『人声天語』 第138回「男は黙って噛み締めろ!(AMT & TMP U.F.O.欧州ツアー2007)」其之九

11月27日(火)
午前6時起床、当然辺りは未だ真っ暗闇。台所にて昨夜のKaiの手料理の残りを発見、戸棚にて見つけしカレー粉と唐辛子を加え貪れば、尚一層美味なり。矢張り煮込み料理は、一晩置けば美味さ大いに増せり。

午前9時頃メンバー一同も起床。早速津山さんが、永谷園のお吸物にて松茸風味炊き込み御飯を拵えれば、少々お裾分け頂きし。具こそ無けれども松茸の香しき香りにて充分、更に津山さんの十八番胡瓜の塩揉みと併せて頂けば、更に美味なり。されど不思議なもので、斯様に郷愁をそそる逸品を食らおうが、今回は全く以て日本料理禁断症状も発症の兆しさえなく、それどころか然して感動もせぬ有様、我ながらこのほぼ無自覚的精神の変化には流石に戸惑い気味なれど、質素倹約を旨とする今回のツアーに於いて、精神力により耐えるべきを耐えて来ればこそ、遂には如何なる料理に対しても順応し得る「都市サバイバル術」の極意ここに極めしか。

さて遂にバンド名義のCDはほぼソールドアウトとなれば、それに代わる商品たるライヴCDRの製作に取り掛からん。東君と私の2台のiBookにてひたすらCDRを焼く一方、私はジャケット製作を開始せり。Winterthur駅にて拾いしフリーペーパーに、Led Zeppelinの再結成に併せリリースされしベスト盤「Mothership」の広告が掲載されておれば「あっ!これに『Acid』て付け足したらええんちゃう?」斯くしてジャケットは一瞬にて完成。Petterに連れられコピーショップへ赴き、取り敢えず当面必要ならん分と云う訳にして、カラーコピー8枚(ジャケット28枚分)で150NKR(2550円)也、当然店のオヤジに原稿を手渡しコピーを依頼せねばならず、コピー8枚の所要時間は30分なり。これにてこのライヴCDR「Acid Mothership」は今宵より販売開始せん。

Trondheimへ同行するPetterと共にOslo S駅へ、Oslo Lufthavn(Oslo空港)行き高速列車Flytogetの切符を買わんとすれど、カラーコピーにて昨日両替せしノルウェイクローネを消費しておれば、ここはPetterがクレジットカードにて代わりに一括購入してくれし。運賃は矢張り昨日Per君に伺いし通り160NKR(2720円)なれば、クレジットカード決算割引なるか。 午後11時25分発Flytogetに乗車、約30分程にてOslo Lufthavn駅に到着。Trondheimへの往復は、格安のNorwegian航空を利用すれば、受託手荷物の重量等にてのトラブルはこれ以上御免被りたき処故、今宵のTrondheim公演に際し必要なる物のみを携行し、不要なる物は全てPer君宅へ預け置きし次第。斯様に盤石の態勢にてチェックインへ臨めど、我々のギターケースを見るや、楽器一切は1個につき特別料金100NKR(1700円)を追徴されSpecial Baggageとして預けねばならぬシステムらしく、合計300NKR(5100円)を請求されれど、当然ノルウェイクローネの手持ちなんぞあろう筈なく、またしてもPetterに立替えて頂きし。斯くして300NKRは追徴されれど、無事に午後1時35分Norwegian航空Trondheim行きに搭乗。 
僅か1時間程のフライトにてTrondheimに到着。オルガナイザーJorgenが車にて迎えに来ておれば、先ずは今宵の投宿先たる彼の家へと向かう。TrondheimはOsloよりも遥かに北なれば、当然更に雪深く、連日ブーツが床上浸水せし東君は、またしてもビニル袋を靴下代わりにする有様。

さてJorgen宅にてビールでも飲まんとなれば、「今日は君達の為に酒の肴を用意しといたよ!」彼がニヤニヤ笑いて取り出したるは、何と鹿と子山羊の生肉にして、これを刺身にて頂けば、その美味さたるや到底筆舌に尽くせじ。今回のツアーに於いて、ぶっちぎりにて最も美味なる逸品に間違いなし。彼は昨春にPer君達が日本ツアーを行いし際、単に観光客として彼等に同行しておれば、日本の食文化に大層感銘を受けしとか、この鹿と子山羊の刺身にせし処で、予めわさびと醤油を用意して頂けし辺り、こちらも頭が下がるばかり。

