<特別編 AMT TOUR 雑記2002> 第69回「ぶっちぎり in USA」

『人声天語』  人声天語特別編 AMT TOUR 雑記 2002 其の壱:USA & CANADA編


第69回「ぶっちぎり in USA」

10月19日、朝10時、ソファで眠っているところを夘木君に起こされる。今日はCleavelandにて、Kinski、SubArachnoid Spaceとでライヴがある。「10時には出発するので9時起床」と昨夜KinskiのChrisに云われた時、「9時どころかもっと早く起きるから心配無用」と自負していた筈であったが。キッチンでは、Kinskiの面々がコーヒー片手にIsobalちゃんと談笑中。既にSubArachnoid Spaceは出発したらしい。Kinskiの面々に、我々を待つ必要はない事を告げると「See you!」と出発していった。さてこちらは、寝ているメンバーを起こし、今から出発の用意。Isobelちゃんが、我々の為に朝食を準備してくれているようなので、それならばと腰を据える。彼女が作ってくれたチーズオムレツとカリカリベーコンをいただき、いよいよBardo Pondの皆と別れを惜しみつつ、Kinskiに遅れる事1時間半、午前11時半に出発、Kinski号追撃体制に入る。AMT2002年ブライテストホープにしてエースの夘木君を一番手ドライバーに投入。期待通り彼は全行程の約半分を一気に走り切り、ドライブインにて遅い昼食ブレイクと給油。ここでハンバーガーを購入し、さて今頃Kinski、そしてSubArachnoid Spaceは何処かなんぞと噂しておれば、Cottonから「今、トイレで(Kinskiの)Lucyを見掛けたよ。」との情報が入るや、Chrisがハンバーガーを求めてこちらへ歩いて来るではないか。

我々一同慌てて隠れてはみたが時既に遅し。お互い思わぬ場所にての再会に驚きつつも、我々は彼等よりも先に出発せんと、先ず用を足す為にトイレへ行ってみれば、Matthewが何も知らずのんびり用を足しているではないか。我々は彼の背後に忍び寄り「Are you Kinski?」とからかえば、彼の驚き尋常ではなく、さて我々も用を足して外へ出てみれば、Kinski号は既に消えているではないか。こちらは2番手ドライバーに東君を起用、彼の猛追により前方を行くKinski号を発見、一瞬にしてオーバーテイク。更にその差を拡げるべくブッ飛ばす。しかし…見通しの悪いコーナーにパトカーが潜んでおり、それを発見し急減速したが時既に遅く、パトカーはしっかり背後にへばりつき、サイレンさえ鳴らしているではないか。結局東君は、反則切符を切られペナルティーを食らう羽目に。路肩に停車して反則切符を切られている、まさにその横をKinski号が通過。結局我々はKinski号から4分遅れで再スタート。ペナルティーまで食らったこのバトル、こうなれば意地でも一番乗りでCleavelandに到着せんと、30分後、再びKinski号を捉えオーバーテイク、続けてSubArachnoid Space号も捉えたい一心にて、更にブッ飛ばす。されど少々道を誤り遠回りのコースを選んでしまった我々、2度目の給油にて、アンカーである私にチェンジ。道を過った分を取り戻さんと更にブッ飛ばし、漸く目的地であるクラブBeachwood Ballroomに到着。どうやら未だ誰も着いていない様子で、勝利を喜びつつクラブの中を伺えば、裏に駐車場があると教えられ車をまわす。すると何とそこにはSubArachnoid Space号もKinski号も既に到着しており、それどころか機材を降ろしている最中ではないか。結局我々は、ペナルティーを食らった上、ドベであった。道を誤り僅かばかり遠回りしたのが敗因か。Kinskiの面々は、パトカーに止められている我々を見て心配していたらしく、成りゆきを説明すれば、皆が口を揃えて「I’m sorry Hiroshi!(ひろし、お気の毒様…)」

