『人声天語』 第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之六

11月17日(土)
午前9時起床。朝飯に、昨夜のケータリングから失敬せし激不味サンドウィッチを試さんとす。「Brie, Grape & Cranberry」と記されておれば、ブリーチーズと葡萄ジャムとクランベリージャム、取り敢えず甘味系の味のベクトルなれば然程不味くもなかろうと思えど、レタスも挟まれご御丁寧にマヨネーズまで塗られておれば、うむむむ…何とも云えぬ微妙な味、決して吐き出す程の激不味さならずとも、そもそも子供の頃よりフルーツ入りサラダを忌み嫌いておる経緯もあり、やはりマヨネーズとジャムとの相性は最悪にして、そこへレタスのシャキシャキ感とブリーチーズの塩っぱさとチーズ臭さが遭遇するや、如何ともし難きこの不味さ、されど質素倹約を旨としておれば、ここは耐え難きを耐え忍び難きを忍ばんと、奥義たる味覚を完全に滅却する事にて完食を果たせり。

本日はLondonへの移動日にしてオフなれど、Manchesterに立ち寄り、修理を依頼せし東君のシンセを引き取り、現在借り受けているシンセを返却せねばならぬ。されどDale曰く「俺がツアードライバーを勤める時は、どんなバンドであれStonehengeに連れて行くんだ」と云う訳で、道中にStonehengeにも立ち寄る計画なれば、午前10時にチェックアウト、昨夜の会場Stereoにて機材を積み込み、一路Manchesterを目指さん。今宵はサッカー欧州クラブ選手権のスコットランド対イタリア戦が行われるらしく、スコティッシュキルトに身を包みしサポーターが街中に溢れ返れば、まるで街中全員ロディー・パイパーかと見紛う程か。

道中にて立ち寄りしドライヴインにて、これよりいよいよ極寒の地北欧を訪れる事もあり、無類の寒がりにして薄着好きの東君は「やっぱり上着買っとこかな」と、厚手のジャンパーを購入すれば、山男故に万全の装備を期さんとする津山さんも帽子とマフラーと手袋のセットを購入。元来耐寒力に秀でる私は、今回長袖Tシャツ+マフラー+革ジャンが最高耐寒装備なれど、極寒の北欧と云えども未だ11月なれば、精々氷点下5度程度と予測しておれば、今までの経験値よりこれで充分と判断、嘗て防寒着なんぞ持参せし事もあれど、一度たりと袖を通す事なければ、唯々嵩張り邪魔なだけと知る。 
今回は未だ、あの忌まわしき激不味料理Fish & Chipsに遭遇しておらねば、本場スコットランドにて、スコットランド人の寿命を縮める要因と云われる本場のグリーシーなFish & Chipsを是非とも食さんと思えど、いよいよスコットランドより発たんとしておれば、最後のチャンスを逃す手はなしと、ここのレストランにてFish & Chipsを注文せり。私の知る限りFish & Chipsとは、ジャンクフードにして格安(大抵3ポンド程度)との印象強けれど、ここのFish & Chipsは何と7.45ポンド(1639円)と倍以上もすれば、果たして如何なる代物が出て来るか、もしや全長50cm超級の巨大Fish & Chipsではあるまいな等と、大いに期待に胸を膨らませる処。さて運ばれし其れを眺めるや、まるで日本でもお馴染みの極普通の魚フライの如きにして、大きさも通常見掛けるFish & Chipsよりは小振りにして上品ささえ漂い、FishもChips(フライドポテト)も、見た目の揚げ具合は、所謂Fish & Chipsたるラードにてベタベタに揚げられし様と大いに異なり、まさしく極普通なれば、私の落胆ぶり半端にあらず。斯様な上品なる高級Fish & Chipsを撃沈殲滅せし処で、これでは真のFish & Chipsを撃沈殲滅せしと宣うは憚られようか。人生とは得てして斯様な巡り合わせにして、激不味料理を回避せんと思えば矢鱈と遭遇すれども、激不味料理を撃沈殲滅せんと士気上げれば、皮肉にも巡り会わぬものなり。勿論この高級Fish & Chips、味の方も全く以て日本の定食屋の魚フライ定食の其れと同じにして、全く問題なく美味しく頂けど、Fish & Chipsとはまさしく此処大英帝国に於ける魚フライ定食にして、魚フライなんぞ日本の定食屋に於ける安価なメニューの代表格、それも大抵魚フライが2枚盛り付けらるるが定番なれど、ならば何故この高級Fish & Chipsこと極普通の魚フライは、斯様に高額なるか。矢張りあの健康を害しそうな程にグリーシーなFish & Chipsこそが、日本で云う処の魚フライ定食に当たり、この高級Fish & Chipsは、揚げ具合や衣の厚ささえも拘りを見せておれば、日本で云う処の天婦羅定食の如きに当たるのか。御陰で稀に見掛ける「Fish & Chips美味しいですよ!」とホザきし方々への偏見こそ改めねばならぬと反省すれど、矢張り次回こそ、あの庶民的国民食たるベタベタのグリーシーなFish & Chipsに再挑戦せねばなるまいと、心に強く誓うものなり。

