『人声天語』 「第136回「欧州激不味料理戦線完全撃破殲滅宣言!( 欧州ソロツアー 2007)」#2

「第2週目/地獄のイタリア料理重量級過食国民戦線玉砕戦」

2月7日(水)

昨夜は投宿先のJFP宅にて、彼等と明け方まで飲み明かしておれども、午前8時に起床、15分後には駅へ向かわねばならねども、トースト+コーヒーなる朝飯を慌ただしくも頂かんとす。JFPがノルマンディー地方特産のチーズを薦めて来れば、この際チーズでも何でも食うたろやないけと云う訳で、果敢に挑戦するや、強烈なる臭いにてあわや憤死かと思われれども、よくよく味わいてみれば然程忌み嫌う程にあらざりて、これは遂にあれ程忌み嫌いしチーズさえも、いよいよ殲滅撃沈叶うまでに戦力充実されにけるや。

Rouen駅よりParis St. Lazare駅へ、更にParis Lyon駅よりLyon Part Dieu駅へ。
Lyon Part Dieu駅よりオルガナイザーXavierの車にて、今夜のライヴ会場Sonicのある界隈へ。Sonicのスタッフが未だ誰も来ておらぬ故、安そうなカフェにてdouble hot-dogなるを食さんと注文すれば、バケットに魚肉ソーセージの如き、所謂給食等にて御馴染みなる、ビニルの皮を剥きて齧りしあの逸品の如きの巨大なるを2本挟みしのみの代物にして、薬味たるキャベツやピクルスどころか野菜類は皆無、味付けはマスタードとケチャップを頼んでおれども、ケチャップは所謂アメリカや日本で見られるそれにあらず、外国製ウスターソース(日本製のものと異なり酸味強く甘み弱し)とアメリカ特産BBQソース(大いに甘し)を混ぜしかと思われる奇怪なる代物にて甘酸っぱければ、ジャンクフードの代名詞たるホットドッグさえ「お国変われば品変わる」なり。それにしてもこのホットドッグの酷さは何ぞや。アメリカのセブンイレブンやガソリンスタンドにて求める2本1ドル程度のホットドッグでさえ、何はともあれ魚肉ソーセージにあらず、自分でキャベツやらトマトやらに加え薬味各種も取り放題にして、遥かに美味なれば、斯様にシンプルなる代物を如何にすれば斯くの如きに伝承し間違うのか、勿論日本のテキ屋やドライブインにて求められるそれは云うに及ばず、嘗てトルコのIstanbulにて求めしものですら、本場アメリカのものに比べ然程遜色なければ、フランス人の味覚センス大いに疑わしきものなり。よもや常にアメリカ食文化を嘲笑侮蔑せんとするフランス人なればこそ、ケチャップとマスタードの味しか判らぬなんぞとその味覚を蔑視するが故、斯様に不味くアレンジされしと推察もし得るか。されど大いに空腹なればこそ、この代物さえ一瞬にして殲滅撃沈せり。

さてサウンドチェックも済ませば晩飯なり。Xavierが用意せし晩飯とは、毎度の如く彼の母親の手料理にして、今宵はラザニアなり。今でこそ反パスタ主義者戦線に名を連ねる私なれど、斯くなる以前は、スパゲッティーに代表される所謂麺の形状を持つロングパスタと、そしてこの日本に於いても御馴染みなるラザニア程度なれば、日常に於いても時折食しけり。本場イタリアのイタリア料理重量級過食国民戦線突入前夜なる今宵、ここでラザニアに遭遇せるも何かの縁、ならばとイタリア料理完全粉砕殲滅戦の前哨戦として挑めば、流石は料理自慢たる彼の母親の手料理か、是れ大いに美味にしてお替わりにも及び、付け合わせの紫キャベツのサラダ共々ここにラザニアを完全粉砕殲滅撃沈せり。またデザートとして用意されし手焼きパイも美味なれば、こちらも殲滅撃沈せり。

2月8日(木)

