを済ませれば、オーナー達がビールなんぞ持参し、再び飲み明かす羽目に。午前4時就寝。

 

6月27日(火)

 

午前6時半起床、起き抜けに洗濯を済ませる。オーナーの奥さんが朝飯を用意してくれれば、速やかに頂き、午前9時過ぎに車2台にてWarsaw空港へ。チェックインカウンターが1カ所しか開いておらず長蛇の列にして一向に進む気配もなし。ここまで見送りに来てくれしMichal曰く、つい先日ポーランドを訪れし一楽さんは、空港到着が大幅に遅れ、されどチケットがビジネスクラスでありし故にチェックインも長蛇の列に並ぶ事なく済ませ得れば、何とか無事にフライトに間に合いしとか。されど我々は哀しいかなエコノミークラスなれば、斯様な具合に行く筈もなく、列に並びてひたすら待つしか術もなし。時間的には充分余裕を持って到着せしにも関わらず、我々がチェックインを済ませし頃には、既に搭乗開始時刻なり。勿論我々の後ろにも未だ多くの人が並んでおれば、これは一体如何なる不手際なるか。本来ならば免税店にてウォッカを購入せんと思っておれど、斯様な余裕は既になし。出国手続きを済ませ、そのまま恐ろしい程に長蛇の列を為すセキュリティーチェックへ。並ぶ人が比較的疎らな列が隅にあれば、こちとら既に一刻を争う故にそちらへ並び、何とか金属探知器まで辿り着く。されどここで私のリュックに入れられしお土産のW杯マグネットが金属探知器に引っ掛かるや、厳つい男性職員がそのマグネットを手に取りしげしげ眺め「これは何だ?武器ではないのか?」あまりにも阿呆な質問に思わずその質問を聞き直せし程にして、矢張りあまりに阿呆な質問故に「アホか!お前サッカー知らんのか?W杯知らんのか?ポーランドも出てたやんけ!これはどう見てもW杯の土産もんやろ!これの何処が武器やねん?」更にこの職員は私のリュックを開け、荷物全てをチェックし始める始末。金属にあらざる品までいちいちチェックしておれば「お前、それ金属とちゃうやろが!」散々リュックの中のもの全てを取り出し散らかせし挙げ句「OK!」何がOKやねんと云う訳で「お前ちゃんと元通りにしまえ!」と言い寄れば「No!」おちょくっとんのか!そこから暫く押し問答を繰り返せど、結局職員は「No!」の一点張り。御蔭で搭乗ゲートに辿り着きし頃には、既に最終コールとなっており、チェックインの際に後ろに並びし客達にも既に先を越されし様子にして「お客様が最後です!」何とかギリギリ間に合いしかと安堵せし刹那、後方より走り来る東君の姿を確認、何でもトイレに行っておったとかで、再び嘗てのLAでの飛行機乗り遅れ事件(第19回「AMT US TOUR雑記 – 其の壱 -」参照)を再現する処でありしか。
午前10時55分発Austrian航空Wien行きに無事搭乗、午後12時半にWien空港へ到着、午後13時45分発Austrian航空Zagreb行きに乗り換え。空港内に設営されし喫煙エリアはその名も「Smokers Paradise」これには思わず苦笑せり。Zagrebには午後3時前に到着。いよいよ今回のツアー最終地点に降り立てり。
Zagreb空港には、オルガナイザーMateと7that SpellsのペーシストDedaが車2台にて迎えに来てくれておれば、投宿先たる7that SpellsのギタリストNiko宅へと向かう。矢張りクロアチアも猛烈に暑ければ、昨年の山登り事件(第123回「文句垂之助の欧州地獄旅 #12」参照)を思わず想起せし。
Noko宅に到着、世界3大ロック馬鹿の1人たるNikoと再会を喜び合う。ライヴは明晩故に今夜はオフにして、Zagrebに来れば、当然の如くクロアチアン・アンダーグラウンド・シーンに於けるミーティングポイントたるBar Golfへ赴くは云うまでもなし。Bar Golfのオープンカフェに座っておれば、クロアチアン・アンダーグラウンド・シーンに携わる殆どの人間が入れ替わり立ち替わり現れるのである。道路中央に大きく広がるBar Golfのオープンカフェは常に大層な賑わいにして、W杯中継もスクリーンにて流されておれば、東君、みつるちゃん、兄ぃの3名は、誰と話す訳でもなく、ひたすらスクリーンを見詰めるのみ。斯様な中、せんせいは隣のテーブルに座する女性グループに、明晩のライヴの販促活動、御苦労様です。自称7that Spells専属カメラマンこと昨年我々が呼びし処の「アホ」も登場、髪をバッサリ刈り、心なしか表情も明るければ、どうやら彼女が出来た模様。Mateも例によって自慢の自転車にて現れれば、何でも先頃第1子たる娘が生まれしとか、おめでとう。されど彼はどうしても息子が欲しかったらしく、再度子作りに挑戦するとか。また彼は長らく続けしオルガナイザーを辞するとかで、ならば今後はNikoに依頼するしか術もなしか。Niko曰く、Mateの功績は大きく、Zagrebにてメジャーからマイナーまで数多くのロックコンサートをオルガナイズして来ればこそ、現在のクロアチアのアンダーグラウンド・シーンも育まれしとか。
さて夜も更ければ、Niko宅へ戻り更にビールを呷る。昼間は大いに猛暑なれど、夜は比較的涼しく過ごし易し。されど矢張りクーラーが恋しくなるは、我々日本人の哀しき性か。どうも私を除くAMT & TCIのメンバーは、直ぐさまパンツ一丁になるのが好きと見え、事ある毎に服を脱ぎ捨てその見苦しい姿を晒す習性あり。Nikoとテラスにてビールを呷りつつ歓談、7that Spellsの新作も聴かせてくれれば、中近東フレーバー満載の変拍子中近東サイケ・プログレと化しており、この1年間の彼等の成長が感じられる。結局晩飯は食い逸れ、午前3時就寝。