売店にて立ち読みせしBizarre誌上にて、昨秋に行われしAcid Mothers Guru Guru @Troubadour LAのライヴレビューを発見、思わず購入すれば、兄ぃ曰く「マコト君、ダメだよ…エロ本はDVDが付いてるヤツを買わないと!」「否、エロ本とちゃうんですけど…」とライヴ評を見せれば「な~んだ、ごめんごめん、そうか…じゃあそれ今度アメリカのビザ申請時に今年の資料として付けられるねえ…」流石は兄ぃ、見事な切り返し。「Damn Damn Heavy!」と評されておれば、Daleが大いにその表現を気に入りし様子にして、この日より「Damn Damn Heavy!」を連発する事に相成れり。 
Manchesterの楽器屋へと到着すれば、結局東君のシンセは修理不可能との事で、そのまま引き取る羽目となりし。東君曰く「やっぱり俺の素人修理の跡を見たら、素人改造してると思われて、プロは直す気なくなるんかなあ…」何にせよ明日のLondon公演、更にこの後のヨーロッパ・ラウンドも残されておれば、先ずは代わりのシンセ調達が大命題なり。取り敢えず明日のLondon公演に関しては、今現在借り受けているシンセの持ち主にDaleが連絡、DaleはLeeds在住故、イギリス&アイルランド・ラウンド終了後に、DaleがLeedsへ戻る途中に届けると話をつけ、何とか解決。されどその後に控えるヨーロッパ・ラウンドは如何に対処するか。「シンセ買おかな…この際Moogとか!」赤貧に喘ぐ東君の悲痛なる開き直りか、取り敢えず明日ライヴ会場へ向かう前に楽器屋へ赴き物色する事となれど、明日は日曜日なれば果たして店は開いておるやら、Daleの話では午後からなら開いているであろうとの事、明日は明日の風が吹くか。既に午後4時ともなれば、結局Stonehengeへ赴く時間もなく、Daleは大いに残念がり「次回は絶対に連れて行くから!」然れば一路Londonへ。 
今宵の投宿先は、現在Londonに在住しておられる元水玉消防団のカムラさんの友人Scott宅、道中大渋滞に巻込まれ、漸く辿り着きしは午後10時過ぎなり。全員大いに空腹なれば、それを見越してかカムラさんが晩ごはんを用意して下さり感謝感激。ワインにて乾杯すれば、先ずはモヤシサラダ、仄かな胡麻油にてあっさり仕上がっておれば大いに美味、モヤシを珍しそうに眺めしDaleも大いにお気に召した様子。

続けて鯵のオーブン焼き、葱と一緒に調理されておれば、葱の風味が鯵と見事なハーモニーを生み出し、これはまさしく絶品なり。

久しく忘却せし日本の味を思い出せば、普段ならここで質素倹約も激不味料理殲滅戦も放棄せん処なれど、今回は既に体がパンやらスパゲッティーやらに順応せしか、全く以て日本料理禁断症状を発症する兆しさえ見えず、質素倹約せざるを得ぬ故の金の力は恐ろしきか、さてまた切羽詰まりし人間の驚異的順応力に驚くべきか。ここでカムラさんが「皆お腹空かしてると思ってカレーライスも作っといたよ」ここで巡り会うか、カレーとは天下無敵の日本人の国民食、その香しき香りを嗅ぐのみにて空腹感が刺激されるは必定なれど、既に鯵をアテに飲みモードに突入せし私は、津山さんや兄ぃがカレーライスを貪る様を横目に、ひたすらギネスを呷るのみ。東君のシンセ調達に腐心してくれるDaleに、カムラさんが自分のシンセを貸そうかと有り難き申し出、これにて明日新しくシンセを購入する必要もなければ、東君もこれには大いに感謝感激。これにて一件落着か。さて深夜ともなれば些か空腹を感じ、徐ろに冷めしカレーライスを食い始めるや、これがまた何たる美味さ、元来無類のカレー好きなれば、今更夜食厳禁の戒もへったくれもあったものかと、思わず2杯も食らいし有様。

Daleは、明日のLondon公演終了後、彼のボスたるBenと共にBen宅へ投宿するとかで、今宵が共に過ごす最後の夜となれば、「これが最後のギネスにする」と言いつつも、結局8本のギネス缶を空ける始末。常々彼は、「10 O’clock man!」と午前10時より前に起きるは大層難儀なる事を訴えておれば「明日は長距離の運転もないし、心置きなく朝寝坊出来る」と、2人でギネスの空き缶の山を築き、挙げ句午前5時まで飲み明かす羽目となり、午前5時就寝。

 

 

11月18日(日) 
午前8時半起床。朝飯として、イカ墨入りイカ缶と唐辛子、更に台所にて物色せし玉葱とケイパーを用い、イカ墨風味スパを拵えんとす。イカ墨入りイカ缶と玉葱と唐辛子をフライパンにして軽く炒め、ケイパーを加え、そこへ茹で上がりしスパゲッティーを混ぜ合わせれば完成。ケイパーの酸味がアクセントとなり、これは大いに美味なり。

昨夜カムラさんのシンセをヨーロッパ・ラウンドへ借り受ける事で一旦解決せし東君のシンセ問題が再燃。明日19日に予定されるスウェーデンへのフライトは、前回荷物の重量超過料金を請求されしRyanairなれば、そのシンセが大き過ぎ、規定重量枠内に荷物を纏め得るは到底不可能と判断せし次第。然れば東君は、今借り受けているシンセを、引き続きヨーロッパ・ラウンド最終日まで借り受けられぬかDaleに相談、早速持ち主に連絡すれども連絡付かず。Daleは「多分大丈夫、任せとけ!」と強気故、東君もそのつもりとなり、本日午後に楽器屋へ赴くを中止すれば、もしもこのシンセを今夜限りにて返却せねばならぬ状況となりし際、果たして如何に対応し得るか。されど元来楽観主義者にして刹那主義者たる東君と私は「まあ多分大丈夫やろ、今までも運良く何とかなってきたしな!」と、既に承諾を得たかの如き余裕ぶりなり。 
午後2時よりラジオのインタビューあれば、何でも私の出演するコーナーとは「Davil’s island disc」なる所謂無人島レコードの逆バージョン、要するに最も嫌いなレコード1枚を挙げると云うものなり。さて私がMiles Davisの「Bitch’s Blew」を選ぶやDJは狂喜「ジャズ史に残る名盤と云われる『Bitch’s Blew』を選ぶなんてサイコーだ!」勿論何故このアルバムを忌み嫌うかの説明もすれば、結局収録時間を大幅に超過しておれど「ありがとう、今日は本当に素晴らしい番組になったよ、きっと凄い反響を呼ぶと思う!」と大いに喜んでもらえし様子。何しろ私にとって「Bitch’s Blew」とは、ジャズの息の根を止めし、ジャス史に於いて極刑にも値する重罪盤なり。 
津山さんと兄ぃは既にレコード屋に赴いておられれば、私はDaleに連れられ、Pink Floydの「Animals」のジャケットにて有名なるPower Stationへ赴きし。以前、電車の車窓越しに写真撮影せし経緯あれど、実際に赴くは初めてなり。寒空に強風吹き荒れ小雨降る中、Daleと2人カメラを抱えてPower Stationの周囲を徘徊すれば、矢張り目的を同じくするオーストラリア人と遭遇、確かにPink Floydファンにとっては聖地のひとつに数えられるか。