Lyon Part Dieu駅までXavierに送って頂き、列車にてイタリアはMilanoへ移動。車中にて空腹を紛らわさんと五家宝連より都こんぶを召喚、その郷愁を誘う美味ぶりを堪能すれども、後味が猛烈にタバコを誘発すれば、車中禁煙故に思わず悶絶、丁度何処ぞの駅に停車せるや、車外へ出てここで一服付けんと思えども、不運にも何と国境駅なれば、徐ろに大勢の警官が麻薬犬を伴い乗り込みて、乗客全員の荷物検査を始める始末故、ここでの一服は叶わず、読書なんぞにて気を紛らわそうにも、一度喫煙を欲せばそれを耐え忍ぶるは苦難極まり、結局この6時間に及ぶ列車の旅の間中、大いに苦悶されられれば、都こんぶの副作用、これにて肝に銘ずるばかりなり。 Milano Centrale駅に到着すれば、今日明日はオフ故に久々に心行くまでのんびりせんと、否、欧州料理戦線最大最強たるイタリア料理重量級過食国民戦線を粉砕殲滅せんと、駅付近の安ホテルにチェックイン。今日は未だ何も食しておらねば大いに空腹、先ずは近くのレストランにてスパゲッティー・ボンゴレを殲滅せんとす。今回のツアーに於いて、パスタは既に幾度か殲滅しておれど、最も日本人に馴染み深きパスタたるスパゲッティーとは未だ遭遇しておらねば、ここはイタリア料理重量級過食国民戦線との初戦完全勝利を確実なものにせんとする為にも、日本にて見受けられる代物よりも遥かに美味なるを熟知せしスパゲッティー・ボンゴレに照準合わせしものなり。アサリを惜し気なくふんだんに使う故、その出汁の豊穣さと云えば、ケチ臭き日本のそれとは比較にならず、ここにイタリア料理重量級過食国民戦線の先兵なるスパゲッティー・ボンゴレを撃沈せり。

ホテルへ戻り仮眠後、晩飯にせんと散策すれば中華料理屋を発見、ここはこれから続くやもしれぬイタリア料理重量級過食国民戦線に依るピザ&パスタ波状攻撃に備え、一度米を食うておくかと突入せり。先日Parisにて、欧州中華料理解放戦線フランス軍を一度撃破しておれば、今宵はイタリア軍を壊滅撃破せんと、広東語とイタリア語のみのメニューより何とか酢豚+麻婆豆腐+野菜炒め+春巻を注文せり。昨年はアメリカにて、異形なる酢豚の前に完膚なきまでに叩きのめされ、また数年前にはポーランドにて、最早麻婆豆腐の概念を超越どころか解体再構築せしが如き代物(まるで厚揚が入れられし中華風野菜炒め)に奇襲され完敗を喫しておれど、元来酢豚好き麻婆豆腐好きなれば懲りる事なく、さて一体如何に奇怪なる逸品が味わえるのかと、大いに興奮せしものなり。
先ず運ばれし春巻は、中国人でさえ諄い程の揚げ具合を好むイタリア人の嗜好に転向せしか、多少油切れ悪しき揚がり具合なれど、一応及第点を付け得る範囲なれば、欧州中華料理解放戦線イタリア軍先鋒をここに撃沈せり。

続けて麻婆豆腐、野菜炒め、酢豚と立て続けにその姿を現せば、流石はイタリア、麻婆豆腐にも酢豚にも共にトマトが使われておる有様、果たしてこれを撃破し得るや如何に。以前名古屋のトクゾウにてトマトソース味の酢豚を食せし事あれば、これも然程問題なかろうと推察されれども、麻婆豆腐がトマトソースとは如何なものか。先ずは酢豚から頂けば、パイナップルとトマトが醸し出す奇妙な甘酸っぱさが多少気にはなれど、殆ど問題なくこれを殲滅撃沈せり。続いて麻婆豆腐を頂けば、これは何とも珍妙なり、されど決して不味くはないどころか、所謂創作アジア料理なんぞを売りにする無国籍風居酒屋辺りなればお目に掛かれそうな、何とも微妙な味具合にして、これも殲滅撃沈せり。麻婆豆腐や酢豚にて不測の完敗をも喫さん覚悟なりければこそ、口直し用にと防衛戦線を張らんと注文せし野菜炒めは、これこそ大穴にして、塩っぱ過ぎて到底口に入れる事叶わず、ここは青島ビールで一気に流し込みて何とか全品撃破殲滅を果たせり。

