『人声天語』 第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#7

6月13日(月)

午前6時起床、朝食はホテルのブレックファーストなれば、例によってシリアル+パン+ハム+コーヒー+牛乳で済ませる。

そういえばこのツアーで未だ玉子あんまし食べてへんなあ。されどヨーロッパの玉子とは、日本のものに比べ黄身がレモン色に近く、味も何とも淡白にして然して美味くもなければ、日本の玉子生産者の方々の御苦労たるや想像だに出来ねども、日本人の味に対する執念たるや凄まじきかな。田畑君は、紅茶用に用意されしお湯を転用し、味噌汁を啜っておられる。

矢張り朝飯とは、せめて御飯と味噌汁とありたいものなり。斯様な菓子の如きが朝飯とは笑止千万、まるでガキの朝飯の如し。ヨーロッパ人はイギリス人に対し「世界で一番料理が不味い」なんぞと悪口雑言言いたい放題の様子なれど、朝飯に関してはまだイギリスの方がマシにして、美味いかどうかは別としても、一応ソーセージやら玉子やら野菜やらと「食い物らしい」様相を装しておれば、お前らこそ朝飯が何たるかも知らぬくせに偉そうにすな、この毛唐野郎共が!

さて本日は移動日にして、ここオーストラリアのViennaからイタリアのPadovaまでの大移動。午前6時半、車1台+タクシー1台にて迎えに来れば、昨夜一人だけオルガナイザーPeter宅に投宿せし東君と合流し、さて予定通り午前7時前にはWien Westbahnhof駅に到着しておれば、恙無く切符も購入。何しろヨーロッパに於いてインターナショナル乗車券の購入に際し、窓口での客1人当たりの所要時間は約5分以上なれば、長蛇の列となるは常にして「一体何をそんなに話す事あんねん?早よせえや!この薄ら毛唐共が!」と、猛烈に苛々させられる事この上なし。

先ずは午前7時半発Zurich行きECに乗り込むや、これがなかなかの混雑にして、何とか各自コンパートメントにて席を見つければ即寝成仏。Air Franceの機内より失敬せし枕がここにて重宝、矢張り枕が有ると無いとでは、快眠度大いに異なれり。イギリスのドライブインにて購入せし水のペットボトルをずっと再利用しておれば、毎日水道水にて粉末緑茶を溶き、これに詰めて持ち歩く。そもそもイギリスに於けるこの水の購入価格は200円以上と高額なれば「水とペットボトルを買うた」と思い込んでは、このペットボトルを再利用し続けているのである。ペットボトルや缶にて販売されし飲料とは甘味飲料か水かしか選択肢なきヨーロッパ故、斯様に緑茶を持ち歩いておれば、甘味飲料の甘ったるさに辟易させられる事もなく、そもそも甘味飲料や水なんぞに無駄な金を費やす事もなし。但しこの粉末緑茶、見た目が何とも悪く、まるで「ドブの水」「ヘドロ水」の如きなれば、一応ミネラルウォーターのペットボトルに詰められし故、周囲の乗客からは何やら異様な液体を飲んでいると誤解されがちにして、怪訝な顔をされる事もしばしばなり。悔し紛れにヘドラの歌を口ずさむ。

田畑君と兄ィの両名は、レストラン車にてワインとミートボール等を豪勢にも食されたそうで「なかなか美味かったで」とは田畑君の弁。私はホテルのブレックファーストより失敬して来たパンにて昼食とす。

オーストリアの山間を走れば、所謂ヨーロッパの列車の旅の風情も感ぜられ、気分はまるで「世界の車窓」なり。されど斯様に無邪気に楽しんでおられるも、僅か最初の数時間のみであると知る我々一同であった。

午後12時半、Innsbruck Hbf駅に到着。今度はVenezia行きECに乗り換えなれど、少々時間があれば、各自何やら買い食いの様子。ピザならば3食1週間食い続けても未だ食い足らぬと云う程ピザ好きの東君は、今日から1週間イタリアに滞在するにも関わらず、未だオーストリアであろうが既にフライングしてピザを頬張っておられれば、何とも幸せそうな表情なり。 

