『人声天語』 第123回「文句垂之助の欧州地獄旅(AMT &TCI 欧州ツアー2005)」#13

6月25日(土)

午前7時、Stjepan宅より路面電車にてZagreb駅へ向かう。駅に着けば、Nikoが眠そうな顔でお見送りに来てくれており、何とも嬉しい限り。駅構内の売店にてパン等を購入し、午前7時50分発Munchen行き列車に乗り込めば、これにてZagrebでの5日間に終止符を打ち、再び大移動開始なり。車内にてパンを食し朝食を済ませるや、流石にこの年齢にて徹夜は厳しく即寝成仏。国境にて一度起こされれど、それすら殆ど記憶なし。

Ljubljanaに到着するや、前回スロベニアにてジェラートを購入せし折の釣り銭なるスロベニア通貨2000 Sitを所持するせんせいは、此処Ljubljana駅の売店にてタバコに無事両替を果たす。午前10時25分発Venezia行きに乗り換え。兄ィは今朝弁当をこしらえしと云う抜かりのなさ、車内にてその温野菜サラダを頂いておられれば「うん、美味い!」昨日のピクニックと徹夜ミックス疲れか、私は再び爆睡。

更にVenezia Mestre駅にて、午後2時34分発Trino行きEurostar Italiaに乗り換え。あまりの空腹故に、車内販売にてPringlesのスモール缶を購入「開けたら最後、You can’t stop!」なんぞとTVCMにて散々流されておれど、何を云うか、直ぐに味に飽き始めれば、ワサビを塗りて味に変化を齎せねば到底食えぬ代物なり。スモール缶1つさえ完食し得ねども、更に胸焼けと胃もたれまで引き起こせば、気分悪き事この上なし。何しろ普段ポテトチップスなんぞ食う習慣皆無なれば、恋しきは胡麻せんべいやらぼんち揚げか。
Eurostar Italiaなんぞと云う最新型特急列車にも関わらず、矢張り車内は猛烈に暑けれど窓が開かねばサウナ状態、されどこの灼熱地獄に於いても再び爆睡。
午後6時前に漸くMilano Centrale駅へ到着。10時間強の列車の旅を全て爆睡して終えるや、ふとUdineよりZagrebへ移動せし、あの辛酸を舐めさせられし「最も長い1日」を思い出せり。もしもあの時に予定通りの列車に乗車出来ておれば、実は斯様に楽な旅ではなかったか。まあそれも今となりては既に笑い話たるか。
今宵Milanoにての投宿先がアレンジ出来ておらねば、駅前のホテルにチェックイン。私は、せんせいと兄ィと同室なり。シャワー&洗濯後、皆で晩飯を求め外出す。「日本食が食いたいなあ!」結局日本食レストランは見つからねども、まだイタリア料理よりはマシと、近くの中華料理屋へ。
中華料理なれば米が食せると、私は豆腐+炒飯+酢豚を、せんせいは炒飯+餃子+鶏の唐揚を、田畑君は炒飯+餃子+回鍋肉の類いを、無類の麺好き東君は五目焼きそばを、食へのこだわり果てしなき兄ィはフカヒレスープ+御飯+海鮮炒めを各々注文せり。

本来ならば麻婆豆腐が無性に食いたけれども、メニューに「Cili Sauce with Tofu」なんぞと表記されておれば、もしやエビチリと同じ味付けではと思わず敬遠、たとえ中国人が営むレストランであれ、麻婆豆腐は本来四川料理にして、移民である華僑は広東出身なれば、その食文化は大いに異なり、華僑の作る四川料理なんぞ、道産子が作る沖縄料理以上に信用出来ぬ。そもそも欧米に於いて見受けられる中華料理とは、大凡華僑による広東料理を指し、日本のように中華料理=北京料理の図式は全く当て嵌まらぬ上、山奥の四川料理なんぞについては、日本でこそ陳健民・健一父子によりポピュラーとなれど、欧米にて四川料理レストランなんぞお目に掛かりし事皆無なり。
さてこの中華料理レストランのお味の方はと云えば、豆腐こそ美味けれど、その他は到底及第点差し上げられぬ程の不味さなり。されど何しろ空腹故、この際多少の不味さなんぞ一切気にせず、一気に貪り食うのみ、取り敢えず米を食せし事のみにて充分満足なり。

されど準備万端ふりかけまで持参しておられし兄ィのみ、フカヒレスープと海鮮炒めに舌鼓を打っておられれば「うん、美味いよ、うん、うん、イケるよこれ、う~ん、美味いっ」レストランにふりかけ持ち込むんは反則ちゃいまっか?