さて今日も「Speaker Cranker」と云うオープニング・ローカルバンドがあるらしく、音の方はHawkwind + Mils Daves electric band。されどローカルオルガナイザーに「キーボード・プレイヤーはPere Ubuのメンバーだ」と教えられ、ミーハーな津山さんと私はいちびって記念撮影。今迄でもアメリカをツアーしている際、「今日の出演者の中の1人は、Pere Ubuのメンバーだ」と云う話を時折耳にしたが、実際にはあの巨漢ヴォーカリストDavid Thomasの若かりし顔ぐらいしか判らぬので、結局誰だか判らぬまま終わってしまっていた。Pere Ubuのメンバーがいる事と関係あるのかないのかは判らぬが、今宵は何やら客の年齢層が高い。GongのTシャツを着ているヒッピーオヤジやら、如何にもGongファンらしいまるで魔女のような恰好のオバハンやらヘルスエンジェルスの如きオヤジバイカー軍団やら。Daevid Allenと出演したSan Juan島でのヒッピーフェスを想起させる。

ところでAMTであるが、昨日トレモロアームを失った私は、兎に角弾きまくるしか道はなく、久々に死ぬ気で弾きまくった。最前列でジャンキーが突如ポエトリー・リーディングを始めるや、怒った隣の客がその詩の書かれた紙切れを取り上げ破棄。その後これが乱闘事件と相成ったのだが、まあこういう感じも良かろう。兎に角年齢層は高かったが、されどとても熱いオーディエンス、まさしく「ロックど阿呆」であった。終演後、SubArachnoid SpaceのMelyndaとドラマーのChrisが「今迄のベストショー!」と楽屋にウォッカ片手にやって来て、特にMelyndaは今夜の「In E」で感極まって泣いたらしく、本人も何故だか判らないが猛烈に感動したと告げる一方、Chrisは「AMTは次のZEPだ!」と興奮覚めやらず叫んでいた。何はともあれ、本日もウルトラ爆音+大暴れであった事に間違いはなく、結局私は彼等が驕ってくれたウォッカ数杯を、終演直後で未だ呼吸もままならぬ状況下、一気に空けさせられる羽目となる。

機材の積み込みも終了し、明朝San Franciscoへの帰路につくSabArachnoid Spaceの面々との別れを惜しみつつ、そのままクラブの駐車場にて、Kinski共々妙な盛り上がりを見せる。Melyndaの「Finally you got me!」ってなあ…勘弁して下さい。

我々とKinskiは、近くのホテルにチェックイン。既に4時をまわっていたが、東君と共にKinskiの部屋を訪ね、ビール片手に談笑。煮干しを出すや、昨年日本に来た彼等、日本を懐かしがっては煮干しをつまんでいたが、唯一魚嫌いのLucyは、煮干しのグロテスクさに顔が引き攣る有様。さて明日は、いよいよPlastic Crimewaveの待つChicagoだ。

10月20日、朝9時起床。まだ全員眠っているが、二度寝出来ぬ性分の私は、さっさとシャワーを浴び、即席味噌汁をすする。されど尚空腹にて、ロビーにコーヒーとドーナツでも用意されてはおらぬかと外へ出てみれば、丁度KinskiのMatthewとBarrettが朝食を買いに行くところ、3人で近所のFood Martへ。彼等は当然の如くドーナツやらビスケットを、一方の私はゆで玉子と野菜ジュースV8、アメリカではポピュラーな即席ラーメンである「マルチャンラーメン」、それに加えて今晩以降の為にとパスタを購入。ホテルへ戻り、コーヒーメーカーで湯を湧かし、ラーメンとゆで玉子を食し、更にV8でビタミン補給も完了。漸く起きて来たCottonも、徐ろに持参したどん兵衛をすすり出す始末。

