11月13日(火)
午前7時半起床、シャワーを浴び、さて朝飯として、スペインにて求めし蛸缶と担々麺醤を用いて蛸スパゲッティーを拵えんとす。先ず蛸缶を開け、1切れ味見してみれば、蛸特有のプリプリ感が喪失されており、これでは蛸の醍醐味大いに失われし。矢張り蛸は缶詰にしたらあかん!と文句のひとつもホザかんと思えども、否、1缶僅か0.69ユーロ(110円)の代物に感謝こそすれ文句なんぞ云える筈もなし。蛸とキッチンの戸棚より発見せしニンニクを、担々麺醤にて炒め、そこへ茹で上がりしスパゲッティーを合わせれば完成。蛸のプリプリ感こそ望めぬものの、出汁は充分に味わえれば、これは大いに美味なり。この匂いにて、メンバー一同「何かええ匂いしてるやん」と次々起き出す始末なり。
昨夜は大いに御機嫌に楽しみし様子のDaleなれば、矢張り若干飲み過ぎしか、さてまた女性2人と同伴帰還せし後に何かありしか知る由もなけれど、兎に角彼曰く「Oh no… Never again!」
米を炊きし兄ぃは、シンクにて鍋を洗う際に、こびり付きし米をも流せば、配水管を見事に詰まらせ、されどどうにもならなければ、ならば最後の手段といよいよ配水管を解体し水道工事を始める始末、さすれば配水管より水漏れを引き起こし、最早大惨事寸前、結局は通称「スッポン(若しくは『ポコンポコン』)」の活躍にて無事修復完了。
さて昼飯は、ムール貝缶詰と担々麺醤を駆使し、四川風海鮮スパを拵えんとするものなり。ニンニクを乱切りにし、ムール貝と一緒に炒め合わせ、そこへ茹で上がりしスパゲッティーと担々麺醤を混ぜ合わせれば完成。前回の若干生臭さが気になりしムール貝のみによる海鮮スパよりも格段の美味さにして、そもそも担々麺醤がその生臭ささえ見事に消し去りておれば「出汁の代わりを務め得る、何か味の決定打を確実に叩き出し得る秘密兵器」なるその重責、ここに見事果たして余ある程なり。
午後1時、昨夜の会場Roisin Dubhにて機材を積み込み、いざCorkへと出発。常々私にとってタバコは健康のバロメーターなれば、風邪なんぞに掛かろうものなら、未だ自覚症状さえあらざれども、タバコの味が突如猛烈に不味くなりて、然すれば大抵微熱なんぞも発熱しており、御陰で自分の体調不良を自覚症状さえ感ぜぬ傍から知り得るものなり。出発直前辺りよりタバコの味が急変すれば、いきなり酷い鼻詰まりと喉痛に襲われ、どうやら先日より矢鱈鼻を啜り咳込む東君と兄ぃより、不覚にも風邪を伝染されしか。数時間後には矢張り発熱せしか若干の悪寒も感ずるに至り、遂にはいよいよ刻一刻と症状が悪化するを自覚すれば、これは今宵か明晩辺りに症状の峠が訪れん。ツアー中の風邪なんぞ、そもそも同じ車内や室内に留まる事多き故に伝染るは易く、然ればこそ伝染されぬ抵抗力の堅持と、うがい等による自己予防策さえ講じておれば、若しくは伝染されても発症させぬ精神力と体力さえあれば問題なけれども、不覚にも一旦伝染発症してしまえば、今度は如何に早くその症状の峠を越え、完治へ向かうかが最重要課題となれり。ツアー中に於ける私個人流なる風邪の治療法とは「食うて暴れて寝る」に尽きる。先ずスタミナを付ける為にも闇雲に食らいに食らい、大量発汗を誘わんとステージでは大暴れし、後は兎に角温かくして寝るに限る。この方法ならば、ツアー中に如何に酷い風邪なんぞ引こうども、大抵2~3日にてほぼ完治に至れ得るなり。そもそも風邪による発熱とは、高熱により体内の風邪菌を殲滅せんと、身体が自ら発するものにして、決して風邪菌によって引き起こされる症状にあらざれば、解熱剤の投与なんぞ全く以て愚行この上なく、治るものさえ治らぬ始末、これぞ大いなる誤解なり。