午後6時、今宵の会場Corcica Studioへ。サウンドチェック後、スタッフの手料理にて晩飯と相成る。ワインを呷りつつ、先ずはハムやチーズ等のアペタイザー、続けてギリシャ料理やトルコ料理にて御馴染みのヨーグルトソースを添えしサラダ、ビリヤニの如きスパイシーなピラフに、トルコの代表的串焼き料理シシケバブの如きが施されし逸品、私は嘗てトルコ料理店のシェフを勤めし経緯あれば、トルコ料理には五月蝿き故、精々及第点を差し上げ得るかどうかのレベルではあれど、我々が日本人と云う訳で梅干しやら梅酒やら日本酒やらおかきやらまで用意してくれておれば、その心遣いを以て充分感激せり。更にデザートとして、いちごと手作りシュークリームもあれば、元来シュークリームに全く目がない甘味大食いの私は、その文字通り甘き誘惑に負け、長きに渡る甘味断ちをここで一時解禁、結局殆どを一人で完食する有様。

表へタバコを吸いに出るや、既に会場せしにも関わらず未だ長蛇の列にして、されど既にソールドアウトらしく、Mojo Magazineの付録CDにてAMTを知りしと云う黒人が、何とかゲストで入れてくれぬかと懇願する故、見兼ねしDaleが手回しすれど「大抵ああいうヤツは、いつもあの手を使ってるのさ」とはDaleの弁。シンセの持ち主と漸く電話が繋がれば、無事ヨーロッパ・ラウンド最終日まで拝借し得る承諾を得られ、これにて連絡が付かぬ事に若干不安の色を滲ませし東君も漸く安堵。最終日のライヴ終了後に梱包し、翌朝帰国の途に付かねばならぬ我々に代わり、オルガナイザーに送料を手渡し発送して頂く運びとなれば、Daleはその連絡役まで買って出てくれ、真に以て素晴らしき働きぶりなり。Daleのボスにして、幾度も我々のツアードライバーを勤めしBenと再会、彼にDaleの素晴らしき働きぶりを報告すれば「He is the man!」と彼も絶賛せり。尚、修理叶わず終いの東君のシンセは、Benが「次来るまで預かっておくから、多分1年もあれば誰か修理出来る人も見つかるだろう」と、修理の為に預かる運びと相成れば「明日のフライトで絶対2台もシンセ持って行くの無理だから、もう捨てて行こうかな」と悩みし東君も、これにて一件落着。 
ライヴは大盛況にて終了、午前1時過ぎにScott宅へ帰還すれば、いよいよDaleともこれにてお別れなり。アイルランド・ラウンドにて、ケータリングとして用意されし膨大なギネスを、最早飲み尽くす程酒豪にあらざる我々なれば、それら残りしギネスをバンに満載しており、大のギネス好きたるDaleとBenに「もうこれで仕事も終わりだから、今夜ゆっくり飲んでくれ」と進呈。Thanks Dale、You are so cool guy!!!!

イギリス&アイルランド・ラウンドの垢を落とさんと入浴すれば、湯船に浸かりてうたた寝。ギネス片手にカムラさん達と歓談、午前3時就寝。

 

11月19日(月) 
午前7時起床。夜中に4度もこむら返りとなれば、未だ足に痛みが残る有様。台所へ赴けば、津山さんが「カムラさんがすき焼作っといてくれてんで」と、既に食ろうておられれば、私もすき焼丼にして少々頂かんとす。

矢張り日本の味付けは何処かで安心させられるものありて、イギリス&アイルランド・ラウンドのこの2週間、ひたすらスパゲッティーやらラーメンやらパンやらにて食い繋いでおれば、況や日本料理禁断症状を発症する兆しこそ無けれども、流石に若干食傷気味か、アメリカの特大ステーキやらポークチョップやらフライドチキンとは云わねども、ハンバーガーやホットドッグさえ恋しきかな。過ぐる春の北米ツアーに於いて、アメリカ帝国主義的超重量級養豚料理戦線を完全殲滅を謳い、北米大陸に於ける大東亜美食共栄圏のヘゲモニー獲得を目指しオルグを行わんと、先ずは人類家畜化飼料たるジャンクフードを完全殲滅する事により、家畜化されつつあるアメリカ人民を覚醒させ、徹底的な自己批判の下に、既に侵攻しつつある大東亜美食共栄圏世界味覚革命同盟への賛同を押し進める為、アメリカ帝国主義的ジャンクフード世界侵略戦線へ潜入し、アメリカの国民食たるホットドッグ完全殲滅を目論む余り、遂には東同志との壮絶な内ゲバ戦にまで発展せし経緯あれど、今現在の我々の有様とは、そのオルグ対象たりしアメリカ帝国主義的ジャンクフード世界侵略戦線の人類家畜化を目論む故の麻薬中毒的味覚に知らず知らず犯され蝕まれ、気が付けば逆にオルグされし有様なるか。今回質素倹約と称し、金の為に見事転向せし我々は、そもそも享楽主義者にして刹那主義者なるは当然にして、更には利己的なまでの御都合主義者でもあれば、総括を求められようが、些かも自己批判なんぞと阿呆臭い欺瞞に満ちし愚行なんぞする筈もなく、逆に今度はアメリカ帝国主義的資本主義の尖兵となり、反広東料理反贋日本料理を掲げ、「テリヤキソース=日本料理」的な華僑による日本料理に対する食文化価値的侵略を阻止せんとする為にも、忌まわしき大同団結たる大東亜美食共栄圏に矛さえ向けんとし、返す刃にて欧州植民地主義的慢心料理戦線をも粉砕する覚悟なり。 
つい先程すき焼丼を食せし筈なれど、何も為すべき事なければ無性に腹が減るものにて、最後の缶詰となりしイカ墨入りイカ缶にてイカ墨風味スパを拵え食す。これにてスペインにて購入せし9つの缶詰を全て消費、この2週間、驚く程安価にて海鮮料理を堪能し得れば、この「スペイン大航海海鮮缶詰作戦」にて、異常に高額にして激不味たる大英帝国料理戦線との不毛なる殲滅戦さえも回避、この作戦の戦果は、経済的にも味覚的にも歴史的大勝利と云って過言にあらず。