続けて「鳥の一種だけど英語での名前判らないから…」と出されし皿には、何と海鵜の刺身が乗せられし。日本に於いて海鵜とは、長良川の鵜飼い等の鵜飼漁法にて有名なれど、食用にするとは聞かぬ話。さてこの海鵜の刺身なれど、歯応えよろしく大いに美味、あれ程何でも食らう日本人が、何故海鵜は食わざりしか。

実はJorgenの趣味とは狩猟にして、動物を撃ち殺しては解体し食らうと云う、いわば日本人に於ける釣りの如き感覚なれば、流石はバイキングの末裔なり。特に秋はシーズンらしく、クリスマスの御馳走を仕込む為にも頻繁に狩猟に出掛けるとか。

生肉の美味さを知り、魚も食えば鯨をも食らう民族なるノルウェイ人とは、日本人と共感し得るもの多からん。今現在も商業捕鯨を行っておれば、国際的世論の非難を集めておれど、鯨食うて何が悪いんじゃ!ボケがぁ!そもそも捕鯨とは我々の文化なれば、偽善的なる反捕鯨諸国に何ら干渉される筋合もなし。国際捕鯨委員会(IWC)なんぞお前ら何様のつもりやねん!ホエールウォチングなんぞにて「癒される」といちびってるボケ共は、お前らも纏めてぶち殺したろか!何で牛や豚はぶち殺して食うても残酷やのうて、鯨やイルカは可哀想になんねん!そんなもんお前ら西洋諸国の偽善的御都合主義でしかないやろが!そもそも狩猟民族たる野蛮人の血が今以て脈々と流れるおんどれらに、何でわしらが糾弾されなあかんのじゃ!ボケかぁ!挙げ句の果てに「動物愛護の見地からベジタリアンになります」やとぉ~!おんどれら動物が可哀想とかヌカすんやったら、自らの身を呈して飢えた肉食動物の餌にでもなって来いや!アザラシの肉しか食うもんないエスキモーはどないすんのんじゃ!弱肉強食とは自然の摂理、食い尽くされ絶滅せし動物とは、それがその動物の運命にして、絶滅種が増えれば「自然のバランスが崩れる」なんぞ笑止千万。「自然のバランスが崩れる」とは人間の勝手な偽善的且つ御都合主義的判断にして、仮に一見バランスが崩れようとも、その崩れしバランスより新たな種の生命が誕生する事こそ「自然の摂理」ならん。人間が動物を殺戮絶滅させる事にて、最終的に自滅しようが、それもまた人間の運命なれば、些かの問題あろう筈なし。斯くなる上は、鯨やイルカが突然変異にて人間を軽く凌駕する知能を携え「人間の天敵」にでもならん事、動物愛護なんぞ訴えるどアホ共の為に、大いに呪詛するものなり。そもそも「動物愛護」やら「自然保護」なんぞ「人間が地球上の盟主たり」との愚かしき驕りに起因すればこそ、本来狩猟民族たる西洋人の自己欺瞞に他ならぬ。西洋諸国が訴える死刑廃絶にせし処で「目には目を歯には歯を」こそ懲罰の正道にして、ハムラビ法典は勿論の事、旧約聖書にも記されておれば、そのそも「現代人の倫理観=西洋人の倫理観」と思えればこそ、我々にとっては飽くまでも異教たるキリスト教国の倫理観なんぞを何故押し付けられねばならぬのか。アホヌカすな!そもそも死刑とは、いつか判らぬその死刑執行日まで、延々と大いに死の恐怖を味合わせる事にてその罪の深さを自覚させ、遂には自らの命を代償に償わせるものなれば、闇雲に「魔女狩り」の名の下、異教徒や異端派を大量虐殺せし鬼畜の血を脈々と受け継ぐおんどれら西洋人が、何を今更「人が人の命を奪う権利はない」なんぞとホザく権利があるねんな!未だに「地球上の盟主は西洋人」なんぞと驕り捲りておればこそ、斯くも偽善的且つ御都合主義的ならん。「死刑廃絶」にせよ「動物愛護」にせよ「自然保護」にせよ、全く以て嘗て西洋人が繰り広げし蛮行に対する偽善的西洋人共の自戒なれば、ほんなもんワシら関係あるかいっ!「反捕鯨」勝手にホザけ!お前らは家畜たる牛や豚や鶏だけ食うとったらええやないけ!ベジタリアンは野菜と果物だけ食うとったらええやないけ!ワシらは食えるもんなら何でも食いたいんじゃ!ボケぇ!中国でのライヴで「パンダ食うてみたい!きっと白い部分と黒い部分では味が違う筈や!」って言うたら、机以外の四つ足は何でも食らう筈の中国人からブーイング喰ろたワシじゃ!大体動物の内蔵も食わずに捨てるおんどれらに、跡形もなく奇麗に食い尽くすワシらが文句言われる筋合ないやろが! 
さてJorgenは釣りも嗜むとかで、今度は自家製鯖の塩漬けを頂きし。これは酒との相性素晴らしく、味は鯖なれどまるでからすみの如し。一同Jorgenの御持て成しに大いに感動、グラス片手に美食を満喫すれば「何かもうライヴとかやめて、このままここで飲んでたいな…。」