Corkまでの道程は、意外にも悪路多くまるでラリーの如し、且つ渋滞もあれば、午後6時過ぎに今宵の会場Crane Lane Theatreに到着。道中にて帰路に付くこちらの女子学生達と遭遇すれば、その制服たるや日本の昨今のものと異なりて、最近の日本の女子高生のミニスカートに生脚が主流となりし制服姿なんぞ何にも感じ入るものなけれども、脚さえ全く覆い隠されしこちらのストイックなる制服姿、日本に於ける見せんとする傲慢さより、この隠さんとする謙虚さにこそ、大いに感ずるものあれ。
午後6時、今宵の会場Crane Lane Theatreへ到着、早々にサウンドチェックを済ませれど、体調大いに不調にして、午後8時半開演なれば暫し楽屋にて仮眠。ライヴは盛況にて午後10時過ぎ終演するや、早々に撤収、今宵の投宿先たるPain Lodgeへ。このPain Lodgeは、Cork郊外の海辺の丘に建つ有名なるホテルにして、昨年はここの1階にあるバーにて演奏せし。因みにアイルランドが誇るギタリストRory Gallagherが、彼の死の直前にここで演奏しておれば、前回訪れし際、大のRory Gallagherファンたる津山さんが、その写真を見て大いに感激しておられしは、未だ記憶に新しい処。加えてこのPain Lodgeに於けるもうひとつの鮮烈なる記憶とは、朝飯に出されし、我々が呼ぶ処の「食パン定食」なり。前回朝飯に出されしは、何と食パンのみなれば、「食パン定食」の開祖なる津山さんと東君は、食パンに食パンを挟む食パンサンドを始め「前菜に食パン、主菜も食パン、デザートも勿論食パン!」と食パンのフルコースなんぞも堪能しておられ、このPain Lodgeを「食パン定食の宿」とさえ名付けておられる。
午前零時頃、その懐かしの食パン定食の宿Pain Lodgeに到着。前回は女将の如き女性が台所を管理しておられれど、いざ晩飯でも拵えんと台所へ向かえば、荒れ放題にて何やら生ゴミ臭さえ漂う始末、皆がその異臭にて苦悶すれど、幸いにも私は風邪故に殆ど嗅覚が働かざれば救われし。兎に角「食うて治す」が一番と、晩飯として即席ラーメン2袋を食さんとす。冷蔵庫を開ければ、既にビニル袋内にて溶解変質せし野菜群、最早分離変色せし瓶詰め調味料群、その他、一体いつ食せしか想像だに出来ぬ惨状にて保存されし残飯の数々、生ゴミの如き異臭が、嗅覚を失いし私の鼻にさえ突き刺さる程なり。斯様な中から玉子パックを発見、津山さんと果たして食し得るかどうかを検証すれば、津山さん曰く「火さえしっかり通せば大丈夫やろ」と云う訳で、先ず玉子を獲得。更に冷凍庫を開ければ、3ヶ月前に賞味期限切れとなりし鶏フィレの肉塊を発見、これは冷凍保存されておれば問題あろう筈なし、そもそも私は所謂日本人の多くが抱く「冷凍庫絶対万能幻想」を支持しておればこそ、冷凍保存される限り1年程度の賞味期限切れは全く物ともせず。小学生の折に重度の食中毒にて死に直面せし経緯あれど、学生時代以来の長きに渡る赤貧生活にて、多少傷みし食糧如き全く物ともせぬ抵抗力を備えし様子なれば、最近日本にて問題となる賞味期限偽装なんぞ、然して騒ぐ程の事でもあるまいと首さえ傾げたくなる処。さてフライパンにてラーメンと鶏フィレを唐辛子と担々麺醤にて煮込み、最後に玉子で綴じれば、ここに味噌煮込みうどんならぬ担々麺醤煮込みラーメンが完成、フライパンにて調理せしは、鉄鍋故に火の回りが早く調理時間を短縮し得る上、鉄分をも取得し得る故なり。
流石は担々麺醤、味の方は全く以て問題なし、熱々の大盛り担々麺醤煮込みラーメンを一気に平らげれば、身体の芯まで温まりて「食うたら寝る」が風邪治療には一番と知れば、寝袋に包まりてベッドへ潜り込み、これにて充分なる暖も取り得ると思えば、後は己の基礎体力と自然治癒力に委ねるのみ、午前1時就寝。同室の東君は、果たして昨夜の反動か、ラーメンなんぞ食わんとしておれど、到着するなり敢えなく力尽き既に爆睡しておられし。
11月14日(水)