 

6月28日(水)

午前8時起床、あまりの暑さで目覚める始末。洗濯&シャワーを済ませる。我々が窓を開けんとすれば、Nikoより「窓を開けると熱い空気が入って来るから、閉めておいた方がマシだ」と注意を受ける。なんちゅう所やねん。兎に角あまりに暑過ぎて、何もやる気起きぬどころか、動く事さえ煩わしい程。空腹なれど食料を買いに行く事さえ億劫にして、灼熱の太陽が照りつける外へは出る気さえ起こらず。結局昼からビールを飲むしか術もなく、今宵ライヴがあるにも関わらず、既にテンションは限りなくマイナス状態。朝からNikoの彼女Petra(昨年お目に掛りし折、名前を「バッテラ」と聞き取り覚えておれど、正しくは「ペトラ」なり)がケーキを作っておれば、何と今日は私の誕生日であったか。当の本人さえ忘れておれど、誕生日ケーキまで焼いて頂き恐悦至極、空腹故に思わず貪り食う。東君とみつるちゃんは、テレビにて昨夜の再放送であろうが何であろうがひたすらW杯観戦、そして例によって自らの解説やら蘊蓄を述べ捲る始末。サッカーなんぞに無関心な私からすれば、所詮他人が行う事(試合)の結果に対して、よくもまあそこまで一喜一憂しては、自分の人生の時間やエネルギーを充てられるものだと関心さえすれど、本人曰く「W杯大好きだから!」ホンマ幸せな輩達である。
午後5時、車2台に分乗し今宵の会場たる河原へ。今宵のライヴは屋内にあらず、広大な河原にステージを設営し行われる。いざその場所へと赴けば、ステージとは名ばかり、要するに単なる河原の樹の下、草の上、成る程60年代サイケバンドのLPジャケットなんぞにてお目に掛る、所謂レトロな屋外自主コンサートの雰囲気なり。

 

 

7that Spellsがサウンドチェックを行っておれば、空腹な私とみつるちゃんとせんせいは、近くのレストランへ赴き「兎に角肉食いたい!」と、ウエイターお_めの数人用バーベキュー盛り合わせにビールと赤ワインをオーダー。いざ運ばれて来れば、巨大な大皿に分厚いステーキやらビーフリブやらポークチョップやらが山盛り、果たして完食し得るのか。しこたま肉を食らえば大いに満足、昨日からの空腹もこれにて見事解消せり。

 