さてイギリス滞在最終日なれば、御馴染みPiccadilly CircusにあるMoney Corporationにて両替せんとす。イギリスポンドに限っては、日本に於ける両替レートと10円近くの大きな差があり、圧倒的に現地にて両替するが得策なり。地下鉄の1day ticketを5.10ポンド(1122円)にて購入、単純に往復分の切符を購入するより割安なれば、何と高額なる地下鉄か。常々「名古屋市営地下鉄は高い」と嘆く東君なれど、初乗り200円も此処Londonにては夢の如き格安運賃に思えるか。 
無事両替を済ませれば、再びScott宅へと戻り、いよいよ今宵のフライトに向け最終パッキングを行う。何せ前回、受託手荷物の無料にて預け得る規定重量15kgを7kg超過し、超過料金56ユーロ(8960円)支払わさせられし経緯あるRyanairなれば、況して1kg超過につき超過料金5ポンド(1100円)を課せられると知る今、斯くなる上は機内持込み手荷物に重量の嵩張る物を入れ、出来る限り受託手荷物たるスーツケースの軽量化を図る作戦なり。私は再びギターを解体しスーツケースに詰め込み、総重量が14kgもあるエフェクター等の機材群を手提げ鞄に移し、その手提げ鞄とiBookを入れしリュックの2つを機内に持ち込む算段なり。これならば重量の超過も3~4kgに抑えられると推察、最早些かの超過料金は仕方なし。そもそも受託手荷物の重量規定が15kgなんぞおちょくってるとしか云い様なしなれど、御存知の通りRyanairは、チケット代が限りなく無料に近き程に爆安なれば、大凡斯様な追加料金を収入源としているのであろうか。東君は通称「お地蔵さん」と呼ばれる特大ギターケースに、ギターは勿論エフェクターの類い等詰め込み得る限り詰め込み、強引に機内へ持ち込まんと云う大博打に打って出る所存にして、受託手荷物たるスーツケースには、シンセと衣類のみと云う、極限までの軽量化を図りし。元々荷物の少ない津山さんはベースを解体、衣類やら食糧やらも全て受託手荷物たるベースケース(正確にはベースケースにあらずアコースティックギターケース)に詰め込み、購入せしレコードや物販商品を機内持込みの手提げ鞄に詰め完了。兄ぃは、スネアを解体し、胴の中に物販商品やら諸々を詰め込みて機内持込み手荷物とし、ペダルやら奥様へのお土産やらを受託手荷物たるスーツケースに詰め込めば、これにて全員何とか対Ryanairパッキングは完成、果たして問題なく無事にチェックインし搭乗叶うか。 
今宵はStockholmに午後9時頃の到着予定にして、Ryanairの陳腐にして高額なる有料機内食に無駄金を遣う気もなければ、出発前に最後の腹拵えをせんと、皆徐ろに調理を始める始末。津山さんはすき焼と御飯の残りにてすき焼雑炊を、兄ぃは先日何処ぞで購入せし蛸マリネの缶詰と、常に携行する高野豆腐を用い、蛸と高野豆腐スパを、東君は結局このイギリス&アイルランド・ラウンドを初志貫徹スパゲッティー・ペペロンチーノにて完遂せんと、スパゲッティー在庫一掃の超特大スパゲッティー・ペペロンチーノを、各々食せし。

斯く云う私は、最早スペイン産海鮮缶詰も使い果たしておれば、Glasgow公演のケータリングより失敬せし謎のパテ3種類と、先日立ち寄りしドライヴインのレストランより失敬せし袋入りケチャップを用い、このイギリス&アイルランド・ラウンドに於けるスパゲッティー三昧の最終章を飾るに相応しき4色スパを拵えんとす。先ずは3種のパテの味見ならぬ毒見をしてみるや、酸味がかなり強めのアボガドのペースト、矢張り若干の酸味がある胡桃若しくはピーナッツのペースト、乾燥バジルが和えられしヨーグルトソースの如き代物、と云うラインナップなれど、どれも然して激不味と云う程にあらねば、これらを用いて充分4色スパをを作り得ると確信せり。スパゲッティーを茹でそれを4等分すれば、各々のパテと和えるのみのスタイルにして、所謂冷製パスタどころかイタリア人には掟破りたる禁じ手パスタサラダの手法を拝借、アボガドスパには粗挽き胡椒を、ヨーグルトソーススパにはケイパーを、ケチャップスパには粗挽き胡椒と生唐辛子を添え、胡桃若しくはピーナッツペーストスパは、その濃厚な味わいを愉しまんとパテを多めに和え、先ず4色の各スパゲッティーが完成、皿に盛り付け、中央にはレタスと台所の棚にて物色せし唐辛子のピクルスを以て飾り付けも施せば、ここにスパゲッティー三昧最終章たる4色スパ完成せり。一同その仕上がりの美しさに「おお~っ!流石や!」「おお~っ!何か高級レストランのスパゲッティーみたいやなあ…」と思わず歓声を上げる程の出来映えなり。さて肝心の味の方は、4色を順番に巡りつつ食らわんとすれば、先ずアボガドスパの酸味の強烈さが舌に残り始め、続いて胡桃若しくはピーナッツペーストスパのパテを多めに和えしが裏目となり、その諄さに辟易とし、その諄さを相殺せんと爽やかなバジル入りヨーグルトソーススパを食らえば、不覚にもその救世主たらんバジル入りヨーグルトソーススパを真っ先に完食、斯くなる上は、子供の頃より馴染み深きケチャップスパを最後の口直しの砦として温存する作戦とし、アボガドスパとバジル入りヨーグルトソーススパを交互に食らえば、その強烈な酸味と尋常ならぬ諄さが相殺される事なく、食らう程に増々強烈となる酸味と猛烈なる勢いにて蓄積される諄さが交互に襲来、遂には猛烈な胸焼けと吐き気さえ誘う始末。何とかこの両者を平らげ、漸くケチャップスパにて口直しすれど、味覚が既に麻痺しておれば、ケチャップの無闇な甘さと冷製パスタならではのスパゲッティーの嫌な感じの食感のみしか感じ得ず、ここに最後の砦も敢えなく陥落、何とか完食を果たせども、その見栄えから想像だに出来ぬ程の激不味ぶりにして、これぞ今回のツアーに於ける最強激不味料理たりしは、既に疑いの余地さえなし。何と激不味料理の聖地大英帝国にて、自らの手により最強激不味料理を生み出せしとは、幾ら味の決め手となりし食材のパテ3種が大英帝国産であろうが、これは切腹級の大失態なり。されど完成せし際、一同の賛辞に気を良くし、何処ぞの屁たれの如く「もし不味かったら切腹したるわ!」なんぞと無闇に大見栄切らぬ知恵と良識程度は、ダメ人間たる私でさえ持ち合わせしものにして、そもそも軽々しく切腹なんぞと、腹を切る度胸も自責の念もなしに公言するものにあらぬは当然至極、武士道も随分と陳腐になり下がりしか、否、弁慶は武士にあらず坊主だったか。

