『人声天語』 第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之拾

11月30日(金)
午前8時起床。朝飯はパン定食、最早「パン嫌い」を自称せりも今は昔、取り揃えられたる各種ジャムを愉しまんとパン6個を食らいし。船内を散策なんぞしては、食堂へと戻りコーヒーを啜り、自室にて横になりては、再び食堂へ戻りコーヒーを啜りと云った具合に、何とも為すべき事なく退屈な時間を過ごせし。CoostとGabbaちゃんを始めとするOB連も去り、Circleは朝からゴッホ美術館とアンディー・ウォーホール展に行くとかで既に外出せし様子。為すべき事なければ余計に腹の空くものにして、さてお待ちかねの昼飯は、まさしくこれこそドイツかジャガイモ定食、バジルの効きしヨーグルトサラダが添えられておれば、ジャガイモを潰しつつヨーグルトサラダと和えて頂くや、何とも爽やかなる味なり。この質素なる昼飯、日本で云う処の玉子御飯にでも相当するか、質素倹約を旨とする私には過不足なし。

午後1時20分Stubnitzを出発、Stubnitzのクルー2人の案内あれば、無料フェリーにてAmsterdam Centraal駅へ。フェリー下船の際、美術館巡りを終えしCircle御一行とまたしても再会、果たして彼等と次なる再会はいつ何処で。Amsterdam Centraal駅へと着けば、先ずはRotterdamまでの切符を購入せんと思えど、Stubnitzのクルー曰く、何でもオランダ人を同伴すればオランダ人割引にて切符を購入し得るとかで、彼等はそこらの紳士に懇願すれど、どうやら徒労に終わりしか、Rotterdamまでの運賃は13.20ユーロ(2112円)也。 
無類のコロッケ好きなる私なれば、駅構内のコロッケ(kroket)自販機にて、オランダ名物たるコロッケを1個購入し食せし。されど斯くも小さきコロッケ1個が1.20ユーロ(192円)とは、随分値打ちこいたコロッケにして、さぞや美味からんと思えども、そもそも衣が分厚きを好まぬどころか、日本のコロッケに於いてでさえも衣が荒めのパン粉による類い一切を好まざる私なれば、衣が尋常ならぬまでに分厚き本場のコロッケは、日本のスーパの総菜屋にて5個220円程度にて売られるお値打ち品の足元にさえ及ばぬお粗末さなり。日本のコロッケこそ今や世界最強なるは云うまでもなしか。嘗て近世に於いて、日本人がポルトガル人より料理を学びて、今や海外に於ける日本料理の代表格ともなりし天婦羅を、また明治期にはコロッケやトンカツ等の洋風揚げ物を生み出し、世界最強の揚げ物文化を築き上げれども、19世紀にフランスよりオランダに伝来せしコロッケは、今やオランダ名物にして国民食との位置付けさえされておれど、何故斯くもお粗末なるか。トンカツソースを施さんとの熱き思いも、斯様なるお粗末な代物にはトンカツソースが勿体なしと思えばこそ、今や冷め切りし次第なり。

午後2時発Rotterdam行きICに乗車、午後3時半過ぎにRotterdam Centraal駅に到着。タクシーにて今宵の会場Wormへと向かえば25ユーロ(4000円)とな、これは些かボラれたか?されどオルガナイザーに請求する故、問題なし。 
何と会場1階がレコード屋になっておれば、質素倹約を旨とする私にとっては大いなる試練、堪え難きを耐え忍び敵を忍んでこそ真の質素倹約魂ならん、此処は我が強靭なる精神力の見せ所とばかり、当初は全くの無関心を決め込んでおれど、餓鬼の如く物色する津山さんと兄ぃに「何かええもん見つかりました?」と尋ねるや、Arionレーベルの古楽のLPなんぞ抜いておられ、矢張りこれはもう辛抱ならぬ、そもそも「中古レコードとは一期一会」を信念にさえ据えておれば、最早禁断の中古レコードに触れぬ訳にはいかぬと自ら破戒無慙、されば一気に脳汁大噴出にして濁流状態、結局LP3枚を抜き32ユーロ(5120円)この程度ならば充分に質素倹約の許容範囲なりと、珍しく厳選に厳選を重ねし自らを納得させ得し。更にライヴCDR用にとCDR20枚を20ユーロ(3200円)にて、スタッフに無理矢理懇願し分けて頂きし。 
連日の床上浸水にてブーツが完全に御釈迦になりし東君は、今や「クシャッ、クシャッ」と音を立てては即席ビニル袋靴下にてうろうろする始末なれば、スタッフや対バンの皆に大いに嘲笑されておれど、そもそも斯様な事を気にする輩にあらず「あんなグショグショのブーツ気持ち悪くて履いてられん!でもこのビニル袋、防水と違うのかなぁ…中まで浸水して気持ち悪い…」然れば津山さんより新たなビニル袋をプレゼントして頂きし。ブーツは今や御釈迦なれども何とか乾燥させんとの涙ぐましき努力とは、偏えに数日後に控えし帰国便に搭乗する際、長時間フライト故にブーツを脱ぎたき一心からか。「このままじゃ、俺のブーツの異臭で他のお客さんに迷惑掛けるからなぁ…。」