さて会場たる河原へ戻れば、既に客もかなりの人数が集っており、いよいよ7that Spellsの演奏が始まりし処、Mateの両親が作りし自家製ワインを呷りつつ彼等のライヴを観賞せんとす。7that Spellsは、1年前に共演せし直後にギタリストNikoのソロユニット化せしとかで、今回はドラマーもベーシストも前回とは異なれば、音の方もより一層プログレ色強くなりけり。されどNikoの話では、今後は再びオリジナルメンバーDedaとStjepanのリズム隊に戻すそうな。何でも私がAcid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.とAcid Mothers Temple & The Cosmic Infernoの2組のAMTを区別化し共存させるコンセプトに大いに共感し、この新たなリズム隊と共に7that Spells名義にて新譜を録音せしとか、されど新旧両バンドのメンバーがお互いもう一方のバンドに嫉妬する等の問題が噴出、ただ単にカッコ良いロックを演りたいばかりのロック馬鹿Nikoは、斯様な複雑にして煩わしき事には到底耐えぬらしく、今宵ライヴを行うこの新生ラインナップでは、多分これが最後のライヴになるであろうとの事。7that Spellsに続き、急遽セッションを挟む事となり、7that SpellsからはNiko、先程のベーシスト、そしてオリジナル・ドラマーのStjepanの3名、こちらからは東君、せんせい、そして私の3名が参加する形で、ツインギター+ツインドラムの6人編成。いざ演奏を開始するや、私の使うアンプがショボ過ぎ自分の音が全くモニター出来ず、ギターを捨て去り急遽厚顔無恥にもボーカルに転向せり。編成的には7that Spellsが演奏の主導権を握っておれば、音は矢張り中近東風メロディー爆裂のプログレとなり、ならば奥義で応えんとばかり、出来もせぬDemetrio Stratosの物真似なんぞでお茶を濁せば、意外にも何故か大ウケ。されど斯様に無謀な試み、日本なんぞでは絶対に出来る筈なし。これも誕生日故の酔狂として許して頂きたい処か。
すっかり陽も落ち照明代わりのトーチのみが照らす中、漸く我々の演奏開始。今度はNikoのアンプを借りし御蔭でギターも爆音にて演奏し得るか。気付けば河原は溢れんばかりの集客にして、遥々近隣諸国から駆け付けし客も大勢いたらしい。何しろ本ツアー最後の夜なれば、完全燃焼せんと全開モードとなり、途中ダックウォークやら後転まで披露、挙げ句はアンプの上によじ上り、更に頭上の枝にてギター絞首刑、最後は兄ぃがドラムセットを破壊。終始電源トラブルに泣かされし東君は、演奏に集中する事叶わず、最後のドラムセット破壊の刹那も完全に乗り遅れるどころか、気付けばステージは惨状と化しており、客が狂喜乱舞するその前で独り呆然と立ち尽くすのみ。斯くして今回のAcid Mothers Temple & The Cosmic Infernoのヨーロッパ・ツアー全日程終了。
終演後、社長みつるちゃんと共に、ステージにてShopzoneをオープン。私は今回のツアーに於いて、着替えを全て昨年のUSツアーTシャツの売れ残り(XXL)にて済ませておれば、ここでそれら(洗濯済み)を格安にて全て売却。これにて帰国する際の荷物軽量化も図れようか。
さて機材を撤収しNiko宅へ戻れば、ツアー最終日にして私の誕生日でもあり、7that Spellsのメンバーやら友人やらが大挙して押し掛けて来れば、これはもういきなりパーティー状態。明日よりNikoとDVDの編集作業を行う為にここZagrebに残留する私を除くメンバー一同は、明くる早朝にはここを発たねばならぬ故、この喧噪をものともせず、黙々と帰国フライト用最終パッキングに勤しんでおられる。お土産やら思い出やらで各自その鞄も重くなりておればこそ、不要なものは迷わず廃棄、是れこそツアー最終日の鉄則也。シャツやら下着やら靴下に始まり、余りし食材や調味料各種、兎に角最早不要と思しき代物は迷わず捨てるべし。今宵は未だパッキングする必要なき私は、テラスにてNiko達とひたすらワインやらビールやらを呷るのみ。ふと気付けばNikoが米を炊きて食しておれば、私が持参せしちりめん山椒ふりかけを提供。然ればNikoはこのちりめん山椒ふりかけを甚く気に入りし様子、一瞬にて2袋を償却するや「このスパイシーな魚、これは何だ?美味し過ぎる!マコト、日本に帰ったらこれをどっさり送ってくれないか?」お前一体なんぼほど気に入っとんねん!既に出発まで数時間もなければ、未だパーティー騒ぎが続く中、皆何とか就寝せんとしておれど、遂にみつるちゃんがテラスに参上「もうこうなったら寝ずに出発するわ!」されど出発まで残す処あと1時間半と云う辺りで、みつるちゃんはダウン、Nikoもテラスにてダウン。気付けばパーティー騒ぎもお開きとなりて、いつの間にやら友人一同も帰宅せし様子。せめてメンバー一同を見送らんと思う私なれど、残す処1時間にして遂にテラスにて轟沈。朝日のあまりの暑さに目覚めれば、既にメンバー一同は空港へ向かいし後にして、彼等を見送る事叶わず。気付けば私の鞄の上に、東君が寿がき屋の即席味噌煮込みうどん1袋を残してくれておれば、嗚呼、何とも有り難きかな。
東君とみつるちゃんは、ツアー出発前にW杯全64試合の録画を彼女や友人知人に依頼しておれば、きっと帰り着くや否や、自宅にてセルフW杯を開催する事であろう。普段なら退屈極まりない日本への長い帰路も、当然終始未だ終わっておらぬW杯について、いろいろ予想等熱く語っておられると察せられる。何はともあれ「お疲れさまでした!」否、この一言はメンバーへ向けてにあらず、他人の迷惑顧みぬ東君とみつるちゃん両名より、W杯全64試合の録画を依頼されし気の毒な方々へ送る一言なり。
これにてAcid Mothers Temple & The Cosmic Infernoの欧州退屈道中記も完。

 

 

(2006/7/13)

(2006 / 7 / 13)

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