『人声天語』 第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之四

11月10日(土)
午前7時起床。津山さんがTesco製カレーヌードルを食わんとしておられれば、果たして如何なる味か、当然私が食せし折に横で見ておれば知っておられる故に、些か恐る恐るいざ啜られれば「ハハハハ!ホンマや、笑うしかないなあ…確かに不味うて食われへん訳やないけど、もう笑うしかない味やなあ…」私と全く同じリアクションなり。

そもそもこのカレーヌードル、イギリスのカップ麺最大手ブランドPOTの味を目指さんと推し量れれど、POTは各種どの味を食せども到底食し得る商品皆無なれば、POTよりは味的に優れしと証明されるものなり。初めて渡英せし際にこのPOTを購入し食せば、あの世界最大級の味覚音痴なるイギリス人にさえ「それはドッグフード以下の食いもんでイギリス人は食わん!食うのはアラブ人やアジア人だけだ!」と散々馬鹿にされし程不味けれど、ほなら何で何処ででも売ってるねん。イギリス&アイルランド以外の国々にてこのPOTを見掛けし事殆ど記憶になければ、大抵は日清カップヌードル海外バージョンかマルチャンのカップラーメン等が主流たらん。即ちドッグフード以下と嘲笑するPOTの激不味さを容認せし上で、否、若しくはその不味さこそが味覚音痴たるイギリス人には美味さとしてさえ感ぜられるのやもしれぬが、何にせよこの世界最激不味カップ麺POTのイギリスのカップ麺市場に於けるシェア率は、かなり高く独占的であろうと云わねばならぬ程、POT以外のカップ麺は見掛けぬ有様なり。即ちイギリスに於けるPOTの需要が、他国にて人気の高き日清カップヌードルなんぞよりも、明らかに高き事により、このPOTの味こそがイギリス人にとっての最高のカップ麺たらんと推し量れれば、成る程Tescoがカップ麺に限りPOTの味を大いに参考にせんとするも理解出来ようか。されど斯様な代物、日本ならば新商品開発の初段階にて絶対的に却下されん不味さなれば、幾らイギリス人の支持があろうが、この激不味さは殆ど犯罪行為にして、これを量産販売するPOTこそ断罪されて然るべきなり。 
昨夜は晩飯を食うておらねば、起き抜けより猛烈なる空腹に苦悶、されど食糧の詰められしスーツケースがバンの中なれば、同室の兄ぃにTesco製即席カレーラーメン1袋を借り受け、更に津山さんから野菜屑を、兄ぃからも乾燥わかめ少々を恵んで頂ければ、さて電気コンロを借り、唯一手元にありし唐辛子と共に全て鍋にぶち込み、北海道のスープカレーをイメージせしカレーラーメンを拵えんと試みれど、何せ元来粉末スープの味が薄ければ、スープカレーをイメージする余り水を入れ過ぎ、嗚呼、その目論みは完全に失敗せり。結果、単に味のほぼ皆無なる若干カレーの香り漂う奇妙なる代物と相成れば、これも猛烈なる空腹故にこそ何とか完食せしものか。矢張り出汁の類いを所持せぬは、斯様な場合ほぼ致命傷に等しきかな。今後の事を考慮すれば、矢張り出汁の代わりを務め得る、何か味の決定打を確実に叩き出し得る秘密兵器の獲得が最優先事項なるか。兎に角このまま何の策も講じず、連日に渡り無闇にあの膨大な量のラーメンを消費せんとすれば、何か味に決定的変化を見出さぬ限り、いずれ自滅的大敗北を喫するは火を見るより明らかなり。

