『人声天語』 第141回「日伊共同戦線欧州道中股栗毛(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2008)」其之八

11月25日(火)
午前8時半起床。昨夜のうちに事務所に電気ポットや電子レンジがあるを確認しておれば、さて朝飯を食わんと思い事務所へ、既に兄ぃと津山さんから「かなりイケる」との評価を伺っておればこそ「最終兵器」としてここまで温存せしレトルトのビリヤニをここで召喚。日本より持参せしタッパは電子レンジ対応なれば、タッパへビリヤニを移し電子レンジへ。今まで海外にて食せしレトルト食品としては充分評価するに値すれども、敢えて日本のドライカレー的風味を求め、日本のカレー粉と味の素、辛味を求めハバネロソース、そして前回のドライカレー作戦に於いて大功労賞に値する働きをせしトンカツソースを加えれば、本場インドやパキスタンのエスニックなる風味から一転、嗚呼、これぞまさしく懐かしのドライカレーの味なり。

米好きの兄ぃは「同じ米だからね」と、昨日の晩飯の残りインサラタ・デ・リゾ(insalata di riso)所謂ライスサラダに挑戦、嘗てこの忌まわしきイタリア料理をAMT & TCIのツアーにて食らいし折、その激不味さの前にメンバー全員が敢え無く爆死せし経緯あれば(人声天語第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#9 参照)何たる勇気ある行動、否、暴挙か。何しろイタリア人は、日本人の如く米を主食たる穀物としては捉えず、野菜の一種として捉えている故、斯様にサラダとして食するものにして、米の茹で具合も勿論アルデンテ(al dente)所謂若干芯を残す茹で具合を好めば、日本人にとって芯が残る米なんぞ炊き損ない以外の何物でもなく、更にその芯が残る米をわざわざ冷やして食するなんぞ、米に対する侮辱とさえ思える始末にして、到底口に合う筈もなし。されどイタリア人にとっては、日本に於いて一般的なるマカロニサラダなんぞまさしく同様、許されざる様子にして「冷たいマカロニ(パスタ)なんか食える筈がない!」と信じ難き代物とか。彼等にとって米とは、日本人に於けるジャガイモに置き換えれば、些か理解に易いか。ドイツやイギリスに於いてジャガイモこそ主食を為す穀物なれど、我々日本人にとっては野菜の一種に過ぎず、故にポテトサラダや肉じゃが等として食するものなり。国も変われば主食も変わる、これもまた仕方なきもの。さてインサラタ・デ・リゾに果敢に挑戦されし兄ぃなれど「うっ…やっぱり不味いよ…これじゃあ米が勿体ないねえ…ちゃんと料理すれば美味しいのにねえ…」いやいや、これはこれでイタリア人的には「ちゃんと料理した」代物なんですけど。

午前10時過ぎ、昨夜のスタッフの1人が、朝飯としてパン各種を買って来て下されば、クリームドーナツ2個を食し、チョコクロワッサン2個を車中でのお菓子としてキープ。

スイス入国に際し1~2時間を要すると思われれば、午前11時、一路Zurichへ向け出発。スイス国境にて厳しいチェックを受けんと想定されれば、膨大なる物販商品に課税されぬよう、Koppaは商品を全て荷台に設置されるデカいケースの奥へ隠し、商品の上にLucaの医療道具を乗せカモフラージュ、更にそのケースの上に機材やら鞄やらを積み上げケースが見えぬように工夫せし。勿論荷物全部を調べられれば、斯様な努力も徒労に終わろうが、簡単なチェックならば効果は充分ならん。彼等は常々イタリアからスイスへ入国する際、相当厳しきチェックを受けては課税されし事も度々とかで、今朝はイタリア軍団全員妙に神妙なる面持ちなり。現在Melt Bananaのドラマーを務める夘木君に、Melt Bananaの欧州ツアーに於いて車にて国境を越える際、何か問題なかりしかと訊ねし処、矢張りスイス国境にて物販商品に課税されし経験ありと伺っておれば、常にあれ程能天気なるイタリア軍団の珍しき杞憂ぶりも頷けるか。
さて遂にスイス国境へと到着するや、一瞬車内に緊張が走れど、何とゲートはあれど無人なれば止められる事もなく、完全なるスルーにして無事国境通過せり。イタリア軍団はまるで狐に摘まれしが如し、漸く無事通過せし事実を認識すれば「これはラッキーだ!」一同大喜び。これこそKoppa御自慢の「magic cazzo(魔法のち*ぽ)」の御陰と、車内はKoppaの一物を讃え大騒ぎ。

