『人声天語』 第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#5

6月9日(木)

午前6時45分起床。朝飯は、スコットランドのホテルにて失敬せしHorlicksの粉末麦芽飲料(ミロみたいなもん)のみにて済ませるも、これも昨夜日本食を大いに満喫せし故か、矢張り日本食は腹持ち大変よろし。

田畑君はにしんそばならぬじゃこそば、東君は月見そばを食しておられる。因みにペットボトルの中身は麺つゆなれば、市販の麺つゆボトルの蓋は容易に開いてしまう故、鞄の中が麺つゆ浸しになるやも知れぬと云う不測の事態を考慮すればこそ、これもツアーに於けるひとつの知恵なり。


Glynさん宅のトイレは、一旦水を流すや、タンクに水が溜まるのに15分以上をも要すれば、連続してトイレに行くは難儀する事この上なし。連続する場合は仕方ない故、シャワーのホースを引っ張って来てはタンクに無理矢理水を溜めねばならず、ホンマ往生しまっせ。またイギリスは全体的にトイレの水流が弱いのか、おぞましき流れ残りの置き土産を見掛ける事もしばしばなり。
午前9時、東君と共に郵便局へ。日本への返送分CDを船便にて送らんとすれば、何と114ポンド(約23000円)とは、アメリカのほぼ2倍の額面にして、これは幾ら何でも高過ぎるやんけ!されど送り返すしか道がなければ、泣く泣くレーベルの経費より捻出すれど、我ながら何とも商売の才覚なきことか。

午前9時20分、Glynさん宅を出発、Glynさんがいつものように駅まで見送りに来てくれる。ありがとうGlynさん、しかしホンマにポーランドで仕事あるんかいな?

Glynさんとお別れし、地下鉄とバスを乗り継ぎてLondon City空港へ。空港シャトルバスよりも市バスの方が割安とは、市バスに乗りし我々、大いに得した気分なれど、成る程、空港シャトルバスは空港エントランス近くで降ろしてくれるのか。
我々のフライトであるSwiss Air正午発Geneve行きは、既にチェックイン開始さえ45分遅れの表示が出ておれば、チェックイン開始までバーにてビールを呷る事に、斯様な時は飲むに限る。勘定奉行の田畑君は、経費の残りをスイスフランに両替と使命を全う。せんせいは御用達の英国タバコRothmansを売店にて見つければ、あまりの高額故、買うかどうかを散々迷いし挙げ句、売店にあればきっと免税店にもあるであろうと、全ての命運を免税店に賭ける事に。
漸くチェックインを済ませ出国。せんせいは早速免税店にてRothmansを求めれど、残念ながら見当たらず。ここで我々のフライトは1時間45分遅れとの表示となれば、ロビーにて時間潰しにとアサ芸を読まんとすれど、もう幾度となく読み返しておれば、今更未だ読んでおらぬ箇所なんぞ殆どなく、されば未読でありし風俗情報やら勃起力回復薬やら運気向上グッズ等の広告なんぞに目を通せば、実はこれが読み物として結構面白く、良い退屈凌ぎとなりし。田畑君とせんせいはバーにてビールを呷っておられども、突如搭乗開始のアナウンスがあるや、田畑君は余ったポンドの小銭全てを、イギリスの不味いポテトチップスに両替せし。
さて搭乗ゲートにて待機しておれば、突如我々の隣の飛行機のエンジンが発火炎上、消防車数台が駆け付け消火作業を始め、お蔭で我々のボーディンングは更に遅れるどころか、果たしてフライトが本日決行されるかどうかさえ怪しいとのアナウンス、これを聞きて激怒せしイギリスのええしのボンが、職員に詰め寄り大いに文句垂れる様を横目にしつつ、我々は田畑君のポテトチップスのテイスティング大会を開催。はっきり云うてどれも不味いな。最悪の事態となりて明日のフライトとなれども、ライヴは明晩なれば、別段然したる懸念もなし。


待つ事更に1時間半、漸く搭乗にして無事離陸。機内食はバジリコソース溢れるハムサンド、いと不味し、到底食えた代物にあらず。こんな機内食やったら出さん方がマシじゃ。

午後4時30分Geneve空港着。さてここからいよいよヨーロッパ列車の旅の始まりなれば、午後5時1分発Lausanne行きICに乗り込む。切符は50フラン(約4000円)なれば、常々思うはスイスの列車運賃いと高し。以前は旅行者用の割安パスEUrail Passを利用しておれど、今回の列車移動は、ドイツや北欧のような運賃の高い国々を走破する訳でもなく、またスロベニアやクロアチアはEUに加盟しておれど未だEUrail Passは使えぬ有様にして、今回列車にて主に回るは運賃激安のイタリア程度故、EUrail Passを購入するまでもなしと判断しておれば、これも当然承知の上。

