『人声天語』 第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之弐

11月3日(土)
午前7時、未だ放映され続けるエロ番組の喘ぎ声にて起床、いきなり猛烈なる空腹感に苛まされるも、先ずはシャワーを浴び、津山さん共々隣のカフェにて朝飯を食わんとす。店内の皆が、何やら棒状の揚げパン若しくはドーナツの如きを食す中、私はサンドウィッチをオーダーせり。サンドウィッチ+コーヒーで4.50ユーロ(720円)也。サンドウィッチと云えども、欧州にて馴染み深きバケットの其れにあらず、トースト所謂食パン2枚にハムとチーズが1枚ずつ挟まれしのみの簡素なる代物のみなれば、なんちゅう高い朝飯やねん!
午前11時、ホテルをチェックアウトし、タクシーにてMadrid空港へ、タクシー代は26.00ユーロ(4160円)也。懸念されしチェックインも、easy jet対策せしパッキングなれば、何ら問題なくチェックインも終了。ふと水を飲まんと「トイレ水」を探せば、先日トランジットの際には容易に発見せし筈なれど、何故かどうにも見当たらず、これもeasy jetなんぞの格安フライト会社が乗り入れるターミナルには、「トイレ水」なんぞ烏滸がましき「チケットが安いねんから水ぐらい買え!」と云う事か。昨夜ケータリングより寝酒にとワインを失敬すれども、翌日の水までは未だ知恵が回らず、空港なんぞと云う物価の高い場所にて、水1本に1.40ユーロ(224円)も散財せざるを得ぬ羽目となれば、元来享楽的浪費家たる私にとって、いやはや質素倹約の道を極めんとするはいと難し。東君はコーラを自販機にて求めれば、1.60ユーロ(256円)にて何と350ml缶にして、凡そ日本の倍額なるその高額ぶりに思わず言葉さえ失いし。
午後1時10分発easy jet Lisbon行きに搭乗、1時間半のフライトはひたすら爆睡、1時間の時差故に午後1時40分Lisbon着。オルガナイザーNelsonとスタッフの車2台にて会場たるGaleria Ze dos Boisへ。何しろ空腹なれば、先ずは食糧を求め付近を散策すれどなかなかスーパーを発見出来ず、もう倹約なんぞと云うてはおられぬと東君と兄ぃは、遂に空腹に耐え切れずレストランへ。されど彼等と別れし直後にスーパーを発見、求める者は必ずや救われるなり。今直ぐに食する分に加え、明日は列車と車にてVigoまで移動する上、欧州に於いては店舗の殆どが日曜定休なればこそ、明日食糧を調達するは容易ならぬと推察、明日の朝飯と昼飯分も購入せんとす。内訳は、キュウリやニンジンのみならずブロッコリーまで詰められしピクルス瓶が0.72ユーロ、6本入りソーセージ缶が0.27ユーロ、ホットソース「Pili-Pili」が0.68ユーロ、チューブ入りケチャップが0.58ユーロ、オイルサーディン缶が0.39ユーロ、4個入りハンバーガーパンが1.29ユーロ、6個入り玉子が0.62ユーロ、締めて計4.55ユーロ(728円)也。これにて3食分とするならば,相当の倹約となるは明白なり。

スーパーへ同行せり津山さんも「何とか食えて腹膨れんねやったら、もう何でもええわ」と、我々の影響大の様子にして、パンやら果物やら生野菜やらヨーグルトを購入しておられれば、私同様に相当な倹約ぶり。一方のレストランへ赴きし東君と兄ぃは果たして如何に。
会場内にある宿泊部屋にて、ハンバーガーパンにオイルサーディンとピクルス各種を挟み、そこへケチャップとホットソースをぶっ掛ければ、これにてオイルサーディンサンド完成。されどこの「Pili-Pili」なるホットソースが塩っぱ過ぎ、極端に薄味嗜好の私には過酷なる味、そもそもスペイン料理やポルトガル料理は、幾分塩加減多め故、これもその需要に応えし結果たるか。