国境越えに要すると思われし2時間を費やさずに済めば、入り時間に対し2時間早く到着するかと思われれど、大渋滞に巻込まれれ、挙げ句入り時間より1時間遅れの午後7時前に今宵の会場Ziegel Oh Lacに到着。Francescoが「入国審査で手間取ったと口裏を合わせてくれ」と、遅刻について嘘の釈明をせんとする辺り、これもイタリア人的「悪意なき弁解」なれど、これも些か大阪人的でもあるか。そもそもオルガナイザーが遅刻に対し怒りし様子も伺えねば、また会場は午後9時までレストランとして営業中にして、サウンドチェックはレストラン営業の終了後との事なれば、然して嘘までつきて弁明する必要なからんと思えど、これこそ「無闇に人から嫌われたくない」と思しきイタリア人の外面の良さか。これが高慢なるフランス人による釈明ならば、何とも鼻に付く処なれど、悪気なきイタリア人なればこそ許される不思議さなり。
レストラン営業時間なれば、我々も晩飯を食らわんとテーブルに着く。今宵のオルガナイザーがノルウェイ人にして、嘗てノルウェイのTrondheimにて世話になりし猟師Jorgen(人声天語第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之九参照)の友人との事、然ればJorgenから我々の為に鯨肉を預かりしとかで、これもノルウェイ人は我々と同じく鯨を食らう民族なればこその好意なりしか。レストランのシェフが、特別にこの鯨肉を焼いてくれれば、同じくJorgenから託されし手作りバターを添え頂く。嗚呼、何たる美味か!有り難うJorgen、幾ら感謝しても余りある。

イタリア軍団は鯨肉を食らうは勿論初めてにして、Francesco曰く「まるで肉だ!ラムに似ていてとても美味い!」当たり前やんけ!鯨は哺乳類やからなあ。鯨油を搾取する為に鯨を大量虐殺し捲った上、その責任をワシらに転嫁しようとするお前らとはちゃうんじゃ!ワシらは鯨の何もかもを感謝して食らう文化を持っておれば、お前らに文句言われる筋合いなんかないんじゃ!ボケが!そもそもお前らの全く身勝手極まりない動物愛護なんぞと云う言い分の御陰で、鯨食うのが罪の如く云われておれど、日本人にとってみれば鯨は昔からバカデカい魚なんじゃ!牛は田んぼ耕すのに必要やったから家族も同然で感謝こそすれ食わねども、鯨はデカい魚やからぶち殺して食うとったんじゃ!お前ら野蛮人が牛食うのんをワシらが避難した事あるか!他民族の文化に対してグダグダ文句ヌカすな、このタニシが!今まで散々牛やら豚やら山羊やら羊やら鶏やら七面鳥やら鹿やら兎やら食うといて、挙げ句何が今更ベジタリアンじゃ!内蔵も食わへん獣の食い方も知らんカス共に、何でワシらが説教されなあかんのんじゃ!2万回自殺せえ!鯨もイルカも食うたらええんじゃ!絶滅するなら絶滅せえ!それがホンマの自然の摂理ちゅうもんなんじゃ!佐川君みたいにお前らも食うたろか!
Jorgenから届きし鯨肉を堪能せし後、いよいよ今宵の晩飯と相成れば、私と津山さんと兄ぃは鮭ステーキのクリームソース添えを、「疲れてきてるからガツンと肉食いたい!」と訴える東君はチキングリルを注文。鮭ステーキは焼き具合もややレア気味にして素晴らしけれど、矢張りひと味足らぬと感じられ、ならばと醤油を一垂らしするや、味がグッと引き締まり鮭の旨味も増せば大いに美味なり。東君は鶏腿肉1本のグリルにかぶりつくや大いに満足げ。