午前7時起床。寝袋に包まり就寝せし御陰か、風邪のピークは既に過ぎ去りし様子なれど、未だ重々油断禁物。兎に角「食うて治す」を心掛けんとすれば、早速朝飯として、スペインにて購入せし唐辛子入りオイルサーディン缶を用い、ピリ辛サーディンスパでも拵えんとす。唐辛子入りオイルサーディン缶を開け、オイルサーディンを担々麺醤と唐辛子にて炒め、茹で上がりしスパゲッティーと混ぜ合わせ、更に辛味と酸味を足さんとタバスコをぶっ掛ければ完成。スペインにて購入せし缶詰を用いし一連のスパゲッティー、全く以て調理は簡単にして大いに美味なれば、今回のこの「対大英帝国激不味料理戦線海鮮缶詰パスタ作戦」は予想以上の戦果を上げしと云えよう。
野生児津山さんは、浜まで散歩がてらワカメを収穫しておられれば、流石は大阪人、それを利用しワカメうどんを食しておられし。
流石に未だ完治までは遠ければ「食うたら寝る」と云う訳で、再び寝袋に包まり2時間程仮眠。起きるや否や「食うて治す」とばかり、再び台所へ赴き、今度はTesco製即席カレーラーメン2袋と、冷凍庫に眠る賞味期限切れの鶏フィレを用い、チキンケバブ擬き入り担々麺醤焼きそばでも拵えんとす。先ずオリーブオイルに、塩少々、胡椒少々、唐辛子少々、台所にて発見せりガラムマサラを混ぜ合わせ、そこへ鶏フィレを暫く漬け込み、それをフライパンにて焼き、その一方でラーメンの麺のみを茹で上げ、担々麺醤と混ぜ合わせれば、ここにチキンカバブ擬き入り担々麺醤焼きそばの完成。新陳代謝を上げんと、更に生唐辛子を東君よりお裾分けして頂き、これを齧りつつ担々麺醤焼きそばを食せば、更に美味なり。このTesco製即席カレーラーメンは、所謂細麺故、斯様に焼きそばへとアレンジするや、子供の頃より馴染み深き袋麺の日清焼きそばを彷彿せしか。御役御免のカレーラーメンの粉末スープは、思う処ありてそれはそれでキープする処なり。
さてコーヒーなんぞ所望したければ、階下のバーへと赴くや、何と此処Pain Lodge名物たる食パン定食セットが用意されておられし。ここで食わねば男が廃ると、食パン定食戦線に参戦、先ずはジャムなんぞにて軽く4枚を殲滅せり。嘗てのパン嫌いが嘘の如き私の斯様な振舞に、「食パン4枚も食ったん?今飯食ったばっかりやのに…?」と、食パン定食の名付け親にして開祖の一人たる東君も唖然としておられれば、そこへもう一人の食パン定食の開祖たる津山さん登場「おっ、食パン定食あるやん!」正しき食パン定食の食し方とは、その名の通り食パンを御飯と味噌汁とおかずに見立て、唯ひたすら食パンを食らう事に始まり、されど食パンに食パンを挟む「食パンサンド」更には「季節の食パン」「シェフのお薦め食パン」「食パン御膳」「食パン盛り」「食パン巻」「戻り食パンのたたき」等と、その食し方は無数にして、兎に角如何に想像力豊かにして、単なる食パンを愉しむかが問われるものなり。食パン定食初挑戦の兄ぃは、トースト4枚を豪快に挟み込む「トーストサンド」を食されし。
午後3時、今や荒れ放題となりし食パン定食の宿Pain Lodgeが、再び甦生され盛況とならん事を祈りつつ、一路Dublinへ。
午後7時、大渋滞に巻込まれるも無事今宵の会場Whelansに到着。サウンドチェックを済ませれば、楽屋に用意されしはまたしても食パン定食セットなり。食パンのパッケージに「Irish Pride」と記される程なれば、矢張りアイルランドにて食パン定食こそ避けて通れぬ郷土料理なるか。コールスローと玉葱のピクルスにてサンドウィッチを2枚拵え、タバスコをぶっ掛けこれらを頂けば、何やら生のピザトーストの如きにして、されど充分食パン定食を堪能し得るか。
さてここで津山さんが自ら食パンサンドの作り方を実践せり。先ず食パンにバターを塗り、今回は贅沢にコールスローを少々、そこへ食パンの耳を添え、その上にチーズを乗せ、もう1枚の食パンにて挟めば、豪華版食パンサンドの完成なり。