されど欧州中華料理解放戦線完全粉砕を目論まんと、思わず4品も食らいしはまさに自殺行為、イタリア料理重量級過食国民戦線との完全決着を目指す報復戦を前に、これでは自ら胃に引導を渡せしと同じか。腹ごなしを兼ねホテル界隈を散歩、就寝前には多少楽になっておれば、流石は大東亜美食共栄圏の一端に名を連ねる中華料理人民解放戦線か、イタリア料理重量級過食国民戦線とはその重量度質量度大いに異なれば、殊の外消化も早けり。

2月9日(金)

起床すれば、昨夜の中華料理4品は見事消化済み、懸念せし胃の調子も頗る良ければ、いよいよ遺恨深きイタリア料理重量級過食国民戦線との完全決着報復戦に突入せん。
昼飯は以前世話になりしAntonioとの会食、所謂バーに於けるランチなれば、日本で云う処の大衆食堂然とせしガラスケース内に陳列される品を選ぶスタイルなり。日本の大衆食堂同様に、選びし料理を温めてくれはすれど、流石に作り置きされしスパゲッティーなんぞに食指が動く筈もなく、ここは無難に所謂カツレツなるカットレットにて安全策を講じんとす。カットレットとは決して日本のトンカツの如くたっぷりの油にてサクッと揚げられし逸品にあらず、フライパンにたっぷり引かれし油にて炒め揚げされし代物にして、料理に於いて重量級の諄さを愛するイタリア人なればこそ、油温なんぞ気にする筈もなければ、サクッと揚げるなんぞと云う日本人の揚げ物に対する美学なんぞ持ち合わせる筈もなく、また衣もパン粉を用いておらぬ様子なれば、単に小麦粉をまぶせし豚肉の炒め揚げと思って頂くが想像に易いか。付け合わせも生野菜等にあらず、茄子と赤ピーマンのソテー、そしてじゃがバターの如き代物にして、全てが油物系にて揃えられし様こそ、イタリア料理重量級過食国民戦線の恐ろしさを象徴せしものか。イタリア人ならば、更にここへオリーブオイルをたっぷり掛ける処なれど、流石にそれは遠慮させて頂き、レモン1櫛を絞り頂く事とす。諄ささえ攻略し得れば味的には問題なく、五家宝連のとんかつソースを登場させるまでもなく、このカットレットを完全殲滅撃沈せり。

Antonioとレコード屋巡り後、バー数件を梯子、ふと辿り着きしCool Cafeなる小洒落しカクテルバーにて、ドリンク1杯+イタリア版酒の肴バイキングにて7ユーロなるハッピーアワーに遭遇、これにて格安に晩飯を済まさんとす。されど並べられしは、ピゼッタの類い(簡易パンピザの如き代物にして、嘗てその激不味さに辛酸を舐めさせられし経緯あり)にサラダ、後はケーキ類なれば、自ずからサラダを中心に構成せざるを得ず。まあイタリア料理重量級過食国民戦線との壮絶極める今後の玉砕戦を考慮すれば、ここで一旦休肝日ならぬ休胃日を構えるも一策なるか。Antonio推薦の妙なカクテル片手に、当然このイタリア版酒の肴バイキングを殲滅撃沈せり。