既に日没せし午後4時頃、今宵の会場Blaestへ赴き、手早くサウンドチェックを済ますや、界隈のレストランにて晩飯とあらば、雪の中徒歩にてそのレストランへ向かいし。折しもこの地方のクリスマス料理たる逸品が本日のスペシャルとしてあるとかで、ならばそれを注文、豚肉とソーセージの赤ワイン煮込みにして、豚肉は柔らかき事この上なく、口へ運ぶや否や溶け失せる程、ソーセージも大いに美味なれば「郷土料理に美味いものなし」たる我等がキャッチフレーズを見事に覆すものなり。されど矢張りヘビーな肉料理なれば、完食せし事を大いに悔やむ程に満腹過ぎ、思わず苦悶する始末。

Jorgenが「ノルウェイでは、クリスマスに大量の料理を作り、ひたすらアクアビットを飲みながらそれを食うのが習慣だけど、料理がヘビーな肉料理ばかりだから、クリスマスになると皆肥えるんだ!」巨漢のPetterが続けて「だからクリスマスに実家に戻って大量の料理を食べた後、友達の家に遊びに行くと、また大量の料理が出て来て食べなきゃいけないんだ…もう最後は腹が破裂しそうなぐらいまで食べるんだ!だからこんなに太ったってわけさ…」再びJorgen曰く「兎に角雪が降り始めるまでに狩猟に行って、クリスマス用にしこたま肉を用意して、それを全部クリスマスで食ってしまうんだ…だからクリスマスが終わると食いもんが無くなって今度はひもじいんだよ…ノルウェイ人ってバカだろ?」何と云う大胆剛毅にして享楽的刹那的な生き様か。男なら斯くも人生を謳歌したきものなり。 
さて会場に戻るや、Petterは主宰するレーベルSynestetic Recordsよりリリースせし2枚組LP「The Early Acid Mothers Temple Recording 1995 – 1997 / Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.」をShopzoneに並べれば、今やバンド名義の商品は本日より販売開始せりライヴCDR「Acid Mothership」のみにてライバル商品となれど、矢張りLPが並ぶや、Shopzoneも華やかさを取り戻せしか。前座は機材山積みなる地元のC級プログレバンドなれば、モニター系統なんぞ大いに混乱せし様子にして、サウンドエンジニアもパニック状態、御陰でモニター具合は出鱈目至極、ボーカルの返しが爆音にして、更に東君のシンセが耳を劈く程なれば、幾らサウンドエンジニアに訴えようが、どうやらモニター系統を把握しかねる様子にて改善される望みも失せ、私と津山さんはドラムの両隣にまで避難し演奏するしか術もなし。されど外音はバランスも良く素晴らしかりしとかで、ならば問題あるまいか。 
終演後、再びJorgen宅へと戻れば、いざアクアビットを飲まん。ここでJorgenが、酒の肴にと取り出したるは自家製子羊の肋肉塩漬なり。軽く火に炙れば、まるで鮭のはらすの如し、大いに美味なればアクアビットが進むも当然。ところでこのアクアビットは何と度数70度もあれど、口当たりの良さが災いし、最早グラスを置くなんぞ不能と相成りひたすら調子良く呷るのみ。漸くいい調子となれば、午前4時就寝。