午前11時、チェックアウトするや、昨夜壊れし東君のシンセを修理せんと、Daleが調べてくれし修理屋へ赴く。修理を待つ間、界隈の小さなカフェにて再びイングリッシュ・ブレックファーストを頂かんとす。イングリッシュ・ブレックファースト+コーヒーにて3.80ポンド(836円)、これが所謂イングリッシュ・ブレックファーストの普通の値段なれば猶予の余地はなし。ベイクド・ビーンズ、ソーセージ、焼きトマト、焼きマッシュルーム、目玉焼き2個、厚切りベーコンを頂けば、斯様なラインナップに於いて調理者の腕次第にての味の差なんぞ殆どあろう筈なく、これまた何ら問題なく完食。さればイギリス人とは毎朝斯様に同じ物を生涯食い続けんとするか、この他のバリエーションを思い浮かべるに、精々シリアル程度か、若しくは以前Benが「典型的イングリッシュ・ブレックファースト」と云うて、ベイクド・ビーンズとチーズを乗せたトーストを作ってくれし経緯あれば、凡そ家庭に於いては斯様にシンプルなスタイルか。ならばこの所謂イングリッシュ・ブレックファーストと云われる朝飯セットは、日本で云う処の朝定食の如きなるか。されど日本人でさえ味噌汁の具も変われば味噌の種類も変わり、焼き魚にせよめざしもあれば塩じゃけもあり、納豆が付く時もあれば、玉子焼きが付く時もあり、家庭に於いては昨夜の残り物が添えられることもあり、況してやうどんの時もあればパンの時もあらん、斯くも思えば、日本人程バリエーション豊かな朝飯を食らう民族、他に果たしてあるのやら。因みに以前にも述べれども、欧州美食地帯として知られる地中海沿岸の朝飯たるや、コーヒー+ビスケット、若しくはコーヒー+パン程度にして、朝こそしっかり食さんとする私なんぞには、到底朝飯とは思えぬ代物なり。

このカフェに於いて野良電波にてネット接続し得れば、雑務をこなせし。さてシンセの修理は、結局3時間待たされし挙げ句修理出来ず終い。これもあれ程に東君が手前勝手に色々修理しておれば、凡そプロとしては修理するも憚られる程の酷き状態にして、果たして今更修理する気さえも起こさせじか。Daleの尽力にて、今宵はManchesterのオルガナイザーが偶然にも同じRoland SH-09を所持するとの事で、それを急遽借り受け得る運びとなり、取り敢えずは事なきを得る。結局明日Manchesterにて、修理してくれん奇特なる人物を再び探さんと云う事にて、いざ一路Mancesterへ向け出発。 
僅か2時間のドライヴにて今宵の会場Urbisに到着、さてこのUrbisとはテレビスタジオまで内包するファッションビルなれば、普段全く無縁なるお洒落な空気に思わず圧倒される始末。ステージが設営されしは1階の広大なエントランスホールにて、果たして斯様な場所にて爆音のオールナイトイベントなんぞ催されても良いものなのかと、出演者のこちらが思わず憂慮する有様。2階ギャラリーにてFactory Records関連のエキジビジョンが催されておれば、既に入場時間は終了しておれども忍び込み閲覧、70年代末から80年代初頭にかけての展示に於いては、馴染み深い名前も多く見られ、その当時は遥か極東の日本にて、僅かな情報を頼りにあれこれその様子を想像せしものなれど、ここManchesterで興りし新たなムーブメントの残り香を、当時から30年程経過せし今、僅かながらも嗅ぐ事が出来しか。

ビル管理のセキュリティーに見守られつつサウンドチェックを済ませれば、さて晩飯と相成れり。 晩飯は、タイ料理と中華料理のテイクアウトメニューから各自選べば、私はタイ料理のメニューより、海老のニンニク+唐辛子+コリアンダー・ソース炒め煮を所望。タイ料理に於いてコリアンダーとは、インド料理に於いて指すホール(種)にあらず、葉にして即ちパクチーなれば、長きに渡りパクチーに対しては圧倒的苦手意識により大敗北を喫し続けておれど、遂に先日パクチーさえも粉砕撃沈完全殲滅を果たせば、今やパクチー如き屁ェでもなし。元来タイ料理を好む訳でもなかれども、中華料理も好まざれば、結局は中華料理よりは幾らかマシかと云う程度にして、然して味的にも期待しておらねば、予想通り取り立てて美味くもなけれども、敢えて云う程に不味くもなければ、具のみを食らいて箸を置く。付け合わせの玉子炒飯は半分を残し、明日の朝飯にせんと持ち帰る事とす。されど何よりの収穫は、この電子レンジ対応プラスティック容器にして、これにて今後道中用の弁当を拵えれば、この容器に詰めて持ち歩く事叶うなり。