結局更にバーを数件梯子し飲み倒し、ホテルへ帰還せりは午前3時なり。晩飯がサラダ故、流石に空腹感に襲われれば、ホテル向かいのインド人が営むカバブ屋へ、何か食糧を求めんと突入せり。されど閉店直前なれば、サモサ程度しか残っておらず、ビール1本とサモサ2個を所望するや「もう閉店だからビール代だけでいい」とサモサ2個はサービスしてくれ、更に売れ残りし唐揚げの如き2個も付けてくれれば、何とも有り難や。
ホテルの自室にて、早速サモサを貪れば、哀しいかな味が皆無なり。ならばと五家宝連のとんかつソースを召喚、この味なしサモサを殲滅撃沈。続けて唐揚げの如きに食らいつけば、何とスパイシーはんぺんの如きにて、これは些かの問題もなく殲滅撃沈。大いにカバブ屋の大将に感謝、テレビ鑑賞しつつ就寝。

2月10日(土)

起床後、近所のカフェにてコーヒー(エスプレッソ)を呷る。チェックアウトに合わせ、明日行われるライヴのオルガナイザーにしてQbico Records主宰のEmanueleが迎えに訪れ、昼飯を食わんと彼お薦めのレストランへ。ハウスワインを茶碗若しくはオーレカップの如きで呷りつつ、本日の昼飯に選びしは馬肉のタルタルステーキなり。 
いよいよイタリア料理重量級過食国民戦線との本格的戦闘状態となれば、当然先ずは前菜たるパスタから撃破せねばならずして、Emanuele御推薦のラビオリ同様パスタ内部にチーズ等詰められし代物は遠慮させて頂き、ここは無難にトマトソースとミンチが絡められし太麺系ロングパスタにて、初戦の勝利を確実なものにせんとす。流石は美食家Emanuele御推薦の店だけありてか、このパスタ全く以て問題なく、ミンチから滲み出し肉汁がトマトソースに沁み入りておれば、味の奥行きもそれなりにして充分美味なり。このパスタを見事粉砕殲滅せりは云うまでもなし。

さてお待ちかねの馬肉タルタルステーキは、これまた大いに美味にして、付け合わせの白菜のニンニク唐辛子炒めもさてまた美味なれば、これらまさしく欧州美食悦楽戦線なるか、大いなる至福感を感じつつ勿論これら併せて完全粉砕殲滅せり。強いて欲を云うならば、馬肉タルタルステーキに添えられしは、ペッパーソースよりも生姜醤油若しくはニンニク醤油なんぞなれば、恍惚の果てに昇天し得しかもしれぬものを、大いに惜しまれる処なりけれど、充分に馬肉そのものの味を堪能し得れば些かの問題もあろう筈なし。

Emanuele特別大推薦のデザートは、このレストラン名物のチョコレートケーキなれど、そもそも無類の甘味大食いたりし私に於いては、欧州的激烈極まりなき甘ささえも大抵問題なければ、これをも容易に粉砕殲滅せり。イタリア料理重量級過食国民戦線との本格的戦闘に於ける初戦は、これを以て完全勝利を飾りにけり。

食後の運動を兼ねレコード屋へ、されど「こんなん絶対日本で買うた方が安いやんけ!」と云う訳で、イタリアン・ロック原盤は今や価格高騰にて殆ど手が出ず、結局現代音楽等数枚の購入に留まれり。Emanueleの新しい彼女と合流後、彼の家にて晩飯と相成る。屈指の女好きにして美食家、所謂典型的イタリア人なるEmanueleが、今宵は何と手料理にて持て成してくれるとか。
先ず「マッコォ~ト、これ好きか?」と出されしは、豪華にもキャビアが施されしトースト、勿論斯様にキャビアが乗せられておれば、今更パン嫌いなんぞと愚かしく文句垂れ得る筈もなく、Emanuele御自慢の赤ワインを片手に、次々とテロり完全粉砕殲滅せり。

続いてはルッコラのサラダ、このイタリア特産野菜の持つ特有の苦みは、常に私を大いに魅了してやまず、ある種中毒性さえあるのではと思わせる程なれば、成る程嘗ては「惚れ薬」の効能ありと信じられしとか。オリーブオイルと岩塩のみにて味付けられておれば、ルッコラの持つシャキシャキ感も損なわれておらず、またこの特有の苦みも大いに堪能、宛らポン酢で和えればさぞかし美味ならんと思いつつ、このルッコラのサラダも殲滅撃沈せり。