私が食後のエスプレッソとAmazza caffeとしてバーの酒棚にて見つけしイタリアンリカーを所望すれば、イタリア軍団は「Makotoはイタリア人だ!」と大爆笑。amazza caffeとは「コーヒー殺し」とでも訳せばよいか、コーヒーを呷りし後にアルコール度数の高き酒を呷るイタリアの習慣なり。イタリア軍団の話によると、ここのシェフはイタリア人なれば、料理も大層素晴らしきとの事、御陰で彼等は大いに満足げ。
午後9時、レストラン営業が終了。漸くStearicaのサウンドチェックが始まれば、店内の椅子やテーブルが片付けられる中、気が付けばステージが現れ、先程まで店内を埋め尽くせしレストラン客達とは全く雰囲気の異なるヒッピー親爺やら若者達やらが、続々と詰め掛けてはビールを呷り、今やレストランたりし雰囲気は皆無。
終演後、クラブの女性オーナーに赤ワインのボトルを振る舞って頂けば、ワイングラス片手にFrancescoと歓談。Francescoは、今宵の女性客のひとりに御執心なれど、その女性客は友人及び彼氏らしき男性数人と話し込んでおり、矢張り望み無しかと諦めんとしておれば「彼氏とかおっても関係ないやろ!当たって砕けろや!行動せえへんかった事を後悔するより、行動した結果あかんかった方が、後で納得出来るやろ!行って来い!」と、焚き付けるや、そこは流石イタリア人、私の言葉が終わるや否や彼女が話し込む一団へ駆け寄り、気が付けば彼女と二人親し気に話し込む有様。今宵はホテルに投宿なれば、さて撤収せんとするや、Francescoは彼女と夜の闇へ消えると云う。おおっ、やりよるやんけ。Francescoと彼女を見送りし後、我々はバンでホテルへ、私は東君と同部屋。テレビが起動せず、されどヒーターは稼働しておれば、この方が余程重要にして、その有り難みを東君共々改めて噛み締めるものなり。室内禁煙故に、窓を開け喫煙しておれば、KoppaとDavideが何処かへ出掛けて行く姿を発見、何処へ行くのかと訊ねれば「未だ夜は早いぜ!勿論figa(お*こ)探しだ!」ホンマに元気なやっちゃなあ。午前4時半就寝。

 

 

11月26日(水) 
午前9時半起床。朝飯が午前10時までと聞かされておれば、東君共々起きるや即出陣。所謂ビュッフェスタイルのコンチネンタル・ブレックファーストなれば、例によってパン、シリアル、ハム、チーズ、玉子等が並ぶ。茹で玉子以外に生玉子が用意されておる故、東君に何故かと訊ねてみれば、シリアルにミルクと一緒に入れるのだろうとの返事なれど、そもそも生玉子を食す習慣無き欧米人が、シリアルにミルクセーキ宜しく生玉子をぶち込むなんぞ見掛けし試しなく、故に映画「Rocky」に於ける有名な生玉子一気飲みは彼等にとって特別の意味を持っておれど、ならば果たしてこの生玉子は何故に用意されしか増々気になる処。生玉子の横にニワトリ型のマシーンが置かれておれば、これぞ茹で玉子メーカーに他ならず、成る程半熟から固茹でまで茹で加減に拘る輩は、これにて好みの茹で玉子を作れとの事か。ならば半熟を所望する私は、このマシーンにて絶妙たらん半熟玉子製作に初挑戦するものなり。中に水を差し、生玉子を入れ、蓋を閉じスイッチを入れ、後は待つのみ、出来上がればベートーベンの「エリーゼのために」が流れるとか。さてその茹で具合は、絶妙の半熟より若干茹で過ぎか、されどこのマシーン何とも便利なれば、是非とも我が寺にも欲しい処なり。