腹拵えは済めども、矢張り鼻水だけは容赦なく垂れて来れば、界隈の薬局にて、風邪薬(鼻水止め)4日分とコンタクトレンズの保存液120mlを購入、小銭を持ち合わせておらねば、端数を切り捨て20ユーロ(3200円)に勉強して頂けれども、そもそも風邪薬とコンタクト保存液にて3000円強とは、何とも法外な物価高なるか。
此処Whelansにてのライヴは、毎度フリークアウトした客が大勢押し寄せ大いに盛況。
午前12時半、ホテルにチェックイン、台所も完備されし部屋なれば、またしても夜食厳禁の戒を破り、同室の兄ぃ共々夜食を拵えんとす。蛸缶とTesco製即席カレーラーメン2袋を用い、いか焼きそばならぬ蛸焼きそばを拵えんと、先ず蛸をフライパンにて軽く温め、そこへ茹で上がりしカレーラーメンの麺のみをぶち込み、担々麺醤とトンカツソースにて混ぜ和えれば完成。そもそもこの蛸缶の蛸に歯応えなんぞ求めておらねど、この細麺とのコントラストは大きく、相対的な意味にて歯応えを若干愉しめれば、担々麺醤によるコクも合わさり、具材こそ質素なれど大いに美味なり。
午前1時、不覚にもソファにてテレビを観つつ就寝。
11月15日(木)
午前5時起床、ソファにて就寝せし故に若干冷えれば、身体を温めんとのんびり入浴。朝飯は簡単に済まさんと、Tesco製即席カレーラーメン2袋分の麺のみと担々麺醤にて、具なし担々麺を拵え食す。兎に角今は「食うて治す」事が最優先なれば、味的にこれ以上望むべくもなく、何を於いても食う事こそ重要なり。
洗濯機まで室内に設置されておれば、いざズボンを洗わんと、使用方法も判然とせぬまま適当に稼働、されど待てど暮らせど洗濯を終わる気配なく、このままでは午前9時の出発までに乾燥どころか洗濯さえ終らぬではあるまいかと、強制的に終了させんとすれど洗濯槽の戸を開ける事叶わず、悪戦苦闘の末、漸くタイマーの使用方法を理解せり、と云うのも、日本に於いて通常ならば洗濯機のタイマーとは、0よりレバーを時計回りに回し、洗濯過程の進行に伴い反時計回りにて0へと戻り行くものなれど、こちらのタイマーは、レバーを回さずとも洗濯過程と共に自ずから時計回りへと進行し、洗濯終了地点にてレバーが止まる仕組みなれば、勘違いするは当然、果てしなく洗濯開始地点へ戻すばかりと云う愚行を繰り返せしか。ズボン1本の洗濯&乾燥に要せしは何と4時間、水道の蛇口やらの例を出すまでもなく、全く以て何故斯くも逆さまなるか。
午前9時ホテルをチェックアウトし、Daleお薦めの観光地たるアイルランドが誇る世界遺産にしてケルトの渦巻文様が彫られし巨石にて有名なる遺跡こと墓道付石室墓New Grangeへ。さて見渡す限り牧草地が続く中、New Grange入口らしきに到着、さてその入口にて入場料なんぞ払わんとすれば、受付嬢曰く「チケットはここで売っておりません。先ずはチケットを、ここから離れた場所にあるビジターセンターにて購入して来て下さい。」「はあ?ここでチケット売ってないんですか?」「ビジターセンターで購入し、そこから送迎バスでここまで来て頂きます」何ちゅうおちょくったシステムやねん。結局そこから約数マイルも車を走らせ、漸くそのビジターセンターとやらへ到着、入場料+送迎バス代として5.80ユーロ(928円)を支払えば、送迎バスの乗車時間が記されしステッカーを貼られる。成る程レストランやら土産物屋やらが併設されておれば、送迎バスの待ち時間に、ここで観光客に金を落とさせんとする算段か。空腹なれどジャガイモ丸々1個を用いし料理如きが10ユーロ(1600円)以上もすれば、土産物屋にて散財せんと土産物を物色、ケルトの渦巻文様が刻まれし石のミニチュアを8.99(1438円)ユーロにて購入。女子学生の社会見学であろうかと鉢合わせとなれば、矢張り長髪髭面の東洋人なんぞ大いに物珍しからん、当初は「わぁ!見て見て!変な東洋人!」なんぞと嘲笑しておれど、好奇心旺盛なれば次第に写真撮影せんと近寄りて来るなり「日本の学生?」と質問されし。幾ら東洋人が西洋人に比べ若く見えると云えど、この風貌にて学生は最早有り得る筈なし。更には自分達が若干知る日本語「コンニチワ」「ドモアリガトゴザマス」「イタダキマス」等を乱射し始める始末、果たして彼女達の目に我々は如何な風に映りしか。