11時半、Kinskiに遅れる事30分、ようやく我々もホテルを出発し一路Chicagoへ。オハイオ州ではパトカーが非常に多く、スピード違反で止められている姿をよく目にする。昨日の東君の一件もあるので、兎に角細心の注意を払わねばなるまい。しかしせめて時速80マイルでは走りたいもので、フラストレーションは蓄積されるばかり。インディアナ州へ入った途端、車の流れが急加速され、時速80~90マイルへ。流石インディ500開催地である等と、ひとり勝手に納得しつつ一気にアクセルを踏み込む。心地よく時速100マイル・オーバーでブッ飛ばしていると、ふと前方の路肩にパトカーが潜んでいるのを発見。思わずフル減速。もしこれで反則切符を切られれば時速40マイル・オーバーとなり、ペナルティーの額面なんぞ到底想像も出来ぬ。急減速が功を奏し、パトカーの前をすり抜ける時には充分法定速度以内であった筈だが、当然の如くパトカー出動。私の後ろにびったり貼付いて離れぬ。ならばと、こちらも法定速度時速65マイルをひたすらキープ。かなりの粘り合いの末、諦めたのか、パトカーは我々をオーバーテイク。追い越しざまに警官共、こちらを見て手を振り笑っているではないか。しかし取り敢えずこれでピンチを無事切り抜けたと一安心、パトカーが前方に消えた事を確認し、さてと追い越し車線に出るや否や、何と後ろに別のパトカーが貼付いている。我々のスピードは時速80マイル、厳密には15マイル・オーバーではあるが、今の道の流れからしても特別速い訳ではないが、一応減速して元の走行車線へ戻ってみる。するとパトカーもやはり走行車線へ。「何でやねん?」と思っているや、いきなりパトカーのサイレンが鳴らされた。これは巧妙に仕組まれた罠か。不良警官がトランクを調べるふりしつつドラッグ等をこっそり忍ばせ、我々一同無実の罪で逮捕、機材没収なんぞと云う事態に陥れられるのか。斯様な事を思いつつ車を路肩に停める。すると警官に「後方の見通しが確保出来ぬような荷物の積み方は禁止されているので積み直せ」と注意される。なんや、そんな事か…。「OK!」と答えると、警官は立ち去って行った。取り敢えず荷物を少々積み直し再スタート。

さて漸くChicagoに到着。今夜の会場Empty Bottleと投宿先であるPlastic CrimewaveことSteveのアパートは僅か2件隣なので、先ずはSteve宅に荷物を降ろす。新しいトレモロアームが必要な為、楽器屋にてギターのトレモロユニットを購入したいと告げると、今日は日曜日なのでオープンしているかどうか解らないとの返事。取り敢えず彼が働いているReckless Recordsへ出向き、そこから楽器屋へ電話してみる事と相成った。彼が電話している隙に、私はすかさずレコードをチェック、結局ここでの5分間の滞在の間に、2枚のレコードを抜いていた。楽器屋は矢張りクローズ、新しいトレモロアーム購入は明日以後へ持ち越し。

さてその頃、東君は風邪が悪化し発熱、楽屋にて昏々と眠り続ける。彼の事を心配しつつも、Empty Bottleのバーテンのねえちゃんが可愛い事に気もそぞろ。彼女に「Can I help?」と問われ、「Beer please!」と答えると、当然どのビールがいいかと問い返される。「君が最も好きなやつ」と答えれば、「OK!」と1杯のドラフトビールを驕ってくれた。これはいい感じ、後でゆっくりカウンターで腰を据えたい気分なんぞと思っていれば、プリンセス登場。(彼女については、人声天語第19~23回「AMT US TOUR雑記」を参照。)彼女と久々の再会に熱い抱擁を交わし、近況等伺いついでに、彼女からもビールを1杯驕ってもらう。いやはや今夜は女性に矢鱈とビールを驕ってもらえる日である。東君が倒れた後釜として、Cottonが社長津山さんとShopzoneを切り盛り。プリンセスは、既にPlastic Crimewave & The Fakeを脱退しており、新生Plastic Crimewave & The Fakeをちらっと観た後、用事があるのでまた後で来ると言い残し一時帰宅。

昨夜は明け方まで飲んでいたせいか、ここで突然猛烈な睡魔に襲われ、Shopzoneの横にて眠りこけていると、「Kawabata!」と起こされる。何事かと思えば、Kinskiのステージは既に終盤に差し掛かっており、そう云えば今晩ゲスト参加する約束をしたのであった。「I’m waiting for you! Kawabata!」と云うChrisのMCに会場が湧く中、満員の客をかき分け、漸くステージまで辿り着く。弓弾きを主体としたプレイに終始、特にエンディング部分、彼等のギター2本のアンサンブルに上手く絡め、美しいコーダを奏でることに成功、大いに盛り上がる。