今宵も更に売り上げを伸ばさんと意気上がる社長津山さんを筆頭とする御三方にShopzoneをお願いし、出番まで未だ3時間以上もある故、私はDaleと共にホテルへ。 
午前12時半、生憎の強風と雨の中、Daleと共にManchester市街の週末の大渋滞を潜り抜け会場へ戻れば、折良く出番なり。ホール天井にはトリッピーな映像等も投影され、昨年のManchester公演と同じくMushrums企画なれば、昨年同様に会場内には風船がそこいらに飾られ、また床にも転がり、何とも幻想として抱きしブリティッシュ・アンダーグラウンドならではの空気が漂えば、今宵も大盛況にして無事終了。巨大アンプ群からの大爆音に客は皆相当ヤラレた様子にして、ホール内は異常とも云えるハイな状態が充満せりか。終演後はDJによるディスコタイムとなれば、老若男女問わず踊り狂い、嘗てManchesterから世界へ発信されしAcid Houseの狂宴の残り香さえも伺えしか。 
午前4時、ホテルへ戻ればメンバー一同即寝成仏なれど、猛烈なる空腹にて苦悶せし私は、またしても夜食厳禁の戒を破り、ここで再びあの忌まわしきTesco製カレーヌードルに勝負を挑まんとす。カレーヌードルとして、一度ならば斯くも笑いつつ食し得ようが、二度目は絶対にあり得ぬと思えばこそ、先ずはその不味さの元凶たるスープを捨て、残されし麺にトンカツソースを和えてみれば、う~む、これは以前何処かで食らいし記憶ある味なり。はて何処で食せしか思い出さんともう一口食らえば、おお!これはまさしく信州伊奈の名物ローメンなり。あの焼きそばとラーメンの間の子の如きにして、どちらの美味さも見事に継承せざる中途半端さ、ここにまさしく再現されしものなり。

午前4時半、シャワーを浴びんとすれど、如何にしても水しか出て来ねば諦め就寝。

 

 

11月11日(日)
午前9時起床。朝飯は、昨夜の残りなる玉子炒飯と即席カレーラーメンをアレンジせんとす。先ずカレーラーメンの袋より麺のみを茹で、粉末スープは玉子炒飯と味が濃くなり過ぎぬよう味見しつつ適量を混ぜ合わせ、茹で上がりし麺はトンカツソースで和え、これにてカレー炒飯+焼きそばが完成。カレー炒飯にせよ焼きそばにせよ、厳密には全くの紛い物なれど、この質素倹約を旨としつつも、限られし食材を如何に飽きずに食し得るように加工し得るか、況してや自炊する限りは、如何にして最低限度の美味さを感じつつ食せるものに調理し得るか、これこそがツアーに於ける貧乏料理の真骨頂なり。一人暮らし等で貧乏生活を経験せし御仁ならば、誰彼なりともオリジナルレシピの幾つかは持っておられよう、それこそが貧乏なれども「豊かに生きる為の工夫」なるものにして、逆に幾ら裕福にして欲するものが何でも手に入ろうが、斯様な「豊かなる生き方」は、決して金にて買う事は叶わぬと知れ。人間とは金や社会的地位や名声にて値打が決まるものにあらず、人間の豊かさにして決まるものなり、とはまるで藤岡弘、の一節の如しか。