レストランにて飯を食らうにせよ、お土産を物色するにせよ、充分過ぎる程にバス乗車まで間があれば、漸くバス乗車と成れり。バスにて先程辿り着きし入口へと戻り来れば、今度こそ入場叶えど、今度は観光ガイドが、我々を含める同じバスの乗客一同待ち受けており、何とまあ御丁寧に「先ず皆さんが英語を解すると云う事を前提に、英語で説明いたしますが、英語圏出身でない方を考慮して、なるべくゆっくり話すようにいたします。また質問等ありましたら、遠慮なく申し出て下さい」との前口上の後、この寒空の下、吹き晒しの牧草地帯に於いて、呆れる程に冗長なるガイドぶりを発揮すれば、こちとら遺跡の形状等にこそ興味あれど、そもそもアイルランド史なんぞ全くの無知にして、況して些かも興味あらざれば、ガイドを無視し勝手気侭にそこら界隈を闊歩しては写真撮影なんぞに耽る始末。長々とした説明の間にすっかり皆心身共に冷え切っておれど、矢張り世界中何処にでも斯くなる奴はおると云わんばかり、漸くガイドの説明が終わるや挙手までして質問を始める親爺が1人、御陰で我々を含む全員一蓮托生、ガイドがその回答を終えるまで、遺跡内への入場を待たされる羽目となりし。果たして内部には何が在るのかと期待に胸を膨らませども、入ってみれば単なる狭き石室の如き、幾つかの石に例のケルトの渦巻き文様が見受けられる程度。ストーンヘンジやエジプトのミラミッド建立よりも以前となる約5000年前に築かれしとかなれど、入口上部の窓より、毎年冬至の頃の日の出の刹那のみ15分間その光をこの石室内に取り込む仕組みになっておるとの事、その天文学に関する知識は驚愕に値すると、またしても冗長なる説明の後、わざわざガイド自らが照明設備を駆使しその様を実演してくれるサービスもあれど、我々の感想たるは「なんや、そんだけかいな!」 結局ガイドの演出空しく我々一同大いに失望すれど、ならば先程土産物屋にて購入せしケルトの渦巻文様が刻まれし石のミニチュアを駆使し、いざ捏造写真撮影に勤しまんとするや、New Grangeを大いに満喫すれども、捏造写真を撮影する姿こそ滑稽にして、他の観光客にウケる事頻りなり。
北アイルランドに位置するBelfastは大英帝国圏にして、即ち再び諸物価もアイルランドに比べて高かろうと思えばこそ、Belfastへ辿り着く前に何とか食糧を購入せんとすれば、給油に立ち寄りしガソリンスタンドにて、例の手作りサンドウィッチコーナーにて、レタス、玉葱、トマト、青葱、玉子サラダを選択せしサンドウィッチを2.30ユーロ(368円)、スパゲッティー500g1袋を1.29ユーロ(206円)にて購入、スパゲッティーなんぞスーパーにて求めればより安かろうが、果たしてこの先スーパーへ必ず立ち寄らんと云う確証何処にもなければ、確実に入手叶う機会を逃さずして購入するが最善策と判断せり。このサンドウィッチ、玉子サラダを山盛り挟んで頂ければ、既に他の野菜なんぞ全く見る事さえ叶わぬ程にして、アイルランドのおばちゃん手作りサンドウィッチ大いに美味なり。
国境に関してはパスポートコントロールどころか何もなければ、まるで日本に於ける都道府県を跨ぐか如し。今まで幾度となくアイルランドから国境を越えBelfastへ赴いておれど、メンバー全員何かしら国境たるもの有りしと記憶しておれば、果たしてこれは記憶違いか、さてまた国境撤廃となりしか。何にせよ国境越えにてのトラブル多ければ、ボーダーレスこそ望ましきかな。ところで勿論我々は就労ビザを取得しておれば、斯様な姑息なる手段取る必要さえある筈もなけれども、ならば入国審査が厳しきと評判の大英帝国、アイルランドから陸路にてBelfastより入国すれば、全く以て容易に入国出来るのではあるまいか。