津山さんと兄ぃは、朝飯付きと知らずとかで、携帯電気調理器にて米を炊き食せしとか。
正午にチェックアウト、DavideとKoppaに昨夜の戦果を問えば「ダメだった…バーも何もかも全部閉まってたから…」当たり前やろ!自分ら出掛けて行ったん3時過ぎやったからなぁ。ホテルの正面に衣料店ありて、良い塩梅のフード付きミリタリー風袖無しダウンジャケットが格安にて売られておれば、移動中の車内の寒さと、今後極寒のスイス山岳地方へ赴く事を考慮し、防寒対策として購入。袖無しならば革ジャンの下に着る事も可能、実際に着てみれば防寒効果絶大にして、これにてスイス山岳地方の寒さにも耐えられようか。
昨夜女性と夜の闇へ消えしFrancescoと合流せんと、昨夜の会場Ziegel Oh Lacへ。昨夜例の彼女と一戦交えしFrancescoは御機嫌極まりなく、皆から100ポイント獲得を祝されれば、何と前門の虎のみならず後門の狼までも攻略せしとの事で50ポイント加算、合わせて150ポイントを一夜にして獲得せり。されど前門は100ポイントなれど後門は僅か50ポイントとは、何とも納得行かぬ話と思うは私のみか。Francesco曰く「Makotoがあの時『行って来い』と後押ししてくれなかったら、絶対何も起こらなかった筈だ…俺は凄く感謝してるぜ!」と云う訳で、私もアシストポイントとして日本勢初ポイントとなる2ポイントを獲得。これにて現在の順位は、Koppaが305ポイントにて首位、続いてFrancescoの250ポイント、Lucaの100ポイント、そして私が2ポイント、ツアー終盤にて御大FrancescoがKoppaを猛追する展開に、これは最後まで目が離せぬか。
クラブは再びレストランの姿に戻りランチタイム営業しておれば、イタリア軍団はここで昼飯を食うとの事、ならば我々も昼飯とせん。一足先にオーダーを済ませしイタリア軍団は、皆パスタを食しており「ここはイタリア人シェフだから美味いぜ!」と大絶賛する故、私と東君はスパゲッティー・ボロネーゼを注文。津山さんと兄ぃの両名は、朝飯に米を炊き食しておられれば然して空腹にあらずとの事で、津山さんはサラダ、兄ぃはパンプキンスープを所望されし。兄ぃ曰く「う~ん、このスープ美味しいよ!」イタリア軍団のお墨付きシェフにして、兄ぃのこの発言もあれば、スパゲッティーもさぞ美味かろうと思いきや、私と東君の注文せしスパゲッティー・ボロネーゼは、先ず運ばれて来し際に「あれ?なんやこんだけかいな?イタリアみたいに山盛りとちゃうんか…」イタリア人シェフなればこそ、本場イタリアの如き山盛りの姿を想像しておれば、大いに肩透かしを食らいて、さて一口食えば「うわっ!何じゃこれ!完全にオーバーボイルやんけ!」アルデンテどころかクタクタの茹で具合にして、これではまるで懐かしの日清フーズ社製マ・マースパゲッティの「ゆでスパゲッティ」なり。