さて麺通を自称する東君なれば、彼に是非ともその不味さを共有して貰わんと、Tesco製カレーヌードルを支給、矢張り一度は食ろうて貰わねばならぬ代物なり。反応は当然皆同じにして、一口啜りし刹那思わず吹き出すのみ、そして必ずや食後に何か口直しを求むるも同じなり。 
正午、ホテルをチェックアウト、東君のシンセ修理の為、楽器屋へ向かう。その楽器屋にて、所謂弦を巻く際に使うと便利な、私が呼ぶ処の「あると便利」1個とピック5枚を求めれば、店員皆が昨夜のライヴに来てくれておれば「Great Show in last night!」と、全て無料にて貰い受けし。東君のシンセは、どうやらここで修理叶う見込みにして、17日にGlasgowからLondonへ戻る道中、再びここに立ち寄り受け取る運びとなり、それまでの期間は、昨日借り受けしSH-09を100ポンドにて借用し得る事となれば、これにて目出たく万事解決なり。これも全てはDaleの尽力あってこそ、東君は彼にその香しき足を向けて寝る事なんぞ、これにて絶対許されぬものなり。 
昼飯はカフェにて、皆がイングリッシュ・ブレックファースト(4.90ポンド=1078円)を注文せんとしておれど、己れの肉食魂が猛烈に肉を求めておれば、況してやここ暫く充分評価に値する質素倹約ぶりを展開せし故、然して値段の変わらぬサーロインステーキ5.49ポンド(1208円)+コーヒー1.20ポンド(264円)の計6.69ポンド(1472円)を注文、マヨネーズとマスタードが添えられるとの表記に気付くや、凡そステーキと名こそ冠せども、サンドウィッチの形体ならんと思われれば、マヨネーズを拒否、さてPhiradelphia名物のステーキ・チーズ・サンドウィッチの如きを想像すれど、実際に運ばれしは少々異なる形のホットサンドウィッチなり。肉の焼き具合はレアに指定しておれば問題なし、マスタードのみのシンプルな味付けが功を奏し、肉の旨味を充分に堪能せり。これは所謂日本で云う処のサーロインステーキ定食と云った処か、肉の大きさと値段の微妙なバランスは、日本もイギリスも似たようなものなるか。否、イギリスに於ける諸物価から考慮すれば、このサーロインステーキは未だ良心的価格と云えるか。そもそもマクドにてビッグマックのセットを注文すれば5ポンド(1100円)、ミネラルウォーター 500mlでさえ2ポンド弱(440円弱)、タバコに至っては1箱何と6.70ポンド(1474円)と、このサーロインステーキ+コーヒーと同額なり。

さて一路Liverpoolを目指せば、凡そ2時間弱のドライヴにて、午後3時Liverpool着。港にてタワークレーンが乱立しておれば、それを眺めし東君は狂喜乱舞。自ら観光ガイドさえ買って出んとするナイスガイDaleの案内にて、当時The BeatlesやThe Who等も出演せしThe Cavern Clubへ、別にThe Beatlesファンにあらざれど、折角やしJohn Lennonと記念撮影しといたろ。