午後6時過ぎに今夜の会場The Pavilionに到着。サウンドチェックを済ませ界隈を散策すれば、スーパーを発見。スパゲッティー500g1袋が99ポンド(218円)にて安売りされておれば、先程私が1袋買い求めしガソリンスタンドの方が僅かながら安価にして、我が策此処に見事的中せり。またアジア料理店なるを発見すれば、興味本位にて表に出されしメニューをチェック、さてJapanの項目、即ち日本料理のメニューたるや、僅か3種類にして、枝豆が2.90ポンド(638円)、続くStir fried shredded Duck, Chicken, Beef or King Prawn with Teriyaki Sauceなるは一体何ぞや。Stir fried shreddedとは、直訳すれば具材を細かく刻み強火にて炒めると云う事なれど、これぞまさしく中華料理に相違なし。況して日本料理にて、同一料理に於いて、具材がチキンかダックかビーフかエビかと云う選択肢自体稀にして、そもそも「Duck(鴨)」料理なんぞ鴨鍋か鴨なんば程度しか思い付かねば、大凡北京ダックなんぞから日本料理と中華料理とを混同し勘違いしておられるか。そもそも日本に於いてテリヤキソースなんぞ決して一般的ソースにあらず、更にテリヤキソースが添えられる炒め物なんぞ海外に於いてのみしかお目に掛かりし事なければ「テリヤキソース=日本料理」なる大いなる誤解が生み出せし代物か、さてまたアイルランド人の味覚に迎合せし結果たる由縁か。最後の品に関しては、Irish rib-eye Steak Rollsなる代物にして、これに至りては果たして如何なる代物なるか想像だに出来ぬ始末。当然枝豆以外の料理には、御飯の類いが付いておれど、他の選択肢としてChips(フライドポテト)がある辺りは大英帝国とすれば当然か。主食がフライドポテトなれば、嘗て中華料理店に於いて、八宝菜の如きとChipsを平然と食い合わせし輩を数多く見掛けし経緯もあり、今更驚きこそせぬが、ならば焼き魚定食なんぞにてもChipsを食らわんとするのか、主菜よりも主食の方が諄く重いなんぞ全く以て本末転倒せしと思えども、そもそもその焼き魚定食に相当する代物こそ、忌まわしきFish & Chipsではなかったか。何にせよ「国も変われば料理も変わる」日本に於ける各国料理もかなり歪な代物にアレンジされておれば、決して声高に非難ばかり出来る立場でもなし。余談となるが、例えば日本のイタリア料理店に於いては御馴染みドリアなるもの、実はイタリアには全く存在せぬ代物とは、殆どの日本人の知らぬ処なり。
晩飯は単なるケータリングにして、用意されしはパン各種、ハム各種、スモークチキン、トマト、サラダ、チーズ各種、デザートとして洋梨とリンゴと云うラインナップなれば、所謂これらにてサンドウィッチを作れと云わんばかり、されど先程道中にてアイルランドのおばちゃん手作りサンドウィッチを堪能しておれば、サンドウィッチ2個(ローストチキン+レタス+トマト+タルタルソース / レタス+トマト+マヨネーズ)を拵え夜食として備えるに留まる。