私が子供の頃、当時は未だイタリア料理と云えばスパゲッティーとマカロニ程度、凡そラザニアやらリゾットやらどころかピザでさえ知られておらぬ頃なれば、「パスタ」なんぞと云う言葉も一般的にあらず、スパゲッティーは飽くまで「スパゲッティー」にして、我が家にてスパゲッティーと云えばこのマ・マースパゲッティの「ゆでスパゲッティ」以外の何物でもなかりし。即ち私はスパゲッティーと云えばマ・マースパゲッティの「ゆでスパゲッティ」しか見た事なかりし故、スパゲッティーとはうどん等の生麺同様斯くの如く既に茹でられし麺と思い込んでおれば、大学入学直後に某級友の下宿を訪れし際、彼がスパゲッティーを茹でる姿を見て大ショックを受けし経緯あり。因みに私の妹も全く同じ経験せしとか。ところでこのマ・マースパゲッティの「ゆでスパゲッティ」なれど、「イタリアン」「ナポリタン」「ミートソース」3種を、イタリア人の友人に食させし処「懐かしい!子供の頃にお母さんが作ってくれたスパゲッティーと同じ味がする!」と驚いておられれば、この「ママー」の名前も強ち出鱈目にあらずか。因みにその友人を日本の有名イタリア料理屋へ連れて行きし際「ハハハ!何だこれは!こんなもん全然イタリア料理じゃない!」と、日本人向けにアレンジされしイタリア料理に爆笑しておられ、そもそもメニューを眺めてもピザやらパスタが大部分を占めておれば、イタリアにても主菜なるピザは兎も角、肝心の主菜たる肉料理や魚料理がほぼ皆無なれば「何で主菜がないんだ?」と、大いに不思議がっておられし。それも仕方なき事、パスタと云えど日本人にとっては「麺」の一種でしかなければ、故に決して前菜にあらず、その単品にて完結し得るものなり。それにしてもこのマ・マースパゲッティの「ゆでスパゲッティ」の如き代物を「美味い!」と食らうイタリア軍団、果たして今後彼等の舌を信じてもよきものか否や。
午後2時にランチタイム営業が終了すれば、店の奥に置かせて頂きし機材を運び出し積み込み。今回のツアーに於いて、Koppaはクラブの了承さえ得られるならば、機材をクラブへ置かせて頂き翌日積み込まんとすれど、これは治安悪き欧州故に、バンに積みし機材が盗難されるを避けんとする発想からとの事。何しろ欧州では、カーステレオでさえフロントパネルは着脱可能式にして、これもメーカー側によるカーステ盗難防止の為の苦肉のアイデアならん。
午後2時半、Colmarへ向け出発。Koppaが突如「Con il cazzo in mano!(コン・イル・カッツォ・イン・マノ)」と即興にて歌い始めるや、イタリア軍団一同で大合唱が始まる。果たして何たる意味かと問えば大凡「お前のち*ぽを握ってでも連れて行く」との事で、所謂「おらっ!来んかい!」のスラング的言い回しとか。気付けば我々も一緒に大合唱、津山さんは飽くまで日本語的発音にて「コニカチ麻呂」と覚えしとか。当初のKoppaが即興にて歌い始めしメロディーが、大合唱するうちに自ずからAMT & TMP U.F.O.の新譜「Cometary Orbital Drive」収録曲「Milky Way Star」の旋律へ変貌、この曲は今回のツアーに於いて毎夜ラストに演奏しておれば、彼等も知らぬ間に覚えしか。御陰でこの夜より、本来インストナンバーたりしこの曲は「Con il cazzo in mano」のコーラスが繰り返される展開となりしは言わずもがな。
スイスより出国しフランスへ再入国。スイス出国に一切の審査等無けれど、スイス入国に当たる反対車線を見れば、入国審査の検問ゲートが設けられており、全車両を止め荷物等の検査を行いておれば、明日再びここからスイス再入国するに当たり、今度こそ荷物検査を回避するは不可ならん。この様子にイタリア軍団は、国境の検問ゲートの方へ振り返り声を揃え「Fanculo!!(Fu*k you!!)」 何にせよ明日のスイス再入国に対し、再び万全の体勢にて臨まねばならぬは必定。
午後6時前、今宵の会場Le Grillenに到着。今宵はSumaなるストーナーバンドがヘッドライナー故、我々の演奏時間は僅か45分のみと知らされる。AMTが前座を務めしは、初ライヴ以来10年以上に及ぶその歴史に於いてフェスティバルATPを除けば、Gong、ノルウェイの超有名ポップバンドGate、Trad Glas och Stenaer、Kinski(彼等の日本ツアー初日)のみと記憶しておれば、何故斯様なストーナーバンドの前座を務めねばならぬのかとも思えども、現在ストーナーやらドゥームメタルが大ブームの欧州なれば凡そ相当の人気バンドかと思えば、況して前座を務める機会なんぞ稀なればこそ、これもまたひとつの好機か、いつもとは異なる挑戦者的意気込みにて臨むもこれまた愉しみなり。然れどクラブの月間スケジュール表やポスター等は、我々の名前が一番大きく印刷されており、これではまるで我々がヘッドライナーとの誤解を招きそうなものなれば、何とも可笑し気。嘗てSonic Youthが某フェスティバルにて我々の前に演奏せし際、Thurston Moorに「AMTの後に演奏したくなかったんだ…君達の方が音がデカいからね」と云わしめし挑戦者としての我々の恐ろしさ、目にもの見せてくれようぞ!Francescoは「絶対AMTがヘッドライナーであるべきだ!俺が今からオルガナイザーに交渉するから好きなだけ演奏しろ!」と申し出てくれれど、我々には常にルールは遵守すべきとの認識あれば、既に今夜のオーダーは決定事項故、ただ与えられし条件の下、全力にてやるべき事をやるのみと知ればこそ、またFrancescoの訴えにてオルガナイザーやSumaと無用のトラブルを起こす事は得策にあらざれば、彼の申し出は遠慮させて頂きし。
晩飯は、クラブのスタッフの手によるタイカレーとサラダなり。Sumaは全員ベジタリアンらしく、ベジタリアン用の別メニューも用意されし。さてそのベジタリアン用メニューなれど、どう見てもハンバーグ擬きにして、これぞ「摺り替え」以外の何物でもなし。今までベジタリアンレストランへ連れて行かれし経験多々あれば、今やベジタリアン料理とは何たるかは承知しておれど、一見まるでハンバーグやらソーセージやらステーキやらと、所謂「野菜で作られし肉擬き」なれば、斯様なる肉擬きを食らいながら果たしてベジタリアンを自負し得るのか。そんなに肉食いたいんやったら肉食うたらええがな!以前灰野さんと海外に於ける食事の話をせし際、日本と異なりベジタリアンレストラン多き故、外食に関しては日本より困らないでしょうと訊ねれば「あんな偽物の肉みたいなもの食べてて、何がベジタリアンだよ!本当は肉が恋しいならベジタリアンになるなって言うの!俺は肉の味が嫌いなんだよ!」これには大きく同意、肉の味が嫌い故にベジタリアンにならざるを得ぬなら仕方なし、されど心の奥底にて肉を欲するならば、アレルギー体質でもない限り、ベジタリアン失格と思しきものなり。常々ベジタリアンを嫌悪し蔑視する津山さんは「ハッハッハッ!笑かしよるのう!ボケが!ホンマは肉食いたいくせに『動物が可哀想』とかアホな事ヌカしくさって『僕ベジです』ってアホかっちゅうねん!健康の為?笑かすな!ボケぇ!動物性蛋白質からしか摂取出来ひんもんもあるんじゃ!お前らの方がよっぽど不健康やちゅうんじゃ!百回自殺せえ!」と、大笑いにして悪態つきたい放題。