午後7時半、無事にBernに到着。英語圏ではない故、皆英語が上手くなければ逆に聞き取り易し。Bern駅構内の御用達中華料理屋にて炒飯を購入し、今宵の宿泊先であり明晩のライヴ会場であるDachstock Reitschuleへと向かう。幾度も訪れておれば、勝手知ったる何とやらで、徒歩5分にて到着。
オルガナイザーSandroに再会するや、例の地ビールLawinenbrauを頂く。イギリスが随分涼しかったせいか、それともアルプスのイメージから勝手にスイスは涼しいと思い込みしせいか、異様に暑く感じておれば、1杯のビールの何と美味なる事か。空腹なれば先程購入せし炒飯を半分食す。Londonにて日本食を満喫して以来、どうも米を食わぬと落ち着かぬようになってしまえば、たとえ炒飯であれ充分に幸せなり。

さてメールチェックをすれば、オーストリアとイタリアのオルガナイザーを務むるMassimoより、4日後より始まるイタリアの全日程詳細と明後日のViennaの詳細を漸く入手、これにて明後日より何処に行けばよいのかが判明。ヨーロッパのブッキング事情とは斯くなる調子なれば、胃が痛くなる事もしばしばあるも当然なり。

Sandroから、今宵近くで行われるフェスティバルにダモ鈴木 + Zuが出演する故、彼も観に行くと聞くや、そのイタリアのアヴァンギャルド・プログレ・パンクバンドZuのベーシストこそ、前述のMassimoその人なれば、せんせいと共にSandoroに同行する事にす。
午後9時46分発の鈍行列車にてDudingenへ、約30分で到着。フェスティバル会場まで徒歩にて向かえば、広大なランドスケープと美しき日没、素晴らしき眺めかなスイスの田舎。フェス会場に到着すれば、丁度サブステージにてダモ鈴木 + Zuの演奏が始まったばかり、ビール片手にライヴを観れば、かなり緩めの内容にして、日本や韓国にて共演せし時に見受けしダモさんのヘッドバンキングは拝めず終い。終演後ダモさんと歓談、Massimoとはイタリア・ツアーの詳細確認と打ち合わせ。メインステージでは退屈なニューウェイヴ・バンドの演奏が繰り広げられておれば、矢張りこれも哀しいかなニューウェイヴ・リバイバルたる所以か。せんせいは、ピザの屋台がお気に召したか、矢鱈とピザを頬張っておられる。このピザの屋台、Pizza Carと云うその名前の通り、トラックの荷台部分をピザ屋に改造しておれば、何と本格的にオーブンも備え煙突まで搭載されている。車の荷台にオーブンって危なないんやろか?否、よくよく考えてみれば石焼芋の屋台も夜鳴そばの屋台も火を使っているか。それにしても何と立派な屋台構えなる事か。

さてサブステージにては、ダモ鈴木 + Zuに続いてElectric Eel Shockなる東京のバンドも出演しておれば、何とドラマーはペニスケース(実は靴下)着用の全裸にして、メンバー紹介に際し「Do you know our naked drumer? He is crazy!!!」同じ日本人として恥ずかしい事この上なし。せんせいの云う処のRCサクセションのカバーもありつつ、「It’s Hevey Mtal time! We like Hevey Metal!!」と来て「I am Iron Man!!!」とBlack Sabbathのカバーも披露、一見客は大いにノッてる様子なれども、終演後にメンバーの彼女であろうと思しき日本人女性達が、健気に「CDお土産にいかがですかぁ~?」と何故か日本語にてアピール、更にはメンバーも顔を連ね「CD!! Made in Americaaaaaa!!」と、果たしてそれが売り文句になるのかと甚だ疑問となる売り口上を叫んでおれど、売れている様子は殆どなしと云うのが実状なり。所謂ハコバン同様、単なる酒を楽しむ上でのBGMでしかない事は明白なれば、何でもLondonからバンに機材を積みて遥々ヨーロッパを回っているとかで、ステージで全裸にまでなって何とも御苦労な話である。全プログラム終了後、フェスティバルが用意せしBernへのシャトルバスに乗り込み、投宿先Dachstock Reitschuleへと戻る。既に午前5時、空腹ながらも就寝。

6月10日(金)

午前9時半起床、シャワー&洗濯を済ませる。さて朝飯は、先日Alan Cummings氏から頂きし韓国のわかめスープを用いてチキンラーメンをつけ麺にアレンジ、これが以外にも超激美味なり。ニンニク効きしわかめスープがチキンラーメンの香ばしさと見事にマッチ、これはお薦めの一品。