ライヴは今宵も大盛況にて終了すれば、今宵はオルガナイザーPete宅に投宿。Belfastにては毎度彼の豪邸に投宿させて頂いておれど、どうやら最近離婚せし様子にして、男寡婦ならではの哀愁が、台所周りの変化より伺え得る。さてまたしても夜食厳禁の戒を破り、先程拵えしサンドウィッチを食さんとすれど、東君が隣でラーメンなんぞ啜り始めれば、矢張り到底食えたものにあらず、結局サンドウィッチを破棄し、Tesco製即席カレーラーメン2袋分の麺を茹で、そこへ必殺アイテム担々麺醤をぶち込み、トッピングとしてケータリングより持ち帰りしハムと、冷蔵庫にて発見せしインゲンを少々を加えれば、ここに担々麺醤ラーメン再び完成、妙な形状の器に盛れば気分も変わり、これまた大いに美味なり。されどこれにて担々麺醤も遂に尽きれば名誉の戦死、ここにその偉大なる功績を表すると共に、無事帰国せし暁には、是非とも本物の担々麺なるを食してみんと誓うものなり。
久々に東君とグダグダ飲み明かし、午前3時半就寝。
11月16日(金)
午前7時半起床、兄ぃと津山さんは、既に台所にて朝飯を作っておられる有様。米を炊きし津山さんは、昨日ガソリンスタンドにて購入せし玉子を茹で玉子に、胡瓜を漬物にして、玉キュウ弁当を食しておられれば、盛り付けし器のせいもあろうが何とも美味そうなり。
津山さんから御飯と玉子1個をお裾分けして頂けば、昨夜のケータリングの残りのハム2枚と冷蔵庫より頂戴せしインゲンとニンニク、そしてTesco製即席カレーラーメン2袋と最終兵器トンカツソースを用い、焼きそば定食を拵えんとす。先ずハムとインゲンとニンニクをオリーブオイルにて炒め、茹で上がりしラーメンの麺を合わせ、トンカツソースにて味付ければ焼きそばは完成。器の半分に御飯を、残り半分に焼きそばを盛り付け、目玉焼きと東君から譲り受けし生唐辛子を添えれば、これにて焼きそば定食の完成。一見まるで貧乏学生の食卓の如きか、うらぶれし商店街に佇むファンシー喫茶店のランチの如きなれど、充分に美味なり。矢張り米を食らえば満腹感も異なりて、大いに満足せり。
午後12時20分発Scotland行きのフェリーに乗船せんと午前11時出発、無事にチェックインを済ませれば、予てよりDaleから「Belfastは巨大クレーンが乱立している」と聞かされし東君、港に聳え立つ巨大クレーン群の撮影に独り旅立てど、立ち入り禁止地区まで突入せしとかで厳重注意を受けし模様。これが軍事施設なんぞであれば、スパイ容疑にて身柄拘束程度では済まぬであろう、クレーン撮影も程々にしなはれ。フェリーに乗船すれば、愉しみは土産物屋なり。サンプリング音源にて非公式スコットランド国歌「Scotland the Brave」が仕込まれしミニバグパイプを3.20ポンド(704円)にて購入。約2時間の船旅を終えれば、一路Glasgowへ向け再びドライヴ。
今宵の会場StereoはGlasgow Central駅より徒歩1分と云うロケーションなれば、運悪く帰宅ラッシュとも重なり大渋滞に次ぐ大渋滞、港から2時間をも要し漸く会場へ到着。今宵の投宿先のホテルは、何とGlasgow Central駅に隣接しておれば、先ずはホテルへチェックイン、再び会場へ戻りサウンドチェックを済ませる。楽屋にはケータリングとして、激不味サンドウィッチ群やら、何やら怪し気なるパテ各種が並べられておれど、会場内のレストランにて晩飯を頂けると伺いておれば、四方や手を出す筈もなし。さてレストランへと繰り出せば、津山さんは何やら小道具を見つけた様子にして「エマーソン、レイク、ア~ンド、パーマー!」とELPギャグを繰り出す始末、まさしくロックをこよなく愛する御仁なり。
Glasgowに於いては、毎年異なる会場にてライヴを行っておれど、何故か毎度連れて行かれるレストラン(ライヴ会場内のレストラン若しくは系列店のレストラン)とはベジタリアン・レストランなり。GlasgowはFish & Chipsのメッカの筈なれど、何でベジタリアン・レストランしかあれへんねん。さて我々が忌み嫌うベジタリアン料理のメニューより今宵の晩飯を選ばねばならず、私は最も無難であろうとCalzoneを選択。