我々の献立はチキンタイカレーなれど、調理方法を間違えしかと疑いたくなる程甘ったるく、今回のツアーに於いては欧州流カレーの不味さに辟易せし。サラダは、特有の匂いにて嫌われがちの山羊の乳のチーズがレタスとコーンの上にふんだんに盛られし代物と、ベジタリアン用のレタスとコーンのみにてチーズ抜きの2種類にして、チーズを然程好まぬ我々はチーズ抜きを選択、されどフランスなれば自家製マスタードドレッシングにして、これがまた不味き事この上なし。フランス人はホンマ料理下手クソやのう。況してやここColmarは、アルフォンス・ドーデ著「最後の授業」にて御馴染みStrasbourgに近ければ、即ちスイス国境のみならずドイツ国境からも遠からず、そもそも旧西側欧州は北上すればする程料理が不味くなる傾向あれば、斯様に不味きも当然か。されど嘗て比較にならぬ程の激不味料理に多々遭遇しては轟沈爆死せし我々故、斯くの如き不味さなんぞ今や屁とも思わぬか。

喫煙せんと表へ出れば、多くの客に「ありがとう!よく来てくれた!もう何年も待ってたんだ!今日は何時間演奏するんだ?3時間か?4時間か?」と矢鱈訊ねられる始末、この手の質問は何処の街へ赴けど毎晩耳にする類いのものなれど、今日に限っては「今日はヘッドライナーがいるから、ワシらは45分しか演奏出来ひんねん」と答えるしかなく「えっ!何でお前達がヘッドライナーじゃなんだ?」と聞き返される有様。そんな事言われてもワシら知らんがな。「その代わり今夜は凝縮してぶっ放すで!楽しみにしといて!」その言葉通り、通常1時間半から2時間強に及ぶステージに要するエネルギーを僅か45分に凝縮すれば、まるでマラソンランナーが400m走へと転向せしかの如し、ドアタマからスロットル全開にしてペース配分もクソもなければ、演奏中に酸欠の危機さえあれど、最初から最後まで大爆音大暴れ、勿論律儀にも時間通りに終了。機材の入れ替えあれば撤収も迅速に済ませ、ビール片手にSumaの開演を待つ。ストーナーバンドらしく巨大アンプを並べておれば、果たして如何な程の大爆音かと思えども、いざ演奏が始まるや、なんちゅうショボい音やねん。更にストーナー然とせし回転数を落とせしBlack Sabbathの如きリフを繰り返すのみにして、ギターソロなんぞも殆ど無く、何とも退屈極まりなし。ボーカリストは所謂パントマイムを演じておれど、なんでこんな音をバックに「壁」とかやってんねん?意味判らへんわ!津山さんも「ストーナーってこんなショボいん?何やねんこれ?あんなごっつええアンプ並べてて何でこんな音ちっこいねん?笑かしよんのう…大体全員下手過ぎやろ!こいつらBlack Sabbathのどこ聴いてんねん?何も判ってへんちゅうこっちゃ、ホンマもっとロック聴けや!」と、如何にもロック番長らしき御言葉。我々の時は満員御礼なりし客席も、客が続々帰路に着き始め、気付けばすっかり閑散となり、これではSumaも気の毒か。喫煙せんと外へ出れば、いきなり大勢の客に取り囲まれ「ありがとう!サイコーだった!でも何でもっと演奏しないんだ?」と、詰め寄られる始末、もう勘弁して下さい、ワシらのせいちゃうちゅうねん。楽屋へ戻れば、FrancescoとDavideとKoppaが爆笑しつつ、ボーカリストのパントマイムの真似に興じる始末。まあ笑われてもしゃあないわな。 Sumaのセットは予定より30分短き1時間程にて終了、それやったらワシらと僅か30分しか演奏出来ひんかったStearicaに回してくれっちゅうねん。
今宵もホテルに投宿、東君と同室。2人揃いて大いに空腹なれば、ラーメンでも食さんと兄ぃより携帯電気調理器を借り受け、東君はここで寿がきやの味噌煮込みうどんを出してくれば、私の究極メニューたる大根と鯖オイル漬け缶詰を用いし鯖おろしポン酢ラーメンも、懐かしき日本の味の前には心なしか空しく映れり。