 

11月28日(水) 
午前7時起床。さて朝飯は、Jorgenが我々の為に買い置きしノルウェイ産Eldorado製即席ラーメンを頂く。この即席ラーメンは、味的には全く問題なけれど、何故かJorgenがチューブ入り練りわさびを用意してくれておれば、折角の御好意を無駄には出来ぬと、練りわさびをぶち込みわさびラーメンと化すや、まるでかっぱえびせんわさび味の如しとなり、これはこれで充分堪能し得るものなり。

さて本日もNorwegian航空にてフライトにして、ギターケース1個につき特別料金100NKR(1700円)も追徴されるは馬鹿バカしければ、ギター類を全て解体し、私のボディーはスーツケースへ、私のネックは津山さんのベースケースへ同梱して頂き、東君もネックはシンセと共にスーツケースへ、ボディは兄ぃのスーツケースに同梱すれば、結果的に楽器然とせしは津山さんのベースケース1個となり、これにて200NKR(3400円)節約し得る筈なり。 
午前10時過ぎにJorgen宅を出発、彼の車にてTrondheim空港まで送って頂く。山男津山さんは、Jorgenと次回狩猟に行く約束をしておられれば「次回は一緒に狩猟に行こ!」津山さんの何かに火が灯りしか、空港の売店にても、撃ち殺されし鹿の写真が表紙を飾る狩猟雑誌を購入しておられし。狩猟とは如何にも面白気なり、釣りを嗜まぬ私でさえ大いに興味深き処か。さてチェックインとなれば、往路の際支払いを強制されし楽器に対する特別料金は不要との事、わざわざギターを解体せしは徒労と化せり。ほなら行きしなは、見事ぼったくられたっちゅう事かいな!Ryanairに限らず格安フライトは油断ならぬ。 
空腹なれば東君共々、空港内のホットドッグ屋にてジャンボホットドッグなるを購入すれば、先ずはそのソーセージ長さに驚かされる有様、通常の約2倍にして、更にトッピングも全種類をお願いすれば、玉葱とピクルスに加え、ポテトサラダまで挟む豪快さ、これにて32NKR(544円)なれば、この物価高のノルウェイに於いて、況してや物価の高き空港に於いて充分納得し得る値段なり。カウンター上に置かれしチリケチャップを添えれば、なかなか美味なり。

午後12時10分Norwegian航空Oslo行きに搭乗、再び僅か1時間程のフライトにてOsloに到着。受託手荷物受け取り所にて、津山さんの受託手荷物たるベースケースが見当たらず、結局荷下ろし後、ターミナルビルへ運ぶ途中、荷台から転落せしとかで、取り敢えず無事発見されれば安堵。されどOslo S駅にて火災発生とかでオンラインが全てダウンし、Flytogetのみならず鉄道が全面運休しておれば、バスにてOslo市街を目指すしか術もなし。バスの運賃は130NKR(2210円)也。午後2時20分発のバスに乗車、午後3時過ぎOslo S駅に到着、徒歩にてPer君宅へ戻る。 
晩飯はサウンドチェックの後なれば、小腹が空きし故、いよいよ最後となりしTesco製即席カレーラーメン2袋の麺を茹で、そこへトンカツソース小瓶の残り全てを投入、更にカレーラーメンの粉末スープ1袋分弱を振り掛け混ぜ合わせれば、カレー焼きそばの完成。矢張りトンカツソースは偉大にして、具無しなれども気にならぬ美味さか。されどこれにてトンカツソースも遂に尽きれば、いよいよ明日よりコロッケのメッカたるオランダへ乗り込まんとすれど、残念ながらコロッケにトンカツソースを添え楽しまんとするは夢と潰えし。