ロードインまでまだ幾らか時間あれば、ここで一旦散開、勿論津山さんはレコード屋を目指し、東君は港へタワークレーン群の撮影に消ゆる。私と兄ぃは市街を散策するに留まれば、津山さんが帰還「あかん、レコード屋何軒かあったけど全部閉まってたわ!」本日は日曜なれば、欧州各国の如く日曜は全店舗休みと云う事こそなけれども、大抵早終いなれば仕方なし。東君はデジカメのバッテリーが事切れるまで、ひたすらタワークレーンの撮影に勤しみし様子にして、充分に愛しのタワークレーンを満喫せし様子なれば、未だ興奮状態冷めやらず「俺って釣り竿かクレーンがあったら、それだけで楽しく生きて行けるなあ…」ホンマ幸せな男である。 
さて今宵の会場Magnetに到着、先ずは隣の萬屋にて、常々私のツアー最終兵器なるタバスコ1本を1.79ポンド(394円)にて購入、これにて激不味料理への対応のみならず、それなりの味の代物さえ更に愉しみ得ると云うものなり。宛ら今回のイギリス&アイルランド・ラウンドに於いて、撃沈徹底殲滅せんとする激不味料理最大の標的は、嘗て幾多に及びて果敢に挑めども、毎度見事にその余りの諄さと激不味さの前に敢えなく轟沈、果てしなく連敗を喫し続ける世界激不味料理戦線の古参フィッシュ&チップスなり。フィッシュ&チップスの曲者ぶりとは、白身魚のフライと云う、宛ら日本人に対し一見馴染め易そうな印象を与える点にあり。御陰で毎度「もしかしたらホンマはちょっとは食えるんちゃうか?」と挑みては、毎度完膚なきまでに叩きのめされれば、今回こそは、この最終兵器タバスコを片手に、フィッシュ&チップスに対し必ずや撃沈殲滅せん事、ここに固く決意するものなり。 
サウンドチェックを行わんとすれば、まるでヒッピーの如きサウンドエンジニアの腋臭が強烈にして、ステージ上にその臭い充満し切っておれば、四方や呼吸も侭ならず、さすれば口呼吸にて一切の嗅覚を滅却せんとす。当時のヒッピーの様子なんぞ映像や写真等で知り得れば、十代の頃なんぞ大いに憧憬抱きしものなれど、今思えば、彼等は相当に異臭を放ちていたのではあるまいか。ならば写真や映像にて見受けられる可愛いヒッピーの女の子さえ、実際にはその強烈な体臭にて悩殺ならぬ苦悶悶絶死させられしかと思えば、十代の頃の淡い夢や幻想も一瞬にして破れ去り、果たして匂い(臭い)とは何とも強烈に直接的なる感覚なり。
晩飯は、昨年もここLiverpoolにてお世話になりし女性オルガナイザー、私が呼ぶ処の「Liverpoolの肝っ玉母さん」の手料理にして、ジャガイモとオリーブのトマトソース煮、ピタパン、サラダ2種類(グリーンサラダとオニオンサラダ)なり。先ずはピタパンの中にオニオンサラダを捩じ込みタバスコをぶっ掛ければ、流石に料理に於ける下拵えなんぞ皆無たる野蛮人料理の国なれば、玉葱を水に晒す事もなく、その激烈な辛味が涙腺を刺激すれど、タバスコの豊穣なる酸味が、その玉葱の辛味を見事相殺、「う~む、これはうまい、このうまさ、いかんともしがたい」なんぞとタバスコの偉大さに、今年のマイブームたる藤岡弘、調を以て感動せしものなり。

続けてジャガイモとオリーブのトマトソース煮を頂けば、可もなく不可もなく、所謂欧米にて時折お目に掛かる「お袋の味」的な塩梅なれど、矢張り所謂狩猟民族たる野蛮人の料理なれば、味の調和や繊細さや奥行きなんぞ全く無関心の様子にして、「お袋の味」が斯様に軽薄にして雑な味ならば、当然その子供達が料理の何たるかを理解し得る筈もなく、その行く末を杞憂すれど、然して美味くもない「お袋の味」にて育まれし者共が、いずれ巡り会わんその避けられぬ悲劇とは、我々の到底計り知れぬものなり。

今宵は前座バンドが3つもあれば、私は出番まで爆睡を決め込む有様。ライヴはステージ内の反響凄まじく、巨大アンプ群の音のみならず、スネアドラムの倍音が耳に突き刺されば、更に不要と申請せし筈のシンセによる宇宙音が両サイドのモニターからこれまた脅威の大爆音にて返されておれば、既に両耳は壮絶なる戦死寸前なり。 
明朝フェリーにてアイルランドへ渡航せねばならぬ故、今夜はフェリーの出港地たるHoly Headにて投宿の予定なれば、早々に機材撤収するや、 Daleは一路Holy Head目指し深夜のドライヴを敢行、バンの車内は隙間風が吹く事もあり結構冷え込めば、実は気温自体然程寒くなけれども、暖房設備に問題ある故に、より寒く感ずるものなるか、遂には身体の芯まで冷えて来る始末。途中給油に立ち寄りしガソリンスタンドにて、暖を取りつつも、カクテルソーセージなる代物を1.69ポンド(372円)にて購入、所謂チキンナゲットのソーセージ版か。味的には殆ど日本の練物の如し、宛らゴボウ抜きのゴボ天と云えば想像に易いか。ケチャップとの相性も意外に良ければ、ならばゴボ天とケチャップも相性が良さ気なるか。

午前4時、Holy Headのホテルにチェックイン、同室の津山さんも兄ぃも入室後10分以内に即寝成仏、今夜の移動にてすっかり身体の芯まで冷え切りし故、ならばと約1時間を費やしのんびり入浴。午前6時40分就寝。

 

 