さていよいよ運ばれしメイン1品目は、Emanueleが即興にて調理せし代物とかで、されど彼は「絶対に美味い筈だ!」と、まさしく自画自賛にして自ずから太鼓判を押しておれば、これ迎撃するは大いに愉しみなり。アサリと豆のニンニク風味トマトソース煮なるこの逸品、美食家たる彼が自信を持って送り出すだけあり、これはまさしく美味極まれり。アサリの出汁がニンニク風味トマトソースと見事なハーモニーを醸し出し、この豊穣なる味わい到底筆舌に尽くせじ。勿論恍惚状態となれば、この逸品も完全殲滅撃沈せり。

続けて2品目が運ばれて来れば、今度は地中海にて水揚げされし白身魚のホイル包み焼きなり。塩とオレガノが僅かに施されておれば、レモンをふんだんに絞りて頂けり。通常ならば素材の味を台無しにせんとするオレガノ風味に憤怒する処なれど、そこはEmanueleの見事な匙加減にて、オレガノが調味料として見事に機能しておれば、こちらで度々遭遇するハーブ過剰による激不味料理群とは完全に一線を画しており、これぞイタリア料理の真の醍醐味なるか。火の通り具合も見事なる塩梅にして、仄かに香るオレガノの風味が、淡白なる白身魚の味に水彩画の如き淡い彩りを添えておれば、これを美味と云わずして何と云うか。昨冬に南イタリアにて遭遇せり地獄の魚介類バーベキューを想えば(第129回「実録・南イタリア残酷美食地獄地帯(後編)」参照)これぞまさしく天国と地獄なり。今宵の晩餐の最後を飾りし欧州美食悦楽最終戦線たるこの逸品も、ここに完全粉砕殲滅せり。

欧州美食悦楽戦線のポテンシャル、斯くも戦慄るべきものなるか。毎度あまりに過酷なる欧州激不味料理戦線に遭遇しては完敗玉砕を喫し、時には敵前逃亡なんぞと云う極刑にも値するA級戦犯ぶりを露呈しておれば、今回は意を決し敢然にいざ臨まんと、欧州料理激不味料理戦線完全撃破殲滅宣言なんぞと宣いけれど、ここまで然程激不味料理にも遭遇しておらぬどころか、時にはその美味ぶりを満喫し得る美食にさえ遭遇しておれば、何故人生とは斯くも因果なものなりしかと思わざるを得ずして、果たしてこの欧州料理戦線殲滅戦の意義さえ問わねばならぬか。

2月11日(日)

朝食は、Emanueleの彼女が用意してくれし紅茶+ビスコッティ(ビスケット)なれば、これぞ典型的イタリアの朝食なり。某テレビ番組にて「世界の朝食」なるコーナーを拝見しておれば、イタリアの朝食の回に於いては、到底信じ難き豪華メニューが並べられており、そもそも朝からパスタなんぞ絶対食さぬ人種なればこそ、明らかにテレビ局の製作ディレクター等が捏ち上げしヤラセなるは明白なり。何しろ「世界の朝食」と銘打ちコーヒー+ビスコッティでは、あまりに絵面も悪ければ、宛ら斯様に捏造せしものたらん。御飯+味噌汁+焼魚+小鉢等による所謂朝定食的朝飯、若しくはパン+サラダ+ベーコンエッグ等による所謂喫茶店のモーニングサービスの如きアメリカ的朝飯を一般的とする日本人の朝飯に対する意識と、イタリア人のそれとは全く異なっておれば、同様に昼飯の概念も大きく異なる。昼からワイン片手にパスタを前菜とするフルコースさえ食らうイタリア人の食習慣は、麺類や丼もの若しくは精々定食等で手早く済ませる日本人の食習慣からすれば、到底信じ難き代物なり。ともあれこのビスコッティ数枚を頂けば、これにてこのイタリアの朝飯を充分撃沈せりと認められん。