Petterよりコピー屋は午後5時に閉店と聞けば、明日以降果たしてオランダにて容易にコピー屋を見つけ得るか大いに疑問故、今日のうちにCDRの残り枚数分のジャケットをコピーせんと、雪の中コピー屋へ向かいし。前回同様、他に客がいる訳ならねども、たかが8枚コピーするに要せし時間は約30分、代金は150クローネ(2550円)也。 
午後6時、Per君宅より機材を携え徒歩にて今宵の会場Blaaへ。サウンドチェックを手早く済ませれば、いざ晩飯を食わんと、Per君やPetter達と共にベトナム料理屋へ。私は元来中華料理やベトナム料理を好まねば、メニューよりポークリブのカツレツなるを見つけ、果たして如何なる代物かと、若干不安を抱きつつも此処は大博打を打たんと注文、さて運ばれて来しは案の定所謂我々が知る処のカツレツにあらず。何しろカツレツと云う名こそ冠すれど、パン粉どころか小麦粉の衣さえ纏っておらず、所謂ポークリブグリルなり。果たしてベトナムへは、カツレツとは如何な具合に湾曲され伝来されしか。さてまた単にこのレストラン経営者が、カツレツなるものを存じておらぬのみなるか。若しくはノルウェイに於けるカツレツとは、斯くなるグリル料理を指し示す語なるか。ノルウェイのベトナム料理店なれば、大凡斯様な代物ならんと覚悟しておれば、然程落胆する事もなく、さて食らいてみれば、ポークリブグリルとしては充分美味なるか。されど添えられしベトナム料理特有のソースは、甘辛く到底使える代物にあらねど、テーブル上に置かれし唐辛子味噌サンバルを添えれば、これは美味なり。また同じくテーブル上に置かれし胡麻味噌の如きを御飯に混ぜ合わせれば、米の臭みを消すのみならず、胡麻味噌御飯として大いに美味なり。

ライヴは盛況なれど、私のアンプが2曲目「Dark Stars In The Dazzling Sky」の歌のバッキング途中にて、いきなり御陀仏御昇天召されるや、即座に代わりのアンプを用意して頂けれど、聞くに耐えぬ酷さにしてあまりにショボ過ぎ、流石にこのアンプにて演奏は不可能と判断し、東君のアンプを拝借すれば、これもなかなかの曲者にしてショボき事この上なし。さすれば客の1人が「10分待ってくれたら家からアンプ持って来る」と申し出てくれ、彼のアンプを拝借すれば、まだ他のアンプよりは若干マシかと云う程度なれど、最早これ以上の選択肢もなければ、このアンプにて演奏を続行せり。結局一夜にて4台ものアンプを使用する羽目になるとは夢にも思わず、今回のツアーはアンプに恵まれておれば、久々に苦戦せし夜となりし。 
終演後、Per君宅へ戻れば、Per君やPetter達とワインやビールを呷りつつ歓談。宴もお開きとなれば、ネット接続し雑務こなさんと思えども、突如猛烈なる睡魔に襲われるや、午前4時就寝。

 

 

11月29日(木) 
午前9時起床。今までの道中にて蓄えしTesco製即席カレーラーメンの粉末スープと、同じくしてLondonのTescoにて購入せしキーママサラを用い、此処でスープカレーを拵えんとす。そもそもスープカレーを先達ての北海道遠征にて初めて食せし経験しかなければ、如何に嘗てアジア料理店等にてシェフを務めておれど、果たしてレシピなんぞ知る由もなければ、ネットにて大凡のレシピを拝見、今回Tesco製即席カレーラーメンの粉末スープを使わず備蓄するうち、ふとこれにて即席スープカレーを作り得るのではあるまいかと閃くや、この即席スープカレーのレシピを組み立てるに至れり。冷蔵庫より、ジャガイモ1個、人参2本、玉子1個、甘唐辛子1本を頂戴し、甘唐辛子を除く具材をボイル。さて野菜と玉子がボイルされれば、今度はスープの製作に取り掛からん。この即席カレーラーメンの粉末スープの味にて纏め切れぬ場合を想定し、最悪の場合、今朝スーツケースのポケットより偶然発見されし携帯用袋入りトンカツソースにて味を整える2段構えの体制なれば、万が一にも途轍もなく激不味なる代物に陥る事あらざらんか。沸騰せし湯に、味が塩っぱくなり過ぎぬよう細心の注意を払いつつ粉末スープを徐々に溶き入れれば、長年のシェフの勘を以て程良いと思われる辺りにてチャナマサラをスプーン2杯程投入、これにて如何にもスープカレー然とせしスパイシーさも得られ、そこへ先程ボイルせし具と甘唐辛子をぶち込みて軽く煮れば、ここに即席スープカレー見事完成せり。いざ食してみれば、おお~っ、即興にて拵えし割にはなかなか美味なり。結局トンカツソースを召喚する必要なしにして、具自体の持つ味の醍醐味を充分に堪能し得るスープの絶妙なる匙加減、これこそ矢張り長年に渡りシェフとしての働きし故の「勘」あればこそかと思わず自画自賛。