11月12日(月)
午前7時5分起床、僅か25分間の睡眠なれど、その間に見し夢は、戦国時代の日本から現代フランスまでと時代や場所もまさしく支離滅裂にして、長編2本短編2本の計4本、如何に長編の夢なれども実際に見ている時間は数十秒から数分と何かの本で読み知りておれば、されど体感時間は凡そ4時間以上にして、流石に25分間に夢4本の疲労度たるや半端にあらず。 
さて朝飯として、忌まわしきTesco製カレーヌードル最後の1個に、先ず湯を注ぎ何と15分も待機すれば、漸く麺は通常のカップラーメンの麺の具合程度まで戻り、さて問題のスープはここで当然廃棄処分、残されし麺と僅かな具に、如何な味付けを施さんと考慮すれど、そもそも不味い事この上なく救いようなき代物なればこそ、敢えてここは前衛的革命思想と自爆覚悟の特攻精神を以て新たな料理へ挑戦せんと、さて部屋を見渡せば、電気ポットの横に置かれしコーヒー用ミルクを発見、ならばとこれを3個ぶち込み、更にタバスコにて仕上げれば、ここに「タバスコ・フレッシュ・ヌードル」完成せり。決してクリームソース仕立てのスパゲッティーの如きにあらず、食い残しのラーメンに間違えて牛乳を零せしかの如き味なれば、まさしくこれぞ前衛の味、斯様な失敗を重ねる事により、遂には究極の革命的調理法へと辿り着くものなり。

午前8時チェックアウト、一路フェリー乗り場へ。パスポートコントロールなんぞもなし。午前8時55分発Dublin行きフェリーに乗船。フェリー内の免税店にて、甥っ子への土産たるミニカーのセット 3.75ポンド(825円)と、CD2枚「A Boy Named Johnny / Johnny Cash」 2.99ポンド(504円)と「Tunes From The Toons / The Best of Hanna-Barbera」4.99ポンド(1098円)の合計11.73ポンド(2581円)を購入。Hanna-Barberaのアニメは、私の世代には大いに懐かしく馴染み深きものなれど、テーマソング等は全て日本版オリジナル曲が使用されておれば、アメリカオリジナルのテーマソングなんぞ耳にせし記憶なく、故に大いに興味深ければ思わず購入せしものなり。2時間程の船旅にてDublin着、こちらもパスポートコントロールなんぞなく、イミグレーションに於いては、狂牛病対策の消毒液が噴射されるのみ。 
Galwayへ向かう道中のガソリンスタンドにて、Daleが「アイルランドのフレッシュなサンドウィッチはサイコーだぜ!」とサンドウィッチを購入すれば、私もそれに倣わんとす。エプロンせしおばちゃん達が、こちらの注文に合わせサンドウィッチを作ってくれ、目方にて料金が決まるシステムなり。私は、焼きたてバケットにバターとマスタードを少々、レタス、玉葱、コールスロー、玉子サラダ、トマトをトッピングし、締めて3.10ユーロ(496円)なり。おおっ!これは大いに美味なり。パンのサクッとせし食感と新鮮野菜のシャキシャキ感が心地良く、野菜の甘みや辛味が玉子サラダと相まり絶妙なるハーモニーを奏でれば、ファーストフード・チェーンSubwayなんぞの糞サンドウィッチとは比べ得る筈もなし。