田畑君もワインとピザを購入しては、ピザを頬張りワインを呷り、再びピザを頬張りそしてワインを呷り…と、まるで機械仕掛けの如くこの行為を繰り返しておれば何とも滑稽、本人曰く「ツアーを満喫してるわ~」

炭酸飲料中毒にしてレモン中毒のせんせいは、例によってコカコーラに持参せしレモン果汁を加えて飲んでおられども、日本から持参せしレモン果汁ボトルがこれにて遂に空となれば「こっちでこれ売ってへんねえ」ヨーロッパではレモンなんぞタダ同然なれば、わざわざレモン果汁のみ販売する必要性もなし。「レモン買うた方が早いで…」兄ィはナイフを取り出し林檎の皮を剥き始め、林檎なんぞ皮ごと丸齧りが常と思いし私からすれば、まあ何と几帳面であらされる事か。
さてVenezia行き車中にて、東君とのんびりビールを呷りつつタバコを吸っておれば、イタリア国境を越えるにあたり、イタリア人車掌から車内禁煙だとお叱りを受ける有様。イタリアは、今年1月に法改正に伴い、公共の場所全てに於いて禁煙となれば、たとえ列車にした処で、オーストリア国内では喫煙車両であれども、イタリア国内に於いては全面禁煙と相成る次第。今やフランスの列車内も全面禁煙となっておれば、ヨーロッパの列車の旅も随分息苦しくなった事か。されど御蔭でタバコの消費量が抑えられれば、日本より持参せしエコーもより温存出来ようと云うものか。

午後6時、漸くPadova駅着。大マルコとJenifer GentleのドラマーAlessioのお迎えにて大マルコ宅へと赴く。奥様の手料理ボンゴレを御相伴に預かればいと美味し。

イタリア人にしては珍しくクソ真面目な大マルコは、例によって現在のイタリアン・ミュージック・シーンを憂い、ビールを酌み交わしつつ音楽談義なんぞに終止。長旅の疲れかさてまたここ数日の強行軍的移動の疲れか、午後12時頃には皆早々に就寝。

6月14日(火)

午前7時起床、シャワー&洗濯を済ませる。朝飯はイタリアならではのビスコッティ+エスプレソ、まあ未だイタリア初日なればこれもよかろう。大マルコは仕事に出掛ける故、我々一同バスにてPadova駅へ向かう。
午前11時04分発Ferenze行きEuro Star Italiaに乗車、フランスSNCFのTGV同様2席ずつのシートなれば、高い割には乗り心地然程よろしくなく、IC等のコンパートメントの方が格段快適なり、そもそもLondonへ通じておらぬにも関わらずEuro Starを名乗るとは如何なる了見ぞ、Trenitalia。Firenze S.M.Novella駅に午後1時半着。皆でマクドのハンバーガーを購入、車内にて昼食とする。午後1時57分発Massa Centro行き鈍行列車に乗り換え、午後4時前にMassa Centro駅に到着。
オルガナイザーの迎えを待つ間、駅前のバーにて時間を潰せども、いつまで経っても迎えは来ず、1杯の酒にては長居もし辛しと、バーから再び駅へと戻り、オルガナイザーに電話するも応答なし。駅周辺にはstation peopleなるアナーキストの親爺共が、政治や宗教について激論するも、結局この輩共は単なるよたもんか、WWEのジ・アンダーテイカー似の親爺がボスの様子なり。彼等にした処で、あの妙な東洋人共は何者ぞと、怪訝な面持ちにてこちらの様子を伺っておれば、お互い社会からの落伍者である事に変わりなく、こちらも僅かながらも親近感湧くかと思えど、さりとて我々アナーキストにあらねば、矢張り何のシンパシーも感ぜられず、単に「それにしてもあのおっさん、テイカーにホンマ似てるよなあ」と、しみじみ思い眺めるのみなり。