Per君の話では、今以てOslo S駅は昨日の火災の影響にて昨日せずとか、列車も運行せしか否か定かならぬとの事、されどPetter曰く「空港行き高速列車Flytogetだけ運行しているらしい」万が一Flytogetが運休しておれば、バスにて空港へ向かうしか術なく、バスならば所要時間は45分程見込まねばならぬ故、午前11時半にPer宅を出発、再び徒歩にてOslo S駅へ。駅構内の電光掲示板は全て消えており、列車が運行せし気配なけれど、取り敢えずFlytogetの乗車ホームへと向かえば、矢張りFlytogetのみ運行中の様子。さて切符を購入せんと思えども、切符売り場は閉ざされており「ええっ?ほならどないして切符買うねんな?」時間に対し異常な程小心者にしてイラチの津山さんは「乗り遅れたらあかんから、切符なしでも取り敢えずもう乗ろうや!」と乗車ホームへ突入。ふと周りを見渡せば、御婦人が駅員と何やら揉めており、どうやら切符の自販機のみ動作しておれど、クレジットカードはオンラインがダウンせし故に使用不可にして、されど現金を持ち合わせぬこの御婦人は、ならば如何にして切符を購入し得るかと、駅員に詰問せし様子なり。成る程自販機は電源が入っておれば、これにて無事切符を購入、されど今回の運賃は160NKR(2720円)なれば、ノルウェイに到着せし折支払いし運賃170NKR(2890円)たりしは何故か。クレジットカード払いによる割引と思い込んでおれど、これまた切符売り場の輩に「どうせ日本人やったら何も知らんしわからんやろ」と見事ぼられたか?さてまたユーロスターの如く時間帯によりて値段が異なるや否や。何はともあれ無事にFlytogetに乗車叶い、一路空港へと向かう。 
空港に到着するやチェックインカウンターへ赴けば、流石は大手Scandinavian航空か、若干の重量超過も問題なく無事にチェックインも完了。これにてノルウェイクローネも不要なれば、小銭処分の為、売店にてBLTサンドウィッチを購入、丁度42NKR(714円)なれば所持せり小銭を見事償却。されどこのBLTサンドウィッチは冷蔵ケースに陳列されておれば、ベーコンが冷たく脂分も凝固しておれば気持ち悪き事この上なし、冷めたベーコンなんぞ到底頂けぬ代物なり。

午後1時45分発Scandinavian航空Amsterdam行きに搭乗するや、機内にて爆睡、午後3時半過ぎにAmsterdamに到着。今宵の会場StubnitzのスタッフKayが迎えに来てくれれば、市内の渋滞に巻込まれるも午後5時過ぎにStubnitzに到着。Stubnitzは大型船を改造せしライヴハウスにして、船内には他にもバーやアートギャラリーやシアター等も完備、旧東ドイツRostockに停泊するが常なれど、夏期はStockholm等へ繰り出し、この航海中も船内にてライヴ等のパーティーを行う等、今やヨーロッパに於いてはかなりその名を知られしか。数週間前よりはAmsterdamに停泊中との事で、船長のBloより「11月はAmsterdamに停泊するから、是非AMTにも来て欲しい」とのメールを頂き、今まで幾度となくRostockにては演奏しておれど、初めてRostock以外の地に停泊するStubnitzにて演奏する運びと相成りし。 
サウンドチェックを済ませるや、既にクルーは食堂にて晩飯を食しているとの情報あれば、前回の如く遠慮するうちに食い逸れる事なきよう、早速食堂へ赴き晩飯に有り付かんとす。晩飯は鶏肉のシチューの如きとマッシュポテトにして、主食がマッシュポテトとは矢張りドイツ人所以か。鶏肉のシチューも若干トマトの酸味が残る赤ワイン煮の如きにして、充分に美味なり。