午前3時、テレビにてインドのテロ事件のニュースを眺めつつ就寝。

 

 

11月27日(木) 
午前8時半起床。朝飯はビュッフェスタイルのコンチネンタル・ブレックファースト。パンやシリアル等以外にハムとスクランブルエッグが用意されておれば、充分に豪華バージョンなれど、スクランブルエッグが驚異的な不味さにして、果たしてこのシンプル極まりなき料理を如何にしてここまで不味く作り得るか、長年シェフを勤めし私なれど想像出来ず。ハムは保温器に入れられておれば、若干脂分が抜けパサパサしておれど、矢張り私には塩っぱ過ぎにして、生ハムメロンの応用とばかり蜂蜜を付けて食してみれば、口に入れし刹那は「これならイケるかも?」と思える程に塩っぱさは緩和されれど、矢張り最後に口に残るはハムの塩っぱさなれば、然してハムを無理して食らう必然性もなく敢え無く断念。フルーツゼリーの如しは生ゴミの如き味にして激不味く、一口にて敢え無く轟沈爆死。思い掛けぬ処に地雷ありと肝に命ず。斯くなる上はクロワッサン2個とシリアルを食らえば最早充分か。先程のハムは、昼飯に予定されるビリヤニの具にせんと部屋へ持ち帰りし。

Francescoより午後1時出発と伺っておれば、午前11時45分、昼飯として「最終兵器」ことレトルトのビリアニを食さんと、携帯電気調理器にて温め、朝飯にて失敬せしハムと、今や葉のみとなりし大根の大ちゃん2世の葉を具として加え、昨日の朝飯にて失敬せし茹で玉子を添え、前回同様トンカツソースとカレー粉と味の素とハバネロソースにてドライカレーへ作り変え食せば、嗚呼、矢張り紛う事なきドライカレーにして大いに美味なり。添えられし茹で玉子が豪華さを演出せしか。

