『人声天語』 第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#9

6月17日(金)

午前10時起床、シャワー&洗濯。昨夜、神を恐れぬ御乱行の田畑君は、結局ホテルのトイレにて昇天就寝していた模様。
午前11時半、タクシー2台に分乗しAsti駅へ。関係者の話では「近い」と聞いておれども、イタリア人の「近い」なんぞ到底信用出来ねば、矢張り距離にして2km程、到底この超重量級の荷物を抱えて、この炎天下の中2kmも歩ける筈もなく、タクシーにして大いに正解なり。兎に角イタリア人は安易に「近い」だの「徒歩5分」なんぞと宣い腐るが、実際はその倍以上、時には「この距離やったら徒歩やのうて車で5分やろが!」と云う顛末至って当然にして、本当に調子のよさは世界一か。
本日も駅のスタンドにて朝食兼昼食、まともな選択肢もなければピザとカツが挟まれしパニーノを購入、ピザはまあ不味いながらも食せる程度なれど、パニーノは到底食えたものではなく、マヨネーズ+うどん出汁+七味にて挑めども、全く暖簾に腕押し、天下無敵の不味さなり。中身のカツのみ食してみれば、分厚くべっとりした衣に申し訳程度の肉の薄切り1枚、これならばカレー粉なりをまぶして、駄菓子屋で売られるカレーカツ擬きなんぞにせし方が、まだ余程食し得るか。そう考えれば、日本の総菜パンのクオリティーの高さと種類の豊富さは驚異的でさえある。カレーパンやカツサンドに始まり、極北は矢張り焼きそばパンか。パスタの本場イタリアでさえスパゲッティー・パニーノなんぞ見た事もなければ、そもそも食に関して飽くなき追究心を持ち合わせておらぬ彼等にとって、斯様な新メニューを考案する必要もないのであろう。しかしこの焼きそばパン、よくよく思い起こせば炭水化物の2乗と云う塩梅なれど、焼きそば定食どころかお好み焼き定食が当たり前の関西人にとっては、取り立てて不思議な代物でもないか、否しかし、焼うどんパンが存在せぬ事を考慮すれば、それもこれも矢張りウスターソースのマジックと云えるかもしれぬ。

昨日は大外れの激不味ホットサンドにて轟沈せし兄ィは、私が購入せしを見てか同じくカツが挟まれしパニーノを購入、残念ながらまたしても轟沈なり。ピザを愛して止まぬ東君と田畑君は無難にピザを選択。兄ィ、此処はイタリアですから矢張りピザが無難な選択と云えるでしょう。


ピザ好きにして炭酸飲料中毒のせんせいは、ここでも再びピザとそしてツナとトマトのパニーノ、そしてファンタの「chino(キノ)」なる見た事もない代物を購入、このchinoのお味の方はと云えば「イケるで」との事で、一口頂けばドクターペッパーのファンタ割りとでも云えばよいか。ところで一体chinoとは何ぞや。私の乏しいイタリア語力にては、精々「犬」若しくは「中国の」に関する接頭語にして、犬用飲料か中国フレーバーと云った意味合いであろうかと思っておれば、それは「cino(チノ)」の誤りであったか。後日調べてみれば、chinoとは即ちchinottoなり、何でも柑橘系果物にして、どうやらイタリア特有の味らしい。


午後12時28分Bari行きICに乗り込む。全長100m以上は悠にある車両に於いて、私と兄ィは前方の車両へ、東君達は真ん中辺りの車両へ。そもそも始発駅や主要都市の駅等に於いては、改札より一番歩かずに乗り込める車両が最後尾なれば、レイジー且つイージーなイタリア人、100m以上彼方の先頭車両まで歩かんと思う輩なんぞ殆どおらぬ故、私の経験上自ずから最後尾車両が最も混み合っており、先頭に近づけば近づく程空いているのである。結果東君達はRisavation Seatsとは露知らずに占拠していたらしく、車掌と一悶着ならぬ二悶着したらしく、流石は嘗て「世界中で怒られ続ける男」の異名を取りしだけの事はあるか。しかし自分一体何年ヨーロッパで列車乗ってるねん?
午後3時半過ぎBologna駅に到着、更にRavenna行きに乗り換え。午後6時過ぎにRavenna駅に到着、お迎えの車2台に分乗し会場へ向かう。
今宵の会場CSA Spartacoとは、若い芸術家達が共同生活を営みつつ運営しているスペースにして、アトリエやギャラリー、小さなステージのあるバーやらサロン等が設営されており、この海辺の田舎町に於ける若者達の集う格好の場所となっている様子。何でも今宵のライヴ会場は特設野外ステージなれば、これは素晴らしい雰囲気ではないか。さて荷物を降ろせば、夜は治安がかなり悪化するとかで、施錠し得る1室を荷物置場として提供してくれる。Ravennaは海辺の町なれども、海辺には工場が建ち並んでおればリゾート地にあらず、観光収入がある訳でもなく、所謂地方工業都市のひとつなり。未だステージにPAを組んでいる最中なれば、取り敢えずビールを呷るしか術もなし。どうやらギターアンプが1台しか用意されておらず、カラオケアンプの如きで代用してくれと云われれば、勿論そこは「Impossible!」と一蹴、結局立派なMarshallを用意して頂きこれにて問題なし。通称ガイコツマイクを発見せし田畑君は、そのロックンロール魂に火が付いたのか、突如彼の深層に潜みしロックスターぶりが開花、プレスリーの再来か!しかし彼の真のロックスターぶりが開花するに至るは、未だ暫く待たねばならぬのであった。