昼飯は、Emanueleの手に依る本物のカルボナーラなれば、彼の大好物のひとつらしく、先日Parisにて食らいし贋カルボナーラとは全く異なり、流石は本場の味にして大いに美味なり。何故か私の皿には山と盛られしカルボナーラ、ここに完全粉砕殲滅せり。

今宵のライヴはGolizia近くの街Staranzanoにて行われるとかで、Emanueleが主宰するQbico Records主催の「Qbico U-Nite」と名付けられしイベントなれば、同じく今夜出演するイタリアの若手即興グループNeokarma 6etと合流し、約6時間のドライヴにて漸く会場Dabia Labに到着。
スロベニア国境近くなれば、スロベニア産ビールUnionを呷り、さて女性オルガナイザーが出演者やスタッフの為にと調理せしは、遂に此処で遭遇せしか、あの忌まわしき仇敵ペンネなり。数あるパスタの中に於いて最も苦手とするこの代物こそ、一度に大量に調理するは易しとの理由から、何かとツアー中に遭遇せし事多かれば、今回のツアーに於いても必ずや何処かにて遭遇せんと憂慮すれども、何とイタリア料理重量級過食国民戦線との終盤戦にて登場するとは、なかなか話が上手く出来過ぎの感さえあり。
ここで何とTarcentoのオルガナイザーAlexandroと久々に再会、2年前のツアーに於いて彼と別れし後に勃発せり国境徒歩突破事件(第123回「文句垂之助の欧州地獄旅 #10」参照)の下りを話すや大爆笑、さてその彼も今宵の料理人を務めしとか。彼は「次に会う時には、北イタリア名物の山猫料理を食わせてやる」との約束を覚えておれど「今年は暖冬で山猫が山から降りて来ないから、山猫料理はまた次の機会に」と云う訳で「その代わり猪料理を食わせてやる」との事。Sardegna名物たる子豚料理も子豚丸1頭を丸焼きにしたりと、如何にも狩猟民族然とせし料理なれば、彼の猪料理も矢張り、猪1頭を解体し大鍋にて赤ワイン煮にせし逸品なり。
さて既にテーブルに乗せられしペンネの大鍋は「皆が揃ってから一緒に食べよう!Qbico Unity!」とのEmanueleの提言により、今やすっかり冷え切っておれば、恐らくその不味さも更なる進化と遂げようと云うものか。Neokarma 6etのサウンドチェックも漸く終了すれば、Alexandroの猪肉赤ワイン煮も完成との事で、当然の如くここは先ずAlexandro自慢の逸品を熱いうちに頂かんとす。猪肉を玉葱と人参と共に赤ワインにて煮込みておれば、既に猪肉は煮崩れる程にして、野菜の甘みや旨味も充分滲みておれば、何とも柔らかくジューシーなる逸品。また半ば溶ける程に煮込めれし玉葱なんぞ、何処となく切干し大根を彷彿させる味なれば、異国情緒溢れる味と云うよりも、宛ら日本の郷土料理の如きか。思わずお替わりをする程にして、Alexandro自慢の猪肉赤ワイン煮、ここに完全殲滅撃沈せり。

欧州美食悦楽最終戦線を完膚なきまでに殲滅せし故、通常ならばこのままペンネを無視し箸を置く処なれど、今回の使命は欧州激不味料理戦線の完全殲滅、特にイタリア料理重量級過食国民戦線に対しては、過去の因縁遺恨もあり報復戦の意もあればこそ、ここで極刑に値する敵前逃亡なんぞ許される筈もなく、いよいよ仇敵ペンネに対峙せり。さりとて最早完全に冷え切っておれば、その激不味戦闘力は到底推し量る事さえ不可能にして、日本男児の特攻精神を以て果敢に挑まんとすれど、その不味さたるや舌が痺れ目眩がする程なり。剰えペンネのモチモチ感に何よりも嫌悪感を感ずれば、冷め切りしペンネのその醜悪なる歯応えは、背筋さえ凍らせて余りあり。されどこの仇敵を殲滅せぬ事には、イタリア料理重量級過食国民戦線の前に完全敗北との烙印を押される事必至にして、幾ら後日厳しく自己批判しようが決して消え去る事なき汚点となれば、何としてもこのペンネ殲滅戦だけは勝利せねばならぬ。斯くの如き決死の覚悟を以て、先ず最初の一口目を飲み込めば、それを機に奇跡的なる反撃の突破口が見出されしか、口内の全感覚を滅却する事で、遂には完全殲滅撃沈せるに至れり。これにて忌まわしきイタリア料理重量級過食国民戦線最大の仇敵の撃破叶えば、大いに勝利の凱歌を揚げにけり。