サウンドチェックを済ませ、さて晩飯は、オルガナイザーが何処ぞよりテイクアウトせし贋中米料理なる代物。中米料理風を装っておれど、ベジタリアン料理なれば、中米料理の醍醐味あろう筈なく、大豆製ミートボール擬きとライスとサラダに加え、オランダ人の主食たるフリッター(フライドポテト)なれば、取り敢えず腹の足しにこそなれど、矢張りオランダは然して料理美味からずか。

イタリアのTV局が、今宵の模様を番組にするとかで、遥々大勢のクルーが機材一式を携えイタリアより訪れておれば、先ずインタビューをこなす。演奏中もカメラ数台にて撮影しておれど、ステージ上にもカメラクルーが控えておれば、私の脇に構えるテレビカメラが非常に邪魔にして、思わず叩き潰さんとの衝動にも駆られれば、成る程カリフォルニアジャムに於けるリッチーの心情察するに余りありしか、されど斯様に立派なカメラを壊せば果たして幾ら程弁償せねばならぬのかと考慮するや、況して今回のツアーは質素倹約を旨とせし故もあり、そのカメラを破壊するには到らず。我ながらスケールの小さき男なるを痛感。されどギターにチョークスラムを食らわせし際、何とギターネックのジョイント部分が破損、明日を以てツアーは終了となれば、何とか残り1ステージさえ演奏叶えば問題なしにして、果たして修理し得るや否や、今までの経験から察するに大凡問題なしと楽観視。 
午前2時半、界隈のホテルへ徒歩にて向かいチェックイン、午前3時半就寝。

 

12月1日(土) 
午前11時45分、他のメンバーに叩き起こされ起床。ツアー終盤ともなれば、未だ無自覚なれど大いに疲労困憊せしか。当然朝飯を食らう間もなく、即タクシーにて出発するも、何とタクシーを下車する際に、不覚にもiBookを収めしリュックをホテルのロビーに忘れし事に気付けば、独りホテルと駅を一往復半する羽目となり、そのタクシー料金は10.50ユーロ+16.30ユーロの計26.80ユーロ(4288円)なれど、昨日の駅よりクラブまでのタクシー料金と然して違わねば、矢張り昨日のタクシー運転手にぼられしか。 
猛烈に空腹なれば、コロッケの自販機にて、コロッケ1.20ユーロ(192円)とkipburgerなるサンドウィッチ2.00ユーロ(320円)を購入、kipburgerは只、何やらはんぺんの如きが挟まれしのみのお粗末なる代物にして、流石にこれは味的に物足らず、トンカツソースを添えて頂きし。如何に不味き代物さえ充分食うに堪えるよう加工し得るトンカツソースとは、斯くも偉大なり。

ベルギーのGentまでの切符を購入、25.80ユーロ(4128円)也。午後1時28分発Brussel行き列車に乗車、切符にはAntwerpen Centraal駅にて乗り換えと記されておれば、Antwerpen Centraal駅にて下車し、ホームに設置されし乗り換え案内TVモニターにてGent行きを探せど見つからず、ふと枠外にオランダ語にて何やら但し書きあれば、どうやらGent行きは次のAntwerpen Berchem駅にて乗り換えとの指示らしきを発見、勿論オランダ語なんぞ理解出来ねば、今までの経験値による即断にして不確かなれども、メンバー一同にその旨伝えるや、再び同じ列車へと飛び乗りし。Antwerpen Berchem駅に着くや、矢張りGent行き列車はこの駅が始発にして、切符に記されし通りにAntwerpen Centraal駅にて下車しておれば、途方に暮れしは間違いなしか。斯くして午後1時55分発Gent行き列車に無事乗車。東君は相も変わらず車窓よりタワークレーンの撮影に勤しんでおれど、左右両側の景色を押さえんと欲張るあまり、幾度も決定的絶景を撮り逃しておれば「明日また通る時に撮るから!明日は絶対撮るぞぉ~!」と、自らを慰め激励する始末。 
午後4時頃にGent St.Pieters駅に到着。明日は早朝の列車に乗らねばならぬ故、況してや帰国便に乗らねばならぬ故にその列車に乗り遅れる事は許されねば、予め切符を求めておかんとす。Brussel空港までの運賃は7.00ユーロ(1120円)也。今宵は「The Pause Festival」なるフェスティバルに出演、スタッフが車にて迎えに来てくれておれば、昨年同フェスティバルにてOverhang Partyの助っ人ドラマーとして演奏せし兄ぃが「やっぱり待遇が全然違うよ…だって去年は迎えに来てくれなくて、結局自分達でホテル行って…ハハハハ…悲惨だったよ…」それは御愁傷様、でも迎えに来るのが普通ですやん。 
会場に到着するや、楽屋は既に他のバンドでごった返す中、赤ワインを呷りつつ先ずはギター修理に取り掛からん。大きく裂けしネックのジョイント部分の螺子穴に、爪楊枝を無理矢理捩じ込みて、はみ出し部分をカットし、上から螺子を締めれば即席修理も完了。最早この程度の修理なんぞ慣れたものにして、果たして弦を張ればそのテンションにも充分耐え得る様子、これにて問題なし。サウンドチェックを手早く済ませれば、会場界隈を散策しお土産なんぞ物色、サッカーフリークたるみつるちゃんに、あのコリーナさんTシャツを購入。路上にて、世にも稀なるゴキブリ侵入禁止の道路標識を発見せり。