晩飯は女性スタッフ陣お手製の一見ピラフの如き代物とパスタなれば、一緒に出されしパスタなんぞ「うわっ!不味そう」と目もくれず、そのピラフの如き代物に飛びつくや、何とこれは「insalata di riso」即ちライスサラダにして、日本の食卓にて云うなればポテトサラダに該当するのであろうが、我々日本人にとっては、米は主食にして温かいものと相場が決まっておる故、何とも納得いかねども、取り敢えず米である事に変わりなく、パスタよりはマシであろうと口に運べば、その見てくれからは予想だにし得ぬあまりの不味さに思わず悶絶。ここはすかさずうどん出汁+七味にて味を変えんと試みれど、斯様な程度では全く歯が立たず、ならばと味チェンジの最終奥義とも云える永谷園のお吸い物にて勝負を賭けれど、その驚異的にして絶対的な不味さの前には蟷螂の斧、これには最早為す術もなく敢え無く全面降伏。これではお吸い物1袋をドブに捨てたと同じか。せんせいも十八番のウスターソースを以て果敢に挑めども敢え無く轟沈。そんな中、ひとり気を吐きしは兄ィなり。「お腹空いてるからねえ」他のメンバー全員が完食どころか半分も食せぬこの代物を、何とお替わりまでする快挙。流石兄ィ、参りました。

そろそろ陽が落ちようかと云う午後9時の開場と共に、何処からともなく客が集まり出せば、商売に燃える田畑社長の陣頭指揮にてSHOPZONEをオープン、されど設営場所が悪いのか、殆どの客はビール片手に談笑しておれば、客足は全くもって芳しくなく、痺れを切らした田畑社長は自らステージに上がり、マイクパフォーマンスにてSHOPZONEの販促活動を始めるや、漸く客も覗きに来る。すっかり陽が落ちて辺りも暗くなれば、兄ィがボソッと「こんなに暗いと女の子の顔が見えないよ、これじゃあやる気にならないよ…」そこに間髪入れずせんせいが「兄ィに灯りや!」丁度タイミングよくスタッフ連中が、客席内に松明を灯しておれば、これで取り敢えずは一件落着か。

午後11時いよいよ開演、斯様な夜中に野外にて爆音で演奏しても苦情なしとは幸せなり。アンプは今回のツアーで巡り会いし中でベスト、「Pink Lady Lemonade ~ OM Riff」にて1時間の演奏、素晴らしい音抜けと爆音ぶり、されど途中から何やら燃える異臭を感ずれば、終演時には既に成仏寸前、ギター絞首刑にて幕。

終演後、マジンガーZ好きのイタリア人が、田畑君が誇る北斗腸詰拳に挑戦、結果は彼の南斗乳首拳の前に田畑君呆気なく秒殺さる。

バーカウンターにてSambucaを調子良く飲んでおれば、遂にはボトル1本を見事空にし、されどバーテンダーがすぐさまニューボトルを取り出し、「何度も注ぐのが面倒だから」と、情緒の欠片もないデカいコップに並々と注いでくれれば、結局この最後の1杯が命取りとなり轟沈。投宿先のホテルに車で向かえば、既に動く事さえ出来ず、部屋に運んで貰う体たらくぶりにて即寝成仏、就寝時刻は勿論知る由もなし。

6月18日(土)