東君はブーツの何処ぞが裂けしか、先程雨の中を両替に向かえば床上浸水せしとかで、靴下も被害を被り、況してや元々日頃から足が蒸れて大層臭しと自ら告白する輩なれば、今やブーツ内部は末期的状態らしく、新しい靴下を下ろせし意味さえもなければ、遂にはビニル袋を靴下代わりに履く始末。

さてカムラさんの友人の車にてLiverpool Street駅まで送って頂き、午後3時25分発Stansted Expressに乗車、切符はLondon到着時に往復切符を購入しておれば、いよいよ一路Stansted空港へ。午後4時10分に空港に到着、午後5時40分発Stockholm行きなれば、チェックインには充分余裕を持っての到着と云えよう。さていよいよ鬼門となるか運命の分かれ道なるチェックインへと向かう。苦肉の策にて受託手荷物の軽量化を図りし御陰で、私は何とか4kg超過、東君も同じく4kg超過、兄ぃと津山さんは15kg以内にてクリアなれば、私と東君は早速Ryanairのチケットセンターへ超過料金各22ポンド(4840円)を支払いに赴けど、同じく超過料金の支払いをせんとする御仁のみならず、出発時間厳守を謳うRyanairならでは、乗り遅れて新たなチケットを求める御仁も多く、長蛇の列を形成する次第。シンセを借り受けし東君は、ここで問題をひとつ抱えており、シンセのコンセントはイギリス方式なれど、明日よりヨーロッパ・ラウンドなれば、コンセントの形状が異なる故、変換アダプタを購入せねばならず、ヨーロッパに於いて、ヨーロッパ方式からイギリス方式への変換アダプタは、旅行用品店に行けば入手は容易と思われれど、逆のイギリス方式からヨーロッパ方式への変換アダプタの入手は困難たらんと思えばこそ、何としてもイギリスにて、即ち此処Stansted空港にて購入せねばならぬ。されどこの長蛇の列に並ぶ今、旅行用品店を探し赴く事叶わず、更には搭乗時刻も刻一刻と迫りておれば、兄ぃに変換アダプタの購入を依頼、これにて取り敢えずこの問題は解決か。 
さてこの長蛇の列に並ぶ間に、私の受託手荷物と津山さんの受託手荷物の名前が入れ替わりし事実を発見、されど同じフライトに搭乗する故問題あろう筈なく、差し当たり超過料金支払い請求書の名前と同番号の荷物のタグの名前が異なるのみが問題なれば、漸く支払いの番が回りて来るや、先ずチェックインカウンターの女性職員が受託手荷物の名前を付け間違えし下りを説明、然れば矢張り全く問題なく超過料金の支払いも無事済ませし。30分以上も長蛇の列に並ばされし御陰で、既に搭乗時刻は迫り、大慌てにて搭乗ゲートへ向かわんとすれど、今度は東君のお使いを頼まれし兄ぃが行方不明、果たして既に変換アダプタを購入し搭乗ゲートへ向かいしか、それとも何処かで我々を捜しているのやら。AMT鉄の掟として「危機的状況に於いては、各自判断し自らの責任の下で行動せよ」とあれば、兄ぃも旅慣れておる故、勝手に搭乗ゲートへ向かいしと推測、こちらも津山さんと東君と3名にてセキュリティーコントロールへ向かう事とす。さてセキュリティーコントロールの入口へと辿り着けば、またしても長蛇の列にして、更に空港職員のオバハンが「手荷物は1個まで!手荷物は1個まで!」と大声にて叫んでおられ、されど今までの経験上、大抵2個持っていようが不問に付され通過叶えば、全く問題視せずにセキュリティーコントロールへ突入せんとすれば、そのオバハン「あなた達、手荷物は1個まで!2個はダメ!」と我々を制止、津山さんは手提げ鞄1個のみなれど、私は手提げ鞄とリュック、東君に至っては特大ギターケースとリュックの2個と云う出で立ちなれば、制止されて当然か。されど手提げ鞄1個の津山さんさえ「ウエストポーチも1個と見做すので、あなたも手提げ鞄とで2個になる!」と制止させられる有様。今まで数え切れぬ程フライトしておれど、斯様に不条理なる言い掛かりは初めてなり。周りを見渡せば、他の乗客も何とか鞄を1個にせんと無理矢理どちらかの鞄に他方の鞄を捩じ込んでおられる有様にして「ほなら1個にしたらええんやな!」津山さんはウエストポーチを紐にて手提げ鞄に縛り付け、無理矢理1個にすれば無事通過叶い、セキュリティーコントロールへと向かわれし。既に特大ギターケースがはち切れんばかりの東君は、明らかにアウトにして「じゃあどうしたらいいって言うんじゃ!」と半ばキレ気味にそのオバハンに食って掛かれば「それは楽器でしょう?じゃあOversize Baggageのチェックインカウンターで再チェックインして来なさい!」その遣り取りを横目に、私も既にエフェクター類で満杯の手提げ鞄に、無理矢理iBookが入れられしリュックを捩じ込み、再度セキュリティーコントロールへ突入せんとすれば、今度はそのオバハンの手下たる若い兄ちゃんの空港職員が「その鞄は機内持込み手荷物の規定重量10kgを超過している!」と因縁付ける始末、10kgなんぞ超過せしは重々承知しておれど「何ヌカしとんねん!10kgじゃ!」と強行突破せんとすれば、先程のオバハンが「じゃあそこに秤があるから計測して!」と、その兄ちゃんに指示、斯様な場所にて計量なんぞ前代未聞か、秤が周到に用意されし辺りにこのオバハンの陰険ささえ感ずるが、規定重量10kgを当然超過の14kgにして、セキュリティーコントロールへ向かう事叶わず「ほならどないしたらええねん?」との問いにオバハン曰く「その荷物を再度チェックインして預けなさい!」「アホか!搭乗までもう時間ないねんど!そんな事したら乗り遅れるやんけ!」「兎に角規則ですから再度チェックインして預けなさい!それ以外に選択肢は無し!」斯様に不条理なる話、今まで一度たりとも経験なければ、怒り狂う気にさえなれず、思わず呆れ果てるしか術もなし。何を根拠に手荷物を10kgに制限せなあかんねん!重量的見地からの安全上の問題とかヌカすんやったら、手荷物と体重と更に受託手荷物の総重量にて規定重量を決定すべきやろが!デブはそれだけで充分に重量オーバーちゃうんか!結局は機内持込み手荷物を少なくさせる事で、受託手荷物の重量が嵩み、即ち更なる超過料金が稼げる仕組みと云う訳か。未だセキュリティーコントロールの長蛇の列に並ぶ津山さんの姿を確認し得れば「俺と東君は多分乗られへんから先行っといて!」と大声にて伝え、仕方なくチェックインカウンターへ戻れども、既にチェックインなんぞ当然終了しておれば、居合わせしRyanairの職員に事情を説明「じゃあチケットセンターでお尋ね下さい。」おちょくっとんか!再びあの長蛇の列に並べば乗り遅れるは必至、たかが手荷物のせいで何で乗り遅れなあかんねんな!