サウンドチェックを早々に済ませ、Nelson達スタッフや今宵と明晩前座を務むるアメリカのバンドRacoonの面々と共に近所のレストランへ赴きし。Racoonメンバー全員がベジタリアンと判明するや、津山さんは「何ぃ~、ベジかこいつら!アホやのぉ~!」とひたすら嘲笑、確かに肉類や魚介類が大いに美味なるイベリア半島に於いては、他の欧州諸国に比べベジタリアン・レストランも殆ど見掛けられず、これにはNelsonも大いに困惑せし様子にして、何とかサラダとオムレツを注文し事なきを得れど、後に彼曰く「ポルトガルは肉も魚介類も美味いのに、それを食わないなんてバカだ!」ガラスケースに並びし魚介類を眺め、その中から私はスズキに酷似せし魚の塩焼きを注文、サラダを食らいて今かと待ちおればいよいよ運ばれて来し。焼き具合も絶妙にして大いに美味なればこそ、矢張り焼き魚は箸にて食したきもの。

ポルトガルの美食を堪能後は、宿泊部屋のベッドに横になるや爆睡、未だ時差ぼけ解消への道はいと遠し。Racoonの演奏開始にて目覚めれば、会場内は既に満員にて、取り敢えずビールなんぞ呷り、続いて黒人女性バーテンダーお薦めのポルトワインへ。ライヴも盛況に終了すれば、後はひたすらポルトワインを飲み倒すのみ。前回訪れし折には、この界隈は所謂盛り場故に、深夜ともなれば酔いどれ共の祝祭の如き様子にして、東君とその雰囲気を満喫せんと、居心地の良さ気なる飲み屋を求め彷徨するや、道端にて立派な鰯を炭火にて焼くワインバーを発見、鰯の塩焼き1匹僅か1ユーロなればそれを肴にワインを呷りし。その話を我々から伺い知りし津山さんは、今宵是非訪れんと云うておられれど、結局今回は質素倹約を旨とする上、既にメンバー皆就寝体制に入りておられれば、私独りスタッフ共々とクラブのバーにて飲み明かすしか術もなし。今更客も殆ど帰路につけば、スタッフによる宴もいよいよ佳境へ突入、狂乱のディスコ状態と化せば、先程の黒人女性バーテンダーに誘われるままに、ポルトワインの酔い心地の良さも相俟り、遂には魅惑のディスコナイトを堪能せんと踊り明かせば不覚にも酩酊、午前5時過ぎに漸くお開きとなりし。明朝は午前6時半に出発なれば、先ず酔い覚ましのシャワーを浴び、明日の移動へ向け弁当を拵えんと、兄ぃの電気コンロを拝借し玉子とソーセージを茹で始めれど、遂には此処で事切れ椅子に座するまま爆睡せり。

11月4日(日)
果たしてどれ程眠りしか、津山さんと兄ぃの「もう6時やで!」「茹で玉子出来てるよ」の声にて目覚めれど、未だ酒が抜け切らず朦朧としながらも、ハンバーガーパンに茹で玉子とソーセージとピクルス各種を挟み、ケチャップとホットソースをぶっ掛け、本日の弁当たるサンドウィッチ3個を製作。

駅へ向けNelson達の車2台にて、Racoonの面々共々出発。Lisbonより午前7時発Braga行き列車に乗車、車中にて先程朦朧としつつ拵えしサンドウィッチを食らえば、案の定塩っぱ過ぎる例のホットソースを無意識のうちにぶっ掛け過ぎており、ならばと唐辛子を大量にぶち込み緩和せんと試みれど、塩っぱさの前には然しもの唐辛子も轟沈、その余りの塩っぱさに苦悩しつつも3個を一気に完食するや、地獄の塩っぱさにて気絶せしが如く即寝成仏。