待つ事約1時間半、午後5時半に漸くお迎えの車が到着、まあイタリアなれば1時間半待ち等当然か、斯様に思うよう努めねば腹立つ事ばかりならん。
今宵の会場Tagomago Loungeへ到着。田畑君曰く「ここZeni Gevaで9年ぐらい前に来た事ある」されどスタッフの話では5年前にオープンしたばかりとか。オルガナイザーの話では、イタリアの全日程を仕切るMassimoから、「メンバーは4名、ギタ-アンプは1台」と聞いていたそうで、当然ギターアンプは1台しかなく、これでは演奏出来ぬと急遽手配を、またスネアスタンドも1本不足しておればそちらの手配も依頼。勿論サウンドチェックなんぞやれる筈なく、為す術もなければビールを呷るのみ。ふと姿を消す事が多き故にMr. Missing Personと呼ばれる岡野君、またしても姿が見えぬと思いきや、何処ぞにてピザを購入し貪っておられる。
15ユーロにて販売しているツアーTシャツを「5ユーロで売ってくれ!」と五月蝿く絡み付くスタッフかどうかさえ判然とせぬド阿呆な輩おれば、あまりの鬱陶しさに仕方なく5ユーロにて売却、ホンマこの手の何の役にも立たんクソ野郎が一番ムカつく。されどもしかして後程この輩の家に投宿するなんぞと云う段取りになっておるやも知れぬ故、無闇に蔑ろに出来ぬ処が何とも歯痒し。田畑君に「5euros man!」と散々馬鹿にされておれど、それさえ気付かず喜んでおれば、まあ何と幸せな奴かな。されどこの輩が自称アナーキストだと宣いし事を契機に、私の怒りの導火線が点火、「わしはアナーキスト嫌いなんじゃ!わしはお前らヨーロッパ人が忌み嫌うキャピタリストなんじゃ!ボケェ!それもこれも戦争でアメリカに負けたからじゃ!そもそもイタリアのムッソリーニ、お前が真っ先に負けてどないすんね!この糞イタ公が!ドイツもイタリアも勝手に降伏し腐りやがって、日本は原爆2発落とされるまで戦ってんど!わしらアメリカには負けたけど、支那人にも露助にも負けてへんねんど!糞イタリア人、勝手に先に負けといて何がアナーキストじゃ!ア~イアムアンチクリスト、ア~イアムアナーキスト!お前はジョニー・ロットンか!お前らのアナーキズムって何じゃ!ただ自堕落でいたいが為の逃げ口上やろが!お前ら全員自殺せえ!ボケェ!」なんぞと云う私の英語による猛口撃に、何やらイタリア語で反論して来れども、そちらがイタリア語ならばとこちらも大阪弁に切り替え更にパワーアップして捲し立てれば、当然最早水掛け論以前なり。そもそも糞毛唐の分際にして、何わしに一丁前に反論し腐っとんじゃ!全身体毛だらけの未進化人が!気がつけば私のイタリアへの怒りは怒髪天を突くどころか天さえ貫く程に一気に増長、意味は判らずともその語気から気配は察せられたであろう、周囲も大いに引いておれば、結局は東君が親善大使として後はフォローしてくれた様子、流石は薩長同盟を成し遂げし坂本龍馬の故郷土佐の出身。

漸く届きしアンプは、彼等が「Beast!」と呼ぶ処の1964年製Fender Super Riverbなれど、「恐ろしい程デカい音が出る」「Beastが目覚めると耳が1週間聞こえなくなる」との前評判は眉唾、しょぼい事この上なし、わしをおちょくっとんのか!東君のFender Deluxe Riverbの方がまだマシなれば交換して頂く。せんせい曰く「笑かしよんで!Pearlのハイハットやで!糞や!」ドラムセットもこれまた酷いキットなり。

楽器どころかマイクスタンドまで全てビンテージ、否、単なるガラクタなれば、久々に笑かす程酷い機材に遭遇。イタリアに於いては、嘗ても酷いアンプ群と遭遇しては全て殲滅せし経緯幾度もあればこそ、今宵も何となく嫌な予感はしておれど、ここまで酷いと最早笑うしかあるまい。そもそもイタリアにはまともなアンプなんぞ殆ど存在せぬ事は旧知の事実にして、ガラクタの如きアンプにて何ともしょぼい音量で演奏させられようが、それでも矢張り客は皆耳栓をしており、エンジニアやクラブのオーナーに至っては「too loud!」なんぞとアホな事ぬかし腐れば、「Take off your ear plugs!」と客に怒鳴りし経験さえある。耳栓して聴くコンサートに、一体何ぼの値打ちがあるねんな!ロックは音デカいんが当たり前やねん。耳の穴かっ穿じってよう聴いたらんかい!大体DJの方が音デカいって、そんな事許されて堪るか!