兄ぃはチキンサンドウィッチにしておられれば「チキンが重くて高くなっちゃったよ。」赤貧同志の東君は節約の為、先日購入せしスニッカーズを齧り、津山さんはケータリングより失敬せしビールにて「朝ビール」を呷っておられる。津山さんは決して酒豪にあらざれど、何故か朝にビールが飲みたくなる習癖の持ち主にして、されど通常朝酒を呷るや、体内活動が活発化する時間なれば酔いも回り易く、また内蔵等に掛かる負担も大きくなるとかで、故に朝酒は薦められぬと云う意も含み、朝酒を呷るは極道者の代名詞的扱いにされしとか、されどあれ程起き抜けよりテンション高き津山さんなれば、朝ビールを食らいて丁度バランスが取れるのやもしれぬ。 
午後3時過ぎに今宵の会場Roisin Dubhに到着。今夜はクラブから徒歩1分にあるクラブ所有のアパートにて投宿予定なれば、Dale曰く「今夜はもう運転しなくていいから、心行くまでギネスを飲みまくるぜ!」のんびりサウンドチェックを済ませれば、界隈を散策、中華食材屋にて「担々麺醤」なる代物を発見、これぞ求めて止まぬ「出汁の代わりを務め得る、何か味の決定打を確実に叩き出し得る秘密兵器」に他ならぬのではなかろうか。そもそも普段ラーメンの類い全く口にせぬ私なれば、担々麺たる代物も、人生に於いて僅か一度しか食せし経験なし。麺通の東君に云わせれば、私の唯一食せし担々麺たる「陳建一の担々麺」とは、余りに上品過ぎにして、担々麺の醍醐味を損ないしとか。ならば私は東君の云う処の美味い担々麺を食せし経験皆無と云えよう、斯様な私が果たして「担々麺醤」なる代物に全てを託して良きものか、否、ここで勝負せねば何とする、と云う訳で、この「担々麺醤」に全てを賭けんと、1瓶を2.70ユーロ(432円)にて購入。

兄ぃは近所の店にて、禁断とも云えるフィッシュ&チップスに挑戦、されど本場イギリスのそれにあらずんば、大きさも半分程にして、値段はイギリスの倍以上なれば、これは高級仕様のフィッシュ&チップスなるか。「うん、美味いよ、全然大丈夫だよ。」一口頂けば、意外にもサクッと揚げられており、成る程この揚げ具合ならば全く問題なけれども、矢張り本場イギリスの、地獄のグリーシーさを誇る下品極まりなき代物こそ、挑戦のし甲斐もあると云うものか。

さて投宿先へ赴き、晩飯を拵えんとす。イカ墨入りイカ缶と唐辛子とニンニクを用いて、再びイカ墨風味スパゲッティーに再挑戦す。前回よりもイカを細かく刻めば、内部のイカ墨も更に程よくオイルに混ざり、前回よりも満遍なくスパゲッティーに絡みしか。当然の如く充分に美味なれば大いに満足なり。矢張りスペインにて格安缶詰を大量購入せしは、一連の対イギリス激不味料理地帯完全自炊作戦に於いて、味的にもコスト的にもここまで予想以上の戦果を上げしか。

ライヴも盛況うちに終了、終演後、今宵は既に自らの勤めを果たし「今夜はギネスをとことん飲むぜ!」と、ギネスのグラス片手にすっかり御機嫌のDaleは「今夜は1オーディエンス、1ファンとして楽しんだぜ!サイコーだったぜ!」と、ライヴを純粋に楽しんでくれし様子、今宵は無礼講故、心行くまでとことん楽しんでくれたまえ。機材撤収と入れ替わりにDJブースが設営され、恒例のディスコナイトと化せど、どうやら体調不良か酒も殆ど飲めぬ故、早々に投宿先へ。 
ツアー前よりの殺人的スケジュールもあればこそ、流石にここへ来て少々くたばりしか、ならばスタミナを付けんと、先程購入せし担々麺醤を用い、いざ担々麺醤ラーメンを試作せんとす。

調理法は至って簡単にして、Tesco製即席カレーラーメンの麺のみを茹で、そこへ担々麺醤をぶち込めば完成なり。先述の通り、私は担々麺が何たるかを知らねども、この担々麺醤ラーメンは何の問題もなく美味なり。麺通の東君に試食をお願いすれば「おっ!これ普通に美味いやん!」さて使わざりしカレーラーメンの粉末スープは、これを溜め置きて、いずれこれを利用しスープカレーを拵えんと企めば、バター塩ラーメンに加工する故、同じく付属の粉末スープを使わぬ東君からも今後寄贈して頂く事となりし。これにて残されしイギリス&アイルランド・ラウンドに於ける大凡の調理計画の指針を立て得れば、さて早々に寝んとすれど、丁度そこへDaleが女性2人を同伴帰還、されど同じく御機嫌にグラスを傾ける東君を除くメンバー一同、斯様な乱痴気騒ぎ一切気にする事さえなく、午前2時半就寝。

 

(2007/11/15)

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