正午、掃除する従業員に出て行けと追い出されれど、我々同様午後1時出発と思い込まれし兄ぃは、私から返却されし携帯電気調理器にて何やら拵え、間悪く飯を食らいし最中とかで、のんびり寛ぎし津山さん共々、大慌てにて出て来られし様子。流石にホテル側も正午を越えれば、痺れも切らすか。それにしてもチェックアウト時間なんぞ一切気にせず、自分達の都合に合わせ出来る限り長く留まらんとするイタリア人の悪意なき図々しさ恐るべし。
午後12時半、一路Neuchatelへ向け出発。スイス国境にて物販商品に課税されぬようにと、再び物販商品を隠匿すれど、流石に昨日検問ゲートの厳しき様子を見ておれば、些か諦めムードが車内に漂う。いよいよスイス国境へと辿り着けば、入国審査の検問ゲートにて停止こそさせられれど、幾つか質問されしのみにて、荷物のチェック一切行われず見事通叶えば、皆で再びKoppaを「Magic cazzo!!!」と賞賛。嘗て幾度もスイス国境にて泣かされし経験を持つFrancescoも「1度ならず2度までとは!信じられない!奇跡だ!俺達はスーパーラッキーだぜ!」と興奮気味にして、未だ信じられぬ様子。結局今回のツアーに於いて、越境に際してのトラブル皆無、物販商品に対して課税される事も無ければ、急激なる円高に泣かされし我々も、未だ天には見放されておらぬか。湖岸を延々と走り景色は果てしなく田舎となれば、果たして今宵は如何な場所にて演奏するのやら。
午後4時半、今宵の会場Case A Chaosに到着。今宵我々日本勢は会場の最上階にある宿泊施設兼楽屋にて投宿予定なれば、先ずはそこへ赴き小休止、何ともお気極楽極楽か。車椅子のLucaを擁するStearicaにとって、この最上階にての投宿は賢明にあらねば、彼等は界隈のホテルへ投宿の予定。皆はケータリングのサンドウィッチ等を貪っておられれど、私はスコッチを片手にモロッコ名産の dattero(棗椰子)なるドライフルーツを摘む。プルーンの如きかと想像すれど甘さ倍にして酸味抑えめと云う塩梅にして、なかなか美味なり。

今宵はオールナイトのイベントらしく、我々の出番は深夜前なれば然してやる事もなく、各自ベッドにて仮眠。
今宵の晩飯は、クラブ内のレストランにてと聞けば、これはシェフ自慢のスペシャル料理でも食わせて頂けるかと迂闊にも期待すれど、何と私の最も忌み嫌う代物ペンネなり。シェフ自ら取り分けておれば、完全拒否も気の毒かとの日本人的気遣いにて、何とか少なめに配膳して頂く。ペンネにミートボールが添えられ、果たしてイタリア料理ならばこれは前菜にして別に主菜ありしかと思えど、矢張りペンネが主菜らしければ、カマンベールチーズをアテに赤ワインを飲み倒すのみ。デザートのティラミスとチーズケーキを食せば大いに美味にして感涙もの、その美味さは到底筆舌に尽くせずして、思わず甘味厳禁の誓いを一時解除、結局ティラミス8個とチーズケーキ6個頂き、これにて大満足なり。

何と今夜も我々の演奏時間は1時間弱との事で、またしてもショートセット故に大爆音大暴れにて大スパーク。最後は積み上げられしPAスピーカーによじ登り、天井からギターを逆さ吊り絞首刑に処すれば、上りは良けれど下りは大いに難儀するものにして、結局高さ4m以上のPAスピーカーの上からステージへジャンプ。終演後、ギター撤収の際も再び同じ行為を為さねばならぬは当然なれば、この2度目の着地の際に古傷の両膝と左の踵を痛めしか。更にショートセットならでは、凡そ1500mを100m走のダッシュにて完走せしが如しの暴走ぶり故、何とかギターを撤収し宿泊場所へ戻るや、最早呼吸困難状態にして、そのままベッドに倒れ込み即寝成仏。終演後に酸欠にて倒れし経験は幾度かあれど、これ程疲労回復出来ぬ経験初めてなれば、これも加齢に伴う基礎体力の低下に起因せしか。痛めし踵は骨にひびでも入りしか、1ヶ月以上経過すれども未だ痛み治まらず、されど万が一ギブスなんぞと仰々しき運びとなれば車の運転も叶わぬ故、されば明日香の山奥より下山するも叶わねば、日常生活に大いに支障を来すは必定、なればこそまさか医者に見せる訳にはいかずして、兎に角己れの自然治癒能力を信ずるのみ。
我々の終演後はオールナイトのDJタイムなれば、超満員のフロアはディスコに変貌せしとかで、セクシーな女性が大挙して踊り狂う中、津山さんの鶴の一声の下、Shopzoneは撤収撤退。それと入れ替わりにイタリア軍団は「Figa, figa, figa!!!(お*こ、*めこ、おめ*!)」と、ポイント獲得に出陣せしとか。津山さん曰く「そんな元気あんねやったら、演奏もっと頑張った方がええんちゃうん?」いやいや彼等曰く「セックスこそ人生!人生とはセックス!」だそうですから…。

 

(2009/1/7)

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