田畑君はレトルトのきのこご飯なる代物に舌鼓を打っておられ、兄ィは乾燥ラーメンの具と高野豆腐をぶち込みしラーメンを食しておられる。


食後は事務所にて再びネット接続、ここはADSL接続なれば持参のiBookにて容易に接続し得る故、ならばここは一念発起と、ツアーの今後の日程の詳細確認やら、秋のアメリカ・ツアーに関する雑務等も一挙に済ませる。何しろイギリスのみネット接続端子の規格が異なっておれば、何と日本で云う処のダイヤル回線端子とADSL端子の規格が逆さまになっており、これではiBookにてADSL接続不可なれば、またネットカフェなんぞに赴くも億劫となり、毎度の事ながら雑務も溜まりに溜まる有様。以前、ならばきっと変換アダプターの如きがあるのではと探せし経緯もあれど、斯様な代物見つからず、果たして一体如何なつもりでイギリスのみ規格が異なるのやら。大英帝国の栄華なんぞ今更屁の突っ張りにもならぬ事、重々承知して欲しいものなり。

正午過ぎに機材が到着すれば皆で搬入。ここはいつも楽器レンタル屋から機材を借りてくれる故、機材に関しては大いに安心出来る。前回津山さんがアンプを吹っ飛ばせし際も、Sandoro曰く「Rockの保険は高くつくもの」と笑っておれば、またJ.F.Pauvrosとのデュオにて訪れし際に、サウンドチェックにて私がアンプを吹っ飛ばせし折も、即座に別のアンプを手配してくれており、有り難い事この上なし。されど思い起こせば毎回アンプを飛ばしている始末なれば、今宵は何とかトラブルなしで終演を迎えたいものなり。

田畑君、せんせい、兄ィの3名が、近所のスーパーにてステーキ肉等の食材を購入、どうやら昼飯にステーキを食うらしい。

私も雑務終了後に東君と外出すれば、街頭にて珍しやフェラ犬の彫像を発見。

先ず楽器屋へ行きピックを購入、そして更にスーパーへ赴き、ステーキ肉、鯖、野菜ジュース、米を購入。戻ってみれば、3名は既にステーキを食らい終え大いに満足げなれど、こちらも負けじと先ず鍋にて米を炊けば、兄ィ曰く「そうか、米を炊けばよかったなあ」更に自慢げに鯖も見せれば「えっ、鯖も売ってたの?サーディンの缶詰しか見つけられなかったから、缶詰買って来ちゃったよ」と残念そう。さて鯖を下ろさんとすれども、ヨーロッパの台所には、包丁なんぞと云う優れもの先ず見当たらぬ故、ナイフにて強引に2枚下ろし。塩を降り冷蔵庫へ格納、これで明日は塩サバ定食なり。鯖中毒患者の私なれば、これにて禁断症状も再び落ち着くであろう。

さてステーキを焼けばこれまた美味なり、勿論焼き具合はレア、味はシンプルに塩胡椒とバターのみ。下拵え時に塩を降れば、肉の旨味が水分と一緒に流れ出してしまう上、ついつい塩分も取り過ぎてしまう故、塩は下拵え時にふらず、食す際に最低必要なだけふるのがポイントである。嗚呼、御飯も美味い。東君と2人して大いにステーキを満喫。


されど野菜ジュースは薄めたウスターソースの如きでいと不味ければ「これも体に良いと思って我慢、良薬口に苦し。」

午後5時、漸くサウンドチェックとなるや、今回のツアーで悩まされ続けているエフェクターの不調を再び徹底解明せんとチェック、結局シールド1本、アダプター1個、リバーブではなくディレイ1台が原因である事が判明、否、毎回チェックする度に原因と思われる箇所が微妙に異なっておれば、果たしてこれで遂に根本的に解決せしか否か、今更既に確信さえ持てず。ツアーにて機材が壊れるは常識なれど、ツアー前半にてこの有様、何とも遣る瀬無し。東君も不調のZoomを分解修理、恒例のハンダ付けにて何とか修理完了せし様子。せんせいはSonorのドラムセットに御満悦、絵面的にもシンバルスタンドの角度にまでこだわる凝りよう。ジョディ・フォスター似の照明担当の姉ちゃん、モニター担当の姉ちゃん、共に働き者にして毎度御馴染みなれば好感度大なれども、本日のエンジニアはまたしてもアホなれば、田畑君に向かい「音デカいから下げてくれ」とほざいてくさる故、私は当然の如くアンプの音量を絞った上でファズも踏まずさっさと終了「Good sound! Thank you!」照明担当の姉ちゃんは、ステージ天井の照明をセッティングする為、まるで手長猿の如く天井より吊り下がりしパイプからパイプへと飛び移る身の軽さ、毎度の事ながら感心する事頻り。今宵はビデオプロジェクター担当の姉ちゃんとの共同作業にて、何やら相当凝りしサイケデリックなライティングを披露してくれるとかで、これは大いに楽しみなり。モニター担当の姉ちゃんは、いつも我々が「モニターはボーカルだけで充分、あとはいらん」と云う故、「私の仕事がない」と毎度こぼしておられども、確か前回は、ライヴ中にモニターの音量が大きかった故に下げて貰おうと振り向けば、何と踊り狂っておられ、結局私の意向は通じなかった記憶あり。そもそもモニターからの音はアンプからの音と異なり耳が痛い上、爆音で演奏しておればモニターなんぞボーカル以外必要になる筈もなし。されど毎回笑顔にてモニター以外にもいろいろ尽力してくれておれば、何とも大いに感謝して余りある。今夜DJを担当するSandroは、どうやら自分のセッティングに夢中の様子。 