会場内に出演者やスタッフ用の食堂が設営されておれば、いざ晩飯に在り付かん。トマトスープ+サラダ+チリ+ジャガイモ、これまた調理がお手軽なれば、如何にもフェスティバルらしきメニューなり。ヨーロッパ然と、チリには味付けが殆ど為されておらねば、各々塩と胡椒にてお好みの味に調整、毎度苦言を呈させて頂くが、これこそ料理人がその職責を放棄せしと思えども、さて如何に。万人に「美味い」と云わしめしてこその料理人なれば、万人に「美味い」と感じさせる為に予め味付けを施さぬなんぞ、斯くなる輩を料理人と呼ぶは片腹痛し。ゴール前にて絶好のシュートチャンスにも関わらず、横へパスを出せし某元日本代表サッカー選手の如きの屁たれぶりなり。

昨年は灰野さんやら三上さんやら友川さんやらのPSF勢が大挙出演せしと伺いし同フェスティバル、されど今年はアメリカのストーナー系バンドに占められておれば、一体どんな主旨やねん?サウンドチェックの際、我々の出音に対し、サウンドエンジニアが「Too Lound!!!」と、例によって音量を下げるよう促しておれど、今聴く限り、会場内はかなりの爆音なれば、些かの問題もなしと勝手に推察せり。アメリカのストーナー系バンドにより、満員御礼の会場も大いにヒートアップしておれば、いよいよヘッドライナーとして我々の出番と相成りし。今宵にて今回のツアーも最終日なれば、メンバー一同灰さえ残さじと完全燃焼、ラストはギターにチョークスラムを食らわせ完全粉砕。アンコールはアカペラによる「La Novia」これにて今回の欧州ツアーも幕。終演となるや否や、東君はManchester公演よりここまで借り受けしシンセを空輸にて返却せねばならず、Per君宅にて梱包材は調達済みなれば、ここは梱包の達人兄ぃにお願いし、いざ厳重なる梱包作業を開始せり。

無事に梱包し終えるや、予めDaleがオルガナイザーに事の次第を告げてくれておれば、オルガナーザーに梱包せしシンセと送料を手渡し、これにて東君の最後のミッションも終了。 
午前2時半、ホテルへチェックイン、最後の夜は4人部屋なれば、ケータリングより失敬せし赤ワインにて、ツアーの無事終了を祝し乾杯。流石はツアー歴戦の猛者共か、徐ろにここで皆「腹減ったなぁ!」と各々隠しメニューを取り出せば、津山さんは生うどん、東君はカップ担々麺、兄ぃは例によって高野豆腐やわかめをぶち込みしラーメンを、電気ポットにて湯を沸かし食し始めれど、私は既に食糧なんぞ一切所持しておらず、そもそも最後の夜食なんぞ全く頭に無ければ、これはぬかったわい…。明日はいよいよ帰国故、各自荷物を「最終形態」にパッキング。津山さんは、ベースケースならば楽器として扱われる故にわざわざOversize Baggageにてチェックインせねばならぬ事を面倒臭がればこそ、ベースを解体し極端に縮小化「これやったら楽器って思われへんから、普通のチェックインで行けるやろ!」当然肩には本人曰く「ベースよりも大事」なレコードが機内持込み手荷物として担がれし。

荷物をパッキング後、シャワーを浴び、午前4時前に就寝。

 