さて一方のAMT、東君は風邪でフラフラ状態、更に津山さんが、先日より痛めていた肘をアンプにぶつけ、腕が上がらない状況の下、演奏はスタート。トレモロアームがないと云う事はかなり辛く、ギタースタイルも若干変化してきている。東君と津山さんの2人がテンションダウンしている分、私とCottonは大暴れ。大層疲れはしたが、いつも通りの盛り上がり、ソールドアウトとなった450人満員すし詰め状態の客も楽しんでくれたと確信。AMTのポテンシャルとは、仮にメンバーの誰かが調子悪くとも、残りのメンバーで最低限のテンションとクオリティーを常に維持出来得る処か。それと云うのも今迄、数々の悪条件やアクシデントを乗り越え演奏し続けて来た「叩き上げ」ド根性の為せる技か。

終演後、プリンセスと談笑しつつビールをあおり、4時前にSteve宅へ戻る。過ぐる夏にSteveに同行し来日した彼のルームメイトが、私と東君の為にわざわざ日本人街まで出向き、焼酎とウーロン茶のボトルを用意してくれている。これには感激、もう完全にダウンしている東君も「礼には礼もって応える」と、1杯だけ飲み再び爆睡。結局台所にて、夘木君と私は朝6時まで談笑しつつこの焼酎のボトルを空ける。明朝Reckless Recordsへ10時のオープンに合わせて、津山さんと中古レコード漁りに行く予定。されど昼12時にはChicagoを出発せねば、何しろ明日のライヴ会場のあるMinneapoliceへは400マイル以上もあるのだ。

10月21日、結局台所にて寝袋に包まって眠った私は、朝9時、階下のコインランドリーへ出向く東君の気配で起床。私は東君に同行し、ついでに近所のスーパーへ。東君はスタミナをつける為、サーロインステーキ1枚を購入、ガーリックたっぷりのサーロインステーキで体力の回復を図る。それにしてもこのサーロインステーキ、1枚で優に500gはある程の特大サイズ。これでもスーパーの肉屋にて一番小さいものを購入したのであるが、何とこれで$1.50と云う激安ぶり。東君はこれ1枚を平らげ再び爆睡。風邪は「兎に角食って寝る」これに限る。その一方、私と津山さんはReckless Recordsへ中古レコード漁り。僅かな時間を惜しんでもレコード屋は巡りたいもの。

結局予定より1時間遅れの午後1時にSteve宅を出発、一路Minneapoliceへ。この調子では夜8時頃に到着となるであろう。東君は風邪薬が効いているのか爆睡。深夜8時、予定通り無事にクラブSeventh Street Entry着。

Kinskiとも今宵でお別れである。そのせいか、Kinskiのステージはいつも以上にヒートアップ。相変わらず風邪に苦しむ東君の大暴れもあり、我々もKinski以上にヒートアップ。私もトレモロアームがない為、兎に角弾きまくる。ビールをチェイサーに安物ジンを飲み倒しつつ、ステージ狭しと暴れ回ったせいか、結局ベロベロ状態、されどKinskiとのラストステージも大盛況にて幕。

終演後、オープニング・ローカルバンドSkyecladのメンバー宅へ。別の場所に投宿する筈のKinskiも、最後の夜なので一緒に飲もうと同行。ここの主人、なんとアブサンを秘蔵しており、これには私も目がないと、早速御相伴に預かる。角砂糖が見当たらぬ故、ティースプーンに砂糖をひとすくいし、その上からアブサンをグラスに注ぐ。美味い!これは矢張り絶品。私の後でここの主人からアブサンを頂いたChrisや東君は、味が何となくソルティーだとこぼしている。斯様な筈なかろうとあれこれ話すうち、ここの主人が砂糖と塩を間違えていた事が判明。それでは折角のアブサンが台無しである。結局皆でアブサン、ワイン、スコッチを空けるうち夜明けとなる。Kinskiは、明日も移動してライヴ、その後丸3日間のドライヴを敢行してSeattleへ帰ると云いつつ、朝5時半まで飲み明かす。流石アメリカン・インディー界の酒豪バンド。我々は、明日はLas vegasへフライト、朝10時にレンタカーを返却せねばならぬ為、朝9時には出発せねばならぬ。まあ3時間は寝られるか、とソファーにて横になる。

(2002/12/22)

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