ツアー恒例の通称大陰唇サンドを弁当として用意しておられし津山さんは、例によってその特有の堪能のされ方にて食されし。

午前10時半にBraga着。駅構内のカフェテラスにてコーヒー1杯と水1本を購入、2.20ユーロ(352円)也。弁当を持参せじ東君と兄ぃは、ここで遂に空腹に耐えかね、コーヒーとサンドウィッチを所望せり。今宵出演するフェスティバル「Festival Sin Sal」のスタッフが車にて迎えに来ておれば、Racoonと共にVigoへ向かう。
約1時間半のドライヴにてVigoへ到着、ホテルにチェックインするや、階下のレストランにていきなり昼飯の用意がされており、こちとら未だ然程空腹にあらずんば、些かも気乗りせねどレストランへ赴かざるを得ず。ここでもベジタリアンのRacoonの面々はオーダーに困り果て、結局サラダのみにて席を立つ始末。Vigoは海傍故に海鮮料理が美味と聞いておれば、私以外の3名は前菜にタコのマリネを所望、津山さん命名の「タコパン」として、パンと共に頂いておられれば、大いに堪能されし模様。今朝の「地獄の塩っぱサンド」にて一気に体調不良となりし私は、せめて胃に優し気なる野菜とハムのスープを注文、味的には何かひと味足らぬ具合にして、矢張り可もなく不可もなし。主菜は近海にて水揚げされし白身魚のソテーなれど、添えられしソースがまるで気の抜けしラー油の如きにて、何とも諄き事この上なく、これも些か残念なり。

昨夜の暴飲に加え睡眠不足、今朝の「地獄の塩っぱサンド」による苦悶、更にこの強引とも云える怒濤の昼飯にて、遂に引導を渡されしか、ホテルの部屋に戻れば即寝成仏。午後5時に今宵の会場MARCO(Museum Art Contemporary Vigo)へ赴きサウンドチェックを済ませれば、再びホテルへ戻り仮眠。未だ猛烈に体調不良なれば、些か胃の膨満感さえ感ぜられ、今宵はライヴ後に晩飯との事で、これがせめてもの救いか。Racoonに続き我々の演奏となれど、アンプの調子が頗る悪く、ライヴ終盤の「Speed Guru」に突入するや御陀仏昇天あそばし、東君のアンプを拝借すれどこちらも瀕死状態にして大苦戦を強いられども、結局は盛況にて終了し事なきを得しか。
終演後Racoonの面々やスタッフ達とレストランへ。ライヴにて大暴れせし御陰か体調は頗る快調、あれ程膨満感に苛まされ瀕死状態たりし胃さえ今や良好にして、大いに空腹感を感ずる限りなり。私と兄ぃはラムステーキを注文、添えられしライスにアリオリソースが掛けられておれば「ラムとアリオリは相性抜群だから」と教示され、アリオリソースを添えて食らえば、これぞ何とも懐かしき味、20年程前にシェフを務めし某トルコ料理屋のラム料理のその味と酷似せり、この郷愁を誘われし逸品に大いに舌鼓を打ちしは語るもがな。

東君はオルガナイザーお薦めの牛肉と魚介類の串焼き料理、津山さんはエビのグリルを各々所望、皆大いに堪能せし模様なり。

食後のコーヒーと共に、スペインのリキュールを所望すれば、2種類のコーヒーリキュールがボトルごと運ばれし故、そもそもこの手のリキュールを得意とする私は、その美味さに我を忘れ、結局ボトル1本を空にすれば、その酔い心地頗る心地良く、ホテルに立ち返るや即寝成仏。

11月5日(月)
午前7時起床。シャワー後、野良電波にて雑務をこなし、さて朝飯を食らわんとスーパーへ食糧の仕入れに向かいし。明日より2週間もの期間、究極の激不味料理地帯にして物価も大いに高きイギリスへ滞在すると思えば、今のうちにその期間分の食糧も些か仕入れんとす。クロワッサン13個入りが1.59ユーロ、サラミ150gが1.09ユーロ、プチトマト250gが0.99ユーロ、イカ墨入りイカ缶詰4缶が4.64ユーロ(1缶1.16ユーロ)、タコ缶2缶が1.38ユーロ(1缶0.69ユーロ)、ムール貝缶2缶が1.24ユーロ(1缶0.62ユーロ)オイルサーディン缶が0.79ユーロ、締めて11.72ユーロ(1875円)也。各種缶詰購入は、イギリスにてスパゲッティーでも茹でては混ぜ合わせんと思いつきし故。

さて斯様な中にて朝飯は、サラミをクロワッサンに乗せ食す所謂我々の呼ぶ処の「寿司ワッサン」なれど、クロワッサンとサラミによる諄さを緩和するプチトマトの存在を忘るべからず。