午前9時起床、幸い二日酔いにはならず気分爽快とは是如何に。朝食はパン+コーヒー+紅茶。何やら羊羹のような代物あれば、大の羊羹好きである私は早速食らいつく、似て非なるものなれど、これはこれでなかなか美味なり。
午前11時、オルガナイザーの運転する車2台にて、Ravenna駅まで送って頂く。途中で立寄りしGSにて購入せしサプリ系飲料が激不味、レモン味なれど味はまるでカビの如し。

岡野君もChinoなる炭酸飲料を求めれば、これも激不味。オルガナイザー曰く「ファンタのcino味の方が不味い、あれはshit!」されどそのファンタcino味を昨日試せしせんせい曰く「ファンタchino味の方が絶対美味い!」このChinoなる炭酸飲料、何でもイタリアに昔からある定番炭酸飲料らしい。

Ravenna駅にて時間あれば、東君と兄ィはフライドチキンを列車内での昼食にと購入、ピザ好きのせんせいは、隙あらば矢張りピザを頬張っておられる。

午後12時33分発Ferrara行きに乗り込めば、車内は灼熱地獄にして何とも小便臭し。窓が全開になっておれば、旧態依然の車外放出型トイレの糞尿が巻き上がりて霧状となり、車内に散布されているのではあるまいか。そう考えると、暑いからと云って窓辺にて風に当たる事さえおぞましくなりけり。それにしても暑さには強いと自負する東君でさえ、「暑い~」とこぼす程なれば、冷房の利きし日本の列車が何とも懐かしき。さてその東君は、対面シートを一人で占拠し、一見襤褸雑巾の如き洗濯物群を干し、そこでムシャムシャとフライドチキンを貪っておれば、乗り込んで来る客から思いっきり迷惑そうな一瞥を喰らっておれど、勿論斯様な事を気にする男にあらず。

あまりの空腹故、僅かに残りしちりめん山椒を取り出し、匂いを嗅いで空腹感を紛らわせんとすれど、より一層空腹感が増長されるのみならず、望郷の念も一層強くなりにけり。

Ferrara駅にて再び次の乗り継ぎまで時間があれば、ここは当然ジェラートであろうと思えども、生憎ジェラッテリアが見当たらず、売店にてアイスキャンディーを購入。流石ジェラートの本場イタリアは、ジェラートに関せば世界一の美味さを誇っておれば、たかがアイスキャンディーでさえも驚異的な美味さなり。皆がアイスキャンディーの美味さに打ち震える様を尻目に、常にマイペースな兄ィは、ここで先程購入せしフライドチキンを頬張っておられる。


Ferrara駅にて午後2時27分発Venezia行きに乗り換えVenezia Mestreへ。この列車は前後隣合わせのコンパートメント内がガラス越しに見える比較的新しいスタイルなれば、通常コンパートメントと云う所謂閉鎖的空間に慣れておる故か、個室なれどガラス張りたるこの妙に中途半端に開放的スペースに何とも違和感あり。況して見たくもなかろうが、隣のコンパートメントに座る揃いも揃いて2人共にド級の百貫デブな老夫婦が、まるでゾウアザラシの交わいの如く濃厚に絡み合う様なんぞ伺えてしまえば、こちとら目のやり場にさえ困る始末にして一体どうすればいいのやら。頼むからその捲れ上がったスカートの裾だけでも何とかしてくれや!気色悪い事この上なし。
更にVenezia Mestre駅にて今度は午後4時8分発Trieste行きに乗り込めば、午後5時45分漸くUdine駅に到着。駅前にて中華雑貨店を発見するや、この暑さには必須アイテムたる扇子を気付けば何処ぞで失いし故「中華雑貨店なら扇子売ってる筈や」と、せんせいと共に赴き、フサフサの毛や羽こそ付いておらねども懐かしやジュリアナ東京のお立ち台ギャルさえ想起させる下品な扇子と、既に日本より持参せし食糧も費えておればヨーロッパ産出前一丁3袋を購入。

オルガナイザーのAlexandroがバンにて迎えに来てくれ、ここより一路Tarcentoへ。車内にて彼が持参せしチェリーを食らえば美味、特にチェリー好きのせんせいはすっかり御満悦、ボール一杯のチェリーは一瞬にして軸と種と化せり。