結局新しいチケット買えって事やんけ!これこそ爆安チケットにて名を馳せしRyanairの悪徳商法なるか。こんなもん殆ど詐欺やないけ!さて東君は如何な事になっておるやらと見渡せど、あの特徴的な白髪の長髪は見当たらず、運良く搭乗に間に合っておれば、それに越した事なし。何にせよ私は、Ryanairのチケットセンターへ向かい、再び長蛇の列の最後尾に並ぶしか術もなく、これにて乗り遅れる事は決定的と相成れり。この列にて並ぶ間に、他のメンバーを乗せし飛行機は離陸し、出発案内の電光掲示板からそのフライトナンバーも消え、そのフライトの1時間後たる午後6時40分発Stockholm行きの存在も確認しておれど、この長蛇の列に並ぶ間に、そのチェックインも終了を迎えれば、この時点に於いて明日のフライトとなる事が決定的となりし。漸く自分の番となれば、チケットセンターの男性職員に乗り遅れし便のチケットを見せつつ事情を説明し、次のStockholm行きチケットの購入を尋ねるや「じゃあ明日の朝6時半の便です。値段は71ポンド(15620円)になります。インターネットで購入すれば若干安くなりますが…」「ネットでって何処にあるねん?」「空港内にインターネットコーナーありますから…」「クレジットカード持ってへんから空港のネットサービスは使われへんねん!ええよ、ここで買うわ!でも所持金のポンド足らへんから両替せえへんと…」「じゃあ両替して来てまた並んで下さい!」まさか斯様な事態になると想像だにしておらねば、また津山さんから超過料金は経費から支払うとの有り難き御言葉もあり、今日の午後に所持せしポンドを殆ど日本円に両替しておれば、現在の所持金のポンドは僅か40ポンドにして、新たなチケット購入の為に再びポンドへ両替せねばならぬとは、これぞ愚の骨頂。せめて両替のレートに際しての損を最小限に抑えんと、日本円にあらずユーロを両替する事にし、況して今宵のLondon滞在が決定的なれば、何処へ投宿するにしても幾らかの金が必要なるは当然、160ユーロ(25600円)を100.50ポンド(22110円)に両替、コミッションは3ポンド、3940円の損失なり。これにて漸くチケット購入叶うかと、再び長蛇の列の最後尾に並び、30分後に再び自分の番が来れば、今度は先程応対せし男性職員の隣に座る女性職員が応対。「乗り遅れたんでチケットをチェンジしたいねんけど…」「(他社のように)チェンジは出来ませんし、勿論払い戻しも出来ません。新たに買って頂く事になります。」ならば仕方なしと「「じゃあなんぼになりますか?」「81ポンド(17820円)です」「何でやねん?さっき隣に座ってる兄ちゃんは71ポンド(15620円)って云うたぞ!」するとその女性職員、先程乗り遅れし便のチケットを指し「あなたは受託手荷物を預けてますね?その預かり料の10ポンド(2200円)です。」受託手荷物って預かり料も取りながら、尚且つ重量超過による超過料金まで取ってるんか!何ぼ程阿漕な商売しとんねん、お前ら!なんぞと憤りし処で為す術もなければ納得する他なし。なるほど、しゃあないな…ほなら…と、いざ購入せんとするや「その前にこの荷物(乗り遅れし便にチェックインせし際に預けし受託手荷物)を受け取って来て下さい。そうでないと新たにチケットは購入出来ません!」「はあ?ほなら何でさっき隣の兄ちゃんと話した時、その事云うてくれへんかってん?」その遣り取りを盗み聞きせしか、隣に座る先程応対せし男性職員曰く「あなたが荷物を預けてるって知らなかったから…」「アホか!お前、ワシのチケット見たやろが?ほなら荷物のタグ付いてんねんから荷物預けてる事ぐらい判るやろが!」余りに阿呆なシステムにして阿呆な職員共、思わず憤り烈火の如きにならんとせし刹那、女性職員が口調を多少荒げ「兎に角荷物を受け取って来ない事には、新たにチケットは買えません!」この不条理に対し今や為す術さえなしかと思えば、せめてと「ところでワシはさっき受託手荷物に既に4kg超過分の22ポンド払ってんねんけど、それってもう一度チェックインすんねやったら返金してくれるんか?」今度は女性職員も冷静な口調にての回答「一度支払われたものは、如何なる理由であれ返金出来ません!」ふと津山さんと私の受託手荷物の名前が入れ替わりしを思い出せば「ここでもうひとつ問題あるけど…よう聞いてな…チェックインの際に、係員がワシの受託手荷物と同伴の友人の受託手荷物と名前間違えてタグ付けてんねん。その友人は、自分の受託手荷物がここにあるって知らん筈やけど、それはどないすんねん?」「それはこちらでは関知できません!」「アホか!お前らが間違えたことやんけ!」「今更そんな事云われても困ります。それより荷物を受け取って来て下さい!」「わかったわ!ほんでそれ何処に行ったらええねん?」「(空港内地図を見せて)ここに専用電話機があるので、そこでRyanairの番号へ掛けて頂ければ、係の者が出ますから…」結局無情にも積み残されし受託手荷物を受け取りに行くしか術もなく、到着ロビー端にある専用電話機にてRyanairの係員へ電話し事情を説明すれば「じゃあ係員が行くのでそこでお待ち下さい。」待つ事10分以上、漸く係員の女性が姿を現わすや「そこのセキュリティーコントロールを通ってこちらへ来て下さい。」空港職員用通路を通る為、先程はあれ程通りたくても通れぬどころか到達さえ叶わじ金属探知機ゲートを通過、14kgと計測されし手提げ鞄もセキュリティーコントロールを通せば、当然エフェクター類なんぞ丁重に調べられる始末「ワシは乗り遅れて、ただ受託手荷物取りに来ただけやで!」漸くセキュリティーコントロールを突破し、到着ゲートの受託荷物受取所へ入る事叶えば、案の定私のスーツケースの替わりに津山さんのベースケースが置き去りに、それを引き取りそのまま到着出口を抜け到着ロビーへ、何が哀しくて出発さえしてへんのに到着出口から出て来なあかんねん!当然と云えば当然ながら到着出口の目の前にホテル案内所を発見、行きがけの駄賃とばかりに空港近くのホテルを尋ねれば「空港内にホテルがあります!1泊170ポンド(37400円)です!」斯様に高額なホテルなんぞ自腹にて投宿せし経験なければ「他にないん?もっと安いとこ?」「空港から離れた所に1泊158ポンド(34760円)のホテルがあります。」然して差もなければ、一旦考慮する事とし「ここって何時まで開いてるん?」「ずっと開いております。」「ほなワシ乗り遅れてチケット買い直さんとあかんので、チケット買うたら戻ってくるわ!」「どうぞお待ちしております。」