同室の東君は、スペインと云う理由からかチョリソと、本来酸味の強き味を好まざるにも関わらず、所謂サナウリアスと呼ばれるニンジンの酢漬け、そしてまたしてもホットドッグパンを購入しておられ、これらの食材にてチョリソサンドを拵え食すや、サナウリアスの酸味とチョリソの余りの諄さの前に悶絶死寸前、合掌。
午前11時、Porto空港よりValencia経由にてアメリカへ帰国するRacoonと共に、我々一同もPortoへ赴く為、昨日と同じドライバーの運転にて出発。先程の「寿司ワッサン」の諄さが次第にボディーブローの如く効いて来れば、悶絶死の危機に瀕せし東君同様、猛烈に気分悪くなりて、兎に角爆睡を決め込まんとす。約2時間程のドライヴにてPorto空港へ到着、Racoonの面々と別れれば、今宵投宿するホテルへ。ホテルは歩行者天国となりしショッピングストリートに面しておれば、チェックイン後、皆で界隈を散策せんとすれど、丁度昼休みにして興味深気なる店舗の幾つかは閉まっておれば、御陰で無闇に散財せざるに済みしかと思えば、それもまた良し。東君は今回のツアーに於いて、何故かしらクレーンを見つける度に写真撮影しておれば、これもクレーンの写真を撮影する事を今回のツアーに於けるミッションと定めし故とか。先日訪れし札幌のカルトスポット「坂レトロスペース」の坂館長の言葉を借りるなら「どんな物でも100個集めれば立派なコレクションになり得る」とか。
さてホテルへ戻るや、同室の兄ぃと共に昼飯とせんとす。私は懲りずに「寿司ワッサン」を頂かんと思えば、兄ぃの昼飯はパンとオイルサーディン缶にして、お互いサラミとサーディンを僅かにトレードしては、単調な味に飽きぬよう務めしものなり。腹もそれなりに膨らめば、退屈極まりなきMTVにて退屈な時間潰しを図る。
午後5時半、オルガナイザーAugustoが迎えに来れば、今宵の会場O Meu Mercedesへと赴きし。エッフェル塔と同じ設計士の手によると云う鉄橋傍にある川辺の旧市街なれば、自他とも認める釣りバカたる津山さんと東君は「やっぱり竿持って来ればよかった…」得てして釣り竿持参の時こそ絶好の釣りポイントには出食わさず、持参せぬ時に限り斯様な次第となるは常なれば、矢張りひと昔前に深夜の通販番組にて売られしインスタント・フィッシャーマンなる小型軽量にしてワン・ツー・スリーにて何時何処でも手軽に釣りが楽しめ、何と鮫まで釣れるとの触れ込みにて登場せし脅威の釣り竿を是非とも購入して頂きたい処か。
サウンドチェックを済ませれば、スタッフ皆と界隈のレストランにて晩飯と相成れり。いろいろ注文し皆でシェアするのがよろしかろうと云う訳にて、では注文を彼等にお任せすれば、先ずはvinho verde(グリーンワイン)なる完熟前の若い葡萄より作られしポルトガル特有のワインを呷り、彼等が代表的ポルトガル料理と誇らし気に語るタコ飯なる逸品と豚の臓物と豆の煮込み、更に牛肉とアサリの煮込み、タコフライ、イカ焼き等が次々と運ばれれば、大いに美味そうにして全員臨戦態勢に突入せり。流石にタコフライとイカ焼きは、素材の良さが味に直結すれば大いに美味なり。牛肉とアサリの煮込みは、アサリを単なる出汁取りに使用しておる故、身はすっかり縮み風味も抜けておれど、炊き合わせの玉葱にその貝出汁が見事に染込みており、斯様に美味なる玉葱料理はお目に掛かりし事なしと感激すれども、否、これはそもそも玉葱料理にあらず、さて肝心の牛肉は煮込み過ぎ故にかなりの歯応えにして、されど煮崩れるには程遠き具合なれば、その中途半端さが何とも残念なり。豚の臓物と豆の煮込みは、臓物の蕩け具合素晴らしく、東君と兄ぃには頗る好評を博せども、極端に薄味嗜好の私には少々塩っぱ過ぎなり。タコ飯はタコ出汁による炊き込み御飯若しくは雑炊の如き逸品なれば、我々日本人には大層好評にして、何にせよポルトガル料理を大いに満喫せし。

ライヴは盛況にて終了すれば、明朝は午前7時半には出発故、早々に会場より撤収しホテルへ。シャワーを浴び、テレビを眺めつつ、午前3時半就寝。

 

(200711/07)

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