ジェラート中毒のせんせいは、ホテルへ戻る途中にてジェラートを購入、すっかり御満悦の様子。「ホンマ美味いわ、ホンマ美味いで!」

ホテルへ戻るや、長旅の疲れか、あれ程移動中の車内にて爆睡せしにも関わらず、午後10時半即寝成仏。

6月26日(日)

午前7時起床。シャワーを済ませ、ホテル内のレストランにて朝食。オレンジジュース+パン+シリアル+サラミ+ヨーグルト+カプチーノ、毎度ながらヨーロッパの朝食にはうんざりする事この上なし。納豆やら味噌汁やら恋しきかな。

午前8時、ホテルをチェックアウト。Milano駅前よりMalpensa空港行きシャトルバスに乗らんとバス停を探せど、路線バスのターミナルへ赴いておれば見つかる筈なし、漸くシャトルバスの発着所を発見し、結局午前8時55分発のバスにて空港へ。午前10時、空港に到着、チェックインを済ませるや、突如の体調激不調にして投薬。
Finn Air午前11時発Helsinki行きに搭乗。搭乗するや爆睡すれども、離陸が1時間以上も遅れておれば、2度も目を覚ませど我等が機は未だ滑走路にも及んでおらず。機内食はカツレツにして、これは及第点を差し上げられる味なり。

僅か3時間弱とは云え、フライトが退屈なる事に変わりなければ、テレビにて「鰯の一生」なるドキュメント番組を観賞、これが以外にも大層面白く、鰯が産卵し大海原を群れにて大移動し、遂にはペンギン、イルカ、鮫、カモメの各大群に急襲されるまでを、各々の立場から数ヶ月に渡り完全密着撮影を敢行、それをあの人気シリーズ「24」の如く時間の進行に合わせカットアップ編集し、緊張感溢れるドラマ仕立てに作り上げし秀逸の作品なり。特にラストのハイライト、ペンギン、イルカ、鮫、カモメが順に、鰯の大群を遂には捉え、海中から空から容赦なく急襲する様は、弱肉強食と云う自然の摂理に感嘆する以前に、まるでミッドウェイ海戦にて壊滅せし我が太平洋艦隊の壮絶な最期を見るかの如く、為す術もなく唯々食われていく鰯の末路に、太平洋ミッドウェイ海域に散りし「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」の炎上轟沈せし姿を思わず重ね観て、涙さえ誘わん。
午後3時45分にHelsinki空港へ到着、此処はイタリアより1時間の時差がある北の果てフィンランドなり。CircleのメンバーであるJussi、Mika、Tomeの3人が、Poliから遥々車2台にてお迎えに来てくれておれば、久々の再会を大いに喜び合うも束の間、早速車2台に分乗し、今宵投宿予定なるJussiの父上が所持するサマーコテージを目指す。
途中休憩に立寄りしは、カフェ+骨董品屋と云う何とも奇妙にして、大いに好奇心と飽くなき物欲を掻立てる場所なれば、コーヒーも頼まぬうちから広い店内を散策、各自奇妙奇天烈な代物からお土産まで無心に物色。


運転するMikaに、白夜にて太陽が沈まぬとは真かと問うや「ハハハハハ、夏に太陽が沈まないってそんな変な事か?」と、逆に尋ね返される始末、確かに此の極北の地にて生を受け、以来30年以上も住んでおれば、斯様に思いしも当然の理か。フィンランドへは初冬にしか訪れた事なければ、日がな気温は氷点下にして全てが凍りし冬の薄暗く真っ白な世界と、この眩しいばかりの陽の光の下、緑溢れ花々が咲き乱れ生命感溢れる、今まさに眼前に広がる世界、このあまりの違いに思わず呆然とす。日差しがあまりに厳しい故、後部座席に座する田畑君と兄ィは、先程の骨董品屋にて購入せしスナフキン帽を目深に冠り爆睡。

サマーコテージにて過ごす2日間分の食糧やら酒を購入せんと、日曜日にも関わらず営業している大型スーパーに立ち寄り、我々は兎に角「米炊いてステーキ!」と云う訳で、先ずは米とステーキ肉、大量のビール、更に即席ラーメンやら何やらと、まるでキャンプ前日の浮かれようにして、懐かしや「がっちり買いましょう」の如くショッピングカートに次々品物を放り込む有様なり。
午後8時前、漸くJussiの父上が所持するサマーコテージに到着。「素晴らし過ぎると云っても過言ではありませんね~!」思わず村西とおる風歓喜の表現をしてしまう程の素晴らしさなり。大きな湖の畔にして、辺りは森に囲まれておれば、思わず「静かな湖畔の森の陰から~」なんぞと歌いて童心にさえ帰らんとする。何でもJussiの父上と友人の2人して、休日を利用し自分達で建てたそうで、今年更に客間と立派なバスルームを増築し勿論暖房器具も完備、更に新しいサウナ(フィンランドと云えばサウナ!)まで別棟にて建てておられれば、流石ヨーロッパ男児たるもの「自分の手で家を建てられてこそ一人前」との諺通り、いやはやお見事としか云い様なし。広大な敷地内には、このコテージとサウナの2棟以外に、来客用の離れが1棟、そして今は使われておらぬ古いサウナ棟があり、こちらはJussiが現在レコーディング・スタジオに改装中だとか。更に湖畔には小さな桟橋が設置され、モーターボート1艘が停泊。「夢じゃ、夢じゃ、これは夢でござる!」映画「柳生一族の陰謀」に於ける萬屋錦之助による迫真のクライマックスシーンではないが、これは到底信じ難きシチュエーションにして、日本に於いて斯様な立地条件にて同じサイズの別荘なんぞ構えんと目論めば、一体どれ程の金子を用意せねばならぬのか、確実な事はと云えば、私如きでは一生掛かった処で到底手の届かぬ高嶺の花であると云う事か。