ど田舎の山道を走る事小1時間、今宵の会場Hybridaは山間を流れる滝のある川縁に構えるバーなれど、ライヴ会場は今宵も野外の特設ステージなり。ここは昨秋のツアーに於いて、Massimoの凡ミスにて仕方なくキャンセルせし因縁深き場所にして、特に前回は3日間のフェスティバルの最終日のヘッドライナーであった事もあり、また遠路遥々オーストリア等からも多くの客が足を運んでいたとかで、今回は何としても訪れておきたかった場所である。迎えてくれしスタッフ一同「Finally Acid Mothers Temple has come to Tarcento!」御馴染みAMTのキャッチフレーズと共に満面の笑顔にての熱烈歓迎ぶりなれば、初めて訪れし筈にも関わらず懐かしさを感ずるは何故か。Alexandroを始めとするスタッフ殆どが、数年前にGoriziaにて行いし私のソロとGenifer Gentleのライヴに訪れていたそうで、その折に手製のSun RaTシャツをプレゼントしてくれしは、何とこのAlexandroであったか。サウンドチェックまで時間もあれば、先ずはビールを呷り近所を散策、ええとかやなあ。この辺りは夏冬共にリゾート地とかで、今週末もこの川沿い一体を挙げてのフェスティバルらしく、川原には何やら奇妙な巨大オブジェも展示されており、今宵行われる我々のライヴは、このフェスティバルのハイライトらしい。
さていちびって川に入ってみれば水温は相当低く、ものの10秒も足を浸けておれば痺れて痛みさえ感ずる程、道理で誰も水浴びすらしておらぬ筈なり。されどここで風呂嫌いの東君が、突如衣服を脱ぎ捨てるや颯爽と滝に向かいて歩き始め、果敢にも滝にてシャワー、洗髪までしておられる始末。

更に田畑君も続けども、あまりの水の冷たさに悲鳴、脱ぎし衣服を抱えパンツ一丁の醜態にて一目散に走り去れば、通り掛かりの観光客もあまりの非日常的光景に仰天の御様子、まさか白昼の中年東洋人男性レイプ事件なんぞと誤解しておらぬ事を祈るばかり。

その田畑君はパンツ姿にてそのままサウンドチェックを敢行、即興にてシスコサイケ風「Blue Sky in Udine」なる曲を演奏すれば、なかなか後期Grateful Dead的ファッションではあるまいか。Grateful Deadのメンバー曰く「毎日毎日ライヴをやっていれば、ステージ衣装なんてどうでもよくなるさ!」

川縁にある彼等の根城Hybridaにて、チーズ揚げ+チーズ各種盛り合わせ+ルッコラとプチトマトのサラダ+グリーンピースの塩茹で+ジャガイモと法蓮草とセロリの炊き合わせ+チキングリルと云う晩飯を頂く。チーズ揚げは、これがなかなか香ばしく、チーズを苦手とする私でさえ問題なく食せる程、ジャガイモと法蓮草とセロリの炊き合わせもチキングリルも味がなければ、せんせいのウスターソースを拝借してアレンジ、ウスターソースは偉い!

陽が沈むや、地方の村興しフェスティバルらしく、川を道を各家々を数え切れぬ程の_燭にて飾り付け、特設のサイケな照明がそこいらにサイケ模様を映し出す中、川沿いの路上は、単なる観光客とAMTを観に来たと思しきヒッピー軍団にてごった返すと云う、何とも怪し気な雰囲気。祭と云えば出店であろう、おおっ、レコード屋台も登場しておれば、アルゼンチン・サイケのCDやSyd BarrettのDVD等を購入、吊るされしGrateful Deadのポスターをも購入せんと思えば、他にもいろいろ取り揃えていると在庫を見せて頂き、結局無料進呈して頂く。Grateful Deadの「Dark Star」がPAより大音量にて流されるや、Shopzoneに鎮座せし社長田畑君が突如ハイドパーク踊りを披露。
ステージ前どころか周囲の道にまで、何処から湧いて出たのかヒッピー軍団やら、若いイカれたAMTファンらしき輩が集結する中、興味本位であろう一般観光客も大勢その周囲を取り巻く中、午後11時いよいよ開演、今だGrateful Deadの「Dark Star」がリピートにて延々流されておれば、それに重ねるようにして演奏開始。ステージの形態上ドラム2台を両端にセッティングせし故、モニター状況いと悪し、されどそこは長年の経験値にて何とかクリア、「Pink Lady Lemonade including OM Riff」と即興のR&R2曲にて1時間半を突っ走り、ラストはギターにチョークスラムにて幕。押し掛けしAMTファン以外にも、一般観光客にさえ、どうやら大いにウケし様子なれば、今宵はSHOPZONEも超多忙なり。