斯様な遣り取りを交わし、その足にて再び両替へと向かえば、今宵のホテル代も考慮し、222ユーロ(35520円)を140.61ポンド(30934円)に両替、コミッションは3ポンド、損失は4586円、先程の両替分と合わせれば8526円の損失なり。たかが両替のみにて38.72ポンド若しくは53.20ユーロの損失にして、果たしてこの金があれば、レコードが何枚買えるか、如何に美味なる逸品が食し得るか、そもそもエフェクター類の幾らかをスーツケースに詰め受託手荷物の重量が超過しようが、その超過料金として充分余りあらんや、なんぞと思い始めれば、当初よりそれなりの超過料金を払う覚悟さえしておれば、斯様な愚行にて金をドブに捨てる必要もなかりしか。それもこれもRyanairの爆安チケットを振翳す悪徳商法に起因するものなれば、許されざるはRyanairか。再びチケットセンターの長蛇の列の最後尾に並べば、またしても30分後に漸く自分の番となり、先程の男性職員は既に勤務時間が終了せしか姿見えず、別の女性職員の応対となれり。「チケット買い直したいねんけど…」と乗り遅れしStockholm行きのチケットを見せれば「かしこまりました。120ポンド(26400円)です!」「ぬぁにぃ~!つい今しがた81ポンド(17820円)って隣のオバハン職員が云うとったど!」「あっ、失礼いたしました…Stockholmですね。間違いました。81ポンドです。」もしも先程値段を伺っておらねば、この女性職員の間違いに気付く事なく、単にぼったくられるのみならず、全く異なる場所へフライトさせられる処にして、仮にこの間違いにチケット購入後に気付き払い戻しやチケットの変更を訴えようが、至って冷静な口調にて「一度支払われたものは、如何なる理由であれ返金出来ません!」なんぞと冷たく一蹴され、新たにチケットを買わされる顛末となるのやら、ホンマはわざと間違えてるんちゃうか!Ryanairの悪徳商法恐るべし。明日再び今日と同じ顛末を迎える事のみは避けたければ「ところでもし受託手荷物2個預けたらなんぼになる?」「1個につき10ポンド(2200円)です。」「ほなら2個預けよかな?2個って云う事は、2個で30kgまで超過料金なしで預けられるんやんな?」「いいえ、違います! 2個の受託手荷物の合計重量が15kgなら超過料金なしです!」「はあ?でも受託手荷物1個10ポンドやねんから、2個で20ポンド追加って事やろ?」「そうです。でも兎に角受託手荷物2個の合計重量が15kgです。それを超過した場合、1kgにつき5ポンドの超過料金を払って頂きます。」「おちょくっとんか?ほなら1個預けて超過料金払う方が安いってことやな!」なんちゅう理不尽なシステムなるか。結局爆安チケットを売りにしておれど、実際は受託手荷物の超過料金が嵩めば、然程安からずと云う事か。新たなチケットの代金は、受託手荷物1個の枠を付け81.19ポンド(17862円)也。 
さて何はともあれこれにてフライトは決定、次は今宵の投宿先たるホテルの手配なり。一瞬London市内まで立ち帰り、安宿なんぞ探さんとも思えど、明朝午前6時35分発のフライトなれば、午前4時半には空港に着きたき処にして、ならば果たして何時に起床し出発せねばならぬか、またStansted Expressの往復切符をディスカウント価格であれ20ポンド(4400円)も出し購入せねばならず、ならば割高なれども空港付近のホテルに投宿する方が、気楽にして得策と云えよう。先程のホテル案内所に立ち戻るや、私の顔を見るなり「空港から少し離れていますが、1泊120ポンド(26400円)のホテルがありますよ!空港への送迎もやってくれますよ!」「ほならそっちにするわ!」これにて今宵の投宿先たるホテルも決定、迎えの車を到着ロビーにて待つ間、今日の空港に到着せしからの顛末を振り返れば、既に単なる笑い話以外の何ものでもなし。果たして津山さんは、まさか自分のベースケースがLondonに置き去りにされしとは夢にも思っておらねば、またしてもベースケース紛失かと如何に杞憂し憤慨されん。斯様な事を考えておれば、迎えの車が到着。運転手が「明日は何時のフライトですか」と尋ねれば、午前6時35分発のフライト故、午前4時半には空港に到着したき処と伝えるや「随分朝早いフライトですねえ…」と云われ、今宵は乗り遅れし故、明日のフライトに振り替えざるを得じと話せば「もしかしてRyanairじゃないですか?毎日お客さんみたいな客が何人も泊まっていきますよ!Ryanairは時間厳守で飛ばす事しか考えてない!乗客なんてどうでもいいんですよ!飛行機さえちゃんと時間通りに飛べば!悪名高い飛行機会社ですよ!でも爆安だからついつい皆利用してしまうんですよね…。」成る程、斯様に悲惨な憂き目に遭いしは私のみにあらずか、Ryanairの悪徳商法恐るべし。 
今宵の投宿先De-Salis Hotels London Stanstedへ到着、チェックインせんとすれば、フロントの女性が「ホテル案内所では1泊幾らと聞いてますか?」と尋ねる始末、もしやホテル案内所と結託し、金を巻き上げ得る絶好の鴨と見れば、ぼったくってるんちゃうやろな?「えっ?120ポンド(26400円)と伺ってますが…」「申し訳ございません、少々お待ち下さい…」と、ここで空港のホテル案内所に電話を掛け、改めて値段を確認する有様。どうやら確認出来た様子にて、120ポンドを支払い無事にチェックイン、通されし部屋を見るや、間違いなく1秒間以上唖然として完全硬直せし筈にして、次いで苦笑せざるを得ぬ有様。流石に120ポンドと云うだけの値打ちはあるか、矢鱈と広い部屋に天蓋付きキングサイズベッド、テレビは大小2台あり、PCまで設置されネットは使い放題とか、部屋の中央には紅茶と菓子が並べられしテーブルが置かれ、更にバスルームを覗けば、豪華なラブホテルの如きガラス製の洗面台にジャグジーバス、別にシャワーも用意され、便器のみならずビデも完備、たかが飛行機に乗り遅れし由縁にて斯様に豪華なホテルに投宿とは、最早笑うしか為す術なし。常々「天蓋付きベッド欲しいなあ」と切望する東君に話せば、さぞ悔しがる事だろうが、果たしてあの天蓋付きキングサイズベッドに、一体どんな顔して寝たらええねん?そろそろメンバー一行もStockholmに到着する頃なれば、部屋のPCにて兄ぃの携帯電話へ、こちらの状況と津山さんの荷物の件をメールにて送信、またTrad Gras och StenarのギタリストJakobの御子息Isakが迎えに来る筈なれば、Jakobに私が乗り遅れし旨と、明朝のStockholm到着時間をメールし、取り敢えずこれにてひと安心なるか。