さてコテージ内に案内されれば、これまた素人大工仕事とは思えぬ完成度にして、何とも素晴らしい事、既に語るも無駄なり。先ずはウッドデッキにて皆でビールを呷る。6月であるにも関わらず気温は17度なれば、長袖パーカーなんぞ着込まねば薄ら寒い程にして、先日までのイタリアやクロアチアの35度超級の酷暑から比べれば、これまた何とも極端な話、全身の毛穴も開いたり閉じたり、さぞや忙しい事であろう。陽が沈まぬ故、全く時刻が判らず、兎に角空腹故、早速晩飯のステーキを食わんと、今宵は東君が料理長を務めるとかで、拝借せし鍋にて米を炊き、東君に伝えし我がステーキの極意、ステーキ肉を玉葱のスライスにて包むと云う秘伝にて下拵えを済ませし様子。米が炊き上がるや、早速ステーキを焼き始めれば、何と香しい匂いかな。焼き具合は当然レアにして、さていよいよステーキに食らい付けば、何たる美味さか。御飯も炊き具合上々にして、若干のおこげが普段の炊飯器にて炊く米とは異なりまた美味なり。ウッドデッキのテーブルにて、沈まぬ太陽に照らされつつ、全員満面の笑顔を浮かべステーキと御飯を満喫すれば、嗚呼、何と幸せか。肉食生活万歳!


腹が膨れれば今度はサウナとばかり、JussiやMika共々サウナへ突入。フィンランドのサウナも色々なスタイルがある中、基本的には薪ストーブにて熱せられる石に水を掛け蒸気を作るスタイルなれど、その蒸気の温度の調節がなかなか難しく、数年前に初めてフィンランドのサウナに挑みし際、津山さんと東君は顔面大火傷寸前と云う大層痛い経験もあれば(第79回「嗚呼、フィンランド…(中編)」参照)矢張りビギナーには、地元フィンランド人と一緒に入る事をお薦めする。さてサウナにて汗を流せば、素っ裸のまま表へ飛び出し冷たい湖に飛び込むが定石、況して冬であれば氷点下30度超級の大雪原へ飛び出すやら、凍結せし湖へ飛び込むなんぞと、兎に角一見尋常にあらぬ過激さこそが、フィンランドに於けるサウナの醍醐味たるか。何しろ1年を通し気温が低く、冬なんぞは日照時間も極端に短い為、斯様な暴挙に出てさえ無理矢理にでも新陳代謝を促さねばならぬがその所以たる処。サウナ内にてMikaと話しておれば、こちとらもう限界近かろうとも、彼は全く平気の様子にして更に温度を上げて来れば、流石に我慢も限界に達し、いざ湖に飛び込まん。Jussiがビールを持参するや「湖に飛び込んだ後は、ビール片手にサウナへ戻るのが、酒飲みの国フィンランド流」と云う故、私もビール片手にサウナへ戻れば、血流頗るよろしくアルコールが回る早さも尋常にあらずしてか、心拍数は一気に上昇、このままでは新陳代謝どころか動悸息切れ目眩まで引き起こしかねず、生命の危機さえ予感すれば、一足先にサウナを失礼せり。あんな事毎日やってたら死ぬで、ホンマ。田畑君はサウナがすっかりお気に入りの様子にして、素っ裸にてサウナと湖の往復を繰り返すばかり。

流石に深夜2時ともなれば、曲り形にも陽は傾き、まるで日の出直前の刹那の如き蒼き世界が広がれり。「東より日が昇り西へ沈む」が常識なれど、此処ではどうやら「太陽がクルリと輪を描いた」とでも表現すれば適切か、日は決して沈まねども、真上に昇る事もまたなければ、空を大きく1周するのみ。寂しい限りは、日が沈まぬ故に星が全く見えぬ事か。

何も為すべき事なければ、闇雲に腹が減るとは、是世の常か。冷蔵庫にて見つけしトナカイ肉の塩漬けを失敬して、せんせいは即席ラーメンにて「サンタクロースラーメン」を、私は即席ラーメンの麺に粉末焼きそばソースを絡め「サンタクロース焼きそば」を作り頂けば美味なり。否、これはトナカイ肉が美味いのではなく、粉末焼きそばソースが美味いのではなかったか。「サンタクロースはトナカイ食わんやろ!」そう云われればそうですかね。

田畑君とせんせいは、来客用離れに、兄ィと東君はコテージ内の来客用寝室に、私はリビングのソファーにて眠る事とし、次第に再び明るくなり始めし午前4時、既に窓から差す陽が眩しい中を無理矢理就寝 。

(2005/9/22)

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