夕食はクラブの女性が作りしペンネ。ペンネは我々の最も忌み嫌うイタリア料理なれば、ブッキングに際し「No Penne」と常々コンディションに入れてあれども、Massimo、お前わしのメールのどこ読んでんねん!人数は4人、ギターアンプは1個、ホンマ明日Romaで会うた時にシバいたろか!ペンネのソースはガーリック風味にしてそこそこ美味ければ、不味いとこぼしつつも東君は見事完食。さて続いて出されしは、これまた大嫌いなクスクス、こんな鳥の餌みたいなもん食えるか!ボケェ!そしてメインは豚肉とソーセージのソテーなれど、ソーセージは塩っぱ過ぎにして口に入れる事さえ不可能、結局豚肉と付け合わせの玉葱のみ食す。イタリア北部は然して料理が美味い訳でもなければ、それどころかポレンタなんぞと云う、世にもおぞましい料理さえ存在しておれば、それならばまだピザの方が百倍マシなり。一丁前に能書きは垂れるが、時間も守れず、仕事も出来ず、料理も不味ければ、お前らええとこ一箇所もあらへんやんけ!


サッカーマニアの田畑君は、本場イタリアと云う事もあり絶好調、イタリア人相手にそのマシンガントークぶりは更に加速、遂にはレッドカードも出す始末。

午後11時、このド田舎にして客は満員御礼、いざライヴ開始となれど、いきなり「Pink Lady Lemonade」の前半部にて、私のアンプの真空管がスパーク、煙がモウモウと立ち籠めるや、いきなり御陀仏御昇天。仕方なく東君が使いしアンプ、噂のBeastに突っ込む、さてこいつは真のBeastたるや。結局「Pink Lady Lemonade」の前半部のみしか演奏せぬまま、気を取り直し「OM Riff」を始めるや、Beastはその雄叫びを上げる間もなく一瞬にしてベースアンプ共々心中、お前しょぼ過ぎやで!残されしシンセ+2ドラム+ヴォーカルと云う編成にて全く訳のわからん状態に突入、そもそも既にホタえるしか為す術もなし。斯様な状態でさえアンコールともなれば「Na Na Hey Hey」にて幕、田畑君は客席にダイヴを敢行。事実上演奏時間は約30分程度だったか、アンプ群は既に完全燃焼全員焼死一家虐殺状態なれども、我々の気分は大いに不完全燃焼なり。

終演後、なかなかギャラが貰えぬのに痺れを切らした田畑君は、せんせいのグラサンを拝借しオルガナイザーに凄んでみせるが、果たして効果はあったのやら。イタリアと云えば有名なナポリマフィアなれど、勿論日本のヤクザの如き一見すれば見分けられるような如何にもな格好をしている訳でもなければ、映画「ゴッドファーザー」の如き旧態依然な出立ちにもあらず、至ってそこら辺のおっさんのままにして、そもそもグラサン自体、こちらでは日常生活の必需品としてガキでさえ使っておれば、果たして何の意味もないのではないかと思われて仕方なし。

矢張りライヴが不完全燃焼でありし故、どこか煮え切らぬ気分にして遣る瀬ない憤りも込み上げて来れば、オルガナイザーの関係者と思われる輩にまで因縁付けては怒りを発散、そして遂にツアー恒例行事とも云える「関西の河端一vs四国の東洋之による10分戦争」が今回はここで勃発、この2人が喧嘩すると周囲の心配がピークに達するそうだが、斯様な心配全く無用と、終わってみれば当の本人達はケロッとしたもので、故により質が悪いとは専らの噂。

投宿先は民宿のようなゲストハウスなり。今宵の田畑君は絶好調、遂にせんせいとの禁断の愛に目覚められしか、結局早朝5時頃までベース弾きつつ絶唱、挙げ句の果てに弦まで切る始末。田畑君の歌声を子守唄に、午前5時就寝。

(2005/8/27)

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