12月2日(日) 
午前7時前に起床、と云うよりも殆ど眠れず。「最も人を信用出来ぬ国ベルギー」なればこそ、津山さんは「ホンマにタクシー来よるかなぁ…」と杞憂されておれど、予定通り午前8時前にはタクシーにて駅へ到着せり。切符も既に購入済みなれば、朝飯として、駅構内のカフェにてコーヒー+チョコクロワッサン+カスタードドーナツを所望、締めて4.80ユーロ(768円)也。菓子パン2個とコーヒーにてこの値段とは、日本の相場から考えれば些か高く感ずれども、今や慣れしかこれも当然の値段の如きに思える有様。何よりも今日は帰国なれば、最早斯様な事さえどうでもええか。 
午前8時32分発Brussel空港行きIRに乗車、東君は昨日撮り逃せしタワークレーンを撮影せんと息巻きておれど「あれ?昨日と全然違う線じゃなかろか?くぅ~っ、あのタワークレーン撮りたかったのにぃ~」往路と異なる経路なれば、残念ながらその目論み見事に外れし。 
午後9時50分、Brussel空港に到着、多少の重量超過も当然御咎め無しにして、津山さんの変型されしベースケースも無事チェックインと相成れば、午前11時25分発Scandinavian航空Copenhagen行きに搭乗。午後1時過ぎにCopenhagen空港に到着、免税店にて御近所さんへのお土産を所望、猛烈に空腹なれば、さて何かを食わんと思う処。Copenhagenはデンマーク故、デンマーククローネこそが通貨なれども、空港に於いてはユーロも使用可能なれば、質素倹約を旨とせし今回のツアー最後の贅沢と称し、空港内のホットドッグ屋にて、ホットドッグ+コーラを購入すれど、何と6.00ユーロ(960円)とは滅法高額なるホットドッグなり。アメリカのガソリンスタンドに於いては、ホットドッグ1本なんぞ1ドル(108円)程度なれば、この違いは一体何ぞや。ならばこの高級ホットドッグ、値段相応の味かと云えば、然もあらじ。

搭乗までに時間もあれば、欧州よりの出国審査の手前に設置されし、唯一の喫煙所smoking cabinにて心行くまで一服、定員精々3名のまるで電話ボックスの如きスペースなれば、何とも滑稽にして、記念撮影する御仁いと多し。 
いよいよ帰国便たる午後3時45分発Scandinavian航空成田行きに搭乗、フライトは大いに退屈故、大して面白くもなさ気なるハリウッド映画なんぞ観賞するしか術もなし。機内食は「Japanese Chicken」なるを選択、その正体は、照焼きチキン+御飯+温野菜(人参、きぬさや、椎茸)+紅生姜+人参サラダ+パン+デザートにして、然して美味くもあろう筈なし、況してやあと10時間もすれば帰国と相成る故、多少箸を付けし程度にて食い残せば、「タダで食えるもんは何を食うてでも生き延びるべし」なんぞと宣いし質素倹約の熱き志も、帰国を前に既に潰えたり。

下らぬ映画を2本観賞後、トイレのついでに機内のキッチンへ赴けばカップヌードルを発見、ひとつ頂けば日本製カップヌードルの美味さに感激、思わず2個も食らいし始末。今回のツアーにてお世話になりしTesco製カップラーメンとは、比較する事さえ叶わぬ美味さ、日本の製麺技術と飽くなき美食への追究心戦慄るべし。 
到着前に出されし軽食は、シリアル+チーズ+ジャム+パン+ミルク+オレンジジュースなれば、シリアルのみ頂き箸ならぬスプーンを置く。ここにこの質素倹約を掲げし今回のツアーに於ける最後の食事を終えれば、出されし食事全てに感謝し堪能せんと心掛けし往路とは、既にその心境大いに異なるどころか、転向せしかと糾弾されるもやむを得ぬ程にして、されど元来享楽主義者にして刹那主義車なればこそ、斯くなる糾弾ありし処でそれが一体なんぼのもんやねん。

帰国後、車の修理代を筆頭に、諸々の支払いも無事済ませ得れば、今回の堪え難きを耐え忍び難きを忍びし質素倹約ぶりも意味ありしかと、改めてその意義を感ずれど、その一方、毎度の如くツアーにての稼ぎなんぞ「悪銭身に付かず!所詮は泡銭じゃ~!」と散財すれば、一瞬にして大金欠へと立ち戻る始末、されど今回に限ればあれ程忍耐を重ね苦労の末の稼ぎなれど、喉元過ぎればナントやら「金は遣う為にあるんじゃ!貯めてどないすんねん!遣うてなんぼやないけ!」些かも懲りぬは、既に人間性の問題か。金を貯める愉しみなんぞ理解及ばねど、金を遣う愉しみは重々承知しておれば、勿論貯金なんぞあろう筈なし。「男たるもの借金のひとつもなければ働かぬもの」と信じればこそ、その末路とは「死して屍拾う者なし」大いに結構、いざこの生が続く限り人生を謳歌せん。質素倹約なんぞ糞食らえ!(完)

 

(2008/01/06)

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