猛烈に空腹なる事に今更気付けば、ホテル内のレストランへ赴く。メニューは殆どイタリア料理にして、されどもうパスタには辟易としておれば、ハンバーガーとビールを注文、ハンバーガーは手作りにして大いに美味、「ここまで無駄金遣うてんやったら、もうどうでもええわ!そもそも柄にもなく質素倹約なんてセコい事すると、得てして神様が絶対無理矢理に金遣わせよんねんなあ…なんかもうアホらしいなってきたなあ…。」ならばヤケクソにてビールをもう1本追加する始末。ハンバーガーと瓶ビール2本にて12.45ポンド(2739円)也。

さて部屋に戻り大型テレビを堪能せんとすれば電源入らず、結局小型テレビにて映画なんぞ観賞せざるを得ねば、何やねん、ほならこのデカいテレビは唯の飾りか!ならばと気を取り直し、ジャグジー風呂にて本日の厄を落とさんとすれば、ジャグジーも稼働せず。おいおい、これも唯の飾りか!何か全然値段に見合ってへんやんけ! 
ふと気付けばデジカメを紛失せしに気付き、先程レストランにてハンバーガーの写真撮影せしを記憶しておれば、早速レストランへ立ち戻り探せども見つからず。フロントにて伺わんと赴くや、私の顔を見るなり未だこちらが何も云わぬ傍から「レストランに忘れておられましたよ」と、カメラを差し出せり。このフロントの女性にせよ、先程の運転手にせよ、レストランの給仕にせよ、皆大いに親切にして好感度高く、御陰で今日の忌まわしき出来事さえ忘れ得るか。 
明日のフライト用パッキングをせんと、そもそも津山さんのベースケースは13.7kgにて受託手荷物の規定重量15kg以内にして、さて中を伺えば幾分空きスペースありし故、手提げ鞄よりエフェクター類等詰め得る限り詰め込めば、これにて受託手荷物たるこのベースケースに対し間違いなく超過料金を支払わねばならなくなれども、機内持込みの手提げ鞄は間違いなく規定重量の10kg以内となりし筈なり。これにて明日セキュリティーコントロールを突破叶うはほぼ間違いなかろうが、万が一今日と同じようなトラブルにてフライト出来ぬともなれば、最早万策尽き果てしと、その際は他のメンバーやTrad Gras och Stenarの皆には悪いが、潔くスウェーデンのライヴ2発の参加は諦め、陸路にて次の目的地スイスへ単身向かわんと決意するものなり。 
明日は午前4時半出発なれば、せめて天蓋付きベッドぐらいは満喫せんとすれど、どうにも落ち着かねば寝心地よろしからず、午前3時過ぎに漸く就寝。

 

(2007/12/25)

Share on Facebook

Comments are closed.