2月12日(火)

ホテルをチェックアウト後、EmanueleやNeokarma 6etのメンバーと共に、カフェにて朝飯を食らわんとす。流石イタリア人は、皆コーヒーとオレンジジュースのみにて済ませておれど、こちとら大いに空腹なれば、カットレットが挟まれしパニーノ2個を食らいし。当然の如く野菜なんぞ挟まれている筈もなく、また全く何も味付けされておらねば、ここは五家宝連よりとんかつソースを召喚、その見事な働きぶりにて、このパニーノ2個を殲滅撃沈せり。

昼飯となれば、更に昨夜のスタッフ等も合流しレストランへ。殆どの面々がサンドウィッチ等を注文しれおれど、Emanueleが「マッコォ~ト、『本日のスペシャル』ってヤツを食おう!絶対美味そうだからな!」と薦めて来れば、そこはあの美食家Emanueleなればこそ信じぬ訳にもいくまいと、彼と同じ料理を注文、されどこれこそ後に悔やみても悔やみ切れぬ愚行となりけるなんぞ、この時は未だ夢にも思わざりけり。
さていよいよ運ばれしその「本日のスペシャル」とは、ショートパスタに所謂ミートソースの如きが絡められし代物なれど、大量に施されしオリーブオイルに依り、大凡パスタのオイル和えを食わされしが如し。また豚ミンチの醸し出す脂っぽさも加味されれば、これぞイタリア料理重量級過食国民戦線の真骨頂なるスーパーヘビー級胃殺し料理ではなかりしか。昨夜のペンネ殲滅にてすっかり油断しておれば、このイタリア料理重量級過食国民戦線からの完全報復戦、我が胃の明日を顧みず猛然と反撃すれど、そのあまりの諄さに加えショートパスタのモチモチ感を苦手とする弱点さえも急襲され、遂に我が胃はここに白旗降伏、無念にも完食ならず、イタリア料理重量級過食国民戦線が送り込みし刺客の前に完敗玉砕を喫せり。一方でEmanueleはと云えば「おお~っ!この料理美味いな!」と軽々完食しており、迂闊にも彼が美食家なると信じたが故の玉砕なれば、ここに「D.T.A. (Don’t Trust Anybody) 」と自己批判するものなり。

昼飯後、再び昨夜の会場Dabia Labへ戻り、Neokarma 6etとのレコーディングを行えば、さて夜行列車にてクロアチアZagrebへ向かうべく、彼等の車にてMonfalcone駅へ送り届けて頂く。昼飯の玉砕にて胃が大いに調子悪けれども、今宵は長旅なれば、夜行列車乗車前に腹ごしらえを済まさんと、駅前のバーにて再びカットレットの挟まれしパニーノとビールを所望、カットレット以外にレタスが1枚申し訳程度に挟まれておれど、矢張り味付けは施されておらねば、再び五家宝連よりとんかつソースを召喚、カツサンド気分にてこれを殲滅撃沈せり。

これにてイタリア料理重量級過食国民戦線との報復決戦終了、不覚にも一戦こそ玉砕を食らわされれども、昨冬の南イタリア魚介料理重爆撃戦線完全玉砕の結果から思えば、ほぼ完全勝利と称し得る戦果と宣いて憚りなからん。

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