嘗てStubnitzにてブッキング担当として働きしCoostと、2006年のAcid Mothers Temple & The Cosmic InfernoのBerlin公演以来の再会。(人声天語第132回「くたばれ日本!(AMT & TCI 欧州ツアー2006)」#2参照)何でもStubnitzのOB連によるイベントが昨夜ありしとか、道理で矢鱈と懐かしき面々を見掛ける筈なり。このStubnitzを初めて訪れしは、1996年の私の人生初の海外ツアーたるMusica Transonic欧州ツアーにして、それ以降もAcid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.として、未だ当時全く無名なる頃より世話になりておればこそ、今回の出演依頼に対しても二つ返事にて承諾せし下りなり。Coostの彼女Gabbaより、世界でも稀なる東君に懐きしCoostの愛犬Sir Evansは、既に天命を全うされしと伺えば、東君曰く「これで俺を愛してくれる犬はこの世からいなくなったなぁ…。」
前座のイギリスの若いパンクバンドの演奏中、突然フィンランドのサイケバンドCircleが到着。Circleとは長き縁にして、2001年のUK&アイルランド・ツアーに於いて、遠路遥々フィンランドよりイギリスまで数日を要し機材車を運転し、我々の前座を務めしが最初の出会いにして、2002年には彼等の地元フィンランドを共にツアーし(人声天語<特別編AMTツアー雑記>第77回、第79回、第80回「嗚呼…フィンランド(前・中・後編)」参照)その後も2004年、そして2005年にはAcid Mothers Temple & The Cosmic Infernoと共に彼等の別ユニットPharaoh Overloadにてフィンランドをツアーしており(人声天語第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT & TCI 欧州ツアー2005)其之拾参、其之拾四、其之拾五」参照)また今回のツアーに於いても、何度か彼等のツアーポスターを見掛ければ、Londonにてはメッセージさえ残せし経緯もあり、同じ時期にほぼ同じ場所をツアーせしかとは思っておれど、まさか今宵このStubnitzにて再会するとは想像だにせず。改めて今宵のポスターを眺めるや、確かに我々の名前と共にCircleも記されており、何と今宵対バンなれば、何故今まで誰も気付かざりしや。 
Circleは我々の前に演奏する事を望めども、Stubnitz船長Bloは「到着したのが遅かったから」と却下、前座のパンクバンドが終了せし故、取り敢えずCircleのメンバーと再会を祝し乾杯、いざステージへ。ライヴは大いに盛況、我々が通称「トチロー」と呼ぶStubnitz御自慢の自家製らしきギターヘッドアンプは、船底にあるライヴスペースのステージの天井に組み込まれておれど、相変わらず超強力にして、またスピーカーキャビネットも積み上げれば、壮絶なる大爆音を醸し出せり。終演後、謎のメキシコ人より極上テキーラの差し入れありて、東君とそのテキーラを呷りつつ、久々となるCircleのライヴを観賞。Circleは毎回その音楽性が激変する事で良くも悪くも知られるが、今回は1ステージが一大組曲として構成され、途中様々なパントマイム的パフォーマンスさえも展開、これは大ウケにして、一体何が彼等をそこまで変えらしめしか。津山さんも彼等の変貌ぶりには仰天しておられ「一体あいつらどないしてもうたんや?でもめっちゃプログレや!1ステージ1曲の大組曲やんけ!ほんであの謎のパフォーマンスは何なんや?めっちゃアホやなあ…でもめっちゃカッコ良かったわ!凄過ぎるわ!」と大賛辞を送る程。 
終演後、Circleのメンバーやらベルギーの雑誌記者と名乗る少々鬱陶しいおっさんとグラス片手に歓談。船内に部屋を宛てがわれておれば、午前4時半就寝。

 

(2008/01/04)

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