午後8時、階下のレストランにてスタッフ皆も揃いて晩飯となる。我々はメニューよりサラダとポークステーキを選択、普通に美味い。


何でも兄ィは、演奏中に歯の食いしばり過ぎにて、仮差し歯が4本も欠けたとか!「ハハハ、歯が欠けちゃったよ」笑い事ちゃいまっせ、兄ィ。

今宵はワンマンなれば、開場後いきなりSandroのDJが炸裂、毎度の事ながら全く意味不明の選曲にて、DJを嫌悪せし津山さんでさえ「SandroのDJはオモロ過ぎる」と賞賛せし程。まあ何しろ想い出波止場の熱烈なるファンなれば、破茶滅茶なるも当然と頷けようか。

午後11時45分、ライヴ開始するや否や、いきなりギターの接触不良か音切れ連発、先程原因を徹底解明せし筈と思えばこそ「どないなってんねん?」結局原因を究明すれば、1曲目冒頭にしてMarshall昇天御臨終、矢張り今宵も飛びよったか!今から別のアンプを手配する訳にもいかぬ故、仕方なく東君のMarshallアンプを拝借させて頂くしか術もなし。アンプトラブルの間、残りのメンバーにてかなり迷走気味のインプロを展開、「それ一体どないな展開やねん?」と、こちとらトラブルに泣かされギターアンプを移動させつつも聴いておれば思わず笑えて来る程なれど、たとえ猛烈に珍妙な演奏であろうと「サイケや!」の一言で片付けて頂ければ、「サイケ」とはまあ何と都合良き合言葉たるか。そもそもこの21世紀に於いて「サイケ」って何やねん?誰もが納得し得る明快な回答をお持ちの方おられれば、是非とも伺い知りたいもの。この後はトラブルも無く約2時間のセットを無事こなし、ラストはギターを絞首刑、アンコールはSHOPZONE販売促進活動も兼ねて「Na Na Hey Hey ~ Let’s Go To The Shop」なれど、物販は今ひとつの売り上げにて、田畑社長は意気消沈、されど先日のElectric Eel Shockよりは百倍マシか。

終演後、再びSamdroのDJタイム、いきなり「美しき青きドナウ」から始まり、ハードコア、King Crimson、Beatles、Black Sabbath、Pink Floyd、Yes、訳のわからぬハウス系、果ては前衛系から民族音楽まで入り乱れ、相変わらず全く流れも糞も関係ない選曲なれど、イカれた自称ダンサーのおばはんやらラリった姉ちゃんやらが踊り狂うておれば、これはこれで良いのであろう。何しろ此処はSandro曰く、政府が刑務所に収監し切れぬどうしようもない阿呆共を捨てに来ると云う、姥捨山ならぬ阿呆捨山の如き、スイスで最も救いよう無きエリアである。リゲティーと何やらハウス系の2枚掛けに田畑君は発狂寸前「なんやこれ?もうあかん、頭おかしいなりそうや!

2階の宿舎に戻り、冷や御飯に納豆ふりかけを駆使し、納豆炒飯で夜食とすれば、これは調理が至って簡単にして大いに美味なり。 

突然せんせいが、ケータリングのグレープフルーツを持ち出し「グレープフルーツの一番美味しい食べ方って知ってる?」と、自ら考案せしグレープフルーツの食し方を披露、何と短冊に切りしグレープフルーツを一気に頬張り、皮の部分のみ摘み出すと云う、全くもって掟破りなそのテクニックに、皆で思わず爆笑。せんせいはホンマ果物好きでんなあ。されど普段果物の類いを購入する程の経済的余裕もなければ、折角の斯様なテクニックも私には無用の長物か。


勿論Sandroは、例によって客が全員帰宅せし後も、大爆音にて朝まで独りで皿回し、大いに御満悦の様子なり。階下のホールから聴こえしSandoroのDJを聞きつつ、午前5時就寝。

(2005/8/24)

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