兎に角毎度ベジタリアン・レストランに於いて、誰かが恐ろしき激不味料理を引き当てておればこそ、まるでロシアンルーレットの如きにして、全く予断を許さぬ状況なれば、東君と津山さんも堅実にChiliを選択、されど中南米料理に精通する兄ぃは「不味いChiliなんて食べられないよ」と、この店の名物と呼ばれるCottage Pieなる代物を注文、兄ぃは常々我々一同と異なる代物を注文しておれば、時には「当たり」もあれど「一人負け」にて泣く事も?々にして、さて今回は如何なる結果と相成るやら。Chiliは矢張り肉が入っておらねば、肉の出汁皆無にして味も薄平き事極まりしとかで、津山さん曰く「もう何でもええわ、取り敢えず腹膨れたらええ!」その言葉を証明するかの如く、味わう間もなく一瞬にして平らげてしまわれし。私のCalzoneも、本場イタリアの其れとは大いに異なり、肉どころかチーズさえも使われておらねば、この包み焼きピザの如きCalzoneの醍醐味皆無にして、焼き野菜とトマトソースと生地の味のみ、持参するタバスコを召喚し何とか完食、されど無類のピザ好きなる東君は「俺もそれにすればよかったなぁ」と羨望の眼差しを寄越す始末。
さて問題の兄ぃが注文せしCottage Pieなる代物、流石はジャガイモが主食の国なればマッシュポテトのパイとかで、兄ぃ曰く「ダメだぁ~、失敗だよ…不味いよ…」嘗て身を以て体得せしツアーの教訓に「郷土料理に美味いものなし、大いに不味ければ避けるべし」とあれば、矢張り教訓は守るべし。
今宵は同じGlasgowの何処か異なる場所にて、日本のポストロックバンドMonoが演奏するとかで、GlasgowはMogwaiを輩出せしポストロックと深く縁ある地故か、オルガナイザーが集客を杞憂しておれど、「日本のバンド」と云うカテゴリーのみにて十把一絡げにされるは迷惑至極、そもそも毎回Glasgowにてはソールドアウトを記録しており「ワシらポストロックとちゃうし、そんなん全然関係あるかい!」と能天気に構えておれば、矢張りソールドアウトとなる盛況ぶりなり。アンコールに於いて、フェリー内にて購入せしミニバグパイプを持ち出し、サンプリング音源の「Scotland the Brave」をスタートさせるや、津山さんによるパイパーの行進ギャグも爆裂、大いに盛り上がりて終演。
終演後、例によって津山さんは早々にホテルへ撤収せんと、未だ楽屋にてワインなんぞ呷り歓談する私と東君と兄ぃに「ホテルって何処やったっけ?」と問えば「はぁ?めっちゃ近いですよ、徒歩1分ですよ、表出て右行ったら次を左、ほならもうホテルですよ」山男津山さんは、大自然の中にては道に迷う事なけれども、街中や建造物の中にては驚異的な方向音痴と化す特性を持つ。案の定10分後には「あかん、ホテルって何処や?」どうやらホテルの前を素通りしこの辺り一帯を一周し、気が付けば再び会場の前に戻りし顛末、されば未だ表やレストランにて屯する多くの客に温かく迎えられしとか。今一度ホテルへの道順を説明すれば、津山さんは再びホテルを目指し旅立たれ、どうやら今度こそ無事に辿り着けし様子なり。
ワインも飲み尽くせば、楽屋に残されしケータリングより、明日の朝飯にせんと激不味サンドウィッチと何やら怪し気なるパテ数種を持ち帰らんとすれば、以前なら絶対有り得ぬ斯様な行動に、我ながらいよいよ板に付きしこの質素倹約ぶり感心さえする有様。ホテルへ戻れば、同室の津山さんはテレビにてサッカー観戦後に就寝。私は入浴せんと湯船に湯を張りつつ、雑務なんぞこなしておれば、突然風呂場から大量の湯が流出、どうやら想像以上に湯の勢い強かりしか、また日本のホテルの如くセンサー等による自動停止装置なんぞ備え付けておらぬは当然なれど、何と風呂場の床に排水口が作られておらぬと云う信じ難き設計なれば、部屋の絨毯が一瞬にして床上浸水する有様。慌ててタオルにて水没事故処理に取り掛かれば、空しさのみが心に響き渡るなり。何とか水没事故処理も済ませ入浴、午前4時就寝。
(2007/12/21)