騒ぎも一段落つき、気付いてみれば空腹、田畑君の情報では夜食のキーマカレーの類いがあるとかで、さてシェフ本人に尋ねてみれば「よしっ、ちょっと待ってろ!」自慢のナイフを翳し笑顔にて快諾、普段「no hope」を信条とする私も思わず期待に胸膨らませ待機。カレーならば多少味がなかろうが、ウスターソースや七味にて何とかなるであろうし、何しろ米が食えれば幸せ至極なり。

カレーと云えば、日本では「欧風カレー」なんぞと云う代物が売り出されて久しけれど、ヨーロッパには所謂欧風カレーなんぞ何処にも存在せぬ。そもそも辛いものが極端に苦手なフランス人を筆頭に(嘗て当時のフランス人の彼女にボンカレーを食べさせた処、『辛過ぎて食べられない!』と云うエピソードも有り)カレーそのものが、日本の如く庶民的日常食にあらず、故に家庭に於いて「我家のカレー」たる一品がある訳でもなく、そもそも料理に手間と時間を掛けぬ毛唐共なれば、カレーの如く手間と時間を要する料理が一般家庭に浸透する筈もなく、精々インド料理屋にて食するか、冷凍食品のカレーなりを食する程度であろう。時折投宿先等にて、彼等の呼ぶ処の「手作りカレー」を頂戴する機会はあれど、大抵野菜と肉が入ったカレーの香りが僅かにする味のないシチューの類い、若しくはカレーコロッケの中身のみの如き代物、大凡この程度のものなり。ヨーロッパ人は基本的に味の濃いものや辛いものが苦手の様子にして、いつぞやイギリスはBirminghamにて、Riot Season社長Andiの御用達たるインド料理屋へ赴きし際も、匂いは確かに美味そうなインドカレーなれど、不思議な程全く味がなく、為す術なければ塩を加えて何とか食せし体験さえあり、それもこれも薄味を好むと云うよりは味覚音痴たるイギリス人の嗜好に合わせし末の事であろう。Parisにて購入せし冷凍食品のカレーに至っては、具がチキンとパイナップルのみにして、味もカレーの味なんぞ全くせぬどころか、単に甘酸っぱくまるで酢豚の如し。もしも欧風カレーなるものが存在するとすれば、まさしくこの酢豚擬きのカレーではあるまいか。ヨーロッパの家庭の台所には、大抵カレー粉が常備されておれど、これはカレーを作る為のものにあらず、例えば米等を食する際、そこに調味料として少々振り掛けると云う塩梅にて使用される、所謂胡椒等と同じような扱いなり。
それに比べ日本のカレーとは、インド人にさえ「これはこれで美味い」と云わしめる程、全く別の料理として昇華され、今やラーメンと並ぶ日本の国民食として不動の地位さえ築いており(ラーメンも日本発祥ではない処が皮肉か)その料理法の種類たるや、各家庭に於いてでさえ奥義を相伝せんとする程にして、バリエーションも古くはカツカレーやドライカレーに始まり、今や殆ど何物でさえもトッピングとして認められる程。
兎に角「欧風カレー」なんぞ存在せぬし、マッシュルーム入りの「カレーマルシェ(Curry Marche)」なんぞある筈もなし。Curry Marcheとは「カレー市場」との意なれば、そんなもんフランスにあるか!可愛いメイド風エプロン姿の女性達が談笑しつつカレーを作るあのTVCMなんぞ、フランス人に見せればさぞや滑稽に感ずる事であろう。
それにしてもカレーの匂いさえ漂っておらぬが、否、この際斯様な心配は不毛であろう。キーマカレーを今か今かと待っておれば、シェフが笑顔にて「Ready!」そこで我々が目にした物は、カレーにあらず、サラミとチーズのみのパニーノにして、我等が希望の灯火は一瞬にして鎮火。一体何処をどう聞き間違えればカレーがパニーノになり得るや、満面の笑顔を携えしシェフに今一度尋ねてみる。「カレーは?」「それは明日の晩飯だ!ガハハハ!」お前、笑い事ちゃうやんけ!結局クソ固いパニーノに食らいつけど、あまりの空しさに一口にて轟沈。

今宵はホテルへ投宿、同室のせんせいは出前一丁にて夜食。明日はZagrebへの大移動故、午前7時45分出発の予定なれば早々に眠らんとベッドに入れども、偶然テレビにてi PoohとMarillionの最近のプロモビデオを観賞、しかしMarillionはあの衣装でなければ絶対誰かわからへんど。更に本日購入せしSyd Barrett storyなるDVDをiBookにて観賞、これは以前CSにて観た事あり。結局午前4時半就寝。

(2005/9/8)

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